【魔物ハンター】大地の使い
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■シリーズシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:4〜8lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 88 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月18日〜01月23日
リプレイ公開日:2005年01月26日
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●オープニング
木々をなぎ倒し、ひとしきり暴れた後、その大蛇はとぐろを巻くように身を落ち着けた。
満足したように首を据わらせると、グゴゴと低く唸る。
「おい、どうしようもないぞ」
男は小声で隣の男に囁いた。
「武士たちは?」
「逃げた‥‥」
男は首を振った。
勇名を馳せようとでも思ったのか足軽を率いて駆けつけた武士の姿は既にない。
近寄ろうとした途端、黒い帯のような力に押し付けられて多くの者が転び、巨大な大蛇がジャリジャリと音を立てて迫ってくるのである。驚いたとしても仕方がないだろう。
それに、武士たちを馬鹿にしたように話しているこの男たちも、実は腰が抜けて動けないだけなのである。
男たちは辛うじて逃げ出すと村へ帰って行った。
※ ※ ※
「死体は見つからなかった‥‥ お宮のヤツ‥‥ 次に会ったらただじゃおかない。
でも‥‥ 今は落ちた信用を取り戻すのが先決だ。そうでなきゃ魔物ハンターを解散しなきゃならないかもしれないからね」
江戸冒険者ギルドの一室。
円卓に7つの椅子。机の上には木板が置かれている。
鳥仮面の女・イェブが冒険者たちを前に鋭い視線を投げている。
「今度のターゲットは大蛇。でも、ただの大蛇じゃない。
体の表面が岩みたいにゴツゴツしていて魔法まで使ってくるっていうんだから厄介さ」
イェブが指差す木板には確かに岩肌の大蛇が描かれている。大蛇の大きさは2丈半と書かれている。
「大物よ。強さは、この前の炎龍にも匹敵するくらいだと思う。厄介なのはさっきも言ったけど魔法を使ってくることね。
下手に距離を置いて戦っても意味はないでしょうね」
イェブは魔物ハンターたちを見渡した。
「依頼人である町は、現れた大蛇に迷惑しているわ。放っておけば危険だし、下手に手も出せない。
武士たちは腰が引けてるしね。名を売っておくチャンス‥‥ えっと、好機よ。
さぁ、行ってらっしゃい。残り半分を皆で飲み干しましょう」
イェブはワインのカップを掲げた。
●リプレイ本文
●再出発
「イェブ殿、石化に効果のある薬なぞに覚えはないか? あれば是非に手配しておいて頂きたいのだが」
ひとしきり話し合いを終えた天螺月律吏(ea0085)がイェブの元にやって来た。
「残念だけどね。私も万能ではないわ。そういう薬があるのは聞いているけど、手持ちにも道具箱にもないからね」
話が聞こえていていたのかイェブは苦笑いを浮かべている。
「可能性が可能性に過ぎなかったと笑えるように祈るしかない」
魔物ハンターたちは目撃情報から退治する大蛇がグラビティーキャノンを使うと分析し、他の地の精霊魔法も使えると踏んでいたのである。考慮すべき魔法はいくつかあるが、その中で最も警戒すべきはストーン。解除できなければ、その先に待ち受けるのは実質的に『死』。魔物ハンターの信用回復とかそんなことを言っている場合ではない。
だが、それを依頼として受けた以上、やり遂げるのが冒険者である。大なり小なりとはいえ、自分の命を担保に仕事をこなしているのである。イェブにもそれくらいわかる。それだけに、ただただ苦笑いするしかない。魔物ハンターの仕事に危険はつき物なのだから。
「いや、手は打つ。サイレンスで魔法を封じる」
ファラ・ルシェイメア(ea4112)は静かに語った。
「ライトニングサンダーボルトは岩のような皮膚に効くかわからないし、ストーンへの警戒を第一にしなければならない。
だとしたら、僕の役目は唯一つ。サイレンスをかけ続ける。
簡単に効くとは思っていない。でも、サイレンスを嫌って、敵がブラックボールを使う確率は高いと思う。実質、魔法封じになるはず」
「厄介な敵だが‥‥ 運をも味方につけられるよう、最善を尽くすのみ」
敵の詳細が分からない以上、現地でのぶっつけ本番。しかし、天螺月の言う通り、十分に準備をするのとしないのでは全然違う。
「ソルフの実を大量に用意してほしい。
サイレンスをかけ続けたら、すぐに魔力が切れてしまう‥‥ そちらの言い値で構わない」
「‥‥」
イェブは暫し沈黙を守って言った。
「ソルフの実か。欧州で多少出回っているヤツだね。生憎だけど」
「これもなしか」
「悪いね」
「仕方ないさ」
苦しい戦いになると、ファラは決意を新たにした。個人的には思うところもある。失敗のできない依頼なのだ。
さて‥‥
魔物ハンターたちの顔に悲壮感はない。
「しっかし、今回の敵も厄介だけど、お宮の奴には参ったね。経験を積んだら雪辱戦だな」
「あぁ、そのうち倒すさ。その時は頼りにしてるよ」
羽雪嶺(ea2478)が頭を掻いているのを見てイェブが笑う。
「僕たち個々の弱点は少し見えたんだ。魔物ハンターの名、これ以上落したくないしさ。イェブさんの期待にも応えないとね。
でも、石化を回復する薬はないし、今回は回復役もいないし、辛い戦いになりそうだよ」
「それでもやる」
ウェントス・ヴェルサージュ(ea3207)は微笑を湛えたいつもの表情を仲間に向けた。ただ、真一文字に結ばれた口元に、尋常ならぬ決意が現れている。
「今度の戦いは純粋な戦闘の訓練。状況は最悪。それが当たり前ってね」
「たまたま相手が魔法を使ってくる。それだけのことじゃんか」
人間相手ばかりの戦いに身を置いてきた虎魔慶牙(ea7767)にとって、また魔法を使わない敵ばかり相手にしてきた彼にとって、今回の依頼はいかにも心躍る。しかも、いつものように数に任せての戦いではない。
「たとえとてつもなく厄介な相手でも相手を呑む位の気概は必要さ。やってやる」
「そうさ」
羽雪嶺と虎魔が拳を合わせるのをウェントスは笑みを浮かべて見ている。
「いくぞ」
魔物ハンターたちは部屋を出て行く。
「イェブ、帰ったら2人っきりでいっぱいやろうなー」
「何を?」
加藤武政(ea0914)の言葉の途中にイェブが軽く突っ込む。
「‥‥って、そういう意味じゃない。いや、そういう意味でもいいんだけど」
「ハハ、いい男になれたら2人で飲もう」
小声でなされた最後の2人の遣り取りには誰も気づいていないようだ。2人は互いに笑みを交わし、加藤は部屋を後にした。
●大蛇
陸の上に岩の塊のような物が見える。
「あれか‥‥」
ウェントスはこれから戦う相手の大きさに首を振った。聞いて想像する2丈半と、見て実感する2丈半では雲泥の差がある。
「オラが言ってたのは、あれだぁ」
周辺の地形については町で多少の知識を仕入れたが、数人の猟師や土地の者を同伴させている。名目上、彼らは案内人ということになっているが、本当のところ一部始終を目撃させて魔物ハンターの戦いぶりを見せて広めさせようという宣伝の狙いがある。
猟師が指差す先に、いくらか枯れ草があるだけで起伏も少なく開けた川原が見える。求めた最善の戦場ではないが十分と言えるだろう。
「十分だ。ありがとう」
天螺月は仲間を見渡した。
「私と虎魔殿が誘き出す。後は打ち合わせ通りに」
天螺月は気を集中するために集中を始めた。同じように羽雪嶺も集中をはじめ、手際よくオーラをかけていく。
「さぁ、魔物の強さとやらを拝見させてもらおうかぁ!」
天螺月と虎魔が走り出した。
丘の半ばくらいまで来たとき‥‥
ゴゴ‥‥
地面を響かせながら大蛇が身をうねらせた。
「気づかれたな」
「喋る間があったら近づく」
「おうよ」
虎魔の軽口に付き合いながら天螺月も丘を駆け上がる。
次の瞬間、大蛇の体が淡い茶色の光に包まれた。
「くっ‥‥」
動きやすく纏めた皮法衣がバタバタとはためくなか、天螺月は重力波に体を打たれて倒れた。
(「効いてないのか」)
ファラの表情が僅かに歪む。やはり地の精霊魔法。グラビティーキャノンだ。
(「相手は地のエレメント? いや、そんなことを考えている余裕はない」)
サイレンスは効く。そう信じるてファラは詠唱を続けた。
「しっかりしろ」
虎魔が助け起こし、天螺月たち2人は丘を駆け上る。
今一歩で2人の得物が届く‥‥ その直前、全身に岩を張りつかせたような大蛇の肌が、更に岩に覆われていく。
「はぁぁ!!」
繰り出したオーラソードが岩のような肌を斬った。ほとんど傷がついていない。天螺月は息を飲んだ。
「これならどうだってーの!!」
オーラの付与された斬馬刀が地面を抉り、振り直した二の太刀が大蛇の肌に食い込んだ。
巨体が迫り、ぞろりと並んだ牙が虎魔を切り裂いた。服が紅に染まる。
「楽しい‥‥ 楽しいぜぇ! もっと楽しませてくれぇ!」
並みの人間ならこの一撃で戦意を喪失してもおかしくはない。それがどうだ。虎魔は高揚感から思わず笑い出してしまう。
「熱くなるな。作戦通りに行くぞ」
天螺月は虎魔の袖を引くと丘を下り始めた。
ガラガラと岩を跳ね除けながら、大蛇は斜面に身を躍らせた。
大蛇は丘の下まで誘き寄せられようとしている。
さすがに2人では荷が重過ぎる。天螺月の服は血に染まり、ヌルッと肌に張り付いた。
「魔法を使ってこなくなったな」
虎魔は斬馬刀を担いで下がる。グラビティーキャノンは飛んでこなくなっていた。
サイレンスが果たして効いているのか、それはファラにはわからない。
ただ、相手が魔法を使ってこない。それだけで彼がサイレンスをかけ続けている意味があるというものだ。
「さすがに魔力が厳しくなってきたな」
ファラが呻く。
ここまでくれば仲間が援護してくれる。
リカバーポーションを消費しながら天螺月は駆け下りた。少し離れたところを虎魔も駆け下りている。
「今だ!!」
天螺月が叫ぶ。ここが勝負の肝。2つの影が強襲する。
「喰らえ! 絶刀撃!!」
駆け込んできたウェントスが勢いそのままに霞刀を突き立てた。大蛇の動きが一瞬止まる。
「神風ジャパン兵! 参る!」
飛び込んできた加藤が大蛇の口の中を狙うが上手く滑り込まない。もう一撃を繰り出そうとした時にその口が開いた。
「オレの為に滅べ!」
すかさず日本刀を押し込む。しかし‥‥
「ぐはっ」
加藤が噛みつかれた。加藤の下半身が覗く大蛇の口からは血が流れ出している。
「吐き出しやがれぇ!!」
虎魔の斬馬刀が大蛇の首筋に食い込む。しかし、大蛇はその牙を離そうとしない。
「ええぃ」
天螺月のオーラソードは表面を削るのみ。
「放せ!!」
危機を感じて突撃してきた羽雪嶺が大斧を振るう。だが、これも弾かれてしまう。
「ええぃ!!」
続けて放った爆虎掌さえ大蛇はほとんど傷を受けていないのか意に介さない。
初撃を食らわせて離脱したウェントスが再び助走をつけて走りこむ。
「たぁあ!! いい加減にするんですね!!」
霞刀が大蛇の体に滑り込んだ。
「お楽しみはここまでだ!!」
虎魔が斬馬刀を振り下ろした。大蛇がズンッと身を横たえ、加藤を挟み込んでいた牙が緩んだ。
「ごほっ‥‥ ごほっ‥‥」
加藤は血まみれで口の中から引きずり出された。
思ったより傷は深くなさそうだが、かなりの手傷を負ったのは確かである。すかさずリカバーポーションを飲み干した。
ほっと一息つく魔物ハンターたち。だが‥‥
ガラガラッ。大蛇が起き上がろうとしている。その瞬間、大蛇の体表面から岩の肌の層が薄くなっていった。
羽雪嶺が大斧を振り下ろし、ついでとばかりに爆虎掌を撃ち込む。大蛇の体がビクッと仰け反った。
日本刀が、霞刀が、斬馬刀が切り刻み、ついに大蛇は動きを止めた。
魔物ハンターたちが大きく息を吐いて座り込むと、遠巻きに見ていた町の者たちが恐々と近づいてきた。
●帰還
江戸ギルドへ帰還した魔物ハンターたち。
微妙な幸運に助けられたと言ってもいい結果だったが、遠巻きに一部始終を第三者に目撃させてアピールした事が多少なりとも魔物ハンターの噂を広めることに貢献していた。勿論、彼らの活躍の噂である。
さて、結果を報告するために彼らはイェブの元を訪れているのだが、成り行きを聞いて彼女は満足げにワインの封を開いた。出発の時に開けた残り半分を7つのコップに注いでいく。
乾杯すると、彼らは楽しげにコップに口をつけた。
「短い間だけど、世話になったね」
「どうした?」
コップを傾けるイェブが、ファラに視線をやった。
「僕は、次の月道でイギリスに行くよ」
「そうか」
イェブは淡々と一言だけ漏らした。
「お宮とも戦ってみたかった。
ああいうタイプは嫌いじゃない。強いし、頭もいい‥‥ だからこそ、実際に対峙したら、厄介この上ない相手なのだろうけど」
「フフ、待ってはやれんかもしれんよ」
ファラの独白にイェブが呟いた。ゴクリと喉を鳴らす音が聞こえる。
「魔物ハンター‥‥ 解散して欲しくない。
僕がイギリスから戻って来た時‥‥ また、魔物ハンターとして依頼を受けたい‥‥」
「嬉しいこと言ってくれるね」
2人はコップを合わせると、魔物ハンターたちを見渡した。