【魔物ハンター】実に恐ろしきは女の性3

■シリーズシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 45 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月17日〜12月22日

リプレイ公開日:2004年12月28日

●オープニング

 江戸冒険者ギルドの一室。
 円卓に7つの椅子。机の上には木板が置かれている。
 鳥仮面の女・イェブが冒険者たちに席を勧めた。
「敵さんも余裕だね‥‥ 少し見くびっていたよ」
 鳥仮面の嘴の下から口の端がヒクつくのが見える。
 それもそうだろう。いいようにあしらわれて、面白かったからと情けまでかけられたのだから‥‥
 当の魔物ハンターたちにとって命を落とさなかったことは運がいいといえるのだが、イェブにとってはプライドが許せないらしい。
「さすがにあれじゃあ、手練がやられたってのも頷ける。
 でもね、魔物ハンターに倒せない魔物がいるなんて、ありえる?」
 ‥‥
「今回のターゲットは、お宮! あの小娘を捻り潰して。魔物なのはハッキリしたんだから遠慮はいらないよ」
 ‥‥
「うまく傷を負わせないと、倒せないんだからね。気ぃ入れてビシッといくよ!!
 あの魅惑も何とかしないとね‥‥
 許せーん!! ボテ繰り回して御免なさいって言わせてやる!!」
 イェブ、かなり鶏冠にきてるって感じなのかな‥‥

●今回の参加者

 ea0914 加藤 武政(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1462 アオイ・ミコ(18歳・♀・レンジャー・シフール・モンゴル王国)
 ea2478 羽 雪嶺(29歳・♂・侍・人間・華仙教大国)
 ea3207 ウェントス・ヴェルサージュ(36歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea4762 アルマ・カサンドラ(64歳・♀・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea6264 アイーダ・ノースフィールド(40歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●再戦
「なんだ。俺がいない間に1度負けてるのか?」
 加藤武政(ea0914)の何気ない言葉にメンバーの視線が刺さる。
「ま‥‥ 詳しくその時の話を教えてくれよ」
 斯く斯く然々‥‥
「怪奇蛇女か‥‥ とりあえず、アレだ。怖いそうなのは尻尾の一撃だな‥‥ 絡み付かれたらマズいだろ」
 加藤が眉を顰める。
「それより参ったよ、金属拳なしとはいえ爆虎掌が効かないなんてさ」
 羽雪嶺(ea2478)がガックリと肩を落とす。自信を持って繰り出した攻撃なのだから当然か‥‥

「オーラソード以外に攻撃が効かなかったのは、普通の武器が効かないからなんじゃないかしら」
 武器への耐性を持つ魔物がいるとアイーダ・ノースフィールド(ea6264)は、どこかで聞いた覚えがある。
「鉄弓の狙撃で掠り傷も負わずに無傷なのは不自然だもの」
 尤も‥‥ お宮がどんな魔物でどんな能力を持っているかはわからない。しかし、この前の戦いでおおよその見当がついた気がする。果たして、その予想は正しいのか。
「この戦いの鍵は雪嶺さんのオーラパワーということになりそうね」
 アイーダが羽雪嶺を見つめる。
「雪さん頼んだよ」
「大変だな。全員にかけきれるかな」
 期待を一身に受けた羽雪嶺が溜め息をつくのを見て、加藤が笑った。
「そして、問題はどこにどうやって誘き出すか」
「それは任せてもらおう」
 部屋に入ってきたイェブがアイーダの言葉に割って入る。
「依頼人に話をつけてきた。村の外れに依頼人所有の天の湯って露天風呂がある。そこを使おう」
 そのときのイェブには想像もつかなかった。あんなことになるなんて‥‥
「呼び出すのは手紙でいいか‥‥ 下手に小細工してお宮を喜ばせることもないわよね」
「そうね。絶対泣かす」
 イェブ‥‥

『この前は世話になったのぅ‥‥ まぁ、今回もまたあそんでほしいのじゃがどうかの?
 勿論来なくても結構じゃが、その場合は貴様の正体をジャパン中に知らしめてくれるでのぅ‥‥
 相手は冒険者風情じゃ、遊びついでに丁度よいじゃろ? では、天の湯にてまっておるでの』

「こんなものでどうじゃ?」
 差出人・佐々木慶之介の名で文を書き上げ、アルマ・カサンドラ(ea4762)がメンバーに同意を求める。
「いいんじゃないか」
 イェブから依頼人を通して、更に使いの者を通すという念の入り様で手紙は届けられることになった。

●まじかるミコミコ
 ここは女郎宿椿屋の近く。
「さて、始めようかな」
 旅の軽業師の幟が立つ。小道具一式を広げていると任侠たちが近寄ってきた。
「オラオラ! 誰に断ってこんな所で店広げてんだ?」
 ジャパンでは通例の所謂お約束というヤツである。
「えっとね‥‥」
「出すもん出さなきゃ、身包み剥いで焼き鳥にして食っちまうぞ」
 シフールなんてジャパンじゃあんまり見ないからね‥‥ 貧相な頭じゃこんなものかな。
「‥‥」
 アオイ・ミコ(ea1462)が呆れていると、チラッと嘴が覗かせている紫頭巾の女が近づいて何かを任侠に握らせた。
「これで‥‥」
「まぁ、そういうことなら問題ない。何かあったら俺たちに言いな。役に立つぜ」
 何の役に立つんだろうとか素朴な疑問を抱きつつ、アオイは紫頭巾の女に近づく。
「物(ぶつ)を手に入れるのに苦労したぞ。へまするんじゃないよ」
「わかってるって」
 チラッと嘴が覗かせている紫頭巾の女が、アオイに何やら渡す。アオイの目がキラ〜ンと光る。
「あ、親分さん。これ、気になる人と会う前に飲むといいよ。必ず効くから」
「お、気が効くじゃねぇか。最初から物分りが良くないと長生きできないぜ」
 薬の包みをポンポンと手の平の上で遊ばせながら遠ざかっていく。
「そっちは頼んだよ」
「任せて」
 去っていく紫頭巾の女にアオイは小声で答え、クルリと回ってみせる。
「良い子も悪い子もおにーさんもおねーさんも寄ってきな〜。まじかる薬師アオイミコの軽業芸だよ〜」
 器用に羽ばたいて逆立ち、手首を軸に横回転。脚を開いて海老反り。上半身を起ててポーズ。
 芸自体もかなり修練されている感じなのだが、珍しい生き物だな〜とそっちの方が気になるようだ。
 綱渡りから側方宙返り。
「あら、おに〜さん。椿屋の人?」
「そうだけど」
 若い男がアオイの前にしゃがみこんでツンツンつつき始めた。
「う、おに〜さんおに〜さん。ちょっといい物があるんだけど見ていかない? まじかる薬師の伝統のお薬だよ。これを飲むとね‥‥」「別にどこも悪くないよ」
 薬には興味なさげな男だが、話に乗ってきたのを逃す手はない。アオイがニコッと笑う。
「女の人にもってもて。よっ、色男っ。安くしとくよ」
 打ち身とか腹痛とか書いてある薬の奥から、さっき頭巾の女から手渡された薬を取り出す。
「飲むのは気になるあの人に会う前が良いんじゃないかな〜っ」
「いらねぇな」
「お代はいいですよ。今日のは挨拶代わり。ご贔屓に〜」
 薬を貰ってヒラヒラと手を振りながらお捻りを置いていかない男に内心腹を立てつつ、営業スマイル〜
 誰もいないところで密かにガックリ落ち込むのであった。

●決戦! 天の湯
 いい感じである。お宮は取り巻きを誰も連れていない。用事を言いつけられたか、腹でもこわしているか‥‥
「ようこそ、お宮さん。いえ蛇女さんと言った方がいいかしら」
「あら慶子は? 今日はあの娘としっぽりいこうと期待してたのに」
「ごめんなさいね。残念だけど佐々木さんは来れなかったの。でも今更別の名前で呼び出すのも変でしょ?」
「まぁ、おかしいとは思ったのよ。宿の男たちは揃ってお腹壊すし、無粋な文は届くしね。慶子ならもっと歯の浮くような恋文で笑わせてくれるはずだもの」
 早く‥‥ アイーダは思いながら場の流れで服を脱いだ。
「いい湯加減よ、入ったら?」
「あら、今日はあなたが私の相手をしてくれるの? 本当は男の方が好みなんだけどね。異国の女というのも、たまにはいいかもしれないわね。趣向が違うのは時間稼ぎ?」
 お宮が笑う。バレバレだ‥‥
「アイーダ!! もういいぞ」
 加藤の声を聞いてアイーダは湯船から飛び出す。反射的にお宮も下半身を蛇に変じた。大蛇の尾が湯船を割り、湯気が辺りを白くする。
 絡みつきを警戒して加藤は動きを止めずに走り回るが‥‥
「甘いねぇ」
 加藤は濡れた床に滑り、そこを強かに尻尾で打ち付けられた。
「このままじゃ格好悪いじゃないか」
 目の前の尻尾に日本刀で斬りつけた。
「術がかかっているのかい。なら、手加減はしないよ」
 押し潰すかのごとく迫るお宮の牙を何とか捌いた。しかし、足場が悪い。
 見かねたアルマとアオイが飛び出す。
「おや? 珍しい生き物が混じってるじゃないか。しふーるとかいうヤツだね」
 臭いでお宮の気を散らそうと考えたアルマ。しかし、激しく動くお宮には、そう簡単に臭いをつけられない。
 しかも、急所を狙ってアオイの投げたダーツは、お宮の肌に弾かれて傷ひとつ負わせることはできない。
 五月蝿い蝿くらいにしか思っていないのだろう。シフールのことなど気に留める風ではなかったのだが‥‥
「術を使うのなら放ってはおけないね」
 お宮は白い光を放ったアルマを見て、邪悪な‥‥ まさにそういう風な笑みを浮かべた。
「来るでない!!」
 続けてコアギュレイトで動きを止めようとするアルマを、五月蝿い蝿を追い払うかのようにお宮が狙う。というより、珍しい得物の血が吸いたいといった所なのだろうか。少し距離があると安心していたのだが、3mの距離など体長10mにも及ぶかというお宮にとって目と鼻の先だ。牙が突きたてられ、アルマの血の気が引いていく。
「飲みにくいわね。ふん、面倒くさい。死んでしまいなさいな」
 放り投げられたアルマを尾が叩きつけ、そのまま絡めて締め上げていく。
「きゅ〜」
 奇妙な悲鳴をあげながら、アルマの意識が薄れていく。
「放して!!」
 アオイがお宮の周りを飛び回るが、お宮はそれで放すような甘い女ではない。お宮はアオイも片付けてしまおうと襲い掛かるが、流石に軽業師でならしているだけはある。ヒラリヒラリとかわす。しかし、それではアルマは救えない‥‥
「アルマァ!!」
 露天の温泉へと続く道を駆け下りる影。
「前回の借り、きっちりと利子付けて返してやる! 奥義、絶刀撃!!」
 走り込んだ勢いで霞刀をお宮に突き立てた。
「この蒼眼の修羅をなめるから、そうなる。犠牲者の無念、晴らさせてもらう‥‥」
 男は血の滴る霞刀にお宮に向けた。アイーダの予想通り羽雪嶺の付与したオーラパワーが役に立ったようである。
「やるじゃないか」
 痛みに恨みの表情を浮かべて、お宮はアルマを放り投げてウェントス・ヴェルサージュ(ea3207)を睨みつけた。
「こっちも忘れるな」
 加藤が尻尾に切りかかっている。
 お宮の腹に矢が突き刺さる。
「効いた?」
 息が白い。さすがにこの格好じゃ湯冷めしそうだが、この際仕方がない。ブルッと震えるとアイーダは次の矢を番えようと矢に手を伸ばした。
 怒り狂うお宮は、派手に露天風呂を壊しながらウェントスに迫る。
「これじゃ。くそっ」
 瓦礫に足を取られて上手く助走できない。それでもお宮の牙を盾でいなして霞刀で斬りつけていく。
 不意にお宮の姿が消えた。尻尾で上半身を立てた蛇女がそのまま尻尾をぶつけるように体当たりしてくる。
「ガハッ‥‥」
 ギリギリとウェントスを締め付ける。反撃しようとするが、腕が上手く動かせない。
「ぐふっ‥‥」
「骨がバラバラになるまで抱きしめてあげる」
 長い舌でウェントスの輪郭をなぞった。その間にも嫌な音がウェントスの意識を持っていこうとした。
「させるかぁ!!」
 羽雪嶺が崖から飛び降りながらオーラパワーを付与した大斧を突き立てた。
「まだいたのかい」
 お宮が視線が羽雪嶺に冷や汗を流させる。
「いたんだよ」
 ウェントスを解き放すとお宮が平行移動したように見えた。予想外の動きには心構えができているはずであるが、やはり咄嗟のことになると勝手が違う。シュルッと音を立てて走る蛇の尻尾が回り込むようにしなって上から叩きつけられる。
 膝をついた羽雪嶺は、絡まれる、そう思った瞬間に大斧をクルリと回して逆手に短く持ち直した。
「きゃぁあ!!」
 斧の刃ごと羽雪嶺に絡みついたお宮は締め付けを緩めてしまう。
「い、いまだぁ‥‥」
 零距離からの爆虎掌(ばっこしょう)!! オーラパワーを付与された金属拳は大蛇の胴を内部から砕く。
「許さない」
 お宮は絡めた尻尾を離すと矢を引き抜いた。見る見る傷が癒えていく。
「五月蝿いやつだよ。お前は」
 こつこつと斬り続けていた加藤を尻尾で絡め、お宮は絞めに力を加えていく。ぐったりする
「虜にしてやるよ」
 お宮を見つめる羽雪嶺の目が虚ろになり、敵意は好意へと変わっていった。
「さぁ! 私のために死んでおくれ」
 体ごとぶつかってくるお宮を、さも当然のように受け入れようとする羽雪嶺。それを羨ましそうに見つめるアオイ。次の矢がなく呆然とするアイーダ。倒れたまま動けない加藤とウェントス。
 しかし‥‥
 突如動きを止めたお宮が羽雪嶺の脇を滑るように、勢いそのままに崖の下へと落ちていく‥‥
「危機一髪‥‥じゃな」
 そこにはアルマの姿‥‥ ということは、今のはコアギュレイトか‥‥ アルマは、そのままトサッと露天風呂の残骸の上に落ちた。

●顛末
「止めを差せなかったか‥‥」
 魔物ハンターたちは崖の下は当然のこと色々探し回ったが、結局お宮の死体を確認することはできなかった。
 瓦礫に埋もれたウェントスたちや瀕死のアルマを回復させている間に逃げられてしまったようだ。
 イェブのポーションがなければどうなっていたことか‥‥ 江戸に帰った後にギルドの親仁が、私物のポーション知らんか? とボヤいていたのは置いといて‥‥
「必ず仕留める」
 かなり私情を挟んでいるように思えるが、いずれ決着はつけなくてはならないだろう。
 それは兎も角‥‥ 一応、脅威は取り除いたとはいえ、温泉村の者たちに一服盛り、人気女郎のお宮を失踪させたイェブと魔物ハンターの一行‥‥
 アオイがお腹の調子を整える薬を持っていったが、そんなもので許してもらえるわけがない。しかも‥‥
「お薬はほどほどに、なんだよっ」
 ブチブチブチィっと聞こえてきそうな気配。任侠のお兄さんなんかに追いかけられて、アオイは他のメンバーとは別に逃げ帰るように江戸に帰って行った。魔物ハンターとの接点を温泉村の人たちに嗅ぎつけられなかったのが、不幸中の幸い。報酬はイェブ経由で払われるので何とか‥‥
 いやいや、それよりも。依頼人にも迷惑をかけている以上、当分‥‥ いや、今後この村には足を運べそうになさそうだ‥‥