【虎僧行脚6】Tの悲劇
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■シリーズシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:5〜9lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 74 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:03月22日〜03月27日
リプレイ公開日:2005年03月30日
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●オープニング
今日の虎太郎は山篭りで修行の真っ最中。そこへ‥‥
「虎太郎さ〜ん、どこですか〜?」
「虎太郎はオイラだけど」
息を切らせた虎太郎が足を止めて木々の中で辺りを見渡すと、シフールが飛んで来た。
シフールは簡単にいくつか質問して虎太郎本人であることを確認すると、ハイと板切れを渡した。
「じゃあ、ボクはこれで。じゃ〜ね♪」
「うん‥‥」
虎太郎は薄い木板が2枚合わさっているような合わされた手紙に施された封を切ると開いて中身を見た。
『事件が起きたために虎太郎の助けが必要。すぐ帰るべし』
「和尚様からだ。何があったんだろう?」
虎太郎は急いで山の中のお堂に戻って荷物を纏めると駆け出した。
※ ※ ※
「ただいま戻りました〜」
「おぅ、よく帰ってきてくれた」
荒く息をする虎太郎に和尚は湯のみを差し出した。
足を濯ぐ間ももったいないのか膝で数歩乗り出すと水を飲み干して、息を整える間もなく虎太郎は身を乗り出した。
「それで何があったの?」
「まぁ、落ち着きなさい」
和尚は小僧を呼ぶと濯ぎ水を用意するように指図した。
「まずは荷物を解(ほど)きなさい」
虎太郎の背負っていた荷物を降ろさせると背中からムワッと湯気がたつ。
和尚の差し出す手ぬぐいを受け取ると、やっと気づいたように虎太郎は体を拭き始めた。
「虎太郎さん、お帰りなさい」
「ただいま」
濯ぎの水が運ばれてきて小僧が足を濯ぐのを手伝う。旅装を解く間もなく走り通しだったのか虎太郎の足は、かなり汚れていた。
「お帰り」
旅装を解いて虎太郎が一息つくと、和尚は茶を出した。優しそうな和尚の笑顔に虎太郎も嬉しそうに笑顔を返した。
「ただいま。そうだ。何があったの?」
「実はな‥‥」
和尚は順を追って事の次第を語り始めた。
※ ※ ※
「うわぁぁあああぁぁぁ」
男が1人、転がるように小屋から逃げ出した。
蔵の中からは、クッチャ、クッチャと音がする。
「早く閉めるんだ!!」
事態に気がついた別の男が戸を閉めたがバリバリと音を立てて壁板が倒れた。
ぐるる‥‥
のそりと身を揺らすと黄色と黒の縞を持つ巨大な猫は竹林へと姿を消した。
※ ※ ※
「このようなことがあってな。お武家さんに献上しようと大金をはたいて運んできた珍獣を捕らえなくてはならないのじゃ」
「何でギルドに頼まないの?」
「依頼達成のためには仕方ないと簡単に傷つけたり、周りの者たちに危害を及ぼすからと依頼に反して殺してしまう冒険者がいるという噂を聞くのでな。その檀家は躊躇しておるのだ。
そんな折、人を襲うこともあるという猛獣らしいから退治してしまった方が良いのかと相談されてな。
要するに何とかならないかと回りくどく頼まれたのじゃよ」
「それで和尚様は引き受けたの?」
「わからぬか?」
「あ‥‥ オイラに捕まえてほしいんだね?」
「そういうことじゃな」
その時、戸が開いて商人風の男が顔を出した。
「できるだけ傷つけないようにお願いできませんかね? 美しい毛並みなど損なわれれば献上品としての価値はなくなりますから。
冒険者を雇っても構いません。ただ、和尚様を信じてあなたに任せるのですからよろしくお願いしますね」
「ハイ!!」
虎太郎は商人風の男と連れ立って冒険者ギルドへと向かった。
●リプレイ本文
●道中
「珍獣の捕獲か‥‥ しかも人を襲うくらい獰猛なのを傷つけずにね。
虎太郎君は依頼や人の為とはいえ殺生を嫌うようだから‥‥ って僧なんだから当然といえば当然か。
そういう意味では君は向いてるのかな」
「へへ、命は大切にしないとね♪」
久留間兵庫(ea8257)は十手と手盾を確かめた。今回は毛皮に傷をつけることもできるだけ避けなければならないのである。倒すよりも格段に難易度の高い依頼と言えるだろう。
「珍獣捕獲か‥‥」
三菱扶桑(ea3874)が手の平で拳を鳴らした。
「大っきいなぁ」
グラス・ライン(ea2480)が三菱の巨躯を見上げた。
彼女は三菱の腰くらいしか背がない。もっとも他の仲間も彼の胸くらいまでの背丈しかないのだが‥‥
ドスドス歩くその姿は山鬼などと間違われないのだろうかと少し心配になってしまう。
「珍獣ですか〜♪ どんな子が出てくるか楽しみです〜♪」
どこか明るい南天桃(ea6195)がいるだけで周囲に笑顔がこぼれた。
今回の依頼の仲間たちは、ともすれば遠足にでも出かけるような雰囲気である。
「黄色と黒の縞を持つ巨大な猫って、どんな奴だろうな」
三菱はまだ見ぬ珍獣に思いを馳せた。
「それは虎って猛獣だね。皆、頑張って捕まえてね」
「やっぱりそうだよね。オイラも虎じゃないかと思ってたんだ」
人事のように嬉しそうに舞うティアラ・クライス(ea6147)を虎太郎は目で追った。
ティアラは虎について知っていることを話し始めた。
実際に見たことはないけれど聞いたことはあるらしいが、おそらく間違いないだろう。
「まったく、虎を献上しようなどと考えたのは何処の誰だ、欲しがる方も欲しがる方だ‥‥ おまけに厄介な注文も付けてくれる」
言葉とは裏腹に、三菱はワクワクしているようである。
「取り押さえられるかな?」
「そうですわね。お話を伺う限り大層な力があり、少々危険な印象を受けますから難しいでしょうが‥‥」
朱鷺宮朱緋(ea4530)は、虎太郎に優しく微笑んだ。
「ま、難しくてもここで捕らえられなければ、あんまり嬉しい結末が待っているとは思えないよな」
馬籠瑰琿(ea4352)が虎太郎の頭をガシガシと撫でた。
「このまま捕らえねば、何(いず)れ家畜や人を襲い、退治せねばならぬという事にもなりかねません。
大猫を守る意味でも早々の捕獲が必要で御座いますね」
「そうだね♪」
「何やら嬉しそうですが‥‥ 何か良いことでもありましたか?」
虎太郎が朱鷺宮らと楽しそうに話しているのを聞いて緋室叡璽(ea1289)が寄ってきた。
「傷を治す魔法が使えるようになったのも嬉しいけど、オイラ頼りにされてるってのが嬉しいんだ」
「虎太郎様、良かったですね。修行の方も順調な御様子で、私も嬉しく思います。
私も虎太郎様に負けますまいと、新たな魔法を習得したので御座いますよ」
「そうなの? すごいなぁ」
「人は互いに磨きあい光を放つので御座いましょうね。これからも頑張りましょう」
朱鷺宮は相変わらず優しい笑顔を向けている。
「嬉しい気持ちは分かりますが‥‥
いざとなれば気持ちを切り替えてください。
この依頼は、ただ俺たちや虎太郎さんだけではなく、和尚や檀家の信頼が関わってますから‥‥
脅すつもりはありませんが、失敗は許されない‥‥ それは肝に命じるように‥‥」
諭すように緋室が語る。
「うん!!」
「虎太郎くん、信用あるんですね〜。私はあまり強くないですけど無事に怪我させないように捕まえるですよ」
元気よく応える虎太郎に南天が胸を叩いた。
「やれやれ、傷つけない様にとは面倒な事だ‥‥ 言うは易し、行うは難しだ」
「街中で逃げてたら間違いなくこんな虎に優しい依頼にならんかったやろな。大変だけど頑張らんとな」
ぼやく三菱の足をグラスはポンと叩いた。
「それにしても話の分かる依頼人で助かったね」
ティアラは檻を載せた荷車を振り返って、空中で頷いた。
「ところで‥‥ 虎太郎様はマタタビ、平気で御座います?」
「な、何のこと?」
小声で耳打ちする朱鷺宮に虎太郎はソッポを向いて小声で洩らした。
まぁ、何ともないようである。
●竹林
「なぁ、それ。着てほしいなぁ」
「ええーっ、グラスさん、私にこの猫の着ぐるみ着て欲しいというんですか〜」
グラスは南天の荷物の中に目敏(めざと)く猫の着ぐるみを見つけていた。
着てくれたら、さぞかし可愛らしいだろうと‥‥ 思わず縋るような視線を送る。
「仕方ないですね〜」
檻の影に隠れると、南天は着ぐるみを着け始めた。でも、どこか楽しそうである。
「ぐっち〜、手伝ったげるよ」
ティアラが竹林の中で高度を上げた。
「ぐ‥‥ ぐっち〜?」
「グラスさんしかいないと思いますけど」
首を傾げるグラスに向かって南天は笑った。
「さて、普段は簡単な罠に引っかからないかも知れないけど、空腹状態なら単純に餌の匂いに釣られると思うんだがねぇ‥‥」
馬籠は貰ってきた餌を乱雑に捌くと辺りに生き血を撒いた。
「虎太郎、御免な。あんたの前で殺生なんて」
「肉を食べなきゃ生きていけない動物がいるってわかってるよ。それは仕方ないって」
悲しそうにそういう虎太郎にすまないと思いながら馬籠は作業を続けた。
ガサリ‥‥
竹薮が揺らいで音を立てる。
「おい‥‥」
久留間が仲間に促す。
グラスは何か黄色い物が動いたように感じた。
「来たみたいだよ」
「そうですね」
緋室も確認したようだ。
「いたよ。あれがたぶん虎だね」
ティアラが高度を下げて遠くの竹薮を指差す。どうやら間違いないようだ。
沢山いる冒険者たちを警戒しているのか、そいつは近づいては来ないが‥‥
餌とマタタビを置いて探索を始めるつもりだったが、匂いを嗅ぎつけられたようだ。
「任せるですよ」
南天が詠唱を完了させ、氷の戦輪を指先でクルクルと回し始めた。
「皆、準備はいいです?」
虎が隠れているという竹薮を避けて近くにアイスチャクラを投げ込むと、ストッと僅かに音を立てて足元を踏みしめて虎が姿を現した。
「珍獣ちゃんも〜私のこの猫姿で大人しくなるですよ〜♪」
「ホント可愛いわぁ」
グラスが猫ぐるみ南天の喉の下を撫でると調子に乗って喉をゴロゴロ鳴らす振りをした。
「それよりもこれだろ?」
久留間が袋から取り出したのはマタタビ。
「効くといいけどな」
巨大な猫なら効くはずと用意したのだが、動物に詳しいティアラにもさすがに効くかどうかまでは保障できない。
餌に混ぜると周りにそれなりの広さがあることを確認して置いた。
自在に体をくねらせて虎は竹と竹の間を摺りぬけてくる。
シャッ‥‥
虎の前足が緋室を払った。
「強い‥‥」
回避に自信のある緋室ですら、その攻撃を全てかわしきれない。
動きも思ったより素早く、緋室は思わずそう洩らした。
同時に、その鼻面へと鬼神ノ小柄を叩き込む。
がるる‥‥
「なんて奴だ‥‥」
鼻の頭から血を流す虎が歯を剥いて緋室に唸る。
「あたしに任せて」
馬籠が虎の前に出るが、彼女ですら全てをかわしきることは難しそうだ。
「怪我したら下がって」
「オイラたちが治すからさ」
リカバーを使える者が3人もいるのである。流石にこれは心強かった。
両方の前足を掠めるように払う虎に対して三菱は組みにいく。
ぐわしぃ‥‥
「お、猛獣大決戦だぁ! すごいや‥‥ 見物客いたらお金取れたのに」
筋骨隆々の身の丈8尺のジャイアントと全長で同程度の虎が組み合う姿は、確かに見ごたえがありそうだ。
「あ、それ。ハッスル♪ ハッスル♪」
ティアラは手に持った楽器を振りながら楽しそうに踊るが‥‥
「これでテンション上げてフレイムエリベイションいらず〜なわけあるかい」
たらり‥‥
三菱の肩から背中に爪が食い込み、血が滲んだ。仲間たちの額にも冷や汗が‥‥
「あら? 皆ノリが今いちよね」
まぁ、さすがに1人テンション高すぎと言ったところか。ティアラは印を組んで魔法の詠唱に入った。
他の仲間たちは、あっちへバタバタ、こっちへバタバタ、組んず解れつする三菱と虎になかなか近づけずにいる。
「きゅ〜」
「危ない!!」
三菱にフレイムエリベイションをかけようとしていたティアラが巻き込まれて踏み潰されそうになったところを虎太郎が拾い上げて転がってクルッと起き上がった。
作戦の肝であるコアギュレイトをかける朱鷺宮も、詠唱の間、なかなか有効な距離を維持できずにいた。
「うまくいかへん」
サイコキネシスのスクロールを使ったグラスは、縄を虎に絡めて動きを阻害しようとしていたが、下手をすれば組み合っている三菱を巻き込んでしまう。微妙な力関係によって均衡しているだけに下手な手出しは、かえってマズい。
「こいつ、凄い力だ!!」
手盾で虎を押しながら久留間も三菱に加勢して押し込もうとするが、虎も全身を使ってそれに抗う。
思うように前足で攻撃できない虎は三菱の頭に噛み付こうとする。
「三菱!!」
「大丈夫だ。任せろ」
緋室が日本刀を抜こうとしたのを三菱が制した。
その口のなかには拳が突っ込まれている。口の奥深くまで突っ込まれ、驚いた虎は慌てて吐き出した。
無論、三菱も無傷ではない。しかし、虎が噛みついてこなくなったのは好機。2本の前足だけなら何とか押さえ込めそうだ。
体を捻りこむと、上から圧し掛かるように首根っこに覆いかぶさって押さえ込みに入った。
「今のうちだ‥‥」
体格に勝る三菱が何とか覆いかぶさるように虎の動きを押さえ込んだような形になったところで呻いた。
ジャイアントの中でも特に体力に優れた三菱でも野生の猛獣相手にそうそう長くは優位を保っていられる訳ではない。
「早く‥‥ わ‥‥」
十手を持った腕を手盾の後ろに添えて体重を乗せた久留間が呻く。
「やったぁ」
グラスの縄が虎の片足に掛かった。
「任せろ」
すかさず緋室が近くの竹をしならせて端を結ばせる。
本来ならこの程度の縄など簡単に引きちぎるくらいの力を持っているだろうが、動かないように押さえ込まれようとしている時である。元に戻ろうとする竹に足を引っ張られ、虎も体勢を立て直せずにいるようだ。
「何とか‥‥効いたようで御座いますね」
虎が動きを止めた‥‥
それを見て朱鷺宮がホッと肩の力を抜いた。
「そうそう長くは動きを封じられません。早く檻に移しましょう」
朱鷺宮の言葉に従って、緋室たちは虎の手足に縄をかけた。
「やれやれ、厄介な相手だったな‥‥ 何にしても傷付けずに捕獲できて良かった」
三菱は思わず腕の傷を撫でた。腕だけとは言わず、背中などもかなり血が滲んでいた。
「怪我をしている方は治しますので仰ってください」
「この程度の傷は酒でも飲めばすぐに治るわ」
「駄目です。きちんと治しておかないと」
朱鷺宮が声をかけると、虎太郎とグラスも仲間の傷を癒し始めた。
●護送
「それにしても、今回は『俺だけ』だと‥‥ 一緒の時より不安になるのは‥‥ 俺が弱くなった? まさか、な」
やはり彼女がいないと調子が出ないということなのか、緋室は苦笑いを浮かべて荷車を押している。
「よく見ると本当に猫みたいだな。大人しければ可愛いものだ」
三菱は片手で荷車を押しながら虎の鼻面を撫でた。虎は不満そうに顔を捻る。
そうそう、緋室に付けられた傷は虎太郎のリカバーで処置済みだ。
「可哀相だね」
「そうやね‥‥」
虎は口にまで縄を掛けられている。虎太郎の目に同情の光が宿っているのを見て、グラスは呟いた。
『堪忍な』
『帰りたい‥‥』
虎とテレパシーで会話したグラス‥‥
『ほんま堪忍な』
気持ちが分かってしまっただけに、ず〜んと暗黒を背負ってしまった。
「グラスさん、元気出して〜♪」
グラスの顔をペロリ。檻の上で猫ぐるみの南天は丸まると、前足で顔を洗った。
『あのな、人に捕まって自由がなくなるんはうちも可哀想やと思うんよ。
本音を言えば本来の山に返して上げたいんやけど無理なんや。ゴメンな』
グラスは猫ぐるみ南天にそのまま暫く、じゃれつくように抱きついた。
「そうだ。虎太郎にイイモノあげよう」
馬籠は道返の石を取り出した。
「役に立つかどうかは分かんないけど‥‥」
虎太郎は説明を聞いて頷いている。
「ありがと。大事にするよ」
確かに僧の修行をしている虎太郎には役立つ物だろう。
「さて、人騒がせな依頼人に傍迷惑な珍獣を返したら、とっとと帰るか。住職にも報告しないとな。虎太郎君」
久留間たちは荷車を押して竹林を後にした。