one armed hunter――シフール行方不明事件
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■シリーズシナリオ
担当:切磋巧実
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:08月16日〜08月21日
リプレイ公開日:2007年08月24日
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●オープニング
●或る小屋の中
「うぅ‥ん」
シフールの少女はゆっくりと瞳を開いた。視界に簡素な造りの天井が映る中、朦朧とする意識が甦ると、尻に違和感を覚える。
――何かが挟まってる? あれ? 手?
弾ける様に半身を起こすと、腰の後ろで自分の手が拘束されていた事に気付く。否、両足も同様だ。白い脚は固い金属で自由を奪われており、伸びた鎖の先は楽器の置かれた机に打ち付けられていた。
――あれれ? わたしの脚、なんでこんなに見えるんだろ?
改めて視線を我が身へ落とし、少女は円らな瞳を驚愕に見開く。彼女は一糸纏わぬ状態だったのである。しかも発した悲鳴は口元に巻かれた布地で響かない。シフールは慌てて視界を泳がせた。
――もう一人いる! 女の子のシフールだわ。
同様の姿でペタンと座ったままのシフールを確認。瞳は同情と憐れみを彩り、コチラを見つめている。戦慄が直感を導く。
――わたし‥‥攫われたの?
●この日も彼女は相変わらずだ
キャミアはギルドの壁に背を預けて佇んでいた。依頼を引き受けていた頃は寒さすら感じられた装いは、夏を迎えてかなり暑苦しい。小柄な身体を包むマントを時折パタつかせては、チラチラと褐色の肢体を覗かせていた。月日を刻んだ長髪は更に伸びて暑苦しさに拍車を掛ける。
相変わらず円らな瞳をギラつかせて羊皮紙を眺めるものの、頬を一条の汗が伝う。
そんな時だ――――。
「大変大変〜! チョミがいなくなっちゃったー!」
慌てた様子で2体のシフールが飛び込んで来た。どうやら友人の捜索依頼に訪れたらしい。
「きっとあれに巻き込まれたんだよ!」
――あれ‥‥?
キャメロットから2日ほど離れた森周辺で、シフールが行方不明になる事件が起きている。一人は身に着けていた物品が北で見つかった事で、行方不明になった事が判明した。次は西の方で二人。一人は村の仲間に森へ行く事を告げていた為に判明。
当初はモンスターに食われたとの見解も出たが、森で楽器を吹く音が聞こえたとか、助けを求めるドワーフを目撃したとの情報も入った。老人はシフールの少年を見ると陽光が照り返した如き眩しい微笑みを浮かべ、去って行ったらしい。彼は後に、あの爺さんは良い人だよ、と告げていたそうだ。
この行方不明事件は一部のシフールの間で話題にもなっていた。そしてチョミと呼ばれるシフールが西で消えたのである。
「こ、この依頼、あたしが受けるわ‥‥」
ふらりと壁際から離れ、キャミアが覚束ない足取りで受付係に向かってゆく。厳しい程の猛暑ではないものの、やはりマントで全身を覆う行為は体力を奪うのかもしれない。
「ふふっ‥‥待った甲斐が‥‥あった‥わッ!?」
足が躓き、少女が豪快に転倒して恥態を晒したのは秘密だ――――。
●リプレイ本文
●本当は‥‥
「お久しぶりです。またご一緒させて頂く事になりました。お元気でしたか?」
皆に挨拶した後、サクラ・フリューゲル(eb8317)が穏やかに微笑んだの。初めての依頼で行動した少女だわ。前回はいなかったけど‥ふーん、来たんだ☆
「ま、まあね‥元気だったわよ」
「ま、またキャミアさん! そんな格好でっ!!」
あたしはわざと素っ気なく返すと、レイディア・ノートルン(eb7705)が指差しながら顔を真っ赤にして声を響かせたわ。
「いつかきっと私がキャミアさんの服装を正してみせます!!」
またそれ? 余計なお世話って‥‥。
「キャミアさんの髪、伸びていますね‥‥僭越ながら私が切り揃えましょうか?」
声を荒げようとした刹那、杜狐冬(ec2497)が言ったの。あたしは金髪の娘に向けた眼差しのまま、視線を流すと‥‥な、なんか嬉しそうだわ。‥‥って、何? 水琴亭花音(ea8311)が無言のままズィと寄って来たの。あたしの腕を取ると、二人の娘が背中を押してテントへ誘ったわ。シエラって、この前も見送りに来ていたわね。そっちの‥‥マイって‥子供なのにメイド?
「好きこのんでそのような格好をしておる訳でないのは承知しておるから、片手でもそう不自由ない格好を考えて貰ったのじゃが‥‥どうかのう」
数刻後、テントから出ると花音が微笑む。結局あたしはレイディアと狐冬を含めた5人に髪を切られ、マイに服を着替えされたわ。
「か、髪は軽くなったけど‥‥じ、時間が勿体無いから大人しくしたんだからっ! ところで、この爺さんブッタ切っていいかしら?」
「承知」
スカートを魔法で捲られ女の子達が悲鳴をあげる中、あたしはカメノフに近付いたの――――。
●事件解決の為に
「それでは、攫われたシフールの居場所と犯人の住処をダウジング・ペンデュラムで調べてみます」
レアのタロット占い後、ジャンヌ・シェール(ec1858)が地図の上で振り子を垂らす。誘拐現場が北と西に分かれており、絞り込みを試みた訳だ。
「あら? どっちにも反応があります」
「目撃した少年シフールは攫わずということは、誰彼構わずではないみたいですね。目撃者に危害を加えずに返したということは犯人はそれほど凶悪ではないのでしょうか‥‥」
レイディアがボロボロになった親指の爪を噛みながら悩むと、目撃者に情報を聞く事を告げた。同様に情報収集を試みるべく、周瑜公瑾(ec0279)が覚えたイギリス語で話す。
「楽器を吹く音、助けを求めるドワーフ、老人。繋がりがあるか分かりませんが、数少ない情報です。似たようなことを知ってる方がいないか町で聞きまわってみましょう」
「老人が魔法の使い手だとして、ドワーフは何者でござろうかな?」
山岡忠信(ea9436)が腕を組み、口をへの字に結んだ。
「‥‥ドワーフの老人魔法使いなんじゃない?」
キャミアがあっさりと結論を出すと、侍の青年が瞳を研ぎ澄ます。
「拙者に何か言いたい事はござらんか?」
「な、何よ‥あたしはただ‥‥」
「キャミアさん、何故この依頼を受けようとなさったのです? もしかして‥‥!」
僅かに動揺の色を見せる中、サクラが疑問を投げ掛けた。少女の円らな碧の瞳が鋭さを増す――――。
「攫われたシフールさん達が心配なんですね? お優しいですわ☆」
ニッコリと微笑み、両手を合わせるサクラ。‥‥さすが天然ボケだ。そんな中、エンデール・ハディハディ(eb0207)が慌てたように飛んで来る。
「エンデは森の西で囮をやるデスぅ! 馬のホルスにキャミアちゃんを乗せていくデスよぅ」
こうして、北と西にメンバーは分かれる事となった。幸い徒歩以外の移動手段を用意しており、ジャンヌのセブンリーグブーツ貸し出しも行われ問題ない。
1人しかいない記録係が深い溜息を吐いたのはヒミツだ。
●西へ赴く者たち
キャミアは西を選択した。北へ行くならとサクラが愛馬への同乗を勧めたが、花音、忠信、エンデが西を選んだのである。迷っていた狐冬がキャミアに同行する事を決めたのは兎も角、3度目のメンバーに着いて行くと答えを出した彼女の気持ちは分からなくはない。それに、西の誘拐数、目撃情報から犯人が警戒したとは思えなかった。
ホルスに乗せて貰った少女の視界で、愛馬の頭に乗っているシフールが顔を向ける。
「キャミアちゃん、また前のお仲間さんデスか?」
エンデの問いに狐冬が残念そうな色を浮かべ指を咥えると、視線を流す。予想通りキャミアは不機嫌な表情だ。再びシフールが口を開く。
「あたしはキャミアちゃんの仲間じゃないデスぅ」
ニコニコと微笑むエンデにピクッと眉が跳ねた。横顔が一瞬寂しさを浮かべたのは気のせいか?
「あ、あたしだって仲間だなんて‥」
「お友達デスぅ☆ キャミアちゃんが困ってるんだったら助けるデスよ。ケンカしても仲良しっていうのが友達じゃないデスか? 仲間じゃケンカしたらバラバラになっちゃわないデスか?」
――!! 友達‥‥。仲間じゃケンカしたらバラバラ‥。
ジンッと肩が痛む。脳裏に野営で強引にテントを共にさせられたジャンヌや、公瑾の声が過ぎる。
『‥‥まだ起きてますか? 私、キャミアさんのこともっと知りたくて』
『どうやら誰かを探しているようにも見えますが? 訳を教えて頂けるのを待ってます』
――これも友達としての言葉だったの? 仲間と友達の違い‥って‥‥。
●北の捜索
一方、サクラ、ジャンヌ、レイディア、公瑾は野犬と遭遇していた。土地勘に多少秀でるシフールの青年と、殺気に優れる娘の機転に合わせ、赤毛の少女が小太刀を薙ぎ振るい、金髪の少女が戦乙女の剣で貫き、難を凌いだ。
「確かにこの辺りを示しているのですが‥‥」
「小屋らしいものを見つけました!」
ホークに乗って上空から捜索していた公瑾が吉報を届けた。急いで駆けつけるが、中の様子は分からない。レイディアが開錠を試み、扉を開く。瞳に飛び込んだのは、一糸纏わぬ1体のシフールだ。
「公瑾さんは外へ出て下さい! 西へ連絡をお願いします」
「サクラさん、1人しかいません。確か、あと2人いないと‥‥」
少女は爪を噛みながら困惑する。拘束されていたシフールの娘はチョミではなかった。ドワーフの老人は食事を与えるべく数日に1度訪れたらしい。全員が北を選択していればチョミの捜索まで間に合わなかっただろう。
●再び西へ
「光物や音が鳴る物は、外すか隠すなりするでござる」
忠信がキャミアと狐冬に注意を促した。対象に含まれていない花音は、優れた隠密技能で気配を消しており、森を舞うエンデを窺っている。
「どこにいるデスかー? 迎えに来たデスよぉー」
暫くすると人影が現れ、笛の音を奏でながら近付いて来た。
「どうしたのじゃ、お嬢ちゃん」
「行方不明のしふ仲間を探しに来たデスぅ。何か知らないデスか?」
老ドワーフは背中を向けると、一緒に探してやろうと距離を置く。そして振り向いた刹那、銀色の光を纏うと、褐色のシフールは睡魔に落ちた。駆け寄り掌にエンデを包み込む。
「褐色のシフールとはそそるのぉ」
状況は予定通りと言えるのか、帰路へ踵を返す誘拐犯にキャミアは戸惑う。
「本当に連れて行かれたわよ? 大丈夫なんでしょうね」
恐らく花音は動いているに違いない。忠信がキャミアの背後に移る。
「尾行中に転ばれては困るでござるな。失礼するでござ‥」
「ひゃっ!?」
少女は気配を察すると慌てて跳び、そのまま突っ伏した。キャミアがキッと睨む。
「触らないでッ! 痴漢! 馬鹿! 変態! なに考えてるのよ! 気配りも大概にしてよね!」
「‥‥そこまで言うでござるか‥」
「あ‥悪気は‥‥そこ、ハァハァ言わない! 大丈夫だから気にしないで。さ、追うわよ」
「‥‥あの、どこに行ってしまったのでしょう?」
なんですと?
「馬鹿ッ! どうして見てないのよ! 少しは役にたちなさいよねッ!」
「‥‥はぁん☆ も、もっと♪」
おいおい‥‥。
予定が狂ったが、こんな時こそ忍びの娘だ。北のメンバーと合流する頃には、しっかりと住処を突き止め戻って来た。
その日の内にレイディアの鍵開けで冒険者が雪崩れ込んだ。囚われのシフール救出を担う忠信が息を呑む。シフールといえど視界に広がる光景は刺激的だ。慌てて狼狽する老ドワーフに視線を流すと、太刀を構えて突撃した。
「ぬうッ、尾行されて‥‥ぬあッ!」
呪文を唱えようとした刹那、公瑾のダーツが手に刺さり、一瞬の間が空いた瞬間、峰討ちを叩き込む。悶絶する犯人の背後に回った花音のスタンアタックが放たれ、老ドワーフは崩れるに至った‥‥。
「どうしてこんな酷い事を‥‥この子達は貴方のオモチャでは無いんですよ? 昔馴染みのキャミアさんも止めるよう言ってます」
狐冬の言葉に拘束された老ドワーフは瞳を泳がせた。慌てて咎める少女を捉え、薄く微笑む。
「ほお、キャミアか‥‥見違えたぞ。洒落た髪にしおって、男が恋しくなったか?」
ナイフで大雑把に切り揃え、毛先を細く整えたヘアースタイルのキャミアにドワーフは告げた。
「煩いッ! まだシフールを伴侶にしようなんて考えている変態なんか知らないわ!」
「‥‥なかなか水の精霊使いのシフールがおらんでな、嫁候補にしとったんじゃ」
衣服を剥いだのは逃げようとする行為を制限する為らしい。いずれにしろ誘拐は犯罪だ。
ジャンヌは囚われのシフール達に保存食を振る舞った。
心に傷が残ったかもしれないが事件は解決したと見て良いだろう‥‥。
野営の夜。サクラが穏やかにキャミアへ告げる。
「何も聞かないでおきます。今は‥‥でもこれだけは信じて欲しいんです。私は貴女の味方‥‥友達でありたいと思います。同じ苦労を共にしてきたんですし‥ですから‥もし貴女が胸にしまっていることがあるのでしたら、何時か打ち明けて下さいね?」
友達‥‥。慣れない言葉の意味に少女は困惑していた――――。