【深緑】 おでかけ女神7

■シリーズシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 57 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:07月15日〜07月23日

リプレイ公開日:2005年07月24日

●オープニング

 ここは下野国那須藩内、エルフの隠れ里‥‥
『どうした、フィー? 何か楽しいことでもあるのか?』
 額に螺旋を描いた一角を持つ立派な体格の白馬が、草に埋めるように体ごと横たえていた首をもたげた。
 深い木々の中に開けた一角は柔らかい草が生えていて、風も陽の光も優しい。
 白い鬣(たてがみ)が風に靡き、フワッとエルフの少女・フィーにかかる。
「ふふ‥‥ 教えてあげようかな〜。でも、アリオンには内緒♪」
 金色の髪を押し当てながらフィーはアリオンの横腹の上をコロンと転がる。
『私は全て打ち明けているというのに‥‥ 切ないぞ』
「でも、内緒♪ 後でアリオンにも教えてあげるから」
『仕方ないな。それでは、気分を変えに山頂まで行ってみるか?』
「うん♪」
 アリオンは伏せたまま姿勢を変えるとフィーが乗ったのを確認してスッと立ち上がった。
 ととっ‥‥ 土を蹴る軽やかな音と共にアリオンは木々をかわしながら坂を登り始めた。

「さて、皆。フィーの友人が訪れるのだからといって羽目を外さないように」
「若長、そんな楽しそうな顔で言っても説得力ありませんよ」
 薬草を摘んだ籠を担いだエルフたちが、隠れ里の若長に突っ込んで笑った。
 柄にもなく片手を顔にあてて若長は苦笑いを浮かべている。
 この数ヶ月、この里のエルフたちが巻き込まれ、戦わなければならないような大きな事件は起きていない。
 それでも、これまでの慣習や神弓の守護のために里は相変わらず隠れ里のままだ。
 里に客を迎えるということ自体、長いことなかった‥‥というか、殆んどの者にとって初めての経験であるために浮かれるのは仕方のないことなのだろう。
 山が沸き立つ。そんな雰囲気と言えばいいだろうか。
「長老も久しぶりにお帰りになられるのでしょう? 本当に楽しみですね」
「あぁ、本当に」
 若長は仲間たちにいつもの静かな笑顔を見せた。いや‥‥ 嬉しさが滲んでいる‥‥か。

 ※  ※  ※

 那須支局を経て江戸冒険者ギルドにもたらされた依頼にギルドの親仁は驚きながらも、込み上げる微笑ましさに思わず笑顔になっている。
「フフッ‥‥ よっぽど、あのお嬢ちゃんに好かれたんだな。こんな依頼が来るなんてよ」
 集まった冒険者たちも、どことなく嬉しそうだ。
「ま、那須の騒ぎが収まったとは言い難いからな。隠れ里の場所がバレたりしないように気をつけて楽しんで来な。
 こいつは俺からの差し入れだ。お嬢ちゃんに宜しく言ってくれ」
 フィーに酒でも飲ます気か? と突込みが入りながらも冒険者たちは那須へ向かう準備を始めるのであった。

●今回の参加者

 ea0196 コユキ・クロサワ(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea0204 鷹見 仁(31歳・♂・パラディン・人間・ジャパン)
 ea0984 平島 仁風(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5908 松浦 誉(38歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea6228 雪切 刀也(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6601 緋月 柚那(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea8214 潤 美夏(23歳・♀・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 ea8714 トマス・ウェスト(43歳・♂・僧侶・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

鈴 苺華(ea8896)/ ティッチ・ミレフィ(eb1305

●リプレイ本文

●隠れ里
「遅かったな。フィーが待ちかねているぞ」
「誰かにつけられとったんよ。でも、安心してな」
 エルフの隠れ里の見張りをしていたエルフが周囲を気にしながらコユキ・クロサワ(ea0196)たちに近づいてくる。
「途中で用事を済ませて江戸に帰るふりして撒いてきたからよ。大丈夫さね」
 平島仁風(ea0984)が不敵な笑いを浮かべる。
「今は大きな動きはないとはいえ、油断はできないからな」
 今回は那須支局ではなく、里まで行くので十分に注意した方がいいと真っ先に提言した鷹見仁(ea0204)としては先ず先ずの結果である。
「あ、みんな〜♪ いらっしゃい♪」
 茂みの中から顔を出したフィーと一行は再会を喜び合うのだった。

「ここがフィーたちのお家だよ♪」
 何の変哲もない所謂(いわゆる)『山』なのだが、フィーの言い方からすると既に家の中?
 コユキや緋月柚那(ea6601)と手をつないで楽しそうに山に分け入っていく。
「自然を満喫じゃな‥‥ この辺りもお家なのか? 広いお家なのじゃ」
 目をパチクリさせる緋月を見て笑うフィーに、コユキは赤面しながら至福の時を満喫している。
「この里も久しぶりだな」
「そうですね。変わりなく」
「今回はゆっくり出来そうだと思っていたのに時間をくってしまったからな」
 エルフたちが鷹見や雪切刀也(ea6228)に手を振っている。雪切は少し残念そうだ。
「折角、フィーさんの里に御招待頂けたのです。嬉しいではありませんか。
 里の皆様の信頼を頂けたという証でしょうから、その信頼に応えるのも礼儀ですよ」
 道すがら、これが初めて登った木だよなど教えてくれるフィーを松浦誉(ea5908)は優しい笑顔で見つめている。
「滅多に体験できないことですので堪能することにしたいですわね」
 さっきまでは暑いですわと連発していた潤美夏(ea8214)も、木陰の涼しさに人心地ついたようである。
「けひゃひゃひゃ、本当に我が輩のような者が行っても良いのかね〜」
 ドクターことトマス・ウェスト(ea8714)がそれに続く。
 暫く歩くと、どこか神秘的な雰囲気の大木を中心とした広場に出た。
「よく来てくれましたね」
「まぁまぁ、この度は御里の令嬢・フィー殿の御招きに預かり、ノコノコやって参りやして」
「いぇ、こちらこそ。いつもフィーがお世話になって」
 冗談交じりの軽い挨拶だったのだが、丁寧に返す隠れ里の若長に平島も苦笑い。
「フィー嬢ちゃんの半分も生きられねぇ人の身なれど、嬢ちゃんの今後の生に欠片なりとも何か残せるんだったら、嬉しい事じゃあ御座んせんかってね」
「あの娘は今が成長していく時期。本当にあなた方には感謝していますよ」
「へっ‥‥ そんな大層なことはしてねぇんだけどよ」
 苦笑いに照れ笑いが混じる平島。
 そうこうしているうちに冒険者たちとエルフたちは打ち解けていくのであった。

「え〜、まずは皆の紹介をしたいと思います」
 輪の中心でフィーは緊張気味か‥‥
「まずは絵の上手なジン。皆、会ったことあるから知ってるよね?」
 さらっと流されて拍子抜けの鷹見だが、まぁ仕方ないと苦笑い。
「隣がお料理の上手な潤お姉ちゃん。お出かけするといつも色んなお料理を作ってくれるの。お髭に触ると気持ちいいんだよ♪」
 一斉に髭に注目され、ちょっと身を引く。
「そして、いっつも優しくしてくれるコユキお姉ちゃん。ぎゅ〜って抱きしめてくれると何だか安心するの」
 赤面エルフが節目がちにモジモジしている。
「次が怖そうに見えるけど、とっても優しいドクター。薬を研究してるんだって」
 けひゃひゃと笑い声が木魂してエルフたちがビクッとした。
「頑張り屋さんの巫女・小姫ちゃん。フィーとはすっごく仲良しなんだよね」
 ね〜と2人、目を合わせる。コユキも一緒にやってるあたり、周囲から笑いが起こった。
「そして、お父さんみたいに優しいのが松浦おじちゃん。
 肩車してくれたり、色んなこと教えてくれたりするんだよ」
 頭を下げ、顔を上げたときに相手が頭を下げているのに気がついて、また頭を下げるの繰り返しに笑いが起きる。
「気がつくと側にいてくれるのが雪切お兄ちゃん。姉さまたち、彼氏にするならフィーの一押しだよ♪」
 ボッと顔を赤らめて咳き込む雪切にドッと笑いが巻き起こった。
「最後に平島のおじちゃん。漢って何なのかとか、人生とはって色んな話をしてくれるの。お酒を飲むと大変なの」
 どんな話をされてたんだか、エルフたちが忍び笑いをしている。
 こら〜と立ち上がろうとした平島を避けるように輪の外に出ると、フィー奥へ駆けていく。
「何でしょうね」
「それはお楽しみと言うことで」
 若長の返答に頷くと、松浦たちはフィーの後を追った。

●おいでませ
「お祭りの出店なのじゃ」
 蔓や枝など野趣溢れる造形だが、目の前の広場の雰囲気は確かにあの温泉祭りだ。
「前に行ったお祭りを思い出してフィーが作ったの♪」
「ほんま、ええ子やね」
 えへんと満面の笑みで胸を張るフィーに、コユキが思わずぎゅ〜っと抱きつく。
「そういえばドクターの京都土産のお面がありましたわね。気分が出るのではございませんこと?」
 潤美夏は、ひょっとこの面を取り出すと余程気に入っているのか早速それを着けた。
「いい考えです」
 松浦たちは荷物からひょっとこの面を取り出すと、それを着けてみせた。
「ほれ、フィーの分もあるのだよ〜。京都のお土産だ。遠慮せずに受け取りたまえ〜。けひゃひゃひゃ」
 ドクターは、ひょっとこの面と一緒に紫陽花の浴衣も渡す。
「うわぁ、ありがとう」
 腕を取って喜ぶフィーにドクターの顔が心持ち赤い。
 さてさて暫しお召し替え‥‥
「お待たせ〜」
 浴衣に着替えたフィーたち女性陣を前に、おぉと男性陣からどよめきが起きる。
「みんな、楽しんでってね♪」
 フィーの言葉に一行は応と元気よく応えるのだった。

「なかなか上手くいきませんわ。もう1回」
 お小遣いとフィーから渡された枝の輪切りを潤は的中(まとあ)てにつぎ込む。
 本気で熱中するつもりではないが、どうやら景品の木彫りの動物が欲しいらしい。
「ここをこう。腕はしっかり伸ばして、そう‥‥」
 見かねたエルフが手とり足とり弓の射方を教えている。
 ひょん。フィーお手製の弓から弧を描いた矢はカランと音を立てて、ついに的に命中した。
 向こうで同じように習っていた平島と松浦もそれなりにコツを掴んだかのように見えるが鍛錬不足。
 松浦などは慰められて余計に凹むのであった。

「これは何なのじゃ?」
 お小遣いを握り締め、『うめあめ』と書かれた出店の前にお供の芝わんこ2頭と佇む緋月。
 小粋にひょっとこ面をつけ、涼風扇をぱたぱたと扇いでいる。
「梅の蜂蜜漬けに、これまた蜂蜜がたっぷりかけてあるんだよ」
 蜂蜜といえばそう易々と口にできる物ではない。迷わずお小遣いを使った。
 甘酸っぱくヤワヤワになった梅の実の周りには豪勢なまでにタップリの蜂蜜‥‥
「嬢ひゃん、これうまひな」
 いつの間にか隣にしゃがみこんでいた平島に思わずビックリしてあめを落としてしまう。
「おいおい、泣くなって。おじちゃんが新しいの買ってやるからよ」
「まいど」
 エルフにお小遣いを渡して新しい『うめあめ』を買うと、平島はそれを緋月に持たせてやった。
「あ〜、小姫ちゃんを泣かせたん? 許さへんよ」
 コユキがすかさず涙を拭ってやり、撫で撫でしている。
「悪かったってばよぉ」
 バツが悪そうに平島が苦笑いする。
「いいのじゃ。ビックリしただけなのじゃ」
 ようやく、はにかんだような笑顔を見せた緋月に、平島たちはホッとしたような笑顔を見せた。

「おや、これもフィーさんが作ったのですか? よくできているじゃないですか」
「へへ、そうかな? 石を運ぶのは兄さまや姉さまに手伝ってもらったんだけどね」
「それでも立派なもんだぜ」
 松浦と鷹見はフィーに手を引かれて石段の前に賽銭代わりのお小遣いを置くと手を合わせた。
「駄目だよ♪ ちゃんとお参りしないと」
 小さな鈴が下げられた蔓をカラカラ鳴らすとフィーはパンパンと拍手を打った。
「へ〜、可愛い神社だな」
 後ろから覗き込んだ雪切が賽銭を置いて鈴を鳴らし、拍手を打つ。鷹見と松浦もそれに倣った。
 それぞれが何を願ったのかは秘密だ。今は、その願いが叶うことを祈ろう‥‥

●昼間から宴会
「我らの先祖が遥か大陸からこの地に流れてくるまでに幾つもの国の興り、滅びを見てきたそうじゃ‥‥」
 エルフたちも真剣に長老の里の口伝を聞いている。
 それによると‥‥
 遠い昔、妖狐たちとの戦いで里を焼かれたエルフたちは集落を捨て、那須の山に籠もったのだという。
 拡大するヒト社会との無用の衝突を避けるために山での生活を続け、移動が容易な樹上生活のような暮らしを続けてきたのだとも。無論、長老の座所のように洞を利用して住まいにすることもあれば、雨風をしのげる簡易住居を建てることもあるのだが。
 食糧事情はというと、必要な分だけ山菜を採り、獣を狩り、手製の保存食を主食にしている。
 今日は特別の大御馳走だ。
 懲りずにつまみ食いに来た平島の箸が叩き落される。
「これでも舐めて待つのですわよ」
 鼻を摘まれて開けた口に梅干を放り込まれた平島は顔を皺だらけにしている。
「しかし、すごい料理の仕方ですわ」
 石で組んだ竈ごとヒートハンドで熱して、料理を作るのだ。
 人目につくからと火を焚くことの殆んどない隠れ里の者たちの昔からの豪快な料理法だ。
 当然、明かりもつけないとなると料理をするなら陽のあるうちであり、そういうわけでこんな時間から宴会の準備をする潤とエルフたちの姿があった。
 味付けは塩や香草が主。近頃は味噌や醤油も使うとか。
「さぁ、夏の暑さを吹き飛ばす熱い鍋物ですわよ」
 最後の最後に椀が回ってきて、ちょっぴり涙目の松浦。潤がふふと笑みを浮かべている。
 しかし、松浦も負けてはいない。キラ〜ン☆ 扇で力いっぱい扇ぎ始めた。
「負けませんよ、潤様!」
「やりますわね。しかし、まだまだ甘いですわ。そう、『うめあめ』よりも」
 一向に松浦の椀が冷める様子はなく、むしろグツグツと煮立っている。
「もしや‥‥」
 松浦が煮立つ椀に箸を突っ込むと石を摘み上げた。
「料理は沢山ありますから、お代わり自由ですわ」
 勝利の笑みを湛えた潤は、さり気なく鹿肉の焙り梅味噌和えを松浦たちの前に置くのだった。

●その名はアリオン
「セリユ‥‥ セリユって名前にしようよ」
 松浦がコユキから譲り受けた鷹の名前をフィーに付けてもらい、エルフたちが雪切を囲んで冒険話に聞き入っている頃‥‥
 ぱかぱかぱか‥‥
「来ましたね」
 近づいてくる音にエルフたちは全然動じる様子はない。
 ぶひひひぃ‥‥
「もしかして、もしかするのかね〜」
 ドクターが嬉々とした声を上げた。
 そう、ドクターの予想通り、そこに現れたのは螺旋の一角を備えた白馬。俗に言う伝説の一角馬だ。
「会いたかったのである〜」
 抱きつこうとするドクターをヒラリとかわす。ドクターの舌打ちが聞こえたような気がしたのは気のせいか‥‥
『えぇい、近寄るでないわ!』
「アリオン、怒っちゃ駄目だって。キミのこと、よく知らないんだから許してあげて」
 角を向けて今にも突進しようとする一角馬・アリオンの前にフィーが立ち塞がる。
『フィーに免じて今日のところは許してやる』
 アリオンはフィーの近くに陣取ると膝を折った。
「質問くらい構わないかね〜」
 そう言うドクターにアリオンは静かに頷く。
 流石にさっきの迫力を目の当たりにしては、角を少し削らせてくれとはドクターも言い難かったらしい。
 鷹見たち安堵したかのように深い溜め息をついた。
「一角馬は、その角に癒しの力を持つと聞くのだが、それは魔法かね?」
『さて、わからぬ。人間たちが手先を器用に使って様々な物を作り出すのは魔法なのか?と私が訊ねるのと同じことだ』
 それを聞いたドクターは『一角馬の角の秘密は不明』と書き留め、荷物にしまった。
「綺麗じゃ‥‥」
 緋月が近づいたのに気がつかなかったアリオンは身を硬くしたが、すぐにそれを解いた。
 はらはらしながら見つめていたコユキが安堵の息を吐く。
「乙女しか近づけないという話は本当なのですか?」
「そう言われておるし、目の前の現実はいかんともしがたいのぅ」
「確かに‥‥」
 干菓子を肴に杯を交わす松浦と長老は10年来の旧友のような雰囲気で飲んでいる。若長にこの雰囲気は出せない。
「な‥‥ 長老様。『姿と意志を持った精霊を呼び出す』って事は、いつになったら出来るんやろ‥‥
 長老様ならなんか知ってる思うたんやけど‥‥ うち‥‥ めっちゃ憧れてんねん‥‥」
「そんなこと言うても、さっき飯は食ったばかりじゃぞ。もう、お腹一杯じゃあ」
 確信犯やわ‥‥ そう思うコユキであった。

 さて‥‥
 鷹見はというとアリオンとの一騎討ちに突入‥‥
「少しは感謝の気持ちをだな!」
『近寄るなと言うておろうが!』
 どうやら礼を言った言わないで揉めているらしい。
「似た者同士じゃ」
『「一緒にするな」』
 一斉に言われて押し黙る緋月の許へ歩み寄ったのはフィー。
「アリオンは動いちゃ駄目」
『フィー‥‥』
 アリオンは寂しそうに鼻を鳴らした。
「ジンは、フィーたちの絵を描いて」
「ん‥‥ わかったよ。喧嘩してた俺たちが悪い。そうだな、アリオン?」
 さっさと距離をとって座ると、鷹見はフィーとアリオンを構図に入れながら絵を描き始めた。
『わかった、仲直りしよう』
 アリオンはフィーに首を押し付けた。
「感謝する。やっかいの種になりかねないアイツを受け入れてくれてな」
 隣に若長しかいないことを確認して鷹見はポツリ呟いた。
「悪気はないのですよ。ああいう生き物で、あれは気質なのだと私は思っています」
「成る程、そんな考え方もあるんだな‥‥」
 鷹見は筆を走らせながら押し黙る。
「なぁ若長、今の話はアイツには内緒にしといてくれ。まぁ‥‥ なんだ‥‥ 感謝とかされても困る」
 若長の言葉に照れを隠すように、鷹見は憮然とした表情をみせた。
「まぁ‥‥ アリオンのヤツは気にくわないが絵になるのは確かだな」
 生命力を感じさせるアリオン、可憐な花のようなフィー、太陽のように明るい緋月、それぞれが魅力的に描かれ始めていた。