【姫君からの依頼】決闘

■シリーズシナリオ


担当:桜紫苑

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:16 G 29 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月24日〜09月03日

リプレイ公開日:2009年09月01日

●オープニング

 ビューロウのイゾルデ姫を攫ったコーンウォールの騎士、モロルトからの連絡が入って来たのは、サウザンプトンやピューロウで発見された古文書を冒険者達が解読し、集めた情報をトリスタンの元に持ち寄ったその直後の事であった。
「ラーンス卿の居場所も確認出来た。後の事は任せて、私はイゾルデ姫を取り戻したいと思う」
 ギルドへとやって来たトリスタンは、手にした書状を冒険者達の前に広げた。
 それは、簡単に描かれたコーンウォールの地図のようだった。その最果てに、赤いインクで印が入れられている。
「これは‥‥?」
 尋ねる受付嬢に、苦渋に満ちた表情で淡々と告げるトリスタン。
 コーンウォールは、彼が二度と足を踏み入れぬと誓った故郷だという噂がある。彼も悩んだのであろうか。
「最果ての地と呼ばれる場所だ。ここで待つと、モロルトは言って来たのだ」
 とうとう、決闘の時が来たのだ。
 ごくりと生唾を呑んで、受付嬢はトリスタンの次の言葉を待つ。
「最果ての地の砦の中にあるベイリー‥‥中庭にて待つとの事だ。跳ね橋は下ろしてあるが、その先、ベイリーまではモロルトの部下が配備されている。モロルトの部下達の防衛陣を破り、ベイリーまで辿り着いて初めて、モロルトとの決闘が成る」
「それってずるくありません!?」
 正々堂々、騎士同士の決闘を思い描いていたらしい受付嬢から批判の声があがる。
 だが、トリスタンは微かに口元を引き上げただけだった。
「最果ての地の砦は比較的新しい砦で、さほど大きくはなかったと記憶している。跳ね橋を攻略する必要がないのだから、攻城戦としては簡単な方だろう」
 事もなげに、トリスタンは言い切ると、依頼状に彼の記憶にあるという最果ての地の砦の見取り図を描き込んでいく。
「跳ね橋を越えてすぐの門上には弓兵や術者が使う矢狭間があるが、数は多くなかったはずだ。海側の見張りの為だけに作られた砦故に、侵入を防ぐ為の石壁は3壁。さほど多くはない。現れるモロルトの部下達さえ抑える事が出来たら、ベイリーまで辿り着けるだろう。ただし、モロルト側から、魔法、武器の類に制限は付けないが、飛獣は使わぬ事という条件が出ている」
 そこで言葉を切って、トリスタンは苦笑を浮かべて見せた。
「それだけ小さな砦だという事だ」
「ですが、トリスタン卿、罠が仕掛けられている可能性があります」
 心配そうな受付嬢に、トリスタンは首を振った。
「文面、対応から考えて、モロルト卿は卑劣な手を使う騎士ではなかろう。ただ‥‥」
 気になるのは、冒険者が調べて来た「モロルト」と文書で決闘の打ち合わせを行っている「モロルト」、そして姫を攫った「モロルト」‥‥1人の人間のはずなのに、受ける印象が僅かずつだがずれている事だ。
 純朴で、コーンウォールを愛する豪快な騎士。
 騎士としての体面を重んじ、細やかな心配りを見せる騎士。
 そして、恋情のままに突っ走り、他人の言葉を跳ねつけ、激昂する騎士。
 全て同一人物のはずだ。重なる所も多い。だが、トリスタンには、何かがぶれている印象を拭い去る事が出来ずにいた。
「ともかく、砦に配されている卿の部下達を倒し、ベイリーまで辿り着く事が出来れば、本人と会える。その後は‥‥」
「本人と決闘して、姫を取り戻す! ですね?」
 緩く、トリスタンは頭を振る。
 どうやら、それだけではないらしい。
「モロルトは折角の精鋭達が決闘を見物するだけではつまらぬだろうと、こちらの人数に合わせた精鋭を用意すると言っている」
「‥‥って、団体戦ですか!?」
 騎士としての体面を重んじているはずのモロルトが選んだ「決闘」の手段。
 これもまた、トリスタンの中でモロルトの印象が曖昧になっている原因の1つだ。
「そして、我々が決闘に勝利した場合には、姫の居場所を教えると。我々が敗れた場合は、姫との婚礼を挙げるそうだ」
「ちょっと待って下さい、トリスタン卿! それでいいんですかっ!?」
 思わず大声を上げた受付嬢に、トリスタンは何も言わずに依頼状に署名を入れた。
「勝てばいいだけの事だ。コーンウォールまでは私が馬車を出す。長旅になるが、よろしく頼む」
 何かを振り切るように、トリスタンは依頼状を受付嬢へと渡した。
 一瞬、躊躇いを見せたが、受付嬢はゆっくりと、その羊皮紙に受理の印を捺す。
 そうして、トリスタンが受けた決闘への協力者の募集はギルドへと張り出された。

●今回の参加者

 ea0018 オイル・ツァーン(26歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea0673 ルシフェル・クライム(32歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1123 常葉 一花(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea1274 ヤングヴラド・ツェペシュ(25歳・♂・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2708 レジーナ・フォースター(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2834 ネフティス・ネト・アメン(26歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ea9669 エスリン・マッカレル(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec0129 アンドリー・フィルス(39歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)

●リプレイ本文

●結託
 イゾルデ姫を連れ去られ、面目を潰されたサウザンプトン領主の元にも、モロルトとトリスタンの決闘の知らせは届いていた。
「確かに対等ではないですね‥‥」
 トリスタンに提示された決闘の内容を吟味していたレジーナ・フォースター(ea2708)が呟く。これでは、決闘と言うよりも攻城戦のお誘いだ。
「ほら、頼まれてたもの。まあ、俺ごときの委任状なんぞ、あっても無くても同じだろうが」
「億万が一、役に立つかもしれません」
 アレクの手から委任状を引っ手操ると、懐にしまう。
「それから、もしもヤツが現れたら」
「問答無用で捕獲します」
 ふふふふ。
 にんまりと笑い合う2人。レジーナの肩に乗ったお蝶ふじんまでもが邪笑いを浮かべている。ペットは飼い主に似るというのは、あながち間違いではなさそうであった。

●天使の島
 パラスプリントを駆使して、再びコーンウォールの地を訪れていたアンドリー・フィルス(ec0129)は、噂を頼りに奇妙な形をした島を探して海岸線の調査を行っていた。
「エクスカリバー、カラドボルグか」
 フライを解いて地上に降り立つと、発見された絵の中に記されていた単語を繰り返す。
 見つめる先、話に聞いた通りの奇岩がある。
 確かに竜の形に見えない事もない岩山だ。その麓には豊かな緑が広がっている。
 この地に向かう前に、宮廷図書館で関係がありそうな書物を調べてみたのだが、運悪く図書館長は留守で、司書として勤める者から、伝承に関する書物が抜き出された形跡があると聞かされた。大量の書物を収蔵している図書館故、収蔵物の一覧と抜き取られた書物とを照合するのに時間が掛かっており、それが何の書物だったのか、結局分からず仕舞いだった。
「すまないが教えてくれ」
 近くで網を繕っていた漁師に、アンドリーは声を掛けた。
「あの島は、何と言う島だろうか」
 アンドリーが指差した島をちらりと見ると、漁師は軽い口調で答えた。
「天使様の島と呼んでるよ。昔、天使様が災いを封じて下さったって話だ」
「災い‥‥」
 漁師は、ゴツゴツとした指を竜の形をした岩山へと向けた。
「あれが暴れていた悪い竜だと、年寄りは言ってるがね。本当かどうかは知らんが。ただ、あの島には天使様の言いつけを守って、竜が再び蘇らないように見張っている一族が今も住んでいるのは確かだな。それ以外の者が足を踏み入れると、たちまち竜がその生命を奪い取って蘇るってんで、誰も近づかないよ」
 誰も近づかない島。
 アンドリーは手の中のソルフの実を握り締めた。自分ならば、船もなくあの島へ行く事が出来る。だが‥‥。
「もう1つ、聞かせてくれ。その一族とやらは、島から出て来ないのか?」
「いいや。たまに食料とか買いにやって来るよ。ほれ、見てな。そのうち分かる」
 漁師はゆらゆら揺れる海面を示した。
 丁度、引き潮の時間のようだ。
「! これは!!」
 アンドリーは息を呑んだ。
 潮が引いていくにつれて、海岸から島へと続く道が現れたのだ。
「この道を通って、島の連中はやって来る。でも、こっちの連中は誰も島へは渡らない。迷信だと思っていても、自分が悪い竜を目覚めさせちまわないかと怖いのさ」

●見えぬ未来
 モロルトが指定した最果ての地の砦は静まり返っていた。手紙に記されていた通り、跳ね橋は下りている。だが、どこかで息を詰め、自分達へと狙いを定めている者がいる。
「さて。本番はここからだ。ネティ、あちら側の配置はどうなっている?」
 尋ねたオイル・ツァーン(ea0018)に、ネフティス・ネト・アメン(ea2834)は、「え」と顔を上げた。心ここに在らずの様子だ。
「どうした? ネティ?」
 気遣うエスリン・マッカレル(ea9669)に、ネティは慌てて首を振る。
「な、なんでもない。ちょっと待ってて。すぐに‥‥」
「占いの結果が気になっているのでしょう?」
 情け容赦なく核心を突いたレジーナの一言に、ネティの動きがぴたりと止まった。
「な、な‥‥」
「んでもない事ないでしょう? あれだけうんうん唸っていたのですから」
 隠し立て無用、とレジーナは何かを言い募ろうとするネティを遮った。
「私達があなたの悩みに気が付かないとでも思っているのですか」
 途端に、ネティの顔がふにゃあと歪む。
「だって、どうやってもイゾルデ姫の未来が真っ暗なんだもの! こんな事‥‥」
 はっと我に返って、ネティは口元を押さえた。これからそのイゾルデ姫の救出する為に決闘を行うというのに、あまりにも不吉な言葉だ。だが、固まってしまった仲間達の雰囲気を吹き飛ばすように、ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)はからからと笑う。
「ふはははは! なんだ? そのような事を気にしておったのか? ならばネフティス殿は気にする必要はないのである」
「なによ! それって、私の占いが当たらないって言いたいの!?」
 喧嘩腰になったネティに、ヤングヴラドは静かに首を振った。
「違うのである。ネフティス殿の占いは未来を見通す事が出来るやもしれぬ。だが、未来とは我らで作っていくもの。変えていく事が出来るものなのである!」
 きっぱりと言い切ったヤングヴラドに、ネティはぱちぱちと瞬きをする。そんなネティに、ヤングヴラドは小さく笑んで頷いてみせたのだった。

●決闘
「門上に5人、門の後ろに2人。防御壁の向こうには、ぞろぞろいるみたいだけど」
 太陽の力を借りて、砦の中の様子を窺ったネティが告げる状況に、ルシフェル・クライム(ea0673)はオイルと視線を交わした。門を突破するには、まず、その7人を倒す必要がある。
「攻城戦の場合、有効な手段は様々ですが、今回に限っては勝手が違います」
 道々、兵法書を読み込んでいた常葉一花(ea1123)に、仲間達の視線が集まる。
「皆様、どうかご無事で。お互いの務めを果たしてベイリーにてお会い致しましょう」
 作戦は既に練ってある。それだけの時間は十分にあった。
「あ、あの、トリスタン卿」
 躊躇いがちに、エスリンは緋色のマントと銀の鎧を身につけたトリスタンを呼び止めると、己の髪を1本、引き抜いた。
「この戦いの間、これを卿の指に結ぶ事をお許し頂けますか? そして‥‥その‥‥願わくば卿の御髪も私の指に‥‥」
 突然の申し出にトリスタンは首を傾げる様子を見せたが、すぐに表情を緩めた。
「これは、エスリンの故郷の勝利のまじないか何かだろうか?」
「え、いえ、あの‥‥その‥‥」
 微かな笑みと共に、トリスタンの手が差し出される。顔を赤くしながらも、エスリンはその指に自分の髪を結んだ。そして、渡された髪を己の手に結ぶ。
 こほん、という咳払いに、見て見ぬフリをしていた仲間達の存在を思い出したエスリンは慌てて愛馬の手綱を取り、トリスタンは更に首を傾げた。
「どうした? オイルやルシフェルもまじないをするのか?」
「‥‥いや、そーゆー事をした日には、キャメロットでヲトメの餌食にされるだろうからな」
 ふふ、と黄昏れるオイル。かつての依頼の囮作戦がいつの間にか書物になっていたなんて、口が裂けても言えない。
「ともかく、そろそろ行くのである」
 己自身に聖なる誓いと聖なる加護の術をかけると、ヤングヴラドは両手に装備したシールドソードとブリトヴェンを掲げて突入を開始した。当然の如く、頭上から矢の雨が降る。
 ルシフェルがウィングシールドで矢を弾いて、その後に続く。
 降って来るのは矢だけではない。けれど、それを見越して加護の術を使っているのだ。仲間が次の行動を起こすまで持ち堪えられる自信はある。
「ネティ!」
「中央! それから右隣!」
 その一言で、全て通じた。同時に放ったエスリンの2矢は、狙い違わず矢狭間から覗いていた敵弓兵を射抜く。彼女の愛馬の後ろに乗ったネティも太陽の宝玉で門上の敵を狙い討ちする。
 矢と術の攻撃が弱まった事を察して、ヤングヴラドとルシフェルは一気に橋を駆け渡った。
 門の裏の兵が2人を迎え討とうと剣を抜こうとして、その場に崩れ落ちた。インビジビリティリングを使って、先に砦に潜入していたオイルの姿が、その背後からゆっくりと現れる。
「皆さん、残りは私が。一気に突入して下さい!」
 叫ぶと同時に、レジーナはスクロールを広げ、門上に残っていた兵に向かって稲妻を放った。頭上で炸裂した稲妻の衝撃を感じつつ、一息に門を潜り抜ける。門を破られた事は、中にいる兵達にも伝わったのだろう。すぐに数人の者達が姿を現した。
 しかし、彼らは、その動きが見えている冒険者達の敵ではなかった。
 数倍の戦力差をものともせずに、彼らは次々と3重の石壁を突破した。
 中庭に辿り着いた彼らに、モロルト側は動揺した。たった8人、3重の壁のどこかで力尽きると思っていたようだ。
「冒険者を甘くみたのが運のつきだ」
 ざわつくモロルト側の兵達を静かな言葉で威圧しながら、オイルは注意深く周囲を確認する。
「オイル殿、レジーナ殿は右に! 私とヤングヴラド殿は左へ回る! ネフティス殿とエスリン殿は援護を!」
 モロルトの周囲に立つ7人の騎士を分断し、トリスタンとモロルトの一騎打ちを狙って、ルシフェルは仲間達を分散させた。
 戦力を分けた彼らに、敵は戸惑ったようだ。相手は戦場のように乱戦に持ち込むつもりだったらしい。左右に分かれた冒険者達を、慌てて騎士達が追う。初手はこちらのもの。ルシフェルはルーンソードで相手の剣を受けながら、薄く笑んだ。
 孤立しながらも動揺を見せず、巌のように立つモロルトへは、打ち合わせの通りにトリスタンが突っ込んでいく。
「騎士トリス‥‥いや、トリスタン卿。お相手仕る」
 堅苦しい宣告と共に、モロルトは剣を抜いた。
 剣と剣がぶつかり合う激しい音が響く。モロルトの剣は見た目の通り力強い。その重そうな一撃を、トリスタンは軽く受け流していく。流麗な剣舞のような太刀筋だ。
「あっ! オイル!」
 援護に徹していたエスリンの背後でネティが声を上げた。右側、オイル達と対峙していた騎士の1人が、モロルトの援護へ回ろうとしたのだ。
「くっ!」
 ライトバスターでもう1人の騎士の剣を押さえ込んでいたオイルの意識が散じた一瞬を敵は見過ごす事なく、形勢が逆転する。助太刀に入ろうとしたレジーナを、反対側から飛んだ炎が邪魔をした。
「ちっ!」
 懐に隠し持っていた清らかな聖水を、目の前の騎士ら目掛けて振り掛けた。モロルトを操る者がいるとしたら、彼の周囲にデビルが潜んでいる可能性を考え、持ち込んでいたものだ。
 だが、聖水は騎士を濡らし、注意を逸らしただけに終わった。
「デビルではない‥‥という事か? では、一体‥‥」
 この一連の事件は、誰が考えた茶番だ?
 再び騎士へと肉薄しながら、オイルは今までに関わった者達、そして、出来事を思い浮かべて眉を寄せた。
「トリスタン卿!」
 トリスタンに迫る騎士に狙いを定め、矢をつがえたエスリンはぎりと唇を噛んだ。激しい剣戟を繰り広げている場では、トリスタンに当たる可能性がある。
 ならばせめて、とエスリンは手綱を引いた。
 が。
「邪魔はさせません」
 敵の一瞬の動きを読んで先回りをしていたとしか思えない一花の出現に、モロルトの援護に向かった騎士が蹈鞴を踏んだ。
「メイドの勘を甘くみないで下さいね」
 ふっと黒い微笑みを浮かべて、一花は闇雲に振り回された剣を避けるとクリスタルソードで相手を切り裂いた。
「お見事」
 思わずぱちぱちと手を叩いたヤングヴラドは、悪戯っぽい笑顔をルシフェルへと向ける。
「我々も負けてはいられぬのであるな」
「そうだな」
 ルシフェルが敵の剣を弾き、互いに飛び退いた瞬間を逃す事なく、ヤングヴラドは聖なる母への祈りの言葉を唱えた。その祈りはルシフェルを鼓舞し、中庭に辿り着くまでの戦いに疲弊した彼の気力を漲らせるものとなった。
 そして、彼らの手によって7人の騎士達が地へと倒れ伏した頃、モロルトの喉元にはトリスタンの剣先が突きつけられていた。
 モロルトの背後では、戦いの最中、影のようにトリスタンを守っていた一花が気を抜く事なく、クリスタルソードを構えたまま待機している。
「サウザンプトン領主の代理、レジーナ・フォースター、決闘の勝敗、確かに見届けました。トリスタン卿と冒険者の勝利です」
「姫の居場所を教えて貰おうか」
 ぐるりと周囲を取り囲んだ冒険者達に、モロルトは不敵に笑ってみせた。
「分かった」
 剣を手放した右手を、彼は挙げた。その直後、砦の物見櫓から鳥のような小さな影が飛び立つ。
「姫の居場所を記した手紙は、確かにギルドへと届けておこう」
 いきり立つ冒険者達に、モロルトは哄笑を浴びせかける。
「はははははは! 一度キャメロットに戻って、再びコーンウォールまでやって来るがいい!」
「この‥‥ッ!」
 細腕を振り回し、殴り掛かろうとするネティを止めて、エスリンは真剣な眼差しでモロルトを見据えた。
「モロルト卿、1つ尋ねたい事がある。貴殿は聖骸布の行方を知っているか?」
「聖骸布? 何故、そんなものの行方を知ると思うのだ? 負けた我々は‥‥負けた‥‥」
 モロルトの視線が宙へとさ迷う。何も見ていないような虚ろな視線に、冒険者達は互いに顔を見合わせる。それまでのモロルトとは、まるっきり様子が違う。そして、それはモロルトだけではなかった。
「負け‥‥負けた‥‥」
 倒れ伏していた騎士達も、周囲を守っていた兵達も、致命傷までは与えていない。そんな彼らがぶつぶつと呟きながらゆっくりと体を起こす。
 咄嗟に武器に手を伸ばした冒険者達は、次の瞬間、息を呑んだ。
「負け‥‥れば‥‥死なねば‥‥ならない‥‥」
 モロルトを始めとして、彼の部下達が次々と剣や槍で己を突き刺し、互いの心臓を貫き合って自害したのだ。
「こんな‥‥こんな事は‥‥」
 呆然と呟くネティから、無惨な死体を隠すようにその目を覆うと、ヤングヴラドは苦々しげに吐き捨てた。
「このような事を仕組む輩は悪魔以外、いないのである」
 辺りに充満した血の匂いを風が運び去っていく。
 彼らはその風の中に、悪魔の嘲笑を聞いたような気がした。