《那須動乱・蒼天十矢隊》馬頭視察

■シリーズシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:7〜11lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 17 C

参加人数:10人

サポート参加人数:6人

冒険期間:06月21日〜07月01日

リプレイ公開日:2005年06月29日

●オープニング

 ここは下野国那須藩神田城。堀の内の一角にある蒼天十矢隊の屯所近く‥‥
 その地名が表す通り、近くを流れる川から引き込んだ水が堀を流れていた。
 渦を巻くように水が引き込まれており、風水の役目をしているとエルフの長老は語っていた。
「ほら、もう少しだべ」
 幸彦の後ろを歩きながら懐に手を突っ込んでは出し、視線を向けられては逸らし、どうしても渡せそうにない‥‥
「あ〜‥‥ だらしない‥‥」
 蒼天の打掛を着た何人もの男たちが、がっくりと項垂れる。
「仕方ないですよ。あの草太殿にあの幸彦なのですから‥‥」
 同じく蒼天の打掛を羽織り、たすきをかけた男が馬を引いてやってきた。
 桶と藁の束、その他の色々な道具からすると馬の体を洗いに来たらしい。
 十矢隊の足軽たちも草太と幸彦の関係にはヤキモキしている様子だが、足軽たちの束ね役として頭を任されている末蔵に当人たちの問題だからと釘を刺されているのである。

 草太は釈迦ヶ岳会談の折に師匠である風御に誓いの指輪を渡されていた。
 草太としては幸彦に対して好意を持っていたし、何より師匠がそれに気づいてくれていたのが嬉しかった。
 幸彦の方も草太に対して好意を持っていてくれているようではあるが、先程の様子からわかる通り、はっきりと確認していないのが現状なのである。
 草太と幸彦の遅い春は、果たしていつ訪れるのであろうか‥‥

 ※  ※  ※

 現在、神田城周辺では薬草畑の開墾が進んでいる。
 戦火で荒れた地に、ただ緑を取り戻すというだけではなく、それが収入に繋がるということなら民衆のやる気も全然違ってくるのだ。
 薬草に関しては年貢が重めに設定されているが、苗は藩で用意してくれるし、望めば収穫した薬草を藩が買い取ってもくれる。
 実質、民衆の実入りが大きいという一面も順調にことが運ぶ一因でもあった。
 藩は薬草を加工して調合し、それを売る。そのために薬師の養成まで始めているのだから本気だと言えよう。

 さて‥‥
 収集分で先行備蓄されていた薬草は、京での動乱に用いるとかで源徳信康殿が求めた分を放出して備蓄分が多少目減りしている。
 当然、その分だけ財政が潤ったのは間違いないのだが、本格的に那須藩の正式な藩政となった七瀬計画の薬開発に関しては多少の後退に繋がったとも言えなくはない。
 そのへんは情けは人の為ならずとのエルフの長老の進言を入れて可能な限りの備蓄放出だったため、藩としても納得済みなのではあるが‥‥ 責任者である那須藩士・七瀬水穂の裁可なしに行ったことであり、そのことについて聞かれると与一公も小さく溜め息をつくのだそうだ。

 ※  ※  ※

 場面は変わって神田城城の内、藩主与一公が藩政を行う部屋で数人の男が何かしら話をしていた。
「烏丸殿、それは本当なのですか?」
 那須藩重臣小山朝政殿が山伏姿の男に思わず詰め寄りそうにピクリと体を動かした。
「我らが確かめたわけではありませんが、修験者たちの住まう寺に伝わる文書(もんじょ)に書かれているのです。
 無理を言って貸してもらいました。これがその文書です」
 そういって烏丸は文書を広げていく。
 馬頭‥‥
 那須の南西には馬頭観音が本尊として祭られている有名な土地があり、以前には立派な仏閣もあった。
 今は過去の戦火により失われ、寺は馬頭内の別の場所に移されたと聞いているが‥‥
「この馬頭(ばとう)の地名の由来が馬頭観音ではなく、馬頭(めず)だというのですか?」
 与一公の表情が僅かに暗くなる。
「はい、白狼神君がこのことをいち早く与一公にお伝えするようにと」
 烏丸が頭を垂れた。
「相わかった。確かに承ったと白狼殿にお伝えくだされ」
「白狼神君は天狗と修験者が動いて事態を複雑にしたくはないようでございます。そのあたりの事情は申し訳ないと‥‥」
「那須藩に任せられよ。このような事態のために力を回復させているのですから」
 言い難そうに白狼神君の言葉を伝える烏丸の肩を与一公は優しく叩いた。

 その文書には、地下に遺跡のようなものが存在すること。
 そこに封じられているのは牛頭と並び称される地獄の卒鬼である馬頭であること。
 一度入ったら迷って出られないように迷宮に仕立ててあること。
 その迷宮は多くの妖と共に封じられており、封印が解かれた場合、どのような災厄が噴き出すかわからないということ。
 『要石』なる存在で、そこは封じられているのだと結ばれていた。

 ※  ※  ※

 さて‥‥
 ここは江戸冒険者ギルド‥‥
「那須藩内の馬頭という場所の視察に蒼天十矢隊が指名されている。
 一度、登城して細事を確認せよということらしいな。準備ができ次第出立してくれ」
 ギルドの親仁は、応と返す蒼天十矢隊の頼もしい顔ぶれを見つめて満足そうに頷いた。

●今回の参加者

 ea0031 龍深城 我斬(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1488 限間 灯一(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2445 鷲尾 天斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2473 刀根 要(43歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3094 夜十字 信人(29歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea3546 風御 凪(31歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3744 七瀬 水穂(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea4536 白羽 与一(35歳・♀・侍・パラ・ジャパン)
 ea4734 西園寺 更紗(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

甲斐 さくや(ea2482)/ 馬場 奈津(ea3899)/ ルミリア・ザナックス(ea5298)/ 音無 藤丸(ea7755)/ 火乃瀬 紅葉(ea8917)/ フィラ・ボロゴース(ea9535

●リプレイ本文

●那須神田城
 神田城に到着した蒼天十矢隊は、那須藩主の与一公、小山朝政殿、エルフの長老と面会していた。
「蒼天十矢隊、御召しにより参上仕りました」
 白羽与一(ea4536)以下、隊士たちが武士の礼をとっている。
「蒼天十矢隊、よく来てくれた。面を上げてくれ」
 蒼天の羽織を纏い、ズラリと並んだ十矢隊の面々が与一公の声に顔を上げ、小山殿が口を開いた。
「今回の視察は名目上、藩内巡察となっている。そのために、既に陽動のためにいくつかの藩士団を各地に派遣してある」
「民に要らぬ心配をかけるのは避けたいのだ。くれぐれも細心の注意をしてほしい」
 付け足す与一公の言葉にどこか穏やかなものを感じ、白羽は安堵した。
「奥州、北国の密偵が江戸にまで出没しておる気配じゃからな」
 長老が髭を扱きながら眉毛の奥の瞳を十矢隊をジロリと見つめた。
「奥州藤原氏‥‥ 本当なら厄介だな」
「その通り。そのせいもあって那須藩の密偵たちも人手が足りない」
 ふと漏らした鷲尾天斗(ea2445)の言葉尻を小山殿がとる。
「かといって本当であったなら相応の実力の持ち主でなければ馬頭には討ち勝てぬしのう。
 それに那須藩の秘密を知る者は少ない方が良い。
 お主らはエルフの隠れ里の場所を知っておるし、白狼神君や須藤士郎殿との面識もある」
「成る程、他の那須藩士より我ら十矢隊の方が全てに都合が良いということでございますね」
 白羽の言葉に長老がゆっくりと頷いた。

 隊長たちが打ち合わせを続ける中、他の蒼天十矢隊士は屯所で出発の準備に忙しい。
「長老の話によると、怪しいのは鬼門である八溝山からの道筋‥‥
 そして、午(うま)の方角をせき止めるように馬頭を流れている川の辺り。川を水竜に見立てているとすれば、水神を祭った神社か祠でもあれば、要石が祭ってあるかもしれないってことだったよな」
 龍深城我斬(ea0031)は、那須藩から預けられた地図を広げて思案を巡らせている。
「迷宮探索は冒険者と騎士のロマンなんだがな」
 振り向くと、トライデントを肩に抱えたカイ・ローン(ea3054)が立っていた。
「そうは言っても封印されているのは、この前戦った牛頭と同格の鬼だぞ。その冒険者と騎士のロマンとやらのために災厄を招くわけにもいかないだろう?」
「ちょっと残念だけど、厄災が起こるよりはいいか」
 悪戯っぽく笑うカイに龍深城の眉間の皺も緩む。

 さて、場所は変わって神田城内、評定の場。
 案件は馬頭視察ではなく七瀬計画に移っている。
 現在は京都での動乱もあり、源徳信康殿に購入してもらった薬草の代金を元手に増産体勢で問題ないだろうが、需要と供給というものがあり、必ず頭打ちになる時が来る。そのあたりは那須藩御用商人たちの一致した見解である。
 他にも今回のように魔物の封印などが見つかって公になれば、安心して投資する者も少ないだろう。
「う〜、那須は魔物の封印地ですか? 薬草園のためにも、こんなのが溢れ出さない様にするですよ」
「馬といえども鬼‥‥ この那須では悪い冗談のようでございますね」
「本当なら性質の悪い現実だ」
 難しい顔をする七瀬水穂(ea3744)に白羽や小山殿が苦笑いする。
「だからこそ今回の情報、少し時期が良すぎる気が。相手を疑う訳じゃないのですが立場柄疑ってしまって」
 おどける鷲尾に軽い笑いが起きる。
「確かに、そう思えぬ訳ではない。しかし、確認して損はない。しかと頼むぞ」
 白羽たちはハッと答えた。
「それにしても半裂を飼えぬか‥‥とな。次から次に色んなことを考えるものじゃて」
 長老が呆れ気味に笑う。
「きっと上手くいくです。半裂の肉を養殖できれば那須藩の名産になること請け合いです〜☆」
「藩士たちの困った顔が目に浮かぶようじゃ」
 長老の言う通り、このことを聞かされた藩士たちは開いた口が塞がらなかったとか。

●馬頭
 馬頭へ向かう蒼天十矢隊は、長老の助言を受けて馬頭へは一度迂回するように北東から入る道程を取っている。
 予定通り馬頭へ入った一行は、件の寺社を本陣として、その一角を借り受けることに成功していた。
 住職と面会した十矢隊は周辺の情報収集と同時に今回の案件の核心を得ようと試みていた。
「冒険者をやっていると遺跡には関心があるですよ〜。教えてほしいです〜♪」
 七瀬が『言っちゃえ、言っちゃえ。言ってしまえば楽になるですよ〜』と言う押しの笑みを浮かべる。
「知ってる‥‥といっても‥‥」
 藩主の口添え状に那須の英雄である蒼天十矢隊の頼みとあり、住職は思わず口どもってしまった。
「その寺社跡に何か秘密があるんやない? そうやわ、例えば災厄が封じてあるとか」
「そ、そんなこと‥‥」
 西園寺更紗(ea4734)に、いきなり確信を衝かれて住職が冷汗を流す。
「京都では黄泉人とかって不死の者たちが地の底から溢れてるって話、聞かない?
 この前は八溝山に牛頭、もしかして馬頭(ばとう)には馬頭(めず)がいたりして」
 しれっと言ってのける鷲尾に住職の顔色が変わった。
「困ります。そのようなことを冗談でも言われては‥‥」
「私たちは与一公の御下命によりこの地を訪れております。そして、このような話をするという意味を考えていただきたく思いまする」
 住職は観念したように姿勢を正し、目を閉じると話し始めた。
「ところで、どこからこのことを」
「那須の天狗で御座います」
「白狼神君が‥‥ 成る程、あの方ならこの地のことを知っておられても不思議はない‥‥」
「どういうことです〜?」
「かつて、この地から溢れ出そうになった鬼たちを秘かに封じてくださったのが那須の天狗たちなのです。
 私の先祖はその時に共に戦った修験者の1人。
 その時に馬頭の迷宮を封じていた神社は破壊されてしまいましたが、神君のお導きで、この地におります」
 住職は手を合わせて目を閉じた。
「それじゃ、白狼神君は何故こんな回りくどいことを?」
「お知りではないのでしょう。何代前になるのかはわかりませぬが、昔の神君のお導きでございますから」
 首を傾げる鷲尾に、今度は住職がニッコリ微笑みかけた。

 念のためにこの寺社を警護することにした蒼天十矢隊。夜も更け、風が冷たくなってきた。
「お疲れ様にございます」
「与一さん、何かありましたか?」
「いえ‥‥ 用というほどのことではないのですが‥‥」
 白羽が毛布を抱えている。そういえば冷えてきたなと限間灯一(ea1488)は思った。
「風邪など引かぬようお気をつけなさりませ」
「大丈夫です。結構頑丈ですから」
「本当に気をつけてくださいませ‥‥ それに、戦でも生きて帰ってきてもらわねば困りまする‥‥ 隊長として‥‥」
「は‥‥い」
 普段と違う白羽の口調に限間の方が何かと緊張してしまう。
「志半ばで斃れる事は許しませぬ。これは、隊長命令にございます。文は‥‥ 九尾との戦に勝利した際、お読みくださいませ」
 白羽は毛布と共に小さく結んだ文を限間に渡すと、振り返らずに寝所へ向かって小走り気味に歩いていく。
「静かな夜だな‥‥」
 提灯片手に龍深城がポンと肩を叩く。
「え、えぇ」
 ドキッとしながら限間は毛布を肩にかけて包まった。
「無様でも生き抜きゃ俺みたいに今日がある。まずは、この世で生き抜くことさ」
 いつの間にか夜十字信人(ea3094)まで側にいる。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか‥‥ 牛でも馬でも狐でも、俺は黄泉路へ突き落とすだけだがな‥‥ んじゃ、俺はもう一眠り」
 夜十字は欠伸をしながら去っていった。
「交代が来てくれたみたいやし、うちも寝かしてもらいます。夜更かしはお肌の大敵やし」
 艶っぽい笑みを浮かべ、流し目を送りながら西園寺はヒラと手を振った。

 さて‥‥
 本格的に情報収集を始めた十矢隊であったが、個々の成果は上がっていない。
「この寺社に特別な仕掛けはないみたいですね」
「こちらも大した情報は‥‥ 天狗の言い伝えが多いようです」
「私も聞いたですよ。天狗様が鬼たちから救ってくれたという伝承が一杯です〜」
 僧たちに聞き込みした風御凪(ea3546)も周辺の住民と打ち解けながら聞き込みを続けた限間や七瀬も芳しくないようだ。
「配下の足軽たちも似たような結果でございまする」
「だが、方向性は見えてきたようだよ」
 肩を落とす白羽たちを余所にカイは地図を指差した。
 書き込みに分布はあるが、目に見えて偏りがあった。その場所は馬頭南部。
 住職は要石の存在は知らなかったが、馬頭南部に人の立ち入らぬ一角があると教えてくれた。
「それでは参りましょうか、与一さん。いえ、隊長殿」
 限間が先駆けると、それに続くように十矢隊は移動を始めた。

●神社跡
「風水を使っているなら、今の詳しい地形が必要だろうからな」
「う〜ん、これがこうで。あっちがこうなって‥‥」
 カイと鷲尾が那須藩から借り受けてきた馬頭の地図を確認していく。
 刀根要(ea2473)の羽生、白羽の峰、龍深城の飛旋と3羽の鷹が、刀根からオーラテレパスで受けた指令に基づいて上空からの周辺監視にあたっている。
 きいぃ‥‥
 鷹の声が人がいると知らせ、その上空を静かに旋回し始める。
 報告に隊を止めた一行は、各々魔法を発動させ、今までと同様にあちこちを調べる様なそぶりで隊を進ませた。
「風の探知にも引っかったのは1人だけですね」
 風御が視線だけを周囲に配る。
「やっこさん、仕掛けてはこないみたいだな」
 もうそろそろ魔法の効果が切れてしまっただろうと鷲尾は仲間たちに再度魔法をかけるように促した。
「後方に気配はない。襲撃するにしてもこんな場所でというのは考えにくいが‥‥」
 後方の偵察を済ませてきた龍深城が、事態を聞いて首を振った。
「けしかけてみるか?」
「そうですね。じっと待っていても埒があきませぬ」
 白羽が矢を撃ち込むのを合図に刀根が指笛を吹いた。
 3羽の鷹が矢の着矢地点めがけて急降下する、その間に一行は距離を詰める。
「よっしゃ! 太助君、行ってこい!」
 並走していた柴犬が騎乗した鷲尾を置いていく。
 羽生、峰、飛旋は、男を取り囲んで退路を塞ぐように大きく羽を広げている。
 太助も横へ飛びながら勇敢に吼えかけた。
 男は接近してくる十矢隊に気づくと刀を構えて待ち構える。
「何者だ!」
 叫ぶ風御を無視してニヤリと笑う男の体が煙に包まれた。
 風で煙が吹き消された場所に既に男の影はない。太助が吼えながら必死に追いすがるが男の方が速い。
「南無八幡大菩薩‥‥」
 白羽の矢が男の足を射るが、逃げ足は依然速い。
「逃がさないですよ〜」
 七瀬のファイヤーコントロールが発動し、印を組んだ手を振ると炎が不審者の行く手を横切った。
 一瞬、不審者の足が止まる。しかし、それだけで追いつくには不十分。
 指笛の音と共に3羽の鷹が男を襲った。
「詰みだな」
 ギリギリ馬で回り込んだ刀根が男の退路を塞ぐが、いきなり踵を返して囲みの中に突っ込んでいく男に一瞬反応が遅れる。
「青き守護者カイ・ローン、参る!」
 戦闘馬によるチャージング! トライデントが繰り出されるが、意表をついて男はカイを飛び越えた。
「くっ‥‥ 人間業じゃない!!」
 馬首を返したときには既に槍の間合いにはなかった。
「双刀の猛禽って知ってるかい? 那須で暴れまわってるってさ」
 追撃が不利になるとはわかりつつ馬を降りた鷲尾が両手の霞刀を構える。
「って! ちょっと待て!!」
「何て速さなんだ。奴も人外の者なのか?」
 鷲尾と龍深城を無視して迂回するように男は退路を変える。
 木々の立ち並ぶ方へ逃げ出したために馬で囲み上げるのは難しくなってきている。鷹による追撃も同様に難しい。
 白羽の一矢も木々の隙間を抜いて辛うじて男を捕らえたが、これ以上は茂みが邪魔で撃てそうにない。
「突入!!」
 限間が自ら先頭に立って足軽たちをけしかける。
 男が囲みの網をかいくぐって再度脱出するかに見えたとき、幹の陰の女の影に驚愕の表情を浮かべた。
「残念でおすな。巌流・西園寺更紗参る」
 西園寺の一の太刀をくらいつつも辛うじて二の太刀をかわした男が傷を押さえながらつんのめった。
「黄泉路への旅立ちをご案内仕る‥‥ 我が太刀、当たれば痛いぞ‥‥」
 明絶と名付けられたクレイモアを肩に軽く乗せるようにどっしりと構え、向かってくる男を斬り潰す!
 立ち上がろうとして木の幹にしがみついた男は、直後に地に崩れ落ちた。
「まだまだやわ。九尾と戦う前に何とかあの技を身につけんと‥‥ 二の太刀も当てんと話にならしまへん」
 西園寺は血糊を拭き取ると長巻を納めた。
「それで助かりそうやの?」
「駄目ですね」
 血止めを施そうとしていた風御は首を振った。男は大量の血の泡を吹き、全身を痙攣させている。
「やりすぎたか?」
「手加減していたら逃げられています。気を落とさないで」
 風御の慰めが妙にチクッと痛い夜十字だった‥‥

●遺跡
 肝心の要石こそ発見できていないが、遺跡の発見により情報の裏づけはとれた。
「この地のような類の封印が他にもあるのかどうか気がかりです。
 九尾に今のところ目立った動きが無いのは、各地でこの類の封印を解こうと暗躍している為‥‥という事も考えられなくはありませんから。もしそうだとしたら、できるならば先手を打っておきたいものです」
 限間たちは馬頭寺の住職に心境を漏らした。
「政の書庫より寺の方が歴史的な出来事の収集には適している、という事になるのでしょうか?」
「目に見えるものだけが真実とは限らないのですよ。真実と事実が違うなどということは多々あるものです」
 白羽は戸惑いを覚えつつも、住職の言葉にゆっくりと頷いた。
「この遺跡に白面を倒せる武器なり手掛りが在れば楽なんだがな」
「調べてみますか?」
「いや、止めとこ。開けるには怖すぎる玉手箱だからな」
 住職に突っ込まれた鷲尾は明るい声で笑った。
「神田城へ向かった末蔵たちが藩士たちを連れて追っ付け到着するでしょう。後は与一公にお任せしましょう」
 茶を飲んで一息つく刀根たちを馬頭観音像が見つめていた。

 十矢隊が神田城へ送った早馬によって、他の地へ向かう予定だった待機中の小山殿直属の藩士団が馬頭へ派遣されることとなった。
 どうやら他者に出し抜かれることなく馬頭の地を確保することができたが懸念も残った‥‥