【魔物ハンター】炎龍退治

■シリーズシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 69 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月04日〜11月14日

リプレイ公開日:2004年11月12日

●オープニング

 江戸冒険者ギルドの一室。
 円卓に7つの椅子。机の上には木板が置かれている。
「さぁて、揃ったね」
 鳥仮面の女・イェブが冒険者たちに席を勧めた。
 ククッと笑う彼女に冒険者たちが微妙に引いていると、肩を揺らす彼女の仮面の下から満面の笑みが見えた。
「さぁ! 魔物ハンターの名を上げるチャンス!!
 そして、同時に君たちの名を上げる‥‥ あぁ、わからないか。君たちの名を上げる好機だよ!!
 今度のターゲットはこいつ!!」
 彼女が拾い上げ、冒険者たちに突きつけた木板には龍の姿が描かれていた。
「はぁ? 何よ、その反応は。もっと盛り上がってもいいんじゃない?」
 ジャパンでドラゴンの知名度がそんなに高くないことを、イェブは知らないらしい。蜥蜴程度にしか見ていない感じだね。
 尤(もっと)もジャパンでは神話の中で伝えられる以外には、その姿を見ることなど希(まれ)なのだからしょうがないと言えばしょうがないのだが‥‥
「ジャパンじゃ、龍は神話の中の怪物ぅ?」
 やたらと気分が高揚しているイェブに怪訝な視線を投げかける冒険者たちの気持ちもわかるが、イェブの気持ちもわからないではない。
「と・に・か・く! 仕事は請けてしまったの。命が惜しい奴は残ればいい。ドラスレよ? ドラスレ!」
 確かに欧州の英雄にドラゴンスレイヤー、つまり龍殺しが何人もいるのは事実なんだけどね‥‥
「今回は依頼人もすごいとこだからね。鬼騒動で大変なことになっている那須藩さ。
 成功すれば、知名度アップ! これから先の仕事もとりやすくなって万々歳!
 ‥‥って、もしかして‥‥那須藩のあの役人もドラゴンのこと知らない?」
 イェブの顔に落胆の色が浮かび、冒険者たちが無言で頷いた。
「いいさ。盛り上げるのは任せといて。あんたたちなら何とか倒せるって信じてる。だから請けてきたんだから」
 本当に大丈夫かね。危険なのは魔物ハンターだよ?
 イェブが更に息巻く。
「目撃談とかを総合するとターゲットは炎龍。全身に炎をまとった体長1丈の8本足の蜥蜴だ。
 近づいただけで炎にまかれるっていう危険な奴さ。
 炎龍が現れたのは那須藩の茶臼山というところ。麓には毒の霧の立ち込める死の山さ。毒の霧の薄いところを縫って山から降りてきたらしい。
 最後に! 今回は那須藩のお迎え付きだ。いい待遇じゃないか。試験的に街道沿いに置かれた早馬を使ってもいいとよ」
 イェブの興奮は、未だ冷め遣らず‥‥

●今回の参加者

 ea0914 加藤 武政(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2478 羽 雪嶺(29歳・♂・侍・人間・華仙教大国)
 ea3207 ウェントス・ヴェルサージュ(36歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3269 嵐山 虎彦(45歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea4762 アルマ・カサンドラ(64歳・♀・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea6264 アイーダ・ノースフィールド(40歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●那須湯本
 鬼騒動でバタバタしているのは、温泉で有名な那須湯本の温泉神社でもそうである。
 とはいえ、また温泉か? と魔物ハンターが思うのも無理はなく‥‥ たぶんイェブの差し金だろう。もしかしてあんなにドラスレ、ドラスレと騒いでいたのは、温泉目当てだと悟られたくないからなのかと変に勘ぐってしまう。これでイェブが温泉にでも浸かっていれば‥‥ ありそうで怖い。
「なんだかよく分からないが大物らしいな!
 これに勝てば名誉と金は思いのまま、ああ、ああ、背後から名誉たちが追いすがる音が〜」
 折角なので使うか‥‥と自分の馬を江戸に置いてまで早馬を利用した加藤武政(ea0914)。よく手入れされているからか、こちらの馬の方が毛艶がいいのがちょっと癪(しゃく)。
「炎龍ってサラマンダーのこと? そんな風に聞いたような気が‥‥ 確かではないのだけど、ドラゴンじゃないんじゃない」
 アイーダ・ノースフィールド(ea6264)以外は借り物の馬で快適な旅。徒歩なら5日はかかる道程を2日程度にまで短縮できるとあって、なかなか便利である。
「いいじゃないの。細かいこと気にしすぎ。
 それより、早めについたし、今日は遅いしさ。
 陣屋で情報を集めて、その後は温泉に入らないか? 本番までに体を休めないとこうぜ」
「そう、気にする必要はないよ。面白い獲物だしな。この『蒼眼の修羅』としても相手にとって不足なし! と言ったところか」
 加藤もウェントス・ヴェルサージュ(ea3207)も気楽なものである。魔物ハンターは戦うことに意義がある。敵が強ければ、後は些事だった。
 駄弁(だべ)っているうちに陣屋が見えてきた。
「やっぱ無理だよな」
 イェブの根回しにより特別に戦闘馬が用意され、嵐山虎彦(ea3269)は一向に同行している。さすがに通常馬では巨躯のジャイアントを乗せるのには無理がある。汗をいっぱい掻きながらヨタヨタと歩き、徒歩の者にも追い越される姿は見ていて痛々しい。乗り潰されては叶わないと、仕方なく那須藩江戸屋敷から虎の子の戦闘馬が貸し出されたのである。乗馬に関しては概ね問題なし。戦闘などしなければ、何とか乗っていられた。
「毒が吹いてる場所があるんだよね? 注意しなきゃいけない場所とか特徴とかあるのかな?」
「馬周りの俺に聞かれても大したことは答えられん。陣屋のものに聞いてほしい」
 それもそうである。羽雪嶺(ea2478)たちは陣屋の役人に炎龍を退治しに来たことを告げると、旅の汚れを落として身嗜みを整える時間をくれた。先方にも都合合わせも兼ねてのことだろうが、茶などさり気なく出てくるし、卒がない。
 奥の部屋に通されると、恰幅の良い役人らしき武士が冒険者たちの前に現れて上座に座った。
「茶臼山の炎龍を倒すというのは、そちらか」
「ふっふっふっ、僕の背中は幾千万の金と名誉が支えてるんだ〜」
「炎龍ってか‥‥ 手強そうで腕が鳴るぜぃ!」
 膝を乗り出す加藤にバキバキと指を鳴らす嵐山。まぁ、侍や志士がいないのだからこんなものだろう。
「ホホ、威勢の良い奴らじゃ」
 役人が手にした扇子をパチンと鳴らすと隣の部屋から武士が現れ、地図を並べた。
「炎龍が現れたのが、この辺じゃ」
 扇子の差す先は山の麓の方。人里からは遠い。ま、その辺が役人の余裕の表情に繋がっているんだろうね。
「毒霧の山に住んでるんだよな?」
「そうじゃ。茶臼山は昔から毒の霧に覆われた山。蜂蝶の類など足元の色も見えぬほど重なりて死ぬと伝えられるほどじゃ」
「じゃ、毒には気をつけて、口に手ぬぐいで覆いをしとこう」
「一番良いのは近づかぬことじゃ。幸いというか、炎龍は自由に毒の霧を出入りできるわけではなさそうじゃからのう」
「んじゃあ、水辺で戦えれば少しは楽かもしれんねぇから、誘き出すのがいいかもな。もちろん火事になりそうな場所は避けなきゃ意味ねぇが」
「それならば、この辺りかのぅ」
 思案顔の嵐山が顎に手を当てながら無精髭をジョリジョリやっていると、役人は再び扇子で1点を差した。
 さっきの場所から遠くなく、小川が流れている場所のようだ。毒の霧と書かれ、グルリと山を囲むように地図のない場所から離れているところを見ると、その辺りには毒の霧はこないようだ。しかし‥‥
「地図の途切れている場所の近くでも毒にまかれることがある。土地の者たちが『毒溜まり』と呼んで近寄らぬ場所じゃな。どこと名言できぬのが辛いとこじゃが、窪地や風の吹かぬ場所では気をつけることじゃ」
 こればかりは山岳の土地勘がものをいいそうだ。
「近くに水場があるというのは安心できますね。できれば池や湖が良かったのですが‥‥
 最善の状況で戦える訳ではありませんからね」
 アイーダたちは役人たちからできる限りの情報を引き出して退出した。
 温泉に入り、腹を膨らませると、あーだこーだ言いながら夜遅くまで作戦の細かい部分を詰めていった。
 後は戦うだけだが‥‥

●毒の霧
 手ぬぐいを水で濡らして口や鼻を塞いで用心しながら、魔物ハンターたちは戦場となる川原へやって来た。
「倒せれば龍殺し‥‥ぢゃな。ぢゃが、焼きシフールは‥‥ い、いやぢゃ‥‥」
 アルマ・カサンドラ(ea4762)が、アイーダの首元にしがみついてブルブル震えている。
「あぁ、毒はそんなに気にしなくてもいい感じだけど、炎は気をつけないと。これも効くといいんだけどね」
 羽雪嶺は皮外套に泥を塗りつけた。効果の程は実際に炎をくらってみないとわからないが、何もしないよりはマシ。
「ん〜‥‥ 我慢、我慢‥‥」
 加藤は炎を纏った巨大な蜥蜴が接近するのを見送る。
 懸念の炎の息は飛んでこないようだ。盾で炎を防ぎながらここまで嵐山が誘き寄せる作戦だったのだが、少し様子が変だ。
「うおおおおおぉぉぉおお!! あち、あちっ」
 炎龍の方が多少足が早かったようだ。炎龍の周囲に炎が巻いており、近くでは盾は役に立っていない。
「やばいよ!! 嵐山さんを助けてあげて!」
 オーラパワーをかけ始めていた羽雪嶺が加藤とウェントスの背中を押す。
 水蒸気が巻き起こり、炎龍は足を止めた。川に飛び込んだ嵐山を見失ったようだ。
 底も浅く、川幅も広くないのが幸いした。アルマが、苦しそうに水を吐き出す嵐山へリカバーをかける。
「大丈夫かの?」
「大丈夫だけど‥‥」
 水蒸気の中の炎の影に向かってアイーダが矢を射るが、当たったかどうかわからない。
 次の瞬間、アイーダの目の前に火球が出現した。散開したつもりだったが、予測以上の大きさだ。
「!!」
 爆発が嵐山を水中へ叩き込み、アイーダとアルマは爆風で吹き飛ばされるように転んだ。
「クッ‥‥ 熱‥‥」
 アイーダが身を起こそうとすると、顔の上にアルマが落ちてきた。
「アルマ、大丈夫?」
「大丈夫じゃが‥‥ 次はくらいたくないのう」
 何とかまだ戦える。だけど、そう何度もこれをくらっては、まず体力のないアルマが参ってしまう。
「くそぉ、無茶苦茶しやがって‥‥ ゲホッ」
 風で水蒸気が晴れる中、水の中から起き上がった嵐山を炎が包んだ。
「やらせるかぁ!!」
 加藤が炎の中に斬りこむ! 炎龍が振り向いて牙を浴びせる。
「があっはぁ」
 炎龍の牙が加藤の肉を焼き、炎が更に追い討ちをかけた。
「今だぁ!! 行っけぇ!」
「任せろ。奥義、絶刀撃!」
 反対側から走りこんでウェントスが斬りつけるが、必殺の攻撃も助走が足りず、思っていたような威力にはならない。
「もたせろ!!」
「わかってる」
 嵐山の六角棒が空を切った。
「こんなもんじゃねぇ」
 巨漢の僧兵から煙が上がっている。相当の火傷のせいで、いつもの体のキレが見られない。
「下がるのじゃ。回復する」
 アルマが危険を冒して嵐山の近くまで飛んでくるが、逆巻く炎で体に触れる事ができない。
「ぐっ‥‥」
 ウェントスが運悪く牙の餌食になる。
「お待たせ!」
 泥を塗った皮外套を被って羽雪嶺が炎龍に体当たりする。
 パリッ、パリパリッ! 表面の泥が乾いていく。吹きつける炎になら効果があるかもしれないが、炎龍の周りを取り囲むような炎の舌は魔物ハンターたちを包み込んでいく。離れれば泥を塗った外套や盾で炎を防げるかもしれないが、そうすると今度は羽雪嶺たちの攻撃が届かない。
「役に立たないか」
 何より泥を塗った皮外套は重かった。思い切りよく捨てると一気に間合いを詰める。
「フンッ!!」
 ジュッと手の平が焼ける音がする。しかし、そんなことを気にはしない。
 ズムッ!!
 爆虎掌が炎龍の動きを僅かに鈍らせる。あまり効いてはいない。
「何とかならないの!」
 アイーダも水を吸わせた毛布を投げ捨てた。
 ギリッ! まだ弦は引ける。
「これでどう!」
 狙って放った矢は炎龍に突き刺さって燃え始める。防御の薄そうな場所を狙ったつもりだが、それでもあまり効いた風ではない。
 炎龍の動きが鈍くなっているのは感じていたが、魔物ハンターたちも傷や火傷を負っている。徐々に有利にはなっている気がするが、勝つまでに死人が出そうな感じである。
「これでどうだよ」
 オーラソードでは掠り傷しか負わせられないと感じた羽雪嶺は、再び爆虎掌を放った。
「早く倒れろ」
 ウェントスがロングソードを繰り出すが、まだまだ倒れる様子は見られなかった。
 そのとき!
「うおぉぉ!!」
 牙を受けながらも嵐山の六角棒が炎龍の胴を貫いた。炎龍の動きが鈍い。次の牙にもタイミングを合わせて六角棒を突き立てた。
「ありがとな」
「良かったのぢゃ‥‥」
 嵐山の背中にはアルマの姿。火傷を負いながらもリカバーを施したのである。
 重傷を負った炎龍が逃げ道を探そうとするが、四方を囲まれていて逃げ場はない。
 魔物ハンターたちはリカバーポーションを飲み干すと、獲物を構えなおした。
「さぁ、炎龍狩りだ」
 嵐山が舌なめずりした。六角棒のスマッシュEXが、炎龍の足の1本を叩き潰す。
 ズルズルと体を引き摺る炎龍に、さっきまでの凶悪なまでの迫力はない。
 相変わらず炎は巻いていたが、掠り傷や軽傷を我慢すればいいだけの話。
 完全に魔物ハンターの圧倒的優位に推移していた。
 日本刀が、爆虎掌が、ロングソードが、矢が、炎龍の命を消していく‥‥
 命を失った炎龍は、その身を自らの炎の中に消していった。

●大勝利
「はん! ちょろいもんだぜ。まぁ、俺にかかりゃこの程度はよぅ‥‥なんて粋がってみたいが、ヤバかったなぁ」
 案の定、温泉でイェブを見つけた嵐山たちは湯船を強襲した。
「でも良かったじゃないの。あなたたちも魔物ハンターもこれで名があがるわよ」
 イェブは杯を片手に夜空を見上げている。
「炎龍の牙で首飾りでも作って、あなたに贈ろうと思ってたんですが‥‥ 残念ながら入手できませんでした」
 すまなそうな顔で羽雪嶺が溜め息をついた。
「いいよ。私は何より皆無事で帰ってきてくれた事が嬉しい」
 なら、6人で強敵の相手さすな! という突っ込みはナシ。イェブが何考えてるのかなんて私にもわからないんだから。
「でもよぉ。結構楽しかったぜ。
 くぅ、今まで胸がまあまあの仮面の変人女とか、陰で思っていたが、許してくれ! キミはナイス仲介人だ!」
「そんなこと思ってたの?」
 イェブの胸が湯衣ごしに加藤の腕に当たった。鳥の仮面をつけてなければ、もっと色っぽい場面なんだろうが‥‥
「なんて羨ま‥‥」
「動かないでください。ただでさえあなたが湯船に浸かって湯が減っているのですから」
 嵐山の腕をウェントスが引っ張った。
「いや‥‥ すまん」
 胸の下までしか浸かってなかった褐色の巨体がその身を湯船に沈めると湯が溢れた。
「いい湯ですね‥‥」
「ほんに」
 アイーダとアルマが湯煙の向こうで一息ついた。

●江戸の噂
 『神聖暦999年11月、下野国は那須藩の茶臼山にて邪龍退治さる。毒を吐き、炎を撒き散らして森を焼き払い、多くの者を死に至らしめた邪龍は、魔物ハンターなる冒険者の一行に討ち取られたり』

 世の中の噂なんてこんなもの‥‥ 適当なもんね。