《那須動乱・蒼天十矢隊》八溝山の牛頭

■シリーズシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 96 C

参加人数:11人

サポート参加人数:7人

冒険期間:04月19日〜04月30日

リプレイ公開日:2005年04月27日

●オープニング

 態勢の立て直しに邁進する那須藩は江戸で開いた演舞会で弓や馬を売り、販路の開拓に探りを入れた。
 八溝山の岩嶽丸を討伐した那須与一の武名は関八州など近隣の州は言うに及ばず、遠く京にまで聞こえ及んでいるという。しかし、それ以上に噂として広まっているのが茶臼山での九尾の狐との決戦である。
 たかだか1藩で手に負える事態ではなく、これほどの事態だと予見できるものはいなかっただろうという識者の言葉とは別に、大妖を取り逃がしたという1点において那須の武名は地に落ちたと悪く言う者が多いのが事実である。
 そういう1面も影響したのか江戸での演舞会を兼ねた武具馬具の販売は、あまり芳しい結果を残せなかった。
 この結果をどう受け止めるのか那須藩では協議中ではあるが、今のところいい意見が出ていないのは確かである‥‥

 また‥‥
 馬の輸出に関しても多少の問題点が浮き上がっている。
 まず1点。良馬は那須藩にとっても貴重な戦力であるからには、手を掛けて育てた選りすぐりの良馬を手放すことは大きな損失となるからだ。そもそも、良馬は戦場に出ることが多い。平穏に草を食(は)み、牧場で駆け回るというわけにはいかないのである。武士同士の戦いでなくても、魔物との討伐などで死ぬことは多く、大抵の場合で子孫を多く残すことは難しい。
 もう1点。馬を育てて商売として成り立たせるためには、良馬を売らなくては話にならない。必然として残った馬の子孫が増えていくのだが、駄馬ばかりになるかと言うとこれまた違う。実感として、良馬や駄馬の生まれる確率にそれほどの差はない。加えて先に述べたように優秀な血統は絶え易いという要素も加わるため、血統の良さが認識される事は少なく、馬の血統は重視されないのが現実であった。その辺を考えると、良馬同士を掛け合わせて品種管理したうえで戦力とするには、道楽ともいえる採算度外視の資金投入が必要になる可能性は高い‥‥

 また、那須の地においては神田城周辺の薬草の栽培の本格化に向けて1歩が踏み出されている。
 最終的な規模に比べて初期投資が少ないために大したことはできていないが、それでも与一公のお墨付きを得たことは大きい。
 協力者や資金、販路の確保など薬草栽培の新体制が確立されれば、これが那須の特産物になるのであろうが、結果が出るのは少し先‥‥
 何はともあれ、現状での収穫を達成しなければ先へ進むことはない。

 ※  ※

 さて‥‥
 内政に力を入れることは大事である。
 しかし、政(まつりごと)はそれだけでは済まない。
 外へ向け、内へ向け、武威を示すことも大事な政であった。
 そんな時に凄惨な事件が起きた‥‥

 那須藩に牛頭の鬼が現れたと言う噂が江戸にまで届いている。
 やきもきする蒼天十矢隊が耐え切れずに自腹で那須へ向かおうかと考えていたその時、十矢隊の足軽たちが彼らの許へ訪れ、そのままギルドへと召集された。
「さて、その様子だと話は聞いているな?
 那須に現れた牛頭の鬼を退治するための加勢に行ってほしい。
 那須軍が奴らを追い詰め、勢力はある程度減らすことに成功しているが、完全に討ち取るところまではいっていない。
 敵が相当の手練で生半可な戦力では倒すことはできないと判断したらしい。
 攻めては退き、退いては攻めて、相手の疲れを待っているが、そいつらが逃げ込んだ場所は、あの『岩嶽城』だ。
 放っておけば鬼たちの再集結を招くかもしれないというのが那須藩の判断らしくてな。
 そうなる前に討伐するためにお前さんたちに声がかかったっていう訳さ。
 那須に支局を持つギルドとしても放っておけないからな。お前さんたちには頑張ってほしい」
 ギルドの親仁は緊張した声で蒼天十矢隊に趣旨を伝えた。

 鬼たちは村を襲い、女を襲い、何人かは連れ去られてしまったという‥‥
 鬼の中には雄しかいないものもいて、その牛頭の鬼はそういう鬼である可能性が高いという話であった。
 那須神田城まで馬で約2日、岩嶽城へはそこから馬で1日から1日半はかかる。
 直接岩嶽城に向かった場合、多少の時間短縮は可能である。馬にもよるが、およそ1日から1日半といったところか‥‥
 討伐の過程で鬼たちは半数以下に数を減らしているが、頭目と見られる鬼は武士でも中々に歯が立たなかったようである。
 彼女たちのためにも、那須のためにも八溝山を囲む那須軍と協力して一刻も早く、かの鬼たちを討伐しなければならない‥

●今回の参加者

 ea0031 龍深城 我斬(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1488 限間 灯一(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2445 鷲尾 天斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2473 刀根 要(43歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3546 風御 凪(31歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3744 七瀬 水穂(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3899 馬場 奈津(70歳・♀・志士・パラ・ジャパン)
 ea4536 白羽 与一(35歳・♀・侍・パラ・ジャパン)
 ea4734 西園寺 更紗(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea6177 ゲレイ・メージ(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

ネフェリム・ヒム(ea2815)/ ウェントス・ヴェルサージュ(ea3207)/ ミリコット・クリス(ea3302)/ 天風 誠志郎(ea8191)/ 風御 飛沫(ea9272)/ セイル・グローザム(eb1752)/ 馬籠 螢哭(eb1869

●リプレイ本文

●兵は拙速を尊ぶ
「牛頭鬼か‥‥ イギリスにいた時に聞いたことのあるミノタウロスに似ているな。
 遭遇する事が少ないオーガで私も詳しくは知らないが、腕っ節が強く、頑丈だと聞いている。
 油断できない相手だから、みんな気をつけろよ。
 そういえば、女をさらって子供を生ませると聞いた気がするな‥‥」
 ゲレイ・メージ(ea6177)の話は、蒼天十矢隊に衝撃を与えた。
「女性達の身に何かあっては遅過ぎます‥‥ 神田城へは寄らず八溝山へ直行しませんか?」
「なんと! 早く助け出さねば!!」
 限間灯一(ea1488)と馬場奈津(ea3899)が息巻くまでもなく、蒼天十矢隊の気持ちはゲレイの話を聞いた瞬間に決まっていた。
「捜索はともかく、女性達の保護は女性陣で行うです。その方が良いと思うですよ」
「そうでございますね。その方が良いと思いまする」
 七瀬水穂(ea3744)や白羽与一(ea4536)たち女性藩士の気持ちは複雑だ。
「捕えられている方たちのことは極力女性陣に対応を任せようと思うのですが、どうですか?」
 風御凪(ea3546)の提案に仲間たちは最悪の事態にならないことを切に願った‥‥
「こういう事が起きるから争いが絶えないんよ‥‥」
「ホント、何だかねぇ」
「今はこれ以上女性の被害者を出させないようにしないと‥‥」
「さらわれた娘さんたちの安否も気になるし、急いだ方が良いだろう。
 それにしても、政の問題も解決しきらぬまま新たな問題か‥‥
 1つ1つの事柄にあまり時間をかける余裕はないのかもしれんな」
 西園寺更紗(ea4734)と鷲尾天斗(ea2445)、カイ・ローン(ea3054)と龍深城我斬(ea0031)は顔を見合わせて静かに息を吐いた。

 それからすぐ、慌しく武器や道具などの準備を済ませた蒼天十矢隊は、那須へ出発した。
「もしや、その様なことがあるやもと、手を打っておいたのが正解でした」
 末蔵が言うには何人か屯所に留守番として残し、蒼天十矢隊の足軽たちの殆どは那須支局に集結中だという。
 喜連川に入って隊を整えたら、すぐにでも八溝山へ出発することができるのだ‥‥

●評定
 途中襲われた村々を通って八溝山の岩嶽城に到着した蒼天十矢隊は、那須藩士たちと共に攻略作戦を練った。
 那須支局目付けの結城朝光(ゆうき・ともみつ)殿が、八溝山を包囲していた那須軍駐屯部隊と神田城から追討隊として派遣されていた部隊を指揮下に収めて総大将を務め、蒼天十矢隊は遊撃隊として編成された。
 これは拙速を尊ぶという蒼天十矢隊の具申を結城殿が聞き入れた形で取られた編成である。
「我らに汚名返上の機会が訪れようとは‥‥ かたじけない」
 那須藩士たちは結城殿に一斉に頭を下げた。
「しかし、結城様。このような勝手‥‥ 場合によっては、殿の御勘気に触れまするぞ。宜しいのですか?」
「そも、後悔するようであれば来てはおりません。
 蒼天十矢隊の方々が自分たちだけでも一刻も早く突入し、囚われの領民を助け出すと聞いて、居ても起ってもいられなかった己がいたことも確か。那須支局の目付けである私がジッとして、彼らにだけ責めを負わせることだけは避けなければなりません」
 成る程と藩士たちが頷いているところへ荒だたしい足音が聞こえてくる。
「申し上げます!」
「待っておった。して、仕儀は!」
「具申、承知‥‥とのこと」
 結城殿の問いに答えると、使者は下がった。
「蒼天十矢隊の方々、帰陣にて候!」
 足軽の声が本陣に響く。
「少しは討ち減らしてきました」
 蒼天の羽織を揺らして人懐っこく笑いながら鷲尾は藩士の下座に座った。
「与一公の裁可が下りましたぞ」
「では、いよいよでございまするな」
 結城殿の言葉に蒼天十矢隊筆頭・白羽が頷いた。
「蒼天十矢隊には帰陣早々で申し訳ないが、直ちに出陣仕る」
 応と全員が声を上げた。

●八溝山決戦再び
 那須藩士が正面から敵を惹きつけている間に、蒼天十矢隊が洞窟を抜けて最深部に奇襲をかける。これが作戦の骨子だ。
 どこかで見たことのある作戦である。
 そう‥‥岩嶽丸との決戦の折に用いた作戦をそのまま用いたのである。

 何本もの松明が洞窟の中を照らす‥‥
「何かいる気配があります。大きな息遣いもありませんし、この配置の感じなら那須軍ということもないでしょう」
 風御のブレスセンサーで待ち伏せを警戒しながら先を目指した。
「て、ことは敵だな。準備するぞ」
 鷲尾は霞刀を両手で抜き放った。
 足軽たちを含めてそれぞれに得物を構え、あるいは魔法を唱えた。
「相手を岩嶽丸と同じくらいの実力と思っていきますよ。
 私を含めて3人で牛鬼は引き受けますので、その間に囚われの方たちを救出して豚鬼の対処をしてください」
 刀根要(ea2473)たちは打ち合わせを確認した。
 途中、通った村で請われて足軽に加えた村人もいる。彼らの士気は高いが、恋人の姿を見て暴走しかねない。
 何度でも念を押しておく必要があった。

 部屋の中には豚鬼と4人の女たち‥‥
 どうやらさらわれた女たちは全員無事だったようである。
「女の子をさらうなんて許すまじです! 乙女の怒りを思い知るですよ〜!! 超烈破! 滅殺爆炎弾!!」
 ぉ‥‥ 珍しく微妙に語尾に怒りがこもった七瀬。それは兎も角、火球が豚鬼たちを包んだ。
「ブギィイ!!」
 豚鬼たちが七瀬たちの姿を見つけ、突進してきた。
「フッフッフッ‥‥ 攻撃魔法が使える」
 タイミングをずらしたゲレイのアイスブリザードが豚鬼たちを吹雪の中に叩き込む。
 焼かれて凍えさせられ‥‥ 戦いが終わって生きていれば、確実に風邪を引きそうである。
「うりゃぁあ! 皆行くぜ!」
 霞刀という翼を羽ばたかせて、鷲尾が獲物を狙うように突進していく。
 その後を4人の足軽たちがそれぞれに自分の恋人の名を呼びながら続いた。
 不退転の決意で突っ込む足軽たちは、鷲尾を先頭に錐で抉るように豚鬼の群れを切り裂いていったが、肉の壁は思ったより厚く、突進を止められてしまった‥‥
「させませぬ」
 白羽が鳴弦の弓をかき鳴らした。
「我が名は外道を狩る双刀の猛禽鷲尾天斗! この名を地獄の手形代わりに持って逝きな!!」
 翼刀、捨心! いや、その先をいく鷲尾流二天の新技!!
「鷲尾流二天『因果断鎖』!」
 豚鬼の槌を避けようともせず、飛び込むようにカウンターで両翼の霞刀を振り下ろした。
 両肩から腹までザックリと切り裂かれた豚鬼が血を吐いて倒れた。
 そこを足軽が短槍で止めを差していく。
「うまくいったな」
 今のところ鷲尾流二天の極意に回避や受けは欠片もない!
 デッドorライブを修得して、万全の態勢で怪我をする気満々だった。
「囲ませるでないわ! 突撃じゃ!!」
 馬場の声に蒼天十矢隊は豚鬼の群れにぶつかっていった。
 そこへ咆哮を上げながら現れたのは、黒い雄牛の頭にジャイアントの身体を持ち、片手で巨大な斧を持った鬼‥‥
「あいつは、うちらに任せておくれやす」
 西園寺たちは牛頭鬼へと向かっていった。

●牛頭鬼
『女性をさらうとは外道ですね、彼女たちに傷をつけて私たちから無傷で逃げられると思っているのですか?』
 オーラテレパスで刀根は牛頭鬼に語りかけた。
『お前たち、弱い。強い俺の子を産む。女、幸せ』
 牛の顔がニヤッと笑ったような気がした。
「何言ってるかわからないけど、むかつくことを言ってるってのはわかったよ‥‥」
 龍深城は越中国則重の柄をギュッと握った。
『邪魔する奴は殺す。そして食う』
 姿勢を低くして牛頭鬼が迫る!
 突進の勢いのまま突き出した斧の力を捌いて逸らすと、刀根はそのままオーラシールドで押し倒そうとする。
『弱い弱い!! お前、不味そうだけど真っ先に食ってやる』
 しかし、逆に押しつぶされてしまった。
「あの体勢から負けるのか‥‥」
 カイが愕然とした表情で呟いた。
「だから言っただろう。岩嶽丸と同じくらい強いと思えば驚くことはないと」
 刀根は素早く立ち上がり、構えなおした。
「私が引きつけます。挟み撃ちにしましょう」
 牛頭鬼を基点に刀根たちは三角形に囲み上げた。
 これなら2人は側面か背後を取れる。
「スールの誓いを胸に、巌流・西園寺更紗、参ります」
 下段に構えた長巻を手に西園寺が佐々木流の構えをとった。
「これだけの手合いに囲まれて無事でいられると思うなよ」
 龍深城は小太刀の柄を両手で握り締めると体の後ろに刃を隠した。
「蒼天十矢隊が一矢、青き守護者カイ・ローン、参る」
 カイはトライデントを腰貯めに両手で構え、腰を落とした。
「お前にてこずっている様じゃあ、白面に再戦なんて夢のまた夢だからな」
「そうどすな」
 武者震いするカイに西園寺は笑って応えた。
『その意気です』
「だな」
 刀根と龍深城も微笑んでいる。
『なぁにがおかしい!!』
 牛頭鬼の斧が刀根を捉えたかに見えた。
 一瞬の鍔迫り合いの後、倒れたのはまたしても刀根であった‥‥

●救出
 豚鬼たちとの攻防が続く中、戦いながらも震える女を視界の端に捉え、限間は押さえが利かなくなっていた。
(「恐怖に怯える女子を助けられずして何が侍か。何が男か。一刻も早く助け出さねば」)
 唇を噛むと、瞳に力をなくした女たちの許へと限間は駆け出した。
「まだ、早いです!!」
 風御が止めるが、もう遅い。
「ご安心を。もうこれ以上、貴女方には鬼の指一本たりとて触れさせはしません。絶対に」
 女たちを背にして、限間はシールドソードを構えた。
 蒼天十矢隊に気を取られていた豚鬼の何頭かが限間のところへ向かった。このままでは囚われの女の人たちに被害が出るかもしれない。
「草太! 加勢します。幸彦、護衛についている間に彼女たちを頼む」
「はい!!」
「わかった」
 ライトシールドで豚鬼の攻撃を受けながら、風御は足軽の草太と幸彦と共に前に出て、限間たちとの間合いを詰めた。
「2人とも無茶だけはしないようにね」
「わかってますって」
 短槍とライトシールドを扱い、旅装束で身を固めた草太と幸彦は、風御の背中を守るように連携していた。
(「最小限の動きで最大の威力を・・・・」)
「そこだ〜!!」
 限間と女たちに気を取られて隙だらけの豚鬼に身を預けるように忍者刀の切っ先を突き刺した。
 肉を切り裂く感触と共に、風御の体から伝った雷に豚鬼がバチッと焼かれた。
(「強い‥‥」)
 普段の穏やかな街医者からは想像できない‥‥ 自分とは年は1つくらいしか違わないはずなのに‥‥
「風御さん、ありがとうございます! ぉおお!!」
 豚鬼の槌をシールドソードで受け止めると、限間は両手で力を乗せて豚鬼に追い討ちをかけた。
「プギイィ‥‥」
 武器の重さを十分に乗せた一撃が豚鬼の命を断った。
 残る2頭が怯んだ隙に風御たち3人は、限間の隣に並んだ。
「気持ちはわかります。でも、もっと戦局を見て! 余計な血を見せてしまいました」
 後ろをチラッと見る風御の視線の先に目を向けて、限間は怯えて膝を抱えた女の姿を目にした。
「俺は‥‥」
「わかってます。来ます」
 風御は盾で槌を受け流すと、踏み込みに惑わされて体勢を動かした豚鬼に容赦ない攻撃をくらわす。
「駄目か‥‥ これなら!」
 分厚い肉に阻まれてカスリ傷にしかならなかったのを見てとるや、風御は上段から思い切り刀を振り下ろした。
「自分にだって!」
 限間がシールドソードで肩の肉を砕くように切り裂くと、豚鬼は草太の短槍を受けて断末魔の叫びを上げた。
「ここは私たちにお任せくださいませ」
「わかりました」
 白羽と足軽たちが駆けつけたところで風御たちは別の豚鬼へと突撃していった。
「頼みます」
「存分なお働きを」
 彼女たちのことは気にはなるが、今は任せよう。限間はそう思うと、白羽や馬場の援護射撃を受けながら風御たちの後を追った。
「いっきますよ〜♪ 香ばしい豚の丸焼き水穂すぺしゃるです〜」
 松明の炎が膨れ上がり豚鬼たちを包む。
 豚鬼たちが怯んだ隙に‥‥ いや、蒼天十矢隊も十分にビックリしていた。
「使うときは言ってくれって」
 鷲尾は笑顔で一言いうと豚鬼に突っ込んでいった。
「私に魔法を使わせろー!」
 敵味方入り乱れての乱戦では思わぬ攻撃が味方の隙を生んでしまう。
 さっきの七瀬のファイヤーコントロールがいい例である。
「頼みます!」
「モンスターに人権なーし!」
 足軽の要請に応えてゲレイは咄嗟に魔法を成就させた。
 水の塊が豚鬼に激しくぶつかった。
 足軽たちが肩を掴んで恋人の名を呼ぶと、ようやく恋人たちは反応して男たちに抱きついた。
 しっかりと彼らの背中を抱きしめる女たちに白羽は微笑を浮かべている。
「まだ、終わってはおらぬ。援護するのじゃ」
 馬場も白羽も疲れていた。魔力はおそらく残り僅か‥‥
 それでも強敵の牛頭鬼と3頭の豚鬼が残っている。最後の気力を振り絞って鳴弦の弓をかき鳴らすしかなかった。

●牛頭鬼の最後
「おうら、手前の相手はこっちだこっち」
 牛頭鬼が振り向いた。
「まずい‥‥」
 決して油断したわけではなかった‥‥
 龍深城は跳んで逃げようとするが、逃げた先まで斧頭が迫ってくる。
 そのまま跳ね飛ばされ、派手に床を転がった。
「大丈夫か!」
「何とか‥‥」
 龍深城が起き上がるとカイがリカバーを唱えていた。
 斧を扱う腕も鋭く、鈍重そうな巨体の割りに動きも意外と素早い。おまけに恐ろしく頑丈な奴だった‥‥
 4人相手に、まるで嵐のようである。
 ブホッブホッと鼻息荒く唾を撒き散らす牛頭鬼は次第に追い詰められつつあったが、油断すれば大怪我を負いそうだった。
「これで大丈夫」
「ありがとな」
 傷の癒えた龍深城が牛頭鬼との間合いを詰める。
 その時、びょびょう‥‥と風を切り、矢が牛頭鬼に突き刺さった。
「今じゃ!!」
 馬場の声が飛ぶ。
 何が起こったのか、ほんの一瞬だけ目を丸くした牛頭鬼に、大上段からの日本刀が振り下ろされた。
『やぁああ!!』
 刀根の気合共に角に傷をつけ、そのまま袈裟懸けに牛頭鬼が血を吹いた。
「おとなしゅう逝きなはれ」
「その隙は逃がさん!」
 同時に背中からも盛大に流血が飛び、脇腹に鋭い刀傷がついた。
 手の平の中で柄を回して振り下ろした刃を西園寺は1挙動で返し、龍深城は越中国則重を鞘にしまった。
『も〜〜〜‥‥』
 ガクッと膝から崩れた牛頭鬼は、そのまま倒れて動かなくなった‥‥

 那須軍の本陣へ連れて帰った女たちは、手厚い介抱のもと、恋人たちと一緒に村へ帰った。
 なお、女たちに乱暴された跡はなかったという‥‥