【深緑】 おでかけ女神4

■シリーズシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 3 C

参加人数:8人

サポート参加人数:6人

冒険期間:04月08日〜04月16日

リプレイ公開日:2005年04月18日

●オープニング

 ここは下野国那須藩内、エルフの隠れ里‥‥
 木々には芽が吹き始め、下草も若青の葉を伸ばし始めていた。
「若兄にゃふ〜、若兄にゃふ〜♪」
「は? 私ですか?」
 フィーがウンウンと頷いている。
「どこでそんな言葉を憶えてきたのですか?」
「前に通りがかりの冒険者の人が言ってたの」
 判断に迷ったのか、フィーは若長の袖を引っ張って山菜を指差す。
「採ってもいい?」
「これはもう少し大きくなってから。こっちは採ったら次の芽が出ません」
 若長はあれこれと教えると1度だけ溜め息をついた。
「今まで通り『若兄さま』と呼んでくれると私は嬉しいのですが」
「は〜い♪」
 さすがに人の踏み込まぬ山である。春の息吹をフィーたちは沢山収穫することができた。

 さてさて‥‥
「ねぇ、若兄さま。桜が咲いたね♪」
「あぁ、新緑も美しいが、桜の花も綺麗なものです」
「若兄さま、桜ってやたらと伐っちゃ駄目なんだって。この前、梅を見に行った時に教えてもらったの。
 『桜伐る馬鹿、梅伐らぬ馬鹿』って言葉があるんだって言ってたよ」
「いいことを教えてもらったね。
 そうだ。そろそろ麓でも桜が咲いているのではないかな。
 山の桜とは違って麓に咲く桜もきっと綺麗だよ。連れて行ってもらうかい?」
「うん、行く♪」
 フィーにとって冒険者に連れて行ってもらう『お出かけ』は楽しい経験となっているらしい。
 隠れ里での暮らしも楽しいようだが、普段とは違う刺激は彼女に様々な経験を重ねさせている。
「今度も楽しいといいね」
「はい♪」
 フィーが楽しそうに話す旅での土産話は、里の者たちの楽しみにもなっている。

 ※  ※  ※

 江戸冒険者ギルド那須支局の番台が縁側で茶を飲んで一服していると、1人のエルフが中庭に現れた。
「こんなところから失礼する。またフィーの護衛を頼みたいのです」
 斯く斯く然々とエルフの説明を聞いて、ギルド那須支局のは番台は頷く。
「今度は桜見物ですか。いいですな〜。はい、確かに依頼の方は受け付けました。江戸に送っておきます」
「では、よろしくお願いします」
 依頼の受付を終えた番台は、江戸ギルドへ戻る職員に依頼を言付けた。

●今回の参加者

 ea0196 コユキ・クロサワ(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea0204 鷹見 仁(31歳・♂・パラディン・人間・ジャパン)
 ea0984 平島 仁風(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5908 松浦 誉(38歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea6228 雪切 刀也(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6601 緋月 柚那(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea8214 潤 美夏(23歳・♀・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 ea8714 トマス・ウェスト(43歳・♂・僧侶・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

湯田 鎖雷(ea0109)/ グラス・ライン(ea2480)/ ニライ・カナイ(ea2775)/ ネフェリム・ヒム(ea2815)/ 橘 雪菜(ea4083)/ 飛鳥 祐之心(ea4492

●リプレイ本文

●場所取り合戦
 花見と言えば場所取り。花見は場所取りが命!
 陣取って酒でも傾けようって輩がいれば、そりゃあ自ずと凄まじい様相を呈してくるわけで‥‥
「この辺、良さそうじゃねぇの?」
 とりあえずの確保をかねて下見に来ていた平島仁風(ea0984)は大きな桜の下で辺りを見渡した。
「けひゃひゃ、フィーも喜ぶだろうね」
 ドクターことトマス・ウェスト(ea8714)は、うまくフィーが来た頃に満開になってくれればいいのだがと思った。
「にしてもすまねぇな。つき合わせちまって」
 場所探しも兼ねて大勢の方がいいだろうと、今日の場所取りには何人か付き合ってくれている。
「場所は決まったし、あとは取っとくだけだけど‥‥ やっぱ冷えるな」
「風邪ひかれても困るしね〜。差し入れだよ。けひゃひゃひゃ」
 そう、春とはいえ朝夕はかなり冷え込む。油断してお腹を出したまま寝てしまうと大変なくらい。
 そんなこんなで手伝いに来てくれた仲間に平島とドクターは差し入れのどぶろくや寒さと雨に備えて毛布と傘を差し入れた。
 逆に仲間から差し入れてもらった薔薇薔薇饅を頬張りながら酒盛りが始まってしまった。
 篝火の下で歌を歌ったりして楽しんでいたのだが‥‥
「我が輩、秘蔵の酒でもどうかね〜?」
「俺は呑まねぇぞ? 呑んじまったが最後、どうなるか分かったもんじゃ無ぇ‥‥」
 皆で飲もうとドクターもどぶろく持参だった。嫌がる者に薬を飲ませる快感に似て、ドクターも途中で止められない。
「呑まなかったらもっともったいないだろう〜」
「って馬鹿、止せ。俺に酒を勧めるんじゃ無ぇ。止めろったら‥‥」
 本気で抵抗すれば平島とドクターでは相手にならない‥‥のだが、体は正直なのか平島は酒を飲んでしまっていた。
「ぶわっはははは」
 嗜むには程遠い速さで平島は酒を呷ると、着物を脱ぎ捨て踊りだした‥‥
 同席していた女性騎士は当然のこと、男たちもゲンナリしている。
 暫くして‥‥
 酷く疲れた周囲をよそに寝こけてしまった平島とボロ布のようなドクターを置いて、仲間たちは帰っていった。
「ここを死守‥‥しなくてはならないのだね〜‥‥」
「ぐがぁああ‥‥」
 ばったり倒れこむように2人は眠り込んだ。
「全く‥‥ 酒は飲んでも飲まれるな、ですわ」
 一部始終を眺めながら料理の下ごしらえをどうしようか思いをめぐらせていた潤美夏(ea8214)は、ハラリと夜空に舞う桜の花びらを見て静かに酒で喉を潤した。溜め息をつくと毛布を掛けてやった。

「雨も降らないでほしいでほしいよな‥‥」
 などと言っていると降ってくるのが雨‥‥
 神様仏様のバカァなどと意味のない怒りをぶつけながら平島とドクターは傘の影でまるごと猫かぶりを被っていた。
 篝火の火は既に消えていた。テントでも張っていれば多少は違ったのだろうが、それもないときている‥‥
 ぶしぇ‥‥
「きっと風邪だね〜。一晩中、裸で寝てたからね〜。特製の薬でも飲むかね〜?」
「いや、遠慮しとく」
 悪寒を感じた平島はドクターの好意(?)を断った。
「今回だけだよ〜」
 ドクターがリカバーをかけると風邪が治った訳ではないが少し楽になった。まぁ、焼け石に水だが‥‥
「あら、ずぶ濡れですわね」
 桜餅でも作ろうと買い出しに出ていた潤美夏は、手のかかる御仁たちだと呆れながら手ぬぐいを渡した。
 雨でどうせ濡れ木ばかりだろうと持ってきた乾いた薪に火をつける。
「料理の下ごしらえするのですけれど、見ていても構いませんわよ」
 相変わらずの潤美夏だが、平島とドクターにとって有り難いことこの上なかった。
「いつもながら、どうなるか学んだらいかがですの?」
 つまみ食いしようとしている平島とドクターの手の甲に箸が突き刺さった。

●保護者たち
 エルフの里の若長がフィーを送りに来ていた。
 懐かしい再会に話も弾み‥‥
「にゃふとつける呼び方が流行っているのですか?」
「うちは鷹見さんしか喜ばへんって聞いたよ。だから『仁にゃふ』って呼んであげるといいんじゃないかな?」
 笑いを噛み殺したようにコユキ・クロサワ(ea0196)が、フィーに話しかけた。
「仁にゃふ♪」
「いや‥‥ 俺はいつもの呼ばれ方の方がいいな」
 鷹見仁(ea0204)は苦笑いを浮かべながら首を振っている。
「ほら、私の言った通りだろう?」
 若長が安心したように溜め息をついた。
「仁と呼んでくれた方が嬉しいよ」
「じゃあ、ジン。お花見、よろしくね♪」
「そうや。フィーちゃんに簪(かんざし)あげる‥‥ 早春の梅枝って言うんよ。また、お揃いやね」
 顔を赤らめてコユキが自分の髪を指差した。
「ありがとう♪」
「もう1個あればグラスちゃんともお揃いになったのになぁ‥‥」
 コユキは手に取らせて簪をよく見せた。
「これは俺からな。桜だって奇麗に咲かせた華で身を飾ってるんだからフィーも奇麗な服を着ようぜ?」
 鷹見が仕立て直した京染めの振り袖を取り出すと、コユキはフィーを奥の部屋へと連れて行った。
「いつも有難うございます」
「いえ、俺たちこそ楽しませてもらっていますから気にしないでください。いつもの笑顔で安心しました」
 雪切刀也(ea6228)は、しみじみと語った。
 暫し、保護者談義‥‥
「ね、似合う?」
「2人ともよく似合っているよ」
 コユキとお揃いの簪と着物で現れたフィーを鷹見たちは笑顔で迎えた。

●化け猫
 さて‥‥
 桜の名所は意外なほどすいていた。どちらかというと人っ子一人いないといった感じか‥‥
「あれは‥‥」
 桜の下に何かいる‥‥‥‥
「ほら、フィーちゃん、小姫ちゃん。うちの手ぇ、しっかり握ってな」
 というのも、近頃この桜の名所で化け猫が出るという噂で持ちきりだったからだ。
 男性陣の後ろに隠れながらコユキたちは様子を見、緋月は念のためにホーリーフィールドを張った。
「噂の化け猫ってお前さんたちのことか‥‥」
「やっと来たのだね〜」
「大変だったぜ‥‥ べしっ‥‥」
 丸まってた化け猫が顔を上げるとドクターと平島だった。
「おや、平島様‥‥ できあがってはいらっしゃらないようですけど‥‥」
 正確にはできあがった果ての姿なのだが‥‥松浦が知るわけもなく‥‥
 松浦は深々と礼をした。

 とりあえず何か食べようと一行は腰を落ち着けた。
 名酒『うわばみ殺し』、珍酒『化け猫冥利』、どぶろくとドクターが秘蔵の酒を並べる。
 寒い思いはしたが、初日に裸で寝てた平島と違ってドクターは風邪を引かなかったようである。
 寒さで消耗した体力はリカバーで回復していたから体力的には問題なかったが、寒くて眠れなかったために頭はボーっとするし、疲れてしまってしんどかった。
 だからこそ仲間が来てくれたのは、ひどく嬉しかった。
「いっぱいだね」
 フィーが何だろうと覗き込んでいる。
「ん〜、他にもフグの内臓を漬け込んだ酒が治療院にあったのだがね〜」
 研究用ということで持ってこなかったらしい。持ってきていたら、どうなっていいたことか‥‥
「君たちにはこれだよ〜」
「うちが持ってきた甘酒もみんなで飲んじゃおう。
 フィーちゃんと小姫ちゃんには甘酒ね。これ以外のお酒飲んだらあかんよ?」
 お子様用に甘酒を持ってきたのはドクターだけではない。コユキも抜かりはない。
「それにしても保存食ばかりで美味しい物が食べたいね〜」
 ドクターが焚き火で温まりながらぼやいた。
「材料があれば何か作りますけれど、大した物がありませんわ」
「それなら皆で採りながら来た山菜がありますよ」
 松浦誉(ea5908)が山菜を取り出した。
「夜は冷えますので、それで鍋でも作ることにしますわ」
 これも毎回の楽しみの1つ。フィーも潤美夏の料理を気に入ってるようだ。
「その前に花より団子。桜餅を用意したんですのよ。どうぞ」
「これも食べられるのかの?」
「どうぞですわ」
 緋月柚那(ea6601)が桜の葉の塩漬けを指差しているのを見て、潤美夏は頷いた。
「桜の木の下でのんびりと‥‥ ふふっ、最高の贅沢だ‥‥ か、辛〜〜!!」
 桜餅を頬張って雪切が慌ててお茶を流し込む。恐る恐る口に入れようとしていた松浦の動きが止まった。
「大当たり。良かったですわね。1人だけ、特別に口の中に夏を先取りできるようにしておいたですわ」
 何かあるとは思っていたが、今回は雪切が犠牲者だったようである。
 フィーたちが美味しそうに食べているのを見て、松浦は恐々食べた。
 どうやらネタばらしは間違いではなかったようである。
 辛かったのは1個だけだった。
「ささ、口直しにこれでも」
 雪切は湯飲みを飲み干した。
「水のようにぐいぐい飲める酒ですわ」
「さ、酒? 俺は酒が飲めないんだが」
「むぅ、残念ですわね。ただの水ですわ」
 珍しく外してしまい潤美夏は口を尖らせた。

「綺麗じゃ」
「ホントだね♪」
 甘酒の上には桜の花の塩漬けが浮かべられていた。
「折角だし、少し桜に纏わる話でもしようか‥‥」
 雪切の話に皆が耳を傾けた。
「ある所に家も身寄りもない少年がいて、桜に凭(もた)れながら、もうダメかな‥‥と散っていく花を上げていた。
 が‥‥、偶々(たまたま)散り桜を見に来た人に引き取られたそうだよ。
 少年は今も何処かで桜を見上げて、そのときの思いを少しずつ返していると‥‥
 桜の花は散るが、その分、人の縁を結ぶのかもしれないな‥‥」
「きっと神様が引き合わせてくださったのでしょうね。
 桜は『サ』の『クラ』‥‥ 田の神の御座所という意味があるそうですよ。
 ですから、お花見は、神様の来訪を祝って人々が花の下に集まったことが始まりとも言われているのですよ。
 私達も神様の訪れを祝い、楽しくお迎えしましょうか」
 松浦の話にへ〜っと頷きながら、一同はフィーと一緒に手を合わせた。

●花見
「花が咲いて嬉しそうやね」
 グリーンワードを使ったコユキが桜に頬を寄せている。
「いぃなぁ、コユキお姉ちゃん。桜ともお話できるの?」
「そうなんよ。フィーちゃんにも聞かせてあげられたらいいのに」
 ブワッと吹いた風に桜の花びらが散る中、松浦に肩車されたフィーが桜吹雪に手を伸ばす。
「いいな‥‥」
 その一瞬を心に留めて鷹見は筆を走らせる。
「すぐに散っちゃうね」
「それが桜の綺麗なとこ。うちは、そう思うんよ」
「な〜に、ここに桜の樹がある限り、来年も再来年も綺麗な花を咲かせるだろうね〜」
「桜が咲いて散る。これがなければ夏は迎えられぬのじゃ★」
 緋月の言葉にフィーたちは春が確実に訪れ、過ぎてゆくことを実感していた。
「鍋ができましたわ」
 潤美夏の声がした。

「知り合いが用意しておいてくれると聞いていたので取りに行ったのですが、薔薇薔薇饅でもいかがですか?」
「お花の饅頭だね?」
「そうですよ。綺麗なお饅頭でしょう? 花を愛でながら花を食べる‥‥ なんだか面白いですね」
 はむっとかぶり付くフィー。
「松之屋でも売っている物ですが、蛙屋というお店で作られた物のようですね。
 知り合いが看板娘として歌ったりしたこともあるのですよ」
「ひってみは〜い」
「食べてしまってから喋りなさい」
 松浦は笑いながらフィーの頭を優しく撫でた。

 フィーに風邪を移さないようにと隔離された平島は、死なせてしまった女房のこととか、郷里に残して来たお袋さんのこととか、喧嘩別れした親父さんのこととか色んなものに思いを馳せながら煙管をふかしていた。
 さすがに今日は騒ぐ気になろうにもなれない。
 性質(たち)の悪い酔っ払いなんかが近寄らないように見張りでもしてようと、桜に寄りかかって気だるそうにぼんやりしていた。
「おじちゃん。これ♪」
 視線を向けると、そこにはフィーが平島の顔を覗き込んでいた。
 フィーの手渡した椀には山菜の煮物が盛られている。
「皆で食べようって旅の途中で採ってきたの♪」
 椀と箸を受け取って、まずは汁を啜った。
「うめぇ」
 思わず口に出てしまった。
「薔薇薔薇饅って言うんだって。これも食べて早く元気になってね」
 駆けてゆくフィーに、あぁと一言呟いて平島は料理を口に頬張った。
「ほんと、いい子だねぇ‥‥」
 ぐじっと鼻水を啜ると山菜鍋を口に運んだ。

●夕焼けに花明かり、星空に夜桜
 篝火に照らされた夜桜は昼間とは違った趣を醸し出している。
 化け猫の噂のせいかフィーたちの貸しきり状態だ。
 松浦がフィーたちと作ったてるてる坊主のお陰か、雲はすっかり晴れて月が姿を見せている。
「これまではよく、父上母上を初めとして親族の者らと共に花見を行なったものじゃ」
「楽しそうだね」
「いや、特別騒ぐというわけではなく、桜を愛でる‥‥ それだけだったからの。退屈じゃ」
 フィーがどこか心配そうに緋月を覗き込んだ。
「でも、一番のお気に入りの場所だったかの。こちらの桜も風雅じゃ。今日はフィーらもおるし、楽しいのじゃ★」
「こんなに一杯桜が生えてるなんてスゴイよね。とっても綺麗♪」
「たくさんの桜の木があれば、その中にひとつ長老たる古木があるはずじゃ。探してみたいものなのじゃ」
「じゃあ、競争だよ」
「あぁん、転ばんように気ぃつけんと」
 駈け出した2人の後をコユキが追う。
「コユキお姉ちゃん、この辺で一番古い木ってこれかな?」
「違う思うよ。えっとね‥‥」
「あ〜、言っては駄目じゃ」
 緋月が慌ててコユキの口を塞いで、次の木を探しに駈け出した。
「そういえば、異国ではエルフは普通に街に暮らしておるというの。フィーらは何故隠れ里で暮らすのじゃ?」
「う〜んとね。遠い所から定住の地を転々として長い間にジャパンに流れ着いたんだって大じいじが言ってたよ。すごく昔のことなんだって。
 今の里で暮らし始めたのは、九尾の狐たちに襲われて仲間を殺されて人間たちと一緒に戦ってからみたい」
 緋月の問いに、フィーは思い出しながら答えた。

「夜桜はまるで枝に雪が積もって居るみたいで奇麗だろ?」
 鷹見は酒を舐めながら桜を眺めてフィーに語りかけるが、返事はない。
 フィーは気持ちよさそうに寝息をたてている。
「おや、寝てしまったんですね」
「俺にも少しだけ父親の気持ちってヤツが分かった気がするよ」
 松浦と視線を合わせて鷹見が微笑んだ。
「春愁、闇色の桜‥‥昼間の鮮やかさも、夜では隠れてしまうな」
 桜に凭れ掛かって雪切は見上げた。
「夕闇の中に映え浮かぶ花びらは花明かり‥‥ 夜桜もまた趣きのあるもの。
 一刻一刻異なる顔を見せる花は、命そのものとも言えるのでしょうね。
 フィーだけでなく私たちも日1日と成長しているのです。美しく、趣深く生きたいものですね」
 松浦は美味しそうに杯を空けた。