【求めしもの】潜む闇。
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■シリーズシナリオ
担当:蓮華・水無月
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:04月04日〜04月09日
リプレイ公開日:2009年04月12日
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●オープニング
冒険者達の資料調査によって浮上してきた名前、アランドール・ビートリッヒ。ある書物では賢者と呼ばれ、また別の伝承では常に戯言を吐くペテン師であったと言われる。
アランドール・ビートリッヒの伝承が残っているのは、一番古いもので50年ほど前。ある日、精霊の友と名乗る男が現れ、持っていた薬草を分け与えて病に苦しむ人々を救った、と伝えられている。あくまで伝承なので、どんな病で、どんな薬草を与えたのかは委細不明。ちなみにこの当時でアランドールは30代頃と推測される。
一方で彼は、海を渡っていけば別の国があるとか、空に居る陽精霊は丸い姿をしているとか、誰が聞いても嘘だと判るような嘘を平然と吐くペテン師としても伝えられている。天界にもカオスの魔物は居る、と言ったのもこの頃だ。
アランドールがその後どうなったのか、確かな事は書物では伝わっていない。だが推測するならば
「『変わり者の爺さん』として余生を過ごしたのかもしれないねぇ。冒険者が聞き込んできた北の街道筋の町に住んでいた『変わり者の爺さん』の年齢と、住んでいた年代を考えると、辻褄が合ってしまうし」
「まるで合わねぇ方が良いみたいな言い草だな、ブレン」
報告書に目を落としたまま面白そうに言ったエルブレン・ラベルに、一応部下であるグウェイン・レギンスは半眼でそう返した。上司と部下であると言う以前に、元冒険者仲間、そして友人でもある彼らの間には遠慮がない。
冷たいツッコミに「まさか」と微笑を返し、エルブレンは顔を上げた。
「順調に事が進んでいるようで何より、と言う意味さ。いつまでも村人を帰宅禁止にしておく訳にもいかないしね。この調子で期待しているよ、グウェイン」
調子の良い上司の言葉に、グウェインは顔を顰める。もちろん、魔物に襲われて以来帰宅を禁じられている(実際にはすでに帰っているものも居るが)村人達を、一刻も早く家に返してやりたい、とは思う。思っているが、調子良い事言ってるならテメェもちょっとは動けよコラ、とか思ったりもする訳だ。
その内心を見透かしたように、エルブレンはニッコリと意地悪く笑った。
「おや、では私が調べてきた情報は要らなかったかな。問題の村から西にずっと行った所に、近隣の住民には『賢者の墓』と呼ばれている遺跡があるらしいんだが」
「‥‥マジでかッ!?」
「お前に嘘をついてどうする? もっとも、あまり知られていないようだがね」
エルブレンは軽く肩をすくめ、両手を組んだ上に顎を乗せて、前に立つグウェインを見上げた。
「実際に墓なのかどうかは不明だがね、そう呼ばれているからには何らかの根拠はあるんだろう。財宝が隠された、という話もあるようだ。グウェイン、ちょっと行って見てきたらどうだ?」
「‥‥‥ブレン。その話の裏を今すぐ全部吐いてみろ?」
「その遺跡周辺でこの頃、巨大なコウモリやらハエやら、中には魔物らしき姿なんかも見た、と言う話があってねぇ。襲われて怪我をしたり、病気になった人も居るらしい。グウェイン、ついでだから退治て来てくれないか」
それ、どう考えても魔物退治の方が本命だろう。
グウェインはそう思ったが、唇の端を引きつらせるだけに留めておいた。魔物に襲われて困っている人間が居るのなら、助けなければならないのだし。どちらもやらなければいけないのなら、どちらが本命になっても同じ事だ。
だから『判ったよ』と肩をすくめて頷いたグウェインに、エルブレンはニッコリ言った。
「頼むよ。御礼と言ってはなんだが、昔なじみのよしみだ、妹さんを宥めてやろうか? グウェイン、まだ喧嘩中だろう?」
「ほっとけバカヤローッ!!」
泣きながら走り去ったグウェイン・レギンスと妹の間に何があったのか、それは『鍵』捜索とは何の関係もない物語である。
「さ〜って、ここには『鍵』とやらはあるのかしらねぇ♪」
『賢者の墓』と近隣住民に呼ばれる遺跡、その前で楽しそうに腕を組む女の姿があった。
「さぁあんた達、目ぼしいモンをキリキリ探しなさい! この屍も具合が良くて気に入ったし、あたしは今とぉっても機嫌が良いから、多少の失敗はぶん殴るだけで許してあげるわよ?」
まるで衣服を自慢するようにたった今殺して手に入れた女の屍でくるりと回って見せた魔物に、恭順の意を示して魔物達は続々と遺跡の中へ姿を消していった。
●リプレイ本文
賢者の墓。周辺住民にそう呼ばれる遺跡は、フロートシップで辿り着いた最寄の村からさらに半日ほどの場所にある。
遠くから遺跡を視認したリオン・ラーディナス(ea1458)は、ギルドからの前情報を反芻してちょっと怯えた顔になった。
「お墓‥‥オバケとか、出ないよね?」
「オバケ‥‥って確か天界の魔物だっけ?」
聞いたグウェインが頭の中の知識を総動員しながら首をひねった。アトランティスには本来、魂という概念はない。故に魂がこの世に残ると言う概念もなく、オバケ、いわゆるレイスも存在しない。
そんな豆知識はともかく、ディテクトアンデットで辺りを探った晃塁郁(ec4371)が仲間に、まだ遺跡から遠いこの地点でもすでに幾つか魔物の反応がある事を仲間に知らせる。
「この反応、覚えがあります」
「目撃されたのは巨大コウモリやらハエやら‥‥ですか魔物ですね。明らかに」
「やれやれ、よーやっと俺向きな依頼になったな」
シャルロット・プラン(eb4219)が真剣な顔で相槌を打てば、逆にどこか嬉しそうな様子でシン・ウィンドフェザー(ea1819)。この所、情報収集やらスポーツやらで腕をもてあましていた様だ。
厳しい眼差しで同じく遺跡を見つめていたオルステッド・ブライオン(ea2449)が呟いた。
「‥‥まずは遺跡周辺の探索、確認からだな‥‥村でも、魔物が見られる、以上の詳しい事は判らなかった‥‥」
強いて言えばブレンがグウェインに言った通り、病気で寝付いている、と言う人間が多かったか。季節の変わり目、という事を考えればそこまで不自然でもない様に思える。それよりも村人が重要視していたのは、村娘が1人行方不明になった、と言う事実の方だった。
妻アリシア・ルクレチアが再度調べた所、遺跡自体はかなり昔から存在したようで、かつては『月の隠れ家』と呼ばれていたようだ。だがいつの頃からかその遺跡は『賢者の墓』と呼び名を変えた。
それが一体何を意味するのかは、これから調べる事だ。判っているのは今、ここにカオスの魔物が居ると言う事。考えている間にも、ブーン、と低く響く羽音が近付いてくる。
オラース・カノーヴァ(ea3486)がニヤリと笑った。
「あっちこっちで、でかいハエをよく見るな。こういうのが疫病の原因だったりするが」
そんな言葉に頷く者が数名。メンバーの中には以前、背に髑髏を負う巨大な蝿が振り撒く病に苦しむ人々を救いに行った者も居る。その折は露出部を布で覆う、アルコール消毒を行うなどの対策を行ったが、生憎今回は準備がない。
十分に注意を払い、素早く敵を殲滅させる他はないようだ、と武器を構える冒険者達。だが、それは身の安全を保証するものではなかった。
現れた髑髏蝿の群と、それを追うようにしてやってきたオーガの群を、歴戦の冒険者達は素早く、確実に倒して行った。出来るだけ戦闘を避けようと、リオンがオーガを相手に食料や武器はない事を説明して説得を試みたが、彼らは「だが女はここにあると言った!」と信じようとはしなかった。
やむなく実力行使を振るい、倒した数は10数頭。切り捨てられた髑髏蝿の死体が消えた後に残ったそれに、先が思いやられる。
恐らく女、とは村を占拠していた死体を操る魔物、死屍人形遣いの事だろう。考えたくはないが、行方不明の村娘もすでに殺害され、死屍人形遣いの新しい『洋服』になっている可能性がある。
ガグンラーズと辺りの魔物を倒して回っていたシンが戻ってきて、遺跡の様子を仲間に知らせる。見張り役らしい数匹の魔物が入り口付近に配置され、周りには巨大な蛇がのそりと這い回っているとの事。しかも蛇は毒付らしい。
「まぁ何とかなる、か?」
麦酒「エルルーン」を出しながら嘯くシン。入り口に張り付く酒に浸る者は、これで惹き付けてしまえば戦うまでもなく勝利だ。後は巨大毒蛇を退治して回り、他に入り口がないか確かめた上で遺跡に進入、オルステッドが調達した木材で入り口を塞いで挟撃を防ぐ――という手筈。
「鍵を求める魔物集団と鉢合わせと言う可能性も大いにあるか」
遺跡入り口を睨みながら呟くシャルロット、胸の内で思い起こすのは、七つあればどんな願い事でも叶う宝玉――魔王が求めし竜神球が過去あったという昔語り。多分、というか間違いなく関係ないだろうが。
念の為、別の入り口がないか手分けをして確かめる冒険者――だがここでちょっとした事件が起こる。
「オラースさんが戻ってきませんね」
「‥‥‥」
心配そうな塁郁の言葉に、ああやっちゃったんだ、と思った冒険者数名。念の為、今度は全員で遺跡周辺を探した彼らは、案の定、ぐるりと遺跡を回った壁際、彫り込まれた文様とも取れる開口部と、その前に座るオラースのグリフォン・グレコの姿を発見した。むしろグレコのお陰で開口部が見つけられた。
この状況で導き出される結論は少ない。そして多分正解は冒険者の予想通り――オラースはこの開口部より、一足早く遺跡内部に侵入したのだろう。
「まぁ、忠告はしたからな」
ため息混じりにシンが仲間を促した。どうなっているか判らない遺跡内部に、どこに居るかも判らない仲間を追って入る訳にもいかない。こちらはこちらで依頼を果たすべく行動する。それが結果として遺跡の魔物を打ち滅ぼし、仲間を救う事に繋がるかも知れない。
頷き、踵を返したグウェインがふと、ゾクリと背筋を震わせて己の肩を抱いた。
「‥‥何か、寒くね?」
顔色は青く、唇が紫に変色しかかっていた。
遺跡内部、暗闇の中にオラースは居た。
(らくしねぇな)
予想通り、先行潜入した彼はエシュロンを灯りに内部を探索していた。だが、油断していたつもりはないが気付けば踏み出した足は宙を切り、彼の身体は数メートル下に落下していて。さらに何故か受身も取りそこね、したたか全身を打ちつけたのである。
痛む全身を軋ませながら、暗闇の中を起き上がる。身体がまるで自分の物じゃないように鈍い。エシュロンは落とし穴の外に置いてきてしまった様だ。
とにかく灯りを確保しなければ、とランタンに伸ばした手が、咄嗟に感じた気配を受けて七徳の桜花弁を握った。反射的に気配に向かって突き出す。ほのかな光が消え、手の中のアイテムが形を失い。
「ふふっ、いけないボーヤ♪ そんなにオネェサンに会いたかったの?」
スルリ、とオラースの首に柔らかな、冷たい腕が絡みついた。耳元で紡がれた言葉は蠱惑的に甘く、愉悦に満ちている。
それに、悟る。これが件の死屍人形遣いだ。
「お前、いろんなとこで悪さしてるよな」
「アタシはステキな屍と珍しい宝が好きなだけよ?」
「悪趣味だな。そろそろ退場してもらうぜ」
「自信家なのね、ボーヤ。でも――出来るのかしら?」
ふふっ、と笑って女は腕に力を込める。それを振りほどこうとオラースは身を捩る。だが出来ない。驚くほど身体の動きが鈍く、思考に靄がかかったような感覚。
まさか魔法か、と憤る男に女は嗤った。
「ボーヤ、良い事を教えてあげるわ? 病人の居る場所で、みだりに出された食べ物や飲み物を口にするものじゃないわよ?」
それは明確に、悪意を持って吐かれた言葉だ。彼を侮蔑する言葉だ。
ランタンに手を伸ばす事を許されない闇の中、憤る男の耳に魔物の声が響く。
「お前達、綺麗に殺すのよ? このボーヤはアタシのお気に入りなんだから。きっととってもとってもステキな屍になるんだから、無駄に傷をつけたらお仕置きよ!」
途端、闇の中に膨れ上がる明確な殺意に、オラースは乱れる思考をかき集めてニヤリと笑う。自ら手を出そうとしないのは、そこまで侮られているからか。ならば目にもの見せてくれる。ここで死屍人形遣いを引きつけている間に、きっと仲間が『鍵』を手に入れる。
そして、いつ終わるとも知れない手探りの死闘が始まった。
手筈通り、冒険者達は酒に浸る者を戦わずして拘束する事に成功し、見える範囲に居た毒蛇を一掃した。噛まれた毒は即座に解毒剤で回復。
だが、それとは別の問題が冒険者達を襲っていた。真っ先に寒気を訴えたグウェインが、高熱を出してダウン。さらに他の冒険者達も倦怠感や悪寒を覚え始める。
不意に起こった病。これは髑髏蝿の仕業であろう、と症状の酷い者に薬用人参を与えながら塁郁は分析する。そういう彼女自身、身体の芯から沸き起こるような悪寒が間断なく続いている。思い起こせば、フロートシップブンドリ号で村に到着した折に村人に勧められ、井戸水を口にした。あれがすでに病に汚染されていたのか。或いは髑髏蝿の群に襲われた時に?
薬用人参は遅効性で、すぐに病を回復するものではない。やむなくグウェインはオルステッドのペガサス・セントアリシアに村まで運ばせ、入り口の見張り役にペット達を残し、冒険者達はランタンの灯りを手に遺跡の闇の中へと足を踏み入れる。
入り口を塞ぐと、頼れる光源はランタンだけだ。ココホレワンワン対決と称し、シャルロットとリオンがそれぞれの愛犬に何事かを言い含めて合図する。その後を付いて歩きながら、オルステッドはマッピングを行い、塁郁はデティクトアンデッドで魔物の気配を探知し、シンは罠に目を光らせる。が、その誰もが背筋を這い上がってくる悪寒と戦っていた。
遺跡の中は、迷宮というほど複雑ではない。だが幾つもの分かれ道があり、用途の判らない小部屋があり、その何れもが同じような道幅と高さと配置で広がっているとなれば、下手な迷宮よりよほど厄介だ。
とは言え、外周を見た限りではそこまで広い遺跡でもない。これならば何とか今日中に、と思っていた矢先に地下へと下りる階段まで見つけ、正直げんなりする。アトランティスでは穴を掘るのは禁忌とされているから、この遺跡の地下も恐らく自然の空洞を利用したものだろう。そしてそうなると、広さなぞ見当もつかない。
遺跡に住み着いているのだろうか、時折ラージバットやジャイアントラットが現れては襲い掛かってくる。たまにオーガや酒に浸る者も現れて、冒険者の行く手を阻んだ。そのたびに足を止めて応戦するものの、病は着実に彼らから体力と気力を奪っていく。常人ならとっくに倒れている事だろう。
自然、ミスが多くなり、怪我も増える。酷くなればポーション類で癒すものの、病自体が癒える訳ではない。
そうしてどれほど歩いただろうか。
「‥‥この向こうから、魔物の気配が」
息も絶え絶えに、塁郁が一つの扉を指差した。正直、出て来ないなら相手にはしたくない所だ。それだけの体力が残っていない。だが塁郁が注意を促し、冒険者達が足を止めたのは、明らかにその扉の向こうから戦闘音が聞こえてきたからだった。
まさか、と予感を覚え、シンとリオンが扉の向こうの気配を探る。唸る愛犬をシャルロットが諌めた。現在地を記し終えたオルステッドが得物を手にする。
そうして息を呑み、ゆっくりと扉を開いた冒険者達の前に。
「キャアアッ、助けてッ!!」
甲高い悲鳴を上げて1人の娘が飛び出してきた。あどけない表情は恐怖に彩られ、今にも泣き出しそうだ。黒髪に緑の瞳――村で聞いた、居なくなった娘の特徴そのまま。
冒険者達を見つけ、娘は大きく目を見開いた。それからほっとした様に瞳を潤ませ、助けて、ともう一度喘ぎながら彼らに手を伸ばす。
だが険しい表情のシャルロットが、その前に立ちはだかった。手に持つのは大聖水。素早く栓を抜き、パシャリと娘にぶちまける。途端、僅かに娘は顔を顰めた。
「ツ‥‥ッ」
「大聖水で苦しむとは、やはり魔物。以前村長の妻にとりついた魔物は衣装を変える様死体にとりつき意のままに操ったと報告がある。村を襲ったのは貴様だな」
「あら、馬鹿じゃないのね」
シャルロットの言葉に、娘の姿をした魔物は嗤った。それから冒険者達を見渡し、オルステッドの上でほんの少し、面白そうに視線を留めて。
「残念ね。あの小娘の屍なら、ボーヤはもっとステキな表情を見せてくれたかしら?」
「‥‥ッ」
「ま、あんなひねくれた小娘、どうでも良いけど。あんた達、感謝しなさい? アタシは今、とっても機嫌が良いから見逃してあげるわよ♪」
「ふざけるな!」
リオンが厳しい表情で魔物を見た――が、足元は覚束ない。それを気力で補おうとするが、額に浮かぶ脂汗がそれを裏切っている。
ふふっ、と娘は怪しい表情で笑んだ。
「ステキな首飾りは頂いたわ。後の物は要らないからアンタ達に上げても良いわよ? せいぜい口惜しがりなさい♪」
「待て!」
「追いつけるのなら幾らでも? ああそう、アンタ達の仲間のボーヤも居るわよ? 残念だけど、主様がさっさと帰って来いって仰るから、ボーヤの屍はまたの楽しみにしておくわ♪」
それまではせいぜい生きててね、と微笑んで悠然と逃げようとする魔物に追いすがる。だが誰もが病に侵されていて、それを魔物は承知している。病振り撒く蝿を連れてきたのは、他ならぬ魔物だ。
じゃあねー、と村娘の姿で手を振った魔物に、冒険者達は歯軋りをした。
魔物の言葉通り、重傷を負ったオラースは魔物の出てきた部屋の中に居た。傷はリカバリーポーションエクストラで回復出来たものの、同じく病だけは回復する事が出来ず、さらには死屍人形遣いにまんまとしてやられた事に怒り狂っていたのだが。
そこから休み休み、気力を振り絞って遺跡奥まで辿り着いた彼らを待っていたのは、荒らし回られ、目ぼしいものが奪い去られた玄室と思しき部屋。幸いにしてと言うべきか、そこに葬られた遺体はすでに骨に還り、生々しい光景を見ずに済んだ。
残されていた物は殆どない。その僅かに残された物の中に、首を傾げる物があった。
「鱗‥‥?」
オパールのような虹色に輝く、お盆ほどもある巨大な鱗。その傍には古びた、今にも崩れそうな手紙らしき羊皮紙も残されている。
これらが何を意味するのか。奪い去られた首飾りを取り戻す手がかりになりうるか。そうでなかった場合、どうやって奪い返せば良いのか。
発見した品々を大切に布にくるんで持ち帰りながら、病に侵された思考で冒険者達は思いを巡らせていた。