【姫君からの依頼】姫君の帰還

■シリーズシナリオ


担当:桜紫苑

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:15 G 20 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月12日〜04月21日

リプレイ公開日:2009年04月22日

●オープニング

●出立
 リヴァイアサンの姦計によって、円卓の仲間であるライオネルを奪われた。リヴァイアサンの動きが全く掴めない今、キャメロットを離れるのは上策とは言えないかしれない。
 そんな迷いを抱えながら、トリスタン・トリストラムは、早朝、キャメロットの門を出た。
 王には一応の許可は得た。
 そして、万が一に備え、すぐに仲間達や冒険者ギルドとの連携が取れるように、連絡体制も整えている。
 だが、迷いの心は消えない。
 ライオネルの行方は未だ知れず。
 あの時のパーシの叫びが、放心状態のボールスが、彼を迷わせる。
 このまま、キャメロットにいた方がよいのではないか。何かあれば、素早く対応出来る。友を支える事が出来るかもしれない。
 必要最小限の荷だけを詰めた袋を肩に掛けたまま、彼は門を見上げた。
ーいや、大丈夫だ。
 自分に言い聞かせる。
ー王がキャメロットにおわす。王をお守りする円卓の仲間達も。
 自分にも他者にも厳しい王国の執事、ケイも動いている。
 そのケイを師と仰いで研鑽を積み、日々逞しくなっていくモードレッドも、王宮騎士として経験を積み、その血に流れる才能の片鱗を見せるエクターも。だから、大丈夫だ。
 自分は、自分の為すべき事をすればいい。
 有事の為の準備は、ちゃんと整えてあるのだから。

●護衛依頼
「それで、トリス様はサウザンプトンに旅立ちましたとさ。めでたしめでたし」
 何がめでたしだーーーーッ!!
 思わず伝言シフールの首を絞め掛かった冒険者を宥めようと、別の冒険者が背中から羽交い締めにする。
「どうどう、落ち着けってば」
「トリスも気になる事があるわけだし」
 そうそう、と他の冒険者達も頷いた。「気になること」それは、間違いなく、サウザンプトンに滞在しているビューロウのイゾルデ姫の事であろう。
 婚礼道具として持ち込まれた「聖骸布」を巡り、彼女の周囲では様々な事件が起きている。
 姫自身も、謎の黒づくめに誘拐されたり、「聖骸布」を預けた信頼のおける騎士が失踪した上にアンデッド化したり。
 最近では、婚礼の報告のためにサウザンプトンへと出向いた彼女の旅程が、ごく僅かな者にしか知らされていなかったにも関わらず、襲撃を受けた。しかも、その襲撃者は、襲撃時に正気を失っていたらしいとの報告も入っている。
「しばらくはサウザンプトン領主に押しつけ‥‥もとい、保護して貰っていた姫だが、そろそろビューロウへ戻らなければならないわけだ。行きと同じで、帰りも襲撃される可能性が非常に高い。なので」
 ぱしん、と冒険者は壁に貼り出された依頼を叩いた。
「ビューロウへ戻る姫の護衛依頼だ。前回の護衛任務の様子、今までの経緯から考えて、姫の帰路選択、護衛は護衛任務にあたる冒険者とトリスタンのみで行うこととなる。現在、帰路は、街道の状態、状況が下見済みである往路と同じ経路を辿るという案が有力だが」
 にやりと笑って、冒険者は声を潜めた。
「勿論、今後の打ち合わせによっては変更の可能性もある」
 それは「護衛の冒険者とトリスタンのみが決定」することだ。姫が最も信頼しているユーリアどころか、当事者であるイゾルデ姫にすら、いつ、どこを通ってビューロウまで向かうのかを知らせない。
「今回は、前回のような脅迫状は届いていない。だが、油断が出来ない。予告がない分、どこから、どうやって何の為に敵がやって来るか分からない。難しい依頼だ」
 これは私見だが、と表情を消して冒険者は続けた。
「トリス殿が姫の家に伝わる年代記を気にしておられた様子だと聞く。そして、サウザンプトンでも領主館の書庫に興味を示していた」
「でも、古そうな資料と言えば、何か調理法の覚え書きとか、そういうものだったみたいですよ。他は、税収記録とか、教会や王宮図書館に保管されているようなもので‥‥」
 一体、何がどうなっているのやら。
 縺れに縺れた糸口は、まだ見えてこないようだ。
「ま、今回は姫が無事にビューロウに戻ればいいって事で。あ、そうだ。今回は助っ人でサウザンプトンからビューロウまで、領主の右腕って言われてる従者がついてくるってさ」
 一応、姫を送り出す領収の体面ってものがあるらしい。
「ま、ヒューも大変だな」
 よく知る領主の従者に同情してみせて、冒険者は依頼状を手に受付へと向かった。

●今回の参加者

 ea0018 オイル・ツァーン(26歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea0673 ルシフェル・クライム(32歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1123 常葉 一花(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea1249 ユリアル・カートライト(25歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea2708 レジーナ・フォースター(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2834 ネフティス・ネト・アメン(26歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ea9669 エスリン・マッカレル(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb8703 ディディエ・ベルナール(31歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

●野遊び
 春の花が咲き乱れる見晴らしの良い丘の上。
 そこを今宵の宿と定めたのは、花の香りに包まれた心地良い春の夜を満喫出来るから‥‥というわけだけではなかった。
 サウザンプトンに逗留中のイゾルデ姫の気晴らしにと、今が盛りの丘へ野遊びに出たのだが、これまでの経緯と曰く付きの姫の安全の為には、用心に越した事はない。姫の天幕の後ろを守る形で、付き添いとして同行した者達の天幕が並ぶ。
 当然の事ながら、男の子天幕と女の子天幕に分かれている。
「姫様、お疲れではありませんか?」
 気遣うように声を掛けたのは、常葉一花(ea1123)だ。座り心地の良いクッションに身を預けていた姫は、大丈夫ですと笑った。
 素直に笑顔を見せた姫に笑み返して、一花は侍女として付き従うユーリアを振り返った。
「ディディエさんが姫様のご就寝の前にとお茶を用意しておられるとの事です。そろそろ丁度良い頃合いですので、取りに行っては頂けませんか?」
 嫌な顔をするでなく、ユーリアはすぐに立ち上がる。
「僅かな距離ですが、もう暗いのですから誰かについて行って貰って下さいね」
「え? ですが‥‥」
 さすがに戸惑いを見せたユーリアに、一花はにこやかに微笑んだ。
「大丈夫です。天幕の前で火番として暇を持て余している方が2人ほどおられますから、連行して行って下さいな。あ、姫様の御身の為に一応はトリス様を残しておいて下さい」
 妙な迫力に押されながらも、ユーリアは天幕を出た。
 残されたのは姫と一花だけだ。
「折角の春の夜ですのに、風情を味わう余裕もございませんね」
「仕方がない事ですわ」
 姫の髪を櫛で梳かしながら、一花は同じ色の髪を持つ者の事を思い浮かべた。今は、天幕の前で姫を慰める為に竪琴を奏でている男を。
「ですが、今回はトリス様もお戻りになられたのですから、少しぐらい羽目を外されてもよいと思います。明日の朝、少しの間でしたら‥‥」
 花の丘を眺めてお茶を飲むだけでは、きっと物足りない。花を摘み、その香りを愛でても許されるだろう。そう提案しかけた一花に、イゾルデは寂しげに頭を振った。

●違和感
「申し訳ありません。あの、こんなに近いのに‥‥」
 恐縮しつつ、窺い見るように横目で見るユーリアに、オイル・ツァーン(ea0018)は生真面目な顔で首を振った。
「火を焚き、警戒をしているとはいえ、全く危険がないわけではない。獣なども出るかもしれん」
 ディディエ・ベルナール(eb8703)が待つ天幕は目の前だ。用意されている茶を受け取ったら、すぐに姫の天幕に戻らねばならない。
 オイルはふと足を止めた。
ー‥‥あの策士が。
 恐らく、これはオイルがユーリアと改めて話をしたがっている事を知っている者から与えられた機会だ。
「どうかなさいましたか?」
 立ち止まったオイルに、ユーリアも心許なげに振り返った。
「1つ聞いてもいいだろうか。‥‥以前、「何か隠していないか」の問いに「よく分からない」と答えていたが、あれは、どういう意味なのだろうか」
 驚いた娘の表情を少しも見逃すまいと、オイルは薄い灯りの中で目を凝らした。もともと夜目はきく方だ。突然の問いに、娘が戸惑っている様がよく分かる。
「何が、よく分からないのだろうか」
 畳みかけるように問いかけるオイルに、ユーリアは忙しなく視線を彷徨わせる。何かを隠している者のように。
「姫に関わる事だろうか」
 ずはり突きつけると、ユーリアは動きを止めた。大きく息を吸い込んで、胸元を押さえる。
「姫の名誉に関わる事であれば、誰にも言わん。話してくれないだろうか」
 ユーリアはオイルを見上げた。
 まるで救いを求めるように。

●女の子の内情
 女の子天幕は、いつも独特の騒がしさがある。
 女同士の気安さと話題とが、その主な原因なのだが、警戒体制中にも関わらず、例に漏れず女の子天幕は姦しかった。その中心は、春気分満喫中のレジーナ・フォースター(ea2708)だ。
「香しい花の香りの中、ヒュー様と2人きりの時間は言葉で言い表せない程に幸せで」
「それ、さっきも聞いたわよ。天馬に乗れなかったのが唯一、残念だったんでしょ」
 混ぜっ返すネフティス・ネト・アメン(ea2834)も、実はご機嫌さんだ。何故ならば、ツィアの報告という名目でアレクとの面会という名のじゃれ合いを果たして来たからだ。
「ええ。ヒュー様は「私は人でない者。天馬に拒絶されるかもしれませんから」とお寂しげに呟かれて‥‥」
 うっとり呟くレジーナの脳内では、その場面が再現されているのだろう。
 気持ちは分かるわぁ。夜食代わりにと持ち込んだ焼き菓子を頬張りつつ、ネティも頷いた。彼女の脳内でも、アレクとのじゃれ合いの一部始終が何度も繰り返されているのだ。
「ねえ、ネティ。そろそろW挙式!! みたいな事を考えてもいいんじゃない?」
「ちょっ!! レジーナったら何をいきなりっ!!」
 噎せ返りながら友人の背を叩いたネティは、ふと気付いた。
「‥‥レジーナ、枕持ってどこへ行くつもり?」
「野暮は聞かないのが一番よ」
 男の知らぬ所で、こういう会話は普通に交わされている。時にはもっと過激である。
 ジャパンの格言を、男性諸氏に送ろう。
「知らぬが仏」だ。

●符号
 背筋を走った悪寒に体を震わせたヒューイットを、ユリアル・カートライト(ea1249)は心配げに覗き込んだ。
「どうされました? 寒気がするなら風邪かもしれません。早めに薬湯を‥‥」
「ああ、いえ。大丈夫です。ただ、ちょっと、何か‥‥」
 首を傾げながら、首筋あたりに手をやったヒューは、ユリアルの手元に目を留めた。
「あ、その本は‥‥」
「書庫からお借りして来た本です。読んでみるとなかなか面白くて」
 書庫にあった、調理法や馬の世話についてのメモである。縁が金具で補強されていたりと、やたらしっかりした装丁が施されているのが気になって、領主に頼んで借りて来たのだ。
「皆、いるか?」
 天幕の入り口から顔を出したルシフェル・クライム(ea0673)に、ディディエが立ち上がった。
「交替の時間ですね」
 ユリアルも手早く広げていた本を仕舞う。だが、ルシフェルは頬を掻きながら言葉を濁した。怪訝そうにディディエとユリアルが顔を見合わせる中、ルシフェルに続いてオイルも入り口を潜って天幕の中へと入って来る。
 見張りに出ていた3人のうち2人が戻って来ている事に、ユリアル達の疑問は更に深まった。
「まあ‥‥たまにはな」
 オイルの言葉の合間に、トリスタンが奏でる竪琴の音が響く。
「‥‥あ」
 察したユリアルが苦笑して、ディディエを振り返る。
「仕方がありませんね。ディディエさん、お茶は残っていますか? 一杯だけ頂いてから、交替しましょう」
「はあ」
 はてと首を傾げたディディエが茶の支度をしている間に、男達は今日一日に得た情報の交換を始めた。
「やはり思っていた通りだ。野遊びに出た姫の行程は平穏そのものだ。我々が合流してからも、それは変わらない」
「つまり、今回は情報は漏れていなかったという事ですか?」
 茶器に茶を注いでいたディディエの問いに、ルシフェルは難しい顔をして腕を組んだ。
「分からない。情報を知る者を少なくした効果なのか、それとも‥‥」
 これがただの野遊びでない事を知るのは冒険者とトリスタンのみ。ヒューですら、出発した後に知らされたのだ。
「ネティが「本物」のイゾルデ姫について占った結果は前と同じだ。だが、ユーリアが気になる事を話していた」
 ユーリアの話では、姫は今回の縁談に乗り気ではなかったのだという。けれど、ある日を境に積極的に嫁入り準備を始めたらしい。そのある日が‥‥。
「聖骸布が持ち込まれた日だ」
 奇妙な一致に、彼らは黙り込んだ。

●裏切り
 トリスタンの竪琴をあれほど長く聴いていたのは久しぶりの気がする。
 馬車の支度をしながら、エスリン・マッカレル(ea9669)は緩みかける頬を押さえた。ビューロウの街まで駆け戻る今日が言わば本番。気を引き締めなければならないのだ。
「あら‥‥。今日の馬車は昨日とは違うのですね」
 姫の不思議そうな姫の声に、エスリンは目礼と共に答えを返す。
「出来る限り早くビューロウまで戻る為です。毛布やクッションを多くご用意しましたが揺れる事が予想されます。どうか、馬車の中ではお静かに」
 え!?
 驚いたイゾルデとユーリアを急き立てるように馬車の中へと押し込んだその時だった。
「エスリン!」
 注意を促すルシフェルの声。
 丘全体が揺れるかのような地響き。
 異常な事態の発生を察した冒険者達の動きは素早かった。それぞれに得物を手にし、馬車を守るように取り囲む。
 地響きの原因はすぐに知れた。
 騎馬の隊列がまっすぐこちらに向かって駆けて来ていたのだ。数は100騎程度だろうか。整然と進む様は、かなりの訓練を受けた騎士達のように見受けられた。微塵の隙もない。数も騎士のレベルからしても、たった10人で戦うには厳しすぎる。
「ピューロウのイゾルデ姫の一行とお見受けする」
 割れんばかりの銅鑼声が響いた。
 先頭にいた巨大な馬から降り立ったのは、巨人族かと見間違う程の巨体を持つ男だった。
「我が名はモロルト! 姫の本当の夫となる者だ!」
「本当の夫だと!? 馬鹿な事を言うな!」
 叫び返しながら、ルシフェルは行け、とエスリンに目で合図を送った。
 エスリンが御者台に飛び乗るのと同時に、車内にいた一花が声を上げる。
「何をするのです!! 気でも狂ったのですか!?」
 そこから先は、悪夢のように断片的にしか覚えていない。
 姫を抱えたヒューが、馬車の反対側の扉を蹴破ったこと。
 そして、驚きに一瞬だけ動きが止まった冒険者の隙をついて、モロルトの元へと駆け去ったこと。
 全てが悪夢であればいいのに、と姫を奪い去った騎馬隊に反撃する事すら出来ず、彼らはただ呆然と立ち尽くした。