【魔物ハンター】季節名残の吹雪
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■シリーズシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:5〜9lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 29 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月07日〜03月12日
リプレイ公開日:2005年03月15日
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●オープニング
江戸近くの山道が吹雪で閉ざされたという‥‥
そんな風の噂が江戸の町に届いたのが10日くらい前のことだ。
荷を運ぶ商人が間道を抜けようとして吹雪が酷いのを知って引き返したというのが、噂の出所らしい。
商人は回り道をする羽目になって酒場で管を巻いていたらしいが、そうはいかない者もいる。
「何でそうなる!! 全滅だと‥‥」
武士は頭を抱えていた。
下っ端役人から報告を受け、彼の命で吹雪の酷い地域へ2〜3日前に調査隊が出発したまでは良かったのだが‥‥
出発して半日ほど経った頃、半ば凍りついたような一団が発見された。
そう‥‥ 調査隊である‥‥
さすがに全滅するとは思っていなかったので、叫びをあげる武士の気持ちもわからないではない。
「冒険者ギルドに頼めばよかったでござるな」
同僚の無神経な一言が、武士の神経を逆撫でする。
「これくらいのこともできずに何が武士か! それに、ギルドに頼むと金が掛かる。そうそう頼んでいられるか‥‥」
「でござるが‥‥」
「わかっておるわ!! 黙っておれ!!」
武士の額には血管が浮き出している。
彼としては、吹雪の先にある集落がどうなっているのか確かめたかっただけなのである。誰が彼を責めることができようか‥‥
いや、そうではない。武士には、その責任があるのだ‥‥
武士は現地への立ち入りを禁じ、ギルドへと使いを出した。
※ ※ ※
江戸冒険者ギルドの一室。
円卓に7つの椅子。机の上には木板が置かれている。
鳥仮面の女・イェブが冒険者たちを前に鋭い視線を投げている。
「今度のターゲットは不確定名・雪の魔物」
魔物ハンターたちが、またかと溜め息をついた。
「生きて帰って来た者がいないの。だから、わからないの」
はいはい‥‥といった感じで魔物ハンターたちはイェブを促した。
「急な吹雪、凍りついたような死体、虫の息で発見されてすぐに息絶えてしまった捜索隊の1人が残した『女』という最期の言葉‥‥
状況からいって雪の精や雪女‥‥ そんな魔物以外に考えられないでしょう?」
今回、イェブが指差す木板には、文字でしかターゲットの情報に関する書き込みがない‥‥
「しかし、難敵なのは間違いない。この前の鬼みたいに不意討ちができるとは限らないし、むしろ無理だと思った方がいいわね。
4人からの探索隊が簡単に全滅してるのが、その根拠」
イェブはメンバーの顔を見渡して、満足げに僅かに笑みを浮かべた。
「防寒具とか必要な装備は一式用意してくれるらしい。相手は依頼主だから、あまり支援を期待してはいけないわよ。
さて‥‥ 魔物ハンターは強敵を狩る。それが正体不明の相手でもね」
イェブは魔物ハンターたちを見渡した。何を今更といった顔が並んでいる。
「それでは出発して。残り半分を皆で飲めるように祈っているわ」
イェブは恒例のワインでの乾杯をした。
●リプレイ本文
●雪中行軍
「ほらほら、意地をみせたれや」
加藤武政(ea0914)は武士から借り受けた馬にソリを引かせ、物資を載せて調査隊が辿ったという道程を進んでいた。
雪が積もって進むのが大変だ。時々吹雪いたりもするので思ったように進むことはできない。
「そろそろ休憩しようか」
盾で風を避けながら先頭を進んでいたウェントス・ヴェルサージュ(ea3207)が、羽雪嶺(ea2478)の白い打ち掛けを引っ張った。
「あそこにしよう」
風除けの布を木々の合間に張り、虎魔慶牙(ea7767)はスコップを仲間に渡すと荷物から薪を取り出しに掛かった。
「寒いわね。終わったら、たっぷり温泉に入らせてもらいましょ」
アイーダ・ノースフィールド(ea6264)は悴(かじか)んだ手に白い息をあてた。
「それにしても、雪の精か雪女か‥‥ 相手の能力を考えると速攻しかないわね。
それに、今度のターゲットがお宮みたいに、また人間の女の姿をしているとしたら厄介よね。
魔物ハンターが人間を襲った、なんて悪評が立つのも拙いから、うかつにこちらから攻撃できないわ」
「そうなんだよな。ところで雪女って美女なんだろう? 何でだ?」
「やっぱり相手が油断するからじゃない?」
雪を掻き分ける加藤とアイーダは、全員が身を寄せて座れるくらいの場所が確保できたところで手を止めた。
「話し合いができれば戦う必要もないんだがな」
虎魔は油を染み込ませたボロ布の上に持ってきた細く割いた薪から段々と太い薪を組み、火をつけるとその火が落ち着くのを待った。
「敵が妖の類なら、人と見れば遅かれ早かれ向こうから出向いて来るだろう」
「『女』が好戦的か、男性陣が上手く尋問してくれる事を祈るしかないわね」
「炎龍とか大蛇の時みたいに、行って倒せば済むって感じだと楽なんだけどね」
羽雪嶺が雪を詰めた小さな鍋を火にかけながら笑った。アイーダはスコップを置くと一息ついた。
「こいつもちゃんと連れ帰ってやらないとな」
天津蒼穹(ea6749)は荷物の中から藁を取り出すと荷物を降ろして馬体を擦っていた。
借りてきた馬とはいえ、今回のメンバーの一員だ。天津の愛情に応えるように馬はヒヒンと鳴いた。
「お湯が沸いたから来いよ」
「あぁ、今行く」
天津は馬の背に蓆を掛けてやると焚き火の側にやって来た。
その時、雪が降り出した。
「お、降ってきたな。休憩とったら少し急ぐか?」
天津は湯飲みを袖で包(くる)みながら喉を潤した。
●吹雪の中の女
急に冷え始めて、おかしいと魔物ハンターたちが周囲を警戒し始めた頃‥‥
「あの‥‥」
振り向くと遠く吹雪の中に白い打ち掛けの女が佇んでいる。
「来たわね」
あからさまにおかしい。この寒さで、あの格好では‥‥
アイーダは梓弓を掴んで無造作に立ち上がると、風除けの布の後ろに隠れるように移動して邪魔になる防寒着を脱ぎ捨てた。
ウェントスと虎魔はさりげなく盾を構え、得物を取ると仲間の前に出た。
「どうして人を殺す? 理由があるなら聞く」
虎魔が言い放った。バッサリ切り捨てるような彼らしい言葉だが‥‥
穏やかそうだった女の表情が険しくなっていくのが遠目にもわかる。
「本気で襲う気満々じゃんか」
虎魔はビシビシと殺気を感じていた。仲間に視線を送ると頷きが返ってきた。
「あの人は私を裏切った‥‥ だから許せない」
風が女の髪を乱す。
「妖にも『生活』があるのは解っている。気持ちはわかるけど、人殺しをしていいという理由にはならない」
天津が小太刀に手を掛けた。だが、まだ抜くには早すぎる。
「想い出まで穢させない。誰もあそこには近づけさせないわ」
「無茶を承知で頼み申す。この地で人を襲うのを止め、山へ帰って頂けないだろうか?」
「それはできないわ。あなたたちこそ去ね!!」
女が印を組んで詠唱を始めた。
「なら‥‥ 倒すしかない。殺された人間や、困っているかも知れない人のことを考えると許せない!!」
加藤は日本刀を抜いた。
「魔法使いか。苦手な相手こそ自分を鍛える絶好の機会!」
相州正宗に手を掛け、虎魔は笑った。
「オーラパワーをかけ終わるまで時間を稼いでくれよ」
溜め息混じりに羽雪嶺はウェントスの霞刀にオーラパワーをかけた。
「させない」
アイーダの放った必殺の矢は女に命中したかに見えたが、ギリギリで見えない何かに弾かれた。
「いけない!!」
アイーダは次の矢を番えようとするが、間に合わない。
「近づかないで!!」
女の叫びと共に強烈な吹雪が魔物ハンターたちを襲い、馬がドウと倒れる。
「くそ‥‥ 痛ってぇ」
盾を構えていたウェントスと虎魔は大丈夫そうだが、他の仲間は無事ではない。
彼らの影になっていたとはいえ、天津と加藤は苦痛に顔を歪め、羽雪嶺は意識を痛みに持っていかれそうになりながら集中を続けた。
「お前に恨みは無いが‥‥ 人が悲しむのは見たくないのでな。魔物ハンター、いざ参る!!」
「おぅとも! 女に刃を向けるのは好きじゃないが、強い奴なら倒ーす!!」
吹雪の中、雪の上を行く魔物ハンターたち。かんじきを着けているとはいえ、天津も虎魔もなかなか女に近づくことはできない。
「相手が何であれ、人に危害を加えるものは放ってはおけないな」
さすがに助走できない状態では得意のチャージングができないが、ウェントスは必死に走った。
「来ないでぇ!!」
「僕たちが悪役みたいじゃないか!」
加藤が女の言葉に思わず叫ぶ。
「効いた?」
気をそらせることでもできればと放ったアイーダの矢は、女に突き刺さった。
残る矢は背嚢の中だ‥‥ アイーダは慌てて荷物の許へ走った。
詠唱する女に迫ろうとするが、白い息を盛大に吐くだけで時間ばかりが過ぎていく。
●無限の距離
「このままじゃもたないぞ!!」
天津は弱音を吐きながらも、その言葉で仲間を‥‥いや、自分自身を叱咤した。
雪に足を取られ、吹雪の中では散開して回りこんでいる暇はない。強行突破しようと最短距離を進もうとした結果、全員が2度目の吹雪に飲み込まれた。
「ごぁあ」
まともに吹雪をくらった羽雪嶺が唇を噛み締めた。髪や防寒着は既に凍ったようにバリバリになっている。
「はぁ、はぁ、俺は『蒼眼の修羅』‥‥ ウェントス・ヴェルサージュ。覚悟してもらうぞ」
「死になさい!!」
女が口を開けたとき、ウェントスは咄嗟にライトシールドを掲げた。
かぁぁあ‥‥
女の吐く息が空気を凍らせ、ウェントスを襲う。
「ぐっ‥‥ うぉっ!!」
猛烈な圧力にウェントスは盾を押し返した。
膝の感覚がなくなっていき、踏ん張って盾を支えた腕に痛みが走る。
「アイーダ!!」
「天津!!」
避けるものもなく煽(あお)りをくらった2人が膝をつき、倒れこんだ。
「うぉぉおおお!!」
ウェントスは悴んで感覚がなくなりつつある手に力を込めて霞刀を叩き込んだ。
「何? これは‥‥」
肩口にめり込んだ刀を見て、女は愕然とした表情を見せた。
「終わりだなぁ、はっはぁ!!」
虎魔の振り下ろした相州正宗が女を切り裂く。
「いい武器なんだが、軽いじゃんか」
斬れ味を確かめて虎魔は頬を歪めた。
「どうして‥‥ どうして‥‥」
女の頬に涙が伝う‥‥
「人さえ襲わなければ‥‥ くそっ!!」
羽雪嶺は虎魔の太刀筋を避けるように切り裂くと、片腕の龍叱爪を投げ捨てた。
「想い人のところへ行きなさい」
アイーダが矢を番えた。
「これで‥‥ あの人に‥‥」
どこか満たされた表情の女に、空(くう)を切り裂いた矢が吸い込まれるように刺さった。
「会えるといいな」
羽雪嶺の爆虎掌が‥‥、魔物ハンターたちの得物が‥‥、女の命を奪っていく。
「想い人の傍に埋めてやる。それで我慢するんだぜ」
虎魔の容赦ない一撃で女は崩れ落ちた。
体勢を立て直した魔物ハンターたちは目的の村が壊滅していたことを突き止めた。
女が倒されてから吹雪は収まってきたというが‥‥
それぞれの思いが交錯する‥‥
●それぞれの旅立ち
報告のためにイェブの許へ訪れた魔物ハンターたち‥‥
「イェブ、俺は今度の月道で一度イギリスに帰ることになった。ある人を迎えに行くんだ」
「ファラに続いて君もか‥‥」
月道のお陰で個人単位では世界は広いようで狭いということか。
「来月には戻ってくる予定だけど、戻ってきた時にまた魔物ハンターの依頼が受けられればと思っている。その時はまた宜しく頼む」
「突貫話は聞いていて楽しかったんだがな」
「それはどうも。失敗もあったし、うまくいったこともあったし、魔物ハンターの依頼はいい経験だったと思うよ」
「フフ‥‥ それでは残る我らも頑張らねばな。元気で帰って来い」
楽しそうに遣り取りするウェントスとイェブに周りに羽雪嶺たちが近づいてくる。
密かにチャンスを窺う加藤がジト目‥‥
「またな」
メンバーはウェントスとの暫しの別れを惜しんだ。
仲間の旅立ちの無事を祈って漆塗りの酒器が掲げられた。
「何で今回は酒なんだ?」
「向こうではワインなんか珍しくもないだろう? 酒の味を忘れないように、さ」
「私のお酒でしょ?」
鳥仮面の奥でニヤリと笑うのが見えた。
(「好機!!」)
ウェントスとメンバーが歓談し始めたのを見て、加藤が動く。
「イェブ‥‥」
「何?」
縁側の柱にもたれかけ、冬の色から徐々に変わりつつある空を眺めているイェブは普段と違うように見える。
「もうすぐ春だな」
「あ、あぁ‥‥」
加藤の一大決心が少しそがれた。慌てて表情を取り繕うが、見られてしまったかもしれない。
「2人で温泉に行こう」
イェブの髪に簪(かんざし)が挿(さ)されると、彼女が優しく微笑んだような気がした。
「ムードは合格。でも、駆け引きがまだまだね。どう?」
イェブが酌をする素振りを見せながら座った。
「いい男になってやる。見ててくれ」
「今のは合格」
イェブの横に座った加藤の酒器に酒が注がれていく。
「イェブ、どこか温泉に寄って帰ろうよ」
アイーダたちがイェブの側に寄ってくる。
イェブの肩と肩が触れるのにドキドキしながら、加藤は苦笑いを浮かべて一気に杯を空けた。
「魔物ハンターの名が広まってきたならさ何かシンボルか印を作って他の人が見たら分かるようにしたほうが良いかな?
例えばイェブの仮面に似せた印にぞれぞれを示す武器か文字を入れてさ。僕なら絶対虎だね」
「いいかもしれないね。考えておくよ」
羽雪嶺だけではない。魔物ハンターのメンバーたちの顔に笑顔が溢れた。