【アニュス・ディ】誘惑
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■シリーズシナリオ
担当:桜紫苑
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:10 G 95 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月17日〜10月27日
リプレイ公開日:2009年10月31日
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●オープニング
●間違えた道
いつ、どこで間違えてしまったのだろう。
父と母を亡くした日か。
身を寄せ合って生きて来た妹や、親代わりになって何かと親切にしてくれた村の人達が、野盗の襲撃でたくさん殺された日か。
それとも、全てを失った自分に、あの男が囁きかけて来た時だろうか。
ーー人を超越した尊き存在である方が、あなたを選ばれました。飢える事も、傷つけられる事も、略奪される事もない理想の世界を作る為に、どうかお力をお貸し下さい‥‥。
●依頼
ひっそりと人目を避けるように、その女は辺りの様子を窺いながら冒険者ギルドの扉を開いた。その懐には、かつての仲間から託された依頼状がある。
彼女がこうしてギルドに依頼を持ち込むのは2度目の事だ。
1度目は、命の危険を感じながら飛び込んだ。
そして、今回は。
「冒険者の皆さんに、お願いがあります」
冒険者達の前で、女‥‥【アニュス・ディ】から抜け、キャメロットで職を見つけて穏やかに暮らしていたハナは、膝をつき、懇願するように手を合わせた。
「これは、【アニュス・ディ】に残っていた友人からの手紙です。行商の人の手を幾つも経由して届けられました」
羊皮紙を大切そうに握り締めて、ハナは冒険者達を見回した。
彼女が生まれ育った村は穏やかで、「冒険者」の手を借りなければならないような事件が起こる事もなかった。時たま襲って来るモンスターや野盗は、近くの騎士様達が追い払ってくれたから。
だけど、その騎士様達が互いに殺し合うという怖ろしい事件が起きた。その事件を裏で操っていたのは冒険者で、なんて怖ろしい人達なんだと思った。
噂では、弱い者を守ってくれるといっていたのに、と。
「もう、自分達ではどうにもならないから、ギルドに依頼を出して欲しいと。導師様を助けて欲しいと書かれていました」
友人からの手紙を差し出す。
怖ろしいと思っていた人達は、ハナを助けてくれた。
そして、ハナの依頼を受け、無理矢理に生贄の仔羊にされようとしていた仲間を救ってくれたのだ。
手紙を送って来た友人も、その時に助けられた1人だ。
「導師様って言うのは、【アニュス・ディ】のか!? そりゃまた何で‥‥」
冒険者が驚き呆れるのも無理はない。
だが、ハナは、【アニュス・ディ】の教えが間違っていると知った今でも、彼女達が生贄となって流す血が理想の世界へと近づけると語り、仲間達を送り出していたあの少年を何故だか憎めなかった。
「導師様は、仔羊となる者の意思など関係なく、血を捧げようとする者達に捕らえられてしまったそうです。‥‥もともと、導師様は私のように、いざとなると血を捧げる事を怖がる者達に無理強いはしませんでした。血を捧げる決心がつくまで、食事を作ったり、繕い物をしたり、皆の世話をすればいいというお考えでした」
「そんな導師様とやらに、反対する奴らがいたんだな」
はい、とハナは頷いた。
「手紙には、常に導師様のお側におられた方が中心となり、導師様をどこかに閉じ込めてしまったようです」
ハナから渡された手紙を読み進めていた冒険者の目が、すぅと細められる。
拙い字で、ところどころ綴りに間違いがある手紙には、ハナが告げた通りの事が書かれてある。そして‥‥。
「オレイ‥‥」
導師と呼ばれていた少年を拘束した男の名は、そう記されていた。
「あの、ご存じなのですか?」
怪訝そうに尋ねるハナに曖昧な笑顔で返して、冒険者達は互いの顔を見合わせた。
冒険者の間に緊張が走った事に気付いているのかいないのか、ハナは目に涙を浮かべて、再び頼み込んだ。
「どうか、どうか導師様をお救い下さい。導師様は、本当に理想の世界を求めていました。それぐらいは私にも分かります。導師様の理想の世界を求める熱意が、私を、他の人達を動かしたのですから‥‥」
●彼の目的
【アニュス・ディ】は揺れていた。
滞在する村の一軒屋に閉じこめられている導師と、彼のやり方が生温い、もっともっと血を捧げなくては理想の世界は訪れないとする者達の間で。
けれど、そんな事は彼にはどうでもよかった。
うるさく口論を繰り返す者達を追い出して、彼は扉を閉めた。
「訪問の際には、一言声を掛けるのが礼儀というものですよ、スカアハ」
「ふん。いつも勝手にやって来るのはお前の方じゃ」
いつの間に入り込んだのか、褐色の肌をした女が物珍しそうに部屋の中を物色している。
「うーむ。遠目には見ておったが、やはり生活の道具も変わっておるのじゃな」
「貴女が眠りについて、どれだけの時間が流れたかご存じですか。変わっていなければ、人間は救いようがない愚鈍な生き物ということになりますね」
ふ、と冷笑した男をちらりと見て、スカアハはそこに置いてあった木の椀を手に取る。ついでに、スプーンも。
「こういうものは変わってはおらぬのじゃな」
ほれ、と椀を見せたスカアハに、男は粗末な椅子を勧める。
「何の用かは知りませんが、座ったらどうですか」
「ふん、つれないものじゃな。何の用かは知らぬが、わしを目覚めさせておいて」
その言葉に彼は目を細めた。それは、彼女が全てを知った事を意味する。
冷たく凍てついた彼の気配に怖じる事なく、スカアハは勧められた椅子に腰を下ろし、足を組む。
「先頃、わしは、またフォモールと一戦交えたぞ。あやつらめ、バロール復活の前祝いなどと申しておった」
探るようなスカアハの視線にも、彼は薄く笑うだけだ。凡庸な田舎者の姿に、緑色の外套を纏った男の姿が透けて見えるようだ。
「邪眼のバロール。昔、貴女方が手を焼いたと伺っておりますが」
「そうじゃ。わしらの持てる全ての力を費やして、ようや眠りにつかせたものを。何者か知らぬが、余計な事をしおって」
「‥‥本当に」
呟いた男に肩を竦めて、スカアハは立ち上がった。
「バロールが目覚めたのであれば、わしは、再び戦う。仲間達は眠りについたままじゃが、この時代にも戦士はおるのでな」
「冒険者ですか?」
嘲けるような男の言葉に、スカアハは真剣な顔をして頷きを返すと、まっすぐに彼を見据えたままで続けた。
「そうじゃ。なかなか骨のある者、面白い者が多い。その冒険者がの、あるものをくれたのじゃ」
言うが早いか、スカアハは手の中に握り込んでいた小さな容器に入っていたものを、男に振りかける。
「っ!」
咄嗟に上げた男の腕に水が掛かった。まるで熱湯を浴びせられたかのように、男の顔が歪む。
「‥‥この水に傷を負うものは、バロールに近いもの‥‥と申してな!」
腰に吊していた短剣を素早く抜いて、スカアハは男の喉元を狙った。
しかし。
「スカアハ。この村には【アニュス・ディ】の人間達が多く滞在しています」
寸でのところで、スカアハの刃が止まる。
「私の一言で、私の部下達はこの村の人間達を襲うでしょう」
「お前‥‥戦えぬ者達を盾にするつもりか」
ゆっくりと喉元に当てられていた刃を押し返して、彼は笑った。
「無用の犠牲を出したくなければ、ここで大人しくしていて下さい、スカアハ。私にはやらねばならない事がありますので」
「やらねばならぬ事、とな?」
にぃ、と男は口元を引き上げる。凄絶な笑みの形に。
「ええ、そうです。せめて一矢報いる為にね」
●今回の参加者
ea0629 天城 烈閃(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
ea1968 限間 時雨(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
eb7760 リン・シュトラウス(28歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
ec0212 テティニス・ネト・アメン(30歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
ec1007 ヒルケイプ・リーツ(26歳・♀・レンジャー・人間・フランク王国)
ec3138 マロース・フィリオネル(34歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
ec5421 伏見 鎮葉(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
●リプレイ本文
●未来見
「さあ、金時。出番だよー」
限間時雨(ea1968)の声でのしのしとやって来た黄金の毛並みの熊に、仲間達がずざざっと後退った。
「お‥‥おい、まさかとは思うが、ソレを連れていくのか?」
恐る恐る尋ねた天城烈閃(ea0629)に、時雨はカラカラと笑う。
「まっさかー。金時には、ちょっと未来見をして貰うだけだよ。その後はお留守番」
「未来見?」
「うん。スカアハの事。遺跡を守っているのでなければ、きっと動いているはず。だから、ね」
金時の毛を撫でていた時雨が、僅かに目を細めた。その指には白い石の指輪が嵌っている。
「ふぅん。なるほどね」
「何か分かったんですか?」
勢い込んで時雨の方へと身を乗り出したファング・ダイモス(ea7482)の顔に、大きな熊手が押しつけられる。巨大な肉球のぷにっと感に、ちょびっとだけ和みかけたファングは、耳元を掠めた鋭い爪に、そのまま硬直する事となった。
「あら、偉いですね、金時ちゃん」
「時雨さんを守っているんですね」
感心するリン・シュトラウス(eb7760)とヒルケイプ・リーツ(ec1007)に、時雨も得意満面。
一方、ケモノに悪い虫扱いされてしまったファングはと言えば、衝撃の余り、手を木について放心状態だ。
「まあ、その‥‥気にするな」
ぽん、とその肩を叩くと、烈閃は時雨へと向き直った。金時の一撃を食らわないよう、適度な距離を保って、だ。
「それで、未来見の結果は?」
に、と時雨が笑った。
「やっぱり動くみたいだね。導師くんと一緒にいたよ。2人して手を括られて、火にまかれるみたい」
「えっ!?」
青ざめたリンに、大丈夫と片目を瞑って見せる。
「金時が見たのは、私達が何もしなかった時の未来。皆、そんな未来にする気なんざ、これっぽっちも無いだろ?」
「当然だな」
即座に返る烈閃の言葉。仲間達も同意を示して、大きく頷く。
「でも、気になるわね。オレイというセトの眷属が私達を誘い出す理由は何?」
テティニス・ネト・アメン(ec0212)の呟きに、伏見鎮葉(ec5421)が肩を竦める。
「さあ。オレイがわざわざ自分の名前を出して来た以上、何か思惑があっての事だろうね。けど、行かない理由はまったくない。ま、どちらにしても、オレイは現場から離しちゃわないとね」
鎮葉は薄暗くなって来た空を見上げた。南方に続く空。
「ほんと、何を考えてるんだろうね、アイツは」
●一時の
母親から譲り受けた櫛と彼女が一生懸命にしたためた手紙をハナから預かって来たヒルケイプを、ハナの友人は最初、信じなかった。
けれど、ハナの筆跡と書かれていた内容と、ヒルケイプの真摯な訴えに心を動かされたようだ。仲間を裏切る事に罪悪感を感じながらも、導師の現状に不安を抱いていた彼女から聞き出した村の情報を元に、リンが少年に呼びかける。テレパシーの効果範囲内にいれば、少年と接触出来るはずだ。
「どうですか?」
沈黙したままのリンに、マロース・フィリオネル(ec3138)が尋ねた。ヒルケイプが石の中の蝶でデビルの動きを確認しているとは言え、今回の敵はデビルだけではない。長い時間、村の近くに留まる事は危険だ。
「村の中にはいるみたい。でも、彼女の言っていた場所かどうかは分からないのよね‥‥」
閉じていた目を開けて、リンは難しい顔でそう答えた。
「どういう事だ?」
村から目を離さないまま、烈閃が問う。
「あの子とお話は出来たの。けれど、自分が今、どこにいるのか分からない、って。目隠しをされて、何度か移動させられたみたいなのよね」
「厄介だな」
導師の居場所が特定出来ないとなると、迅速な救出活動は難しい。どうしたものかと考え込んだ時、リンが更なる情報を告げた。
「それから、あの子の側に、もう1人、誰かいるんですって。女の人。聞いた事のない声だから、あの子も、誰か分からないみたいだけど」
「っ! それって、もしかすると‥‥。あっ、天城さん!」
咄嗟に、マロースが烈閃の腕を掴み、リンがマントを踏みつけた。足止めをされた烈閃がもどかしげに仲間達を振り返る。
「おいっ、急がないと金時が見た未来が‥‥」
「お気持ちは分かりますが、焦っては駄目です」
指輪の中の蝶は、先程から羽ばたいている。いつ、何が起きるか分からないのだ。冷静さを失ってはいけない。そう自分にも言い聞かせながら、ヒルケイプは諭すように言葉を続ける。
「ともかく、鎮葉さん達の作戦開始を待ちましょう」
逸る心はヒルケイプも同じ。祈りの形に組んだ指にぎゅっと力を込めて、ヒルケイプは村を見守った。
「あ!」
と、突然にリンが声を上げる。
「どうかしましたか!?」
仲間達に緊張が走った。
「あの子の名前を聞くの、また忘れてしまいました〜」
がっくりと地に手をついたリンを、慌ててヒルケイプが慰める。
「大丈夫ですよ。ちゃんとした自己紹介は、直接、ゆっくりお会い出来た時の楽しみにしておきましょう? ね?」
心の底から残念がっているリンには悪いが、微笑ましくて思わず笑いが漏れる。
作戦前の一時に、束の間、良い感じに緊張が解れた。マロースは烈閃と顔を見合わせて、頷き合ったのだった。
●脅迫
「さて」
朴訥とした、どこにでもいる田舎の青年を前にして、鎮葉は腕を組んだまま切り出した。
「そろそろ、お互いに決着をつけようじゃないか、オレイ」
「決着?」
青年は鼻で笑うと、するり、鎮葉へと近づき、その手を取る。
「何かを勘違いしているようですね。私は決着などつける気はありませんよ。こんな指輪をつけていても、姿の見えないお仲間も、私の望みを叶える為の障害にはなりません」
ぐ、と鎮葉は言葉に詰まった。
指輪は、ある意味牽制だった。だが、近くで気配を殺して隠れている仲間達の事までばれているとは。
「残念でしたね。ここにはデビルの気配が多すぎて、どれが何をしているのかまで分からなかったでしょう?」
いつの間にか、オレイは緑色の外套を着た青年の姿に戻っていた。デビルの姿に。
鎮葉の手を取っていた冷たい手が、彼女の顎先を捕らえ、ついと顔を押し上げる。鎮葉は視線を逸らす事なく、間近に迫る酷薄な笑みを浮かべた男の顔を真っ直ぐに見返した。
「待ちなさい! それ以上、鎮葉さんに手出しはさせませんッ!」
ばれているならば身を隠している意味がない。
飛び出して来たファングがテンペストを構えると同時に、時雨も遺跡の石の上から姿を現し、びしりとオレイに向けて指先を突きつける。
「そのとーりッ! 乙女の唇を奪おうとする不届き者は、私が成敗してくれるッ!」
え? と固まるファングと、がくりと項垂れる鎮葉。オレイはと言えば、さすがに驚いた様子で、二度、三度と瞬きを繰り返した。
「大方、導師くんにアニュス・ディの方針を示したのもアンタでしょ。戦いと論争の侯爵さん? その上、鎮葉に手ェ出すわ、スカアハに出鱈目吹き込むわ、好き勝手してくれちゃって。でも、スカアハの疑念は断たせて貰ったよ!」
「いや、まだ手ェ出されてないし」
鎮葉の突っ込みに、時雨は驚き、更にオレイを詰る。
「まだ、だって? とことん見損なったよ、この甲斐性無し!」
「‥‥アンタ、どっちの味方よ‥‥?」
脱力したファングがテンペストに体を預けて片膝をつく。額を押さえた鎮葉は深い溜息を吐いた。
「ともかく! アンタが村を離れている間に、導師くんや村の人達の安全は確保させて貰ったよ! そろそろ観念して大人しくお縄に‥‥」
石の上から飛び降りた時雨が高らかに勝利を宣告しようとしたその時に、オレイは堪え切れないと言った様子で笑い出した。
「愚かな。あの子供を助けられると、本当に思っているのですか?」
くつくつと笑いながら、オレイは彼らの目の前で手を開いて見せた。
手の上に乗っているのは、小さな白い玉だ。
「これは‥‥まさか!」
それの正体を察した鎮葉が、素早く手を伸ばす。だが、オレイの方がほんの僅かに早かった。
「オレイ! 貴様ッ!」
風を切る音と共に、ファングのテンペストがオレイへと振り下ろされる。けれども、それを予期していたかのように、オレイは飛び退っていた。
「言ったでしょう? 私は私の望みを叶える。あなた方はどう足掻こうとも、私の手の上で踊るしかないのですよ」
ぎり、と唇を噛むと、鎮葉は覚悟を決めた。
「分かった。アンタの望みとやらに付き合ってやるよ。ただし、私の刀がアンタを貫くまでだけどね」
「そんな日は永遠に来ないかもしれませんよ?」
軽く地を蹴ったオレイが、鎮葉の背後へと降り立つ。ファングと時雨とを牽制しながら、オレイは鎮葉の髪を一筋掬うと、唇を近づける。
「来るさ、必ずね。さあ、アンタの望みとやらをさっさと言えば?」
にぃ、と笑って、オレイは囁いた。
ーーサウザンプトン領主の従妹、ルクレツィア嬢を、私の元に連れて来て下さい。
●陥る
「おかしいわ」
めぼしい建物を透視したテティが呟いた。
鎮葉達がオレイを足止めしている間に、強硬派を捕らえ、導師と一緒に囚われている女性とを救い出す為、村へと奇襲をかけたのだが、肝心の導師の姿がどこにも見当たらないのだ。数軒の建物しかない小さな村だ。リンも、先程導師と心の会話を交わしている。にも関わらず、どこにも見当たらないなんて、おかしすぎる。
「テティさん、危ない!」
呆然としたテティに、デビルの爪が襲い掛かる。それをアイスコフィンで一旦封じて、マロースは散り散りになった仲間達の姿を確認すべく、振り返った。
「皆さん、気をつけて下さい! デビルの数がまた増えました!」
奇襲直前、念のためにとレジストデビルを仲間に付与した。けれど、それも後どれだけの時間保つのだろうか。
村に入った途端、強硬派より先にデビルの群れが襲って来たのだ。村人どころか、【アニュス・ディ】の人々がどうしているのか、確かめる事もままならない。
「くそっ、キリがない!」
デビルを切り捨てた烈閃が叫ぶ。
と、同時に村の一角から火の手があがった。
建物の1つにデビルが火をつけたのだ。
金時の未来見が、彼らの頭を過ぎる。
「スカアハ!」
火の中へと飛び込んで行こうとする烈閃の腕を、テティが掴む。
「待って。あの中には誰もいないわ。あの中だけじゃない。村全体がもぬけの殻。多分、私達が村に入る直前に移動させたのでしょうね」
「あの子も‥‥?」
恐る恐る尋ねて来るリンに、ええと頷いて、テティは眉を寄せた。
「時間的に言って、リンさんの心話を終わったのと同時ぐらいかしら? どうやら、私達は見張られていたようね」
燃え盛る火を見つめて、テティは言い捨てる。自分達の行動が読まれていた事、先回りされて、【アニュス・ディ】の人々も、スカアハもどこかへ連れ去られた事、全てがただただ腹立たしい事柄であった。