【金山迷動】 上野に暮らせば 〜長月
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■シリーズシナリオ
担当:小沢田コミアキ
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや易
成功報酬:4
参加人数:10人
サポート参加人数:7人
冒険期間:09月20日〜09月30日
リプレイ公開日:2006年09月28日
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●オープニング
上野国(こうづけのくに)の南端に位置する、金山。東国屈指の山城である金山城をいただく城下町は、南の登城口である大田口に栄えた大田宿だ。上州の乱の叛主・新田義貞を退けて新しくこの地を治めることとなった地頭の松本清は、次々と新しい政策を取り入れて金山の発展に乗り出した。そんな中、城の西に位置する金井口にかつて栄えた金井宿を復興する計画が持ち上がる。
戦で荒れた田畑を耕し、家屋を再建する。新しい金山の代官、松本清は本気だ。腹心の由良具滋と共に次々と新しい金山の街作りに取り組み始めた清は、自らの名を取ってその村を「豪腕☆キヨシ村」と名づけた――。
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G:豪腕☆キヨシ村へようこそ!
〜主な施設〜
寄合所:
西の村外れ、登城口に程近い所に立つ平屋。
街作り方針や、各種催しの話し合いはここでもたれる。
診療所:
貧しい人を対象とした無料診療所。
現在は人材不足により託児所として活動中。 医師を募集中。
景大人邸宅:
華僑のボスである老人、景讃繁の住む屋敷。屋敷の離れは華僑自警団の詰め所となっている。
新たに金山へ移って商売を始めたいという後進の華国人へ、彼は大きな援助を与えることを約束している。
お宿『歓楽街』:
一軒でも歓楽街を合言葉に、煌びやかな灯りで金井宿の夜を彩る宿。
キヨシ城の受付と物販ブース、義侠塾広報課もある。
遂に待望の寄合所が完成を見て、いまキヨシ村は収穫後の秋祭りへ向けて少しずつ話し合いが持たれている所だ。11月の収穫まだだいぶ時間がある。おいおい具体的な催しなどを決めていけばいいだろう。
さて、もう一つニュースがある。以前に村へ迷い込んだミキというハーフエルフの少女が、そのままキヨシ村へ居ついたのだ。当初は折を見てもとの鬼哭宿という土地へ帰される筈だったが、余程ここが気に入ったと見えていざ帰る時になってぐずり出し、ミキは今、託児所へ預けられている。
「ぅぁー?」
保護者の重一爺さんへも暫くここで暮らすよう話を通して、ミキも村への滞在許可が下りた。新しい住人も加わり、いよいよにぎやかになってきたキヨシ村。
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H:竹之屋豪腕腕盛記♪ 〜長月の献立〜
江戸の下町に軒を構える小さな居酒屋、竹之屋が、遂に金山は豪腕☆キヨシ村に新店舗を出す。庶民の味をモットーに昼はお食事処、夜は居酒屋として江戸の人々に親しまれた竹之屋。その味がこの上州の地でも受け入れられるか、竹之屋の挑戦が始まる。
さて、そんな竹之屋で今日起こります事件とは‥‥。
本店からの暖簾分けで上州進出が決まった竹之屋だが、改装や厨房の増築などの工事は資金難で止まったままだ。
だがそれでもキヨシ村の寄り合いへ仕出しをしたり、仕事終わりの時間帯に合わせて常連向けに店を開けたりと少しずつ営業も始め、村の人々からも親しまれている。後は金策だけ。それも、華僑のボスである景大人からの投資の話が持ち上がり漸く光明が見え始めている。投資は竹之屋の味次第。今月中に景大人は店へ訪れるという。
華僑を束ねる彼なら舌も肥えていることだろう。大人を満足させるには生半には行かぬ。竹之屋金山店が成功するか否か、すべてはこのチャンスにゆだねられたのだ。
●リプレイ本文
「やっぱ慣れねー事はするもんじゃねー」
先月は金策に走り回って散々だった山岡忠臣(ea9861)だが、気を取り直して今日は村の会合に出る所だ。
「お千ちゃん」
と、呼び止めるとどさくさで手を取るのも、もういつものこと。
「‥‥俺ってば肝心な時に側に居られねーけど、お千ちゃんならやってくれるって信じてるぜ」
「はい、山岡さんも頑張って下さいね。今月は華僑の偉い人が見えるそうですし私も頑張らないと」
「どんな偉い人でもお客さんには変わりないアル。特別なことはしないアルよ」
厨房の月陽姫(eb0240)はメニュー開発に忙しい。今日は秋の食材を使ったおつまみの試作が行われている所のようだ。
「山の中ならなんといってもキノコ料理アルな。土地の猟師さんに頼めばキノコや木の実類が手に入らないアルかな」
「木の実といったら、これからの季節は栗なんてどうでしょう!」
「秋の実りアルな。焼いて良し蒸して良し、でも折角手を掛けるなら少し手間をかけた物も作ってみたいアルな」
陽姫が眉を寄せて考え込む。そうやって陽姫が考え込んだ時は、いつも素晴らしい料理を作り出すのだ。その様を遠目に見ていた鷹見沢桐(eb1484)が人知れず頬を緩めた。
店を訪れる景大人は一筋縄ではいかない人物だと聞いているが。
(「竹之屋のごはんが美味いのは間違いない。この勝負、貰ったな」)
桐自身、竹之屋の味に触れてこの店に関わるようになった一人だ。料理を口に運んだ時の大人はどんな顔を見せるだろうか。きっと驚いて目を白黒させるに違いない。そんなことを考えていると、思わずまた頬が緩んでしまう。
と、桐が一人でにやけていると。
「私は景大人さんが来るまで、お店の掃除や整頓をしておきますね! まだ改装途中ですけれど、綺麗にしておくに越した事は無いのです!」
香月八雲がテキパキと仕事を始めると、桐もぼんやりとしはしていられない。両手のひらでぴしゃりと顔を叩いて立ち上がった。
(「油断している場合ではないか。いつも通り、手を抜かずに誠心誠意で対応だ」)
桐達が慌しく支度を始めるとミリフィヲ・ヰリァーヱス(eb0943)ものんびりと店へ顔を出した。
「何か今回は、お偉いさんが来るみたいだねぇ〜〜まぁ、竹之屋は元々『庶民の味』だし、ボクも相手によってホイホイ変えられる程器用じゃないからいつも通りやるだけだけどね」
店の空き時間には朱雲慧(ea7692)が知人に頼んで基本的な礼儀作法の勉強会も行われた。ご近所からはサラン・ヘリオドール(eb2357)もやって来て熱心に教えを受けている。
「なるほどね、両手を胸の前に組んでお辞儀‥‥難しいわね」
「鞠躬(ジュイコン)いうてな、客人を迎え入れるために門を箒で掃き清めることから来とるんやで」
そこでふと、朱は八雲の視線がじっと向いていることに気づいて振り返った。
「どうしたんや、八雲はん」
「えへへ‥‥こうしてると何だか朱さんの事をもっと知る事が出来た気がして」
‥‥教えてもらってる間は一緒に居られますし。
その言葉は顔を赤らめて飲み込むと八雲は照れ隠しに立ち上がった。
「竹之屋は竹之屋らしく、普段通りにやっていきましょう! 孫子もこう仰いました!『最良のやり方とは、普段通りの行動である』と!」
さて村の診療所では。ケイン・クロード(eb0062)が朝から上機嫌だ。
それもそのはず。診療所に待望の医師が訪れたのだ。以前にこの診療所の薬草園の為に動いていた所所楽林檎が戻って来たのだ。
「教えながら自身も成長する事も一つの試練の形だと考えます‥‥まだあたしはこの土地に不慣れですし、教えてください‥‥共に学びあいましょう」
「この街で分かんねーことがあったら何でも聞いてくれよな」
林檎とは駆け出しの頃からの付き合いであるサウティ・マウンドも様子を見に訪れている。江戸からも冒険者仲間が大勢やって来て心強い限りだ。
「助かります、所所楽さん。サランさんの口利きで専門家の方が簡易薬草図鑑の編纂を行ってくださるようですし、早速ですけど薬草園の準備をお願いしますね」
「承知しました。天からの愛‥‥つまり試練を乗り越えるだけでなく、自ら自身に試練を課すこともまた、修行のうちの一つです‥‥それに以前、先を見据えた発言を致しました、それを実現させるためにも」
薬草園はあれから手付かずのまま。整地は子供達の手を借りてでも出来るとはいえ、栽培のために新しい井戸も必要だ。作付けの計画はお手伝いの手を借りて進められたが、肝心の何の苗をどれだけ育てるのかはこれから具体的に決めねばならない。
「周辺の野草の群生分布は以前に作っていた図がありましたね。あれを利用しましょう」
野生品種についてはお手伝いの力を借りて効能別・季節別に目録を作り上げ、滞っていた計画は一息に進められた。
村祭りの準備も順調だ。新築の寄合所ではアトゥイ(eb5055)が華僑の代表の賈を交えて話し合いを持っている。今日は珍しく清も顔を見せた。
「初めましてと言いつつ何か初めて会う気がしねーぜキヨシ!」
「‥‥なんか他人には見えないんっぜ」
なぜか忠臣と意気投合した清。会合は終始和やかなムードで進められた。
「見物客で賑やかにすりゃあ商人達も来やすいってもんだ。そこで美人コンテストやペットコンテストの一つもやりゃあオメー、ぱっつんぱっつんの美人が大挙して来る事請け合いだぜ」
「そ、そそそれは胸が高鳴るっぜ」
「お神輿とか櫓とかも作って立派なお祭りにしたいですわね。清さんにお神輿に乗って頂くとか、櫓の上からお餅を撒くとか出来たら素敵ですわ☆」」
金はないが村人とやる気だけはいくらでも用意できる。これも来月にも村人の手で作ることになるだろう。催しをするなら舞台も用意しなければ。神社も補修し、境内も手入れをして出店をだせば盛り上がりそうだ。
「我々も華僑も費用の幾らかを負担しましょう」
「それは助かりますわ。華僑の方と手を取り合っていければ、とても盛大で賑やかになって楽しいですわね」
そうして数日が過ぎ。
「ここが竹之屋かね。なるほど、なかなか活気のある店のようだ」
ある日の昼、数人の護衛を伴って景大人が店へ姿を現した。
「歓迎光臨!」
八雲が元気に華国語で呼びかけると朱も威勢良く挨拶する。桐がたどたどしいながらも華国語で席へ案内する。献立表には今月から華国語の表記も付け足されて準備は万端だ。
『ご注文は?』
「そうだね、近頃では秋の気配も濃くなってきた。旬の物を使った料理はあるかね?」
それを聞きつけて厨房からフィヲが顔を出した。
「Herzlich willkommen! それなら新作メニューをオススメするよ♪」
長月の献立〜秋の足音晩酌セット
キノコの朴葉焼き:
金山で採れた旬の茸を朴葉でくるんで焼き上げました。
朴葉の香りも香ばしい茸を、これまた香ばしい胡桃味噌でご賞味下さい。
栗と鶏肉の煮物:
剥き栗と里芋、鶏の手羽先をじっくり手間ひまかけて煮込みました。
秘伝の出汁がじっくり染みこんでうまみを閉じ込めました。竹之屋の味をお楽しみ下さい。
こんにゃくの肉詰め蒟蒻:
三角に切った蒟蒻の中には猪豚挽肉がたっぷり。隠し味の七味がピリリと辛い。
ソースは鶏がらの華国風のほか、和風味噌、洋風ブイヨンの三種をお好みでどうぞ。
「金山の牛蒡と蒟蒻に猪豚を使ってみたよ。ソースは煮汁にとろみをつけて作ってみたんだ♪ 牛蒡と人参で揚げ物も作りたかったんだけど、油は高価だからねえ。一品料理だとちょっと割高になっちゃうもんね」
大人は食材についてフィヲや桐が説明するのへ熱心に耳を傾けている。
ふと八雲が、机の傍に護衛が立ったままなのに気づいてお盆を持ってやってきた。
「竹之屋の暖簾を潜ったからにはお客様です! 何か美味しいものを食べて、幸せな気分になってもらわないとです!」
寄合の帰りにアトゥイが持ち寄ったチマキだ。そうする内に昼食時を迎えてシャーリー・ザイオン(eb1148)や天山万齢(eb1540)も暖簾を潜り、店内も賑わってきた。桐が慌てて席へ案内する。
「申し訳ないが大人、込み合ってきたので相席をお願いしたい」
振り返るとサランが立っている。両手を組んで優雅にお辞儀の姿勢を取ると、大人は目を見開いて感嘆を漏らした。サランが手を差し出す。
『踊り子のサランよ。初めまして、景大人』
「これは異国のお嬢さん。こんな綺麗なお嬢さんとお近づきになれて光栄だよ」
「寄り合いの建設に協力して下さった事にお礼を言うわ。とても和気藹々としていて、この先も希望が持てたわ。金山には沢山の問題があるけれど、『協力し合って行ければ』大丈夫ね」
サランが何かいいたげなのに気づいて大人は黙って促した。
「華僑の方は商売が上手だとお聞きしているわ。本当に上手な商人さんは決して敵を作らないそうね。目先の利益に捕らわれないのはとても難しいのに素晴らしいわ。城の方とも問題があるようだけれど、金山の為に景大人なら上手く纏めて下さるわね。」
「日計不足、歳計有餘――目先の利得に囚われず長い目で物事を見れば必ず利がある。なるほど、お若いのに道理を知っているようだ。今日はいい勉強をさせて貰った。話を聞こう。私に頼みがあるのだろう?」
その大人の様子へサランは苦笑しながら続けた。
「お見通しなのね。ええ、一つ大事なお願いがあるの。とても大切なお願いよ。私と、友達になってもらえますか?」
サランがにこりと笑顔を見せると、大人は愉快そうな笑い声を上げた。
「君子贈人以言、庶人贈人以財。私としたことがこれは一本取られたようだ」
「それはどういう意味なのかしら?」
「今日は存外に楽しい時間を過ごせたよ。異国のお嬢さん。何か困ったことがあれば私を訪ねなさい」
「お帰りですか大人?」
「なかなか楽しませて貰った。だが、まだ肝心の店主の腕を見せて貰っていないね」
大人が厨房の朱を振り返った。だが開店準備に忙しかった朱は料理開発に割く時間を持てかった。店員の皆が不安げに朱へ視線を向ける。
朱は小鉢を差し出した。
「雁擬きや」
土地の水を使った豆腐に、金山名産の大和芋を使った一品だ。黄金色の雁擬きへ老人が箸をいれる。
「ほう、これは。味付けは醤油か。揚げ加減も申し分ない。この椎茸や牛蒡は金山で採れた物かな。土地の味もよく息づいている」
大人は思いのほか満足そうだ。ふらりと店を訪れた知己の料理人が残していった献立だ。
(「海腹のオッサン、助かったで」)
朱が胸を撫で下ろしていると、大人は漸く満足して席を立った。
「よい腕をしているし、何より居心地がよい。このような店がこの村にあることは喜ばしいことだ。よろしい、最大限の援助を約束しよう」
「ありがとうございます!」
こうして大人は店を後にした。
その背が遠く見えなくなる頃、店の皆には内緒で朱が大人の後を追いかけて呼び止めた。
「竹之屋を訪ねてくれておおきにや」
「なに、後進の手助けをするのは同じ華人として当然のことだよ朱君」
「ワイ達は竹之屋を通して人の和を繋げて行く‥‥そこに身分も人種も生い立ちも関係あらへん」
青臭いかも知れへんけどな。そういって朱は照れ笑いを浮かべた。大人も満足げな笑顔だ。
「また寄らせて貰うよ。次はどんな味に出会えるか、楽しみにしておこう」
そうして大人を見送り、朱が店へ引き返そうとした時だ。
「朱さん」
「八雲はん」
八雲がきょろきょろと辺りを窺った。朱が不思議そうな顔をしたその時。八雲が朱の胸へ頭をとんと預けたかと思うと、両手を回して抱きついた。
「や、八雲はん‥」
「忙しくてなかなかゆっくり会えなかったですから! 不足気味だった朱さん分を補給しておくのです」
大照れになって言う八雲がただ愛おしくて、朱はがっしりとその肩を掻き抱いた。
いつの間にか風が冷たい。二人の体温を確かめ合うと、その余韻をかみ締めるように二人は自然と手を繋ぎ、っして笑いあった。
「戻ろう、八雲はん」
「はい、朱さん」