【アニュス・ディ】望みしものは
|
■シリーズシナリオ
担当:桜紫苑
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:13 G 57 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月09日〜08月19日
リプレイ公開日:2009年08月18日
|
●オープニング
●真実探し
ふむ、と考え込む。
「どう思う?」
問うてみても、相手は深い眠りの中。彼女は仕方なさげに息を吐き出した。
「確かにわしは知らぬ事が多いようじゃな」
仲間達の眠りを守る為、彼らの「いる」場ばかり巡り、今のこの世界など、ほとんど見ていなかった。言われて気付き、手始めに人々の暮らす村に降りてみた。
道具や習慣は違えど、この世界の者達の暮らしは、どこか懐かしい。遊ぶ子供の笑い声、叱る母の声。日々を懸命に生きている者達の姿に、自然と彼女の口元も綻ぶ。
だが、そんな暮らしの中で、人々はどこか不安そうな、怯えた表情を頻繁に見せる。
彼女の暮らしていた頃にも、人々は不安を抱いていた。けれど、ここまで怯えた様子はなかったと思う。
何が、彼らを不安にしているのだろう。
そして、あの「神の仔羊」とやらも‥‥。
子供と呼んでも差し支えない者の前で大人達が言い争っていた。その中に、あの男がいた。姿形は違っていたが、間違いない。
子供は言った。
「しばらくの間、考える。仔羊は祈りを捧げて、来るべき時を待つんだ」
子供の言葉に憤る者と、恭順を示す者、大人達は様々な反応を見せた。あの男は恭順を示したが、本心んどうかは分らない。
自分の存在に気付いていただろうに、無反応だった男の動向が気にかかる。
「わしに知られてマズイと思ったか、それとも‥‥」
まあいい、と彼女は石から滑り下りた。
「あやつが何の目的でわしに近づいたのか、あの連中の中で何をしようとしているのか、明らかになる時も来よう。それよりも、だ」
握り締めた羊皮紙を、彼女は見つめた。
冒険者と名乗る者から貰ったものだ。
そこに記されたキャメロットという街は、この国の都であるらしい。歩いて何日もかかる場所にあると、旅商人だと名乗る男が教えてくれた。
ギルドの冒険者を頼む時には、依頼料という金が必要だという事も。
困った事があるのか、冒険者に頼むような事が起きたのかと、商人は何度も聞いて来た。この地方では、冒険者は嫌われているのに、余程の事が起きたのではないかと。
心配をする商人の言葉に甘えて、キャメロットに行くという彼に冒険者への伝言を頼んだ。
「お前達の真実を示せ」と。
本来ならば、キャメロットという街もこの目で確かめたかったが仕方がない。
神の仔羊とやらがどうでるのか、あの男が何を企んでいるのか分らない今、同胞が眠るこの地を長く離れるわけにはいかないのだから。
「冒険者、お前達に偽りがないと言うのであれば、わしに示せ」
片頬で笑って、彼女は苔むした巨大な石を撫でた。
「すまぬな。少し騒がしくするやもしれんが許せ」
●代理の依頼
キャメロットの壁に、奇妙な依頼が貼り出された。
「冒険者へ。お前達の真実を示せ。先日の場で待つ。スカアハ」
依頼を出しに来たのは、旅商人だった。南方の街道を歩いていたら、羊皮紙を見せられて、この場所は遠いのかと、いきなり尋ねられたのだという。
「ギルドに行きたいが、自分は行けないと言うんでね。あの辺りは冒険者への風当たりもきついし、何か理由があるんだろうと思って、代わりに行って来てやるよと言ったんだよ」
善良そうな男は、そう言いつつ、懐から珍しい細工が彫りこまれた腕輪を取り出した。
「ギルドに依頼を出すには金がいると教えたら、これを外して渡して来た。私にも、ほれ」
細い指輪。だが、おそらく、その材質は金だ。
「じゃあ、確かに依頼を出したよ。冒険者の皆さんは、あの娘さんの頼みを聞いてやっておくれ」
疑う事を知らないと思しき、初老の男は手を振りつつギルドから出て行った。
「あれでよく旅商人が務まるわね‥‥」
ぽつり、呟いた受付嬢に苦笑して、冒険者達は貼り出された依頼状を見た。
どう見ても、果たし状か呼び出し状にしか見えない依頼状を。
●リプレイ本文
●依頼人
「来たか」
声を発したのは、苔生した石に背を預け、瞑想するように目を瞑っていた女だった。
彼女の言葉と同時に乱立する大きな石の間から姿を現した数名の者達。
冒険者ギルドに依頼を出したのは女。
そして、受けたのは彼ら。
依頼の内容はーーー。
●願うもの
言い争う声が聞こえて来る。難民を装い、保護を受けたばかりの彼女達がいる場所まで届くのだから、【アニュス・ディ】内部分裂はかなり進行していると思っていいだろう。
「伏見さん‥‥」
傍らで片膝を抱え込んでいる伏見鎮葉(ec5421)を呼ぶ声が微かに震えた。彼女にだけ見えるように、ヒルケイプ・リーツ(ec1007)はそっと手を開く。彼女の手の中、隠し持っていた指輪の蝶が羽根を動かしていた。それが意味する事は、1つ。
だが、鎮葉は口元を微かに引き上げただけで、気怠そうに膝に顎を乗せた。彼女が見つめるのは、言い争いの声が聞こえて来る、古い民家だ。
「あいつはここにいる。だから、蝶が反応するのは当然だよ」
「ですが‥‥」
マロース・フィリオネル(ec3138)に手伝って貰って変装した自分達と違い、周囲にいるのは本当の難民達だ。
【アニュス・ディ】が説く理想郷にしか希望を見出せなかった者、既に一員となっている知人を頼って来た者、最低限の食事にありつけると期待して来た者‥‥、理由は様々だが、ここでデビルに行動を起こされたら、何も知らない彼らまで巻き添えになってしまう。
「そう心配する事もないだろ」
鎮葉は確信していた。
何かするつもりならば、とっくにやっているはずだ。自分に交渉を持ちかけて来たあのデビルは、まだ何かを企んでいる。そして、それは【アニュス・ディ】を今すぐどうこうするものではないだろう。
「‥‥私に気付いているはずだしね」
「え?」
驚いて問い返したヒルケイプに、鎮葉は肩を竦めてみせた。
「ばれてるよ。この完璧な変装」
変装にあたり、近くの古着屋を覗いたマロースが青ざめて帰って来たのは、昨日の夕方の事だ。この辺りの古着屋が扱っている品のほとんどは、死体から剥ぎ取られたものではないかと、彼女は言っていた。血の跡や何のものだか分からない染みが付いた服が、洗われもしないで売られているのだと。
仕方なく、彼女は鎮葉達の手持ちの服を泥で汚したり、鉤裂きを作ったりと苦心して、何とか難民として潜入出来るように整えてくれだのだ。そのマロースの苦心も、デビルの目は誤魔化せなかったらしい。
「とにかく、もうしばらく様子を見ようか」
ぽつりと呟いて、鎮葉は膝に顔を埋めた。
ぐったりとした様子を見せながらも、警戒を解くことはない。
そんな鎮葉に、ヒルケイプは軽く苦笑して、ぼろぼろの袖の中、小さく拳を握った。デビルの存在は最初から分かっていた事だ。周囲に集まる無力で無気力な人々が多すぎて、少し心配になったけれど、自分も為すべき事をすればいい。
「あ」
足の弱っているらしい老人を支える為に腕を伸ばして、ヒルケイプはその垢じみた体を今まで自分が座っていた場所へと座らせた。よく見れば、服のあちこちに乾いた血の跡がついている。
「おじいさん、どこか怪我を?」
老人は力無く首を振った。
「‥‥こりゃ息子の血だ。悪どい冒険者が仕組んだ争いン時、わしらの村にまで騎士様達の戦いが及んでな‥‥。息子はわしを庇って‥‥」
「そ‥‥んな‥‥」
それは冒険者のせいではないと言いたい。けれど、今のヒルケイプには出来ない。代わりに、彼女は別の事を語り始めた。
「ねえ、おじいさん。噂で聞いたんだけど、地獄でデビルの王が封印されてしまったんですって。本当なら、もうすぐ地上からデビルもいなくなって、仔羊を捧げて祈る事もなく、幸せに暮らせる世界になるかもしれませんね」
「そんな世界になればええんじゃがのぅ‥‥」
大丈夫。
言葉の代わりに、ヒルケイプは老人の手をぎゅっと握った。
●「真実」
「さて。お前達が来たという事は、わしの「依頼」とやらは無事に「ギルド」に届いたようじゃな」
不敵に笑った女、スカアハは上機嫌のようだ。
「ふん。さほど難しくはなかったではないか」
「あなたが依頼の代行を頼んだ方のお話ですか? よかったですね、人の好い方で。今、この辺りでは冒険者は評判が悪いものですから、依頼の代行を引き受けてくれる人は多くありませんし、それに腕輪だけ持ち逃げされてもおかしくはなかったんですよ」
苦笑いで彼女の無謀を諭すファング・ダイモス(ea7482)に、それでもスカアハはカラカラと笑った。
「届かなければ、それはわしとお前達との関わりがそれまでじゃったというだけ。じゃが、無事に届いたというのであれば」
すぅ、とスカアハの目が細められる。彼女が何を求めているか、最初から分かっている。
「彼らの真実」、ただそれのみだ。
「待って下さい。その前に」
マロースが歩み出ると、周囲の遺跡をぐるりと見回した。誰かが潜んでいる気配がない事を確認して、スカアハを振り返った。
「念のために、ホーリーフィールドを張ります。これは聖なる結界で、私達に悪意を持つ者達は入る事も、攻撃する事もが出来なくなります」
「ふむ。邪魔が入らぬ為の結界か。よかろう」
頷いたスカアハに、マロースは表情を改めて続ける。
「少しでも私の行動に不審を覚えるようでしたら、迷わず攻撃して下さい」
だが、返って来たのは豪快な笑い声だった。
「そのような事をする輩か否かぐらい、わしが分からぬとでも思うておるのか」
え、でも‥‥と目を瞬かせた彼女に、スカアハは片頬を引き上げる。
戸惑いながらも、マロースは聖なる母へと祈りを捧げた。
「さてと、これで邪魔が入らなくなった。けれど、効果は永遠に続くわけじゃない。マロースの負担が増える前に本題に入ろうか、スカアハ」
腕を組んだ限間時雨(ea1968)の言葉に、スカアハは彼女へと向き直る。
「望む所じゃな」
背後に立て掛けられている槍を見遣って、時雨は一歩、足を踏み出した。
「私自身の真実ってのはね、スカアハ。面白いか、面白くないか、だ」
時雨の言葉に、スカアハの眉が跳ね上がる。彼女の真実は、スカアハの胸にどう響いたのだろう。
「私達は皆、それぞれに思う所があって、それぞれの理由で動いている。1つには纏められない。だけど、寧ろ、それがいいんだ。私は国を護る為の騎士でも金で雇われるだけの傭兵でもない、「冒険者」なんだから」
冒険者、とスカアハは口の中で繰り返した。
「そう。少なくとも、ここに居るのは、遺跡で自殺したり変なものを目覚めさせたりしようとしている連中を放っておけない、お節介焼きでね。どうよ? 面白いでしょ?」
ずいとスカアハに顔を近づけ、悪戯っぽく笑った時雨の言葉を引き継いだのは、テティニス・ネト・アメン(ec0212)だ。
「私はね、本来、この国の民じゃないわ。今、ここにいるのは色々な理由と事情が重なった結果だけど」
一旦、言葉を切って、テティは遠い故国を懐かしむように空を眺めた。
「遙か南の、私の故国で圧政に苦しめられている民と、忘れ去られようとしている古の神々への信仰を守る為に戦って来たの。だからこそ、この国の民が害されるのを黙って見ていられない。この地に眠っている古き神々が故郷のアトン神のようにセトの眷属に利用されるなら、他人事じゃないし、辛いわ」
それぞれの想いを、ファングは1本の紐に託してスカアハへ手渡す。
「真実を示せと、あなたは言いました。でも、真実なんて1人1人、違うものだと思います。ただ、俺達冒険者は、人々の幸せや平和を守りたいと願っているのです。依頼を通して関わる人達が、少しでも幸せな未来に向かえるように。この紐の幾つもの結び目には、そうした冒険者達の祈りがこめられています」
結び目が、彼らが語るそれぞれの真実であるかのように指でなぞっていたスカアハは、ついと視線を最後の1人へと向けた。
「で。お前の真実とは何じゃ、命知らず」
はあ、と大きく息を吐いて、天城烈閃(ea0629)は肩を落とした。
どうやら「命知らず」に進展はないらしい。
「俺は、はっきり言ってしまえば、戦いなんて好きじゃないんだ。身1つで、どこでも好きな所に行って、気ままな時間を過ごせたらいい。だが、今のこの世界で、そんな生き方をするのは難しい。悪魔や魔物だけじゃなく、自分の利益の為には他人を平気で不幸にする奴らがいる。どうしようもなく分かり合えなくて、戦うしかない相手がいる。命がいらないからでも、力があるからでもなく、自分が正しいと思う事の為に、守りたいと思う人達の為に‥‥皆で精一杯生きたいから、戦うんだ」
ほぉ、とスカアハは目を眇めた。
「それ故の‥‥非武装か? わしと戦いに来たのではない、と?」
「そうだ」
きっぱりと言い切った烈閃の首筋に、槍先が突きつけられる。
「は‥‥速い」
呆然とファングが呟く。スカアハの槍を受け止めた事がある彼は、その威力を身をもって知っていた。もしも、スカアハが本気で烈閃を狙ったならば、今頃、烈閃の首は胴体と離れていただろう。
「スカアハは俺を殺さない」
槍先を突きつけられて尚、自信を持って言い切った烈閃に、スカアハは、はあと溜息をついた。
「だからお前は命知らずじゃと‥‥ん?」
目に留まらぬ速さで槍先を突きつけたスカアハの手の中に、するりと何かが滑り込んで来る。それは、愛を誓い合う男女の姿が彫られた銀の指輪だ。
「あ‥‥天城さん‥‥」
ファングが思わず後退ってしまうのは仕方がないことだった。
盾にするように、マロースと時雨、そしてテティが彼の背の後ろに身を隠す。
「これは?」
「見ての通り。愛を誓う指輪だな」
「天城さん‥‥挑戦者過ぎますっ」
4人がじりじりと自分達から距離を離して行くのに気付いていながらも、烈閃は指輪の説明を続けた。
「俺達の間では、恋人への贈り物とされる事が多い」
額を押さえて、スカアハは先ほどより深く息をつく。そして、ちらりと避難している者達を見ると、渡された指輪へと視線を戻した。
「これがお前達の真実か。よく分かった。じゃが」
烈閃の手の中に、スカアハは指輪を落とした。
「わしには、まだ確かめねばならない「真実」がある。それを確かめるまでは、愛じゃ恋じゃと現を抜かしてはおれん」
「それって‥‥」
何かを決意したかのようなスカアハの表情に、時雨が声を上げかけた。けれど、それは彼女自身が確かめねばならない「真実」だ。続く言葉を飲み込んで、時雨は聖水を取り出した。
「真実を確かめたかったら、それを相手に掛けてみると良いよ。それで傷を負うなら、そいつはバロールに近いものだよ」
●誓い
食器類を片付けながら、リン・シュトラウス(eb7760)は傷ついた顔をした少年‥‥【アニュス・ディ】を導く導師を盗み見た。
変装は完璧だ。おそらく、少年もリンだと気付いてはいない。
ーーあの人に言われた事なんて、気にする必要なんてないです
はっと、少年は顔を上げた。
周囲を見回す彼に、リンはテレパシーのまま語りかける。今、この組織は混乱を来している。誰が聞き耳を立てているか分からないからだ。
ーー何も聞こえないフリをして。心の中で応えてくれたら、私にも届きます
ーー近くにいるのか?
リンは声を殺して笑った。やっぱり、気付いていないようだ。
ーーいますよ。近くに。だから、君が誰に何を言われていたかも知っています
ーー笑えばいいだろ。導師なんて言われてる癖にって
拗ねたような少年の返事に、リンは危うく食器を落とし掛けた。笑ってしまいそうだ。でも、それは少年の言うような事に対してではない。拗ねているという素の感情をリンに垣間見せてくれたからだ。
「笑わない。だって、君は皆を守ろうとしたんだもの」
纏めて持っていた食器を机の上に戻して、リンは少年に向き直った。
「お前‥‥」
「だから、私も決めました。君が考えて考えて決めた事に協力しようって」
驚いて立ち上がった少年に歩み寄り、リンはその手を取る。
「約束。私は君の‥‥」
ーーリンさん!!
ヒルケイプの警告と同時に、石の礫が部屋の中へと投げ込まれた。咄嗟に腕を伸ばして少年を庇って、リンは床に転がる。
「大丈夫ですか、リンさん!」
「大丈夫です。でも‥‥」
手を差し出してくるヒルケイプに、リンは表情を硬くして少年を顧みた。投げ入れられた石の礫は、少年に衝撃を与えたようだ。それは、今まで導師として崇められていた彼に対する、反抗の証として彼の目に映ったのだろう。
「心配ないわ。色つき卵をぶつけてやりました」
くすくす笑いながら、ヒルケイプは片目を瞑る。
「それで、鎮葉さんが追いかけてます」
頷いて、リンは少年の手をもう一度握り締めた。
「忘れないで。私が、私達が君の考えに賛成しているという事を」
子供でも、これだけの広がりを見せた組織の長である以上、難しい決断を迫られる時が来る。その時、少しでも彼の心を支えてあげられるようにと、リンは誓いの言葉にありったけの想いを込めた。
●望みしものは
「色男が台無しじゃないか」
顔に投げつけられた絵の具を拭おうとした男の動きが止まる。
だが、誰何の声はない。
やはり気付いていたかと、鎮葉はゆっくりと「彼」に近づいた。今は、よく見知った姿ではないけれども。
「子供相手にあんな脅しなんかして。結構、小物だね、あんたも」
「‥‥子供相手には、あの程度で十分だと思いますが」
木に凭れて腕を組むと、鎮葉は水で塗らした布で絵の具を拭う男の姿を面白そうに眺める。避けようと思えば避けられたはずだ。だが、そうしなかった。それはつまり‥‥。
「これから、神の仔羊はどう神と向かい合っていくんだろう」
「さあ。あの子供次第でしょう」
まだシラを切るつもりらしい。
苦笑いをして、鎮葉は彼の側まで歩み寄った。手にしていた布を奪い、髪にまで飛んだ絵の具を落としてやる。
「私は、そのために何が出来るんだろうねぇ?」
「あなたはあなたの役割を果たして下さればいいだけです」
役割?
眉を寄せた鎮葉に、男は顔を近づけた。
「あの男への切り札を手に入れる為に。もしくは、あなた自身が私のものになって下さってもいいですよ」
逸らす事なく真っ直ぐに見据える視線の中、男は薄く笑って離れていった。