【魔物ハンター】実に恐ろしきは女の性

■シリーズシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 45 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月21日〜11月26日

リプレイ公開日:2004年11月29日

●オープニング

 江戸冒険者ギルドの一室。
 円卓に7つの椅子。机の上には木板が置かれている。
 鳥仮面の女・イェブが冒険者たちに席を勧めた。
「さぁて、揃ったね。前回の魔物ハンターの仕事振り、江戸でも噂になってきてるじゃないか。私も鼻が高いよ」
 嘴が長いの間違いだろう。ま、そんなことは置いといて‥‥
「今回のターゲットは‥‥、はっきり言えばカマキリだ。当たり前だが、その辺にいるカマキリじゃない。
 頭の天辺から腹の先まで1丈という巨大蟷螂だね。雌雄一対で、雌の方は一回り大きいようだよ」
 成る程、円卓の上の木板には蟷螂の絵が描かれていた。普通の蟷螂と違うのは、横に書かれている人物の大きさだ。
「獰猛で食欲旺盛。小動物なんか一飲みにしてしまうほど。
 獲物を狙う鎌は鋭く、居合い抜きもかくやと言わんばかり。
 『蟷螂が斧を取りて、隆車(りゅうしゃ)に向かう』という故事を知ってる?
 今度ばかりは『冒険者が剣を取りて、蟷螂に向かう』って感じね。油断しないこと。いいわね。
 あ、用事があるから失礼するわよ。次の依頼の打ち合わせに行かないといけないのよ。
 フフ、強敵を用意しとくから期待しといて」
 イェブは笑顔を覗かせながら部屋を後にした。
 何で2枚あるんだと魔物ハンターに呼び止められ、イェブは廊下から顔だけ覗かせた。
「大丈夫! 1体の強敵を少数の冒険者で退治するのが魔物ハンター!!
 どうして2体もいるのかくらい自分で考えなさい。じゃあね。
 次のターゲットも期待しといてよ」
 最後の方は笑い声と共に廊下から聞こえてきた。

●今回の参加者

 ea0085 天螺月 律吏(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea2478 羽 雪嶺(29歳・♂・侍・人間・華仙教大国)
 ea3207 ウェントス・ヴェルサージュ(36歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea4112 ファラ・ルシェイメア(23歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea4762 アルマ・カサンドラ(64歳・♀・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea6264 アイーダ・ノースフィールド(40歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●壮絶! 大蟷螂
 江戸近郊の街道沿いの宿に着いた魔物ハンターたちは目的の森を宿の窓から遠く眺めていた。
「巨大蟷螂か‥‥ 正直かなり厄介だな。
 素早さでは到底かなう筈がないし、仲間との連携をよく考えねば首が飛ぶ‥‥といったところか」
 まだ見ぬ敵ながら蟷螂くらいは見た事がある。天螺月律吏(ea0085)は、あの蟷螂が1丈もの大きさになっているのを想像して眉を顰(ひそ)めた。
「地力はありそうだし、拳法の型になるくらいの魔物だよ。やっぱ強いよなぁ‥‥
 待てよ。恐いけど、大蟷螂相手に戦えば修行にはなるよね。うん、燃えてきた」
 羽雪嶺(ea2478)にうまくイメージできているのかいないのか‥‥ それとも自分の力を過信しているのか‥‥
 彼らは大蟷螂の本当の恐ろしさをまだ知らない‥‥
「小動物くらい一飲みにしそうだよね。僕も多少は危険なんだろうな」
「わしなど完璧に一飲みじゃろう‥‥ やだやだ」
 羽雪嶺のふとした呟きにシフールのアルマ・カサンドラ(ea4762)が震え上がる。
「油断しないことだね。それよりもイェブの言っていた2匹いる意味を考えろってことだけど、思い当たらないわけじゃない」
 ファラ・ルシェイメア(ea4112)には怪物に関する博識があるのだ。冒険者をやっていると地味に役に立つ。
「何?」
「蟷螂の雌は交尾最中の雄を食らった後、卵を産む事がある。そのことを言ってるんだと思う。
 共食いした後に全員で叩きのめすってのが一番なんだけど、箱の中に番(つが)いの蟷螂を入れても、確実に共食いするっていう保証もないし‥‥ 運任せの方法だけは避けたいね」
 ファラは大きく溜め息をついた。
「そうか‥‥ 番いでいる蟷螂‥‥ この時期なら産卵か。
 ヤツらに気付かれないように潜み、数が減る‥‥ つまり、雌により雄が殺されるまで待って叩くという訳だな。イェブも味な真似を」
「敵が1体になるまで待つのが最善か‥‥ 2体相手にしなきゃならなくなったらどうするんだよ‥‥ 全く」
 天螺月が感心したように頷くが、羽雪嶺は不満げである。
「敵の領域である森は危険だよね。なるべく壁になる物が無い場所に誘いたいけど上手くいくとも限らないし、相手の方が速いだろうから無理だろうね」
「たぶん森の中での戦闘になるだろうね。卵を産みに来てあそこにいるのだとしたら、あの場所にいることに意味があるんだから。
 戦いになったら、遠距離から雷撃を連発するよ。近くにいても邪魔だろうし、ライトニングサンダーボルトなら射程も長いしね」
 上手く射線が取れればいいが‥‥
「巨大蟷螂相手に長弓ではかすり傷のような気がしたから、鉄弓を買っちゃったわ。
 おかげで財布が空っぽよ。今回は絶対失敗できないわね」
 流石、赤羽の騎士の2つ名を持つアイーダ・ノースフィールド(ea6264)。気風がよすぎる。
「まずは様子を見るのが先決だな。色々言っても仕方ない」
「そうじゃな、現場に到着したらまずは様子見ぢゃな」
 作戦には同感と話すウェントス・ヴェルサージュ(ea3207)とアルマだが、彼の言う通りあちら任せなのだから魔物ハンターたちの都合は関係ないのだ。兎も角、様子を見なければ始まらないのだ。
「じゃが、できたら相手は1匹でも少ない方がエエのう」
 このときの彼らのどこか楽観的な表情‥‥ それが、後日には恐怖や驚愕に歪むとは‥‥
 大蟷螂は野生の狩人‥‥ 魔物の狩人たるはずの魔物ハンターたちは、それを身を以って知ることになるのである。

●生命の営み
 森を訪れた魔物ハンターたちは慎重深く森の外から大蟷螂を探した。思ったより広く、外からでは奥まで見通すことはできそうにない。
「見つからぬのぅ」
 アルマが上空から降りてくる。紅葉する森の木々には、まだ葉も多く、上からでは発見することは困難に思えた。
 しかし、かといって地表からだと‥‥
「結構、深い森ですね。やはり中に入らないと見つけるのは無理のような気がするわ」
 アイーダの意見に仲間たちは同意して、森に入ることにした。
「最悪だな。相手に有利な地形で戦わなくてはならないなんて」
 ファラの呟きは、一部の幸運に慰められた大いなる不幸に裏付けられることになる‥‥

 慎重に‥‥ 慎重に‥‥ 慎重に‥‥
 魔物ハンターたちは周囲を気にしながら森を進んだ。
「みんな、あれ‥‥」
 アイーダの指差す先には、薄く茶色がかった2匹の蟷螂がいた。しかし、周囲の木々との対比がおかしい。
「大蟷螂だ」
 ファラが呟いた‥‥
「わ〜、本当に雄を食べるんだ。蟷螂に生まれなくてよかったよ」
 羽雪嶺が顔をしかめる。1匹の大蟷螂には頭がついていなかった‥‥ その頭は、もう1匹の蟷螂の鎌の間に挟まれ、既に半分ない。

●食事の途中で席を立つのは‥‥
「食事の邪魔などしてはいかんぞ」
 天螺月の肩でアルマが小さく囁く。
 その声が聞こえたのかどうかは判らないが、雄の頭をバリバリと噛み砕いていた大蟷螂の雌の頭がクルッと回転するように傾げられ、魔物ハンターの方を向いた。
(「気づくな‥‥」)
 魔物ハンターの願い空しく、雌の大蟷螂は接合している部分で雄の大蟷螂を引き摺りながら冒険者たちに迫ってきた。
「食べ終わるまで待ってやろうっていうのに、せっかちな奴だ」
 天螺月たちは得物を構え、臨戦態勢に入った。木にぶつかり、雄が外れる。
 グッと姿勢を低くした大蟷螂は大きく鎌を広げた。先手を取ろうとした魔物ハンターたちに一瞬動揺が走る。
 魔物と戦うことの多い冒険者だが、その基本の戦法は人対人の剣技や弓術である。予想もつかない攻撃には一瞬対処が遅れる。
 十手を両手に構え、蟷螂拳を真似ようとしていた羽雪嶺にしてもそれは同じだった。
「これが本物の蟷螂拳‥‥」
 一気に体を起き上がらせ、冒険者たちを見下ろした大蟷螂は魔物ハンターを威嚇するように羽を広げて鎌を振り下ろした。
「そこっ」
 アイーダが羽を射抜くが、鏃の大きさだけ破れたに過ぎない。巨大な羽に対して、それは針で刺したような傷である。構わずに小さく跳躍すると鎌を繰り出してきた。
「う‥‥ うぉっ‥‥」
 ウェントスが体当たりするように盾に体重を預けて鎌の一撃を防ぐ。その間にアイーダは距離をとった。近すぎて矢を射ることができないのだ。アルマが物陰に隠れ、ファラも大蟷螂と仲間たちから距離をとり始めた。
 大蟷螂の全体の動きは速そうに見えない。しかし、一瞬一瞬の動きは俊敏を極めた。得物に悟られず、一撃必殺の鎌を繰り出す‥‥ これが野生の狩人の本領である。しかし、その本領はそれだけには過ぎない。
 天螺月が皮外套を放ち、その影からオーラソードの一撃を繰り出す。
 しかし、そこに大蟷螂の姿はない。
「どこ?」
「上だよ!!」
 アルマのリカバーを受けながら羽雪嶺が叫ぶ。少し距離を置いて見ていたために見えたのである。
 天螺月は首を上に向けた。周りの木々に足をかけ、逆さにぶら下がった大蟷螂が鎌が風を斬った。これもやはり人対人の戦法にはない。冒険者たちは混乱していた。森が大蟷螂のテリトリーであるのは承知していた。しかし、これほどのものとは想像していなかったのである。
 かわしきれないと咄嗟に庇おうと動いた天螺月の手にはオーラソード‥‥ その剣をすり抜けて鎌は天螺月を突くように頭上から叩きつけられ、横殴りの鎌が挟み込んで投げた。
「ぐはっ!!」
 木の幹にぶつかった天螺月が、もんどりうって膝をついた。オーラソードはその身を支えることができず、顔から着地する。
「強すぎる‥‥」
 天螺月は何とか立ち上がった。しかし、今度は‥‥
「仲間には手は出させん!」
 頭を失った雄の大蟷螂が不意に繰り出した鎌をウェントスが盾で受け止める。驚く天螺月がチラッと視線を流した。
 頭がないのだ。決して狙って出したわけではないだろう。本能‥‥ 体が覚えていた‥‥ 理由はわからないが、死んだと思われるこの状態でまだ動けることに魔物ハンターたちは驚愕していた。
「死んだんじゃないのか! 頭を失ったんなら、大人しくしてろ!!」
 押し返そうとするがウェントスの力ではどうしようもない。膂力(りょりょく)が違いすぎる。動けないウェントスにかぶせるようにして鎌が襲う!
「蒼眼の修羅をなめるなぁ」
 ウェントスは1の鎌の力を流し、2の鎌を盾で受け止め、その一瞬にロングソードのカウンターを合わせる。
 何度か鎌を防ぎ、ふとあることに気づいた。目の前にしか攻撃を仕掛けていない‥‥
 ウェントスが大蟷螂の正面から外れると大蟷螂はあらぬ方向へ攻撃を始めた。サカサカと前進すると木の幹に鎌を立て、時々思い出したように必死に引き倒そうとしている。
「しぶとい奴だ」
 ウェントスが顔を向けると仲間たちが苦戦していた。木々に足をかけて横向きに立ち、鎌を振るっている。上下2段の横殴りの攻撃かと思いきや縦の攻撃も織り交ぜてくる。変幻自在の動きに翻弄されて、傷を負った羽雪嶺が思わず木の幹に背中を預けて腰を落とす。
「ここは僕に任せて」
 駆け寄ってきたファラが印を組んで詠唱を始めた。
「頼む」
 ウェントスは雌蟷螂と戦う仲間たちの下へ駆け出した。淡い光と共に、雄の大蟷螂は氷の棺の中に埋葬された‥‥

「しっかりするのじゃ」
 アルマが羽雪嶺にリカバーを施す。
 ビィィィ。 短い羽音と共にアルマの目の前に黄緑の物体が現れた。自分の体ほどもあろうかという逆三角の顔‥‥
「アルマ!!」
 仲間の叫びも空しく、鎌に挟まれたアルマは一飲みにされた。
「くっそぉお!!」
 羽雪嶺の十手突き!! しかし、大蟷螂は物ともせずに鎌を繰り出してくる。
 ビビッ! 空を切って2矢が大蟷螂の顔に命中した。矢の不自然な重さに、逆さ近くまで首を傾げる。目らしき部分に中(あた)っているが、見えないわけではないらしい。独特の一瞬での平行移動でアイーダへ鎌ごと体当たり。受けた鉄弓諸共にアイーダは吹き飛ばされた。
 鎌を折り畳むように体に引き寄せると、大蟷螂はクルリと向きを変えた。そして一気に間合いを詰めた。
(「何てことだよ‥‥」)
 3次元で移動する大蟷螂に、2次元で隊形を組む魔物ハンターでは、いつものような詰めが使えなかった。天螺月やウェントスの頭上を大蟷螂は容易に越えてきたのである。
 アイスコフィンを抵抗され、ファラは地に臥した。体力のないエルフのウィザードには酷な攻撃である。命を失わなかったのが不思議なくらいである‥‥
「大丈夫か!」
 ファラは大蟷螂の足元である。ウェントスが近寄ろうとするが、容易なことではない。その間にも鋭い鎌の一撃は魔物ハンターたちに着実に傷を負わせていった。
「大概でくたばれ!」
 埒が明かないと片方の十手を捨てた羽雪嶺の爆虎掌が吼える! 鈍らせ始めていた大蟷螂の動きが木の幹に足を引っ掛け、海老ぞりで鎌を繰り出そうとした格好でようやく止まっている‥‥
「本当に死んだんだろうな」
 ウェントスがロングソードで斬りつけるが、大蟷螂は動かない。ギリギリで勝利を拾ったようである。
「終わった‥‥」
 その場にいる魔物ハンターたちの誰もが無傷ではなかった。
「そうだ! アルマを」
 天螺月が思い出したように叫び声を上げた。

●おかえりなさい
 天螺月が慎重に切っ先を当て、切り裂いた大蟷螂の腹の中からアルマは出てきた。
「酷い目にあったのじゃあ‥‥ きっと仲間が助けてくれるぢゃろうと待っとった‥‥」
 グチョグチョ、ゲボゲボである。疲れきった様子で、これでは傷ついている他の仲間たちもリカバーをかけてもらう段ではない。
「近くに秘湯があるって聞きましたよ。そこに行きますか?」
「あぁ‥‥ 」
 アイーダたちはぐったり疲れた様子のアルマを運んで温泉を訪れることにした。
 魔物ハンター始まって以来の辛勝である。

 魔物ハンターたちはアルマのリカバーで傷を癒すと温泉に浸かった。
「怖かったのぅ‥‥」
 湯桶に貯めた温泉に身を沈めるアルマは思い出して震えた。
「今は忘れることだ」
「そうですよ」
 魔物ハンターたちは深く溜め息をついた‥‥

 何か忘れてる気がするが‥‥ まぁ、大丈夫だろう。