【魔物ハンター】未練の鬼蜘蛛
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■シリーズシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 71 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月19日〜04月24日
リプレイ公開日:2005年04月26日
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●オープニング
「また、お願いしたい退治があるのですが」
「あら‥‥ お久しぶり。村がまた襲われたの? 今度のターゲットは?」
先に女郎蜘蛛の退治を頼んできた金持ち風の男に呼び止められて、イェブがどこか嬉しそうに言った。
「いや、何というか、あの女郎蜘蛛がまた現れたんですよ」
「それは聞き捨てならない話ね。魔物ハンターが止めを刺し損ねるなんて、報告を聞いた限り、あの状況ではあり得ない話よ」
金持ち風の男の言葉に、仮面の下でイェブの表情が微妙に動いた。
「詳しい話を聞かせて」
「わかりました」
良く見ると男は目の下に隈を作っていた。
「あの焼けた里山に木を植えようと山に入ったんです。そうしたら、あの大蜘蛛が現れて‥‥村人が何人か怪我をしました」
男は溜め息をつくと、気を取り直したようにイェブを見つめて言った。
「木こりが1人取り残されて‥‥帰ってません」
「たぶん助からないわね」
イェブは畳み掛けるように言った。
「はい、恐らくは‥‥」
「でも、どうしても信じられないね。魔物ハンターが討ち漏らしをするなんて。何か気が付いたことはないの?」
「そういえば姿が薄かったような気がするとか言ってる者が多かったですね」
「もしかしてゴースト?」
「ごーすととは?」
考え込むイェブを男が覗き込んだ。
「未練のある魂がこの世に残ったものが魔物になることよ。それなら話の辻褄は合うわね」
「幽霊みたいなものですか?」
「そんな感じだと思う。それで命を掛ける報酬はお幾ら?」
「え? 金を取るのですか?」
「当たり前じゃない。
女郎蜘蛛を倒したのは間違いないんだし、その魔物が死んだ後にゴーストになって復讐でもする気なら、それは別の話」
「わかりました。そういうことなら改めて退治をお願いします。2度と出てこないようにお願いしますよ」
「駄目ね。でも、その時には、また改めて依頼を受け付けてあげるから安心して」
「敵(かな)いませんね、あなたには‥‥」
やっぱり男よりもイェブの方が1枚上手のようである‥‥
※ ※ ※
「今度のターゲットは、この前の『女郎蜘蛛』。未練たらしく幽霊になったらしいわ」
ここは江戸冒険者ギルドの一室。
円卓に7つの椅子。机の上には木板が置かれている。
鳥仮面の女・イェブは、木板を指差した。
「この蜘蛛、今度は生気を啜るらしい。襲われて運良く逃げ延びた村人に外傷はなかったけど、酷く体力を消耗してたみたい」
イェブが指差す木板には、この前見た斑(まだら)模様の蜘蛛が描かれている。
「どうやら里山から動けないみたいだけど、いつ動き出すかわからないしね。
村人が1人犠牲になってるから早めに倒してほしいって話よ」
イェブは魔物ハンターたちを見渡した。
「普通の武器では効かないはずだから気をつけて。勝って帰って、残り半分を皆で飲み干しましょう」
イェブがワインのカップを掲げると、魔物ハンターたちもそれに倣った。
●リプレイ本文
●江戸ギルド
「しかしよぉ‥‥ 今回の御相手は‥‥ く、くく、蜘蛛がオバケで、オバケが蜘蛛で‥‥ う〜ん」
平島仁風(ea0984)は身を投げ出すように椅子に倒れこんだ。
「大丈夫なのかい?」
仮面の下に覗くイェブの顔には苦笑いが浮かんでいる。
「蜘蛛もオバケも嫌いだってのによぅ。あーもう、トコトンまでやったらぁ!」
「平島さんにも苦手なものがあったんだね。
それにしても、まさかゴーストとしてまた僕達と再戦するとは女郎蜘蛛も思ってなかったろうな。僕も思わなかったけどさ」
「会えばわかるだろうよ。ゴーストってのは生前の記憶を残してることが多いっていうからね」
忍び笑いする羽雪嶺(ea2478)に視線だけ向けて、イェブがカップを置いた。
「しかし、怨霊になるほどの蜘蛛の未練‥‥ 一体何でございましょう?」
火乃瀬紅葉(ea8917)は小首を傾げた。
「女郎蜘蛛の幽霊、ねぇ‥‥ なんとなく、恨みで出てきた‥‥って感じじゃないような気がするわ。
もし恨みだったら、もっと私たちを狙い易い手段はあるもの。
もしかしたら、女郎蜘蛛の卵か子蜘蛛が生き残ってるのかも。
自分の子供を守るために人間を山に近づけないようにしている、っていうなら合点がいくわ。
その場合は、今度こそ未練を断ち切ってやらないとね」
「あぁ。今度は二度と出てこれないように消さないとね」
アイーダ・ノースフィールド(ea6264)は、同意するイェブに頷いた。
「はい。仕事はきっちりやり遂げたいと思いますゆえ、この間の蜘蛛が蘇ったなら、それを倒すのも紅葉の勤めと思いまする!
あの女郎蜘蛛と戦ってから、紅葉、魔物について色々調べてみました。
そうすることも、ハンターとしての嗜(たしなみ)と思いましたゆえ」
羽雪嶺と火乃瀬の視線は熱く、強い力を感じさせる。
ポムと手を叩いて火乃瀬が話し始めた。
「霊の魔物には普通の武器は効きませぬ。銀の武器か魔法がかかった武器が必要と聞きましたわ。
実体がないと聞きましたが、それ以上は‥‥ もっと勉強しなくてはいけませぬ」
「実体が無いというのは厄介だわ。
目も耳もあてにはできないから、できる限りの警戒をしても敵に不意打ちされる危険を完全には排除できないもの。
例え先手を打たれても、立て直せるように心構えをしておくしかないわね」
アイーダは自分の装備をどうするか思案し始めたようだ。
「私は、囮やその他の事で貢献出来ればと思っております。奇襲されれば闘気の技の付与などに時間をとられるでしょうからな」
「闘気を付与する術を使える者が2人もいるのだ。態勢さえ整えられれば問題なかろう。
それに、生きている者を襲ってくるのなら、我々が行けばすぐに見つけられるのではないだろうか」
静かに佇む島津影虎(ea3210)。天津蒼穹(ea6749)が仲間を見渡すと頷きと共に気迫が返ってきた。
「蜘蛛の怨霊を成仏させ、取り残された木こりさんを助け出しまする!」
「凛々しいところが可愛いな」
微笑むイェブを見て、火乃瀬の顔が真っ赤に染まった。
●里山の攻防
「村人の話では『あいつら許さん』と言っていたみたいでございますが‥‥ 結局、行き当たりばったりになってしまいましたね」
「でも、これだけ何にもなくっちゃね。気をつけていれば多分大丈夫さ」
村では大した情報を得られなかったと、ちょっぴりがっかりした様子を見せる火乃瀬の肩に羽雪嶺が手を当てた。
全員で周囲を警戒しながら里山に侵入していく。
この前死闘を繰り広げた里山は丸焼けになっていたので、多少は見渡しが良くなっていた。
今回は前回に比べて危険度が高いと村人はおろか狩人も同行させていない。
「山を焼いても蜘蛛の卵が生き残っていたとしたら、地中にあった可能性が高いわ。地面の状態に注意しましょう」
「怨霊になった原因が子蜘蛛か卵なら、それらの始末も考慮に入れておく必要もあるでしょう。
少々可哀想ですが、此方にも被害が出ていますからね‥‥」
アイーダの言葉に島津が同意するように軽く頷いて細い目を更に細めた。
「木こりさんを無事に助け出せるのでございましょうか‥‥」
火乃瀬は心配そうに周囲を見渡す。
仲間たちはそんな彼女、いや彼を見ると十中八九は真実であろう予測を口にすることはできずにいた。
これだけ日にちが経っていては生きてはいないであろうことを‥‥
「行方不明者の安否は気になりますが、途中で出会った場合は要注意ですね。怨霊は人に憑くと言いますし」
島津の言葉は優しい。仲間に注意を促す一方で、火乃瀬のことも気遣っていた。
若いのに妙に達観したようなところが島津らしい。
「仇が来たと知りゃ、存外あっさり出て来るかもな?
出て来なかったら仕方無ぇ、目を凝らして地道に姿の透けたデカい蜘蛛を探すっきゃ無ぇ」
平島の空元気に仲間たちは苦笑いするしかない。
「おらおら! 化け蜘蛛やい!! にっくき仇のお出ましだぞー!!」
肩で風切って平島が仲間たちの先頭を歩く。
「出てきませんね‥‥」
周囲に注意を払うが島津たちの目には何も捉えられない。
「怖くて出てこれねぇのさ。大したこ‥‥」
「平島さん、待って!」
アイーダが平島の背を掴もうとするが遅い。
ぼやけた糸のようなものに引っかかったと思ったら、一瞬で半透明の糸に巻き取られてしまった。
「気をつけて!」
2本の矢を一度に番えたアイーダが警戒を促すまでもなく、他の者は臨戦態勢に入っている。
「しくじりましたね。1人脱落ですか」
島津は冷静に周囲を見渡した。絡め取られた平島の向こう側には、薄っすら蜘蛛の巣が張り巡らされているように見えた。
「よく来たわね。魔物なんとかたち」
声だけが響く。
「この世に未練を残すなんて‥‥ 残した卵でも気になったの?」
アイーダは視線を動かしながら鬼蜘蛛の幽霊を探した。
「子を想う母蜘蛛の執念か、泣かせるねぃ‥‥ けどよ、だからってこっちも易々と餌になってやる訳にゃ行かねぇんでなぁ!」
平島が力任せに糸を切ろうと試みるが、ちぎれることはなかった。
「せめて相手の位置がわからないと‥‥ くっ‥‥」
島津は身を捻ると半透明の糸を辛うじてかわした。まさに間一髪‥‥
「まずいですね‥‥」
島津の頬に額から汗が流れた。
「お前たちに何か教えてやらなくてはならない道理など、我にはないわ」
焼けた木々のどこからか声が聞こえてくる。
「でも、少なくともお前たちは殺してあげないとねぇ」
悪戯っぽく笑う声が響いた。
「くそっ」
咄嗟に羽雪嶺は太刀を放した。太刀は巻きつかれ、地に落ちた。折角の闘気魔法も集中も途切れさせる外(ほか)ない。
「少し時間が稼げるか?」
「元よりそのつもりです」
羽雪嶺は島津に声をかけると巣から離れた。
アイーダたちも羽雪嶺に倣って巣と間合いを取った。しかし、事態がどうなるわけでもない。
「おやおや、隠れるなんて。この男がどうなってもいいんだね?」
声は楽しそうだ。
「ふんぬ〜〜!!」
平島が力を入れるが糸は切れそうにない。さすがにあんなことを言われれば、気ばかりがあせる。
「何でこんな糸が切れないんだ〜!!」
青筋を立てて筋肉を盛り上げるが、糸はビクともしない。これくらいの糸ならば切れて当然のはずなのに‥‥
「小細工は通じませぬ、正体を現しませ!」
火乃瀬が鳴弦の弓をかき鳴らした。
「な、何だ! その耳障りな音は‥‥」
木の陰からゆらっと女の姿が現れた。
腹の部分が灰色の毛に覆われ、蜘蛛の容(かたち)をとっているが、半ば女の姿をしているのが不気味さを増している。
「お、おおお、お‥‥ オバケ〜〜〜っ!!」
平島は卒倒しかけたが、必死に意識を繋ぎとめた。
「自然ならざる生は闇に還るが定め‥‥ 呼びし火炎は浄化の炎、烈火の紅葉、いざ参りまする!」
鳴弦の弓を肩に掛け、印を組んで火乃瀬はマグナブローの詠唱を始めた。
「我を殺した憎き奴ら‥‥ この恨み、晴らさでおくべきか!!」
女の形相が怒りへと変じた。
「なんてことです‥‥」
「不覚にございまする」
島津は何とかかわしたが、火乃瀬はギリッと絡み取られてその場に倒れてしまった。
「力無き者に変わり、我等が正義の刃となろう! 魔物ハンター、いざ参る!!」
木の陰から飛び出した天津が間合いを詰める。
「そう上手くいくと思ったか!」
鬼蜘蛛の体に浮かんだ女の顔が残忍な笑いを浮かべた。
段差を降りるのに勢いを殺さないように大きく踏み切った天津に糸が巻きつく。
島津は、物は試しと火乃瀬に巻きついた糸に忍者刀を当てて、縄を切る要領で引いてみたが切れない。
「そんなことをしている暇はあるのかい?」
女は次なるターゲットをアイーダに決めたようだ。
「これでもくらいなさい!」
「あなたもね」
梓弓から放たれた2矢は魔力を帯びたまま女を通り抜け、その姿を揺らめかせたが接近を止めるほどではない。
近づきつつ次第に蜘蛛の姿になっていく女に、遂には噛みつかれた。
「苦しみなさい。ハハ、いい気味だわ。お前たちは死んで当然!」
顔や体は女、融合するように蜘蛛の毛や長い足、邪悪な笑みから生まれる恨みの言葉。
噛み付かれた場所からアイーダは力が抜けるような感覚に襲われた。
弓騎士のアイーダに接近されて打つ手などない。成す術もなく糸に巻かれてしまった。
「あと2人‥‥」
回避に専念して逃げ回る島津と羽雪嶺。羽雪嶺は何とか成就したオーラエリベイションの力を得ているが、かなり際どい。
しかも、2人にとって予想外だったのは、蜘蛛女の手数が思ったよりも多かったことである。
「しまった」
羽雪嶺が糸に巻かれて転がった。
「あと1人‥‥」
「私では何ともなりませんよ‥‥」
島津の言葉にククッと笑ったところで蜘蛛女は炎の柱に包まれた。
「この糸、力で千切ろうとしても無駄でございまする! 切れると信じることが寛容でございます!!」
全員の視線の先には、印を組んだ片手を突き出した火乃瀬が立っていた。
「平島さんと比べて格段に非力な私でも切れたのです。気をしっかり持つのでございます!」
「そうは言うけど切れませんよ」
羽雪嶺がもがく。
「ふ‥‥ そう簡単に切れてたまる‥‥か」
蜘蛛女の余裕の笑みが、何かに気づいて驚愕の表情に変わる。
「へへっ」
平島が月露を蜘蛛女の体から引き抜いた。
「馬鹿な‥」
「そうは言うけどなぁ!!」
蜘蛛女の牙を受け、糸を捌いたが、続く糸には反応できなかった。
「ついてねぇ!」
かわそうと体を動かすが、平島は再び糸に巻かれて転がった。
蜘蛛女が突貫する天津に気づく。
「鋼雲留水!」
「もう一度捕らえてやる!!」
蜘蛛女が糸を吐く。
勢いは殺されてしまったが、気合で糸を引きちぎると長槍を握り直した。
(「不完全だが‥‥」)
「確・乎・不・抜!!」
長槍の重さを十分に乗せるように薙ぐと、ブワッと蜘蛛の影が揺れて姿を薄れさせた。
「またしてもか‥‥ 人間ごときに‥‥ 我がやられるというのか‥‥」
「お前に恨みは無いが‥‥ 人が悲しむのは見たくないのでな」
天津はブブンと槍を操ると大きく静かに息を吐いた。
「逃がしません!」
フラフラと遠ざかろうとする蜘蛛女にアイーダの放った矢が突き刺さる。
「許さぬ! 許さんぞぉ!! 今度こそはぁ‥‥」
蜘蛛女は姿が薄れ、吹き消されるようにいなくなった‥‥
「2度と御免こうむりたいね」
羽雪嶺は太刀を拾い上げると溜め息をついた。
●卵の行方
村人たちと手分けして魔物ハンターたちは里山をくまなく探した。
しかし、木こりの死体が見つかった以外、何か見つかったという報せは届いていない。
「これだけ探してねぇんだから残っちゃいねぇよ」
「そうさ、あんたらは良くやってくれてる。」
村人たちは口々にそう言った。
「俺らがしっかり気にしておくから、後は安心してくれ」
木こりや猟師が魔物ハンターたちに念を押したこともあって、里山での探索は幕を閉じた。
「しっかり成仏してほしいですね‥‥」
島津たちは線香を上げている。
「何かあってほしくはありませぬが、変事の折にはイェブさんを頼ってくださいませ。魔物ハンターが駆けつけまする」
火乃瀬たちは村を後にした。