【金山迷動】 街トカ造りますが何か?

■シリーズシナリオ


担当:小沢田コミアキ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:1 G 23 C

参加人数:10人

サポート参加人数:4人

冒険期間:11月27日〜12月11日

リプレイ公開日:2006年12月05日

●オープニング

 動き出した上州情勢は一気に決着を迎えようとしている。

 越後の竜、上杉謙信が遂に打倒新田に名乗りを挙げたのが先月初めのこと。これまで資金不足と諸侯の不和で義貞を討てずにいた源徳もこれに呼応し、情勢は急変した。
 上野の南にひっそりと領地を構えるここ金山も、この濁流にいやおうなく飲み込まれていこうとしている。

 越後を発った上杉謙信の一〇〇〇は三国峠を越えて支城・砦を平らげながら上州北部の要、真田の牙城沼田城に迫る。同時に中山道を確保した源徳も、上州の乱の本丸である義貞の居城・南の蒼海城攻略へ家康自ら三千の兵を率いて乗り出した。
 対する新田勢は北の沼田城へ後詰を送ると共に、義貞自ら蒼海城を出て南の源徳平井城へ出陣する。
 北は真田八〇〇対上杉一〇〇〇、南は源徳三〇〇〇対新田一五〇〇。ここに来て上州戦は、南北で両雄激突の様相を呈した。総勢5千を超える、両軍主力が激突する百年来の大戦だ。

 北の沼田と南の平井。どちらか一方でも落ちれば、新田義貞の本拠、前橋の蒼海城の陥落は必至。だが沼田城では真田忍軍が、平井城では英雄新田義貞と名将真田昌幸・幸村が源徳上杉を苦しめる。
 そんな中、源徳より出兵を請われて甲府を発った武田信玄が、諏訪から進路を一転させて南下したとの報が上州へもたらされた。
 年明けを前に決着は必至の上州だが、この信玄の不可解な動きは一体何を意味するのか――。


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C:松本清、上州に立つ!
 清の手により新田方から取り戻されたかに見えた金山の街だが、その実情はかなり厳しい。
 疲弊した清の手勢に代わり、源徳は兵500を金山の城へ差し向けた。事実上、城は源徳に横から浚われたのだ。辛うじて清の腹心である由良具滋が立ち回り、清へ地頭の役職を据えることに成功した。
 金山では、傀儡の地頭である清のもとで遂に新しい街作りがスタートしたのだ。

 しかしこの松本清。
 数々の武勇伝を残し遂には難攻不落の金山城を落とした英雄のはずなのだが、その実態はただのヘタレ。冒険者達に苛められながらも神輿兼使いっ走りとして日々慌しく街作りに従事している。
「うへへへ‥‥村祭りだっぜ!」
 キヨシの手によって復興がなされたキヨシ村(金井宿)は今秋初の村祭りを迎える。清も当然参加し、神輿に乗って祭りを盛り上げる予定となっている。
「よっし。俺の力で祭りを盛り上げてやるっぜ!」


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D:由良具滋は静やかに考える
 金山城の実質的指導者は清の腹心である由良具滋という男だ。
 元新田重臣でありながら義貞の謀叛を諌めて家中を追われ、金山の民を護持するため今は清の元へ身を寄せる異色の経歴を持つ男だ。彼が源徳との間に立ち回り、この金山の主権を辛うじて留めている。
 太田の実権を握る源徳。そして連合を束ねる張子の虎、清。両者の間に渡された架橋は、たちまち踏み外してしまいそうに危うく細い。
(「現段階では我らが動く足場すら固まってははおらぬ。まずは力を蓄えねば‥‥」)
 金山政策の目玉として施行された楽市楽座を成功させるためには、まだ多くの問題を解決せねばならない。

○金山城参戦
 上州の乱鎮圧に動いた源徳は、本腰を入れての上州征伐に乗り出した。ここ金山にも有事の際の後詰の要請が届き、城はこれを承諾。軍備再編に動いた。
 だが清直属の金山正規兵は百足らず。後詰の兵を送らば城の守りに割ける兵力は皆無だ。まだ要請こそ来ていないが、義貞と真田親子を相手取った平井城での戦いが劣勢に陥れば直ちに後詰を送らねばならない。けして多くない資金で兵の確保と維持を行う必要がある。上州戦の流れを読み切り、どれだけの軍備を増強するか、その決定を下さねばならない。

○キヨシ村祭
 金井宿の祭りは新地頭の手による催し。城の威信にかけても失敗は許されない。定例市に時期をあわせて開催される祭りの期間中は多くの人出も見込まれる。
 また特に多くの人で賑わうであろう4箇所の区画は城との契約により華僑の手に渡ったせいもあり、祭りの利権には華僑が大きく食い込んでいる。そのため警備も華人自警団が一手に引き受けると主張しているが、特に太田の民を中心とする反華人派の反対も根強い。祭りの期間中に問題が起きないよう、祭りを成功させねばならない。


 現時点で重大な問題が上記の点。
 更に、清の結婚問題や、キヨシ村の開発、更には華人流入によるトラブルも予想される。
 これらを処理する資金である金山城の金蔵はまだ余裕があるとは言い難い。金山の商人への税免除により税収も大幅に落ち込むだろう。そして城内の勢力も一枚岩とは言いがたい現状。この厳しい状況の中で、源徳からの外圧を避けて金山の主権を確保せねばならない。
「金山七千の民を生かすも殺すもすべて我らの胸先三寸。その重い責を自覚し、皆でこの金山の発展に尽力しようぞ」

●今回の参加者

 ea0270 風羽 真(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0452 伊珪 小弥太(29歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea6381 久方 歳三(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8432 香月 八雲(31歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 eb0576 サウティ・マウンド(59歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb0579 戸来朱 香佑花(21歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb1555 所所楽 林檎(30歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb3701 上杉 藤政(26歳・♂・陰陽師・パラ・ジャパン)
 eb3751 アルスダルト・リーゼンベルツ(62歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb3773 鬼切 七十郎(43歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

チェムザ・オルムガ(ea8568)/ キルト・マーガッヅ(eb1118)/ 八城 兵衛(eb2196)/ 酌喇 紅玉(eb3479

●リプレイ本文

「押忍! 京の五条の乱より久方歳三(ea6381)、ただいま帰参したでござる!」
「久方よ、大儀であった!」
 義侠塾分校舎では惨号生に進級した久方が京の政変の様子を塾長へ報告し終えると、同輩たちの待つ宿へと向かう。
「京都から帰って来たでござるが、今回は悪鬼殺済でござるか? ‥うむ、いかが致そうか‥‥?」
「無事惨号生に進級もできたし、晴れて休みも貰った訳だが‥‥貧乏性なのかねぇ? どうも何かしら動いてねぇと落ちつかねぇな」
「確かに俺達義侠塾は野盗騒ぎでも頑張った。その疲れを癒す為の悪鬼殺済、っつーのもわかった。塾長の気持ちも有難く受け取ったぜ」
 塾生にとってはたまの休みだ。だが風羽真(ea0270)は久しぶりの休暇を持て余している様子だ。でもな、と伊珪小弥太(ea0452)。
「それに甘んじちゃあ義侠がすたるってもんよ。塾が悪鬼殺済に入るんなら、どうせなら新たな鍛錬となる何かを探しに近辺を探検してもいーよな? これが俺の悪鬼殺済っつーことで」
 伊珪は金山探検だと息巻いているが、昨年から大事件に教練にと忙しかった真は羽根を伸ばすつもりのようだ。
「‥‥ま、丁度祭だ。そこらを適当にブラついてりゃ何かしらあるだろ」
 久方もまた得意技の駄岩と破岩で障害物を破壊しながら久方はキヨシ村へと向かっていった。
(「‥黒夜叉が現れなければ良いでござるが‥‥」)
 金井宿の祭りを前に金山全体が賑わいを見せている。
 だが太田検察官の鬼切七十郎(eb3773)にとっては気の抜けない数日間になるだろう。祭りの陰で悪さをする連中は厳として取り締まらねばならない。
「なんだかクライムシティの感じがしてきたのぅ。大陸系のマフィアじゃろか? どのみち祭りになれば、いろんなヤツが金山に入ってくる。ま〜一番は犯罪者じゃろ」
 上杉藤政(eb3701)も鬼切に協力するとのことで、人手の面では問題はなさそうだ。
「村祭りの警備に関して民のために尽くしたい。鬼切殿を全力でサポートする所存だ」
 城では来る上州征伐に向けての動きがとられている。
「こら、清!逃げるな!」
 戸来朱香佑花(eb0579)が清を追いかけるいつもの風景。緊迫化した情勢故に清への護衛をつけようとしているのだが、当の清は嫌がって逃げ出そうとしているようだ。
「やだやだやだっぜ〜!シェリルちゃんと二人きりのデートをするんだっぜ〜」
「以前、刺客が枕元まで現れた恐怖を忘れたの?」
 そんな騒がしい二人を他所に、執務室ではアルスダルト・リーゼンベルツ(eb3751)が由良と軍備の規模について話し合いを持っている。
「派兵は百が妥当かと考える。太田自警団も従軍させるべきぢゃな」
「自警団は既に私の手を離れて太田の民で運営されている。野盗討伐の時のように志願を募るのはできようが、強制的に徴兵するのは賛成しかねる」
 派兵へ向けての軍の再編の他、希望者を城の役職に付けられるよう登用制度を整えたりと片付けねばならぬ議題も多い。
「兵力増強案は徴兵と傭兵の二段構えがよいぢゃろうな」
 領民に対し15歳以上の男子を徴兵対象とし、応じた者には一人に1段半の土地を与える。また有事の際に城の防衛に貢献し、成果が認められた者には女子供と言えど報奨金を出す。
 現時点で金山が戦場となる可能性は低く、防衛の報奨の予算は低くて済む。また徴兵で与えた土地を開墾させて農地拡大に繋げられれば増収も見込める。
「金山を自分達の守るべき土地と認識させ、郷土愛を植えつけることもできるという訳ぢゃ」
「妥当な案だ。問題は兵数と兵の練度か」
 すぐに城下へ触れが出され、広く兵が募られた。
 志願兵へは香佑花の案でサウティ・マウンド(eb0576)の道場へと送られ、練兵が行われることとなった。
「農民は鍬を持つ手を得物にとっ換えるだけだ。町人もこの俺が鍛えりゃ何とかものにはなる。腕に覚えがあっても食い扶持がない面子ももちろん歓迎だぜ!」
 集まった兵士の能力を検分した上ですぐに武器を与え、すぐに扱いを叩き込む。
「気合入れて覚えろよ! 此処で強くなれば自警団や城で小隊長ぐらい出来るように成れるかも知れねぇしな」
「まずは予備役として組み込むから。その間の『食・住』も保障する」
 格安とはいえ道場への必要資金で城の財政にまた負担をかけることとなったが、これで最低限の修練は積めた筈だ。ただし小規模かつ基礎的な練兵でしかないため、このまま前線に出るのは不十分ではある。今後の課題だろう。
「見込みのある者は正規軍への編入して仕官の道も開けるから。ただし適正のない者は除隊して貰うから精進するように」
 ゆくゆくは正規軍から選出した者達で『松本清親衛隊(仮名)』として親衛隊を結成するといのが香佑花の考えだ。
「由良のおぢさん、いつか親衛隊で傭兵団でも作って魔物とか野盗退治の専門家として売り出してみたいね」
「ははは。そこまで兵が育てば文句もないが、民草を鍛えあげるのは並大抵ではなかろう。腰を据えてとりかかることだ」


 一方、こちらは金井宿。
 おめかしした香月八雲(ea8432)は、城まで由良を訪ねて竹之屋オープンへ招待してきた帰りだ。多忙な由良本人には会えなかったが、それでも言伝はきちんと頼めたようだ。
「緊張しましたよ‥‥!」
 診療所の前を通り過ぎるが、今日は随分と静かだ。
「‥‥‥‥‥‥。」
 薬草園造園に意欲を燃やしていた所所楽林檎(eb1555)は挫折を味わっていた。
 先月の課題の確認も兼ねて今月も講義を持ったのだが、村人が誰一人として姿を見せないのだ。診療所からは医師が各家を訪問しての健康診断を行ったが反応は芳しくない。
「私は空間明衣だ。医師だが、元々は流れ者の身だからな偉い人ではないのでよろしく頼むよ」
「ああ、よろしくな。でも今は祭りの前で忙しいから後にしてくれねえかな」
 村総出で祭りの成功に向けて一丸となっている今、村人の中には彼らを露骨に煙たがる者もいるくらいだ。空間の案で入り口の扉を開け放って親しみ易い診療所をとも考えのだが。せっかく用意した茶や茶菓子も無駄になってしまった。生徒の不満をくみ上げる役目を任されていた酌喇紅玉もまったくやることがなく所在なさそうにしている。
 落胆を隠せない林檎へ、キルト・マーガッヅが心配そうに声をかけた。
「挫けずに頑張って下さいませね‥‥」
 土地に住む者達には、彼らの生活がある。
 来たる村祭りもそうした彼らの大事な生活の一部だ。それを考えずに自分たちだけの都合で動いても誰もついて来る筈がない。
 七神斗織(ea3225)はお目付け役の火射半十郎を同伴でやってきている。村の子供達も皆、祭りのことで頭が一杯の様子で、愛犬の次郎丸も今日は寂しそうにしている。斗織が少し残念そうに呟いた。
「ぺっとこんくーる、次郎丸と出てみたかった気もしますがやはりお仕事を優先させませんとね。といっても、こう誰も集まらないのでは困りましたけれども」
「まぁ子供は外で駆けずり回って怪我しても唾付けて治すくらいが丁度良いのだがな。だがまったく顔をみせてくれないというのも寂しいな」
「猛省せねばなりませんね。今日のことは教訓として肝に銘じ、今は私達だけでも開園にむけて出来る限りのことは致しましょう」
 たとえば、井戸掘りを祭りの催しの一環として寄り合いで提案するなど、やり方はまだあった筈だ。そのことを強く自戒しながらも、ひとまず今いる人員だけ事に当たらねばならない。
「力仕事なら任せとけっ!掘って掘って掘りまくるぜ!」
 男手が不足しはしたが、サウティも助太刀に駆けつけて作業は進められた。
「そのかわり道場で怪我した奴がいたら治療は頼むぜ」
 菊川旭ら冒険者仲間や、斗織の愛馬茶々丸の力を駆りながら、足場の組み立て、それから掘削の作業が進められた。
「水は命の源‥‥気を抜かずに進めなければ。天が授ける命の助けになる、水ですから‥‥」


 軍備は滞りなく進められた。
 徴兵では祭りの期間だけで兵50の志願があった。装備は一定基準に満たない者へは城で貸与することとなり、金山商人を通じて買い入れを行った。
「拙者の名はは鷲落大光と申す。此度の戦に力添えしたいと思い馳せ参じた」
(「戦場で立てた功はそう邪険には扱えないだろうからな‥‥物のついでだがこの戦、利用させてもらうとするか」)
 先日の討伐に兵を率いて参加した鷲落も名乗りを上げた。ちょうど由良と登用制度の見直しについて話し合われたこともあり、先の武功を評価する形で鷲落へは十の兵を束ねる足軽頭として取り立てられた。兵力は依然として不足していたがこれには傭兵を当てることで乗り切った。
 だが情勢はここで再び急変を見せる。
「アルスダルト老、どうやら後詰の話は年明けまで延びることになりそうだ」
 源徳は平井城攻略に苦戦していたが、街道を確保しており、乱は年明けを待たずに鎮圧されるものと当初は見られていた。だが京で政変があり、長州反乱の急報を受けた家康が兵を引いたのだ。
 再度の決戦は少なくとも雪解けの三月までは起こらないだろう。今にして思えば、武田信玄が源徳の誘いを拒んで三河へのぼったのもその兆候だったようだ。
 徴兵した戦力は城の防衛へ回し、後詰には即戦力であり使い捨てでもある傭兵を当てる軍略を取ったため、城は思わぬ出費を強いられることとなった。源徳からの臨戦態勢の解除の通達が来るまでの間、傭兵を囲いいれているのに費やした資金はまったくの無駄となってしまったのだ。
「京で動きがあればこうなることも考えられたぢゃろうに、そこまでは読みきれなんだ。まったく、上州情勢にはほとほと手を焼かされるわい」
 そうした情勢の変化はあったものの、野盗という外患が取り除かれたことで内政は充実の兆しを見せている。
 経済建て直しに必要なのは何をおいても外貨の獲得。それは城の掲げた楽市楽座政策の狙いにも通じる。先ごろ職人ギルドを創設したシャーリー・ザイオンが金山の名品作りに取り組んでいる他、金井宿には天山万齢の主導でキヨシ城目当ての観光客向けとした金山の総合案内所が地域発展の拠点として作られる見込みだ。
 あれから駅馬車が襲われることもなく、江戸との物流は正常化を果たした。後は治安を高めて行商の流入を促進すれば、新生金山の目玉政策である楽市楽座の成功も現実味を帯びてくる。
 そのためには、いまだ金山の闇に消えたままの凶悪犯、黒夜叉の事件解決は今後避けては通れぬ道となるであろう。その黒夜叉事件の当事者ともいえる太田自警団からは聰暁竜が由良を訪ねてやってきている。
「自警団では幹部不在時に現場で判断が取れるよう、新たに副長の役職を作ることとした。了解願いたい」
「太田の自警団は城の主導で創設されはしたが、今は完全に民の手で運営される組織。団員で決めたことに我らが口を出すことはない」
 そこまでいうと由良はしっかりと聰の目を見据えて見せた。
「午前試合での働きはこの目でしかと見た。期待している。共に金山の七千の民に報いるよう、勤めて参ろう」
 その頃清はというと。
「頭たるもの日々の鍛錬を怠ってはならねぇ!まずは腕立て100回から!」
 サウティの道場で久々の地獄の特訓の最中だ。
 一般の練習生が帰った後の道場では人払いが敷かれ、いぢめられ‥‥もとい修行させられていた。
「終わったら腹筋100回、背筋100回、道場の周りを30週!」
「無理、無理! カンベンするんだっぜーーーーー!!!」
「あ、バカ!逃げんじゃねえ!!」
 さて、金山探検に出かけた伊珪はというと。
「いやー、歩いた歩いた。足が棒みたいにこちこちだぜー」
 地元の神社や年寄りから郷土史を教わって史跡などを訪ねて、山野へ分け入り夜は野宿しながらで随分と金山を歩き回っていた。
「ついでに俺自身のさばいばるの鍛錬にもなったしな、一石二鳥ってもんよ。かーっ、俺ってば真面目だぜ」
 額をぱしっと叩いて自画自賛。
 一頻り気の済むまで歩き回ると、満足して伊珪は帰路へとついた。
 再び診療所。
 結局、祭りの期間中は村人の協力を得ることはできなかったが、それでも診療所員達はめげずに業務にと励んだ。
「往診票と日誌の作成は終わったぞ。ゆくゆくは健康的な生活を行う為に役立つ生活の仕方を伝えるようにしたい。その為の下準備だな」
「賈さんに頼んで華国の漢方薬の書物を借りてきまいたわ。大急ぎで写本をしてしまいましょう」
「教本を増やせますし、なにより学習の手助けにもなります‥知識もなければ‥‥運営は、できません‥」
 残念ながら、人手不足で井戸掘りの作業は遅々として進まなかった。サウティにしろ道場の運営で手一杯で、肝心の男手が少なすぎたのだ。掘削作業も半ばでストップし、まだ水呼びの段階にすら至っていない。水路配置の計画だけ先に済んでしまっている状態だ。来月には水路掘りのために発注した道具が届くというのに、計画は大幅に遅れる見通しである。
 また、今回人手が足りなかったことで育成計画にまで手が回らなかった。元々こちらは村人を当てにしていたため、手痛い遅れとなりそうだ。
「次こそは万事滞りなく致しましょう‥‥あたしも、また成長して戻ってまいりますから‥‥薬草園の運営は、必ず‥自身の言葉を、あたしが偽りにしないために‥‥」


○おまけ
 城の湯殿には清とシェリルの姿。
 清の背中を流すと、シェリルが後ろから清を抱きしめた。
「今回はご苦労さま♪もっと、頑張ってくれるとお姉さんはとっても嬉しいな♪」
 背中越しの感触で鼻の穴を膨らませる清。そこへシェリルが吐息を吹きかける。
「ご褒美は‥‥オ・ト・ナのキスね♪」
「ままままま待ってましたーーーぜっ!」
 と、そこへ。
 突如湯船から飛び出した香佑花が百貫はんま〜で清をなぎ倒した。
「浮気は駄目。小姐に言いつけるから」
「そそそ、それだけはカンベンしてくれだっぜ〜」
 問答無用。
 金鞭を清の首筋目掛けて投げると、巻きついた所を梁にひっかけて思い切り体重を乗せる。首吊り状態になった清ががじたばたと動いて、やがて白目を剥いて気を失った。すかさず香佑花がお湯を引っ掛けると。
「しぇ、しぇしぇしぇりるちゃ〜ん!」
「浮気禁止」
 飛び上がった清へ再び制裁。修羅場は夜中遅くまで続いたという。