【深緑】 おでかけ女神5

■シリーズシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:4〜8lv

難易度:易しい

成功報酬:2 G 88 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月11日〜05月18日

リプレイ公開日:2005年05月19日

●オープニング

 ここは下野国那須藩内、エルフの隠れ里‥‥
「また鬼が出たのですか‥‥ しかし、狐たちの動きが全く感じられないのも気になりますね‥‥」
 土の匂いにエルフの隠れ里の若長が振り向くと、泥のついた頬っぺたを薄赤く染めたエルフの娘が1人。
「若兄さま、美味しそうでしょ」
 抱きつくように抱えるフィーの胸には、いっぱいの筍が‥‥
「本当だね。フィーが採ったのかい?」
「そうだよ。姉さまたちに手伝ってもらったの。これはフィーが見つけたんだよ」
「ほぉ、なかなか形も良いし、美味しそうじゃないか」
 若長は、嬉しそうに筍を見せるフィーの顔を拭いてやると、里の女に視線を移した。
 女エルフも山菜の籠を抱いている。
「若長‥‥ 大変な年ですが、山の恵みは例年通り。とりあえずは一安心ですね」
「本当に‥‥ それでは、数日のうちにでもそろそろ隊を編成して狩りにも出発しましょう」
 現在、那須のエルフの隠れ里では春の山菜取りに余念がない。
 当面の保存食用なのか、狩りもするようである‥‥

 ※  ※  ※

 江戸冒険者ギルド那須支局の広間で、農民たちへ向けた薬草に関する講義が開かれている頃‥‥
 ギルドの番台は1人のエルフが近づいてくるのに気がついた。
「那須藩も色々と始めたようですね。藩政が軌道に乗ってくれればいいのですが‥‥」
「そうですね。那須支局も、このように場所の提供などで貢献できて幸いです。ところで、またフィー嬢の護衛ですか?」
「えぇ、またフィーの護衛をお願いします。今回は‥‥」
 エルフの説明に相槌をうちながら、ギルド那須支局の番台は受付を済ませていく。
「今度は沢遊びですか‥‥ 確かに依頼の方は受け付けました。江戸に送っておきます」
「それでは、フィーをよろしくお願いします」
 依頼の受付を終えた番台は、ちょうど訪れていた飛脚便の青い髪のシフールに依頼の受付表の配達を頼んだ。

●今回の参加者

 ea0196 コユキ・クロサワ(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea0204 鷹見 仁(31歳・♂・パラディン・人間・ジャパン)
 ea0984 平島 仁風(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5908 松浦 誉(38歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea6228 雪切 刀也(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6601 緋月 柚那(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea8214 潤 美夏(23歳・♀・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 ea8714 トマス・ウェスト(43歳・♂・僧侶・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●名水の渓流
「瀬や岩陰に色々な生き物もいますよ。山には山の水には水の営みがあるのです」
「ホントだ♪」
 松浦誉(ea5908)の指差す先の生き物たちに目を輝かせ、フィーは気持ち良さそうに渓流に張り出した岩の上でパシャパシャと足バタつかせている。
「フィーちゃん‥‥」
 いつものようにギュッとフィーを抱きしめるコユキ・クロサワ(ea0196)だが‥‥ 
「何かあったの?」
「え? ‥‥ ううん。何でもないんよ。少しだけこうしててええかな?」
 顔を上げて心配そうに覗き込むフィーに、コユキは苦笑いにも似た笑顔を浮かべる。
 いつもならこんなこと聞きはしない。どちらかというと問答無用で抱きしめて勝手に赤面しているのだから‥‥ 
「うん♪」
 抱きしめたコユキの手の甲をキュッと握ってフィーは体を預けてくる。
 コユキは心の中で気になっていたことを払拭すると黄金色の髪に頬を寄せた。
「コユキ! 何をやっているのじゃ♪ 皆、待っているのじゃ♪」
 背後から飛びつくように抱きついてきた緋月柚那(ea6601)に2人は前のめりになる。
「おいおい、危ねぇぞ」
 平島仁風(ea0984)は、咄嗟に伸ばした手を引っ込めた。
「そろそろ食材の調達に行こう。先生、一体何を採ればいいのか俺に教えてくれるかな?」
 鷹見仁(ea0204)は描いていた絵を片付けるとフィーとコユキの肩を叩いた。
「あ、折角沢遊びに来たのですから笹舟で競争しませんか?」
「お、懐かしいね。やるか?」
 なかなか面白そうだと松浦の申し出に平島たちは乗り気だ。
「そうですねぇ‥‥ 優勝者が最下位へ、何か一つ願い事ができるという形は如何でしょう?」
「気合入れていかねぇとな。フィー、やってみるかい?」
 ドクターの実験台とか、実験台とか、はたまた実験台とか‥‥ 嫌な想像が頭をよぎって絶対最下位は嫌だと気合の入る平島。
「俺が勝ったら最下位の人には、何をやってもらおうかな」
 立ち上がって膝を少し折り、両手をにゃんこに真似て、一回転しながら躍動的に?にゃあにゃあ?と言う‥‥
 そんな格好を雪切刀也(ea6228)を思い浮かべていた。
 確か、どこかでこんな感じの御呪(おまじな)いがあったようなと思いながら‥‥ まあ、それは、いいとして‥‥ 
「フィーちゃんや小姫ちゃんを『みゅっ』て抱きしめたいなぁ」
 そう言いながらコユキはチラッと雪切を見た。思わず耳たぶまで赤くなってしまう。
「若い者はいいものだね〜〜」
 しれっと皆に聞こえるようにドクターことトマス・ウェスト(ea8714)が言う。
「ち、違うて。変なこと言わんといて」
 何を言われたわけでもないのにコユキが普段にも増して赤面している。
「我が輩は何も言ってないのだ〜。けひゃひゃひゃ」
「も〜」
 自分でも何がなんだかわからなくなってコユキはポコポコドクターを叩いている。
「フィーにもできるかな」
「フィーさんにもできますよ。教えてあげますから笹舟を作ってみませんか?」
「やってみる♪」
 決定である。
 だが、その前にしなくてはならないことがあるわけで‥‥
「さぁ、皆さん。食いたかったら、その分の仕事をするのですわよ。笹舟はその後」
 熾(おこ)したばかりの焚き火の前で潤美夏(ea8214)が腕組みをしている。
「薬草採集のついでに沢遊びに来たのだから、しっかり採るのだよ〜」
「違うって」
 仲間に一斉に突っ込まれたドクターは笑ってごまかした。

●山菜狩り
「これは何ていう草なんだ?」
「これはね、ナズナ。食べられるよ♪」
 フィーに確認して雪切は籠の中に山菜を収穫した。
「じゃあ、こっちは何て言うんだ?」
「それは、セリ。でもね。今頃は毒のあるセリも生えてくるから間違えないように採らない方がいいんだよ」
 採ろうとしていた鷹見がビックリしたように固まっている。
「それは普通の芹。毒の芹は、もっと葉が細うて先が尖っとるしね。
 どうしても調べたかったら掘り返したらええんよ。筍みたいな節があったら毒の芹や。
 尤も‥‥ 自信がなかったら、フィーちゃんの言うように採らない方が安心なんよ」
 このあたりの知識と経験がフィーとコユキの差というところか‥‥
「それにしてもフィーちゃん、すごいねぇ。えらいえらい」
「若兄さまたちと一緒に薬草採りに行ってね。教えてもらうの♪」
 コユキの笑顔にフィーも笑顔を返す。
「七草が揃うかな?」
「1つ場所で見つかるものでもないんよ」
 雪切の問いに首を傾げるフィーの代わりにコユキが答えた。
「あ‥‥ ジン、すごいね」
「お、これか? 美人の絵ばかり描いてきたけど、たまにはいいかなと思ってね」
 スラスラと走らせる筆の跡に残る墨に山菜の息吹が宿っていくような気がする。

「むぅ、これは‥‥ 毒だね。気をつけたまえ〜」
 その間にも熱心に薬草、いや毒草を中心に採取していくドクター。
「エゲレスの植物とはだいぶ違うのだよね〜。珍しい物が多くて研究が捗りそうだよ〜」
 近頃手に入れた博物誌の内容を思い浮かべながら、薬草と毒草と山菜を収穫していく。
「これは研究に使いたいから鈍器丸に乗せてくれたまえ〜。あ、鈍器丸に食われないようにしたまえ〜」
「何で俺が?」
 いつの間にか荷物も持たされた雪切が不思議そうな顔をして立っている。
「間違えないでくれたまえよ〜」
 一瞥もせずに頼むドクターに、雪切は諦めて荷物を運び始めた。

●ヌシ
 料理ができるまで、緋月はぶらりと散策することにした。
 春の息吹は新緑へと変わり、草木のむせる様な香りが漂ってくる。
 森の中は存外寒い。念のために着てきたまるごと猫かぶりが役に立ちそうだった。
「何処かに山神様が祭られてある場所はないかのぅ」
 川を目印に迷子にならないように歩いていた緋月は、ガサッと言う物音を聞いた。
「くぇっ」
 そこには河童の姿が‥‥
「化け猫、俺たちの縄張りに何しに来た」
「違うのじゃ。これはかぶりもので‥‥」
 問答無用と伝わってくる河童たちの視線に、皆まで言う前に猫緋月は逃げ始めた。
「連れに何すんだ? そっちがその気なら容赦はしねぇぞ」
 褌一丁で仁王立ちの平島。
 松浦と一緒に魚や沢蟹を獲っていたのである。お、結構な収穫‥‥ と、それは置いといて。
 咄嗟に猫緋月は平島の後ろに隠れた。
「少しの間だけ居させてくれ」
 腰に差していた十手と煙管を抜くと、ニヤッと笑って河童たちを指した。
「ヤダ」
 河童の即答に平島の額がピクリと動く。
「まぁまぁ、話せばわかりますよ。勝手に踏み込んで騒がせてしまった非礼はお詫びします。
 少しの間で良いのです。滞在を許可していただきたいのですが‥‥」
 頭を下げて穏便に済ませようとする松浦だが‥‥
「ヤダップ」
 とまぁ、こんな調子では話し合いにもならない。
「魚が逃げちゃったじゃないか。話し合おうよ。言葉は通じるんだからさ」
 山菜採りをやめて釣りに転向していた雪切が竿を置いて岩陰から腰を上げた。
「化け猫め‥‥ 化け犬の他にもこんなに仲間がいるとは‥‥」
「お、俺?」
 化け犬と指差された平島が自分を指差して仲間に同意を求めている。
「その態度がキモイのですわっ!」
 河童は助平だと確信している潤美夏にとって、ねめ回すように眺める河童の視線にさらされるのも気分が悪い。
「化け狸まで仲間だとは‥‥」
「だ〜れが狸ですってぇ?」
 河童の虚をついて太腿の裏に手をあてると、そのままひっくり返すように投げ飛ばした。
「お〜、勇ましいこって」
 平島がパンパンと拳を手のひらに打ち付けている。
「クエァップ!」
 悲鳴を上げて河童たちは逃げ帰っていった。
「あれがヌシなのでしょうか?」
「まぁ、あれで済んだのですから良いのではありませんか?」
 溜め息をつく松浦の背中をポンと叩くと雪切は再び釣りに戻っていく。それを見て、負けじと松浦も竿を取った。

●笹舟れーす
 1枠は、適当に作ったエゲレス仕込みのトマス号。果たして浮くのか!
 2枠は、緋月号は手ほどきを受けながら見よう見まねで作った初号機。初心者にありがちな幸運は訪れるのか!
 3枠は、何と、この歳で同じく初経験の雪切号。波乱万丈な展開が待っているのか!
 4枠は、優勝大本命。子供の頃は殆んど負けなしだったという水を得た魚、松浦号!
 5枠平島号は、小さすぎずもせず、大きすぎない笹を選んだ中型船。形としてはなかなかの出来栄え。子供の頃に会得した小さな石を重り代わりにする作戦に期待!
 対して6枠鷹見号は、大きめの葉を織り込んで小さめに作った重量船。この選択が吉と出るか今日と出るか!
 7枠は、逆に小さい葉で作られている潤号。小型船故の小回りの良さが勝負の分かれ目となるのか!
 8枠コユキ号は厳選の1枚。森に造詣の深い彼女の目に適った葉は、期待に応えてくれるのか!
 最後に9枠は注目のフィー号。初体験ながらコユキの選んだ葉っぱに松浦の指導で作ったという最強の組み合わせ。
 出走準備は整ったようです。

「舵さえない舟ですけれど、沢の流れに想いを乗せてどこまでも流れていくのです。
 それでは各々の想いを乗せて、放しましょう」
 松浦の合図と共に笹舟が流れに置かれた。

 さて‥‥
 まず、最初の難関。流れが変わる岩の手前の渦。
 あ〜っと、脱落したは鷹見号。沈んだまま浮かんでこなくな〜い。重すぎたのか〜。
 なかなか渦を抜け出せなかった潤号を最後に、現在先頭は5枠平島号。
 続いてコユキ号、松浦号となっております。
 段がつくように急に流れが遅くなる難所に差し掛かっております。
 なんとここで番狂わせ! 流れに沿ってヒラリと艇を返した平島号の重りが落ちました。そのまま艇もひっくり返りって‥‥ 波に呑まれた〜!!
 おっとぉ、ここは黄泉への入り口か? トマス号、雪切号に続いて緋月号まで沈んでいったぞ。
 そして〜、彼らの船にぶつかって助けられるように難所を切り抜けたのがフィー号。
 何という運命の悪戯か、僅か4艘。最初の難所を抜けたのはコユキ号、松浦号、フィー号、潤号の順であります。
 そして流れのゆるいこの場所で追い上げてくるのが潤号。追い風を受けてグングン追い上げております。
 次なる難所は、枝や葉っぱの溜まっている流れの溜まりだ!!
 お、お! ここでフィー号が松浦号と接触! まるでフィー号を身を挺して守るように松浦号は自ら流れの溜まりに嵌っていった〜!
 そして! 潤号が、ついに先頭に!!
 しかし、この先は最大の難所! 滝のように流れが落ちているぅ!!
 真っ先に飛び込んでいった7枠潤号! なん、なんと浮かんでこない〜!
 そこへ横一線の8枠コユキ号と9枠フィー号! ここを先に越えた方が恐らくは優勝ということになるでしょう。
 勝負の一瞬は‥‥ ぉお! フィー号です。滝の渦に呑まれたフィー号が先に浮かんできました。
 コユキ号は浮かんできましたが、何度も渦に呑まれていま〜す。
 フィーに一番いい葉を渡してしまったのが敗因か〜!
 と、ここでフィー号が到着〜!!
 9艘中、1艘しか辿り着けなかったという波乱の展開でしたが、優勝者はフィー嬢!!

●お食事会
「まだ、わからないのですわね。ちゃんと焼けていませんわ」
 焼き始めたばかりの魚に手を伸ばそうとする平島の鼻を箸でつまむと、やれやれと、そのまま脇に追いやった。
 5回目のお出かけともなると、誰がどの分担とか決めるわけでもないのに何気に手際がいい。
「まだ夜は寒いし、風邪ひくといけないしね。お着替えしよう♪」
 コユキは3人分の着替えを抱えてフィーと緋月を連れた。
「覗いたら駄目やよ」
 コユキが念を押す。
(「そんなこと言われたら余計に覗きたくなるじゃないか‥‥」)
 と、男の夢(鷹見や松浦には一緒にするなと怒られそうだが‥‥)に忠実な平島は思ったりしたが、実行には移さなかった。
 もっとこう、女っぽければ覗きに行くのだが‥‥ などと脳裏をよぎったのだが‥‥
 薄らにやけた顔でも見られたのだろうか潤美夏の視線が何故か冷たい。
 プラントコントロールで目隠しすると3人の姿は平島たちからは見えなくなった。
「なぁ、お前さんは着替えないのか?」
「そんなに悩殺されたいんですの?」
「いんや、そういうわけでは」
 ごずっ‥‥ 
 肘討ちに悶絶しながら平島は脂汗を流した。
「正直者は馬鹿を見る‥‥ 違いますわね。今日は調子が悪いですわ」
 首を傾げながら潤美夏は焚き火の方へ歩いていった。

 さて、今回のお料理はというと‥‥
 山菜を一緒に煮込んだ沢蟹汁と串刺しの焼き魚。
 特に焼き魚には潤美夏が用意していた塩が振られ、焚き火でじっくり焼き上げてあり、香ばしい。
「美味しそうだろ? いっぱい獲ってやったからな。たらふく食え」
 瞳を輝かせるフィーの頭を平島は楽しそうにぐりぐりと撫でた。
「美味し♪」
「本当に美味しいのじゃ」
「美味しいですね」
 疑いなく口に運んだフィーや緋月は兎も角、お手伝いをしていた松浦も笑顔で魚にかぶりついていた。
 周囲から絶賛の声が飛ぶ中、鷹見だけが複雑な表情をしている。
「これ‥‥ 塩振ってないだろ」
「あら、よかったですわね。塩辛い物ばかり食べていると体に悪いと噂で聞いたのですわ。それで塩を抜いておいたのですわよ」
 今回の悪戯の被害者は鷹見だったようだ。
「けひゃひゃ、ところでフィーは何をしてほしいのかね〜」
 沢蟹汁を啜りながらドクターはフィーに顔を近づけた。
「う〜んとね」
「ほら、しゃぶり箸はいけませんよ」
 箸を口に入れたまま考え込んだフィーを松浦が笑顔で諭すと、フィーはごめんなさいと箸を置いた。
「う〜ん‥‥ 皆のお家が見てみたいなぁ」
「それでは若長様に頼んでみるとしましょうか。私に異存はありません」
「俺だって、むしろ歓迎しますよ」
 口々にいろいろ言っているが、反対意見はないようだ。
「江戸かぁ‥‥ 迷子になってたフィーちゃんのこと思い出すわぁ」
 フィーに初めて会ったときのことを思い出してコユキは赤面しながら笑っている。
「別に迷子になってたわけじゃないもん。帰れなくなっただけだもん」
「それを迷子と言うのだよ〜」
 ドクターに突っ込まれて頬を膨らますフィー。
「そんな顔、せぇへんの」
 そのふわふわの頬っぺたを軽く引っ張ってウニウニするとコユキは笑った。