【虎僧行脚3】さっきぶり・完結編1(?)
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■シリーズシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:3〜7lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月02日〜12月07日
リプレイ公開日:2004年12月11日
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●オープニング
大百足退治のお礼を無事に伝えることのできた村人たちに感謝された冒険者たち‥‥
「オイラ修行中の身だよ。まだ、術も使えないしさ‥‥」
はにかんだような虎太郎の照れ笑いが、周囲を安心させていた。
一応の収束をみせたかに見えたこの事件‥‥ しかし、事件は完全に解決したわけではなかった。
『さっきぶり』
この言葉は、未だ江戸の一部では噂にのぼっている。
虎太郎やクリスの姿でただ食いをして逃げたり、喧嘩してボコボコに殴り倒したり‥‥
役人に追われてもどこへとなく姿をくらまし、捕まらないのだ。
虎太郎(?)の可愛さに追っかけが出現したり、クリスの格好よさに黄色い声を上げる女性と野太い声の二重奏が聞こえたりと、徐々に喧騒はのっぴきならないところまで辿り着きそうである。
幸い村人たちの証言と冒険者ギルドの口添えで、騒ぎのあった頃、彼らは江戸を離れていた事が確認されているので大事には到っていないが‥‥
さっきぶりを追い詰めたときの様子の報告を聞いて、ギルドの親仁があちこちに掛け合ってくれたようだ。町衆や商家の寄り合いからお金を出し合ってもらい、退治の依頼として正式に受理されている。
依頼の内容は以下の通り。
※ ※ ※
江戸を騒がす『さっきぶり』。
不届きな輩の正体は魔物であり、退治するに一切の情け無用。
人の世を脅かす魔物に鉄槌を!!
※ ※ ※
「いいとこに来た。『さっきぶり』の退治依頼だ。暇ならやらねぇか?」
江戸ギルドを訪れた冒険者たちは、ギルドの親仁に声をかけられた。
「相手は恐らく変魔。欧州ではドッペルゲンガーと呼ばれる奴‥‥だと思う。化ける妖怪の可能性も捨てきれないし、こっちじゃ殆ど見ることはないが悪魔の可能性も捨てきれないし‥‥ 正体は不明だ。
俺も魔物に詳しい訳ではないし、知り合いも直接見たわけじゃないから断定できないって言ってる。退治する相手の情報が少ないのは申し訳ないが‥‥
以前に『さっきぶり』が変身する現場に出会ったことのあるお前さんたちに頼むのが一番だろうと思ってな。張り出すのを少し差し止めておいたのよ。どうだ? やるかい?」
冒険者たちは、この騒動を治められるのか‥‥
●リプレイ本文
●さっきぶり
江戸ギルドの1室。
「この前は調べるだけでしたが、やはり妖怪の類だったのですね。以前の様に酷い悪さをしない内に、何とかしないといけません。
一生懸命に頑張っている虎太郎さんが可哀相です」
憂いの表情を見せる神有鳥春歌(ea1257)。健気に頑張り、人生に悩む虎太郎の姿を見ているとやはり放ってはおけない。
「‥‥」
神有鳥の友人として虎太郎に何かしてあげられることがないかと手伝いに来た緋室叡璽(ea1289)。過去に何があったのか、その顔に表情はほとんどない。
兄によく似た緋室をマジマジと見つめながら夜十字琴(ea3096)はクリス・ウェルロッド(ea5708)にしがみつく。
10歳とまだまだ甘えたい盛りなのに突き放されてそれを愛だと言われる琴の気持ちもわからなくはない。
「どうしたのです? あなたに涙は似合いませんよ」
クリスが夜十字の頭を撫で、額に口づけをした。
「クリスさん、琴がばっちり解決してみせます!」
「当てにしていますからね。頑張って」
顔を真っ赤にしながら、夜十字は大きく頷いて目を輝かせている。それに対してクリスは片目をパチリ。
自分がされたわけでもないのに顔を赤らめている者もいる。
「これ以上、変魔を野放しにはできませんね。ここで形をつけたいです。
私は変魔さえ倒せれば文句はありませんよ。それが虎太郎君のためにもなりますからね」
こちらも口数の少ない、緋室とは違った感じで‥‥ 無骨者といった感じの山王牙(ea1774)。
暫く話し合って作戦自体は纏まった。しかし、問題も残っている‥‥
「町を騒がす『さっきぶり』‥‥ 目的は存じませんが無実の罪に悩む人々をこれ以上増やす訳にはいきませぬ。
しかしながら、そうなると‥‥クリスさんが心配ですわね。相手がクリスさんに化けるというのですから」
「いっそのこと女装でもしてみますか? クリス君なら女物の着物を着て、胸に詰め物をすれば‥‥」
朱鷺宮朱緋(ea4530)の言葉に軽口を叩く久留間兵庫(ea8257)だが、意外に他の仲間たちは本気だ。
「偽者と私‥‥ 街で騒がれている人物が2人いるということも不味い‥‥か。
そもそも、本物の私であっても‥‥
その、追っかけとやらに騒がれて、偽者に気付かれたとあっては、この依頼が失敗に終わってしまう危険性がある‥‥
場合も場合。私の守るべき女性方達が、いつ私の偽者に襲われるやも知れぬこの事態ならば、仕方ありますまい‥‥」
いや、戸惑いながらも当の本人の決意が一番硬いか。
「虎太郎さんのことはどうしましょう?」
神有鳥が仲間を見渡した。
「此度の件、虎太郎様としては知れば捨て置けぬ事態でしょう。
追っかけなる者もいるそうですので町へ出られては騒動になりかねません。
混乱を避ける為にも、虎太郎様の耳には入れず寺に引留めて頂くよう‥‥
予めその旨を伝えて御住職に協力を願いたいと思います」
「それでいい。あの性格だからな」
「さっきぶりに、その横行悔い改めて頂かねば。説得は叶わないのでしょうか‥‥」
「難しいな。相手は魔物だ。しかも街中で好んで悪事を働くような輩だぞ。話が通じる相手とも思えんしな」
ミハイル・ベルベイン(ea6216)にも朱鷺宮の気持ちはわかる。
しかし、一度逃がしているうえに散々街の人々に迷惑をかけているのである。倒しておきたいと思うことは、ほとんどの者の胸の中にあった。
拭き拭き‥‥
その頃、虎太郎は丁寧に心を込めて仏堂の床を磨いていた。
時折手を休めては仏像を見上げる‥‥
●探索
街へ探索へ出た冒険者たち‥‥
さっきぶりは比較的容易に発見することができた。
「けけろけろ〜♪」
謎に満ちた歌詞で上機嫌に歌う夜十字の手を引いてクリスは路地を歩いていた。
女物の着物に薄化粧という変装であったが、それでも女に見えるから驚く。流石に胸を詰めたりするのは躊躇われ、やってはいないが‥‥ ナイ胸がいいという男もいるから、それはそれで‥‥
「くっりす〜」
野太い声の合唱が通りに響き、女装したクリスの顔が青ざめる‥‥
くりす命と書いた鉢巻を巻き、幟まで用意した筋肉質の男たちが迫ってくる。見破られた?
「私は正常ですよ‥‥」
クリスが呟くが、その格好じゃ説得力ない。
「クリス様〜♪」
背後からは黄色い声が‥‥
絶体絶命かと思われた瞬間、クリスの背後で破壊音が響いた。
「こりゃー!!」
店主が通りに飛び出してくる。女装クリスが振り向くと、そこには偽クリス。そのまま走り去っていく。
「クリスさんは、さっきぶりじゃないですよね?」
夜十字のすがる様な目がクリスを見上げる。
「大丈夫、私は本物だよ」
袖をまくって腕に巻いた布を見せた。
「それよりも追いかけないと」
クリスたちは騒動の後を追った。
「こんな寒い時期に地道な探索からか‥‥ はぁ」
久留間が蕎麦をズズッと啜る。
「何の騒ぎでしょう?」
町人姿の朱鷺宮が箸を置いて外を眺めると、黄色い声と野太い声の2重奏が近づいてくる。
「どこに行かれたのかしら‥‥」
彼らはあちこちを見渡している。しかし、そこには偽クリスの姿はない。
「あら、バレバレですね」
朱鷺宮の視線の先には虎太郎の姿が‥‥
虎太郎は今、寺の掃除を言いつかっている。となれば、あそこにいるのは偽虎太郎。本物であっても修行中の彼があんなところで食事をしている訳がない。
「じゃ、行きまふか」
ズズズッと残りの蕎麦を掻き込んで久留間は席を立った。
「お間抜けですね」
「‥‥」
緋室の背中に身を隠すように神有鳥は虎太郎を尾行していた。
物陰越しに事の推移を見守っていると、そこへ久留間がやって来て虎太郎の隣に座った。
「手伝ってあげて」
「わかった」
緋室は店へと入っていった。
「あれか?」
「化けたの?」
背後からのクリスと夜十字の声に、神有鳥が振り向く。
「おそらく」
「作戦、大丈夫かな?」
「大丈夫ですよ」
虎太郎から目を離さずにクリスは夜十字の髪を撫でた。
「1杯頼むよ」
怪しまれないように自然に久留間は虎太郎の隣に座った。
「おぃっ」
虎太郎が久留間の肩に倒れ掛かってきた。
「大丈夫か?」
揺さぶっても動かない。
「こりゃ、寺に連れてった方がいいですぜ」
店主が心配そうに奥から出てきた。
「この辺に寺あるか?」
「へぃ、このままダーっといって、バーっと曲がって、ずっと行ったとこでさぁ」
「連れて行ってくる。御代はここに置いとくぞ」
緋室は虎太郎をおぶると店主が指差したほうへ走り出した。
「さすがにこれだけ人が多いと役に立たないか‥‥」
山王はボヤいた。
依頼では結構使い勝手のいいブレスセンサーも、江戸の人ごみの中で人物を特定するような場合は、あまり役に立たない。反応が多すぎてどれがどれだかわからないし、元々おおよその方向しかわからないものであるから仕方がないのだが‥‥
「あれ‥‥ そうじゃないか?」
ミハイルが指差す先には、虎太郎をおぶって駆けていく緋室の姿。
それを追いかけるように仲間の姿も見える。
「こっちにいい場所がある。ついて来い」
ミハイルが手招きをすると、緋室は後を追いはじめた。
●怪しすぎる‥‥
暗い路地の奥‥‥ ゴロリと転がされた虎太郎。
虎太郎を見下ろすように見下ろす影が8つ。
少し経つとコアギュレイトの効果が切れたのか、虎太郎はキョロキョロと周りを取り囲む冒険者たちを見てビクついている。
「あふろ?」
夜十字が聞く。虎太郎は何も答えず、ビクッとした。
「ぐんそう!!」
「ぐんそう!!」
「ぐんそう!!」
「ぐんそう!!」
「ぐんそう!!」
「ぐんそう!!」
「ぐんそう!!」
仲間たちによる合言葉7連発!! はっきり言って怪しい‥‥
っていうか、『あふろ』とか『ぐんそう』って何? はぁ‥‥ 琴ちゃんの妄想なの? おおぅ、話を戻そう。
虎太郎がビビビビビビビクッと引きまくっている。
そりゃそうだろう。仮にこの虎太郎が本物だとしても合言葉なんて知らないのだから。
「お返事がないということは、あなたがさっきぶりですわね」
神有鳥が指差す。いや‥‥、引きまくって言葉も出ないのかも‥‥
冒険者たちは、各々得物を構えた。
虎太郎は腰を抜かしたように動けない。
「今度は逃がしません」
ミハイルがオーラパワーを付与した縄(じょう)ひょうを投げる。
「天誅ぅ〜!!」
「御仏の裁きを!!」
夜十字と朱鷺宮が数珠を突き出してホーリーを唱える。
「全く迷惑な‥‥」
クリスの矢が容赦なく突き刺さる。
「合言葉にはどんな意味があったんだ〜!!」
久留間の日本刀も躊躇なく切り裂く。
「虎太郎さんの姿で悪さをするなんて許せません!!」
神有鳥の中弓が弦を響かせる。
「‥‥」
緋室の日本刀は虎太郎の体のど真ん中を突く。
「定めだ」
突き倒すように山王は鬼神ノ小柄+1を虎太郎の体に突き立てた。
ぷよ〜んと虎太郎の表面が柔らかい感じになっていく。
「止めです」
集中攻撃にあって、そのまま動かなくなった。
●さっきぶり?
「おぉ!! これが噂の?」
赤髪の浪人風の男が緋室に近づいてくる。2人は顔を見合わせるが緋室の方は無表情のままだ。
「! 何をしに来たんですの?」
「いや‥‥ 通りがかってさ。もしかしてこれがさっきぶりか?」
男は小声で琴に話しかけながら視線を合わせないように緋室を指差した。
「さっきぶりは、先ほど退治しました。あの方は依頼の仲間ですよぉ」
男はある重大な事態に気づいた‥‥
呆れたように溜め息をつくクリスが琴の手を引いていることを‥‥
顔に影が差し、瞳が光ったような気がしたが‥‥
●修行中
久留間や緋室、夜十字たちは虎太郎に会ったことがない。そこで報告のついでに顔を会っておくことにした。
堂で経をあげている虎太郎を発見するのに時間はかからなかった。
「虎太郎さん、琴もまだまだ未熟者ですけど、一緒に頑張りましょうね?」
「え? 何?」
ピョンと跳ねるようにして近づこうとして転んだ夜十字が涙を浮かべている。
「大丈夫?」
これでは、どっちがお兄さんでお姉さんだか‥‥
「涙など似合いませんよ」
クリスあたりは慣れたもの。夜十字の涙を拭った指をフゥッと一吹き。微笑ましい光景に誰となく笑みが浮かんだ。
「言ってくれればオイラも手伝ったのに」
「虎太郎さん‥‥ 神有鳥さんを救ってくれたそうで‥‥ その辺りは感謝します‥‥」
「あれはさ‥‥ オイラも悪かったんだ。自分のことばかり考えてた。もっと人を信じなきゃダメだよね」
事件の経緯を聞いて照れたように頭を掻く虎太郎に、緋室がほんの僅かに微笑を浮かべる。
(「笑った?」)
神有鳥は、それを見て微笑んだ。純粋にうれしい。
「同じ人として想いを素直に伝えあえる‥‥ そうなれる事を願います」
仏像に朱鷺宮が手を合わせた。その言葉は虎太郎に向けられたものだが、その優しい気持ちは誰へとなく向けられるものだ。
虎太郎に倣って皆が手を合わせた。
「あれ? オイラ‥‥ 何で泣いてるんだ?」
虎太郎には、まだそれがわからない‥‥