【金山迷動】 悪鬼は骨に集まれり 覆

■シリーズシナリオ


担当:小沢田コミアキ

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:4

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月20日〜09月30日

リプレイ公開日:2006年09月28日

●オープニング

 悪鬼達はひそかにこの街へと入り込んでいる。目立たぬようにひっそりと時を過ごす者。生活の場を築いて土地に溶け込む者。金山へ別に仕事を持つ者。それぞれだ
「金山の過ごし具合はどうだ? なかなか活気があっていい町だろう」
 江戸で騒がせたヤクザどものほとぼりが冷めるまでの辛抱。
 これは暫しの休暇だ。
 金山の街で、ひとときの時間を過ごし鳴りを潜める。
「機が熟したら声をかける。それまで、ゆっくり眠ってることだな」

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E:太田宿自警団、発足

 太田宿自警団の詰め所は、街の中央部近くに位置する。現在の団員は20名強。街の若者とチンピラ崩れが半々の割合だ。城の執政である由良具滋の指導で創設された自警団は、町人たちで独自の運営が行われている。
 さて、そんな自警団が目下抱えている事件は‥‥

《御前試合》
 城下町に新たにできた剣術道場。自警団の窓口として、また団員の訓練場としてこれから活動を始めるこの道場で、開場を記念して清による試し合戦が開かれることとなった。
 試し合戦は、道場の空き地を利用して紅白の組に分かれて行われる。白組の大将は道場主が、赤組の大将は清。互いに敵大将の巻いた鉢巻を奪い合う。武装や魔法は自由。太田で武名をあげるまたとないチャンス。一般の入門希望者の他に義侠塾生も教練として参加を表明しており、もちろんこの自警団員からも多くの出場者を募集している。

 この他にも、山向こうのキヨシ村へ入植を開始した華国人とのトラブルも頭痛の種だ。黒夜叉事件のこともある。華人達が城から許されて独自の自警団を作り出したことで、太田宿の住人達は緊張を高めている。悪い流れに発展せねばいいが‥‥。

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F:悪鬼は骨に集れり

 打倒新田義貞の戦いの頃から、清と太巌組は同志として手を取り合い、共に戦ってきた。特に太巌の親分は、由良が清の配下に加わる以前からの古株だ。
 だが度重なる資金援助、無謀な野盗討伐の依頼と、金山の城を取った後の清はその見返りもないまま再三の協力を要請した。そこへ来て先月の第二次野盗討伐では、由良は太巌組へ外部から指揮官を宛がい、完全に彼らを手下として扱った。清の侠気にほれ込んでいた太巌の親分に、これは度し難いことだった。
「清の旦那にゃあ失望した」
 太巌組が清と手を結んだのも、上野に根付く反骨の気風ゆえ。その彼らが城の手下に成り下がることなど許容する筈もない。
「城からの要請にゃあ、この先は従わねえ。俺たちは俺たちで金山を治めるぜ」
 清が金山のいわば表を収めるならば、裏社会は太巌組のナワバリだ。
 その金山の利権のほとんどは太田へ集中していたが、多数流入した華人たちが山向こうの金井でも商売を始めたおかげで、太田の侠客連中も食い扶持を下げている。もともと金井にも侠客組織が根を張っていたが、金井宿が廃村になった時に一家も散り散りになり、今は誰のナワバリでもない状態だ。
「華人の商売人どもが俺たちの庭を荒らしてやがる。奴らに好きなようにさせる道理はねえ。金井も俺らが仕切るぞ。若い連中を動かせ。金井宿で商売やってやがる連中からミカジメ切り取ってこさせろ」

●今回の参加者

 ea2389 ロックハート・トキワ(27歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea5388 彼岸 ころり(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5708 クリス・ウェルロッド(31歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea7394 風斬 乱(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7901 氷雨 雹刃(41歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb0641 鳴神 破邪斗(40歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb1119 林 潤花(30歳・♀・僧侶・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb1160 白 九龍(34歳・♂・武道家・パラ・華仙教大国)
 eb1513 鷲落 大光(39歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb2413 聰 暁竜(40歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

 江戸からの往復便から青年が一人金山の地へ降り立った。彼の名はクリス・ウェルロッド(ea5708)。江戸からの土産だろうか、小さな包みを抱えて駅を後にしていく。
「‥‥金山での仕事は、これが初めてになるかな。今は、居場所を作らないとね」
 毒が静かに体を蝕むように、金山の町へ不穏な気配が忍び寄っている。鳴神破邪斗(eb0641)や氷雨雹刃(ea7901)もまたこの街を訪れていた。
「城の連中も野盗を探りに来るだろう‥‥どれ、ひとつ遊んでやるか」
 毒が染み渡るまでは時を要する。まだこの街はその浸透に気づいていない。それはこの地へ戻って来たアイーダ・ノースフィールドにしても同じことであった。
「金山城攻め以来だから、のんびり見物でもしようかと思ってたんだけど‥‥」
 彼女はかつて現地頭の清の同志として反義貞を共に戦い民草を率いた異国の騎士だ。自分達の手で取り戻した金山の町がどう変わったかこの目で見てやろうというつもりで舞い戻ったのだが、ひょんなことから城の政治顧問役に見込まれて山賊退治に関わることになった。
「最近まともな冒険をして無いから別に構わないけど、無報酬なのが、ね。矢代だけでもなんとかしたいわ。山賊に懸賞金でもかかってないかしら」
 愛馬クランの手綱を引いてアイーダが城へと消えると、入れ替わりに彼岸ころり(ea5388)が通りへ姿を見せた。行きかう人々をその目に映しながら、彼岸は小さく舌なめずりする。
「うーん‥‥さすがにいい加減血に飢えてきたなぁ。そろそろ次の獲物を見繕うかな。ボクにとっちゃここは絶好の狩場だしね♪ きゃははは♪」
 同じ通りをロックハート・トキワ(ea2389)が無言で彼岸とすれ違っていった。
(「この間は良い感じに強権を使ってくれたな。あちら側が皆あれ位わかりやすい事をやり続けるなら、此方も動きやすいのだが」)
 太田を騒がした黒夜叉事件は検察所の捜査にも関わらず未解決のままだ。最初の事件から続いて第四の犠牲者を出し、更にもう一件の未遂。その報せに白九龍(eb1160)は苛立っていた。
(「黒夜叉?模倣犯‥‥と云う奴か?」)
 件の殺人鬼の正体については、華僑の仕業だとも、野盗の差し金だとも噂されている。
「いずれにせよ一悶着は免れんな。ここは早急に自警団の力をつけるしかあるまい」
 白は山向こうの金井宿キヨシ村へ消えていった。

 太田宿の外れの空き地では、サウティ・マウンドの道場の開場を記念しての試し合戦が執り行われた。今日は視察へ訪れたという由良へ風斬乱(ea7394)が声を掛けた。
「これは久しぶりだな。城攻め以来になるかな。今日は試し合戦には参加されぬのか」
「何、じゃれあうのが苦手でね? あんたが出たならば俺も参加したかもね」
 涼しげに笑う乱へ由良は珍しく胸襟を開いた。
「何かと多忙でね。というのは建前で、こう執務に忙しくては体もなまってしまうようだ」
「それは気の毒に。所で、清の姿が見えないようだが?」
 清を一目見ようと参加を決めたトキワにも苛立ちが見える。
(「今回の試合‥‥合戦には、武勇伝が多々ある地頭‥清とやらが参加すると聞く。実力と人間性をこの目で確かめる絶好の機会か」)
 そこへ漸く清が義侠塾の先輩である風羽真に付き添われて姿を見せた。
「お前が出て来る事になるまでに相手を全滅させるか、敵大将をヘトヘトにさせておくから」
「ぜぜぜ絶対頼むんだっぜ」
 役者は揃った。赤組の陣へ向かう清へ乱がニヤリと笑いかける。
「お前の本当の勇気‥‥いずれ見てみたい」
 いよいよ試し合戦の始まりだ。
 サウティ率いる白組には太田自警団が多く所属している。聰暁竜(eb2413)も今日は自慢の霊刀を敢えて捨て、徒手空拳で挑む構えだ。相手があの松本清とあって自警団員にも緊張が走るが、そこを見透かしたように外野から乱の軽口が飛ぶ。
「負けたらいつもの3倍の訓練が待っているぞ?」
 対する赤組は真を始めとする義侠塾生らを含む軍だ。
「やれやれ、黒夜叉の件じゃちょいと不覚を取っちまったな‥‥ここんトコ斬った張っただのをやってねぇから、ここらでカンを取り戻すのも良いだろ」
 合戦の始まりを告げる太鼓が鳴り、両陣営は同時に正面からの白兵戦を挑んだ。その身を義不守(ぎぷす)で固めた久方歳三は大将首へ迫りくる敵を引き受け、紙一重で交わして組み打ち、迎え撃つ。次の敵を探して久方が前線を振り返ると、自陣営の前衛が紙を裂くよう瞬く間に崩れるのが見える。
 拳打蹴撃で白組の喉元まで駆け上がって来たのは聰。
「――――最後の守りと言う訳か。ならば。破るまで」
「義侠塾魂此処にありでござる! ここは拙者が死守するでござるよ!」
 久方が大脇差を振り下ろした。誰もが決まったと思ったその刹那。白羽取り。一瞬の隙で聰が刀を奪い取り、注意を殺がれた久方へ強烈な頭突きを襲う。
 久方がたたらを踏んだ。 
「しかしこのまま通す訳には‥‥ここは秘技、駄威離威愚亡琉怪(だいりーぐぼーるかい)・弐号でござる!」
 環境利用闘争術を応用したこの妙技は細かい足捌きにより巻き上げた砂埃で身を隠し奇襲を見舞う、別名「消える歳ちゃん(笑)」! この卑怯技で形成は赤組へ傾くかと思いきや、事態は思わぬ方向へ転がり始める。
 この機を逃さずトキワが動いた。
(「‥‥好機だな。この目くらましを逃さない手はない」)
 小柄な体と身のこなしの軽さで密集地帯をすり抜け、足音を殺して大きく赤組本陣の側面へ回りこむ。狙いは一つ、大将首。
(「‥合戦前に一目見たが、まるで噂程の大人物には見えないな。まあ、試し合戦に臆して逃げる程の小物でもないようだが」)
 得物のナイフを構え、トキワの奇襲。それが清を捉える。
 その寸前に。
 微かに匂うその殺気を真が嗅ぎ取った。
「――清、突っ込め!」
「え、え、え‥‥やだっぜ?」
「いいから、ほら、行けっ!」
 真に背中を押されて清が迎え撃つように突っ込んだ。トキワの奇襲に赤組陣営へざわめきが走る。その隙に真が手毬を転がした。清がそれを踏み抜いたかと思うと。
「お、おわわわわわ‥‥!」
(「何!?フェ、フェイント‥‥!!‥」)
 ズッコケからの有り得ない体勢での攻撃。意表を突かれてトキワがまさかの返り討ちに。真がほっと胸を撫で下ろした。
「‥ま、いくらヘタレだろうが頭張ってる以上、一応面子は立たせなきゃならんしな」
 大将の活躍ぶりに赤組は途端に沸き立った。それも束の間。一瞬の弛緩を見逃さず、既に聰が動いていた。
(「‥‥あれが噂の英雄か。随分挙動不審な様だが、油断はできんな」)
 噂ばかりが先行しているが、その素顔を知る者は少ないと聞く。だがあれだけの武勇伝を誇るだけに、余程の達人だとは覚悟してかかるべきだろう。
「今日は胸を借りるとしよう。いざ」
 聰が細く深く息を吸い込んだ。体中に気を満たし、両拳を腰溜めに構える。刹那。終に連撃が放たれた。
「―――――!――」
 息もつかせぬ多段連撃。そのつもりだった。だが牽制のつもりで放った初撃が呆気なく鉢巻を掴み取ったのだ。
 一刹那のブランク。
 そして決着をつける太鼓が鳴り響いた。
 誰もが呆気に取られる中、由良がおもむろに立ち上がった。
「いや、お見事。流石は地頭殿ですな」
 由良が白組陣営を振り返ると、すっかり油断していた道場主のサウティが数人の赤陣営に囲まれて鉢巻を掴まれている。
「お披露目で道場主が敗れる訳にはいきますまいからな。いや、サウティ殿を追い詰めた義侠塾の御仁らの武勇もまた素晴らしい」
「そーなんだっぜ。サウティの顔を立てて、わ、わざと負けてやったんだっぜ」
「あの混戦でそこまで戦場を捉えるとは。流石は松本清と言ったところか」
 清へ拍手が巻き起こる中、聰が健闘を称えて握手する。そしてまた聰にも万雷の拍手が鳴り響いた。
 すかさずサウティが道場の宣伝に入る。
「という訳で門下生大募集中だぜ! 月謝は安いし、強くなれば城への仕官の足がかりに出来るかもしれねえな」
 実際の所は大田自警団の窓口程度のコネしかなかったりするがそこはご愛嬌。
「大人子供も誰でもよし、門を叩くやつは大歓迎だぜ!」

 所変わって、八王子山の向こうは金井宿ことキヨシ村。
 村の診療所兼託児所では、ケイン・クロードが子供達を集めて面倒を見ている。
「さあオヤツの時間だよ。今日はお団子だよ」
 少し前から託児所には華僑の子供達も預けられるようになった。言葉も習慣も違う彼らだが、子供同士が打ち解けるのには壁などない。
「協力して何かを成し遂げるのが相互理解への第一歩。まずは子供たちから華人と倭人とのわだかまりを除いていければ‥‥」
 今朝は所所楽林檎からいろは歌から教わったり、ミキの様子を見に来た村娘の真砂と一緒に遊んだりと、だいぶ疲れた。オヤツを食べたら暫くお昼寝だ。
 そうしてケインが子供達を寝かし付けると、乱暴に戸を叩く音がある。子供達を起こしてはいけないと慌てて表へ出ると、人相の悪い二人組みだ。
「アンタが責任者かい」
「なに、大した用件じゃねえんだがな」
 彼らは太田を縄張りにする太巌組の連中。この金井宿で商売や事業をする者からもミカジメ料を取りに来たのだ。無論、台所の厳しい診療所にそんな余裕などない。
「結構です、お引取り下さい」
「そういう訳にもいかねえんだよ! 俺達ゃ何もガキの使いで来てんじゃあねえんだ」
 怒鳴り声に、奥の部屋で寝ていた子供達も目を覚ました。小さな子供達が大声を上げて泣き出し、近所の村人も何事かと集まり出した。騒ぎを聞きつけ、ちょうど金井宿を巡回していた華僑の自警団もすぐさま駆けつけた。
「何があった‥!」
 昨日入団した白九龍を始めとして、華人の若者ばかりが10人ほど。この数に睨まれれば太巌組の若衆でも分が悪い。
 捨て台詞を残して去っていく顔を、恐々と顔を覗かせた真砂が横睨みにした。
「ヤクザがこうまで大きい顔するなんて、金山って恐いトコなんだねぇ‥‥」
 騒ぎが収まると、漸く白達はその場を後にした。ここ数日、華僑自警団はその活動を活発化している。日中の見回りも相当強化されているようだ。
「黒夜叉と名乗る暴漢が太田宿で横行しているのも気になるな‥‥金井宿にも来んとは限らん、明日からは夜間の巡回も行うか」
 キヨシ村内にある景大人邸宅。
 その離れにある華僑自警団の詰所で林潤花(eb1119)は上役の賈と向き合っていた。
「話は分かりました、林」
 的屋の鷲落大光(eb1513)が太巌組へ共同で討伐を持ち掛けるという情報がある。
「太巌組がミカジメをとるのは華僑の利益に反するが駅伝制の膿である野盗討伐は華僑の利益になりますわ。野盗討伐を支援する代わりに、金井宿から手を引かせるよう交渉しては」
「この程度で大人の手を煩わせようとでも? 話は太巌組が動いてからですね」
 取り付く島もなくぴしゃりと言うと、賈は去っていった。華僑組織内で動きたくとも、あの賈に頭を押さえつけられてままならない。
(「それでも手は打っておいたわ」)
 自身も華僑である白は、同胞である林の口利きで入団を果たしていた。詰所の外では、白が団員達に拳法の手ほどきを行っている。
 その様を、景は二階の一室から眺めていた。
「何やら自警団が張り切っているようだね、賈」
 自警団は10人毎の3組の交代制で詰所に集まり、組をそれぞれ2班に分けて宿内を巡回しているようだ。各組には隊長と補佐の役職まであるそうだ。
「ええ、大人。その下にも一席、二席と格付けを行っているとか。林の奴め、何を考えているのやら」
「まあ好きにさせてあげるといい。それより、どうなっていたかね朝食会の方は」
 その言葉に、賈はふと動きを止めた。
「はい、今月は明日の予定ですね。では、すぐにでも人払いを」
「ああ、よろしく頼んだよ」