【暁の空】道を切り開く者

■シリーズシナリオ


担当:桜紫苑

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:10 G 22 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月16日〜01月25日

リプレイ公開日:2007年01月24日

●オープニング

 扉を開けると、陽光が降り注ぐサンルームで本を読んでいた青年が「やぁ」と微笑んだ。
 ポーツマスに行政と自警の為の新しい組織を作ると決まった日から、彼は自宅に戻らず、この宿舎に常駐しているらしい。
 本を閉じて、彼は古い友人を招き入れる。
 もうすっかり、屋敷の主である。
 真実の主は招き入れられた友人の方なのだが。
「様子はどうだ」
 ぶ厚い外套を脱ぎながら、この屋敷の真の主、ポーツマス領主ウォルターは尋ねた。幼馴染みである青年、フランシスに任せたとはいえ、やはり状況が気になるらしい。
「冒険者から出された活動案と、報告書は読んでいるんだろ? 冒険者が教会の跡地を片付けてくれてね。そこで炊き出しを始めたんだ」
 脱いだものの、外套を掛ける場所が見当たらない。
 フランシスは知らぬ顔だし、この屋敷の世話を命じた専任者は出迎えにも来なかった。仕方なく、彼は椅子の背にそれを掛ける。
「備蓄の食糧は少ない。多分、すぐに底をつくと思うから、それまでに対策を講じなくちゃ。寄贈して貰った保存食の事は、まだ公表しないんだろ?」
 椅子に腰を下ろしながら、ウォルターは苦々しく頷いた。
 寄贈された300個の保存食があれば、300人の領民が1日食べ繋ぐ事が出来る。だが、それで助かるのは300人。それも1日分だ。300人から漏れる領民もでるし、保存食を口にする事が出来た者とて餓死するのが数日延びるだけだ。根本的な解決にはならない。
 それでも、300個の保存食の存在は大きい。
 今のポーツマスにとって命綱に等しい。
 だからこそ、その存在は簡単に公表出来るものではないのだ。
「‥‥教会跡に、ダンカンの部下が来たよ。丁度、僕もその場に居合わせたんだ」
「食糧はダンカンの最大の切り札だからな」
 かの顔役は、食糧で手下を集め、繋ぎ止めている。その切り札が僅かでも効力を失うのは面白くないだろう。ダンカンに逆らう気力もない街の人々を脅して、余計な事を止めさせようと考えたに違いない。
「冒険者に軽くあしらわれてたけどね」
「彼らが冒険者だと気付いていると思うか?」
 フランシスは、軽く首を傾げた。
「さあ? うまく教会を使ったからね。炊き出しも教会関係者が絡んでいると思っているかもしれない。気付いているかもしれないけど。それはダンカンじゃないと分からない事だね」
 椅子の背もたれに体を預けて、ウォルターは目を閉じる。問題は依然として山積みのままのようだ。
「でもね、新しい組織への応募者は、ここ数日で何人か出て来たよ。冒険者が誘い水になったんだろう」
 好待遇好条件にもかかわらず、これまで領民からの応募者は1人もいなかった。自分達の勢力の障害となる「領主の」新組織に参加しないよう、ダンカン達が圧力をかけているのだと薄々は分かっていた。だが、例え、行いがどうであろうとダンカンもポーツマスの領民だ。
 今でこそ、悪い噂ばかりが聞こえてくるが、先のバンパイアの禍においては真っ先に女子供を逃がす為の船を出したとも言われている。ダンカンに感謝している者もいるらしい。
「新しい組織を立ち上げる頭数には程遠い。応募者の適性も調べなくちゃいけない。やらなきゃいけない事は山積みだよ」
 ぼやくフランシスに、ウォルターは考え込んだ。
 昔はどうあれ、さしあたっての障害はダンカンの一派だ。今のまま、彼らをのさばらせておいてはポーツマスに新しい芽は育たないだろう。この先、妨害して来る事も考えられる。となれば‥‥。
「‥‥ウォルター、親は子供が立つのを見守るものなんだって。手を貸し過ぎちゃいけない」
 彼の心中を見抜いたかのようなフランシスの言葉に、一瞬、思考が止まる。
「任せよう。彼らがきっとポーツマスの皆を良い方に導いてくれる。‥‥まぁ、とりあえず今回は、応募してくる人の数を増やして貰わなきゃね。育てる人材がいなくちゃ、新しい組織どころじゃないよ」
 冒険者のお手並み拝見、とフランシスは笑った。
 そうだな、とウォルターも力無い笑みを返す。
「ところで、先ほどから気になっていたんだが‥‥あの騒ぎは何だ?」
 どこからか聞こえて来る鈍い打撃音と、金切り声にウォルターは眉を顰めた。
 叫び散らす声に聞き覚えがあるように気がしないでもない。
 うんざりしたように、フランシスは首を竦めて見せた。
「サミュエルという冒険者が連れて来た娘が夜遊び好きでね。ダンカンの酒場に入り浸ってるみたいなんだ。噂では、ダンカンの部下達が軒並み飲み比べで負けているとか何とか。それで、いい年頃の娘が酒臭いとか、夕方に起き出して来るのはどうなんだと、アレが喧しいんだ‥‥」
 何とかして欲しいよ。
 フランシスの深い溜息と、キレた甲高い声とが重なる。
 ウォルターは何も言えずにただ頬をひくつかせる事しか出来なかった。

●今回の参加者

 ea0018 オイル・ツァーン(26歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea3041 ベアトリス・マッドロック(57歳・♀・クレリック・ジャイアント・イギリス王国)
 ea4137 アクテ・シュラウヴェル(26歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea4164 レヴィ・ネコノミロクン(26歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea6870 レムリィ・リセルナート(30歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb0050 滋藤 御門(31歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb3503 ネフィリム・フィルス(35歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb7692 クァイ・エーフォメンス(30歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●選択肢
 記憶にある街とは様子が変わってしまっている。
 アクテ・シュラウヴェル(ea4137)は、悲しい気持ちで崩れかけた建物を見上げた。
 かつて、ここにはポーツマスの街を守るという名目で結成された「守護騎士団」の詰め所があった。最後の最後まで、街を守ろうと踏ん張った守護騎士達。その最期は痛ましいものであったと聞いている。
「何とかしなければ‥‥」
 決意を込めて、アクテは建物に背を向けた。
 ここに集った者達が守りたかったものは、助けを求める声さえ嗄れ果て、未だに惑っている。
 何とかしなければ。
 もう一度呟いて歩き出したアクテに、「よぉ」と陽気な声が掛けられた。彼女と同様に街の状況を検分してまわっているらしいネフィリム・フィルス(eb3503)が、傷んだ柱を右手で叩きながら左手を挙げる。
「どうだい? そっちの様子は」
 苦笑して首を振ったアクテに、ネフィリムも大きく息を吐き出した。
「やっぱりか。‥‥まずは市民が自立して生活出来るよう支援する所から始めないとダメなのかもなぁ」
 独り言のような呟きに、アクテも同意を示して周囲を見回す。
 焼かれ、壊されたまま放置されていた建物は、海から吹き付けてくる寒風を防ぐ役目すら果たしていない。この街特有の、高い位置につけられた窓から得られる太陽の光は微々たるもので、暖を取る程でもない。
 建物を直そうにも、資材がない。
「馬は食料として食べてしまった後。馬車も柱も扉も、燃やせる物は薪代わりに使われている。そして、船はダンカンが押さえてしまっている‥‥」
 商売に使えそうな物は既になく、葉どころか根まで掘り出されて木々も植物も枯れてしまっている。
 そして、資材を運ぼうにも手段が無い。
「お手上げです」
 自分達のペットに積める荷物もたかがしれている。
 こう八方塞がりでは、アクテでなくとも泣き言を言いたくなる。
「まったくだ。でも、それならそれで、別の方法を考えればいいんじゃないか?」
「別の方法‥‥ですか?」
 ネフィリムの強い光を宿した瞳は、この状況下でも余裕を失っていない。口元には、不敵としか形容出来ない笑みを浮かべている。
「そう。この街に自分達で復興するだけの力がないなら、別の場所から持ってくればいい。あたしはこれでもドレスタットの海戦騎士だよ。ドレスタットの商人や騎士もそれなりに知っている。彼らに資金援助を申し込むとか、土地を提供したり、交易面で優遇すれば、ドレスタットの商人達も動くんじゃないかと思うんだ」
 勿論、ウォルターに聞いてみなきゃいけないけどね、と付け足して、ネフィリムはアクテを振り返った。そして、足を止めた彼女の姿に怪訝そうに首を傾げる。
「どうかしたのか?」
「それは‥‥本当に‥‥ポーツマスの為になるのでしょうか」
 考え込みながらの言葉に、ネフィリムは眉を寄せる。
「何か気になる事でも?」
 アクテは顔を上げて、ネフィリムを見た。断片的に浮かぶ言葉を繋げ、自分が感じている漠然とした不安を伝えるべく口を開く。
「私も、武器屋を生業にしている者ですから、少なからず商人というものを知っています。ドレスタットの商人を優遇して、彼らをこの地に招く事が、本当にポーツマスの自立に繋がるのでしょうか」
 ポーツマスにドレスタットの商人達がもたらすものは、何だろう?
 当面の必要品と、商業の基盤?
 確かに、金が動けば生活も動く。今よりも生活が向上するのは間違いない。だが、その後は?
「この地に商いの種を撒き、芽が出るまで世話をして、それだけでドレスタットの商人達は満足するでしょうか?」
「言いたい事は分かるよ。でも、この街は、自分の足で立てないんだ。誰かの手を借りるしかないだろう? あたしが話を持って行く事が出来るのは、ドレスタットの連中だ。彼らが手を差し伸べてくれるというのなら、今、飢えて死にかけている奴らを救える」
「それは‥‥そうですが‥‥」
 目の前の現実と、先の不安。
 どちらを選択するべきなのか、語り合うネフィリムとアクテにも分からなかった。

●新しい芽
 ダンカンの酒場が開くまで、まだ時間がある。
 分厚い雲に隠された太陽の位置を測りながら、オイル・ツァーン(ea0018)は炊き出しが行われている教会跡地へと向かっていた。
 領主の蔵を開いたと言っても、蓄えには限りがある。そこへ行けば食べ物にありつけると聞いて、詰めかける人の数は増える一方だという。このままでは、早晩、ポーツマスの食糧は尽きてしまう。
 悩みの種はそれだけではない。
「お前達っ、これ以上ダンカン様の顔に泥を塗るのは許さねぇぞ!」
 聞こえて来た怒号に、オイルは足を速める。
 ダンカンの手下が脅し、時に暴力をふるって妨害して来る事も、新しい組織に携わる者達を悩ませていた。
「誰のお陰で、今まで生き延びられたと思っているんだ! この恩知らずどもが!」
 それも炊き出しの会場ではなく、教会跡地へと向かう道を塞ぎ、食べ物を求める人々を恫喝しているのだ。現段階では、集まって来る人数の方が圧倒的に多い。しかし、炊き出しで飢えを凌いだ者が次に考えるのは「ダンカンの報復」が自分達に向かう事だ。
 空腹で麻痺していた感覚が、痛みと恐怖を思い出す。
「ダンカン様は、お前達の裏切りをひどく悲しまれている。許しを乞うなら今のうちだぞ!」
 厳つい顔をした男が、棒きれを担いで幼子を抱いた女を見下ろしていた。女の周囲には、痩せ細った老人や子供達が怯えて身を寄せ合っている。
「どうする? 本当なら、恩知らずのお前達をここで痛めつけてもいいんだが、ダンカン様は慈悲深い方だからなァ、乱暴にはするなとよ。お前達に謝る機会をお与え下さるんだと。お優しい方だろうが」
「‥‥っ」
 男が棒きれを幼子の頭に突きつけるのを見た瞬間、オイルの中で何かが切れそうになった。
 だが、飛び出しかけた彼は、寸での所で踏みとどまり、崩れた柱の陰に身を隠す。
「何が優しい方だ! 優しい方なら、俺達をブタか何かのように扱うもんか!」
 どこからか飛び出して来た小さな影が、男の棒きれを払い飛ばしたのだ。
 沸騰しかけた頭が瞬時に冷める。
 柱の陰から、オイルは少年を見つめた。
「囓った林檎の芯を賞品にして、皆に殴り合いをさせたり、落とした肉を踏みにじって、犬の真似が一番上手い奴にやるって言ったりするもんか!」
 女や老人達を背に庇って、少年は自分の倍も背丈のある男を睨み付ける。
 頬骨が浮き上がり、手足は折れそうに細いが、目は力を失ってはいない。それは、少年の意思の強さの証のように、オイルには思えた。
「ちょっとちょっと! そこで何してるの!」
 駆けつけて来たレムリィ・リセルナート(ea6870)が、男と少年の間に割って入る。
 炊き出しを手伝いながら、野営のコツや寝具の有効な使い方を伝授していた彼女も、集まる人々を脅して回っている連中の話を聞いていたらしい。腰に手を当て、胸を反らして、レムリィは男を見据えた。
「全くもう! それだけの体力があるなら、お馬鹿な事してないでこっちを手伝って欲しいもんだわ」
 レムリィの気迫に押されかけたものの、男はすぐに下品な笑みを浮かべて犬でも追い払うかのように手を振る。
「お嬢ちゃんにゃ関係ない話だ。巻き込まれて怪我しないうちに行った行った」
「お、お嬢ちゃんですってぇ?」
 紫の‥‥もとい、ケンブリッジ仕込みのお仕置きの数々を披露してやるべきか。それとも‥‥。
 頬を引き攣らせるレムリィを慌てて止めたのは滋藤御門(eb0050)だ。
「落ち着いて下さい、レムリィさん」
 がうがうと今にも掴み掛からん勢いのレムリィを羽交い締めにして、御門は男を振り返った。
「あなたも。炊き出しも、新しい組織作りも、領主様よりちゃんと許可を頂いて、ポーツマスの人達の為に行われている事です。それを妨害するというのはどういう事なのかお判りですか?」
 静かに、しかし真っ直ぐに切り込んで来る御門の言葉。
 男は、僅かに動揺を見せた。
「ダンカンさんも、いつかご自身の過ちに気付かれる日が来ると僕は信じています。その時、今のあなたの行為を彼はどう思うのでしょう」
「う‥‥うるせぇ!」
 男の持っていた棒きれが、御門に向かって振り下ろされる。
 微動だにせず、御門はそれを見つめた。
 がつ、と鈍い音が辺りに響いた。
 思わず目を閉じたのは、彼らの背後に庇われたポーツマスの人々だ。暴力には慣れた彼らも、自分達を庇ってくれた者達がダンカンの手下によって傷つけられる様は見たくなかったようだ。
 だが、苦しげな呻きを漏らしたのは繊細そうな異国の青年ではなく、男だった。
 乾いた音を立てて落ちたのは、男が持っていた棒きれ。それなりの太さがあったそれが、真ん中から折れて地面に転がる。
「そんな棒きれを武器にしているのでは、いつまで経っても街のチンピラ止まりよ」
 棒きれの一撃を受け止めたのは、クァイ・エーフォメンス(eb7692)が構えたロッドであった。隙のない動きで、クァイはロッドを男の鼻先に突きつける。
「昔、聞いた事があります。人を動かすのは利と義、そして恐れだと。ダンカンは利と恐れとを使って皆を縛りつけているのかしら。では、私達は利と義、この2つで皆を動かしてみせます」
 例えばね。
 間合いを詰めると、クァイは猫のように笑った。
「このロッド。領主様の人材募集に応募して、登用されたら支給されるものなの。棒きれなんかより、ずっと強力で‥‥皆を守る力になると思うわ」
 最後の言葉は、食い入るようにして彼らを見つめていた少年へと向けられたものだ。
「あなたは、いつか‥‥子供達にパンを分けていた子ですね? あんな風にしなくてもいい生活、暖かい寝床と美味しい食事、そして明るい笑顔のある街にしたいと思いませんか?」
「‥‥思う‥‥」
 御門の問いかけに、少年はぽつりと声を漏らした。その言葉に、レムリィが嬉しそうに彼の肩を叩く。
「なら、決まり! キミも応募しなさい‥‥て言うか、応募決定。アタシや御門が聞いたんだからね! 取り消しは無しだから!」
 我に返って焦りだした少年に、クァイも手を差し出した。
「じゃあ、私と仲間。私はクァイ・エーフォメンス。あなたは?」
「‥‥ロイ」
 戸惑いながらも、ロイと名乗った少年はクァイの手を握り返した。

●いざ酒場へ
 レヴィ・ネコノミロクン(ea4164)に半ば引き擦られるようにしてやって来たミリセントの姿に、ベアトリス・マッドロック(ea3041)はやれやれと溜息をついた。
「まったく。年頃の娘がそんな格好で‥‥」
「もー、大変だったのっよーっ!」
 一応はミリセントが起き出して来る時間まで待ったのだ。だが、目を覚ましても起きているのか寝ているのか分からない、この状態。何とか立たせたまではよかったが、とても自発的に歩けるとは思えず、そのうち意識もはっきりしてくるだろうと支えて歩き出したものの、結局、最後までミリセントが自分で歩く事はなかった。
「つっかれたっ! 死ぬほど疲れたッ!」
 苦笑しつつ、クァイがぜぇはぁと肩で息をするレヴィの背を撫でる。
「ミリセントの嬢ちゃん! そろそろシャキッとおし!」
「ん〜‥‥」
 ベアトリスの言葉に返事を返したが、その後は意味不明の寝言ばかり。天を仰いで、ベアトリスは大仰に嘆いた。
「聖なる母よ、この娘がちゃんとお嫁に行けるよう、見守りたまえ!」
 そして、腕を捲くり上げると猛然とミリセントの身なりを整え始める。
「そ、それでは逆にお嫁に行けなくな‥‥」
「‥‥年頃の男もいる事を忘れていないか‥‥」
 クァイの嗜めも、オイルの抗議も何のその。ベアトリスは手早くミリセントの夜着をひっぺがえして服を着せて、ぼさぼさの髪を整える。
「何言ってんだい。こんな格好見せられたんじゃ、百年の恋も醒めちまうよ! ほら、ミリセントの嬢ちゃん、起きな!」
 まだぼんやりした状態のミリセントを椅子に座らせて、ベアトリスは仲間達を振り返った。
「ダンカンって親父の酒場には、ミリセントの嬢ちゃんが入り浸っているみたいだからね。紹介を頼むんだよ」
 がんっ!
 ベアトリスの言葉の途中で響いた音に、彼らは恐る恐る音の出所へと視線を巡らせる。
「「「‥‥‥‥」」」
 机の上に強かに額をぶつけたまま、ミリセントは再び眠りの中に落ちようとしていた。
 一斉に溜息が漏れる中、レヴィはガクガクとミリセントの体を揺さぶった。
「ミリー! 起きてってば、ミリー! ダンカンさんの酒場に連れてってよ! ほら、手ぶらじゃなんだから、オコメノジュース持って行くのよ。秘蔵のお酒なのよ!」
「お酒‥‥」
 薄目を開けたミリセントに、レヴィはここぞとばかりに捲し立てた。
「そう! ジャパンのお酒でね、どぶろくって言うのよ。美味しいんだから〜っ!」
 お酒おいしいお酒‥‥と、ようやくミリセントの体が自分の意志で動き出す。ふよふよと彷徨う手をしっかと握り締めて、レヴィは彼女を立ち上がらせた。
「という事で、いざ行かん! ダンカンさんの酒場! 美味しいお酒があるといいわねっ☆」
 ミリセントを連れて部屋から飛び出して行ったレヴィを苦笑して見送ると、ベアトリスはフランシスへと向き直った。
 笑みを消し、真剣な表情でベアトリスは口を開いた。
「じゃあ、行って来るよ。フランシスの坊主。ダンカンの親父を説教してくるから、期待して待っといで」
 ベアトリスと、扉へと歩み寄ったオイルとを交互に見て、フランシスは小さく頭を下げた。