【金山迷動】 街トカ作りますが何か?

■シリーズシナリオ


担当:小沢田コミアキ

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:4

参加人数:10人

サポート参加人数:10人

冒険期間:08月21日〜08月31日

リプレイ公開日:2006年08月29日

●オープニング

 武蔵国、奥多摩。
 鬼哭と呼ばれるとある宿場町。そこを訪ねる華国人の男がいた。
「白さんや、よう来たのぅ」
 出迎えた老翁は、万屋・重松の主人。鬼哭宿の古株の重一爺さんだ。
「ご無沙汰しております。今日は老大のお耳に入れたい話があって参りました」
「おうおう、的屋から聞いとるぞ。例の駅伝とやらの話じゃろ。金山の民も豊かになる、鬼哭も潤う。よい話じゃて」
 金山と江戸とを結ぶ馬車便の中継点にこの街が決まったのは先日の話だ。あれからすぐに上州内にも駅が敷設され、江戸‐鬼哭‐金山間に非公式に馬車の往復便が運行することとなったのだ。
「ご存知でしたか。なら話は早い。そういうことですので、是非ともよろしくお願いします。それで‥‥」
「‥‥ミキかえ? 妙じゃの、さっきまでその辺りを歩いておったと思ったがの?」
「そうでしたか。ではまた来たときにでも。これは金山土産です。次はあの娘にも何か土産を持ってきましょう」
 同じ頃。
 四の辻と呼ばれる界隈に、新たに作られた金山行きの駅がある。今日もまた、金山行きの便が大きな荷物を積んでこの鬼哭を出発した所だ。
 その荷物の中から、ぴょこんと小さな頭が首を出した。
「ぅぁー?」
 ひょこんと跳ねた尖った耳はハーフエルフのそれ。この娘の名はミキ。年のころは十二、三といった風だが、あどけない表情は年齢よりずっと幼く見える。娘は気が触れているのだ。
 娘を乗せた馬車は山を越え、そのまま金山の街へと吸い込まれるように消えていった。



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C:松本清、上州に立つ!
 清の手により新田方から取り戻されたかに見えた金山の街だが、その実情はかなり厳しい。
 疲弊した清の手勢に代わり、源徳は兵500を金山の城へ差し向けた。事実上、城は源徳に横から浚われたのだ。辛うじて清の腹心である由良具滋が立ち回り、清へ地頭の役職を据えることに成功した。
 金山では、傀儡の地頭である清のもとで遂に新しい街作りがスタートしたのだ。
 
 しかしこの松本清。
 数々の武勇伝を残し遂には難攻不落の金山城を落とした英雄のはずなのだが、その実態はただのヘタレ。冒険者達に苛められながらも神輿兼使いっ走りとして日々慌しく街作りに従事している。
「あー。暇だっぜ」
 天守へ清は大きくあくびを漏らして伸びをした。
「そうだっぜ。今日はキヨシ村でちやほやされてくるんだっぜ」
 部下たちは暑い中慌しくしているというのに、暢気なものである。
「たまには村人にかっこいいとこ見せないとじゃん? 腕がなるっぜ〜」

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D:由良具滋は静やかに考える
 金山城の実質的指導者は清の腹心である由良具滋という男だ。
 元新田重臣でありながら義貞の謀叛を諌めて家中を追われ、金山の民を護持するため今は清の元へ身を寄せる異色の経歴を持つ男だ。彼が源徳との間に立ち回り、この金山の主権を辛うじて留めている。
 太田の実権を握る源徳。そして連合を束ねる張子の虎、清。両者の間に渡された架橋は、たちまち踏み外してしまいそうに危うく細い。
(「現段階では我らが動く足場すら固まってははおらぬ。まずは力を蓄えねば‥‥」)
 金山政策の目玉として施行された楽市楽座を成功させるためには、まだ多くの問題を解決せねばならない。


〇野盗討伐
 上野を跋扈する野盗たちは駅伝制の最大の癌。他領から領内へ通じる道に出没して旅人や商人を襲うばかりか、駅馬車を襲われては駅伝も立ち行かない。
 金山領外へ逃れた野盗を討伐するため、城は清と繋がりのある太田の侠客『太巖組』を通じて非公式に討伐隊を組んだものの、緒戦は惨敗に終わる。いまだに敵の動向や本拠すらも掴めていない段階だ。

〇華僑問題
 華僑との誘致交渉の席で華国語に長けた者がいなかったのが禍したのか、城があげた『キヨシ城での興行許可』の条件が『キヨシ城の興行権の譲渡』と華僑との間で認識が食い違っている。
 城にとってキヨシ城はこれから投資資金を回収しようという段階。だが華僑は興行権を返却せねばならぬなら華僑を金山から引き上げると強硬な姿勢を見せている。

〇黒夜叉事件
 太田の城下町で、自警団員が惨殺される事件が起きた。黒夜叉を名乗る犯人の犠牲となったのは3人の自警団員。金山の治安を揺るがす凶悪事件である。先ごろ創設された検察所もこれには断固たる措置を取るべく既に動き始めている。
 しかし、それを嘲笑うように、金山へ駆けつけた冒険者を待っていたのは第四の訃報であった――。


 現時点で重大な問題がこの3点。
 更に、清の結婚問題や、キヨシ村の開発、自警団の運営、更にはいまだ治まらぬ新田義貞の乱や、華人流入によるトラブルも予想される。
 これらを処理する資金である金山城の金蔵は底をつきつつある。金山の商人への税免除により税収も大幅に落ち込むだろう。そして城内の勢力も一枚岩とは言いがたい現状。この厳しい状況の中で、源徳からの外圧を避けて金山の主権を確保せねばならない。
「金山七千の民を生かすも殺すもすべて我らの胸先三寸。その重い責を自覚し、皆でこの金山の発展に尽力しようぞ」

●今回の参加者

 ea0270 風羽 真(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0452 伊珪 小弥太(29歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea6381 久方 歳三(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7394 風斬 乱(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8432 香月 八雲(31歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 eb0569 小 道具(35歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb0576 サウティ・マウンド(59歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb0579 戸来朱 香佑花(21歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb3751 アルスダルト・リーゼンベルツ(62歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb3773 鬼切 七十郎(43歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

狩多 菫(ea0608)/ 霧島 奏(ea9803)/ タケシ・ダイワ(eb0607)/ アド・フィックス(eb1085)/ ヴィスコ・ヤンセン(eb2270)/ エスメラルダ・ボーウェン(eb2569)/ 緋宇美 桜(eb3064)/ 任谷 十三(eb3472)/ エアニ(eb5014)/ ヴェニー・ブリッド(eb5868

●リプレイ本文

 次から次へと起こる問題に由良の執務室は大忙しだ。今日も政治顧問のアルスダルト・リーゼンベルツ(eb3751)を交えて政策会議が開かれている。
「野盗征伐、鬼哭絡みの人探し、例の黒夜叉事件‥‥これらがスムーズに進むよう手筈を整えるのが金山地頭代補政治顧問役たるワシの仕事ぢゃ。苦労し甲斐がありそうぢゃな」
 領内外に治安を揺るがす問題が起こっている。特に黒夜叉事件はこのまま続くようなら行商人の手を伝って噂となって諸国へ流れるだろう。金山の治安を元に戻さねばと、検事の鬼切七十郎(eb3773)が息巻いてやって来た。
「めっさ許せねぇ外道が金山にゃあ隠れているようじゃぁ」
 鬼切による死体の検分では、首を晒された二人の自警団員の死因は撲殺。
「自警団の若い衆を叫び声も挙げさせずに仕留めるには、余程屈強な大男でもない限りこりゃあ出来ねえ」
 しかし死体から蝋で取った犯人の拳型はまるで子どものように小さかったことがわかった。残りの一つと、4件目の殺人はいずれも刃傷が致命傷となっている。
「どっちにしろ犯人には異常的な癖がありやがる。見せしめのためにも厳罰に処す必要がありそうじゃぁ。金山七千の民の安全を守るためにやるしかねぇ」
「初の試みとなる検察所が民から今後どう評価を下されるか、この事件の裁きように掛かっていよう。事は慎重にお願いしたい」
 由良がアルスダルトを見遣ると、老も小さく頷いた。
「ひとまず城からも打てる手は打っておくべきじゃろうの。鬼哭の家出人騒動の件も含めて、領内で冒険者が自警団が動き易い様に便宜を図る方向で兵へ通達しておくかのぅ」
 黒夜叉事件には懸賞金も懸けられ、ただちにアルスダルトの部下によって草稿が書き下ろされた。
 その間にも幹部の戸来朱香佑花(eb0579)らが由良の下を訪ねている。
「由良のおぢさん、華僑に取られたキヨシ城の興行権はどうするの?」
「策を募ってみたが、よいものは得られなかった。私も野盗討伐などで忙しい身故、華国後が堪能なヴェルサント殿へ一任しておいた」
 既にヴェルサントが景の元へ発ったと聞いて香佑花が慌てて金井宿へと向かう。それと入れ替わりに由良を訪ねたのは、懐かしい顔だった。
「これは――久しいな陸堂殿」
「お久しぶりです。覚えていてくれるとは光栄です」
 かつて清が太巖組や民草を率いて新田の治めるこの金山城を攻め落としたとき、その手勢の中には流浪の侍、道志郎とその仲間の冒険者達の姿があった。道志郎を傍で支え、戦を共にしたのがこの陸堂であった。
「幾ら腕が立ってもばらばらに戦っては勝ち目は無い。だが指揮官がいれば話は別ぢゃろ」
「前回の件は承知。勢いだけでは戦には勝てません。統一された指揮の下、連携を持って当たらねば同じ轍を踏むだけだと考えます。事前の訓練も含めて、僭越ながら自分にお任せ願いたい」
「野盗討伐隊は非公式の部隊ぢゃ。適任ではないかの?」
 陸堂の戦いぶりとその人柄は由良もよく知っている。由良に断る理由などなかった。
「任せよう。太巖組へは私から話を通しておこう」
 香佑花の伝で得た冒険者仲間からは、野盗はここ最近、北東の方角で出没することが多いという。後は虱潰しに当たり、叩くだけだ。
「ただ、少し不安が残るでのぅ」
 先日、太巖組へ不審な接触があった。清の使いを名乗る不審な男が組へ近づいたのだ。髭面で浅黒い肌、隻眼長髪の渡世人風の男。夜鴉の耶吉と名乗った男は、太巖の親分が由良へ確認を取ると、その気配を悟ったのか行方を眩ませたという。
「どうにもきな臭いでの。何事も起こらねばよいが‥」

 同じ頃、太田自警団でもやはり黒夜叉事件の件で持ちきりであった。サウティ・マウンド(eb0576)は大槌を担いで息巻いている。
「小隊長、とっとと例の不穏分子を除いちまおうぜ。見てろよ‥‥俺のこの100tハンマーで全てをなぎ払う!」
 団内では、血の気の多い連中が殺された仲間の弔い戦だと熱くなっている。だが団長の小道具(eb0569)は慎重な態度を崩さない。
「黒夜叉の問題はまだ自重してほしいっす。自分たちは奉行所と違うっす。何かあった時に、太田の民が自分達の手で身を守るための組織っすから。そこはわかって欲しいっす」
 せめてもの対応策として、巡回では少人数の組で当たることを徹底するように小は通告した。しかし団員からはロックハート・トキワを始め、不満の声も挙がる。
「‥‥この間は皆を落ち着かせる為にあぁ言ったが‥四人目の被害者含め、状況的には華国側が関係している事は間違いないんだ‥‥後手に回るのは御免なんだが」
 じろりと小を横睨みにすると、トキワは嘆息付いた。
「‥‥しっかりしてくれないと、皆の不満も募る一方だぞ?」
「まだ何も証拠は挙がっていないそうっす。状況が状況っすから、特に華人の方の自警団とは揉め事だけは起こさないようにしてほしいっす」
 華人との問題はとても繊細なものだ。下手に動けば火に油を注ぐ結果を招きかねない。だが団内でそうした不満がくすぶっているのも事実だ。
 無言になった詰め所で、沈黙を破ったのは聰暁竜だった。
「捜査権が無いのは承知の上だろう。既に検察所とやらも動いているらしい。俺達に出来るのは、平和を守る為に任務をまっとうすることだけだ。――見回りの時間だぞ」
 団内にはまだ不満を表す者もいたが、聰は普段と変わらぬ態度で提示巡回へと向かう。
「なに、街を歩けば『たまたま』何かの情報を得ることもあるだろう」
 聰が唇の端を捲ると、その意味を悟って漸く団員達もそれに続き、仲間達は街へと散らばっていった。

 あんな事件の後ではあるが、太田の街は今日も賑わいと活気を見せている。街の工房へは金井宿からミリフィヲ・ヰリァーヱスが包丁など金物を受け取りに来ていた。
「へぇ〜、なかなかの出来だね♪ これならいい仕事ができそうだよ〜。良かったら竹之屋にも食べに来てね。この包丁の仕事振り、見せてあげるからさっ♪」
 太田の街は、楽市楽座政策によって毎月20日頃から数日間市が立つようになり、徐々に行商人の数も増えてきた。太田に出来た馬車便の駅周辺は、鬼哭から来たという露天商が商い物を並べている。そこへ天山万齢がひょっこり顔を出した。
「なァ、ちょ〜っと頼みがあるんだけどよ」
 彼は鬼哭宿で露天商を纏める的屋の幹部。馴染みの竹之屋の為に金策に走り回っている所だ。
「ん、何?君らは俺から金は借りるのに俺の頼みは聞いてくれないの? それはチョイト薄情じゃあないかなァ。好感度下がっちゃうよ〜。」
 ネチネチと脅しながら融資を迫るが、暮れの火事から漸く復興を果たした鬼哭の民に余裕などある筈もなく、目論見は空振りに終わったようだ。自警団の風斬乱(ea7394)が巡回に姿を見せると、天山はそそくさとその場を後にした。
 乱は団員と共にミキの捜索に走り回っている。香月八雲(ea8432)へ手書きの人相書を渡して竹之屋にも協力を求めたが、まだ有力な情報は得られていない。
「‥‥人で賑わう市場にならミキが来ているかと思ったが、外れのようだ」
 香佑花もミキ探しに城下町を流している。清が暇そうにしていたら連れ出していた所だが、検察の連中と黒夜叉事件に掛かりきりのようだ。金鞭をにぎにぎしながら、香佑花は忌々しげに呟いた。
「今まで運だけで生きてきた清なら遭遇すると思ったのに‥‥後で酷い目に遭わせてやるから」
 当の清はというと、シェリル・オレアリスと二人で街をぶらついていた。
「清クン、私、怖いわ」
 シェリルがしなだれかかった。
「太田宿で凶悪殺人事件がおきたって話でしょ。清クンに是非とも解決して欲しいな」
 上目遣いで覗き込むと、清は鼻を膨らませている。
「ままま、任せるっぜ」
「ありがとう清クンっ♪ そじゃあ私が清クンの秘書さんになって、清クンが騙されたり誑かされたりしないようにしっかり紐をしめてあげるわ♪」
「へへへ、なって〜、シェリルちゃんから誑かされたいっぜ〜」
 清はすっかり骨抜きといった様子だが、それでも仲間達はそれぞれに清のために動いていた。サウティは木刀を抱えて街の寺院へ赴いている。少しでも自警団員を増やせないかと、その窓口として道場を開こうというのだ。
 寺院の敷地の使用許可は以前にとってある。建設途中で放棄されたものなので建物は自力で建てるしかないのだが。無論、サウティはそんな些細なことなど気にしはしない。
「まずは入門料。月謝なんかは一部を寺院に収めて、後は師範代を選らんで俺がいない間の稽古をつけてもらうとしてそいつの給料。んであとは城に納金。かね。人があつまりゃいいんだけどよぉ」
 物凄いどんぶり勘定で計算を弾き出すと、最後に思案げに俯いてみせる。
「となると後の問題は、そうだな! 道場の名前だけか!」
 さて、そうして団員達が慌しく動く中、聰は団員を連れて、死んだ死んだ商人を始め、被害者である遺族一人ひとりの下を訪ねていた。
「此度の件は我々も残念に思っている。遺族の皆様にも謹んでお悔やみ申し上げる」
 仏の前で手を合わせると、聰はその力強い視線を遺族の一人ひとりへと向けた。
「この結果を招いたのも自分ら自警団の力不足。申し訳ない。だが必ず真犯人を捕まえて見せる」
 そんな中、義侠塾生の風羽真(ea0270)は、黒夜叉事件について調べ回っていた。
「‥あの惨い殺しようには反吐が出る‥金山に義侠の旗がはためく以上は、これ以上、黒夜叉による犠牲者は出させやしねえ」
 竜神池攻略に回った伊珪小弥太(ea0452)や久方歳三(ea6381)らに遅れを取る訳にはいかない。せめて手がかりだけでも――。
「‥‥前の被害者の遺体も見ていたなら、単独犯か複数犯かの見当をつけられたかもな」
 奉行所から洩れてくる情報では、死因は撲殺のものと、刃傷が致命傷になったものの二つがあるらしい。奉行所や検察の捜査では有力な情報は得られず、自警団もまだ何も掴んでいないようだ。
「‥‥となると、我々が手にした目撃情報が唯一の手がかり、ということになるようですね」
 真の横に並び立つ女がそう呟いた。
 小面と法衣姿の怪しい風体の女だったが、その物腰は大変慇懃だ。彼女は永峰時雨、江戸の商人から取引先の安全確保を依頼された冒険者だという。目的を同じくする真と聞き込みの途上で出会い、二人は行動を共にしていた。
 聞き込みの結果、四件目の殺しでは有力な証言は得られなかった。だが首の晒された二人の自警団員に関しては気になる情報を掴んだのだ。
「‥‥現場に不審な子どもの姿、ねぇ? ま、時間が時間だ、少し気になるかもな」
 中には自警団員の悲鳴を聞きつけたという者もおり、子どもらしき姿の目撃例は数件得る事ができた。
 そこへ、自警団から同じく捜索に動いてた仲間が大慌てで真の元へ駆けて来た。
「すぐに詰め所へ戻って下さい」
「団長から緊急の召集です」
 既に詰め所には団員達が集まっている。皆、他に仕事を持った者達ばかりだが、検察の鬼切が、凶悪犯逮捕への協力を要請するとして、自警団員へ緊急の集合をかけたのだ。
「何事っすか鬼切さん。是非にとのことなので緊急招集をかけたっすけど、事前に連絡が欲しいっすよ」
「街を騒がす極悪人の逮捕にゃあ徹底的に厳しく臨まにゃあ。シェリルの姐さん、宜しくお頼みしますじゃあ」
 それに応えて脇に立ったシェリルがスクロールを開いた。途端に団員達がざわめき出すが、すぐに魔法は効果を表す。
「自警団員撲殺した殺人の実行犯」
 そうシェリルが告げると同時に光の矢が放たれ、それは術者である彼女の下へ跳ね返っていった。ムーンアローの魔法だ。事態を飲み込んだ小が猛抗議する。
「捜査形式上、自警団員に疑いをかけるのは仕方ないかもしれないっす。でも、この遣り方は幾らなんでもあんまりっすよ!」
「検察への反抗は金山への反抗じゃ。事によれば逮捕もありうるぞい」
 鬼切が睨みを効かせるが、集まった団員達も一歩も引かない。ひとまず犯人は出なかったということで、鬼切はその場を後にする。
 結局、黒夜叉事件を解決に導く有力な情報は得られなかった。鬼切は太田・華人の両自警団へ団員のリスト提出を要求し、彼らの中に犯人が紛れていないか執拗に洗い出しを行ったが、犯人には結びついていない。無理を言って華僑自警団員全員を集めてムーンアローを行使したが、やはり矢はシェリルへと跳ね返る結果となった。
「‥‥どっちかの自警団内に下手人が紛れこんどると踏んだんじゃが‥‥勘が外れたようじゃぁ」
 華人へも疑念を抱いた鬼切は、江戸の知人に景大人の噂を伝えてくれるよう頼んでおいたが、有力な情報は得られていない。
 同じ頃、その太田宿を氷雨雹刃が高台から見下ろしていた。ドウランと付け髭、付け毛を落として顔を拭うと、苦々しい表情が露になる。内心で舌打ちし、彼はその場を後にする。
 林潤花は野盗討伐に華僑自警団を動かそうと試みたが、失敗に終わったようだ。自警団は華僑の生命と財産を守るために城から集団での自衛権を認められて作られた組織。団員もそれぞれに職を持つ者達で、戦闘を目的とした集団でもない。
 金井宿の屋敷では景讃繁が頭を悩ませていた。
「何とも弱ったねえ、賈(ジャー)」
「と、仰いますと大人」
 賈と呼ばれた男が問い返すと老人は悲しげに首を振った。
「地頭の松本という男なら組し易く、我々も利権に食い込み易い。しかしここまで問題続きではねぇ」
 清は地元への影響力に利用価値を見た源徳が地頭へ据えた傀儡地頭だ。失政が続いて清に利用価値がなくなれば、由良も源徳の介入を防ぎきれまい。源徳が直接治めるなら、華僑も美味い汁を吸い辛くなる。
「そのことですが、大人。どうも城の足を引っ張っておる輩がいるとかいう話ですな」
「由々しき問題だ。このまま野放しにする訳にはいくまい」
「ええ、大人。いずれ」



おまけ
「小姐がいながら、このケダモノは‥‥調教決定」
 シェリルの横で鼻の下を伸ばしっきりだった清だが、あえなく街中で香佑花に発見される羽目になり、こうして恒例のお仕置きタイムを迎えていた。今日は趣向を変えて、誰もいなくなったサウティの剣術道場、というか剣術道場予定地の空き地にて行われた。
「ほら清、ちょっと腕がなまったんじゃねえか?」
 無尽蔵の体力を誇るサウティの剣の相手につき合わされ、既に虫の息。サウティは一頻りしごき抜くとすっきりした顔で帰っていった。
 へろへろの足取りで清がその場へ膝を付く。そこを香佑花の鞭がひっぱたいた。
「仮にも城主をお仕置きするなんて、まるで影の支配者みたい?」
 たぶんその通りです。