【オモイロンド】2・都に散る光闇

■シリーズシナリオ


担当:外村賊

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 21 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月02日〜10月10日

リプレイ公開日:2005年10月12日

●オープニング

「シャトンはどこへ逃げた。アルヴィースの石とは何だ」
 ドレスタットの地下牢。息を乱した兵士が太い鉄の棒を振り上げた。縛られた男は、床に倒れ低く呻く。無抵抗のまま打ちのめされた痕が、黒痣や血液になって、男の身体を染めている。
 兵士は焦っていた。この男が一言も喋らないせいもある。しかしそれ以上に、周囲の沈黙の視線が、彼を狼狽させている。
 拷問部屋には、男と一緒に捕らえられたの仲間もいた。男の凄惨な姿を見せられるために。
 見せしめを使い、告白を誘っているのだ。
 しかし彼らは、何も言わなかった。それどころか、誰一人顔を背けず、それを眺めている。
 無表情に、無感情に。
 響くは、痛みに耐えかねる男の悲鳴のみ。
「幾度打とうと、我らが『黄昏』の兄弟は何も答えませんよ」
 はっとして、兵士は振り返った。ただ一人、修道服に身を包んだ男が、薄く哂っていた。
「この年、罪に穢れたこの世界は、我等が父の遣わされた救世主により滅ぼされます。救世主を信じ、この世界の全てを捨てることのできる者こそ、新たなる世界に住まう者となれるのです。われらは新世界の住人、汚らわしき世界の痛みなど、あってなきも同然」
 クレリックは祈りの仕草を見せ、兵士に手を差し伸べた。
「漂うばかりの精霊も、おぞましきモンスターさえも、黄昏のときを知り、動き出している‥‥さあ、お前も救世主に身を委ねなさい。素晴らしき神の国を見たければ」
 兵士の方を向いたクレリックに、表情はない。後ろに控えた信者たちも。
 兵士はおののいた。何の感情も窺い知れない者と相対することが、こんなに恐怖に思えるとは――
 いつの間にか力の緩んだ手から、鉄の棒が滑り落ちて、硬質な音を響かせた。



 大きな広間の机や床に、筆や木炭、顔料、羊皮紙が散らばっている。決して整理されているとはいえないが、知る者が見れば、それぞれ関連する物事にまとめられていることに気づくだろう。
 足の踏み場もないその部屋の中央――カンバスに張られた羊皮紙に、ひとつの図面が形作られている。
 粗末だが、精密な、流線で描かれた絵。
 失われた壁画の、修復図である。
 書簡に使われている顔料が、壁画の失われた顔料と一致していると分かってから、画家や僧侶が集められ、修復作業が行われている。本物と見比べては顔料を探し、色を並べる日々。それも今ある書簡の文は終了し、作業も一段落着いた。
 ラテン語が聞こえる。作業員の一人であるクレリックが、書簡の写しを音読している。
「その時我々を救ったのは、同じドワーフの繰る船であった。武装した彼らは賊を追い散らし、沈みかけた船から私を救い出してある島へ連れて行った――」
「チェックメイト」
 こちらでは二人の騎士がチェスをしている。他にも数人いるが、誰もがどこか暇そうに、好きなことをやっているのだった。
「にしても、外出禁止とはな」
 相手の動かした駒に唸りつつ、騎士の一人が言うと、もう一人が静かに答える。
「ロキの手下がこの場所を割り出そうとしているからだろ」
「俺は実の所ちょっと安心したぜ。最初は遺跡の島の事も分からなかったから、手掛かりの一部として手探りでやってたけど。段々違う所から色々分かってくるだろう? 書簡の訳だの修復だの、作業に手間がかかっただけで何にも目ぼしい情報はありませんでしたって落ちだったら、危うくキレる所だ」
「狙ってきたからには、何か重要なことがある、と」
「少なくとも、書簡のほうにはな。問題は、それが具体的に何かって話だが」
「動けないんじゃお手上げだな‥‥チェックメイト」
「ぬ‥‥」
 そんな雑談を聞き流しつつ、ある画家は椅子に座って、修復図を眺めていた。
 唐草に彩られた、世界樹と竜、得体の知れぬ生き物達。
 おそらくこれが完成すれば、極彩色の、えもいわれぬ美しい作品が完成するに違いない。彼は芸術家として、その姿を見てみたいと思っていた。
 クレリックのラテン語が聞こえる。
「そこは光の舞い、芳しき風の香る、再現されれば神の国とはかくたるものかと思うばかりの――」
 その時。
「!?」
 クレリックは書簡の文面を追っている。騎士たちはチェスの盤面に釘付けになっており、他の者達もそれぞれ好きなことをやっている。
 『それ』を見たのはその画家のみだった。
 彼は驚愕のあまりに声を震わせ、修復図を指して大声で叫んだ。
「ひ‥‥光った!」
 周囲の者は、その時初めて何事かと顔を上げる。
「光ったんだ、この絵が!」
 彼らは血相を変えた画家をしばらく驚いた封に眺めていたが、やがてそれぞれ好きなことに戻っていく。
「寝ぼけてたんじゃないか? 暇すぎて」
「まさか、確かに‥‥」
 画家は反論しかけたが、最後には口ごもってしまった。色がそれぞれ薄く光ったように見えたが、しかし確信するには一瞬の事すぎて、はっきり言い切れないでいた。



「相手に書簡の在り処が気取られないよう、俺たちは今日から謹慎生活。文句言うなよ、捕虜のお前が出歩けた今までが特別なんだからな」
 ドレスタットの外れ、海戦騎士ダリク邸。強面に親愛を込めた笑みを浮かべ、ダリクは目の前のハーラルに言った。
 しかしハーラルは、与えられた小さな部屋の椅子に座って、ぼんやり外を眺めているばかりだ。ダリクは何事かを察し、困りきった顔で頭を掻く。
「シャトンの事だが‥‥覚えがないなら、気にしても仕方ないだろう。調査は全部冒険者に任せておいたから、そのうち何とかしてくれるだろう。‥‥ああ、畜生」
 騎士になってからと言うもの、館の中の仕事が増えた。今度は館の中で、仕事すらできないのだ。一人の男に従って、思うままに暴れられた海賊時代が懐かしい。
「いいか? 外に出れないからって、暴れるなよ。夜中に馬かっぱらって逃げたり、シャトンのアジト探したり、修復現場に行ったりとかするなよ」
 ごつっ‥‥!
「ってぇ!」
 拳を振り上げてジェスチャーする途中、思い切りドアにぶつけて、ダリクは呻いた。
(「それ自分じゃん‥‥」)
 明らかに手持ち無沙汰な体力系騎士と違って、今は何かしようという気になどなれない。
 ダリクは心配してくれたのだ、と思う。しかしなんだかその声が、とても嫌な感じに聞こえるのだ。
 あの日、
――「あなたは常に考えている。なぜ山賊は自分を手放した? なぜ冒険者は自分を手元に置いておく? そうやって、四六時中見張りをくっつけて」――
 シャトンが自分に言って以来だ。
 山賊ジョーヌが自分を団抜けさせたのは、まっとうな道に戻ってほしいと兄貴分が言っていたと、冒険者に伝え聞いた。ハーラルが捕虜となってから一度も会っていないが、それをうそとは思わない。
 冒険者達は、幾度か一緒に冒険して、一緒に笑ったり仕事したりした。そのうちの何人かは真剣に自分を心配してくれている。いい奴だと思う。
 手をさすりながら出て行くダリクをちらと横目で見、ハーラルは再度窓に視線を送った。
 町の音が聞こえてくる。活気のある、威勢のいい声、笑い声、軽快な馬の蹄。
 楽しげで、なんだか、嫌な感じだった。
 ありふれた音だ。なぜ嫌なのか分からない。しかしこの嫌な感じ、いつかどこかで。
 シャトンは言った。
――「今は去りましょう。ですがすぐに思い出すはず‥‥あなたの使命を」――
 まるでその場で恐ろしい事を囁かれた様に、ハーラルは慌てて耳を塞いだ。

●今回の参加者

 ea8221 シエロ・エテルノ(33歳・♂・ナイト・人間・イスパニア王国)
 ea8537 ナラン・チャロ(24歳・♀・レンジャー・人間・インドゥーラ国)
 ea9085 エルトウィン・クリストフ(22歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ea9387 シュタール・アイゼナッハ(47歳・♂・ゴーレムニスト・人間・フランク王国)
 ea9513 レオン・クライブ(35歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9517 リオリート・オルロフ(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ロシア王国)
 eb3346 ジャンヌ・バルザック(30歳・♀・ナイト・パラ・ノルマン王国)
 eb3532 アレーナ・オレアリス(35歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)

●リプレイ本文

●約束の朝
「ハーラル、俺だ、シエロだ」
「あたしもいるよぉ。この間は、何もできなくてごめんね〜!」
 ダリク邸。シエロ・エテルノ(ea8221)とナラン・チャロ(ea8537)は扉越しに声を掛ける。いつもならば、声を掛けるまでもなく向こうから出迎えてくれるのであるが、今日はこの調子である。
「ごめん。兄貴達と話すの、なんか‥‥怖いんだ」
 ややあって、細い声が返ってきた。
「俺、嫌な事ばっかり考えるんだ‥‥」
「きっとさ、お部屋に篭ってばっかりだったから、考えすぎてるんだよ! 一緒に教会修理したときとか、楽しかったよね〜♪」
 ナランはいつの間にかバリウスを取り出して、テンポの速い曲を奏でていた。一緒に修理していた時の事をまとめた歌詞を乗せた。明るい曲調が廊下に弾む。しかし重い雰囲気は消しきれずに、どこか空回りしている。
 シエロはじっと扉の様子を見詰めていたが、向こうに動く気配はない。
 本当はちゃんと顔を見て言ってやりたかったが‥‥意を決して、シエロは口を開く。
「話せる気分でないなら、それでもいい。ただ、これだけは約束してくれ。返事は今でなくていい、俺は今から調査に言ってくるから、帰ってきた時に聞かせてほしい」
 木戸の向こうで、どんな顔をしているだろう? あえていつもと変わらぬそぶりで、口元に笑みさえ浮かべて、シエロは続けた。
「何も言わずにどこへも行くな。もしそんな事したら、何があっても絶対止める‥‥俺はお前の事が気に入ってるんだからな」
「えっとね、あたしは、壁画の村に行くんだよ。お土産話もって帰ってくるから、ちゃんと待っててね? その時には、もっとハーラル君のお話も聞かせてね。あと、えっとね‥‥」
 ナランは銀色のほっそりした指輪を取り出し、そっと扉の脇に置いた。その指には、指輪の彫刻を模した――本人はそのつもりだった――手製の樹の指輪が填まっていた。
「これあげるよ。ここに置いておくから‥‥ドアで弾き飛ばしたり、蹴っ飛ばしたりしちゃだめだよ! ちゃんと良く見て拾うんだよ!」
「おいハーラル、レディからの贈り物だぞ。男として、貰っておかない手はないぜ?」
「そんなんじゃないよ! 友達の証!」
 むくれるナランに、シエロはしたり顔で笑って見せ。すっと扉に背を向けて歩き出した。
「いいな、言った事、忘れんなよ」

●黄昏に近づく
 見張りの兵士に協力を願って相対してみれば、彼らは仮面のように表情を動かさぬまま、目だけをこちらに動かした。エルトウィン・クリストフ(ea9085)は彼らに倣い、厭世的な雰囲気を心がけつつ近づいた。この中のトップであろう、クレリックが口を開いた。
「誰かと思えば‥‥騎士ダリクと共にいた冒険者ではないですか。何か聞き出して来いと言われましたか?」
 動揺を誘っている。しかしエルトウィンは平静な態度を崩さない。
「逆よ。あたし達、あなた達のことが気になって‥‥調査って言って兵士を騙して入らせてもらったの。お話が聞きたいの‥‥この世ってのに嫌気が差してたから」
 エルトウィンはさりげなく髪をかき上げる。長い金髪の間から覗いたのは、人にしては長く、エルフにしては短い、耳。
「ねえ‥‥こんなのでも、救ってくれる?」
「‥‥無論だ。むしろ貴方こそ救われるべき方だ」
「‥‥ハーフエルフを救うと言うのか?」
 レオン・クライブ(ea9513)の淡々とした声が牢の静けさに溶ける。全く興味のなさそうな物言いだが、彼もまた忌み子の一人。禍々しいローブの中に隠された表情は、何かを刻んでいるかもしれない。
「我らが父は己を研鑽し心身賭して仕える者に加護を与えられる。生まれながらに父母の罪をその身に受けて、なお生きねばならないハーフエルフが父に仕える時、なぜ加護がないと言えましょう? 神の国は神の御心に忠実である事のみが人の価値を決めます。種族など関係ない‥‥現に救世主も、ハーフエルフであられる」
「救世主って‥‥シャトンさんが言ってたって言う、ロキって人?」
「忌むべきこの世界を神の国へと導く御方です」
 そういう彼にはやはり動揺の影さえなく、少なくともハーフエルフを嫌っている封には感じられない。
「では、あのハーラルと言う少年は‥‥?」
「重要な使命を果たす一人です‥‥神の国に至る道を求めるならば、おのずと知れる事」
 レオンの質問に淡々とこう返し。おもむろに首に掛けた黒いロザリオを外し、二人へ向かって差し出した。
「もしお二人が誠、我らが父に帰依すると言うならば、これを持ってさる場所へ向かわれるがいい。シャトン様ご自身が暖かく迎え入れてくださるでしょう」

●光刺す壁
 シュタール・アイゼナッハ(ea9387)とアレーナ・オレアリス(eb3532)は修復現場での検証を終え、本物の竜の壁画がある朽ちた修道院に来ていた。一足先に調査に来ていたナランが愛犬チマキと出迎えた。
「前に修復した黒の教会との違いを調べてみたんだけどね。狭くってどっしりしてゴツくてボロいけど、あんまり代わり映えないよ。壁の絵以外は、普通って感じ」
 それ以上の事は建築の専門家ではないナランには分かりかねるようだ。
「そっちは? 何か分かった?」
「うむ。大体の法則は掴んだ。後は本物で同じ結果が出るかどうかだが」
 アレーナは力のある目で朽ちた扉の向こうの暗がりを見つめる。
「やってみようではないか。幸い、道中につけてくるような揺れはなかったが、シャトンさん方がいつ何時嗅ぎ付けて来るや分からんからのう」
 バイブレーションセンサーで気配を探っていたシュタールが促す。アレーナは頷き、借り受けてきた書簡の写しをさっと開いた。シュタールは修復現場でやったのと同じように、一つの変化も見逃すまいと壁画の前にしゃがみ込む。
 二人が修復現場で行った事は、絵が光ったというその日の行動を、その場にいた全員に再現してもらう事だった。何が壁画を光らせる要因になったか、検証しようと言うのだ。結果、数名の冒険者が予測したとおり、書簡を読むことで光る事が分かった。さらに調べると、書簡のなかでも、本物の書簡で頭文字が飾り文字になっている――顔料の使われている単語に反応するようだ。
 アレーナが、本物と照らし合わせてチェックを入れていた、一つの単語を読み上げる。
 ほう‥‥と。シュタールが目を凝らす前で、壁画は薄い白光を放った。絵は剥げ落ちているため、現場で調べたときよりは幾分か光り方が弱いようだ。
「ふうむ、修復図とさして変わりない反応だのう‥‥んん?」
 シュタールが奇妙な声を上げたのは、手近に置いていた自分の荷物がぶるりと震えたような気がしたからだ。それは気のせいでもなんでもなく、再び飛び跳ねるように縦揺れすると、入れ口から赤い粉を吐き散らした。
「吐血したぁ!」
 ナランが言い得て妙な描写をする間にも、その赤は壁画へ吸い込まれるように飛んで行き‥‥否、実際に吸い込まれ、壁画の表面にあるものを形作った。
 一匹の竜である。
「修復図にあった竜ではないか」
 驚きに目を瞬かせながらアレーナが言う。シュタールは思いついて、荷物から一枚の羊皮紙を取り出した。
 それはダリクから許可を得て借り受けた、本物の書簡であった。シャトン達が狙ってくる可能性も考えて、一枚だけならという条件で修復現場から持ってきたものだった。
 一番最初に見つかった十二番目の書簡。赤く飾られた文字が、綺麗になくなっていた。

●教会に残されし
 近くに住む者の話によると、教会のある森はたまに盗賊が出たりするので近隣の者はあまり近づかない、教会も前の神父が亡くなってからは放置されているのだと話した。
「人があまり近づかないのをいい事に、シャトンが勝手に使っていたものか‥‥」
 リオリート・オルロフ(ea9517)はぐるり周囲を見渡す。過日訪れた教会の宿舎である。埃だけは払ってあるものの、確かに、生活感がないように感じられる。
「どこもかしこも開けっ放しだし、罠用の教会っていうのは十分あると思うよ」
 ジャンヌ・バルザック(eb3346)がちょっと押すと、木の扉は抵抗なく開く。鍵はずいぶん前から壊れている様子だ。二人はそれをくぐり、一人部屋になっている寝室を調べ始めた。
 周辺住民からはかばかしい情報を得られなかった為、二人は専ら教会内部の探索に集中した。生活用品や旅の荷物のほとんどが残されたままになっている。逆にそれが、罠を危ぶむジャンヌを警戒させたが、トラップに出会うことなく、四日目を迎えている。
 シエロやエルトウィンが加わったおかげで、それももうすぐ終わろうとしていた。
「よっぽど慌ててたのかなぁ? 前の依頼の話によると、そうだったよね?」
「黒クレリックの仲間が心を読んで‥‥素性を偽れなくなったシャトンに強硬手段をとらせた。俺は、その場にいなかったが、そうだったようだ」
 リオリートはうけあって、机に目を落とす。黒い十字架がぽつりと残されていた。エルトウィンの話によれば、シャトン達『黄昏』のシンボルらしい。
 それを置き去るのならば、ジャンヌの指摘もあながち間違いではないようにも思える。
「あっ」
 ジャンヌが声を上げた。気づいてリオリートが見渡すも、彼女の姿はない。
「ここだよリオリート。これ、見て!」
 小柄なパラの身体でベッドの下に潜り込んでいたジャンヌが、一枚の羊皮紙をもって這い出てくる。リオリートも屈んで覗き込む。
 まず目に付くのは、文末に記された『LOKI』の文字。
――破滅を導く笛を不信心な者に渡してはならない。封印をとき、博識のアルヴィース小人を我が元へ迎えいれるべし――

●終わりの朝
 彼らがそれぞれに調査し、八日目。最終日はダリク邸に集い、それぞれの結果を報告する日として当てていた。
 その朝再度冒険者達は出会い――そして、立ち尽くした。
「すまん」
 ダリクが顔を歪ませながら、頭を下げる。ハーラルのいた部屋の扉に近い廊下で、足を投げ出して座っている。床に飲み干したリカバーポーションが転がっていた。
「気をつけたつもりだったんだがな‥‥まさか、あのガキに刺される日が来ようとは」
 ナランは廊下の向こうに、朝日に光る指輪を見つけた。手に取ると、ひやりと冷たい。
「ドアで飛ばしちゃ駄目だって、言ったのに‥‥」
 それは今日の未明。幾人かの冒険者が警戒していたように、シャトン達は冒険者達を見張っていた。しかしそれは彼らを襲撃する為ではなく、彼らがドレスタットを動き、そして遠ざかるのを待っていたのだ。
 ダリク邸に冒険者の影がなくなった三日目、全てが眠っているときにシャトンは来た。
 予感はしていた。
 シエロは開きっぱなしになったドアに手を沿え、部屋を見た。
 彼の求めた答えは、どこにも転がってはいなかった。

 その後、彼らは修復現場にも何者かが侵入し、本物の書簡を盗んでいった事を知るのである。