【魔物ハンター】怪奇! 吸血蜘蛛

■シリーズシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 71 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月24日〜03月29日

リプレイ公開日:2005年04月01日

●オープニング

「また、お願いしたい退治があるのですが」
「ターゲットは?」
「女郎蜘蛛と呼ばれる妖怪みたいなんですよ」
 金持ち風の男の言葉にイェブがピクッと反応した。
 だが、男は仮面の下の微妙な表情の変化には気が付かなかったようだ。
「これから山菜摘みの季節だというのに里山を大物の妖怪が縄張りにしてしまったので山に入れないし、大きな蜘蛛の姿を見たって言うからギルドに土蜘蛛退治依頼を出したら、全然違う妖怪であたら冒険者を死なせてしまったり‥‥」
 男は溜め息をついて遠くを見つめた。ちょっぴり後味が悪かったなぁとでもいうのか、お茶を濁すように湯飲みを啜(すす)った。
「それで命を掛ける報酬はお幾ら?」
「そ、そうですね‥‥」
 それなりの規模の商家の男だが商談は上手くないらしい。まぁ、細かい商談は番頭以下の店の者がしっかりしていれば問題はないが‥‥
 男が動揺を見せるのをイェブは心の中で微笑みながら、仮面の下に悲しげな表情を精一杯浮かべてみせた。

 ※  ※  ※

「妙に気に障(さわ)る敵だったから退治を受けてきた。
 今度のターゲットは『女郎』蜘蛛‥‥だそうよ。お宮だと思ってボコボコに蹴散らしてやって」
 ここは江戸冒険者ギルドの一室。
 円卓に7つの椅子。机の上には木板が置かれている。
 鳥仮面の女・イェブは、いつになく腕を組んで木板を見下ろしている。
「この蜘蛛は生き血を啜るらしい。村人や家畜が何人か犠牲になってるわ」
 イェブが指差す木板には『とにかくでかい』と注釈つきで斑(まだら)模様の蜘蛛が描かれている。
「それに駈け出しの冒険者たちが6人、殺されている。
 どれほどの強さかは不明だけど、駈け出しとはいえ冒険者6人を倒すくらいだから油断しないことね。相当に強力よ。
 そう‥‥
 それで、依頼人は同じ轍(てつ)を踏まないように腕利きの狩人を雇って調べたみたい。それでわかったのがこれよ」
 木板を指差しながらイェブは魔物ハンターたちを見渡した。
「あんまりわかってないのと同じだけど、大きさは尋常ではないわ。
 木が倒されていたりしてたみたいだから山の中でも自在に動けると考えた方がいいわね」
 確実な情報でないのが痛いが、木との対比から見て、確かに大きいのはわかる。足を除いても最低2〜3丈はあるだろうか‥‥
「簡単な退治ではないから気をつけて。兎に角、勝って帰ってくること。残り半分を皆で飲み干しましょう」
 イェブがワインのカップを掲げると、魔物ハンターたちもそれに倣った。

●今回の参加者

 ea0984 平島 仁風(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2331 ウェス・コラド(39歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea2478 羽 雪嶺(29歳・♂・侍・人間・華仙教大国)
 ea3210 島津 影虎(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6264 アイーダ・ノースフィールド(40歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea8917 火乃瀬 紅葉(29歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●出撃
「紅葉、ワインを飲むのは初めてにございます」
 魔物ハンター恒例の出撃前の乾杯に火乃瀬紅葉(ea8917)は瞳をパチクリさせている。
 おっかなびっくり口をつけるとどこか甘いような辛いような不思議な味がした。
「どれくらいできるのか。見せて頂戴」
「あ、はい! 民の安全を守る事も紅葉の日々の勤めにございますゆえ」
 背筋を伸ばしてパッと輝くような表情を見せる火乃瀬に、イェブの口の端が緩む。
「それにしても、女郎‥‥ 蜘蛛‥‥ 嫌な言葉が並ぶわね。
 とりあえず、先制攻撃されると致命的な事になりかねないから、捜索・警戒には力を入れないと」
 アイーダ・ノースフィールド(ea6264)は椅子に腰掛けると、残りのワインを口に運んだ。
「2人が一時帰国したせいか、京都の騒ぎで出向いてるのか‥‥ 常連が少ないのが気になるよな。
 皆、数々の冒険をくぐり抜けた人たちだから心配はしてないんだけどさ」
 羽雪嶺(ea2478)は仲間を見渡して言った。
「お宮との因縁が薄いことを気にしてるのかい?」
「お宮か‥‥ ボコボコにできるといいねぇ。お宮だと思ってボコボコにって、まさかこの蜘蛛も女に化けるとか?」
 羽雪嶺は不敵な笑いでワインを空けた。
「わからないけど、その可能性はあるね。
 名前通り女郎蜘蛛なら魔法は使わないって誰か言ってたけど、決め付けられるほど情報がないのも確かさ。
 油断するんじゃないよ」
「成る程ね。それなら蜘蛛としての能力に、まずは注意を払わないといけないってことだね。
 機動力もだし、牙・足・糸も脅威だよね。糸に関しては用途に応じて使分けるなんていう人もいるしさ。
 そこに魔法やらあるとキツイよなぁ。まあ、未知の敵ということで魔法に関しても警戒するってことで」
 羽雪嶺は仲間に念を押した。
「確かに油断ならぬ相手のようです。
 冒険者が幾人か犠牲になったようですが、生き残りがいるのでしょうか?
 今回は相手の縄張りに入らねばならないですから、少しでも情報は欲しい所なのですが」
 島津影虎(ea3210)の問いにイェブは首を振った。
「ま、相手の縄張りに入らにゃならないのは仕方ないだろ。人里に降りて来ねぇうちに叩くって寸法でいくとして、それよりさ‥‥」
 平島仁風(ea0984)が強請(ねだ)るように上目遣いでイェブに近づく。
「依頼人が雇ったって腕利きの狩人を、もう一度コッチで雇って案内を頼みてぇな。受けてくれねぇかね。
 代金は‥‥ イェブのおね〜さまにねだっちゃダメ?」
 3本、2本と指を減らしていく平島にイェブは、苦笑いを浮かべて首を振った。
「ダメなら仕方ねぇ、自腹切るか」
「報酬の交渉くらいならしよう」
「ありがたい」
 平島はニカッと笑った。

●巨大鬼蜘蛛
「いやぁ、ビックリしましたよ。木々の合間から突然巨大な蜘蛛が現れたんですから」
「蜘蛛‥‥ クモねぇ‥‥ 俺、アイツら苦手なんだけどよ」
 狩人の言葉に平島は溜め息をつく。
「ここまで来て、それはないだろ」
 羽雪嶺が笑いながら平島の背中を叩いた。
「そろそろです。注意していきましょう」
 魔物ハンターたちは前後左右に加えて上下にも気を配りながら里山を進んだ。
「この辺りですね」
 狩人は声を強張らせた。木が不自然に途中からへし折れているのが見えるが、それだけではない。
「マズイです。前はこんなのなかった」
 木々の間には糸が張り巡らされ、言わば蜘蛛の巣が張られていた。
「気をつけてくださいまし。蜘蛛の糸でございます」
 火乃瀬は、着物についた細い細い糸を目で手繰り、引っ張って切った。
 よ〜く見ると張り巡らされた目に見える糸とは別に、いくらか細い細い糸があるようだ。
「気づかれたかな?」
「でしょうね」
 目を細める島津にアイーダは弓を取り出しながら答えた。
「助けて‥‥」
 ザッザッと足を引き摺りながら木にもたれかかる様に女が現れた。
「‥‥」
 羽雪嶺は小声で平島に何やら囁いている。
 他の魔物ハンターたちも女から視線を外さずに、さり気ない風体で彼女を眺めていた。
 その影で狩人がジリジリと下がっていった。
「あ‥‥ 助けて‥‥」
 女はハタと倒れた。
 しかし、魔物ハンターたちは近づかない。
「どうして‥‥」
 ガクッと膝をつくが、魔物ハンターたちは何事か呟くだけで動こうとはしない。
「冒険者とかいう輩だろうが、お前たちはできるようだな」
 全く近づく様子のない魔物ハンターたちに、女は痺れを切らしたように立ち上がると流し目を送った。
「おや、自分から正体を現したと思っていいのかしら?」
 魔法を発動させたアイーダは矢を番えた。
 こちらの体勢を整えてから尋問しようと思っていたのだが、存外に相手は短気だったようだ。
「巨大な蜘蛛が出るっていう山に女が1人。どう見ても怪しいじゃね〜の?」
 羽雪嶺の体が淡い光に包まれたかと思うと平島は体の後ろに隠すようにしていた霞刀を構えた。
「憶えとけ! 俺たちは魔物ハンター。駈け出しの冒険者と一緒にしないでほしいな」
 羽雪嶺は啖呵を切ると集中するように静かに息を整えた。
「それならば‥‥ この姿である必要はないな」
 女の全身に灰色の毛が生え始め、脇腹の部分から伸び始めた2対の足と共に手足が伸び、胴の部分が丸みを帯びると、そのまま巨大化を始めた。
 ササッと足を動かし、クルリと木の幹に器用に足をかけて魔物ハンターたちの方へ向いた。
「なんて大きい‥‥」
 矢を撃ち込んだアイーダが絶句する。気を取り直して、すかさず次の矢を番えた。
「おえっ、デケぇなぁ。オイ‥‥」
 平島は苦虫を噛み潰したように渋面を浮かべる。
「このサイズになるまで討たれなかったのは、それだけの実力があるという事か、それとも単に運がいいだけか」
 どちらにしろ、彼女の運命はここまでだが‥‥と心の中で付け加えてウェス・コラド(ea2331)はプラントコントロールを発動させた。
 人の胴ほどの木が巨大鬼蜘蛛に絡みつこうとするが、動きを封じるほどではない。足を器用に曲げ伸ばしして、巨大鬼蜘蛛は摺り抜けるとなおも迫る木に糸を吐きかけた。
 シュルシュルと絡みついた糸でコントロールされた木は動かなくなった。
「糸に絡まれぬように気をつけてくださいませ」
 赤く光を放った火乃瀬は続けて印を組み、詠唱に入る。
 巨大鬼蜘蛛は周囲の木々に足を掛けると体を魔物ハンターたちへと向けた。
「ウェスさん!!」
 吐かれた糸に絡まれたウェスに火乃瀬が叫ぶ。
 しかし、絡まれて地に落ちた塊は、あまりに小さい。
「そんなものが効くと思ってもらっては困るな」
 離れた場所の地面から顔を出し、まるで水辺から上がるように体を抜け出させたウェスが顎に手を当ててニヤッと笑う。
「これでは容易に近づけませんね‥‥」
 何とか回避できそうな感じではあるが、糸が飛んでくる速さはかなりのものである。避けきれるとは島津には思えなかった。
 それに‥‥ 動きを封じられれば、人数の少ない魔物ハンターたちの勝機はグッとなくなっていく。
「だぁ!! 切りがねぇ」
 平島は巨大鬼蜘蛛の足元を狙って霞刀で切りつけるが、一跨ぎで数丈も移動する相手を捕捉するのは並大抵ではない。
 ましてや糸に絡まれば動きを封じられかねず、かろうじて木の陰に隠れているものの、相手が距離を詰めてくれば、状況が一気に悪化することは目に見えていた。
 遠距離攻撃で支援すべきアイーダも位置を変えながらの弓射では、なかなか仲間の援護をするところまで手が回らない。
「糸は焼きまする。行ってくださいませ」
 火乃瀬の巻き起こした炎の柱が巨大鬼蜘蛛の糸を焼き切った。
 その間隙を縫って島津が斬り込んでゆくが、あわやという所で絡まれそうになって身を隠した。
「本当に埒が明きませんね」
 島津は忍者刀と短刀を器用に使い、木によじ登った。
(「成る程‥‥」)
 意図を理解したウェスが木を操り、別の木への足場を作った。
 島津はそこを走り、糸を吐かれては飛び降り、木に身を隠して巨大鬼蜘蛛に接近する。
 相手が平面ではなく立体的に攻めてくるのなら、こちらもそれに合わせるまで。敵ほどとはいかなくても効果はあるはずだ。
「よし!」
 糸を吐く範囲が立体的になった分、生まれた隙を狙って平島は間合いを詰める。
 アイーダは援護するように矢を射た。一瞬、注意がそがれたか‥‥
「行け」
 ウェスの声と共に蜘蛛の糸の軌道が逸れ、平島の側を摺りぬけた。
「よしっ! もらったぁあ!!」
 平島がグラリと揺らいだ巨大鬼蜘蛛の腹の下に飛び込む。
 振り抜く様に地面の枯葉を切っ先で2つにすると鋭く頭上へと軌道を変えた霞刀を突き立てるように薙いだ。
 そのまま、もんどりうつ様に巨大鬼蜘蛛は木をなぎ倒してもたれかかった。
 その身を引き摺るように足を踏ん張ろうとしたところへ島津が忍者刀で斬りつける。
「ハンターの怖さを教えてやる! お宮を越えないといけないんだ!! お前なんかで留まれるかぁ!!」
 糸を吐かれた瞬間、バサッと外套を脱ぎ捨て羽雪嶺は巨大鬼蜘蛛の足元に転がり込んだ。
「この紅葉、闇に蠢く物の怪に、これ以上民の生き血を啜らせはしませぬ。灼熱の炎に焼かれて成仏致しませ!」
 火乃瀬が気合と共に印を押し出すと巨大鬼蜘蛛は烈火の如き炎の柱に焼かれた。
「好機‥‥」
 ウェスは高速詠唱でプラントコントロールすると巨大鬼蜘蛛に幹を巻きつかせる。
 抜け出そうともがく巨大鬼蜘蛛の足に龍叱爪が食い込む。
「なんて奴だ」
 続けて斬りつける島津の一撃も羽雪嶺の爪も大した傷を与えていないようだ。
「それなら!」
 羽雪嶺は龍叱爪を捨てると爆虎掌を放った。
「そろそろ倒れなさいよ」
 アイーダは続けて弱そうな節を狙った。
「おりゃあ!!」
 平島の霞刀の切っ先がズシッとした手ごたえと共に腹を切り裂いた。
 力を失っていく鬼蜘蛛を見て、魔物ハンターたちは巻き込まれないように距離をとった。
 ズズズン‥‥
 地鳴りを立て、木々をなぎ倒しながら巨大鬼蜘蛛は地に伏した。
「いつもこのような退治をなさっているのですか?」
「そう、これが魔物ハンターの仕事よ」
 アイーダは 呆れたように溜め息をつく火乃瀬の肩を叩いた。

●後始末
「仕方ないのですな‥‥」
「女郎蜘蛛ということはメスだろうし、不自然なまでの巨大さだから卵を産んでいる可能性もある。
 それらしきものは見つからなかったが、ないとも限らないからな」
 火乃瀬のマグナブローを用いれば山を傷つけずに取り去ることが可能とはいえ、張り巡らされた蜘蛛の糸を焼き切るのも大変であったし、ウェスの言う危険を村人たちも理解してくれた。最小限の範囲で済むように火乃瀬がマグナブローである程度の糸を焼き切ったところで、無用に延焼しないように木が伐り倒された内側に魔物ハンターと村人は火を放った。
「オラたちの里山が‥‥」
 比較的小さな山‥‥ 知らない者たちにはそう思えるであろう。
 しかし、村の者たちにとって恵みをもたらし、想い出のある里山である。
 彼らの目に一筋の涙が流れるのを魔物ハンターたちは黙って見つめた。