【深緑】 おでかけ女神6
|
■シリーズシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:4〜8lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 60 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:06月15日〜06月25日
リプレイ公開日:2005年06月23日
|
●オープニング
ここは下野国那須藩内、エルフの隠れ里‥‥
蹄の音が聞こえてきた。
「おやおや、また乗せてもらっていたのかい?」
「よかったねぇ」
倒木で傷ついた草木の世話をしていたエルフたちが、作業の手を休めて話しかける。
艶々した張りのある白い毛並みに立派な鬣(たてがみ)、額には均整の取れた螺旋を描いた角が1本。
知る人ぞ知る一角馬という生き物である。名をアリオンという。
この一角馬は人に狩り立てられ、逃げ惑っていたところを冒険者たちの要請を受けて江戸の冒険者ギルドの手はずで救出され、ここエルフの隠れ里に匿われている。
この里のエルフの娘・フィーのことが気に入ったらしく、毎日のように現れては話し相手になったり、背に乗せているらしい。
‥‥とまぁ、ここまでは美しい話なのだが‥‥
『ええぃ、触るでない』
男嫌いだった‥‥
「触らせてあげたらいいのに」
『いや、それは‥‥ その‥‥』
フィーの言葉と自己立脚点(そうなのか?)との板ばさみになってアリオンが悶える姿にエルフたちから笑いがこぼれる‥‥
『えぐっ‥‥ ま、また会おう。ふぃー』
「じゃあね〜♪」
パタパタと手を振るフィーを尻目にアリオンは山の中へ帰っていった。
キラリ、光る物を残して‥‥
「あぁ、フィー。こんなところにいたのですね。アリオンと出掛けていたのですか?」
「若兄さま、向こうの滝まで連れて行ってもらっちゃった」
「よかったね。でも、あまり遠くに行ってはいけないよ」
「は〜い♪」
エルフの隠れ里の若長が駆けてきて、フィーに微笑を向けた。
「長老との繋ぎと那須藩への薬草の卸のために何人か山から降りるのだけどフィーも一緒に行くかい?
そろそろ江戸へお出かけする約束の時期だったろう?」
「行く♪ ねぇ、若兄さまも一緒に行こうよ。楽しいよ」
袖を引っ張るフィーに若長は困ったように苦笑いを浮かべた。
「そうしたいのは山々だけど、この里を守らなくちゃいけないからね。ここを離れるわけにはいかないんだよ」
「残念だなぁ‥‥」
本当に寂しそうにするフィーを見ていると放ってはおけない気になってしまう‥‥と、何か閃いたように若長に笑顔が戻った。
「それでは何かお土産をお願いしようかな」
「うん、わかった♪ 楽しみにしててね」
「楽しい旅になるといいね」
笑顔の戻ったフィーを見ていると、若長も嬉しくなるのだった。
「フィー、これを運んでくれないか?」
「は〜い♪」
微笑ましいやり取りに作業の手を休めていたエルフから木の皮の束を受け取ると、フィーはお手伝いを始めた。
※ ※ ※
江戸冒険者ギルド那須支局では、エルフと十矢隊足軽の手伝いを得て支局の備蓄分薬草の点検が行われていた‥‥
「依頼の方は江戸に送っておきました。追っ付け冒険者が派遣されるでしょう。
ところで七瀬計画というのが動き始めたと聞きましたが‥‥
何でも天狗の秘薬やエルフの秘薬を売り出すとか何とか‥‥」
交代で座っているギルドの番台たちも今日は総出でお仕事。薬草箱を掃除しているエルフの1人に番台が声をかけた。
「まぁ、それで私たちもこうして借り出されているわけで」
エルフが思わず笑みを漏らした。
「実際、どこまでの薬ができるのかわかりませんが、珍しい薬草なども使うようですから、それなりの物は完成するでしょう。
どれほどの物になるかは、これからというところです」
ふ〜んと番台が頷く。
「それはそうと、フィー嬢の今度のお出かけは江戸なんですね」
「えぇ、治安が良いとは言い切れませんからね。少し心配ではありますが」
「大丈夫です。そのための冒険者たちですから」
周りに笑顔を巻き起こしながらお手伝いをするフィーの姿を見て、エルフと番台にも笑みがこぼれた。
●リプレイ本文
●峠の茶屋
「ホントよく来たねぇ。おばちゃん、あれから心配してたんだよ」
茶屋のおばちゃんが美味しそうに団子を頬張るフィーの頭を撫でて話をしている。
このおばちゃんが冒険者ギルドに行ってごらんと言わなければ今日のフィーはなかったかもしれない。
一行にしてみれば神様のような人といっても‥‥過言だが、それに近いくらい感謝感謝なのだった。
「なぁ、角馬ってどんな珍奇な生き物なんだ? 見たことないから興味あるなぁ。教えてくれよ」
雪切刀也(ea6228)はフィーの二の腕を肘でチョンと小突いた。
「お話しちゃいけないって言われてるんだもん。いくら刀也お兄ちゃんでも教えてあげられないよ」
ここまで言えばフィーの里にいるとバラしてるも同然なのだが、それは置いといて‥‥
「話を聞けば、へんてことな‥‥」
「小姫ちゃんでも教えられないの。ごめんね」
緋月柚那(ea6601)も聞きたがるが、フィーは詳しく話してくれない。
しょうがないと、じゃれてくる柴わんこに餌を与えた。
「長老様や若長との約束なのでしょう? 偉いですね」
知り合いから預かった手紙を既にエルフに手渡して安心したこともあり、フィーが自分たちの家を訪ねてくれるということもあって、松浦誉(ea5908)は嬉しさを隠し切れずにいる。
「我が輩の研究のために角をガリガリ削らせてほしいものだね〜」
「ドクターには絶対教えてあげない」
ドクターことトマス・ウェスト(ea8714)からツーンとそっぽを向いたフィーに一行から笑いが漏れる。
「ひどいね〜。削った分は、誰かに頼んでクローニングくらいかけてやるのに〜」
半分本気なのが怖いところだが、半分しか本気じゃないからそれでよしとしよう。
「ねぇ、フィーちゃん。白い馬ならうちにもおるんやで。お友達の馬やねんけど、今はうちが預かってるねん‥‥
大人しくって、うちでも乗せてくれるんよ‥‥ 京都に行く時に乗せてもらったねん‥‥」
「可愛い?」
「う〜ん、見てのお楽しみや」
ちょっと残念そうな顔をするフィーにコユキ・クロサワ(ea0196)は小声で『ごにょごにょ‥‥すごいなぁ‥‥』と耳打ちする。
2人顔を見合わせて思わず微笑んだ。
「何だい何だい? 楽しそうだね」
「うん♪ お姉ちゃんたちのお家に遊びに行くの」
「そうかい。そりゃ、楽しみだねぇ。そうそう、帰りには、またここにも寄ってくれるかい?」
しゃがみ込んだおばちゃんがフィーに笑顔を向ける。
「いいよね?」
構わないと首を縦に振る鷹見仁(ea0204)に、フィーとおばちゃんは、やったぁと手を打ち合わせた。
(「本当に良かったな。アリオン‥‥」)
かの事件の折にフィーの里のことを口ぞえした鷹見だけに、あの馬が安心して暮らせる場所ができたことを喜んでいた。出会ってしまえば一悶着ありそうではあるが‥‥
●コユキ宅
「うちの家は、ほんと何にもないよ?」
そう言いながらやって来たのは、今日フィーが泊まるコユキの家。
旅路で疲れた体を癒すように薬草の独特な匂いが鼻をくすぐる。
「平島さん、あまりキョロキョロしない。女性の部屋なんですからね」
「別に下心なんか無ぇってば、ホントに」
松浦に小突かれて平島仁風(ea0984)が苦笑いする。思わずキョロキョロしてしまう平島が悪いのだが、まぁ男なら仕方ない。
「あ、皆も上がってや。お茶くらい出すねん」
火種から火を起こして湯を沸かし始める。
コユキに頭を摺り寄せようと駿馬が首を伸ばしてくる。
「こんにちは。私、フィー。よろしくね」
フィーが鼻面を撫でると、駿馬も気持ち良さそうに目を細めた。
「コユキお姉ちゃん、薬草がいっぱいだね」
「そうや、薬屋さんのお手伝いしててな。そう言えばフィーちゃんも那須支局でお手伝いしとったなぁ」
コユキは相変わらずの赤面ぶりである。
「京都が大変なんだって。在庫を調べたり、色々しなきゃいけないことがあるの」
「そうなんや。うちも手伝えればええんやけどな」
ホッと一息‥‥
「これ、京都土産のお茶や‥‥」
湯飲みを並べようとしたコユキに雪切が、し〜っと指を立てる。
旅路であれだけハシャげば確かに疲れるだろう。
鷹見の膝に頭を乗せて眠るフィーと、どんぶらこっこと舟を漕ぐ緋月。
「お布団借りてきとるねん。ちゃんと寝かしてあげよ」
コユキがあたふた用意をはじめる。
ドクターたちも入れてもらったお茶をグッと飲み干して湯飲みを片付けた。
松浦がブホッと吹いて無言で悶絶している。
とりあえず、事もなげ‥‥
江戸には夜の帳が降りようとしていた。
●平島宅
一夜明けて待ち合わせた一行。向かった先は平島宅。
「お〜ぅ。白(あお)、玄(くろ)、帰ったぜ〜」
めひひ〜んと駿馬と戦闘馬がお出迎え。
床の間には日本刀や木刀が刀架にかけられ、鴨居の上には槍が横にかけられている。
部屋の隅には刀箪笥が置かれて、如何にも武士然とした部屋だぁ‥‥ だぁ‥‥ だぁ‥‥
「意外ですね‥‥」
「俺の家じゃ無いみてぇ? 余計な御世話だっつの」
松浦の率直な感想に平島が照れ笑いを浮かべている。
「いや、きっとこの辺に色々押し込めて‥‥ない‥‥」
鷹見が開けてみると提灯や鎧など冒険に使う道具が整理されている‥‥
「見直したのじゃ」
「ありがとよ」
ポムと叩いて何度も頷く緋月に平島も苦笑い。
「これは?」
「浪人してても心は武士。心得みたいなもんさ‥‥って照れるから、あんま聞くなよ」
フィーの指差した窓際に置かれた文机の上には、名前の彫られてない位牌、線香立て、花を飾った小壷、そして文房四寶も揃っている。
「まぁ掃除だの武士の心得だの、堅苦しいのはオヂさん嫌ぇだけども‥‥
『好きか嫌いか』と『やるかやらないか』は別物だかんな。
フィー嬢ちゃんも、好きな事ばっかじゃなくて嫌いな事もやれる様にしとかねぇと、大人になってから苦労するぜぇ?」
「うん♪」
グリグリとフィーの頭を撫でる。
「いい話だけど似合わないな‥‥」
「だから余計な御世話だっつの」
雪切に突っ込まれて赤面する平島は風に当たろうと戸を開けようとしてピシャリと閉めた。
「面白くないだろ? 他の人ん家に行こうぜ」
「何かあるのだね〜」
ドクターが不意をついて戸を開けると、そこには風にはためく褌の群れ‥‥
「干しといたのを取り込むの忘れただけだって‥‥」
「ま、この辺が、らしいと言えば、らしいのかな」
安堵の溜め息をつく鷹見に平島は、うっせぇと返すのであった。
●トマス宅
ずど〜ん‥‥ まさにそんな雰囲気のトマスの住処。
「いやはや、よく来たね〜。けひゃひゃひゃひゃ」
牛や鳥の頭蓋骨や骨が掛けられた看板には、さすがに引く‥‥
フィーも松浦の後ろに隠れて恐る恐る顔を覗かせている始末。
コユキに至っては完全に固まっていた。
「おや? 入らないのかね〜」
渋々入って見ると、中は外見ほど不気味ではない。何? 失敬? それは置いといて〜。
部屋に入ると壁一面に作りつけられた棚には毒とか幻覚とか書かれた薬や動物の骨が並べられている。
庭はと言うと不気味なキノコが‥‥
それは兎も角、薬が少ないのは何故‥‥
唯一かわいげのある物といえば、ドクターの知り合いが作ったという瓜で作ったジャコタンだけという惨状‥‥ いや、状況‥‥
「これ、埋めてあげようよ」
骨を指差して、可哀想とフィーがドクターの袖を引っ張る。
「実験の資料だからね〜。そういうわけには‥‥」
珍しくドクターがタジッとしている。
「あまりに『らしくて』言葉もない‥‥」
「ま、口出しはしねぇけどよ」
鷹見や平島が肩をすくめる。
「何故こうなるなのだね〜」
ドクターの叫びに仲間たちは一様に首を振ったという‥‥
結局コユキは雪切にしがみついて1歩も踏み入れることができなかったとか‥‥
●松浦宅
普段から几帳面に掃除されているのか部屋は綺麗にしてある。
目に付くのは、ピシッと並べられた手紙の束や飾られている絵などであろうか‥‥
朝一で摘んできて活けた下野草や小紫、夏椿がさり気なく置かれている。
「あまりにそれっぽくて言葉もないな。ドクターのとことは違った意味で‥‥」
「悪うございました」
鷹見の感想に松浦は苦笑い。
緋月とフィーがパタパタと走り回って、あちこち見ては笑っている。
「鷹見の部屋かと思ったのじゃ。絵が一杯じゃ」
「ホントだね♪ お船の絵が一杯」
「おいおい、子供の手習いと一緒にしないでくれよ」
「む、味があっていい絵ばかりですよ。子供の絵と馬鹿にしないでください」
この状況で親馬鹿に付き合っても得はないと、まあまあと押さえて鷹見が身を引くように苦笑いする。
「もしかして、これ」
フィーが松浦の顔を見て絵を指差す。
「そう、私なんですよ。これは息子が描いたもので、此方は‥‥」
既に茶や茶請けを出す用意は万端。湯を沸かすのをコユキら女性陣に任せた松浦が1枚1枚嬉しそうに説明を始めた。
「ま、こうなるのはわかってただけに‥‥な」
「いいじゃねぇの」
「ですね」
「フィーちゃん、楽しそうやわ」
茶を何杯か飲んだ後、放っておけば2日でも3日でも子供との思い出話を続けそうな松浦にコユキたちは声をかけた。
●緋月宅
それから、ちょろっと江戸見物をして向かったのは緋月宅。
出迎えてくれたわんこがフィーの足に頬を摺り寄せている。
「はは‥‥ くすぐったいよ♪」
しゃがみ込んだフィーの顔を舐めまわしている。
「フィーは、すごいのじゃ。どんな動物とでも仲良しなのじゃ」
「フィーちゃんが優しいってわかるんよ。きっと」
「きっとそうなのじゃ。それよりコユキ、手伝ってくれぬか? 茶くらい出したいのじゃ」
修行中の仮住まいというか、あまり生活感のない家である。
そこここにいろんな物が置かれていて、綺麗にはしてあるが整頓されているといった感じではない。
「たいして面白いものはないと思うがの。京の品が多いくらいじゃ」
それでも江戸では珍しい物に間違いなく、あれこれ話に花が咲いた。
さて‥‥
「それじゃ、また明日な」
茶をご馳走になって鷹見たちが帰った後に待っていたのは、どきっ女ばかりのお洒落会。
緋月が日頃着ている服や十二単などフィーにも合う大きさの物が、たくさんあるのだ。
「や〜ん、2人ともかわいい♪」
まるで人形のようである。コユキがたまらず抱きつく。
そこへ現れたのは‥‥
「ちょっと忘れもん‥‥」
めきっ‥‥
金ぴか仏像を顔面にめり込ませた平島が鼻血を流して昏倒した。
ちったぁ手加減しろとは平島の後日談‥‥
●鷹見宅
さて、江戸での3日目。
緋月宅前で待ち合わせた一行が向かったのは鷹見宅。
画房も兼ねた住まいなだけに、割りとすっきり片付いてはいるが、やはり散らかってはいる。
「わぁ♪」
「これはフィーじゃな?」
「そうさ。フィー、気に入ったのがあれば持ってかえっていいぞ」
鷹見が嬉しそうに笑う。
「フィーへの想いを感じさせますね」
色々と見比べ始めたフィーと緋月と一緒に松浦も絵を眺め始める。
「ほほぅ、こりゃいいや」
!
小声で声をかけてきた平島が手にしている物を見つけて鷹見の顔色が変わる。
ちゃんと片付けといたはずなのに‥‥ そう、心の中で叫びながら、鷹見は平島ににじり寄った。
フィーや緋月の教育上にはあまりよろしくないし、コユキが見たら熱出して倒れかねないと友人に手伝ってもらって隔離しておいたはずの春画だ。全く目敏いと言うか‥‥
「それはやるからフィーたちには見せるなよ」
「んじゃ、ありがたく」
平島はホクホク顔でそれを懐にしまった。
「どうしたん?」
コユキが怪しい雰囲気の2人に首を傾げている。
鷹見の額にタラッと汗が流れようとしたその時、まさに天の助け!
ばささ‥‥
白毛の目立つ鷹が軒先の止まり木に降り立った。
「こいつは俺の相棒の雪風だ。よろしくな」
鷹見が革の手袋をして腕を差し出すと雪風は器用に飛び移った。
「よろしくね、雪風」
ある程度以上近づかないようにしてフィーはニッコリ笑った。雪風もどこか嬉しそうに一鳴きしている。
「フィー、餌をやってみるか?」
「うん♪」
ブカブカの革の手袋を着けたフィーが差し出した肉を、ハシッハシッと啄ばむと雪風はそれを飲み込んだ。
●雪切宅
いかにもお前らしいなとは鷹見の言。
そう、ここは雪切宅。
どこか物静かな雰囲気だが日当たりはいい。居心地がいいといえばいいだろうか‥‥
「この大人しいのが浪(ロウ)、いつものんびり屋のテイル、このちっこい柴犬が涼(スズ)だ。
とても人懐っこいだろ? この子が一番好かれるかな‥‥ってフィーには関係ないか」
お腹をワシャワシャとくすぐるフィーに足踏みしながら涼が尻尾を振っている。
「みんな動物と一緒に暮らしているんだね。アリオンにも会わせてあげたいなぁ‥‥ あっ」
思わず口を手で隠すフィー。
「大丈夫。誰にも言わないさ」
雪切が微笑むと他の仲間たちも大きく頷いた。
さて、部屋の中には竹簡などの書き物が多い。
「あぁ、これ? 色んな事を学ぶのは割と好きなせいと、昔の名残だな」
「にしても、地味な部屋じゃ」
「地味? ほっとけ、いつもの事だ」
全員座れなくて竹簡を更に重ねる。
さて、地味じゃないものが1つ。今回、これのせいで肩を寄せ合って座らなくちゃならなくなっている。
ど〜んと飾ってある『大薙刀』だ。
「何気に邪魔だな」
「鷹見さん、人の家なんですから文句言わない」
「ご免な。重いんで鍛えるのには丁度いいんだ」
鷹見に苦言を呈す松浦に、雪切がタハハと笑う。
そんなこんなで、未だかつてない大所帯と大薙刀にみんな身動きが取れないでいる。
「よく人と話しているが、ここまで客が多いのは初めてだ‥‥」
「うちもよく話にくるんよ」
「ほほぅ。では、ここは若い2人に任せて」
「もう、違う言うてるやん」
赤面エルフが必死になって訂正する。
「ひゃひゃひゃ、何を赤くなっているのだね〜」
ポカポカ叩くコユキをからかい甲斐のある奴とドクターが楽しそうに笑っていた。そう、ニヤリと‥‥
●宿でのお泊り会
冒険者酒場で食事をとったフィーたちは、松浦の友人である朱鷺宮が手配してくれた宿に入った。
やっぱり最後の日くらいは皆で一緒に枕を並べたいと思うのが人情。
それにしても、楽しい時間はあっという間に過ぎるもので‥‥
「フィーちゃん、楽しかった?」
「面白かった♪ 里の皆が良いって言ったら、今度は皆を招待してあげるよ」
「ホントに? 嬉しいねん。約束やからね」
「うん♪」
枕をくっつけるようにして腹ばいで話していたフィーたちは、思わず応と低く声を上げた。
「大概で寝てくださいよ。他のお客様にご迷惑ですから‥‥」
宿の人に注意されて一行は布団を被り、声を殺して笑った。