【魔物ハンター】実に恐ろしきは女の性2

■シリーズシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 45 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月04日〜12月09日

リプレイ公開日:2004年12月13日

●オープニング

 江戸冒険者ギルドの一室。
 円卓に7つの椅子。机の上には木板が置かれている。
 鳥仮面の女・イェブが冒険者たちに席を勧めた。
「前回はご苦労さん。大蟷螂の空中殺法、私も見てみたかったよ」
 あのまま2体と戦うことになっていたらどうするんだという魔物ハンターたちの突っ込みをイェブはサラリとかわす。
「そろそろ産卵の時期だと思ってたからね。うまくいったんだから問題ないよ」
 そのうち刺されるぞ‥‥ イェブ‥‥
「魔物ハンターも売れてきたからね。今回は御指名よ。
 何か冒険者らしい依頼で、こっちとしては微妙な感じなんだけどね。
 生き血を吸われて死んでいる旅の男たちが見つかって、腕利きの冒険者を呼んだんだと。
 軽く伸されたらしいから魔物ハンターに退治を依頼したいって話らしい」
 ちょっと待って。らしいって何?
「それでね。今回のターゲットは、ちょっと特殊なのさ」
 イェブの指差す木板には女の似顔絵が書いてあった。割といい女ね。
「女‥‥ 宿場の女郎が怪しいっていうことらしい。らしいっていうのは証拠がないからなのよ。
 彼女の周囲で事件が起きていて怪しいっていうことだけ‥‥
 だけど、女郎ごときに冒険者がそうそう遅れを取るとは思えないのよね。
 よく聞き込みしたら、やっぱりその女が浮かんできたの。
 でもね。宿の男たちを周りにはべらせて、ちやほやされてるけど普通に女郎としてくらしてるのよ。訳わかんないって感じ。
 冒険者と戦った後に大蛇の這ったような後が付いてたっていうのが魔物の唯一の手掛かりね」
 イェブはちょっと不機嫌そうである。まぁ、次のターゲットも期待しといてよなんて言っておいて、これじゃあ‥‥ね。
「やる?」
 そりゃないだろう‥‥ 魔物ハンターたちの心中は様々‥‥ なのかな?

●今回の参加者

 ea0085 天螺月 律吏(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea1497 佐々木 慶子(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2478 羽 雪嶺(29歳・♂・侍・人間・華仙教大国)
 ea3207 ウェントス・ヴェルサージュ(36歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea4762 アルマ・カサンドラ(64歳・♀・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea6264 アイーダ・ノースフィールド(40歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●‥‥
「江戸からたくさんの友人が来る予定になっているんだ。事前にそれなりの準備もしておきたいし」
 イェブの根回しで村の長者の離れを丸々1軒押さえた天螺月律吏(ea0085)たち魔物ハンター。
 だが、さすがに秘湯の宿場村である。それなりに繁盛していると言っても宿に離れを持つほどではない。その微妙な世間の狭さがお宮事件を難しくしていると言ってもいいのかもしれない‥‥
 根回し済みということで、この離れには誰も近づかないことになっている。
「さてと‥‥ どうするか」
 まず問題なのはお宮が犯人であることを確かめること。それが先決だが、かと言って犠牲者が出てからでは遅すぎる。それにイェブの話では、周囲にはお宮にメロメロの者たちが多いという。彼らは恐らく魔物ではない。だから、その辺も確かめつつ、お宮から切り離さなければ、この宿場村そのものを相手にしなければならない可能性も大きい。
「こういう絡め手の相手というのは難しいな。後々引きそうだから、これで片付けないとな‥‥」
 ある意味、いやらしい奴だと佐々木慶子(ea1497)は溜め息をつく。
「周りにいる男たちは骨抜きなのじゃろうな‥‥ 盾にでもなられたら厄介じゃ」
 皿に乗った饅頭をアルマ・カサンドラ(ea4762)が頬張る。皿に乗った彼女の様は、どちらかと言えば美味しそう。
「イェブのことですからね。周りに侍(はべ)っている者たちは魔物ではないと、ある程度の確証を以って依頼を受けたのでしょうが‥‥ 本当にどうしようかしら‥‥ 」
 遂に赤貧大脱出の赤羽の騎士アイーダ・ノースフィールド(ea6264)。魔物ハンター結成以来初めての厄介な依頼に、皆戸惑い気味である。
「文(ふみ)で呼び出すというのはどうだ?」
「いいかもしれないな。それで周りの男たちと切り離して叩く‥‥か。アルマに届けてもらえればシフール飛脚便に偽装できるしな」
 ウェントス・ヴェルサージュ(ea3207)が天螺月に同意する。
「それなりに名の通った者が文を出してはどうだろう?」
 佐々木の提案に各々が見渡す。
「佐々木さんしかいない‥‥よね」
「私は女だぞ」
 佐々木が戸惑う。
「だって、俺たちそんなに有名じゃないからな。パッと見、男に見えないことないし田舎なんだから名前がちょっと変わっててもわからないって」
 困り果てた末に羽雪嶺(ea2478)が提案する。佐々木と天螺月は仲間の意見を入れつつ手紙を書き始めた。

 今回の魔物ハンターたちは、どこかちぐはぐな感じを受ける。大丈夫だろうか‥‥
 ともあれ、魔物ハンターたちは情報集めを開始した。

「お宮さん、いる?」
「何だい、お前さんは」
「実は‥‥」
 互いに思いを寄せていた殿方の心をお宮に奪われたままでは武家の娘として面目が立たないと、天螺月は女郎屋の下男に涙ながらに訴えた。下男も店の周りの掃除の手を休めてくれたが‥‥
「あんたもそれなりの器量だが、お宮ちゃんに比べたら十人並みだねぇ。運がなかったと諦めな」
 冷静な天螺月でもどこか癪に障る。
「お宮って、どんな娘なの?」
 すがるように下男の袖を掴み、ハッと恥らうように顔を伏せた。
「お宮ちゃんはあんたが思ってるような娘じゃないさ。いい娘さ」
 どうやら、この分では店の者からの情報は当てにできそうにはない。

 姉を探す弟。羽雪嶺は、そういう触れ込みで村人から情報を集め始めた。こういう時、背が小さい事が役に立つ。
「僕お姉ちゃんを探しているんだ。ここのお宮さんが似ているって聞いたんだよね」
「あら、お宮ちゃんの弟さん? 連れてってあげようか?」
 村の娘が気を回す。
「えっと‥‥」
 羽雪嶺は困って言葉をなくす。
「でも女郎屋にいるのよ。だからね。私も近くまでしか送ってはあげられないけど」
「いいよ。どこか教えてくれたら自分で聞きに行くから」
「そう。椿屋ってとこよ。行けばわかるわ。狭い村ですもの」
 羽雪嶺がホッと胸を撫で下ろす。勿論、表情には表さないように気をつけてはいるが‥‥
「それと‥‥ 殺しがあったんだって? 僕、びっくりしちゃったよ」
「そうなのよ。殺されてるんだけど傷がなかったんだって。
 お宮ちゃんが実は魔物じゃないかって疑われてるらしいけど、お役人様はそんなことはないから安心しなさいって言ってたわよ」
 娘は顔を顰めて話し始めたが、羽雪嶺のことを思いやって付け加えたようだ。こんな狭い場所である。お宮の話はすぐに伝わる。その証拠に、こんな村娘でも女郎屋のお宮の話を知っているのだから。
「それにね。死んでた人って咬まれた傷しかなかったらしいよ。血を啜る大蛇が犯人だから、お宮ちゃんじゃないって」
 何がだからなのかわからないが、自分のことを気遣ってくれているんだろうなと羽雪嶺は娘の純朴さに感心した。
 しかし、もっと情報を引き出す必要がある。少し後ろめたさを感じながら話を続けることにした。
「へ〜‥‥ 大蛇?」
「そうだよ。あの辺りにね。大蛇の這ったような後がついてたんだよ」
 娘は、あっちの方と指差す。
「それにね。冒険者が来て何か調べてたらしいけど、魔物に襲われて殺されたって話なのよ。
 ズタズタに切り裂かれてたんですって。どこかで鬼がたくさん出たんでしょ? きっと、その鬼が近くにいるのよ」
「じゃあ、お姉さんも気をつけないと。ありがとね」
「あなたも気をつけてね」
 何となく悪いと思いながら羽雪嶺はその場を後にした。

 魔物ハンターたちは、村で聞き込みをして離れに戻ってきた。
 やはり、お宮が来てから事件が起きていること、比較的彼女の側で事件が起きていること、その辺は間違いない。
 さて‥‥ 一番問題なのは、お宮の取り巻きたちが始終彼女の側にいるということだ。結局、文で誘い出す作戦を採ることにした。それでお宮が尻尾を出してくれれば、魔物ハンターの思う壺だ。

●世の中そんなに甘くない
 アルマが何度もお宮の女郎屋に文を届けた。時折、アイーダが飛脚の代わりをし、頻繁に届く文に不自然さがないように気をつけながら‥‥
 しかし、1度や2度の恋文でホイホイ心を動かされるほど、男と女の駆け引きに長けた女郎は甘くない。会いたいという文をのらりくらりとかわされ、結局彼女の元へ訪れるしかなかった佐々木たちは、作戦が根本的に破綻していることにまだ気づいていない‥‥
 しかも‥‥ 『女郎に誠あれば晦日に月が出る』とも『女郎の千枚起請』とも聞くはずなのに、そんな諺すらあることを魔物ハンターたちは忘れ、甘くみていた。

 傅(かしず)く男たちに囲まれた涼しげな目元の女性。確かに噂どおり美しかった。どちらかというと冷たい視線の女と言った方がいいかもしれない。
「おや‥‥ お前さんが佐々木慶之介さんかい?」
「いかにも」
 偽名で恋文を出した佐々木は慶之介を名乗っていた。言われてみれば、美男子でも通るという風体である。変装の必要がないという意味では安心か‥‥
「手紙は読みました」
「2人で話がしたい。人払いをお願いできるか?」
「なぜ?」
 お宮は煙草の煙を燻らせる。首をめぐらせて肩を揉んでいた男へ、フーッと煙を拭きかけた。男は恍惚の表情で顔を蕩かせている。
「なぜ? ‥‥って、会ってもいいって。それに、是非2人で話がしたいと返事には書いてあった」
「だからこうして2人で話をしているじゃない。この人たちも暇でここにいるわけじゃないのよ」
 詭弁だ。佐々木は言葉を飲み込む。
「それに‥‥ どうして顔も知らないあなたのために私が足を運ばなければならないの? 一目惚れなら殿方からコナかけてくるのが普通ではなくて?」
「2人で‥‥ 会いたいんだ‥‥」
「初めて会って独り占めしたいなんて‥‥ そんなに初心(うぶ)じゃありませんし‥‥ あなたたちの立つ瀬がないわよね?」
 お宮は酌をする男に話を振る。男は嬉しそうに頷いた。
「ね?」
 何が『ね?』なのか、その辺の機微が佐々木には理解できない。
「しかし‥‥」
「いいわ。招待されてあげる」
 お宮は冷笑を浮かべた。
「御免なさいね。あなたたちには今度たっぷり付き合ってあげるから。機嫌を悪くしちゃだめよ」
 男たちの顎の辺りにそっと手を当てると、煙を含んだ息を吹きかけた。

●招待‥‥ 正体‥‥
「来たのじゃ」
 長者の離れへ向かう道が見渡せる屋根の上で饅頭を頬張りながらお茶を啜っていたアルマは、メンバーにお宮が来たことを伝えた。
「いよいよじゃな‥‥」
 鬼と出るか蛇と出るか‥‥

(「そんな酷いことできない‥‥」)
 佐々木は葛藤の只中にいた。お宮に灰を投げつけて、その間に先手を取ろうという作戦だったのだ。それが戦いの合図でもあったはずだ‥‥ 手練の冒険者たちを軽く伸してしまったような相手である。それくらいしても罰は当たらないと思った故の作戦なのだが、どうしてもそれができない。離れの部屋に入ってしまったら、それをしなくてはならない。しかし、お宮に対してそんなことはできようはずもない‥‥
「隠れている者たち、出ておいで。いるんだろう? それにしても、どうして冒険者というのは、こうも楽しいのかね」
 佐々木の葛藤する様子を見て、ククッと笑うとお宮は辺りを見渡した。
「1度も顔を見たことのない相手が不自然に呼び出す文なんて、誰が信じるっていうんだい? フフ‥‥」
 お宮は佐々木の肩にしな垂れかかった。しかし、嫌な気分ではない。むしろ嬉しくすらある。
 彼女は倒すべき敵なのか? 何を考えていたのだろう。彼女は信じるに足る‥‥
「そういうことね‥‥」
 お宮の下半身が蛇へと変じて、体が銀色の淡い光に包まれた。彼女の顔は残忍な笑いを浮かべている。
「私を襲おうとしている者たちをやっておしまい」
 お宮の言葉は正しい。彼女を護らなければならない。それが大切なことなのだ。
「お宮殿、逃げるんだ!!」
 野太刀を抜いた佐々木は、地面に得物を突きたて印を組んだ。ライトニングサンダーボルトが屋根の上のアルマを襲う。奇襲は完全に失敗だ‥‥
 部屋に隠れていた天螺月やウェントス、一般人が巻き込まれないようにと離れの周囲を警戒していた羽雪嶺も離れの庭に集まってくる。
「それじゃ、慶子。あとは任せたわよ」
 お宮は来た道を引き返し始めた。
「逃がすか!」
 天螺月はオーラソードを念出させ、お宮目掛けて駆け出す。
「そうさ!! お前に殺された者の無念、ここでこの蒼眼の修羅が晴らさせてもらうぞ!! 何!?」
 一足先に突っ込んだウェントス。装備が重すぎて助走が足りずに加速しきれずチャージングできない。とはいえ、霞刀はお宮を捉えていた‥‥はず‥‥
「甘いわねぇ」
「うわぁぁぁああ!!」
 手足を引きちぎられ、目や鼻を抉られる感覚にウェントスが悲鳴をあげ、お宮の笑いが響く。
 叫ぶウェントスの喉元にお宮の牙が突き立てられる。その傷自体は小さいが、脱力感が伴った。しかし、ウェントスの味わっている感覚に比べれば、そんなものは些細で何が起きているのか考えることもできない。ブツリと首が千切れたところでウェントスは気を失った。
「幻を操るか! ウェントス、しっかりしろ!!」
 羽雪嶺が爆虎掌を放つが、ウェントスの喉元に牙を突きたてたままお宮はニヤリと笑う。
「次はお前だよ」
 シュルッ‥‥
 お宮の動きは速い。一瞬で羽雪嶺は蛇の下半身に絡まれてしまった。
 ブツッ、ブツッと嫌な音を立てて締め上げられ、苦悶の声を漏らす。
「悲鳴くらいあげてごらん」
 お宮の目が爛々と輝いく。
「くそっ、離れろ!!」
 再び放った爆虎掌が全然効いていないのか、お宮は羽雪嶺の攻撃を全く意に介さない。
「放せ!!」
 天螺月のオーラソードがお宮を切り裂いた。
「ダメだ!!」
 佐々木がお宮と天螺月の間に割って入る。野太刀を構えた手を大きく横に広げて簡単には回り込ませてくれそうにない。
「仲間同士で争っても意味無いわ。ここは退きましょう」
 アイーダが背後から不意打ちで急所を狙って2本同時に放った矢は確かにお宮を捉えた。しかし、その肌には傷ひとつない。
「そんな‥‥」
 鉄弓から放った必殺の1撃が弾かれたことに愕然とする。掠り傷ひとつ負わせていない‥‥
「このままでは勝てぬのじゃ‥‥」
 ブスブス煙を上げる自らにリカバーを施しながらアルマが屋根から降りてきた。
「これ以上やるなら、俺も遠慮しない」
 佐々木が野太刀を構え直した。
「アハハハ‥‥ 少しは楽しませてくれるじゃないか。今回は佐々木に免じて許してやるわ」
 お宮が踵を返す。よく見れば傷が癒えているではないか‥‥
 再び人の姿に変じると、お宮は高笑いを残して去っていった。

 幸い佐々木は数日経ってお宮への想いから解き放たれた。
 魔物ハンターたちは雪辱を胸に誓う‥‥