【姫君からの依頼】交渉
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■シリーズシナリオ
担当:桜紫苑
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:16 G 29 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月31日〜06月10日
リプレイ公開日:2009年06月11日
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●オープニング
ビューロウの姫、イゾルデが「本当の夫」を名乗るモロルトという騎士に連れ去られて幾日経ったのか。
モロルトの足跡を追い、冒険者達は、以前、イゾルデ姫が誘拐された折に使用されたカルショットの砦にモロルトの騎士団が立て籠もっている事を突き止めた。
突き止めたのはよいのだが、カルショットの砦は、非常に見晴らしがよい。身を隠す木一本ないのだ。そんな砦では、四六時中、接近する者を警戒する騎士達が見張っている。気付かれぬよう、こっそり近づくのは無理だ。
そこで彼らが選んだ手段は、サウザンプトンからの正式の使者としてモロルトに会見を申し込むというものであった。
姫は結婚の報告をする為にサウザンプトン領主を訪れていた。そして、まだ領主の責任下にある場での拉致劇だったのだ。
また、領主側の人間が深く関わっているという事実もある。
始めこそ、正式な使者ではないと突っぱねていたモロルトだったが、サウザンプトンから正式な使者が出たというのでは、拒否し続ける事は出来ない。
騎士とは礼節を重んじる事を美徳とする。
冒険者が持ちかけた交渉に応じた彼は、少なくとも騎士の誇りを失った人物ではなさそうだ。
「とはいえ、自分からは出て来ないつもりだな」
交渉に応じる条件はこうだ。
サウザンプトンの正式な使者を同席させる事。出来れば領主本人と話がしたいので、カルショットまで来られたし。
「領主を呼びつける、か」
姫の誘拐事件の余波を受けて、サウザンプトン領主も色々と忙しい身だ。わざわざ出向く必要もないはずだし、あちらも「出来れば」という事で強制もしていない。だが、彼は行くだろう。
誰が何と行っても行くはずだ。
何故ならば、彼の最も信頼していた従者、ヒューイット・ローディンこそがイゾルデ姫をモロルトの元に連れ去った張本人だからだ。事の真偽を、彼は知りたがっている。いや、真偽‥‥ではない。ヒューイットの真意、だ。
「ともかく」
と、彼は仲間達を見回した。
ギルドの壁に張り出された依頼状は、サウザウンプトンご領主様の心情をそのまま表しているかのごとく、荒れに荒れた字が並ぶ。
とりあえず、シフール通訳を雇って見たが、専門外と言われ、それでは付き合いの長い者を‥‥とキャメロット近郊で過ごす少女の元に持ち込もうとしたが、まだ何も知らされていないらしい彼女に、ヒューの叛意を知らせるのは気が咎めると却下になった。
そして、彼らは依頼状を前に暗号を解くが如く頭を捻らせているのであった。
「最初の字は、多分‥‥砦‥‥だと思うのよね」
「ああ、そう見えるな。じゃあ、次の塊は何だ? 書き損じにも見えるが‥‥」
「んーーーーーーー」
そうした冒険者達の努力の結果、サウザウンプトン領主からの依頼の全貌が明らかになった!
それはまた次回に!
「‥‥皆、気が立ってるんだから、余計な茶々入れるのは止めような」
こめかみをぐりぐりされて、半べそをかいたシフールがべぇっと舌を出すのを、ひらひらと追い払って、冒険者は解読の終わった依頼を読み上げた。
「砦は、わがサウザンプトンの領内にあり、領主の持ち物である。また、ビューロウはサウザンプトン領であり、ビューロウのイゾルデ姫の御身は領主が預かっていたものである。我が砦を不当に占拠し、姫を攫った慮外者と話し合う必要もない。サウザンプトンの全軍を派遣し、鎮圧しても構わないが、それでは姫の安全が保証されない。よって、私の付き人として砦に赴き、交渉の席につく者と、その間に囚われている姫君の行方を探す者とを募集する」
カルショットの砦の内部構造は、サウザンプトンの領主館の書庫に設計図が残っているらしい。
それを利用すれば、姫が閉じこめられていそうな場所も検討がつくだろう。
あくまで騎士として、姫の「本当の夫」として交渉に応じるというモロルトだが、訓練を受けたらしい騎士団を連れている。怒らせて騒動になった場合は、領主であるアレクを守りつつ、応戦する事もあるだろう。
「代表者同士の交渉には、オブザーバーがついていた方がいいだろうな。アレクはあれで有能な領主だが、感情的になるとマズイ。自領内での無礼働きの上に、預かっていた姫を攫われ、自分の従者が手引きをしたというのだ。冷静に対処しろという方が無理に思える」
姫の居場所を探す事も、難しい。
構造は分かっていても、中にはモロルトの騎士達がひしめいているのだ。それに、「安全な場所に移した」とモロルト本人が告げた所からして、別の場所に移された可能性も高い。砦の中にいない場合は、移された先についての情報を得なければならないのだ。
「‥‥トリスタン卿は、もうしばらくキャメロットから動けないようだ。ライオネル卿についての情報を色々と集めておいでだから、あちらも動きがあるのかもしれんな」
ずっとトリスタンが警護していた姫が目の前で攫われたのだ。本来ならば、先頭に立って姫の安全を確保したい所だろう。
だが、それが出来ない立場だ。気ままな旅人のトリスであれば可能な事でも、円卓の騎士、トリスタン・トリストラムとなれば義理やしがらみだけではなく、国の大事にも関わって身動きが取れなくなる。
「とにかく、だ。モロルトとの交渉の席につけばいいって事だろ。カルショットの砦の事は、姫がそこにいないとしても調べておいて損はなかろう。万が一、戦闘になった場合を考えてな」
それから、とぴょこんと衝立から顔を出したのは、よくトリスタンの代理としてギルドへとやって来るシフールの少女だった。
「トリス様から伝言。出来るなら、ビューロウの館を訪ねて書庫の本を調べて欲しい‥‥との事よ。書庫の何の本をかまではおっしゃらなかったわ」
これ、上乗せ分。
ずっしりとした革袋を受付台において、少女はぱたぱたと飛び去って行った。
彼女も色々忙しいらしい。
つまりは、その主人が忙しいという事なのだろうが。
「サウザンプトンとカルショットとビューロウか。結構広範囲になりそうだが、ま、疲れを癒す柔らかい寝床と温かい食事は領主様が用意してくださるだろ」
肩を竦めて、冒険者は依頼状を受付嬢へと手渡した。
●リプレイ本文
●書庫
「確か、この辺りに‥‥。しかし、何分、古いものですから」
以前、書庫の管理は領主の従者であるヒューイットが趣味と実益を兼ねて行っていたらしい。急に管理を任されたという事務官は、古い設計図の捜索という難しい依頼に自信なさげにミラ・ダイモス(eb2064)へと書棚を示した。
整然と整理された羊皮紙の束と、巻物。
イゾルデ姫を連れ去った張本人の管理能力の高さのお陰で、自分の仕事が捗ると思うと複雑だが‥‥と苦笑して、ミラは目当ての巻物を程なく探し当てた。ローマの軍勢がやって来る以前からあった建物を増築して、今の砦になったらしいが、詳しい事は記されていない。
「造り自体は単純ですね‥‥後から継ぎ足したせいで、おかしな所もあるみたいですが」
「ふぅん?」
ミラに相槌を返すと、水上銀(eb7679)は別の書棚から違う1巻を手に取った。絵巻物のようだ。聖なる母のような女性が庇護する下で、何人かの人物が剣や槍を手に戦っている図。戦う相手は恐ろしげな存在だ。よく見ると、片目は閉じているのか失われているのか、描かれていない。その背後には、黒い大きな影がある。
「他に何かありませんか? 歴史や遺跡、伝承関係のものとか」
それならばと事務官は、彼女を別の棚へと案内した。
「僕は古い話が好きでして。暇があればこちらの本を読ませて頂いているんです」
途端に、事務官の口調が砕けたものに変わる。得意分野に話が移り、口の回りが軽くなったのだろうか。
「そう言えば、イゾルデ姫はご滞在中に、この本を熱心に読んでおられたそうですよ。昔、この国にはいろんな神様がいたんです。ジーザスの教えが広まって、元々いた神様は忘れられてしまいましたけどね」
●交渉
どかりと腰を下ろし、腕を組んだ男はサウザンプトン領主を前にしても、その態度を改める事はなかった。
「田舎騎士風情が、どうしてあんなに偉そうなんだッ」
小声とは言え、相手に聞こえれば交渉は即座に決裂してしまう。
不満げなアレクシス・ガーディナーの足を、ディディエ・ベルナール(eb8703)とレジーナ・フォースター(ea2708)が同時に踏みつける。
「いかがした!?」
「何でもございません。ご領主様は少々病をお持ちで」
ぎょろりと目を剥いたモロルトに涼しげな顔で応対したのは常葉一花(ea1123)だ。
ー病って何だーっ!
即刻異議を申し立てようと振り返ったアレクの目に、銀色のトレイが光って見えた。たかが銀色のトレイと侮るなかれ、これは歴とした武器なのだ。
「えー、さてさて、話し合いに戻ってもよろしいでょうか」
このままでは話が進まないと判断したディディエが、何か言いたげな領主を無視してモロルトへと向き直る。
「構わん」
「まずお聞きしたいのですが、姫の本当の夫であると仰っておられましたが、その根拠をお示し頂けないでしょうか。ビューロウはサウザンプトン領、ご領主様が認められたご婚約を偽り扱いされるのは、理由あっての事なのでしょうか」
ディディエのいきなり核心を狙った問いに、レジーナと一葉の表情に微かな緊張が走る。だが、モロルトは余裕の笑みを浮かべて大きく頷いて見せた。
「ある。我と姫は心を通じ合わせた仲。望まぬ相手と結婚させられようとする姫を救い出して何が悪いのか」
「お待ち下さい。そのようなお話、私は伺ってはおりません」
姫の侍女に扮したエスリン・マッカレル(ea9669)の抗議も、モロルトは豪快に笑い飛ばす。
「そうであろうな。姫は誰にも告げず、我の迎えを待つとおっしゃられた故」
彼の言葉が真実であるか否か、本当の姫の侍女ではないエスリンには判断がつかない。一花と顔を見交わすと、彼女も困惑したように小さく首を振った。
「では、何故、姫を連れ去られたのですか? ご婚約に異議ありと申し立てる事も出来ましたでしょうに」
「異議を申したとしても、門前払いが関の山であろうよ」
ディディエの鋭い追及にも、男は平然と答える。
姫を意に添わぬ婚礼から救い出したかったと、堂々と言い切る男に痺れを切らしたのは、レジーナだ。
「それでは、ご領主の従者たるヒューイット殿を、どのようにして仲間に引き入れられたのです? 彼とご領主は深い絆で結ばれておりました。そして、彼と私はそれ以上に深い深い絆で結ばれている間柄。貴方のようなぽっと出の入り込む隙は爪の先程もなかったはずですが」
突っ込むな。背中に押しつけられる銀色のトレイの無言の脅迫に、アレクはぐっと言葉を飲み込む。
「そうですねぇ。それも不思議な話です。なぜ、ご領主様の従者殿と共謀して、拉致などという乱暴な手段を用いられたのですか。姫との間柄が真実のものであるならば、もっと穏便なやり方もあったはずですし〜」
少し間延びしたディディエの言葉に、沸騰寸前だったレジーナとアレクも少し落ち着きを取り戻したようだ。大人しくモロルトの答えを待っている。
「あの機を逃せば、二度と姫を連れ出す事は出来なかったであろう。従者殿は姫と我に同情し、力を貸してくれた」
ぐ、とレジーナは拳を握った。
そんなはずはない。いくらお人好しでも出会ったばかりの姫に同情して、皆を裏切るはずがない。彼の特殊な事情を知らぬ者の、口からの出任せだ。
直感ではなく、それは確信。
ばん、とレジーナは両手を卓に叩きつけた。
「それは本人の口から聞きます! 本人に会わせて頂きましょうか!」
ヒューが砦にいないと分かった上での言動だ。モロルトから返る言葉も、当然、予測していた。
「申し訳ないが、従者殿はここにはいない。姫を安全な場所までお連れ頂いたのでな」
「姫様をどこへやったのですか!」
激昂してみせるエスリンに、モロルトは笑みのまま首を振る。
「ご心配なさるな、侍女殿。姫には何1つ、不自由はござらぬ」
「では、私もお世話係として姫様のお側に!」
必死の訴えに、男は哀れむような視線を向けたが、返って来たのは拒絶だった。
「その必要はござらぬ。姫は大切にお預かりすると我が騎士の名誉にかけて誓う故、どうか理解して頂きたい」
言葉に詰まったエスリンに代わって、ディディエがのんびりとした調子で言葉を紡いだ。
「困りましたねぇ。ご自身の名誉にかけて貴方は誓われましたが、ご領主様の名誉は踏みにじってもよいと、そう仰るわけですか〜」
口調とは正反対の言葉にモロルトの顔に初めて不快感が浮かぶ。
「騎士の名誉とは、随分と見映えの良い自分勝手な言い訳だったのですねぇ」
鈍い音がして卓が割れた。
モロルトが叩きつけた拳が、分厚い木の卓を割ったのだ。
「騎士の名誉を侮辱するか。分かった。では、騎士の名誉を証明する為に最も一般的な手段を用いようではないか」
「と申しますと?」
冷ややかに見つめる者達を怒りを籠めた瞳で見返して、彼は宣告した。
「決闘だ。日時は貴殿らに決めさせてやろう。だが、場所は我が決める」
●姫の行方
時間は交渉が始まる少し前まで遡る。
オイル・ツァーン(ea0018)と銀は交渉班とは別に砦への侵入を試みていた。天然の要塞である上に、厳重な見張りがつけられた砦に潜入するのは、簡単な事ではない。
「お兄さん、花を買ってくれないかい?」
砦の城門を守る2人の騎士に、花売りに扮した銀が声を掛けた。物売りが城や砦を守る騎士に声を掛けるのは珍しい事ではないが、モロルトの騎士達は頭の固い連中のようだった。追い払うように手を振る騎士に、銀は食い下がる。
「デビルの襲撃や何やで家族は散り散りでさ、あたしはこうするしか生きていく方法がないんだよ」
涙で潤ませた目で見上げれば、騎士達も同情したのだろう。互いに顔を見合わせ、懐を探り始める。
「買ってくれるんだね。ありがとう」
腕にしなだれ掛かり、騎士の体を土壁に押しつけるように抱きつく。
「おいおい、大袈裟だぞ」
「いいじゃないか」
もう1人の騎士にも、銀は首に腕を回して飛びついた。
ずるずると倒れ込む2人の騎士を、上の見張りから見えない場所まで移動させ、体についた埃を払う。
「ちょろいちょろい♪」
城門内に滑るように入り込んだオイルが、手際よく騎士達を縛り上げ柱の影に転がす。
騎士に紛れ、2人は迷わず砦の最上階を目指した。設計図を見る限りでは、姫が囚われているのは最上階にある部屋のはずだ。途中、何人かの騎士と行き会ったが、誰も彼らに気付く事はない。
そして、何の障害もなく辿り着いた最上階の部屋の扉を開いて、彼らは愕然とした。
主賓の為に用意されているはずの部屋は、もう何年も使われていなかったように埃が積もり、蜘蛛の巣が張っていたのだ。
「姫は‥‥ここには連れて来られなかったという事?」
呟く銀の声が、閑散とした部屋に響いた。
●伝承
その頃、ルシフェル・クライム(ea0673)は1人、ビューロウのイゾルデ姫の屋敷で、書き物机の上に築かれた書物の山に埋もれていた。
イゾルデ姫の先祖が苦難の末にこの国にたどり着いたという冒険譚だ。記述の内容からすると、ローマの軍勢がこの島にやって来た頃か。
けれど、何だろう。この違和感は。
辿り着いた国で仲間の協力を得、聖なる宝を巡って争いが起こり‥‥。だが、故郷の教会を再現する為に持ち込まれた聖なる宝は、争いの末に行方が分からなくなる。
微妙に話が噛み合っていない気がする。年月を経て、色んな逸話や要素が混じり込み、別の話になっていった可能性はあるが‥‥。
そして、もう1つの違和感は、年代記と共に見つけた数枚の絵だった。
「この4つの光っているのが聖なる宝‥‥か? こっちは何だ? おかしな形をした山? いや、岩か?」
横に文字が記されているようだが、薄れてしまっている。
だが、それらの背後に描かれている風景は、どこか似通っていた。一体、どこの風景なのか。
「年代記の中に書かれてあるかもしれんな」
手掛かりを求めて、ルシフェルは再び膨大な量の年代記を読み直し始めたのだった。