子・丑・寅の三つの鍵:「丑の矢」の巻
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■シリーズシナリオ
担当:塩田多弾砲
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 94 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月09日〜10月16日
リプレイ公開日:2006年10月17日
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●オープニング
「どうか、助けてもらいたいのである」
ギルドに助けを求めに来た者。それは、一人の僧侶であった。
彼に名は無い。そも、あの石窟の寺院「闇道寺」の経典では、修行するにあたっては過去の業や蟠りを捨て去る意味から、名を捨てさせられる戒律がある。
名を捨てさせられた僧侶たちは、色と番号で呼ばれる事になっていた。
「拙僧は、赤四番坊。本名は忘れてしまった。が、名前などどうでもいい事。問題は、あの石窟に隠された、根津家の宝についてである。単刀直入に言わせてもらえば、三つの鍵の件で動いておられる冒険者の方々。貴殿らは騙されているのである。大河原こそが、諸悪の権化。彼奴こそが憎むべき敵なのである!」
赤四番坊は、かつて石窟に宝を託した僧侶の事を聞き、その宝をもって寺院の再建を考えていた。
根津は石窟の僧侶たちを皆殺ししたものの、全員が殺されたわけではなかった。数人の修行僧は根津の手から逃れ、なんとか生き延びていたのだ。
そして、根津の手から、隠されたと知った宝を取り返そうと狙ってもいた。
が、三本の鍵のうち、二本がどうしても手に入らないため、それは叶わなかった。今までは。
「三本の鍵のうち、一本は我らの仲間が所有していたのである。そして残りの二本。子の弓と寅の的も、その存在が確認された。そして、貴殿らは依頼人である大河原電三郎に、一月ほど前に子の弓の鍵の探索を依頼し、それを送り届けたのであるな。彼奴は貴殿らをそそのかし、ものの見事に鍵を手にしてしまったのである」
そう言って、赤四番坊は語り始めた。
石窟に託された宝物は、もとは石窟の僧侶たちのもの。それを取り戻し、寺院を再建する権利があるし、義務がある。
が、大河原は幸助を使い、宝物を我が物にしようと企んだのだ。
そもそも幸助は、大河原の命を受けて「丑の矢」を所有していた僧侶、黄十三番坊に近付き、それを我が物にしようと企んだのだった。幸助はまんまと「丑の矢」を手に入れ、黄十三番坊を殺害し逃げ、大河原へと送り届けた。
大河原は幸助を口封じに殺害し、冒険者たちに「子の弓」の鍵を手に入れるよう依頼し、それが先月に成された‥‥と、赤四番坊は語った。
赤四番坊は、黄十三番坊が「丑の矢」を所有してると知り、それを受け取りに向かったのだった。が、鍵は幸助に奪われ、息を引き取る際に赤四番坊は幸助についてを聞いたと。
「なぜ、大河原がそのような事をするか、であるか? おそらく宝の事を知り、それを独り占めせんと企んだに違いないのである。根津家の残党らしき者どもが暗躍している中、大河原もまず間違いなく宝を手に入れ、己の欲望を満たさんと考えているに違いないのである」
赤四番坊の話は、根津綾女‥‥根津家の忘れ形見へと及んだ。
「根津の娘ならば、父親がものにしていた石窟の中に宝が在ると聞いたら、それをものにしたいと考えるに違いない。現に根津家の女は、我らに対しても切りかかるような者であるからな」
というのも、「闇道寺」の生き残りの僧侶たちのもとに、根津の手のもの‥‥少なくとも、彼はそう主張した‥‥が襲撃し、多くの者が殺されたからだ。
「あの女は、まさに悪意の化身。人を信じさせるために嘘をつくことなど日常茶飯事である。館を焼き払ったというのも、自分たち以外に宝を手に入れられないようにと考え、そうしたに違いないのである」
やたらと熱っぽく、彼は語った。
「拙僧は、宝を取り戻し、闇道寺を再建する事が望みなのである。根津の娘や、大河原のような宝物が目当ての盗賊などに、宝を渡すわけにはいかないのである。現に、一月近く経つのに、大河原は貴殿らに連絡を寄越さないでは無いか。おそらく、『子の弓』と『丑の矢』を手に入れた今、独力で『寅の的』を入手するめどがたったに違いない」
確かに、大河原はあれから、連絡が無い。後で聞いた話では、二つの鍵を手に入れた後で、「調べものがある」と、数人の弟子を連れて出かけ、それっきりになっていたとの事だ。
「拙僧らも独力で調べたところ、『寅の的』は根津の領地内にて、辺境の廃村に隠されているとの事である。が、そこには多くの化物がはびこり、並の者たちでは太刀打ちできぬ。したがって、貴殿らに頼みたい次第である。この通り、金は用意した」
放り出すかのように、彼は金銭の入った袋を出した。
「これより、廃村について伝えるのである。よく聞いて、理解するよう」
根津の領地は、辺境の方はさびれ、戦の影響もあって村人たちが死に絶え、もしくは離れ、村々の多くは人から捨てられていった。
その中で、もっとも悲惨なのが兎月村であろう。かつては兎が良く獲れる村であったが、戦場となり、または食糧が取られ、多くの人死にがでた。やがて村は捨てられ、現在にいたる。
だがそこは、闇道寺の僧侶、ないしはその支援者が住む村でもあった。ここに新たな闇道寺の支部をつくり、布教する予定があったとか無かったとか。
ともあれ、村長の屋敷の奥深く。地下の隠し部屋に『寅の的』は隠されているとの事だ。
が、村に近付くものはほとんどいない。周囲には熊が出没し、そして村には怪骨がうろつき、むやみに立ち入ると危険であったのだ。
「そして、おそらくは根津の娘もやってくることだろう。貴殿らには、この村に立ち入って根津の娘と怪骨を退け、『寅の的』の鍵を手に入れてきてもらいたい。当然、引受けてくれるな?」
●リプレイ本文
「前に比べ、面子が減ってしまったな」
シグマリル(eb5073)、カムイラメトクの勇者にして、弓の使い手たるパラは、矢筒に入れられた矢の調子を見ながら一人ごちた。
前の依頼から時間が経った故、草薙と牧杜の両者は不参加となってしまった。彼らには彼らなりに、重要な使命や依頼をこなしているのだろう。
ならばカムイにかけて、俺たちが彼らの分働き、事件を解決に導かねば。弓の弦の張り具合を確認したシグマリルは、矢筒を背負い直した。
兎月村へと、四人の冒険者たちは赴く途中。山道を進み、開けた場所に出た彼らは、一休みして身体の疲れを取っていた。
参加した、他の冒険者たち。彼らもまた彼らなりに使命感を持ちつつ、この任務に取り組んでいる。
「兎月村までの道のり、そして屋敷の隠し部屋までの道のりは解消しました。ですが‥‥」
「根本的な問題は、いまだ解決ならずか」
ヨシュア・グリッペンベルグ(ea6977)の疑問に、鎖堂一(eb4634)が相槌を打った。
ヨシュアが唱えた「バーニングマップ」の呪文にて、村までの道のりは判明した。おそらく、隠し部屋までの道のりも同じ呪文にて判明する事だろう。
しかし鎖堂が言うとおり、根本的な謎は未だに判明せず現在に至っている。
「おいらも、おかしいと思うだよ。そもそも、宝物ってなんなんだろうね」
鼻をこすりつつ、ジーン・アウラ(ea7743)も疑問を口にした。
旅に出る前に、彼は件の宝がどんなものかを赤四番坊に質問してみたのだ。が、彼の返答は実にそっけない、そして些かの疑問を感じざるを得ないものであった。
『知らぬ。が、知らないからこそ、どのような宝物かを確かめる必要があるとは思われぬか? 値打ちがあれば良し、無かったとしても別の意味で価値が‥‥例えば学術的に、宗教的に、あるいは宝を求める行動に価値があるやも知れぬ』
「知らぬと即答するとはな。確かに妙だ」
ジーンの疑問に同意したシグマリルは、考え込むように目を閉じた。
「問題は、誰が嘘をついているか‥‥そして、それぞれの目的は何か‥‥という事だな」
大河原、赤四番坊、根津綾女。
この三つの勢力の、それぞれの目的。
宝を求める目的は‥‥大河原は好奇心と仇討ち、赤四番坊は寺の再建、根津の娘は不明。
そして、それぞれの言い分。
大河原は「老僧は死亡、幸助は根津の手の者に殺された」
赤四番坊は「老僧は幸助が殺し、幸助は大河原が殺した」
根津は今のところ不明。
「‥‥大河原氏の義足だが。あれはフェイクという可能性は無いだろう。彼は本当に片足だ」
実際、子の鍵を手に入れ、その旨を報告に行った時。ヨシュアは、義足を外した大河原の姿を見ていた。主治医が往診に来ており、足を看ていたのだ。
シグマリルは出がけに、大河原についての情報を得ていた。聞き込みに行き、彼は証言を得た。
大河原を最後に見たのはいつか。
弟子その壱「数日前に出たっきりでガスよ。ちょいと切羽詰った感じがしたでガスね。一緒だった弟子たちは『後ろから殴られて、気がついたら先生が居なくなってた』ってなもんで」
大河原の荷物で無くなっているものがないか。
弟子その弐「鍵と、解読中の巻物や書物が無くなっていましたわね。それに先生が書き溜めていた、研究結果の書き付けも、一緒に無くなってましたわ」
大河原が闇道寺の僧や根津と接触した形跡がないか。
弟子その参「いなくなる数日前より、ちょくちょく誰かと会ってたみたいですね。相手が誰かまでは存じませんが」
大河原の妻「あの人にゃ、浮気が出来る甲斐性はないですしね。『三つの鍵に関する事で、人と会う』とは事は言ってましたけど」
「もしも大河原さんが黒幕だとしたら、誰かと協力してると思うだよ。片足で移動したりとかは、なかなか難しいと思うし」
「誰かが騙し、嘘をついている。それは間違いなかろうなあ。まったく、いやな渡世だ」
ジーンの言葉に、鎖堂はかぶりを振る。
鎖堂もまた、兎月村について、石窟について情報を集めていた。が、それは空振りに終わっていた。兎月村の元住人が見つからなかったのだ。
が、もう一つの件‥‥大河原の檀家の寺にて、幸助についての件はなんとか判明した。
彼はもともと、根津の家来に雇われていた山賊であり、密偵として、そして暗殺者として働いていた。根津家が崩壊した後、死にかけていたところを大河原に助けられ、以後彼の友人となり、彼のために動くようになった‥‥というわけだ。
そして、彼の死に様であるが。後ろの方から、日本刀でざっくりと切られたのが死因だとの事だった。不意をつかれたのか、それとも戦いの最中に切りつけられたのか。どちらにしろ、彼は何者かに殺された。それは間違いない。
ちなみに、老僧こと黄十三番坊の死因はハッキリしていない。
「‥‥俺の提案だが。根津の娘に接触し、話を聞くべきではなかろうか」
「えっ? 幸助さんを殺したかもしれん奴に、話を聞くと?」
シグマリルは、ジーンの問いにうなずいた。
「然り。まだ『かもしれない』の状況。あの娘、ないしは根津の手のものが殺したとは言い切れない状況だ。吹雪の中を霞む狩の獲物がごとく、三つの勢力がこのように判然としない状況では、まずはそれぞれの事情をはっきりとさせる必要がある」
「‥‥そうですね。もう少し情報を集める必要がある」
「うむ。大河原と闇道寺の連中が、敵対してると見せ掛け、結託しているとも考えられるしな‥‥」
「あるいは、根津の娘が黒幕で、大河原と闇道寺の連中はそれぞれ争っているだけなのかもしれないだよ」
ヨシュア、鎖堂、ジーン。三人の意見も同じようだ。
「善きカムイよ、俺を、そして仲間たちを導きたまえ。‥‥行こう、みんな」
祈りを捧げ、カムイラメトクの狩人は立ち上がった。
廃村という場所は荒涼たる印象を与えるものだが、兎月村もその礼にもれなかった。
所々に、獣の骸骨が放置され、荒涼とした印象をさらに強めている。草木もどこか元気が無く、自然そのものの生命力すら減退しているかのような感覚を覚える。
干からびた兎の死体には蝿がたかっていたが、その近くには蝿の死体も多く転がっていた。ここでは死そのものも、安らかとは言えないようだ。
「‥‥ここの土には、嫌な臭いが染み付いてるよ。まったく、嫌な渡世だねぇ‥‥」
鎖堂の言葉に、反論する者は居なかった。
「‥‥? なんか、聞こえてきやせんか?」
ジーンが、耳を欹てた。
「いや、何も。気のせいでは‥‥」
「‥‥無いな。俺にも聞こえた。近いぞ!」
ヨシュアの言葉を遮り、シグマリルは走り出した。
数人の侍が、自らの身体から作り出した血だまりの中に倒れている。そして、綾女を守るため戦っていた最後の侍は、非情にも敵の刃の前に倒れた。
「お逃げ‥‥下さい! 綾女様っ‥‥!」
その言葉を嘲笑うように、動く骸骨は侍を押しのけ、綾女に迫っていた。錆が浮いた刃の斧や鎌、刀を手にした怪物‥‥怪骨は、容赦無く綾女の命を狙っている。
が、綾女も逃げたくとも逃げられなかった。彼女もまた大怪我を負い、戦うどころか動く事すら困難な状況であったのだ。全身を切り苛まれ、身動きが取れない。残り少ない命がひと呼吸するたび、一歩踏み出すたびに、流れ出て消えていくのを実感していた。
「これまでか‥‥!」
戦いの果てに、志半ばのうちに死す。だが、父親の所業を思えば、娘である自分がこういう最期を迎えるのは至極当然であるやもしれない。
観念し、目を閉じようとしたその時。怪骨の注意が別の方へ向くのを見た。
両手に鎌を持った怪骨は、それを振り上げた。が、片方を取り落としてしまった。
正確には、握っていた手に矢を打ち込まれたのだが。三体の怪骨は、新たに現われた四体の獲物へと身体を向けた。
「どうやら、間に合ったようだな!」
新たな矢をつがえ、シグマリルが叫んだ。
周囲を見ると、数人の侍が倒れ、そして数十体の怪骨だったものが散らばっていた。それを見て、四人の冒険者は即座に理解した。
根津の家臣たちは、ここで多数の怪骨と対戦していたのだと。が、三体を除き倒したものの、綾女を除き全滅。そして綾女自身も、重傷を負い瀕死の状態。
三体の怪骨も、新たな獲物を倒さんと冒険者たちに向かってきた。かつて仲間だった骨を踏みしだき、それらは命を奪わんと肉迫する。
一体の怪骨は、手に鎌を持っている。他の怪骨は、一体は長めの匕首を、もう一体は斧を、それぞれ携えていた。それらの刃は先刻に奪った侍たちの命、ないしはその血潮で、ぬらぬらとぬめっていた。
が、それらの刃は冒険者たちに届く事はなかった。シグマリルとジーン、弓を携えた二人の冒険者が放つ矢が、古ぼけた骨を貫いたのだ。ほとんどの矢はアバラを素通りしたものの、数本は命中し、腰骨と頭蓋骨を砕いた。
一体の不死の怪物はかりそめの命を奪われ、そのまま命無き骨となりて崩れ落ち、動かなくなった。
二体の怪骨は戸惑うような動きをしたが、すぐに向かってくる。が、残る二体のうち一体も、シグマリルの鏃の的となり、ただの骨と化して無害な存在に。
残る一体は接近し、鎌を振りかぶった。
が、鎖堂が両手に構えた仕込杖が、鎌を持つその手を切断した。向き直った怪骨だが、エペタムを握ったジーンが、既に襲い掛かっていた。
魔力を秘めた刃が、最後の怪骨を無へと帰した。
「助けられた恩義を返したいと思っていた。カムイラメトクたる、己の矜持故に」
怪我を手当てしつつ、シグマリルは綾女へと言葉をかけていた。
「そなたは‥‥あの時の?」
「然り。俺はシグマリル、故あって根津の宝の鍵を求める者。僭越ながら、聞きたいことがあるのだが」
「‥‥命を助けてくれた恩人ならば、答えぬわけにはいくまい。聞くがいい」
「感謝する。だが最初に断っておくが、俺が欲しいのは宝ではなく、信頼と真実だ。その事だけは心得てもらいたい」
シグマリルが介抱している間、三人は屋敷へと赴いていた。屋敷内の隠し扉はすぐに見つかり、そして目的のものもすぐに発見できた。
「子の弓」と同じ意匠の、小さな金属の鍵。それには一緒に、巻物が添えられていた。
「巻物? ‥‥これも持ち帰るべきでしょうね」
巻物と鍵へ、ヨシュアは手を伸ばした。
「警戒していたけど、罠らしい罠が無くてよかっただよ。ヨシュアさんの呪文で、隠し部屋もすぐ見つかったし」
「ま、このじめじめした屋敷の不快さは何とかしたかったとこだがなあ」
「‥‥? どうやら、シグマリル君が、何かを聞き出せたみたいですよ」
「私は江戸で、寺子屋を兼ねた小さな道場を経営している。剣術と体術、それに読み書きや算術などをな。経営は苦しいが、それなりに充実した毎日だ」
介抱し終わり、綾女はおちついた。そして戻ってきた冒険者たちは、綾女の部下の亡骸を丁重に埋葬し、簡単であるが墓碑を作った。
冒険者たちは、綾女の語り始めた言葉に耳を傾けていた。
「私は生まれてすぐ、女子だからという理由で父に捨てられた。叔母夫婦にひきとられ育てられ、そこで剣術を学び、今こうやって生きている。 やがて父は死に、私を育てた叔母夫婦も病に倒れた。叔父上と叔母上は死の間際に、宝物の事を口にした。『闇道寺』の石窟に、大層な値打ちのある宝物を、老僧が隠したと。しかし‥‥」
血の滲んだ包帯を押さえ、彼女はうめいた。
「その宝物は、ある意味値打ちになると同時に、別の意味ではかなりの危険なものになるもの‥‥とも言っていた。宝物が具体的に何なのかは、叔父上も知らぬとの事だった。ともかく、その直後に二人は亡くなった。
そして、危険ならば誰かに悪用されぬようにと考え、私は手がかりを全て消し去ろうと思ったのだ。危険なものならば、わざわざ掘り起す必要も無い。父上のように、欲望に駆られた争いはもう真っ平なのでな。
そこで私は、屋敷に火を放ち、手がかりがあったとしたら消そうと試みた。しかし‥‥」
彼女は、そこで言いよどんだ。
「片足の男から、協力の依頼を受けたのだ。件の宝物、もしも危険ならばそのまま封印するべきだが、もしも人の役に立つものならば、埋もれさせておくべきではないのではないか‥‥と」
「ひょっとしてその『片足の男』とは、大河原の事では無いか?」
鎖堂の質問に、綾女はうなずいた。
「そうだ、確か大河原、大河原電三郎と言ったな。彼はこうも言っていた『俺は、謎を解くことにしか興味は無い。少なくとも、お前さんもこの謎をそのままにして闇に葬るのは寝覚めが悪かろう』とな。そこで、私は協力することにしたのだ。あくまで、謎を解く事のみが報酬と言う事にしてな。それに、正直な話、私も宝がどんなものかは知りたいとも思っていたしな」
「で、綾女さんはこの村に来たわけだね」と、ジーン。
「うむ。大河原の言う鍵と手がかりとを確保しようと、指示に従いここに来た。が‥‥」
「怪骨の群れに襲われ、そこに俺たちがたどり着いた、というわけか」
シグマリルが、綾女の言葉を補足した。
「そうだ。大河原殿はここに、『子・丑・寅』の三つの鍵のうち一つ『寅の的』と、その暗号の読み方が記された『兎の巻物』が隠されていると言っていた。そして、『三つの鍵がそろい、暗号が現われる。その暗号を解読する事で、宝物が石窟のどこにあるかが判明する‥‥』と」
「その、『兎の巻物』とやらは、これかな?」
ヨシュアが『寅の的』とともに見つけた巻物を見せると、綾女は目を輝かせた。
「それだ! では、大河原殿のところに持っていけば、解読出来るだろう」
「そうだな。‥‥まずは、大河原殿を見つけなければならないが」
シグマリルの言葉に、綾女は怪訝そうに顔をしかめた。
「‥‥失踪直前に会っていたのは、私たちだ。宝を狙う者がいると聞いてから、私たちは会合を秘密裏に行なってきたのだ。私の命にかけて言おう、黒幕はその坊主どもだ!」
事情を聞いた綾女は、憤った。
「綾女、この鍵と巻物は、ギルド預かりとしてもらう。少なくとも、大河内が行方不明の現在。そして闇道寺の連中が黒幕というあなたの言葉を信じるのなら、これは関係の無い者が保管するべきと思う」
シグマリルの言葉に、綾女はうなずいた。
「わかった、あなた方にまかせよう。少なくとも、あの連中に鍵を渡すべきではない!」
そして、後日。
約束の日時に、闇道寺の僧たちは現われなかった。
報酬は前金で貰っていたが、おそらくはまず間違いなく、冒険者たちが事実に気づいたと知ったのだろう。
「どうやら、見えてきたな。射るべき悪しきカムイの姿が」
来るべきその日が近付きつつあるのを感じ、シグマリルはつぶやいた。