【金山迷動】 悪鬼は骨に集まれり 害
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■シリーズシナリオ
担当:小沢田コミアキ
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや易
成功報酬:4 G 56 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月23日〜12月07日
リプレイ公開日:2006年12月05日
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●オープニング
悪鬼達はひそかにこの街へと入り込んでいる。目立たぬようにひっそりと時を過ごす者。生活の場を築いて土地に溶け込む者。金山へ別に仕事を持つ者。それぞれだ
「金山の過ごし具合はどうだ? なかなか活気があっていい町だろう」
江戸で騒がせたヤクザどものほとぼりが冷めるまでの辛抱。
これは暫しの休暇だ。
金山の街で、ひとときの時間を過ごし鳴りを潜める。
「機が熟したら声をかける。それまで、ゆっくり眠ってることだな」
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E:太田宿自警団、発足
太田宿自警団の詰め所は、街の中央部近くに位置する。
野盗征伐で十名の志願兵を出した自警団へは、黒夜叉事件が収まったこともあって新たに十名の志願者が加わった。現在の団員は30名強。街の若者とチンピラ崩れが半々の割合だ。城の執政である由良具滋の指導で創設された自警団は、町人たちで独自の運営が行われている。
さて、そんな自警団が目下抱えている事件は‥‥
《キヨシ村祭り警護》
今月は金井宿でキヨシ村祭りが行われる。祭の間の警護は華人自警団が一手に引き受けるという話だが、金山の民にはそれを危ぶむ反華人派の者も多い。ここ太田自警団へもキヨシ村祭りの警護を行って欲しいという太田宿住民の声が相次いで寄せられた。
華人自警団との確執と緊張もとけぬ今、軽挙妄動は許されない。団の振る舞いが太田−金井宿間の関係に与える影響も考えて決定を下さねばならないだろう。
この他にも、山向こうのキヨシ村へ入植を開始した華国人とのトラブルも頭痛の種だ。黒夜叉事件のこともある。華人達が城から許されて独自の自警団を作り出したことで、太田宿の住人達は緊張を高めている。悪い流れに発展せねばいいが‥‥。
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F:悪鬼は骨に集れり
「金山の裏社会は俺ら太巌のナワバリだ。俺たちは俺たちで金山を治めるぜ」
金山の利権のほとんどは太田へ集中していたが、多数流入した華人たちが山向こうの金井でも商売を始めたおかげで、太田の侠客連中も食い扶持を下げている。もともと金井にも侠客組織が根を張っていたが、金井宿が廃村になった時に一家も散り散りになり、今は誰のナワバリでもない状態だ。
太巌組は、トラブルの際に華僑勢力から守る用心棒代という名目で金井宿で商売をする連中へミカジメ料を請求しだした。現在、金井宿は華僑との協調路線を取っていることもあり、華僑自警団が牽制することで太巌組もそうそう手を出せずにいるが、いつまでもこうしている訳にもいかないだろう。
また定例市の一等地の権利を占有して売り出して収益を見込んだり、酒場の経営にも着手した。城からは3百両超が借金返済とその利子として秘密裏に送られ、苦しかった台所事情は劇的に持ち直している。
「いいか、野盗討伐なんぞにかまけて手前らの庭がお留守でしたじゃ笑い話にもならねえ。シノギの口をおさえて金山の裏は俺らで牛耳るぜ」
●リプレイ本文
「さて、と‥‥前回はかなり無茶をしたし、今回は骨休めと行きましょうかね」
折りしも金山は金井宿の祭りで沸き立っている。駅馬車を降りたクリス・ウェルロッド(ea5708)はその賑わいの中へと紛れていった。
「たまには普通に過ごすのも悪くは無いでしょう」
先月は野盗討伐の山で大仕事を果たしたが、また暫くは鳴りを潜める必要があるようだ。同じ仲間であった彼岸ころり(ea5388)も、今日はしばらくぶりに羽根を伸ばすつもりだ。
「ま、たまには血腥いコトは綺麗サッパリ忘れて、のーんびりやりますかー。村のお祭りなんて初めてだしね」
だが中にはこの地でも密かに己の目的を持って動いている者もいる。
聰暁竜(eb2413)がそうだ。
「――急く必要は無い。静かに、緩やかに、誰にも気取られず変えてゆく」
金山を取り巻く政情は大きく動こうとしている。
外では上州の乱が集結に向けて動き出し、また脅威であった野盗が取り除かれたのを契機に内政の充実も図られることだろう。懸念されていた太巌組と城との不和も、野盗討伐で得られた3百両余りの戦利品が太巌組へと流れたことで一時の小康状態を迎えている。顛末を耳にして氷雨雹刃(ea7901)は吐き捨てるように口にする。
「あれだけ突っ撥ねておきながら、結局それか‥‥義侠が聞いて呆れるわ」
太巌組からすれば、この一年余りで貸し続けた金を返して貰っただけで一両の得もないが、この事態を面白く思わない者もいる。
「カスめが‥‥いい気になりおって。俺を散々虚仮にしてくれた礼だ‥‥吼え面掻かせてくれる」
「‥‥確かに太厳組には失望させられたしな‥そろそろ頃合いかもしれん」
同じく忍びである鳴神破邪斗(eb0641)がそっと彼の横へ並び立つ。それに氷雨が頷き、連れてきた二匹の飼い犬の額を撫ぜると、二人は街へと消えていった。
「仕事の邪魔だ‥‥クリスの阿呆にでも預けておくか」
一方で鬼哭の的屋では用心棒をやっていた鷲落大光(eb1513)も、この流れを乗り逃がすまいと動き始めている。
的屋の後ろ盾である天山万齢と懇意にしていることもあって鬼哭では幅を利かせていたが、天山が的屋への借金を帳消しにしてやったことで繋がりが切れ、その影響力も今は失っている。
「さて、どうしたものか。ここで金山の情勢が変われば宝の回収が難しくなるな‥‥ここは城にでも手を貸すとするか」
さて、太田自警団では来るキヨシ村祭りの警備への参加を巡って会合の最中だ。集まった団員を前でロックハート・トキワ(ea2389)は城への不満を隠しきれない様子だ。
「まったく、次から次に。この間の志願要請にしても城がもっとしっかりしてくれていれば、な」
そこへ義侠塾からの出向の風羽真が顔を出した。
「どうやら祭の警備の件で、少々もめているみてぇだな」
「そのことだが」
と、風斬乱(ea7394)。
「警備要請は拒否したい」
太田の住民からは多くの意見が寄せられているが、自警団の縄張りはあくまで地元の太田宿だ。
聰が頷いて同意を示す。
「表立って動けば華僑自警団の面子を潰すことになる。無用な軋轢を生むような手を取るほど皆も愚かではなかろう。とはいえ――」
「祭へ民の一人として参加するならば問題ないだろう」
「太田住民の声も無碍には出来ない。一参加者として祭りを周る。当然、何かあった時は――」
そういって聰は無言で得物の太刀を手に取った。
その二人の様子を横目で窺って、トキワは首だけで場を見回した。片や華人ながら団員の人望を掴みつつある聰、乱も先の討伐では自警団の志願隊の指揮を務め一目置かれる存在だ。
誰も異を唱える者はない。
「決まったみたいだな。それじゃあ今回は『非番』ということでゆっくり休んでいよう」
トキワが肩を竦めて手席を立った。
「‥‥それにしても‥‥城への不満は募る一方だな。城はこの問題を二の次にしているように見えるし」
それに、と皮肉たっぷりにトキワ。
「最近団長や補佐役を見ていないんだが‥‥何処いったんだ? 面倒なことは俺たち現場だけでってのは正直御免蒙るけどな」
現場だけで巧くやってきたが責任者不在でこの先厳しいのは明白。
今回は現場の判断だけで動くことになるため、団員への指示は徹底せなばならない。
「祭りの喧嘩は華だが、此方から仕掛けるのはやめてくれよ?」
祭りへの参加心得を滔々と言い聞かせ、乱がニヤリと笑った。団員として恥じぬ行いを心がけると共に、自らの身は自らで守らねばならない。
「そして何があっても抜くなよ」
「俺も警備を手伝うか。どうせ暇だし、これも祭の楽しみ方のひとつだろ。‥‥ふむ、少しは祭が楽しみになって来たな」
真が腕まくりしながら、ふと新人団員達へ目を留めた。
「そう言やぁ大田宿の自警団に新入りが入ったんだったな? どれ、ちょいと使える連中かどうか値踏みしてやるか」
一方、同じ太田宿では太巌組がすっかり勢力を盛り返していた。
元々侠気の気風が根付いた土地柄で昔堅気の侠客の多い上州だが、太巌組がここまで息を吹き返したのはその資金と暴力を背景に商業活動へ強く力を入れたからに他ならない。夜間営業にも力を入れ、定例市でも商い物による区画分けと案内図の作成で交易を促進し、上がりの増大を図る。
全て、太巌組に取り入った天山の仕業だ。
「よりよい明日を作っていこうじゃねえか」
「あんたが口にすると、少しも爽やかな台詞にゃ聞こえねえよ」
「そいつは心外だぜ、太巌の」
哭を牛耳る的屋では顔である天山に親分も一目置いているようだ。
元々、鬼哭でも壊滅寸前だった的屋を、鬼哭の経済に切りこむ形で息を吹き返させた天山。裏帳簿を作成するくらいはお手の物だ。
討伐では江戸の侠客が一枚噛んでいたとの情報も八城兵衛から寄せられたが、今の所目だって動きはない。
「後は、目障りなのは華僑の連中だけかね」
「‥‥それにももう手は打ってあンだろ?」
それに天山は小さく肩を竦めて返した。
「種は撒いたが芽が出るか。どうだろうねぇ、後はここの水とお天道さんの次第じゃねえかい?」
所変わって金井宿。
華僑の重鎮である景大人の屋敷へは今日も多くの客人が訪ねてきている。
「お初にお目にかかる。上杉藤政と申す、陰陽師だ。お見知りおきをいただければ幸い」
「大人の代理の賈です。実務は私が取り仕切っています。お話を伺いましょう」
土産の菓子を受け取ると、賈は丁寧に礼を述べて藤政を席へ促した。
「問題となっているキヨシ村祭りの警護のことであるが、太田衆の反発も考えて太田自警団と手を取り合ってはいかがか。自警団の主力は金山の民が行う形にしたい」
「何か勘違いしておられるようですね。我々は自らの手で身を守る為に動いているだけですし、そもそも先方から協力の申し出があった訳でもありません。それに我々華人もまた金山の民です」
事実、ここ金井宿は多くの華人系移民が生活の場としている。城の誘致でこの地へ移り住んだ商人を初めとする多くの華人達もいまや切り離せぬ金山の民だ。華僑自警団は華人居住地である金井宿で城から正式に集団自衛権を得て運営されている組織。華人も大々的に協力する金井宿での祭りを警護するのは自然な流れだ。
「不勉強であった。無知ゆえの無礼、ご容赦願えるとありがたい。‥‥まだまだ未熟であるな」
何度も頭を下げて藤政は屋敷を去っていった。
次に部屋へ招きいれられたのは金山太田宿検察官の鬼切七十郎だ。
「ちょいと聞きたいことがあって寄らせてもらったぞい」
鬼切が差し出したのは、奇妙な龍を描いた一枚の絵。
先日太田宿で華人の盗賊が捕縛された。金山で頻発していた窃盗事件に関与していた恐れがある。鬼切は背後関係を取り調べようとしたが、男は自害し自ら口を閉ざした。その男の腕に彫られていた刺青を絵師に写しを取らせたものだ。
「大陸系マフィアっちゅう奴について何ぞ知っとったら聞かせてほしい」
黒道、と賈は呟いた。
「なんじゃい、そのヘイタオっちゅう奴は?」
「華国では裏の世界のことをそう呼びます。黒社会とも呼びますね。彼らの残忍さはこの国の侠客達とも一線を画します」
「そういう連中が、この愛すべき金山の土地に紛れ込んどるかもしれんのじゃ」
「由々しき問題ですね。要請があればこちらでも然るべき措置を取りましょう」
一方、景大人邸宅の離れにある華僑自警団詰め所へも来客がある。
「住民が安心して祭を楽しめる様、一応、筋は通しておく必要があるかあらな」
真と乱の二人の訪問に華僑自警団員達は色めき立ったが、乱が諸手を広げて敵意のないことを示す。
「吼えるなよ‥‥何も喧嘩をしに来た訳じゃない」
その場にいた白九龍(eb1160)が責めるような視線を向ける中、乱は手土産の酒とつまみをその場へ広げた。
「何、同じ街で同じ自警団という職をやっている仲だ。お互い無視し合うのも得ではないだろう? 訪問の理由? ただあんた達と一杯やりたかっただけだ」
その様子を、賈は訪問者が帰った後の応接間の窓から窺って小さく肩を竦めた。今日は来客が多かった。サラン・ヘリオドールからは大人宛ての手紙を預かっている。また、竹之屋からは開店セレモニーへ大人の招待もあった。見舞いの品の茶を味わいながら、思考を巡らせる。
彼らが来る少し前。
やはり太田宿から賈を訪ねてきた者がいた。
天山だ。
彼が突きつけたのは、華人自警団の解散と執政由良への全面協力。それを条件に太巌組は金井宿から手を引くという。
(「‥‥とても呑める話ではありませんが、太巌組がこのような動きをするとは気に掛かります。心する必要がありますね」)
太田宿と金井宿、二つの城下町はキヨシ城の位置する八王子山とに隔てられている。現在は改装休業中のキヨシ城に、鳴神と氷雨の姿があった。
「なかなか見晴らしがいい所だな」
「‥‥フン、ゴミのような街だがな」
そういって氷雨が丸めた掌中の懐紙にはべっとりと血の跡がついている。だが二人ともその赤を目にしても顔色一つ変えることはない。二人の足元には土を盛り返した跡が。
「しかし、仕事といえガキを手にかけるのは後味が悪いな」
「どうした鳴神。まさか良心が咎めたなどと言うまいな」
二人によって殺害されたのは太巌親分の一人娘。
遊びに出た所を、鳴神の飼い犬の乱牙がじゃれついて見せて人気のない場所へ誘い込み、浚ったのだ。組の動向は、太田自警団員という表の顔を持つ鳴神が警邏と見せかけて調べ上げた。護衛の三下をまく時には氷雨の未熟な忍術などで危ない場面もあったが、熟達した鳴神のフォローのおかげで何とか事は計画通りに運べた。そうして今、件の一人娘は冷たい土の下だ。
「‥‥仕事とあれば誰を殺そうと躊躇はせん。ただ何も知らんガキよりは親分を始末する方がやりがいもある。それだけだ」
「フン‥‥俺にしれみればどちらもただ、造作ない。それだけのことでしかないが」
(「しかし、せっかくバラすのならころりを呼んでやってもよかったな」)
手早く処理を済ませると二人は静かにその場を後にした。
墓標もないそれを鳴神が最後に一度振り返った。
「‥この手に乗らずとも、切っ掛けは作った‥‥さて、どう転ぶかな?」
麓の金井宿では数日間に渡り祭りが行われた。
祭りでは太田自警団が非公式に警邏を行い、金山の民へ存在感をアピールした。万一の両自警団員の衝突を懸念して鬼切も仲裁役として金井入りし、彼らが犯罪抑制に努めたこともあり期間中には大きな揉め事もなく無事に祭りは執り行われた。
一人太田自警団詰め所で待つ乱は、妖精の水練と碁を並べて過ごしたようだ。
「暇だね」
積極的に祭りに会場を周った聰らのおかげで民の信望を裏切ることなく、今回の件で双方の自警団は面目を潰すことなく事を収めることが出来た。そうして祭りの後、遂に自警団では聰が計画を実行に移していた。
「以後、団の実務は俺が取り仕切る」
これまで実績を積みながら団内外の信望を集め続け、満を持しての立候補。
「上の者が不在である以上、現場で動ける者が指示を取る必要があるのは皆も重々承知のことだろう」
華人でこそあるものの、これまでの働きや団での人望、また太田の民の信頼も得ている。多くの団員がこれに恭順の意を示し、聰を暫定のリーダーとすることが決定した。役職は副長とし、以後は団長不在時の方針決定は全て聰の手によって行われることとなった。
一方の華僑自警団でも動きがあった。
『大人の仰せとあれば引き受けぬ訳には参りますまい‥‥』
白がこれまでの働きを認められ、華僑自警団の団長へと抜擢されたのだ。自警団の書記である林潤花(eb1119)の推挙を、大人の代理として華僑を一手に取り仕切る賈が意見として掬い上げたかたちだ。
「意欲があり有能な人材であれば積極的に登用していきましょう。まあ、自警団の役職程度なら些事ではありますがね」
「あら、お顔が優れないようだわ。大人の片腕である貴方が倒れては大事よね。もう休まれては如何かしら?」
「――今日はもう下がります」
それと、と去り際に賈。
「明日はまた例の日です。屋敷へは立ち入ることのないように。自警団の活動も明日の午後までは休止とします」
その足取りは重く、かなり疲労が溜まっているようだ。
その後姿を目にし、林は内心で唇を歪めた笑みを作った。
(「愛しの賈‥‥貴方を想って毎晩祈りを捧げたのよ。私の呪念の味はどうかしら?」)
呪詛は毎晩、自室や厠で密やかに行われた。呪い除けの儀式を行えないため林自信にも禍が降りかかる諸刃の刃だが、その効果自体も大したものではない。
だが、ほんのちょっぴりでいいのだ。
賈の心身に僅かな変調を来たすだけで十分。激務に追われる彼には、それが枷となる。大人の片腕である賈は、林の上役である自警団長のそのまた更に上の地位にいる。この先に賈が倒れることがあれば華僑組織内の序列に動きが出る。大人に満足に目どおりも叶わぬ自警団長の補佐に過ぎぬ林にも、華僑の中枢に食い込む隙が生まれるだろう。
首根へかけた手は死ぬまで力を緩めはしない。
(「たとえ死が二人を分かとうとも私達の絆は途切れない。だって私は‥‥『死人使い』なんだから」)