【求めしもの】言葉と想いを届けるもの。

■シリーズシナリオ


担当:蓮華・水無月

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月19日〜04月24日

リプレイ公開日:2009年04月25日

●オープニング

 冒険者達が持ち帰った、巨大な虹色に輝く鱗と手紙。生憎、手紙の方はきちんとした保管をされていた訳でもなく、長年の湿気を吸い込んでかなり読み難いことになっており、解読にはまだ時間が掛かりそうだった。
 だが、巨大な鱗の事は割合早く判明した。まずお盆ほどもある巨大な鱗、となれば竜の類である可能性が高い。その上で、虹色の輝きを持つ竜と言う事になると、該当する竜はただ1種類。
 オパールのような虹色の鱗を持ち、広げた翼の内側は艶のある黒色を持つ、痩身の美しいフォルムの竜――月の高位竜エクリプスドラゴン。
 夜行性で、さらに高山を生息地とするこの竜の事は当然ながら、あまり良く判っていない。ましてその鱗と思われるものが何故、老賢者と呼ばれペテン師とも呼ばれたアランドール・ビートリッヒ縁と思われる『賢者の墓』遺跡に遺されていたのかなど、当人たちに聞いて見なければ判らないだろう。
 当然ながら、亡き老賢者に話を聞く事は叶わない。だがもう一方の当事者、エクリプスドラゴンならば?
 聞く所に寄れば、冒険者ギルドにはこの高位竜に見え、その勇を認められた者が居るという。ならば、同じく高位竜に自身を認めさせる事が出来れば、話を聞きだす事も叶うのではないだろうか。

「‥‥と言うわけなんだが」

 冒険者ギルドの受付カウンターに座り、人の良さそうな笑みを絶やさずそんな事情を語った知人エルブレン・ラベルに、はぁ、と受付嬢ティファレナ・レギンスは曖昧な相槌を打った。元々この依頼を持ち込んだのが彼女の兄グウェインと言う事もあって、すっかり担当係になってしまっている。
 過去の依頼報告書を繰りながら、ティファレナはコクリと首を傾げた。

「ご事情は判りましたけれど――月の高位竜に、何を聞きに行くんですか?」
「何か――としか、今の段階では言い様がないな。首飾りが奪われ、残された手紙の解読は難航。なら判っている手がかりから当たっていくしかない」
「そうでしょうね」

 頷く。エルブレンの言っている事は正しい。何が出てくるか、或いは何も出てこないかは判らないけれど、判らないなりに進まなければ何処へも行けないのだから。
 ティファレナの瞳に浮かんだ理解の色に、だからね、とエルブレンは穏やかな笑みを揺るがさずに組んだ手の上に顎を乗せ、小さな子供に言い聞かせるように言った。

「私が言いたいのはね、ティファレナ。冒険者に、高位竜と何か教えて貰えないか交渉してきてくれないか、と言う事なんだ。過去の依頼ではあちらからお呼びが掛かったようだけれど、今回は押しかけていく訳だからね、竜もはいそうですかと口を開いてはくれないだろう」
「まあ、竜ですからね」
「竜だからね」

 ティファレナは勿論、元冒険者のエルブレンも直接竜を見た事はない。恐らくグウェインとて、冒険者達が連れてきた竜を見た事がある程度だろう。
 それでも、だからこそ彼らは知っている――竜を人と同じ様に考えてはいけない。彼らはアトランティスを遥か昔から見つめてきた種族で、例え人のように思考する事があっても、人と同じ様に考える訳ではない。
 その竜を相手に、一体どんな交渉をすれば良いのか?

「冒険者に期待しているよ。何、苦労って言うのは若い者からすると決まっているものだ」
「‥‥エルブレンさんも十分お若いと思うんですけど」
「引退すると気持ちも年寄りになるのさ。そうそう、グウェインも動けそうかな?」
「はぁ‥‥熱は下がりましたから、行けるんじゃないですか? むしろ止めても行きそうですけれど。て言うか、依頼から帰ってきたと思ったら高熱を出してたり、一体あの兄はどれだけ人に心配させれば気が済むんでしょうね」
「と言う事は、グウェインの事は許してあげたのかな」
「‥‥高熱出してるくせに泣きながら謝られたら、許さないとこっちが悪人だと思うんですが」

 渋面を作ったティファレナの言葉に、ものすごくその場面が想像できたエルブレンは、思わず『お疲れ様』と彼女の苦労をねぎらった。だが多分、熱が下がった途端にグウェインのシスコン馬鹿も復活するだろう。
 その予測があらゆる意味で正しかった事が証明されるのは、彼女の帰宅後の事である。

●今回の参加者

 ea0244 アシュレー・ウォルサム(33歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1819 シン・ウィンドフェザー(40歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea2449 オルステッド・ブライオン(23歳・♂・ファイター・エルフ・フランク王国)
 ea5229 グラン・バク(37歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea5513 アリシア・ルクレチア(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ec4371 晃 塁郁(33歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

レン・ウィンドフェザー(ea4509

●リプレイ本文

 アランドール・ビートリッヒ縁と思われる『賢者の墓』遺跡に残されていた、エクリプスドラゴンのものと思われる虹色の巨大な鱗。その真偽と、叶えば何か知る事はないかを尋ねるべく、用意されたフロートシップにて巨竜の住む西方山脈へと向かった冒険者達。
 だが、相手が相手だからだろうか、フロートシップが西方山脈へと向かって動き出してもなお、彼らの中の意見は纏まっていなかった。

「ひとしきり演奏、音楽で楽しんで頂いてから本題に入った方が良いでしょうか。それとも本題を先に済ませてから楽しんで頂いた方が?」

 アリシア・ルクレチア(ea5513)の言葉に、それぞれの意見を述べる冒険者達。巨竜と交渉するのに楽曲を用いよう、という意見は取りあえず可決を見ている。だが楽曲をどの様に使うのか――即ち、巨竜を呼ぶ為の手段なのか、見えた巨竜との交渉の手段なのか、或いはその両方なのか。それだけでも演奏するタイミングは全く異なってくる。
 過去に2度巨竜と見えているシン・ウィンドフェザー(ea1819)がため息を吐いた。

「‥‥あのドラゴン、好々爺然としながら結構したたかだもんなー。やっぱ、これも年の功って言うのかねー?」
「うーん、高位のドラゴンかあ‥‥会うのは初めてだけど大丈夫かなあ」

 シンの言葉に、どこかのんびりと緊張感のない声で呟くのはアシュレー・ウォルサム(ea0244)。あまりにも高位過ぎて馴染みがなく、逆に緊張感が湧かないようだ。
 どうだろうと首を捻る、シン、オルステッド・ブライオン(ea2449)、グラン・バク(ea5229)の3人。初めての相手だからと無碍にする相手ではない‥‥と思うが、何しろ今回は押しかけて行くのだから、過去の例が参考になるかどうか。
 アシュレーやアリシアと同じく、初めて巨竜と見える晃塁郁(ec4371)が静かな瞳で言葉を紡ぐ。

「私は戦いに強い訳でも口がうまい訳でもありません。ですから、自分にできる形で自分を示し認めてもらう事をお手伝いしようと思います」

 過去、巨竜と戦い勇を認められた者が竜の信頼を勝ち取り、竜の子を託された。同じ様に、巨竜に尋ねる為に冒険者達を認めさせ、その信頼を勝ち取る為に彼女が出来る、精一杯の事を。
 そんな主を励ますように、ミスラのシャラが元気に飛び回っていた。





 ウィル、西方山脈。その麓にある森へと続く草原は、すでに緑眩しい季節を迎えている。そこに到着した冒険者達は、まずはグウェインのマジカルミラージュで来訪を知らせ、許可を得てから巨竜の元へ向かう事にした。
 のだが、しかし。

「反応ない、よな?」

 冒険者を見回して自信なさそうに呟くグウェイン。何しろ竜に馴染みがないので――普通そうそう馴染みはないのだが、とにかくそんな訳で巨竜からの返答を見落としてないか、今一自信がもてないのだ。
 と言って、冒険者もそれほど経験豊富(?)な訳もなく。考え込んだグランが、ポン、と手を叩いた。

「そう言えば巨竜は夜行性だったか‥‥だと『孫が遊びに来たぜ』では駄目か。とりあえずレギンス殿、貴殿の妹への恥ずかしい思いのたけ(深読み禁止)を文字に託すんだ」
「いや、さすがにそれはどうかと」

 すかさず突っ込むアシュレー。と言うかすでに目的が完全に変わってませんか?
 妹を世界の中心の如く溺愛して止まないグウェインも、さすがに冷や汗を一筋垂らす。いや、やれと言われたらやるが。言っとくけど語り出したら3日3晩は覚悟しろよお前ら?
 そんな話はともかく、こうなると取るべき方針はただ一つ、何とかして呼び出すしかない。待っていても下手すれば永遠に巨竜に気付いて貰えない――事はないかも知れないが、数年後にようやく気付いてもらえる、位のタイムラグはあるかも知れない。何しろ相手は永き時を生きる竜、時間の感覚も人とは違うだろう。
 元々、そう簡単に会えるとは思っていなかったシンが、やっぱりこいつの出番か、と荷物の中のハーモニカに意識を向ける。これまでの経験から、アトランティスでは精霊に呼び掛けたり願いをかける際、歌や演奏、それに舞踊を奉じる事が多いようだ。その事を踏まえて、とりあえずは対面してもらえる様、歌や演奏でエクリプスドラゴンの気を惹いてみるしかない――勿論精霊と竜は異なるが、試してみる価値はあるだろう。
 かつて巨竜に呼ばれた時は、黄金竜が取次役として傍に居たが、今回は彼らが何とかするしかない。念の為、グランが預かる月仔竜すえぞうに「おじいちゃんのの住処判るか?」と尋ねてみたが、良く判らないようだ。
 已む無く、経験者が先に立ってかつて巨竜と見えた山頂付近の岩場まで向かう。かなり時期が空いたのでややうろ覚えの所もあったが、そこは地元竜(?)のすえぞうやガグンラーズにまかせ。
 ようやく見覚えのある山頂付近に辿りついた頃には、すっかり暗くなり、月精霊の光が辺りを艶やかに照らし出していた。光届かぬ山道で灯していたランタンを消しても、視界に困る事はない。ある意味予想通り、辺りを見回しても巨竜の姿もない。

「‥‥逆に好都合、か‥‥」

 夜空を見上げたオルステッドが呟いた通り、夜行性の巨竜を呼び出すのに相応しいタイミングで辿り着けた、と言えるだろう。後は、これから奏でる楽を気に入って貰えるかどうか。そして出て来て貰えるかどうか、だ。
 演者は黄龍の龍笛を奏でるアシュレーと、ハーモニカを奏でるシンの2人。それだけでは寂しいので、急遽グランも歌唱能力を活かして貰う事にする。それらの楽に併せ、塁郁が舞踊の代わりの軽業を披露する事にして。
 生憎そう言った方面には明るくない残る3人を観客に、竜の為の舞台は静かに、華やかに幕を空けた。





 ハーモニカとは天界の精緻な技術で作られた楽器だ。多数に開いた穴に息を吹き込んだり、吸い込んだりする事で不思議な音色を響かせる、その楽器を口にあて真剣に奏でるシンの傍では、ガグンラーズとミスラのスコールが合わせる様に合唱らしき音律を奏でる――これまでに築かれた互いの絆の深さを巨竜に伝える意味も込めて。
 そこに絡む音色は、さながら舞い立ち昇る龍の鳴き声を思わせる黄龍の龍笛。まさに竜に捧げるに相応しき笛を奏でるアシュレーに併せて、こちらも月仔竜の月影が宙空を舞うように飛翔する。
 いきなり歌い手に引き込まれたグランも中々の美声を響かせ、夜気を震わせる。その中に混じる、シャラン、という鈴の音。それほどこなれた技ではない、だが真摯な直向さがしなやかな筋肉の躍動に込められているのが見ていても良く判る、塁郁の荒削りな舞踊。
 一体どれほど、月精霊の光に揺らめく山頂での歌舞音曲が続いたのか。

「――華やかよの」

 不意に巨大な影が辺りを闇に落とした。響く深い声色は人の物のようで居てどこか違う――ハッと見上げたその先にある、輝く七色の鱗と艶やかな闇色の翼。
 月の高位竜エクリプスドラゴン。その巨体を悠然と地上に下ろした巨竜は、睥睨する瞳で集った冒険者を見下ろし

「子らよ、よう来たの。おぉ、すでに長じた子も居るか」

 足元の仔竜らを見て目を細めた。くぅ、と仔竜らが小さく鳴く。何かを伝えているのだろう。応える巨竜は贔屓目に見てもご機嫌だ。
 その様子に、掴みはOK、と改心の拳を握った冒険者達だったが、続いて向けられた巨竜の眼差しに、それが勘違いだった事を知る。人間でも考えてみて欲しい――例えば孫を猫可愛いがりして甘やかす舅や姑が、婿や嫁にも同様に接するか?
 否。

「で、汝ら、何しに来た?」

 巨竜はいぶかしむ視線を遠慮なく冒険者に注いだ。ちなみに巨竜は、先に冒険者が送ったメッセージも気付いている。だが、久し振りに仔竜と会うかと気まぐれに姿を現したのであり、それ以上の理由は持ち合わせていない。
 す、とそれまで傍観していたアリシアが進み出た。

「お初にお目にかかります。オルステッド・ブライオンの妻、アリシアと申します。せめてこれまでの経緯をご説明したく思います」
「‥‥ま、聞く位は聞いても構わんがの」

 チラリと顔見知りの夫と初顔合わせの妻を見比べ、あまり興味がなさそうに巨竜。それでも一応頷くのもまた気まぐれか。
 それでも良い、と丁寧に感謝の意を告げ、アリシアは巨大な竜へと言葉を紡ぐ。とある村の占拠から始まった一連の冒険。その線上に浮かんできた人物アランドール・ビートリッヒ。そして

「カオスの魔物たちが、アランドール・ビートリッヒ縁と思われる『賢者の墓』遺跡に遺されていた首飾りを持ち去りました。魔物たちの話ではそれが彼らの求める『鍵』だということです。あとに、ドラゴンのものと思しき鱗と、判読が難しい手紙が残されていました」

 故に彼女は問いたい――その鱗は巨竜のものか、と。アランドールなる男にその鱗を与えた事があるか、と。
 その気持ちを汲み取って、だが巨竜は鼻を鳴らした。

「汝らの事情は理解したが。人の子よ、この竜は世界の行く末を見つめるもの。混沌を打ち滅ぼす剣たり盾たるに、相応しいと認める者に助力をするはやぶさかではないが」

 果たして汝らはそれに相応しいと言えるのか?
 言外にそう告げる巨竜に、かつて武勇を認められた者はさすがに口の端を引きつらせる。だが巨竜は難しい事を言っている訳ではない――幾度も、幾度でも己を認めさせよ、と。一度認めた、その事実が永久に揺るがぬ訳ではない、と言っている。
 そんな巨竜を、アシュレーが言葉を尽くして説得する。シンが、アリシアが、グランが、オルステッドが、塁郁がそこに言葉を添え、真摯な眼差しで巨竜を見つめ。
 さらに仔竜や妖精達までも加わるに至って、巨竜は渋々、実に渋々と譲歩条件を出した。嬢や、と呼びかけた先は塁郁。

「私、ですか?」
「そう、汝だ――この竜は嬢の舞を、嬢の舞に込められた想いを気に入った故な。この竜が満足するまで舞うてくれたならば、汝らの問いに答えても良い――総て、という訳ではないがな」

 汝らも子らと共に楽を奏でるが良いよ、と当然の様に命じられて冒険者は顔を見合わせる。だがそれが条件ならばやるしかない。子らと共に、と条件が付くからには恐らく、仔竜や妖精達との合奏も巨竜のお気に召した、と言う事だろう。
 シャラン、と塁郁のアンクレットベルが軽やかな音を立てる。黄龍の龍笛が音を奏で、ハーモニカが旋律を歌い、グランや仔竜達の歌声が絡み合い。
 巨竜の為の舞台は再び、今度は2夜に渡って続行され――ようやく「ま、良かろ」という言葉が聞けたのは、3日目の朝が近付いた頃の事だった。





 『賢者の墓』遺跡に残されていた、虹色の鱗は人の子に自ら与えたものだ、と巨竜は言った。

「なかなか面白い、興味深い人の子であった故。あれの願いの助けになればと、この竜の欠片を与えたのだよ」
「願い?」
「そう。願い故にあれはこの竜の元に来て、願い故にやがては賢者と呼ばれる程になった。だが汝らには語れぬよ。あれの願いはあれだけのもの故な」

 巨竜は懐かしむように目を細め、亡き友を尊重する言葉を紡いだ。竜に願おうと言うほどの強い思いを、巨竜は好ましく想うから。

「カオスの魔物やデビル達が鍵や冠と呼ばれるものを探してるとのことだけれど、何か思い当たるようなものはないでしょうか?」
「さて。とてつもない力の込もった品を、探しておる事は知っているよ」
「それは‥‥やはり魔物に奪われた首飾りが‥‥?」
「ふむ‥‥確かにあの首飾りはこの竜と属を同じくする強い力を秘めた品だが‥‥」

 恐らく魔物どもの探す鍵そのものではなかろう、と巨竜は首を振る。

「友の言葉を借りるなら、あの首飾りに出来る事はただ一つ、首飾りの本来の持ち主に想いと言葉を届けることだけだよ」

 ならば何故魔物が首飾りを奪い、立ち去ったのか。強い力を秘めた品、と言う事で区別が付かなかったのか、或いはその『本来の持ち主』に秘密があるのか。
 巨竜は、その事にはあまり触れたくはない様だった。だが静かな言葉でその事実を告げた。

「友はかつて、とてつもない力を秘めた品を持つ娘に憧れ、生まれ育った村を捨てて後を追った。友が娘から与えられた首飾りは、願えばただ一度だけ娘の元に言葉と思いを届けることが出来、娘は願えばいついかなる時でも友に会いに来ようと約した。故に魔物が狙っているのは、首飾りを使って娘を呼び出し、娘の持つ品を奪おうと言うのだろうよ」

 つまり、本命の『鍵』はその娘が持つと言うマジックアイテム。そこに至る道筋としての首飾りがあり、魔物が首飾りを使えば結局『鍵』は奪われる運命にある。
 噂で聞いたような、5000もの魔物を敗走させた様な恐るべき力を人間側に使われる事態は、ほんの少し遠のいた。だが――

「‥‥まだ間に合うのだろうか‥‥?」
「さて、それは汝ら次第よ。あの首飾りは発動させるのに、本来の持ち主である娘に縁の深い場所でなければならぬからの。その内の一つが友の眠る『月の隠れ家』であり、今一つは――」

 巨竜の告げた場所を塁郁は詳細に、正確にスクロールに記録していく。それがどこなのか、今この場では判らない。だがこれをセトタ語に訳して貰い、調べてみればその場所がどこか判るはずだ。
 さらに質問を重ねようとした冒険者達だったが、生憎巨竜の方はすでにこの会見を終えようとしていた。巨体を浮かせる大きな翼を重たげに蠢かせ、だが驚くほど軽やかに宙へ舞い上がる。
 その背にグランが叫んだ。

「先日出会った竜が言っていた。『大地に混沌の力が満ち始めている。いずれ西の果てより異界のものどもがやってこよう。門を開かせることなかれ』と――大陸が違うゆえ、いらない心配かも知れないが心に留めておいてくれると嬉しい」
「そうするかの」

 その言葉を最後に、巨竜は月精霊輝く夜空の向こうへと姿を消した。手元に残ったのは巨竜の言葉を書きとめたスクロール。尋ねられなかった幾つもの質問は、いずれ機会があれば、また。

「‥‥取り合えず話は聞けた、な」

 後はウィルに帰ってから色々調べてみるぜ! とグウェインが力強く胸を叩き、冒険者達はその言葉を合図に帰路に着く。次こそは止めて見せると、固い決意を抱きながら。