《那須動乱・藩士候補生》決戦! 岩嶽丸
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■シリーズシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:4〜8lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 60 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月28日〜01月07日
リプレイ公開日:2005年01月07日
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●オープニング
「南無八幡大菩薩、別して我が国の明神、日光権現、宇都宮、那須温泉大明神、願わくは、八溝山の悪鬼・岩嶽丸退治に戦の加護があらんことを」
福原八幡宮や湯本温泉神社などで戦勝祈願を済ませ、那須藩主である喜連川那須守与一宗高(きつれがわ・なすのかみ・よいち・むねたか)公が遂に出陣した。
褐(かち)に赤地の錦をもって衽(おくび)端袖(はたそで)色妙たる直垂(ひたたれ)に、萌葱匂(もよぎにおい)の鎧着て、足白(あしじろ)の太刀を佩き、切斑(きりふ)矢に滋藤(しげとう)の弓を携え、甲(かぶと)をば脱いで赤韋の高紐にかけ、金覆輪鞍(きんぶくりんのくら)載せたる鵜黒に跨る。
この日の与一公の出で立ちを那須藩公式の記録にこう記している。
また、威風堂々の与一公は、武者姿も勇ましい小山小四郎朝政(おやま・こしろう・ともまさ)殿と伝説の神弓を恭しく携えたエルフ騎馬兵を脇に従え、完全武装の武士を従える姿は、武者絵でも切り取ったかのようと領民に語られている。
弥(いや)が上にも戦勝の気運が高まり、不安と恐怖に怯えていた日々が嘘のようだと聞こえ来る。
※ ※ ※
八溝山攻略において判明しているのは以下の通り。
1つ、岩嶽丸らしき鬼の確認。
その姿、屈強な筋肉を身に纏った赤銅色の肌を持つ巨躯。野太刀に胴丸と面頬という出で立ちが目撃されている。
返す刀で山鬼を切り伏せたと冒険者の報告にある。
目撃されたのは出城のような岩屋の奥の岩窟の広間である。
ただ、八溝山全体を把握し、制圧したわけではないので、大物の鬼が目撃された鬼だけであるという保証はない。
1つ、岩嶽城の地形。
比較的大軍の展開しやすいが険しい山腹沿いの山道と暗く狭く入り組んだ洞窟は、どちらも出城のような岩屋へと繋がっていることが確認されている。最初に経路と選定されていた切り通しのような道が存在するために出城のような岩屋へは3方からの進入が可能である。
※ ※ ※
エルフの神弓に関する情報は以下の通り。
神木から作られたと言われる弓と矢であり、武器としての能力は長弓と変わらないが、これで討たれた邪悪な存在は封じられて石に変じると言われています。過去の岩嶽丸との死闘では多くの兵が犠牲になりながら、弱ったところを射止めたと伝えられています。この方法で封じられた存在は、あたかもアイスコフィンでもかけられたかのように尋常な方法では傷つけることはできなくなってしまうし、死んでしまったわけではないのが難点なのだという。
現在、弓1張り、矢4本、その他の備品を合わせて1具だけが存在。いずれも替えはありません。
尚、神弓は代々隠れ里のエルフたちが護ってきた宝物であり、彼らに返すという約定の元に貸し出してもらえるとのこと。八溝山決戦に備え、エルフの長老は与一公の申し入れを受諾していますが、作戦運用上の問題で与一公が使うとは限らないとのこと。小山朝政殿や蒼天十矢隊が次点候補として挙がっている模様。
※ ※ ※
八溝山の結界に関する情報は以下の通り。
地脈水脈を利用した地運を神社仏閣など霊験あらたかな存在で強めて鬼の国たる八溝山を封じたと聞く、とはエルフの長老の言。土地の者の口伝なども鑑みて、実際には山1つを封じるのではなく、山から出られなく、あるいは出にくくするのが目的であったろうと推測されている。
岩嶽丸を神弓で封じたうえで八溝山の鬼たちが外へ出られぬように結界を補強することができれば或いは‥‥ 全ての鬼を倒すための犠牲や労力を考えれば、今は長老の提案を実行するのが現実的に思えるというのが与一公はじめ那須藩の総意である。それに、このまま結界を失った場合に何が出てくるのかわからないということも不安材料の1つである。
さて‥‥
人が増え、大きな道があちこちに走ったこと。神社仏閣の移転や取り潰し。畏怖する存在への信仰心の衰え、そういったものが関東一帯を護ってきた結界を薄れさせたのではないかとエルフの長老は語っている。
※ ※ ※
ついに進発した与一公率いる那須主力部隊。その傍らにはエルフの同盟軍20騎が歩を進める。
その威容は、藤原権守貞信(ふじわらの・ごんのかみ・さだのぶ)公が同盟のエルフ軍と共に八溝山に住む悪鬼、鬼の国の首領・岩嶽丸を討伐した古の国造りの物語を髣髴とさせる。
これまでの戦いで、那須軍先遣隊と蒼天十矢隊、他にも冒険者たちの活躍により岩嶽城の戦力と規模は大よその見当がついたが、攻め落とすまでには到っていない。しかし、那須のほぼ全軍を傾けた以上、これが決戦となるのだ。
天然の要塞『岩嶽城』に篭る鬼たちを見上げて那須兵たちは必勝を心に誓う。
蒼天十矢隊にとっても、ここが正念場である。
●リプレイ本文
●那須主力部隊
岩陰を有効に利用して鬼たちは神出鬼没に現れ、矢を防ぎながら投石してくる。那須軍は進むに進めずにいた。
無理に通れなくはないだろうが、攻め口は狭い。かと言って、強行偵察班が発見した獣道のような急峻な場所を進めば、各個撃破の対象になりかねない。山で暮らしてきたエルフ軍ならば十分に戦えるだろうが、20騎程では混戦になった場合、損害もばかにならない。急峻な場所での行軍や戦闘に慣れていない那須軍の足軽たちともなれば、更に被害は拡大するだろう。
結局、獣道からの進軍は評定で不採用となっている。ただ、獣道からの奇襲は警戒しなければならないとして、その甲斐あって既に2度返り討ちにしている。それからは鬼たちの奇襲もぱったりと途絶えたのだが‥‥
やはり、正面からのぶつかり合いでも、それなりの損害は覚悟しなければならない。ならないのだが‥‥
「我ら那須・エルフ連合軍♪ 隠れているのが恥ずかしくないなら出てくるです〜♪」
前線に現れた弓を携えたエルフの一団を率いるのは蒼天十矢隊の七瀬水穂(ea3744)。名乗りの栄誉を授かって、かなりウキウキしている。言葉は通じていないのだろうが、鬼たちが何事かとチラホラ顔を見せ始めた。
「エルフさんたち、一気に防衛線を粉砕するですよ〜♪
しくじれば蒼天十矢隊の仲間が孤立するです。皆の力を貸して下さいです♪」
「承知!」
20騎近い一団の約半数が様々な淡い光を放つ。
ズガガガガ、ゴゥ、バキバキバキィ!
火球と吹雪が渦巻き、大地を割り、雷光轟き、那須兵からどよめきが起きる。
しかし、鬼たちもさるもの。耐え切った者から誰となく土煙の中を進んでくる。
「退きますよ〜♪」
那須軍とて、これしきで鬼が全滅するとは思っていない。七瀬隊が予定通り退き始めた。
「撃てー!!」
那須軍本隊の小山朝政殿が号令をかけた。その傍らには神弓を携えた与一公が馬上から岩屋を睨みつけている。ついでに言うとエルフの長老は欠伸している。
「巌流、西園寺更紗参ります! 突っ込みますえ!!」
空を埋め尽くすような矢の雨の下を西園寺更紗(ea4734)率いる足軽たちが突っ込んでいく。
「秘剣、一の太刀」
目の前に現れた茶鬼を斬る。七瀬隊による先制の魔法攻撃を受けていた茶鬼は、その一撃で地に伏した。
「蒼天十矢隊、西園寺更紗殿ぉ!! 先陣を切ったでござるぅ!!」
直ぐ横を突入していた那須藩士が大音声を上げた。
「うぉぉおお!」
潮の如く那須軍に歓声が起こる。
「遅れを取るなぁ!」
「敵が態勢を立て直す前に突き崩せぇー!」
那須藩士は鬼の群れに突っ込んでいった。足軽たちもそれに続く。
「田吾作、茂助、末蔵、仁三郎、弓射が薄うおす」
弓矢の援護で敵の後続を断ちながら那須軍が突出してきた鬼たちを討っていく。
「次から次へと限(きり)あらへん。いい加減うんざりどす」
濛々と立つ戦塵の中、西園寺は小鬼を斬り伏せながら肩で息をし始めていた。止めを仲間に任せて自分は鬼に手傷を負わせることだけに専念しているとはいえ、連戦ではきつい。仲間や与一公から預かった足軽たちにも相応に被害が出ている。
「西園寺さん、こちらの怪我人も莫迦になりません」
「草太、油断しない」
小鬼に斬り付けながら幸彦が草太を叱責する。
「風御さんに言われたでしょ。絶対死ぬなって! 自分の身くらい自分で守りなさい」
2人の視線が絡み合う。草太が日本刀を抜いて幸彦と交錯した。
「命を奪うのは好きじゃないんだけどな‥‥」
「ばか‥‥」
幸彦の後ろで小鬼が音を立てて崩れ落ちた。
既に何度もあちこちで衝突が起きており、鬼たちに多くの出血を強いていた。が‥‥、
「与一公、敵防衛線が混乱してるです。今こそ一斉攻勢の瞬間なのです。ご許可をです」
本陣まで退いた七瀬の進言に与一公が頷く。
「後詰の部隊は突撃準備! 七瀬隊は前線に展開せよ!! 前線の部隊に後退の合図を!!」
「任せるですよ〜♪」
朝政殿が伝令に指示を出していく。七瀬も自分の部隊へ戻って行った。
「殿‥‥」
朝政殿が鏑矢を番え、放った。
ビョウゥゥゥ‥‥
これからが本当の決戦である‥‥
●本陣強襲
「いよいよ岩嶽丸本人との決戦か‥‥ 気合入れていくぜ!!」
「あぁ。さて、最後の大一番か。派手に行こうかね」
龍深城我斬(ea0031)と鷲尾天斗(ea2445)が興奮気味に息を吐き、ニヤリと笑う。
2度目ともなると敵が潜んでいそうな場所も見当がつくし、何より正面から派手に攻撃を加えている那須軍に鬼たちの目は釘付けになっている。蒼天十矢隊は、その隙をついて洞窟から敵の後背を崩そうというのである。
倒すべき相手は敵の大将・岩嶽丸。
時間があれば、那須軍の弓とエルフ軍の魔法でジワジワと叩けばいい。しかし、この数日で急に冷え込んできた。雪に閉ざされることがあれば、撤退するのは那須軍である。冬の間に鬼たちが勢力を盛り返すということは何としても避けなければならなかった。
(「長く続いたこの騒乱も今日で終わりにする。何としても‥‥」)
カイ・ローン(ea3054)が短槍を構え、警戒しながら後続を手招きする。
「行きまする」
「うむ」
白羽与一(ea4536)と那須藩士・須藤士郎は弓の具合を確かめると、1矢を握って速射体勢のまま岩嶽城内部を進んだ。
「本隊と合流できそうにないですね。どうします?」
「鬼本隊を惹き付けてくれているんだ。岩嶽丸さえ討てれば敵も混乱する。危険だがやるしかないだろう」
岩窟の一角をこっそり覗き込む刀根要(ea2473)と龍深城。そこには一際体躯のいい鬼が岩棚に腰掛けている。
屈強な筋肉を身に纏った赤銅色の肌を持つ巨躯。野太刀に胴丸と面頬という出で立ち。
報告にあった岩嶽丸に間違いないだろう。
「周囲の鬼たちの数は少なくはないですが、多くもありません。好機といえば好機です」
ブレスセンサーで周囲を警戒した風御凪(ea3546)がそう告げる。
「行きましょう。これ以上追い詰めれば、逆に逃がすことになるかも知れぬ。
結界も弱まっているだろうと聞いていますし、那須軍全体で攻め寄せるにしても刻をかけ過ぎるわけにはいけません」
蒼天十矢隊は須藤を見て頷いた。
「那須に舞い降りた外道を狩る双刀の猛禽、鷲尾天斗! この名を以って逝きたい奴はかかって来い!!」
「我ら蒼天に放たれたる十の矢、思いは違えど志は同じくする者。那須の闇を貫き、光を招く者たらん!!」
鷲尾が‥‥ 夜十字信人(ea3094)が‥‥ 得物を掲げて、斬り込んでいく。
「蒼天が与一! いざ参る!!」
援護するように須藤も矢を放った。
「鬼達と共存は出来なくとも、棲み分けをするのが一番だと考えてます。この山は、彼らの物ですから。しかし、今は‥‥」
橘雪菜(ea4083)は魔法の詠唱に入った。少なくとも岩嶽丸は倒すべき相手である。橘は決意の眼差しで鬼たちを見つめた。
「神弓より放たれる封印の矢に代わり、蒼天の十矢が貴様を生きてこの地を出さん。青き守護者カイ・ローン、参る」
神弓という言葉への反応を確かめたカイだったが、杞憂に終わったようだ。短槍の穂先を煌かせて、カイは鬼たちに突っ込んでいった。
●戦慄
「おぉっ!!」
体格が違いすぎる。野太刀で岩嶽丸の斬撃を受けた夜十字はギリギリと歯軋りを立てた。
恐ろしく腕の立つ鬼である。刀根や夜十字でも受けるのが精一杯。気を抜けば、一気に切り伏せられてもおかしくはない。
その夜十字や刀根とて浅からぬ傷を負っている。
「皆、無理するなよ。俺たち2人に任せておけ」
まるで暴風のような野太刀を刀根は手盾で受けた。腕がビリビリと痺れる。カイのグットラックの加護を得てこれである。橘が時折サイコキネシスで岩嶽丸の斬撃を鈍らせているが、その場しのぎでしかない。
他の鬼たちに妨害されなければ、もっとマシな状態で戦えたかもしれないが、今はそんなことを言っても詮無いことだった。
「これでは岩嶽丸かわかりませぬ」
「神弓の矢は少ない。無駄にはできません」
白羽と須藤は背を合わせるように矢を射ている。
「エルフの長老様がおられれば、何かわかるのかもしれませんが‥‥」
サイコキネシスの使いすぎで橘の魔力は残り少ない。ジリ貧とまではいかないが、長くこの状況を保つことは難しいだろう。
そのなかで白羽たちは注意深く岩嶽丸を見ているが、体毛か鎧に隠れているのか矢傷は見当たらない。
神弓で射抜かれて石に変じたのなら、矢傷が残っていても不思議ではないと思ったのだが‥‥
「俺に任せろ」
刀根が詠唱を始めた。その間を保たせるように、矢が次々と放たれる。
この間、岩嶽丸の相手を夜十字1人でやらなければならないが、相手が岩嶽丸なのか知ることはこの作戦の肝である。危険を承知で下がり、刀根は魔法に集中した。
「邪魔はさせん」
龍深城が山鬼に斬り込む。ついでとばかりに数頭の小鬼の注意も引くように大げさにかわしてみせる。
白羽と須藤が次々と矢を射る。
「この灯火、闇を貫き蒼天へ‥‥ 南無八幡大菩薩‥‥!」
周囲の鬼たちへ耳から脳天を射抜く心意気で、白羽は一撃必殺の矢を放つ。迫り来る山鬼が倒れた。
鬼の国の最深部と目されるだけあって敵の数が多い。いつまでも支えきれる訳はない。
須藤が神弓を構えた。
「お待ちください!
今だけでなく、過去と未来の想いを秘めたエルフの神弓‥‥ 必ずお返しせねばなりません。
付かず離れず、人との関わりを断つエルフが少しでも繋がりを求めた証拠がこの神弓のような気が致します。
無駄に撃つ訳にはいきませぬ。蒼天十矢隊の仲間を信じてくださいませ!!」
白羽は足軽から矢を受け取ると新しい敵へと狙いをつけた。
「貴方は古の大鬼ですか?」
『うるさい!! そうだとしても答える必要ない』
刀根がオーラテレパスで岩嶽丸に話しかけた。
「今の鬼を束ねるだけの者ですか? 調子に乗っていると貴方が殺った山鬼の様に岩嶽丸に捻られますよ」
『みんな、俺様に従っていれば良いのだ!! 復活の邪魔をする者は許さん!!』
取り付く島もないとはこのこと。しかし、一瞬動きを止めたのを見逃す蒼天十矢隊ではない。
「この天地の狭間に貴様ら外道が住まう場所無し! 煉獄の刃で因果の鎖を断ち切り、無に還れ!!」
声に反応して岩嶽丸は野太刀を振り下ろす。同時に鷲尾もそれに反応した。
ブバッ‥‥ 血煙が舞う。
「格好悪いぜ」
鷲尾は荒く息を吐きながら後ずさった。一気に意識を持っていかれそうになる。
しかし、鷲尾流二天『捨心』‥‥ オーラパワーを付与した日本刀と小太刀の同時攻撃は確かに岩嶽丸を捉えていた。岩嶽丸は鷲尾の無手勝流をかわせていない。長い間苦楽を共にしてきた十矢隊である。互いの実力は把握していた。なら、手数を出すなら今しかない。
「動かないで血止めします」
「これを」
風御が傷口を縛り、リカバーをかける暇がないと判断したカイが鷲尾にポーションを飲ませる。
「チェストォー」
素早く振り上げ、地面に叩きつけるかのような一閃。刀根の示現流の必殺剣が岩嶽丸の肩口を捉えた。
一方で岩嶽丸の一撃を手盾で受け止めて体勢を崩そうと捌くが、そうそう全てが上手くはいかない。
「今宵の居合は一味違うぞ‥‥ 貴様に見切れるかな?」
龍深城の一撃が岩嶽丸を斬る。
軽い足捌きで岩嶽丸の反撃をかわそうとするが、運悪く体をくの字に持っていかれ、石壁に口づけした。
「一気に止めをさしてやる!!」
鷲尾が岩嶽丸に突っ込む。
「ギギッ!!」
守りの薄くなった須藤たちを茶鬼や小鬼が狙う。
「死なせはしません。隊の誰しも」
橘が相州正宗で小鬼に斬りかかる。後衛を護衛するための足軽たちも武器を構えなおしている。ここが正念場。
白羽までも小鬼の攻撃を惹き付ける有様だ。
ポーションで傷を癒した龍深城が後衛の守りについて、ようやく戦線が持ち直す。
だが、一時の危機も無駄ではなかったようだ。岩嶽丸の動きに精彩はない。
「鬼は彼の地へ帰って頂こうか!! 地獄への旅立ちをご案内仕る!!」
声に岩嶽丸が振り向くと、大きく振りかぶった夜十字の野太刀が直ぐそこに迫っていた。
「断罪の一撃、その身に刻め!!」
息を飲む岩嶽丸に鎧ごと袈裟懸け。
『うぉおお!! 無念‥‥』
刀根には岩嶽丸の断末魔がそう聞こえた。
「ハァッ、ハッ‥‥ ハッ‥‥」
羽織はどす黒く染まり、蒼天十矢隊は傷を負って肩で息をしている。荒い息を抑えるように唾を飲み込む。
岩窟の広間の時間が止まったような錯覚に陥りながらも鷲尾は大きく息を吸い込んだ。
「殺ったぞおおおおー!!」
雄叫びが岩嶽城に響いた。
●決着‥‥
「先人は岩嶽丸を倒したということにして、封印を解放するという考えを考え付かないようにしたんだろうな」
「カイさん、今回は何とか倒せたんですから、本当に良かったですね」
風御の言葉を余所に、カイは先人の考えに思いを馳せた。
八溝山決戦は、岩嶽丸を討つという形で決着した。鬼たちは散り散りになって岩嶽城から逃げ出したからだ。
残敵を全て掃討しきれなかったのは、彼らが急峻な獣道から散っていったこと‥‥、そして何より突然の寒気に伴う雪に軍の展開を阻害されたことによる。
それでも勝利は勝利だ。警戒は必要だが、組織的に襲ってくることもないはずだ。
全てはこれから‥‥ しかし、今くらいはそれを忘れても罰は当たるまい。
笑いが止まらない者、涙を流す者、様々だが、那須軍の歓声が八溝山に響き渡った。
この決戦は、那須藩の公式記録にはこう綴られている。
那須守与一公率いる軍勢、古の盟友エルフ族の同盟軍と共に八溝山を攻む。復活した悪鬼・岩嶽丸、これに抗す。
岩嶽丸に対するに、エルフの長老、与一公にエルフの宝弓を与え、与一公の番えた神弓の矢、岩嶽丸を射抜き、これを倒す。
鬼たちを散々に討ち払いたり。
こんなだから後々の人が苦労するんだという突っ込みはなし‥‥かな。やっぱり。