【魔物ハンター】人喰悪鬼
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■シリーズシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:4〜8lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 88 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月15日〜02月20日
リプレイ公開日:2005年02月24日
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●オープニング
「いやぁぁあ!!」
切り裂くような悲鳴が響く。
ブクブク音を立てるような笑い声が嫌悪感を引き立てるが、女は恐怖で一杯でそんなことを考える余裕はなかった。
「‥‥」
両足首を掴まれた女は逆さ釣りにされ、股を大きく広げられ、声にならない悲鳴があがる。
これから何が起こるのか想像もできないといった表情で震え、だらりと力なく腕を垂れ下げている。
そして‥‥
何が起こるのか想像付いた瞬間、女は再び声を発することができた。
「ぎぃぃいやぁぁあ!!」
股間に貪りついた巨大な影は、そのまま足を引きちぎると口に頬張った。
ブチブチ、ボリボリと音を立て肉が噛み千切られ、骨が砕ける音がする。
しかし、その光景と音をそれ以上女が聞くことはない。
血を滴らせ、光を失った瞳は虚空を見つめ、女は肉塊に変じた。
大きな骨を吹き捨てながら、巨大な影はバリバリと貪り食う。
「悔しいけど俺じゃ相手にならない‥‥」
物陰に隠れていた浪人は、傷を押さえながら唇を噛み締めてその場を離れた。
※ ※ ※
江戸冒険者ギルドの一室。
円卓に7つの椅子。机の上には木板が置かれている。
鳥仮面の女・イェブが冒険者たちを前に鋭い視線を投げている。
「今度のターゲットは正体不明」
魔物ハンターたちが怪訝な表情を浮かべた。
「そんな目で見るな。情報が少ないから特定できなかったんだ。だが、村に居候していた浪人から少しだが情報を入手できた。
相手は鬼。とんでもなく強力なね」
イェブが指差す木板には棒を構えた筋骨隆々の2本角の鬼が描かれている。大きさは1丈近いか?と書き込まれている。
「この目撃情報をくれた浪人は運良く生き延びたって感じね。一撃で重傷をくらって動けなかったのが幸いしたみたい。
さて‥‥ 魔物ハンターは強敵を狩る。行けるわね?」
イェブは魔物ハンターたちを見渡した。
「一刻も早く村へ行き、傍迷惑な鬼を倒してきて。さぁ、行ってらっしゃい。残り半分はこいつを倒して皆で飲み干しましょう」
イェブはワインのカップを掲げた。
●リプレイ本文
●出撃
「まずはイェブ殿、これから宜しく頼む」
「こちらこそな。期待しているよ」
新たに魔物ハンターに参入した天津蒼穹(ea6749)は、イェブに対していかにも丁寧。気さくな感じだが身嗜みもピリッとしており、大切に手入れされれている長槍が、彼の性格を表しているようである。
「‥‥っと、そんな場合じゃないな。なかなかの強敵のようだが」
と、まあこんな感じで‥‥
「那須の岩嶽丸‥‥ あれに匹敵する鬼なのかな?」
「確かに気にはなるわね」
「さぁ‥‥ 私も岩嶽丸については風聞しか知らないからね」
羽雪嶺(ea2478)とアイーダ・ノースフィールド(ea6264)が心配するのも尤もだが、情報がなくて判断しがたいというイェブの言葉もいちいち尤もである。
「これも那須が荒れてるせいだとすれば、これからも大変そうだな」
加藤武政(ea0914)は木板を睨んで、窓の外の空を眺めた。空の向こうの那須は大変なことになっているようだが‥‥
「鬼はものすごい手練みたいだから、近づかれる前に私の射撃でどれだけ手傷を負わせられるか‥‥
敵の距離で戦う前に勝負を決めておかないと、どちらが早く倒れるかって勝負になっちゃうかもしれないわね」
仲間を見渡しながら深く静かに息を吐くアイーダ‥‥
「今回は今までよりも厳しい闘いになるな‥‥」
烏帽子兜に皮鎧。法衣を纏い、腰には霞刀。背には肩からミドルシールドを掛け、指には魔法のリングが陽を反射して輝きを放つ。
ウェントス・ヴェルサージュ(ea3207)も、和洋折衷ながらピリッとした格好で背筋を伸ばして椅子に腰掛けながら、いつもは落ち着き払った目元を歪ませていた。
「大鬼かー。ははは、心躍るね」
「不穏なことを言わないでよ。こちらだって命が掛かってるんだから」
心配げに釘を刺すアイーダに、加藤は
「平和は苦手だ。俺の体も夢も腐りゆくだけで‥‥
俺以外にも戦乱を待ち望んでいる者はいるはずだ。平和になればなるほど、世は堅く、夢もしぼむ。
「加藤さん‥‥」
わからない話ではないが‥‥ そう言いかけてアイーダは言葉を飲み込んだ。
「同感だ。俺の場合、強敵に腕がなる。それだけで十分だが‥‥ ま、何にしても静かな村ぁ荒らす奴ぁ許しておけねえなぁ」
柱に立て掛けた自身の巨漢とタメをはるほど巨大で物騒な斬馬刀に視線をやりながら、虎魔慶牙(ea7767)は笑みを浮かべた。これから赴く戦いを想像して戦闘狂の血が騒ぐといったところか‥‥
「確かに‥‥ 生き残ってる奴らが1人や2人はいて欲しいモンだが、早馬みたいなのはまた借りられないかね?」
「私は、できれば軍馬を使いたいわ」
「すぐには無理だな。羽雪嶺以外は馬を持っているだろう? 何とかならないのか?」
簡潔にして即決。加藤がイェブに思いを寄せる一端がそこにあった。
いつか2人きりで酒をかわしあい、仮面の下の素顔を拝んでみたいと思うが‥‥
今はまず、目の前の人喰いの悪鬼を倒すのが先決。
「俺は2頭持ってるぜ」
「決まりだな。」
虎魔の言葉尻にイェブがすかさず乗っかる。
こうして移動の手段を確保した魔物ハンターたちは、時間を惜しんですぐに江戸を出発した。
「結局、それしかないのか‥‥」
乗馬に慣れない羽雪嶺がいるために速力は出せないが、装備を担いで歩くのに比べれば格段に馬での移動が楽なのは間違いない。
かと言って馬を休ませながら進まなければ、死なせてしまう。
乗馬する者にも疲労が蓄積するために、到着してすぐの戦いを念頭に置くなら最低限の休息は必要だった。
「えぇ、相手の実力が分からない以上、確実にやるしかないわね」
「最悪、村人を見捨てるってのが気持ち悪いけど」
アイーダの意見は非情なようだが、ウェントスにもわからないでもない。ここで逃せば被害は益々広がるだろうから。
「さぁ、そろそろ行きましょう」
実際のところ、一番急ぎたがっていたのはアイーダのように見える。それが彼女の本心なのだろう。
魔物ハンターたちは村への道を急ぐ‥‥
●村
「僕たちが闘うからこっそり逃げるか動かないでね。戦闘中は庇う余裕は流石になくなるから」
「はい‥‥」
今回の作戦。アイーダの位置取りが重要なのと同じく、戦闘に集中できる状況を作り出せるかが成否を左右すると言っても過言ではない。そういった意味では、やはり村人は護るべき対象であって邪魔。事前に戦いの懸念は取り除いておくに限る。
そこで、忍び歩きの得意な羽雪嶺は仲間たちとは別行動で村の中の生存者を探し出しては声をかけていた。
「頼みます。あの鬼を倒して‥‥」
「はい」
相手は鬼1体‥‥ 軽装備の羽雪嶺が見つからないように歩くのは、それほど難しいことではない。
笑みを残して羽雪嶺は次の建物を目指した。
羽雪嶺とは別に、村の外れに馬を留めた他の魔物ハンターたちは鬼を探しつつ、戦いに向きそうな場所を探っていた。
「いたな。」
天津は鬼を見つけた。
まだ距離はある。何かを貪るように食べているから、もう少しは時間に余裕はあるだろう。
「よっ」
「帰ってきたな。作戦を確認しよう」
羽雪嶺が帰ってきたのを見計らって、魔物ハンターたちは周囲を見渡して地形を確認した。
「やっぱ人命優先して正解だったよ」
鬼の近くまで行っていたのか、羽雪嶺は地面に建物や隠れられそうな高低差を書き込みながら、そこへ辿り着く道筋を示した。
「くれぐれも慎重に。アイーダの位置取りに失敗したら取り返しが利かないからね」
羽雪嶺の言葉に仲間たちは頷いた。
●いざ
さすがに忍び歩きに慣れている羽雪嶺の助言だけあって、目立つメンバーの移動が少ない個人の装備まで考慮した配置になっていた。
虎魔の巨躯を活かしてアイーダが比較的大きな家の屋根に陣取る。
建物の影に隠れるようにメンバーもそれぞれ配置に付いたようである。
「あいつ‥‥」
天津は腸(はらわた)が煮えくり返るのを堪(こら)えた。
噂どおりの人喰い悪鬼。ターゲットの喰らっているのは人間だった。村人に違いないだろう。
それは狙いを定めているアイーダにも見えた。
「許せない‥‥」
湧き上がる怒りを抑えて弦を引き絞り、梓弓から矢が放たれた。
ひゅぉぅ。
風を切って矢は鬼の首筋に命中した。
痛みに怒りの表情を浮かべ、口にしていた太腿を放り出して、矢の飛んできた方向を睨むや否や猛然と突進してきた。
すぐに新たな矢を取り出し、アイーダは第2射の態勢に入る。
しかし、存外な速さで迫ってくる。
「嘘だろ‥‥」
加藤は日本刀の柄をギュッと握り締めた。
「せめてもう1矢」
体に矢を受けながら鬼の突進は止まらない。そのまま家の壁に体当たりすると、棒で柱を殴り始めた。
それほど強固な存在ではない農家である。怪力で殴られればそうはもたない。
体勢を崩して屋根から落ちそうになって必死にしがみついた。
「ぐぉおお」
そこに鬼の悲鳴。背後に忍び寄った羽雪嶺の爆虎掌がきまる。鬼は振り向き様に棒を討ち下ろした。
「させねぇよ」
それを受けたのは虎魔の斬馬刀。しかし、続け様の攻撃を受けきれない。
「あれだけ不意打ちくらって、これほどとは‥‥ 前回といい今回といい、楽しませてくれるぜぇ!!」
脇腹に痛みを感じながら虎魔は斬馬刀の重さを逃がしながら振り回し、距離を測って構えなおした。
気が付けば鬼の周囲は魔物ハンターに囲まれている。
「がぁう」
魔物ハンターにとって幸い、激情したのか壁を背にして戦うといったような気の効いた戦法を取ってこなかったのが鬼の失策。
「のぁあ」
「なんとぉ‥‥」
加藤を吹き飛ばし、天津に突きを入れながらも虎魔に背を向けた。
「やらせんぜぇ!」
腕を切り落とす想いの大振り一撃だったが盛大に地面を抉っただけ。諦めて大振りながら軌道を小さくし、もう一度腕を狙った。
「頑丈な奴だぜ」
ザクッと裂けてはいるが、腕は繋がったまま。棒を軽々と振り回している。
「我が名は『蒼眼の修羅』、ウェントス・ヴェルサージュ。お前はここで倒さねばならない。覚悟はいいな?」
オーラパワーを付与された霞刀が斬りつけた傷から血がつ〜っと流れる。
「手ごわい‥‥ 今のうちに回復を!」
決して軽い攻撃ではなかったはずだ‥‥ ウェントスは苦戦を覚悟して、盾を持つ手に力を込めた。
危ういところを防ぐも、続けて防ぐことはできずにミドルシールドが弾かれて強かに肩を討ちつけられた。
「数では勝ってるんだ。中(あ)ててやる!!」
加藤が日本刀で斬りつける。‥‥が傷は浅い。
「それならぁ」
羽雪嶺が再び爆虎掌を狙うが、鬼はそれをかわした。
「くたばりなぁ!!」
虎魔の一撃にも大して効いた風ではなく、鬼は反撃してくる。
「何なんだ。こいつは!!」
天津の攻撃も僅かに傷をつけるのみ。
魔物ハンターの攻撃の手が緩くなっていく。
受ける傷は一撃一撃が大きい。受けるたびにポーションを使って回復しているが、下手に連撃をくらえばまずい。
ともあれ鬼の動きも鈍りつつあるが‥‥
どっ‥‥
「ぎゃああ」
瞳に矢をくらって鬼がのけぞった。
「この世は力が全てと言うのなら‥‥ 力無き者に変わり、この俺が刃となってお前を討つ!!」
天津の槍が胸板を突き、引き抜いた穂先を薙ぐように体ごと回転させて槍の重さごと叩き付けた。
一撃を棒で受けるが、 すかさずウェントスが加藤が刃を突き出す。
さらに、そこに待っていたのは斬馬刀。
力任せに振り回した腰を入れた一撃は鬼の首を跳ねた。
「今回も結構危なかったな‥‥」
ウェントスは一息ついて壁にもたれかかった。
「あぁ‥‥」
メンバーも荒い息を整えるために、それぞれに一息ついている。
「楽しかったなぁ」
汗だくの体を拭こうともせずに、座り込んだ虎魔は笑った。
「あなただけよ」
アイーダはホッと胸を撫で下ろす。
魔物ハンターたちは思わず笑い出した。
その光景を村人たちが不思議そうに覗いていた。
●帰還
『大罪の人喰い悪鬼』と書かれた幟をはためかせ、竹の先に首級をぶら下げて魔物ハンターたちは江戸に帰還した。
「ひゃ〜、あの角。見てみろよ、すげぇな」
「ホントだぜ‥‥」
これで魔物ハンターの失った評判は、概ね回復できたと見ていいだろう。江戸の民衆たちは珍しい物を見たという感じだが、実際のところギルドに持ち帰ったことで、この鬼の実力を測ることのできる魔物との戦いに長けた者や魔物に対して詳しい者といった一部の者たちに一目置かれたというところに効果大だったと言えるだろう。
「派手にやったな」
「まぁな。地道な宣伝に増す名声の上げ方はなしってとこだ」
長いつきあいだが、あいつが外人で温泉好きなことぐらいしか知らないんだよなと、加藤は不思議に思った。
さて、折角みつけた2人きりの時間。このチャンスを逃すわけにはいかない。
「イェブ、今夜どうだい?」
そう言いながらも顔は真っ赤だ。しかも‥‥
「駄目だ! 俺が耐えられん。こんな、だんでぃすたいる」
自分で台無しにしていては色恋の駆け引きもあったものではない。
どこでそんな言葉を覚えてきたのかとイェブが声を立てずに笑った。
「帰還祝いの乾杯だ。いくぞ、加藤」
「あぁ。それ、持つよ」
ワインの壺を受け取った加藤は、イェブと2人、仲間たちの待つ、あの部屋へと続く廊下で肩を並べた。