《那須動乱・藩士候補生》戦いの風
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■シリーズシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:3〜7lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 25 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月02日〜11月08日
リプレイ公開日:2004年11月08日
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●オープニング
与一公との不意の出会い‥‥
「与一公、あれを!!」
共に馬首を並べて駆け、愛宕山に登った江戸の冒険者ギルドで徴募された那須藩士候補生たちは那須に動乱の臭いをかいだ。
事態が急速に動き始めたかのように風が吹き始める。
那須藩の東のいくつかの村や砦が鬼たちによって襲撃を受けた。
「すぐにでも駆けつけるべきです!」
散発的だった鬼たちの襲撃が活発になっている。確かにすぐにでも動くべきだろう。
「那須藩の兵力は限られております! 全てを動員すれば今年を越せるかどうか‥‥
刈り入れは済んでいても収穫の済んでいない村があります。冬の備えもままなりませんし」
しかし、与一公は守りに入って動こうとはしない。
「何を逡巡しておられるのです」
与一公は動こうとはしない‥‥
「今からでも始めて遅くはないはずです!」
小山朝政殿の預かりの身分となった冒険者たちは、様々な懸案を上申し、その殆どが退けられた。
「そなたたちの献策はもっともだ。しかし、すぐそこまで敵が来ておる。時間がないのだ。
それに、藩士に無用の混乱を与えるわけにもいかぬ‥‥
冒険者ギルドとの連携が必要である現状でギルドと藩士の間に軋轢を生むことは避けねばならん」
朝政殿の後ろ盾でいくつかの案は実行に移されている。
しかし、彼らの献策がもっと重要視されるためには何か実績が必要である。藩士たちに有無を言わせぬほどの実績が‥‥
「冒険者風情が藩の内政に関わるだと? 余計なお世話だ」
那須藩の内部不統一‥‥ このままではそんな事態にも発展しかねなかった。
勿論、藩士候補生として参戦した冒険者たちに、そんな気は毛頭ない。
「兵が足りぬ‥‥」
朝政殿の苦悩が冒険者たちの心にも重くのしかかってきた。
※ ※ ※
「西の山中に半裂という巨大な山椒魚がおってな。
半分にしても生きていると言われるほどの生命力を持っており、その肉は薬として珍重されておるそうじゃ。
どうじゃ? 手っ取り早く薬を調達するのなら、これを放っておく手はないじゃろう?」
これは那須城内の薬草園を手入れしている爺さんの話。
「東の村に狡賢い小鬼がおって手を焼いておる。数も多い。30匹からいるという話だ。
村に陣取っておるが、殿の下知で護りを固めておるから取り返せぬまま放って置かれているのだ」
これは品定めするような目で話しかけてきた藩士の話。
「与一公が何を悩んでおられるのか‥‥ 私にすら打ち明けては下さらぬ」
これは、東の陣屋に赴き、兵をまとめて引き上げてこられた朝政殿の話。
「鬼の国か‥‥ 那須家の祖である須藤権守貞信(すどう・ごんのかみ・さだのぶ)様が八溝山(やみぞさん)に住む悪鬼・岩嶽丸(がんごくまる)を討伐されて以来、そのような話は聞かぬが‥‥」
これは記録方の志士の話。
これらに耳を傾けずに思うところを実行するのも手だが‥‥
さて、藩士候補生の諸君! どうする?
●リプレイ本文
●謁見
「風御さんと七瀬さんが薬になる半裂という巨大山椒魚を獲りに出かけています。一刻も早く薬を手に入れようと、半裂の情報を得てすぐに出発しましたのでここにはいません」
「承知した」
カイ・ローン(ea3054)の報告に与一公は短く答えた。
「那須の兵の代わりに小鬼を少しでも減らし、情報を得るための出撃を許可していただけませぬか」
刀根要(ea2473)たちは、自分たちが藩士候補生というよりは冒険者なのだと実感していた。藩という枠に囚われ、冒険者としての身の軽さを失ってしまっては己の立脚点を失ってしまうのだ。藩に立ち入るのではなく、冒険者たちと那須藩の溝を埋めるのが自分たちの役目であると‥‥ そのことは、すでに朝政殿には話してある。
「殿、いかがでしょう? 彼らを斥候に差し向けては。臨機応変に対処できる力を持っておりますし、戦いにも慣れております」
与一公は朝政殿の言葉に沈黙を守っている。
「東方の村が襲われているのに動かないのは与一公に考えあってのことと思う。だが、冒険者の俺たちならできることがあるはずだ。うまく役割分担できればいいと良いと思う」
「もしかして、与一公はこの度の鬼の騒乱の背後に関して何か心当たりがあるのですか? それとも岩嶽丸を討ったと伝えられている弓の行方を気にしておられるとか‥‥」
龍深城我斬(ea0031)にそれなりの興味しか示していなかった風の与一公の目の色が、鷲尾天斗(ea2445)の話で変わった。
「いや、出すぎた真似でした」
それに鷲尾たちは気づかない。
「鬼たちの統制が取れているように見えるのは気のせいやろうか。八溝山の偵察をギルドへ依頼したらどうおすやろか?」
様々な思惑を胸に西園寺更紗(ea4734)が提案を投げ掛けたが、意外な答えが帰ってきた。
「阿紫が復活したと言うことは、岩嶽丸もその可能性があるということです」
「え?」
「殿‥‥」
八溝山から鬼が溢れてきたかのごとく那須藩内に鬼が跋扈し始めたこと、それが阿紫の出現に前後していること。それらが関連がないと考える方が難しいが‥‥
「岩嶽丸は討たれたのではありません。封じられたのです。エルフ族より借り受けた神木から作られた弓矢によって」
「与一公、西園寺の言うようにギルドに頼んで八溝山を探ってはどうじゃろう。岩嶽丸のこともわかるやも知れぬ。冒険者ならではの任務じゃからな」
与一公は馬場奈津(ea3899)の言葉に頷いた。
「エルフと弓矢の行方も見当がついていれば、わしらかギルドで探せるじゃろうて」
与一公は首を振った。
「それならばギルドに依頼を出して情報を収集するのが良いのではないか? 何もせぬよりマシじゃ」
「そうですね」
与一公は一度目を伏せて冒険者たちを見渡した。
「茶臼山に出たという炎龍も封印から目覚めた魔物なのでしょうか」
「わからぬ。情報が必要だな」
与一公やカイだけではない。最後の言葉は、この場の全員が痛感していた。
●与一と与一
「白羽与一でございます。与一公には弓術大会の折に面識があり、那須へ立ち寄った故ご挨拶申し上げたいのですが、ご多忙でお目通し叶わぬなら無理はいいませぬ」
白羽与一(ea4536)は荷物を開くと巻物を差し出すと那須城内に通され、しばらく待たされて白羽は与一公との謁見が叶った。
「よく訪ねてくれました。して、ゆっくりできるのですか?」
「はい。弓と馬の那須‥‥ 弓の道を志す者として憧れの地でございます故、暫くは滞在しようと考えておりまする」
「では、明日にでも流鏑馬に付き合いませんか? 家臣たちにも弓の腕前を披露してほしい」
「よろこんで」
「楽しみだな」
破顔する与一公に小姓が耳打ちした。
「では、今日はゆっくりしてほしい。すまぬな。ろくに話もできず」
「那須の騒動については聞いております。お構いなく」
途端に真顔に戻って与一公は退出していった。
翌日、白羽は愛宕山まで与一公らと愛馬を駆って上った。ついてくるのがやっとの藩士もいる中、白羽は与一公に併走していた。
「皆、鍛錬が足りないぞ! 白羽殿の腕前、見たであろう。休まず流鏑馬だ! 疾く、城へ入れ」
そのまま、眼下に神田城を見下ろす山城へと入り、一行は流鏑馬を始める。
疲労の極にあって流鏑馬を行う。これが那須兵の鍛錬だった。弓騎兵として一目置かれているのは、このような鍛錬を日頃から行っているからなのだなと白羽は素直に感心していた。
白羽も息が整わぬまま愛馬を疾駆させた。5射して4中。与一公は皆中、朝政殿を含め藩士の数名が4中していた。
「白羽殿、さすがですね」
「公こそ」
与一公が床机に腰掛け、白羽にも席を勧めた。
「実は鬼に襲われて亡くなられた方の墓に参ってきました。思っていたよりも事態は深刻なようでございますね」
「なんとしてもこの騒動、静めなければなりません。ただ、態勢が整っていない」
「冒険者たちも動くに動けない状況とか。ギルドとの関係が揉めているようだと耳にしましたが」
「正直、微妙です。できる限りのことをしてはいるが、藩の仕組みまで変えるわけにはいきませんからね」
一息ついて白羽は与一公に話し始めた。
「その通り! 那須藩の内政に口を出されては‥‥」
口を挟もうとした藩士を朝政殿が無言で制した。
「郷に入らば郷に従え、と申しましょうか。
如何に武勲を示そうと一方通行な申言は、那須の方々の自尊心を傷付けることになりましょう。
その辺をわきまえて動かなければ、いくらギルドが支局を作ったとしても互いの連携はなりませぬ。
逆もまた然(しか)り。那須藩の方々にも冒険者のなんたるかをわかってもらわねば、冒険者は実力を発揮できませぬ」
「それをあなたがやってくださるのですね」
白羽の真摯な眼差しを与一公はしっかりと受け止めた。
「白羽殿、もしや藩士候補生として来られたのか?」
2人のやり取りに、思わず朝政殿が腰を浮かせる。
白羽は無言で席を立つと与一公の前に跪いた。
「遅らばせながら白羽与一、漣(さざなみ)と共に参上仕りました。那須の名、そしてこの公と同じ与一の名に恥じぬよう尽力する所存」
「そなたには藩士としての言動を許す。皆もよいな」
ハッ! 藩士たちが一斉に声を上げた。
「言上したき儀が」
「許す」
白羽の言葉に全員が注目する。
「公の心配事が何なのか今ひとつハッキリせぬが故に藩全体が停滞しております。打ち明けてほしゅうございます。公はお1人ではありませぬ」
与一公は大きく息を吐いた。
●小鬼の集団
小鬼たちに気づかれないように見渡すが、罠らしき物は感じられない。
馬場のブレスセンサーで確認しながら手薄な場所を選んだので小鬼の数も少ない。襲撃するならここしかない。
「行こう」
剣客の血を滾(たぎ)らせながら夜十字信人(ea3094)は野太刀を抜き放った。
「スールの誓いを胸に、巌流、西園寺更紗参ります!」
西園寺たちは陣を組んだように一丸となって驚く小鬼たちへ突っ込んだ。
「うちらが、気持ちよく逝かせてあげる」
「おう! 夜十字信人、まかり通る!! 貴様らが鬼ならば、俺は修羅だ。貴様らの黄泉路への旅立ちは、この俺が案内仕る!」
西園寺と夜十字は得物の重さを乗せた一撃を次々にくらわせて小鬼たちを切り伏せた。
「これ以上の悪行はさせない。蒼天が一矢、青き守護者カイ・ローン、参る」
壁などの地形を活かせる場所ではないが、今は冒険者たちの方が数に勝っている。ここは一気に押し込むに限る。
刀根と龍深城の日本刀が朱に染まり、カイの短槍が小鬼を突き倒し、馬場の弓矢が小鬼の急所を射た。
小鬼たちはまともな抵抗もできずに全滅した。
「気をつけろ!!」
夜十字が野太刀を構えなおした。
「ギャッギャッ」
耳障りな声と共に、建物の影に、屋根の上に小鬼たちが姿を現す。
「何だ‥‥ こいつらは」
カイは中衛に下がり、馬場が退路を確認する。
「いつまでも持たない。どうする!」
龍深城が叫ぶ。体捌きで小鬼の斧をかわして反撃に転じるが、みっしりと後ろに控える小鬼たちのことを考えると、この人数では分が悪い。こうなると弓矢や魔法の支援も一時しのぎでしかない。
「加勢する! 突っ込むのじゃ!!」
あらぬ方向からした馬場の声に小鬼たちの注意が逸れた。
一瞬の隙をついて道の狭さを利用して小鬼たちの数の有利を封じた西園寺たちだが、川を渡って後ろへ回り込もうとしている別の小鬼たちがいるのに気が付いていた。しかし、背中を見せて潰走すれば、そこにつけこまれることは明白だ。
「あの隅に居る者を弓で射てもらえませんか、妙に気になるんです。お願いします」
中衛まで退いた刀根のテレパシーを聞いた馬場が1頭の小鬼に狙いをつけて矢を放った。
叫び声と共に鬼たちに動揺が走る。回り込もうとしていた鬼たちも足が止まっていた。
「下がりましょう」
刀根が西園寺の肩を叩いた。
「逃げるのは趣味じゃないが‥‥」
「水が岩を削るがごとく、ゆっくりと確実に倒していけばいい」
リカバーポーションを呷(あお)って駆け出す夜十字の腕をカイは引いた。
「ずいぶんと退屈しなさそうな状況だからな」
夜十字たちは再戦を誓った。
●絶対!
ノタッ、ノタッと歩く山椒魚の滑(ぬめ)るような皮膚がギラリと木漏れ日を反射して冒険者2人は目を細める。
「遅いとか言われたけど医療体制は素早く構築するです。誰を挑発したか教えてあげるです」
「七瀬さん‥‥ 挑発って、朝政殿のこと?」
「そうですよ〜。逃がさないです」
彼女にとって朝政殿の忠告は些事らしい。
眼下の沢を歩く1丈もの巨体は、間違いなく話に聞いた半裂に違いない。2人は半裂に接近し始める。
「合図したら、お願いします」
「任せておくですよ〜」
風御凪(ea3546)が背嚢の中から網を取り出す間に、七瀬水穂(ea3744)は半裂を回り込むように木々を掻き分けていく。
「七瀬さん、行きますよ」
風御が網を構えた。同時に七瀬が沢へ駆け下りて、集中を始める。
半裂は突然現れたものの襲ってくるでもない2人をゆっくりと見比べて、ノソリノソリと歩き始めた。
そこへ火球が放り込まれるが、大した火傷にはならない。
「風御さん、これじゃ埒が明かないです」
「任せてください」
近づいた風御が投網をかけた。幸いにも動きは鈍く、扱いなれない投網でも捕えられた。半裂がもがくが、なかなか抜け出られない。
縄で補強したのが功を奏しているようだが、ブチブチと破れ始めているところを見ると時間はあまりなさそうだ。
「ごめん‥‥」
日本刀を半裂の体に突き立てる。
風御がいては火球を撃ち込むわけにもいかず、七瀬も半裂に接近する。
網に絡まれながらも風御を押し退けながら歩き始めた半裂に十手を食らわせるが、傷を負わせた感じではない。
風御の網の上から投網をかけると、魔法支援が仕事とばかりに七瀬は距離をとった。
この際、網が多少破れるのは仕方ない。風御が何度も日本刀を突き立てていると半裂の深手が見る間に消えていく。
「すごい‥‥」
「薬になるって話、ホントみたいです。絶対、取って帰るですよ」
多少離れたとこで七瀬が応援している。
「傷ついた那須の人たちの糧になるです。そして水穂の野望の踏み台になるですよ」
前半が建前、後半が本音だな。これは‥‥
再生する半裂を風御はなんとか倒す事ができたが、すっかり暗くなってしまった。
「ぐしっ」
「水穂印のこの薬を飲めば直っちゃいますよ」
「いや、大丈夫。具合が悪いわけじゃないし、こうしてれば治るよ」
半裂と戦っているうちに川に叩き込まれた風御は、ブルッと震えて毛布に包まった。決して水穂印の薬が怖かった訳ではない。濡れた服を焚き火で乾かしながら、2人は保存食を口にして火にあたった。体が乾くまでは防寒服を着るわけにもいかず、暫しの辛抱である。
「風御さんがもっと若くて可愛かったら肌を重ねて温めてあげるですが、守備範囲外ですからね〜」
バチッと薪がはじけた。風御は顔を赤らめるが、焚き火の灯りでわからない。
さて‥‥
風御と七瀬は、那須城に帰還するや藩医に半裂を取ってきたことを伝えた。良い物を手に入れてきたと喜ぶ藩医の指示で怪我をしている領民たちに与えるように指示されたが、得体の知れない食べ物に領民たちは微妙に引いていた。
「滋養強壮、虚弱体質に!」
笑顔のまま風御が口に運んでみせる。モグモグと噛んで飲み込んでみせると領民たちは少し安心したような表情を見せた。
「本当に治るのか?」
「勿論! 何度斬ってもなかなか死なない。体を半分にされても生きてるって巨大山椒魚の肉だからね。これを食べれば傷の治りも早いですよ」
領民たちは恐る恐る半裂の肉を口にし始めた。
それから数日のうちに怪我が快方に向かい始め、多くの足軽が戦線復帰することができた。
「2人の働きには殿もお喜びだ。褒美が出るであろう」
朝政殿は満足そうに立ち去って行った。
那須城の城下で農民たちが鍬や鋤を振るっている。
「大分できたですね」
「形になってきたでしょう?」
まだ塊が目立つものの草地の中に畑らしき物が姿を現しはじめている。
「この調子で続けて頂戴です」
七瀬はかなりの自腹を切って那須城へ逃げ込んできた農民たちを雇っていた。
ここへ購入した種や苗を植えて、薬草園を作ろうという魂胆なのである。
果たして七瀬の野望は叶うのか‥‥
●八溝山へ
「全く無茶をする」
気がつくと、鷲尾は見慣れぬ男たちに見下ろされていた。
「ここは‥‥」
体中ズキズキして立ち上がれそうにはない。鬼たちを何頭か倒したところまでは覚えているが‥‥
「周りは鬼ばっかりだが、地獄じゃあない」
男たちは声を出さずにニヤッと微笑んだ。
「武士のようだが‥‥ 何者だ?」
「お前たちこそ」
強がるが近くに愛用の得物はない。
「安心しろ。お前の敵じゃあない」
「俺の名は鷲尾天斗、藩士見習いの‥‥冒険者だ」
「八溝山にでも行く気だったのか?」
「あぁ‥‥」
意識が白濁していく。
次に気が付いたとき、鷲尾は那須城にいた。
「良かったです。これを食べるですよ」
口に運ばれるままに鷲尾は半裂の肉を頬張った。
「よく噛んで食べてください」
彼らが風御と七瀬だとわかるまでに、もう一度の眠りが必要だった。