【深緑】 おでかけ女神3

■シリーズシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:5〜9lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 57 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月11日〜03月19日

リプレイ公開日:2005年03月20日

●オープニング

 その所在が世間的には不明であるために当人たちにとっては特に問題はないのだが、隠れ里の存在自体は喜連川家の同盟者として公に認知されつつある今日この頃‥‥

「静かに眠っておくれ‥‥」
 エルフの隠れ里の若長は堆(うずたか)く組まれた枯葉と枝に手を合わせた。
「若兄さま‥‥ お兄さまやお姉さま‥‥ もう帰ってこないの?」
 平穏に暮らしているエルフたちだけの集落では誕生も稀であれば、死も稀である。
 だが‥‥
 那須は今、動乱の渦中にあり、九尾の狐の一党との戦いで隠れ里のエルフ数名が犠牲になっていた。
 彼らはそこに眠りながら森へと返るのを待っているのである。
「フィー‥‥」
 若長はフィーを抱き寄せた。
「死んでしまったんだ。彼らはもう帰ってこない」
「誰かを護りたいと想った時、自分が何なのかを忘れなければいい。そうすれば、自ずからすべきことが見えてくる」
「フィー‥‥」
 驚いた表情で若長はフィーを見つめた。励ましてくれているのか‥‥
「そんな風にジンが言ってたよ」
「そうか‥‥ そんなことを教えてくれたのか」
「うん♪」
「また、冒険者たちとどこか行きたいかい?」
「いいの? 行きた〜い♪」
 木々の隙間から、瞳を輝かすフィーに陽の光が差す。
「色々といい経験をしているみたいだからね。もっと色々経験してきなさい」
「海に連れて行ってくれるって言ってたよ。海に行きたいな」
「まだ、寒いから‥‥ そうだね。この時期なら梅の花とかいいんじゃないかな」
「梅の花なら見たことあるよ」
 首を傾げるフィーに若長は優しい笑顔を向けた。
「沢山の梅が生えているところだよ」
「い〜っぱい生えてるの?」
「見ておいで」
「うん♪」
 フィーの髪を撫でながら、少し沈んでいた若長の表情が僅かに緩んだ。

 ※  ※  ※

 1人のエルフが江戸冒険者ギルド那須支局を訪れた。
 何かから隠れるように正規の玄関からではなく、またもやいずこからともなくである。
「こんなところから失礼‥‥ 実は‥‥」
 斯(か)く斯く然々(しかじか)‥‥
「はぁ‥‥」
「フィーの護衛を頼みたいのです」
 エルフの説明を聞いて、ギルド那須支局の番台は頷いた。
「また、お出かけですか。依頼の方は確かに受け付けました」
「では、よろしくお願いします」
 依頼の受付を終えた番台は、江戸ギルドへ戻る職員に依頼を言付けた。

●今回の参加者

 ea0196 コユキ・クロサワ(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea0204 鷹見 仁(31歳・♂・パラディン・人間・ジャパン)
 ea0984 平島 仁風(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5908 松浦 誉(38歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea6228 雪切 刀也(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6601 緋月 柚那(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea8214 潤 美夏(23歳・♀・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 ea8714 トマス・ウェスト(43歳・♂・僧侶・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●到着
 梅の名所へやって来たフィーたち御一行。
 いつものように楽しんでいるかというと、今回はちょっと事情が違うわけで‥‥
「コユキお姉ちゃん、遊ぼ」
 突然抱きついてきたフィーを受け止めきれずにコユキ・クロサワ(ea0196)は草の上に倒れた。
「フィーちゃん、寒くないん? うちは少しは寒さに強い‥‥かも‥‥」
 じっ〜と見つめるフィーと目が合って、コユキは思わず赤面した。
 知人が落ち込んでいるのに何もできない自分がもどかしくて、悩んでいたのである。
 どことなく寂しそうなフィーをコユキは見つめて視線を外した。
「お姉ちゃんもここが痛いの?」
 フィーはコユキの胸に手を当てた。
(「フィーちゃんの里のエルフも亡くなってたんよね」)
 そのとき、初めて慰められていることに気がついた。フィーだって知人の志士と同じように辛いはずなのに‥‥
「そうよ。フィーちゃんも痛いの?」
「うん。若兄さまと一緒にお別れしてきたけど、まだここが痛い」
「俺たちも里の皆もそして死んでいった者たちもフィーがずっと泣いていたら悲しいよ」
 他の仲間たちも鷹見仁(ea0204)の言葉に頷いた。
「でもな、フィーが悲しいのを我慢して元気なふりをしているのを見るのはもっと辛いんだ。
 だからフィー、泣いてもいいんだ。泣いて、泣き尽くすまで泣いたらまた笑おう。
 そして、笑って言ってやろう。もう会えないのは悲しいけど、私は笑う事ができるから心配しないでって」
 フィーの瞳が潤んで頬が涙を弾いた。
「だからフィー、今は泣いて良いんだ」
 ポロポロと涙を流し、フィーは鷹見の片方の胸に顔を埋めた。
「コユキ、お前もか‥‥」
 もう片方の胸に顔を埋めるコユキに仕方ないと溜め息をついて、鷹見は2人の髪を優しく撫でてやった。
「フィーが悲しい気持ちでは、綺麗な梅を見ても楽しくはないのじゃ。元気を出すのじゃ」
 緋月柚那(ea6601)は優しくフィーの背中に手を当てた。
 バッと咲き誇る桜とは違って、梅は言わば可憐に咲くもの。これくらいチョッピリしんみりしている方が良いのかもしれないが‥‥
「派手なだけの桜と違い、梅は可愛らしさと慎ましやかさを合わせ持つのが良いのですわね。フィーさんのように‥‥」
 潤美夏(ea8214)がひたっていると‥‥
 プー、プキョキョ‥‥
 どこからともなく鶯(?)の鳴き声がしてきた。
「どうだね。うまいものだろう?」
 トマス・ウェスト(ea8714)の手にはウグイス笛が‥‥
「少しは雰囲気を考えろって」
 平島仁風(ea0984)が苦笑いした。
「私だけならまだしも、この面子で真面目に終われというのが無理な話ですわね」
 潤美夏の言葉に平島は思わず吹き出し、泣いていたフィーとコユキも笑顔を見せている。
「真面目に終われない面子に私が含まれるなんて心外ですね」
(「楽しく騒々しくなるのは構いませんが‥‥ 先日のように不穏な動きがないとは限りませんし、気を引き締めて参りませんと」)
 極々真面目に松浦誉(ea5908)が微笑んだ。

●梅斬り男
「まだ風は冷たいですが、春はしっかりと訪れているようですね」
 松浦たちは草花の芽吹く様や鳥の囀(さえず)りに騒ぎながら梅林へと向かっていた。
「あれは何じゃ?」
 先に走っていった緋月が驚いたように立ち止まっている。
 その足元にはザラリと落ちた梅の枝‥‥
「痛いって言うてるよ」
 胸をギュッと握り締めるようにコユキは体を縮ませた。
「それは痛いですわよね。こんなに伐(き)られていては‥‥」
 グリーンワードで梅の木と話したコユキの言葉を聞くまでもないと潤美夏は思った。
「可哀そう」
 フィーの表情に悲しみが滲む。
「なぁ、あっちも見に行ってみようか。こんな風になってるかもしれないからね」
 鷹見はフィーの手を引いて歩き出すと一瞬だけ松浦に視線を送った。
 一連の動作の中で鷹見が指差した方を松浦が見ると、そこには日本刀を携えた1人の男の姿があった。

「何をしているのですか?」
 松浦の毅然とした声にも男は聞く耳を持たずに梅の枝を落としている。
「かなりやるようだな」
 男が枝を一刀両断するのを見て、雪切刀也(ea6228)は仲間に注意を促した。
 潤美夏は男の剣の軌跡に割り込むと、ギャリンと火花を散らして受け流した斬撃を鍔で受けた。
 そのまま潤美夏が鍔迫り合いを制して、男は尻餅をついた。
「なぜ邪魔をする!!」
「それはこちらの言いたいこと」
 男の怒声に松浦は静かな怒りを込めて応じた。
「『桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿』と言うではないか! 俺は世のため、人のため、梅を斬りまくるのだ!!」
「ねぇ、おじさん。それって意味が違うと思う‥‥」
「何を言う! 俺はまだおじさんと呼ばれる歳ではないぞ!!」
 コユキに男は激しく反論する。
「話をややこしくしない。そこへお座りなさい!」
 松浦の語気が微妙に荒くなる。
「梅は伐れても、頭は切れないようですわね」
 潤美夏はバッサリ言い捨てた。
「言いがかりをつけるな!!」
 男は日本刀を構えて立ち上がると、刀を振り回した。
「話を聞けっての」
 平島は十手で日本刀を受け止めた。
「梅だって、イヤや言うてるんよ」
「木が喋るものか!!」
「魔法でお話できるんよ」
 日本刀で鋭い突っ込みを入れてくる梅斬り男にコユキが猛然と反論した。その突っ込みは平島にくるのだが‥‥
「じゃあ、お天道様とか水とか風とか音とかとも話せるのかよ」
「できるもん」
 確かにその通り。まぁ男は知らないのだが‥‥
 断言されたことで男は返しに窮してしまった。
「なら、仕方ない‥‥」
 敗北感のオーラを纏って男は逆ギレの矛先を引っ込めた。
「う‥‥」
 突然、男が動かなくなった。いや、動けなくなったのである。
 すかさず男を縛り上げた。そうでもしないと、まともに話もできそうになかったからだ。
「こんな春の日に我が輩の妹も亡くなったよ〜。
 飢饉やら病やら大変な年で、教会勤めだった我が輩も多くの支給金を送ったのだがね〜。
 途中使いの者がごまかして、そのことを知ったのは両親が亡くなり、妹が病に伏せてからだよ〜。
 最後まで我が輩に気を使い、やせこけた顔で笑って『お兄ちゃん、私は大丈夫だから‥‥ 』が最後の言葉だったね〜」
 コアギュレイトで動けにない上に縄で縛られてしまった男に、ドクターは触れそうなほど顔をくっつけて話をする。
「ドクター、ちょっといいか? 身内に『亡くなった』は使わないぞ」
 雪切がドクターに指摘した。
「けひゃひゃひゃひゃひゃ、そうであるか。ためになったのである〜」
 本当にどうでもいい話を聞かされて男がゲンナリしている。だが、動けない以上、聞くしかなく、さながら拷問だった。
「だから、話をややこしくしないでくださいって」
 松浦は頭を抱えると溜め息をついた。

●お絵かき茶会
「こんな感じでええの?」
「お鍋、沸いたよ」
 コユキとフィーは潤美夏のお手伝い。
 と言っても、今回は竹を組んだ蒸し器で饅頭や団子を温めなおすくらいのものだが‥‥
「しかし、すまんな。相伴に与(あずか)って」
「いや、わかってくれればいい。これからは気をつけてくれよ」
 どうやら男は雪切たちと和解したようである。仲良く饅頭を頬張っている。
「松浦さん、どうぞ」
「冷たすぎはしませんか?」
 湯飲みを受け取った松浦が潤美夏をチラ〜〜と覗く。
「お熱いのは駄目だと聞いていたので、熱くないものを用意したのですわ」
「ほほぅ」
 2人の視線に火花がビビッと走った。
「喧嘩はダメだよ」
 フィーは松浦に新しい湯飲みを渡した。
 松浦と潤美夏が苦笑いを浮かべるのを見て、一同は笑いに包まれた。

「そうそう、鷹見様。お絵かき大会の先生として何かありますか? 」
 ひとしきりお茶休憩を楽しんだところで、松浦が鷹見に一言求めた。
「ふむ‥‥ できるだけの事はしてやるけどな。一度きりのお絵描き会で技量云々言う気はない。
 ま、上手く描くことよりも書きたい物を見て、感じた事をそのまま絵として表現するのが大事だ。そして何より、楽しんで書く事。
 そんなとこか」
 その言葉を受けて、フィーたちは用意してきた木板を手に、好きなところに陣取って絵を描き始めた。
「っきぇぇーい!」
 静かに目を閉じていた平島は、カッと目を見開きサラリ‥‥ 
 大きく一文字、『梅』と書かれていた。
「なかなかいい出来じゃないか」
 平島はご満悦。勢いがあるが爆発するような感じではなく、フワッと暖かい感じがして筆を止めた部分が梅の蕾のようである。
「ん? どうした?」
 皆がクスクス笑うので平島は気になってしょうがない。
「なんでもないよ」
 鷹見は声を殺して笑っている。
「うまくいきましたわね」
「うん♪」
 潤美夏とフィーは筆を片手に平島の髭を見て笑った。
 犯人は言わずもがな。平島が瞳を閉じて精神集中しているときにチョロチョロと‥‥ね。
「嬢ちゃん、聞いた事あるかね。『年々歳々花相似たり、歳々年々人同じからず』‥‥ ってな。
 要は、幾ら年を重ねても花の美しさは変わらねぇが、人の身はそうは行かねぇ。歳取りゃ老いぼれて変わっちまうってことさね。
 ホント、人なんざ簡単に変わっちまう。例えば、昨日は元気だった奴が今日ポックリ逝っちまったりよ。
 いつ何処でどう変わるか分からねぇのが人生‥‥ でも、生きてるからにゃ自分で変えられることもある。
 嬢ちゃんも、気張って生きるんだぜ? 来年もまた綺麗な花を見られる様に、な」
「は〜い♪」
 平島はフィーにいい話をしているのだが、フィーは髭が気になってしょうがない様子。
 皆がなぜ笑いを噛み殺しているのか、平島にはさっぱりわからないのであった。

 フィーらの姿は松浦にとって遠く残してきた我が子らの姿に重なる‥‥
(「この地を吹く東風もいつかは西国へと届くのでしょうか」)
 松浦は、いつしか涙を浮かべていた。
 一枝に詩(うた)を添えると、その涙を拭った。
「この花を里の皆様への御土産にしましょうか。
 そうそう、梅斬り男のことも、ちゃんとお話しするんですよ。
 そうでないとフィーさんが『梅切る馬鹿』だと思われてしまいますからね」
「うん♪」
 無下に散らされた梅の欠片をフィーに拾い渡した。
「フィーさんは何を描かれましたか?」
「これだよ」
 フィーの描いた梅は、潤美夏の描いている梅の隣に描かれていた。
「うまく描けましたね」
 しゃがみこんでフィーの梅と潤美夏の筆運びに見入っている松浦の首筋に、彼女は背中から手を回してフワリと舞い降りた。

『 むめの花 香をかぐはしみ遠けども 心もしのに 吾子をしぞ思ふ 』

 この想いが届いてほしい。絵に添えた詩を思い返し、松浦は切にそう思った。
「他の人の絵を見てみましょうか」
「うん、行こ、行こ♪」
 松浦は手を引かれるまま、歩き出す。
「描けたのか?」
「一生懸命描きましたわ」
 鷹見の問いにそう答えながら、潤美夏は木板を置くとフィーを追いかけていった。
 残されたフィーと潤美夏の絵はお世辞にも上手いとはいえなかった。
 しかし、フィーの柔らかい線や潤美夏の勢いのある線は拙いながら味があった。
「お絵かき大会も無駄ではないな‥‥」
 鷹見はフィーたちを見つめながら、普段見ることのない彼らの才能に感心した。
「本当だな。一人で見て回るのも良いが、こうやって大人数で見るのも悪くないし、こういうのも悪くはない」
 雪切は止まっていた筆を動かし始め、一気に描き上げた。

『 梅花を背に 劣らぬ笑顔 一輪の 只ひたすらに 鮮やかで在り 』

「むぅ‥‥ 何分馴染みが無いからな‥‥ 上手く描けていれば良いが」
「うまく描けてるよ〜」
「そうかい? 嬉しいね」
 着物を引っ張られた雪切は、笑いながらフィーの誘いに応じた。
「皆、なかなかやるものじゃ」
 梅の花びらが浮かぶお茶に風雅を感じつつ、団子を楽しんでいた緋月もそろそろ何か描く気になったようである。
 ぽるしぇに積んだ荷物から愛用の筆硯を取り出すと、縦長の木板を片手に目を閉じて暫し黙考‥‥
「こんなものかの」
 茶に揺蕩(たゆた)う梅の花びらを描き、さらさらと詩をつけた。

『 梅薫る 日和まどろみ 夢現つ 鳴くや鶯 春の訪れ 』

「まだまだ未熟じゃな」
 ぽるしぇに積んだ荷物から蹴鞠と大凧を取り出すと緋月は駈け出した。

「いくぞぉ!」
 雪切が大きく後ろに足を振り上げて蹴鞠を蹴り出した。
「甘いぃ!!」
 平島は足を使ってビュンと風を切る蹴鞠を受け止めると蹴り返す。
「蹴鞠はそのように使うのではな〜い! しかし、楽しいから‥‥よいのじゃ★」
 緋月は少し考えてフィーを大凧での空中遊覧に誘った。
「落ちないように気をつけなくてはいけませんよ」
 松浦は縄で緋月とフィーの体を大凧に結びつけると笑顔で送り出した。

「さて俺も仕上げるかな」
 鷹見は自分の絵の仕上げに入った。
 1日で仕上げる絵である。いつものように手の込んだものではない。
 しかし、だからこそ新たな刺激を与えてくれたような気がした。
 梅を背景にしたフィーの笑顔‥‥
 いつも描いていたあの笑顔とは少し違うように感じるのは気のせいだろうか‥‥
「できた」
 ドクターが満足そうに筆を置いた。
「これは何だ?」
 鷹見は、ちんちくりんの太った馬に羽が生えたような絵を見て唸った。
「う〜ん、動かないものは結構得意なんだがね〜」
 へきょへきょ‥‥
 鶯の声が梅林に響いた。