【喧嘩屋】狂った歯車

■シリーズシナリオ


担当:相楽蒼華

対応レベル:3〜7lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月22日〜05月27日

リプレイ公開日:2005年05月24日

●オープニング

「おい、この前騒動があった喧嘩屋の資料はあるか?」
「はい、其処に纏めているもので全てですが‥‥どうしたんです、後藤さん?」
「いんや。少し気になる事があってなァ‥‥」
 渋い顔を見せる役人、後藤に部下である若い役人は小さく首を傾げた。
「そういえば、ずいぶん前からその人の事調べているみたいですが‥‥お知り合いなんですか?」
「知り合いかも知れんし、そうでもないかも知れん。それを調べてるんだよ、阿呆」

 役所でそんな動きがあった日の昼下がり。
 ギルドは何時にもなく閑古鳥が鳴いていた。最近、喧嘩屋の結城左之も騒ぎに巻き込まれる事なくある意味平和だったのだが‥‥。
「大変なのーーー!」
「っうわぁ!?」
 元気な声がいきなりしたもんだから、ギルド員は片付けようとしていた資料の山に突っ込んでしまった。
「い、イタタ‥‥」
「ねっ、大変なの!大変なのよっ!!」
「あれ?貴方は確か、紅蠍の‥‥」
「碧よ、碧っ!そんな事より、大変なの!姉様が浚われちゃったのよ!」
「へ?姉様って‥‥綺螺さん、ですか?」
 ギルド員が聞き返すと、碧は大きく頷いた。
 綺螺‥‥紅蠍のお頭であり、碧からは「姉」と慕われている女性だ。武術を嗜んでおり、その彼女が浚われたというのが意外に聞こえた。

「綺螺さんが浚われた‥‥って、あの人は武術を学んでいるはず。そのお方がどうして簡単に?」
「それが‥‥変な包帯だらけの男が姉さんに「左之のことで話がある」って‥‥それで姉さんついてっちゃったの!」
「‥‥それって浚われたって事になるんですか?」
「だって、三日も帰ってこないのよ!?絶対何かあったんだって!」
「この事、結城さんには伝えたんですか?」
「勿論よっ!今藍達が準備させてるわっ!」
 ‥‥事件の中にはヤッパリ結城。
 そんな言葉が似合うような人ではあるとは思ったが、知らされたという事により事件は大きくなるだろう。

「確かに自分のことを詮索されているわけですからね。行かないという訳には行かないんでしょうけど‥‥でも、連れて行かれた場所に検討は?」
「ついてるわ。ここから二日程山に向かって歩いた所にある廃村。目撃者もいるから、バッチリよ!」
「廃村‥‥でもあそこ、モンスターの棲家で有名な場所では?」
「だから冒険者を借りたいって言ってるの!その方がその‥‥私達も安心なのよっ!」
 今まで冒険者を嫌だといって避けていた彼女から出た言葉だった。

「仕方ありませんね、依頼ですし。とりあえず、張り紙はしておきますよ」
「ありがと!何かあの包帯男‥‥どこかで見たことが‥‥。どこだったかなぁ?」
「思い出せないんですか?」
「全く。とりあえず、話せば思い出すかもだから!ちゃんとそれまでには思い出したいけどね?」
 碧の空元気な笑みが、ギルド員の印象に残っていた。

●今回の参加者

 ea2034 狼 蒼華(21歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3200 アキラ・ミカガミ(34歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea6717 風月 陽炎(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8191 天風 誠志郎(33歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea8531 羽 鈴(29歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb0334 太 丹(30歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 eb0813 古神 双真(47歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1420 プリュイ・ネージュ・ヤン(38歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

「やっぱりみんな来てくれたのねっ!」
 左之と碧が待つ町の外にて、碧が嬉しそうに言う。
 そこにいる面子は殆ど左之や碧、綺螺とも面識がある者達ばかりだ。
 気心はある程度許せるだろう。
「ったく、あのバカ!なんで俺の事となるとホイホイついていきやがんだよ!」
「まぁ、喚いていもしょうがねぇだろうが。ホレ、とっとと行くぞ!二日ぐらいかかんだから覚悟していかねぇとな」
 古神双真(eb0813)が溜息つきながらも出発を促す。そんな時に情報を聞きに行っていた風月陽炎(ea6717)とプリュイ・ネージュ・ヤン(eb1420)が戻ってきた。
「どうだった?情報は貰えたか?」
「厄介な事になりましたよ‥‥」
 陽炎が深刻な表情でそう言う。プリュイも同じく深刻だ。
「どうやらあの廃村‥‥鬼豚の住処らしいんです」
「鬼豚‥‥!?」
「っち。ホントに厄介だぜ、そりゃあ‥‥」
 しかしここまで来たのならば覚悟を決めて進むしかない。
 このままここで立ち止まっていても仕方はないのだ。
「とりあえず今のうちに伝えておきます。碧さんはモンスター対処班へ、左乃さんは救出班に同行してもらいます、ヨロシイですか?」
「おっけ!任せてよ!」
「応!その包帯男とどんぱちやれんならどーでもいいぜっ!」
 もうやる気満々な鳥頭であった。

 そして、廃村へ向けて冒険者と喧嘩屋ご一行は出発したのである。
 その道中の事。
「‥聞くだけ無駄かも知れんが、お前昔包帯巻いた奴に喧嘩売ったか」
「へ?包帯巻いた奴‥‥?はて‥‥記憶にねぇなァ‥‥?いや、でもなァ‥‥」
 双真が深い溜息をついて米神を押さえる。
「‥‥聞いた俺が馬鹿だった」
「なぁなぁ、碧。綺螺姉ちゃん、どんな様子で包帯男についてったんだ?」
「うーん‥‥なんか怖い顔はしてたの。明るかったのがいきなり無口になって‥‥」
「ふぅん‥‥じゃあ、綺螺姉ちゃんの両親とか師匠ってどんな人だったの?」
 碧の記憶を蘇らせるお手伝いをしているのは狼蒼華(ea2034)。
 今の手がかりを握るのは碧だけなのだから。
「姉様の両親は、とっても立派な人だったって聞いてる。でも、姉様は好きじゃなかったみたい。師匠とかの事はあんまり覚えてないみたいだったわね。小さい頃に死んだって聞いたし」
「手がかりはナシ‥‥ですか」
「藍ちゃんと茜ちゃんは一緒じゃないっすか?」
 と、突然聞いたのは太丹(eb0334)だ。
「藍と茜は家で待機して貰ってるわ。だって、あの二人連れてきてしまったら誰が私達の住処守るのよ?」
「綺羅ちゃんもなにやってんだかっすね。”結城殿と喧嘩できる”とでも言われたっすかね?」
「そんな事だけでついていく姉様なわけないじゃない!きっと何か訳があったのよ!そうよ、絶対にそうよっ!」
 丹の言葉で碧の不安が更に増幅されていく。口は災いの元というべきなのか、碧の目の前で言うべき言葉ではないのは確かだ。
「不安にさせるような事を言うな」
 天風誠志郎(ea8191)が丹を鋭い目つきで睨み釘を刺す。流石の丹もそれを見て沈黙する。言われて当然だろうが、彼がここまで怖かったのかと思い知らされる一瞬だった。
「どっちにしても綺螺は連れ戻さねェと俺がこいつ等にどやされるからな。俺の名が出た以上!俺が何とかしてやるっきゃねェやな」
「焦ってしまっては思い出せるものもなかなか思い出せなくなってしまうものです。あせらずにゆっくり思い出してください。僕も何か力になれるといいんですけど‥‥」
 アキラ・ミカガミ(ea3200)が碧をそう励ます。
 そのときだった。碧が何かを思い出したようだ。
「思い出した!思い出したよ、少しだけ!!」
「何ですか?出来れば教えてください」
「確か、あの人‥‥姉様の‥‥!」
 碧がそういいかけた時。獣が嘶くような声が冒険者達の耳に届いた。

 目の前に広がるは廃村。その廃村の目の前に立つのは二匹の鬼豚。どうも中にも数匹いるだろうと思われる。
「情報通り、でしたね」
「言ってる場合じゃないネ。どうにかしないと進めないネ!」
 シュンッと一本の矢が鬼豚の目を刺す。その矢の持ち主は碧。警戒態勢からの射撃である。
「いいから行って!姉様の事、お願い!」
「応!ちゃんと連れ帰ってくるァ!」
「碧殿、無理はしないようにな?」
「ありがと!誠志朗も、気をつけてね!」
 碧が見せた笑顔。何処かぎこちない笑顔。やはり不安なのだろう。
 自分がたった一人慕う、姉という存在の大事が。
 綺螺の救出に向かったのは誠志朗、双真、羽鈴(ea8531)、陽炎。そして左之だ。

●陽動の陣
 救出班の面子が村の奥にいった事を確認すると、蒼華はゆっくりと構えた。
「よっし!俺達もそろそろ始めようぜ!」
「まずはここを突破。そして‥‥村の広場でも陣取りましょうか」
 アキラの提案に頷く一同。アキラの合図と共に全員が村の広場へと走り出す。
 プリュイは普通に担がれているので問題はないだろう。
 村の広場に到達すると、そこには鬼豚の群れ。流石魔物の棲家だ。
 遠くには救出班の姿も見える。
「よっし!ここから先は絶対に通さないッス!」
「あまり暴れすぎないようにお願いします。廃村とはいえ、物を壊すのは少し感心出来ませんからね」
 そう言いながらも、プリュイも援護の準備をする。碧は矢を放つ準備に入る。
 それを護衛するのはアキラだ。
「綺螺姉ちゃんとの喧嘩で習得した蹴りが役に立つかもって事で溜めさせて貰うぜっ!」
 元気よく飛び出す蒼華。その手足に纏われているのはオーラパワー。確実に相手を仕留めていかないと辛いだろう。
 メリッという音がする。蒼華の蹴りが見事に鬼豚の首にめり込んでいる。それを見て即座にプリュイが詠唱を開始する。
「どいてください!当たりますよッ!」
 ライトニングサンダーボルトが放たれる。よろけた鬼豚に当たる前に、蒼華はその場から離れる。
 連携はとれている。しかし、持久戦となれば辛いものがあるだろう。
 丹は相変わらず鬼豚相手に大暴れだ。流石に牛角拳を使ってしまうと身動きがとれなくなる為、それだけは避けてくれという事で今回は使用はしない。
「どうしよ‥‥姉様が凄い気になって‥‥!」
 ここで一つの事件が起きた。アキラが守っている碧の様子がおかしいのだ。チャージングで敵を貫きながらもアキラはそんな碧を観察していた。
 無論、蒼華もその異変には気づいている。
 碧が持つ弓の手が震えている。そしてその狙いも定まらない。射撃は専門クラスだというのに、この状態だ。
 やはり、丹のあの言葉が気にかかっているらしい。
「ごめん‥‥ごめん、皆ッ!」
 踵を返して走り出す碧。その背を追ってアキラが走った。
「碧さんは僕が守ります!退路の確保はお願いします!」
 託すしかなかった‥‥不安な心は綺螺の無事を確認しないと、収まらないだろう。

●復讐の焔
 急いで走る足音。その足音は少し焦りを見せていた。
 見つからない。なかなか見つからないのだ。
「あんにゃろー!一体何処へ隠れやがった!」
「焦っても仕方ありませんよ。とりあえず手分けして探すしか‥‥」
「いや‥‥どうやらここが終点のようだ」
 誠志朗の足が止まる。自然と他の面子の足も止まる。
 そしてふと視線を上にやると、そこにいたのだ。
 顔は包帯で巻かれ、その腕や足すらも包帯。そして、その着物は何処かで見覚えがあるもの。
「久しぶりだな、喧嘩屋?あの娘を攫えば来るとは思っていた」
「テメェ‥‥骸か!」
「やっぱ知ってたのか?」
「応!見て思い出したぜ!あいつ、元志士で火の魔法使える奴だ、気をつけろっ!」
「魔法が使える‥‥なるほど。詠唱をつぶせばなんとかなりそうではありますね」
 陽炎が不敵に笑う。しかしそんな陽炎を、骸は見下ろしたまま、動きもしない。
「貴様の目的‥‥の前に、綺羅殿の身柄は返してもらう」
「綺螺?あぁ、あの娘の名か。安心しろ、傷はつけていない。しかし、今はまだ返すわけにはいかぬ」
「何が目的ネ?ただの喧嘩ならこの様な回りくどい手段は必要ないネ」
「‥‥貴様に関係ない」
 ゆっくり呟いたと同時に勢いよく骸が飛び出す。そしてそのままソードボンバーが誠志朗達を襲う。
 衝撃波はかなり強いものだった。いや、力的には自分達と互角であろう。
 耐え切ったものの傷が体中に残る。それでも向かおうとする左之がいた。
「‥‥突撃馬鹿一代、歩く騒動、お前が先に行くといらん騒動起きるから止まれ鳥頭」
「ンだと、双真!?」
「喧嘩なら後でいくらでもやってやる、今は用事すますぞ」
 双真の挑発で左之の突貫は食い止められたものの、攻撃性が消えたわけではない。確実に骸を威嚇している。
「用があるのはそこにいる左之。お前だけだ」
「テメェ、まだ恨みでもあるってのかよ!」
「やはり関係があるのか、結城殿と?だが、ここで一騎打ちさせる訳にはいかない!」
 誠志朗が一気に走り出す。その男の先にいるであろう、綺螺を求めて。
 流石に骸もそれを静止しようとするだろう。しかし、それを陽炎が食い止める。
「行かせる訳には行きませんよ。私達が相手では不満ですか?」
「ちぃ‥‥!」
 その隙に双真のブラインドアタックが骸の横腹に討ち入る。
「テメェ、余所見してんなよ?テメェの相手は一人じゃねェンだよ」
 双真の不敵な笑みは、骸の闘争本能に火をつけただろう。

 誠志朗は鈴と共に走った。この付近に綺螺は必ずいる。そう信じて。
「これ‥‥綺螺さんのリボンネ!この付近にいるネ!」
「んんー!んーんーんー!!」
「この声‥‥ここか!?」
 誠志朗が蹴り開けた扉の先には、縛られた綺螺の姿があった。急いで開放すると、綺螺は真剣な眼差しで誠志朗の腕を掴んだ。
「お腹減ってないカ?果物もあるネ。食べている間に髪を結うネ」
「そんな事してる場合じゃないよっ!お願い、今すぐにでもここから逃げて!あの男に関わっちゃダメだよ!」
「逃げるのは確かにお前を助けてからと考えていたが‥‥やはりあの男、知り合いなのか?」
「左之は!?左之は、来ちゃったの!?」
「あぁ、今骸という男を食い止めて貰っているが‥‥」
 誠志朗の言葉を聞いて、慌てて綺螺は小屋を飛び出し骸達がいる場所へと向かう。
 そこでは激しい攻防戦が繰り広げられていた。
 そして、一撃‥‥陽炎が入れようとした時である。
「ダメ、その人は‥‥ッ!」
「ッ!?」
 陽炎の動きが鈍ったその瞬間。素早く詠唱を済ませた骸は冒険者がいる場所へとファイヤーボムを落とす。
 詠唱の速さは拘束詠唱の効果だろうと推測される。
「っあぁ!?」
「ちっ‥‥!やっぱ本腰入れてかかってきやがったか‥‥!」
「姉様!無事だったんだね!!」
 その時だ。やっと追いついた碧が綺螺の姿を見て、其方に抱きつこうと向かう。
 それをチラリと見やった骸はまた詠唱を始める。このままでは確実にやばいことになるだろう。
「碧!来ちゃダメだよ、碧ッ!」
「え‥‥!」
「間に合うか‥‥!!」

 一瞬の出来事だった。
 誠志朗も、アキラも急いで走ったが間に合わず、碧の体がソードボンバーに呑まれていった。
「碧ーーーー!」
「ちっ‥‥くだらん邪魔を‥‥」
「テメェ‥‥絶対に俺はテメェを許さねぇ!」
「左之。それでいい。お前は俺に復讐の焔を燃せばいい。何れ消してやる。役人も、お前も」
「だったら今ここで消してみたらどーだ、骸?」
 後ろから聞こえた声。
 冒険者の誰の声でもない。振り向くとそこには陽動にいっていたはずの蒼華達と役人の姿だった。
「お前‥‥確か左之に濡れ衣着せた‥‥」
「ありゃ誤解だって説明しただろうが」
「テメェ、後藤!何でこんな所にいやがんだよ!」
「藍と茜に聞いたんでな。お前がここにいるとな」
 後藤が苦笑を浮かべる。どうやら豚鬼達は後藤が何とかしてくれたようだ。
「さて、この人数。お前はどう闘う、骸?」
「多勢に無勢か。‥‥いいだろう、今回は引いてやる‥‥」
「お前等は早くここから逃げろ。そこの嬢ちゃんの手当てもあるだろうからな。後は役人に任せておけってこった」

 後藤の言うとおり。誠志朗達は蒼華達と合流し、碧を大事に抱え村を出た。
 山を駆け下りる。その途中でも鬼豚達はしつこく後を追ってきていた。
 碧は誠志朗達が持ってきていたポーションと寺の治癒によって一命は取り留められた。
「一体、あいつは何者なんだ?」
「あいつの名は骸。元役人だったんだが、一部の役人に利用され、その罪を擦り付けられ焔に焼かれたはずの男だ」
「それで役人を恨んでいる、か。しかし、何でテメェは恨まれてンだ?」
「俺は焼かれるあいつを見殺しにしようとした大馬鹿なんだよ‥‥」
 それ以上、左之は語らなかった。冒険者達の傷も、寺で治癒される事となって一安心だ。
「ねぇ、誠志朗。あのさ‥‥」
「?」
「骸は‥‥あ、いや!何でもない!助けてくれて、ありがとねっ!」
 綺螺も何時もとは違う雰囲気の笑顔を作り、頭を下げる。
 とりあえず、依頼は成功した。しかし後日談によると包帯男は取り逃がしてしまったらしい。
 後藤は今もその男を追っているという‥‥。