【騎士育成物語】試練
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■シリーズシナリオ
担当:桜紫苑
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 72 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月29日〜04月05日
リプレイ公開日:2005年04月06日
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●オープニング
●変化
「あ、おはよーございます!」
扉を開けた途端に、明るく礼儀正しい挨拶が聞こえて来た。
突然の事に面食らった冒険者が、何とか返事を返すと、挨拶の主は足取りも軽くその場から離れていく。
「‥‥なんつーか」
苦笑を漏らした男に、居合わせた女がぽんと肩を叩いた。
彼の言いたい事を、彼女も察してくれているようだ。
「ついこの間までは隅っこでシクシクメソメソ泣いてたのにな」
「自信がついたんでしょ。いい事よ」
そう。
ギルドに顔を出す者達に明るく挨拶を投げかけている青年は、先日までギルドの隅で1日中、しくしく泣いていた青年なのだ。黴でも生えるのではないかと、何人かが本気で心配するぐらいに。
「自信って言うより、なんか、春が来たって顔してないか?」
「‥‥春?」
依頼の報告書を見る限り、普通にズゥンビを退治して女性(冒険者)を守ったぐらいなのだが、と男は別の冒険者に話しかけている青年を見て首を傾げた。
「‥‥初めて自分の力でモンスターを倒したと言う事で、自信がついたにしては‥‥何か‥‥おかしい?」
女は眉を寄せる。男が何を言いたいのか、分からなかったのだ。
「何て言うのかな‥‥。嬉しくて天に舞い上がっている感じ?」
「モンスターを倒したから?」
2人は顔を見合わせた。
たかがモンスターを倒したからと言って、天に昇る程に浮かれて‥‥そう、まさにその言葉がしっくりと来る‥‥あれほどに浮かれるものだろか?
彼、アリアスの変化に、これといった理由を見出す事も出来ぬまま、彼らは肩を竦め合った。
●試練
「この依頼を見てくれ」
男が差し出した依頼状に、そこにいた全員が依頼内容を読むべく頭を寄せる。
「なに、コレ? 盗賊の契約書?」
怪訝そうに尋ねた女に、男は1つ頷いた。
納得がいかない様子の女に、彼は内容をかみ砕いた説明を始める。
「つまり、盗賊達に定期的に金品物品を納めれば、村に乱暴は働かないし、他の盗賊からも村を守ってやる‥‥という内容の契約なわけだが」
なるほど、と女は頷いた。
盗賊が村を襲うどころか用心棒の仕事までしてやるから報酬を寄越せと言って来ているのだ。
「ここまではよく聞く話だが、この村は、盗賊達の持ちかけた契約に乗らないと言っている」
そうなると、間違いなく盗賊側から報復される。契約に乗らなかったお前達が悪いのだと、略奪し尽くされるだろう。
「俺は依頼人に言った。早まるな、と」
いくつかの目が男に集まった。
盗賊の脅迫めいた契約に応じろというのかと、仲間達の顔はそう語っていた。
「よく考えてみろ。契約を交わしたが最後、村は血の1滴まで絞り尽くされるぞ。奴らは「定期的に」と言っているんだからな。契約に乗っても、乗らなくても、結局は同じ事だ」
確かに。
何人かが同意を示して頷く。
「ならば、その根本を断ち切るしかなかろう。だから、俺はギルドに依頼を出す事を勧めたんだ」
次の言葉を待って、仲間達は黙って男を見た。
息を1つ吐いて、男は2枚目の依頼状を出す。
「何、珍しくもない作戦だ。相手の話に乗り、油断した所を叩く。相手は、その近辺で非道の限りを尽くしている盗賊団だ。油断した奴らを捕らえて領主に突き出す。それだけだ。だが‥‥」
と、男は上機嫌なアリアスを手招いた。
素直に男の傍らへとやって来たアリアスの肩に手を置き、仲間達を見回す。
「相手の話に乗り、油断させねば話は進まない。そ・こ・で、だ」
肩に置かれた手に力が籠もる。
アリアスの表情に不安が過ぎった。
「ここは1つ、アリアスに大役をやって貰おうと思う」
「た‥‥大役って何ですかぁ!?」
大慌てするアリアスに、男はあっけらかんと笑って答えた。
「いや、何。そんなに難しい事じゃない。盗賊達は、村で1番の美人を嫁に差し出せと言って来てるんでな。お前は花嫁役をやるだけでいい」
「は‥‥はなよめぇぇぇ!!??」
アリアスの叫びがひっくり返る。
何人かが、ああ、と額を押さえた。
初めて自分でモンスターを倒し、自信をつけたアリアスだったが、騎士を目指す彼にとって、花嫁の役をやるというのは、簡単に割り切れるものではなかろう。女顔にコンプレックスを持っている彼には。
だがしかし、彼が嫌がる理由はそれとは別にあるようだった。
「いやです。そんな恥ずかしい事。もし‥‥‥んに見られたら、僕、僕‥‥」
顔を真っ赤にして俯いたアリアスに、仲間達は不審げに首を傾げる。
「でも、アリアス。盗賊が花嫁をアジトに連れ込み、中から突入口を開かないと、俺達は盗賊を一網打尽には出来ないんだぞ? 盗賊のアジトにたった1人、花嫁として連れ込まれるという危険な事を、女性にやらせるつもりか?」
う、と言葉に詰まったアリアスに、男は仕方がないと首を振った。
「モンスターは倒したが、お前は冒険者として、騎士としての心構えがまだ分かっていないようだな。いくら同じ冒険者であろうと、危険な場所に女性を1人で‥‥」
「わっ分かりました!! やればいいんでしょう! やればぁ!!」
耳まで顔を赤くして、大声で宣言したアリアスに、男はにぃと笑った。
「よし、決まり! おい、女達はアリアスが世界一綺麗な花嫁になるのを手伝ってやってくれ。残った奴らは、村と盗賊のアジトでどう動くか、役割分担を決めるんだ。任せたぞ」
テキパキと指示を出し、男はそそくさと卓を離れる。どうやら、言い出した彼自身は、この依頼に参加しないようだ。
「悪ィな。俺は、別の依頼受けてるからさ。じゃ、頼んだぜ」
ひらひらと手を振って去っていく男の背を唖然と見つめていたアリアスは、やがて、崩れ落ちるように膝をついたのだった。
●リプレイ本文
●婚礼準備
「ま、こんなもんかね」
キャメロットから運んで来た酒を荷車に移し変え、自分の手で整えた婚礼道具に不備が無いか確認して、ベアトリス・マッドロック(ea3041)は息を吐いた。
「娘を嫁にやるなァ、何度経験しても嬉しいような寂しいような気持ちになるねぇ」
しんみりとした呟きに、ドンキーに積んだ荷から武具を取り出していたゼファー・ハノーヴァー(ea0664)が動きを止める。
「本当に嫁に出すわけでもあるまいに」
それ以前に、「娘」とは誰の事だ。
そこは触れぬ事にして、ゼファーは苦笑した。
「まぁ、母親がそこまで入れ込んで整えた婚礼道具だ。盗賊達も、よもや罠とは気付くまい」
ナイフに糸を結び、強度を確かめると、ゼファーは小屋へと視線を移す。中では、ベアトリスを感傷的にした原因、アリアスの嫁入り支度が進んでいるはずだった。
「では、お母様、花嫁さんの様子を見に参りましょうか」
ベアトリスに手を差し出すと、肝っ玉母さんはいつになく弱気な表情で頭を振る。
「よしとくれよ、本当に変な気分になっちまう」
くくっと喉の奥で笑って、ゼファーは粗末な木の扉を開いた。
小屋の中は、既に何人かの仲間達が今宵の作戦の準備に追われていた。
この依頼には、正確な情報と鼠1匹逃さぬ包囲が必要となる。
しかし、現段階では情報も不確かなものだし、漏れのない包囲網を敷くには人手が足りない。
それを補うのが冒険者としての経験と作戦だ。
忙しそうな仲間達を膝に肘をついて眺めていたのはレムリィ・リセルナート(ea6870)と、花嫁役のアリアスだった。
「ねー、アリー」
「なんですかぁ?」
軽く呼びかけたレムリィに返って来たのは、地獄から響いて来るかの陰気な声。
この世の終わりが来たとでも言いたげなアリアスの顔に、レムリィは驚いて目を見開く。だが、すぐに悪戯っぽい笑みを閃かせた。
「アリーにも春が来たみたいねぇ」
「春ぅ?」
何の事か分かっていないアリアスの肩を叩くと、大きく何度も頷く。
「そ、春よ、春。良かったわね。‥‥、‥‥」
耳元で囁くと、途端にアリアスは真っ赤になって逃げの態勢に入る。その襟首を捕まえて、レムリィは、ほぅと溜息をついた。
「駄目よ、アリー。男の子でしょ? 今は無理でも、いつか横に並んで歩けるぐらいに強くならなくちゃ」
「なななんのことです?」
焦るアリアスの様子に、心の奥底に湧き起こるもやもやとした不快感。それに気づかぬふりをして、レムリィはじたばた暴れる青年を押さえつける。
「もぅ。緊張する気持ちは分からないでもないけど、花嫁がそんなに暴れてどうするのよ」
「それですよ! どうして僕が花嫁なんですか? 僕なんかより、レムリィさんの方がよっぽど強‥‥」
言葉の全てを、彼は言い切る事が出来なかった。
哀れ、と傍らで打ち合わせをしていたヴォルフガング・リヒトホーフェン(ea3143)が黙祷を捧げる。対G兵器でなかったのは、弟分に対するレムリィなりの配慮だろう。
「少しは手加減をしてやれ。一応、嫁入り前なんだから」
苦笑してレムリィを嗜めたのは、一部始終を見ていたゼファーだった。
その隣りでは、額に手を当てたベアトリスが頭を振っている。
「アリアスの坊主も、まだ自分の役目が分かっちゃいないようだね。ほら、お前さんがやらなきゃいけない事を復唱してごらん」
「えーと、盗賊の所にお嫁に行って、それから‥‥」
復唱していくうちに、再び暗く落ち込んでいく。
零れそうになる溜息を押し留めて、ゼファーは指先でアリアスを呼んだ。素直に従った青年と、好奇心から自ら進んでやって来たレムリィに床を指し示す。
「何? 何か用?」
怪訝そうに尋ねたレムリィに、ゼファーの愛のムチが飛んだ。
「その喋り方は花嫁らしくない。もっと柔らかく、はにかんだように」
「待てぃっ!」
何故に自分までもが「花嫁らしい」喋り方のレクチャーを受けねばならないのだ!
「上品にっ!」
再度振るわれる愛のムチ。
講義を受けるべき当の本人は、彼女達を止めるに止められず、おろおろしているだけだ。
「おいで、アリアス」
そんなアリアスの腕を引いて、レオラパネラ・ティゲル(ea5321)は彼の頭から爪先までを値踏みするように見回すと、ぶつぶつ呟きながら顔料を入れた籠を物色し始めた。
「あ‥‥あの?」
「安心おし、アリアス。あたいが三国一の花嫁にしたげるよ」
自信に満ちた笑顔で、レオラはそう請け負った。
「ああ、もう‥‥有り難いのやら有り難くないのやら‥‥」
己の身に降りかかる事柄を嘆かずにはいられないアリアスの肩に腕を回し、デュノン・ヴォルフガリオ(ea5352)は同情と激励を込めてパンを差し出した。彼が作った自慢のパン。自信も何もない、ただの足手まといだった頃から、彼のパンはアリアスの緊張を解してくれた。
そして、今も。
「あんまり難しく考えるなよ、アリアス」
「デュノンさん‥‥」
最初はその外見で怖い人かと思っていたけれど、彼はいつも不慣れな自分を気遣ってくれる。ぎこちなく笑って、アリアスは薄パンを千切って口に含んだ。ほんのりとした塩気が広がる。
「こういうのも経験の1つさ。成功したら美味いメシ作ってやるから、頑張れ」
デュノンの励ましに、アリアスは小さく頷いた。
混乱していた彼も、ようやく落ち着きを取り戻してきたようだ。しかし、包帯から覗く目元に笑みを浮かべたデュノンは、次の瞬間、我が目を疑った。アリアスが消えたのだ。
透明化の魔法か、それとも新手の誘拐かと彼が慌てて視線を巡らせた先、
「さァ、着替えるよ」
レオラに半ば圧し掛かられ、上着を脱がされかけたアリアスの姿があった。
「あ、あのっ!?」
ひっくり返ったアリアスの声に、レオラはくすりと笑う。
「アリアス、可愛い‥‥。でも、恥ずかしがる必要はないんだよ」
テキパキと上着を脱がしていくレオラを、デュノンはただ見守るしかない。下手に手を出せば、己に禍が及ぶ。本能がそう告げていたのだ。
「アジトに潜入したらァ、盗賊を酔わせて人数を聞きだすようにアリりんをゆーどーすればいいんだよね」
婚礼道具に紛れて潜入し、外で待機している仲間達に情報と合図を送るという重要な役割を担ったカファール・ナイトレイド(ea0509)は、自分が為すべき仕事を指折りつつ確認した。
万が一、アリアスの身動きが取れなくなった場合には、彼女の判断で動かなければならない。
「大丈夫。心配しなくていいよ、ヴォルりん。アリりんのてーそーの危機にはすぐに助けを呼ぶから」
自分の仕事を確認し終えて、カファは足の下にある金色の頭をぺぺんと叩いた。だが、その金色の頭の持ち主は、カファの言葉に微かに首を振った。
「今が、まさにその危機だ」
レオラの手によって剥かれるアリアスの悲鳴を背中で聞きながら、ヴォルフは口元に笑みを浮かべた。複雑な笑みの底にあるのはアリアスへの同情か、はたまた在りし日の思い出か。
「お?」
扉から覗いたほっそりとした影に、ヴォルフは物思いを止めた。自然と、彼の視線はアリアスへと向かう。
「お元気そうで何よりです」
アルメリア・バルディア(ea1757)の柔らかな声に我に返ると、アリアスは彼女の目から花嫁姿を隠せる場所を探して、周囲を見回した。そんな彼に歩み寄り、アルメリアは微笑を浮かべてその手を取った。
「よくお似合いですよ」
悪意無い純粋な賞賛に固まったアリアスの複雑な心の内を思い遣って、仲間達は目頭を押さえる。
そんな周囲の動揺を知らず、アルメリアは言葉を続ける。
「身も心も女性の立場となる事で、女性から見た騎士、騎士道の精神を学ぶ事も出来ると思います。頑張って下さいね」
そうなの?
目で問うたレムリィに、ゼファーは肩を竦める事で応えた。
●生け贄の花嫁
震える手で、リーダーらしき男の器に酒を注ぐと、花嫁は怯えたように顔を伏せた。
その仕草に下卑た笑いが沸き起こる。
「お‥‥お嬢様に無礼は許さ‥‥許しませんの事よ!」
お付きの娘に扮したレオラが、次から次に差し出される器に酒を注ぎつつ叫ぶ。窺い見たアリアスは、震えてはいるが取り乱してはいない。
盗賊に気付かれぬよう安堵の息を漏らすと、レオラは部屋の隅に積まれた婚礼道具に目を遣った。そこに隠れて潜入したカファが、馬鹿騒ぎの宴から必要な情報を拾い上げているはずだ。後は頃合いを見計らって、アリアスの安全を確保すればいい。
「アリスとか言ったか? おめぇは」
酒臭い息から顔を背けつつ、アリアスは辛うじて頷きを返した。
「安心しろい、お前が嫁に来たからにゃ、あの村は俺達の里だ。村の連中を親兄弟だと思って守ってやるさ」
「親兄弟だから、金や食い物に困った時にも助けて貰わにゃな」
どっと笑い崩れる盗賊達に、アリアスは恐慌寸前の頭の中でベアトリスやゼファーに復唱させられた役目を繰り返す。
自分が役目を果たさない事には、外で待っている仲間達は動けない。
レオラと、どこかに隠れているカファを目で探しながら、アリアスはか細い声で尋ねた。
「あ、あの‥‥全員とおっしゃいましたけれど、皆様、一体何人‥‥」
「新しい家族が何人いるのか気になるか?」
祝宴の雰囲気と、酒に酔っ払ったリーダー格の男はアリアスを引き寄せると、あっさりその総数を口にした。
「俺達ァ、16人家族だ。お前と召使いが増えて18人だな」
そのダミ声は、天井の梁の上に潜んでいたカファにもはっきりと聞こえた。素早く盗賊の数を数え、彼女は割れた壁板の隙間から外へと飛び出す。
「アルりん!」
闇の中、盗賊に気づかれないギリギリの位置で心配そうに佇んでいたアルメリアの手の中に飛び込んで、カファは「中」で仕入れた情報を早口で告げる。
「んとね、数はじゅーろく! 裏の戸は紐で縛って、すぐには使えないようにしたから!」
それだけ伝えると、カファは再び飛び上がった。
「皆さん!」
「聞こえてる! じゃ、行ってきまーす!」
明るく応えた白い影が彼女の傍らを駆け抜けていく。
それぞれの位置で身を潜めていた者達も、互いの役割を確認し合うように頷いて、静かに素早く行動を開始した。
●突入乱入
だんと勢いよく扉を蹴倒して、レムリィは盗賊達のアジトへと殴り込んだ。
酔っぱらった盗賊達は、何が起きたのか判断出来ず、婚礼衣装を身につけた娘をただ眺めるだけだ。
「許せないわーっ」
開口一番、娘が叫んだ言葉に、盗賊達の困惑が更に増す。
「このババーン、キュッ、キュッなあたしを差し置いて、アリスちゃんが村一番の美女だなんて、どういう事っ!?」
呆気に取られたのは盗賊だけではない。
リーダー格の男に肩を抱かれていたアリアスも、酒を注いでいたレオラも何が起きたのか分からずに硬直している。
カファが合図を送れば、仲間が突入するという作戦は彼らも承知していた。いたのだが、まさか花嫁が乱入して来るとは思ってもいなかった。
第2陣のゼファーが飛び込んで来た時も、彼らはまだ動けないでいた。固まったままの盗賊と仲間に、ゼファーも怯んでしまう。しかし、彼女はすぐに状況を把握して行動に移った。
盗賊達が我に返るよりも、数瞬だけ彼女の方が早かった。
突入の寸前、ベアトリスに掛けて貰ったグットラックの効果かもしれない。
そんな事を頭の隅に思い浮かべながら、ゼファーは糸を結んだナイフを投げる。
リーダー格の男の頬を掠め、柱に突き刺さったナイフが戦闘開始の合図となった。
「アリアス!」
スカートの下に隠してあったダガーを取り出すと、レオラは盗賊達を斬り付け、アリアスの腕を掴んで背に庇う。
対G兵器で正義の鉄槌を下すレムリィと、ナイフとダガーを使いわけるゼファーの攻撃に、盗賊達は次第に追いつめられていった。
だが、彼らも幾つもの修羅場をくぐり抜けて来た猛者達だ。不利だと判断すると、彼らはこの状況を覆すべくアジトの外へと飛び出した。
外に出れば、地の利は自分達にある。そう確信しての行動である。
「大人しくして頂けますか」
そんな彼らを待っていたのは、優しげな娘だった。
場違いとも思われる娘の登場に、盗賊達は文字通り飛び上がって喜んだ。この娘を人質にすれば、襲撃者に対する盾となる。
捕らえようと伸ばした腕が娘に届く前に、その体は強い風に煽られて吹き飛んだ。
「大人しくして頂けないならば、牽制ではなく、本気で参りますよ?」
この娘も襲撃者だ。
忌々しげに舌打ちして、盗賊は方向を転じた。
その足下に、矢が突き刺さる。
「おっと、ここは通すわけにはいかないぜ?」
彼らの行く手を遮り、弓を構えた男が、第2射の弦を引き絞る。
この経路も駄目だ。
弓の攻撃を少しでも無効化すべく、彼らは木立の中へと足を踏み入れた。
その途端に、足下が掬われた。柔らかい土と落ち葉を跳ね上げて無数の罠が発動したのだ。
「いらっしゃい。でもって、おやすみ‥‥ってな」
次々に罠に捕らわれていく仲間の姿に立ち竦んだ男は、真後ろから聞こえた囁きに振り返ろうとした。直後、彼は首筋に衝撃を受けて昏倒する事となった。
最後の1人を戦闘不能にしたデュノンは、にっと笑って、ヴォルフとアルメリアに向かって親指を立てて見せたのだった。
●経験という財産
白々と明けて来た空を見上げ、アリアスは花嫁衣装のままでへたり込んだ。
レムリィ乱入から後の仲間達の手際は、さすがとしか言いようがなかった。
盗賊を1人残らず捕らえて縛り上げて領主に引き渡し、村人からの依頼も完了させたのだ。
「‥‥僕はまだまだです」
呻いたアリアスに、レムリィは陽気に片目を瞑ってみせる。
「何言ってるの。良い仕事だったわよ」
ええ、とアメルリアも微笑んで頷く。
「レムリィさんのおっしゃる通りです。お疲れ様です」
複雑な表情のアリアスの背を強く叩くと、デュノンは領主から貰った報奨金で膨れた財布を彼の目の前で揺らす。
「言ったろ? これも経験経験。さ、約束通り、美味い物作ってやるぜ。何がいい?」
「あ、あたしね、野菜たっぷりのスープ!」
「私は鶏の香草詰めがよいな」
すかさずリクエストを入れたレムリィやゼファーに、デュノンが噛みつく様子を眺めながら、ベアトリスはカファやヴォルフと笑い合った。
楽しげな仲間達の輪に、いつの間にかアリアスも溶け込んでいる。
そうして築いていった絆が、冒険者としての財産になるであろう事を、彼らは知っていた。