【凶賊盗賊改方】密告 第四話

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 71 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:12月03日〜12月08日

リプレイ公開日:2005年12月12日

●オープニング

 凶賊盗賊改方の長官、長谷川平蔵は着流しの浪人の姿で船宿・綾藤の奥の座敷に受付の青年を呼び寄せました。
 座敷の中には津村武兵衛与力と早田祐一郎同心、そして荻田一郎太同心です。
 受付の青年を迎え入れると、早田同心が顔を上げて口を開きました。
「あぁ、来たな、これへ」
 そう勧める早田はなにやらつづらを抱えて今したが、それを部屋の片隅に置いて蓋を取り、中身を改めています。
「えっと、例の伝五郎と勘べぇと稲吉でしたっけ?」
 受付の青年が首を傾げて言うと、平蔵は頷きながら受付の青年へと目を向け。
「まずは伝五郎と勘べぇだ。わかっているのは伝五郎が月の頭、比良屋から冒険者が帰って行く、まさにその直後の気の緩みを狙うらしいことはわかった」
「‥‥」
 ごくりと唾を飲む受付の青年。
「問題は、他に2人、盗賊を控えていると言うことだ」
 そう言うと苦笑混じりの平蔵は煙管を手に、一口吸い込みゆるりと煙を吐き出すと再び口を開きます。
「そこで、まず一組目だが‥‥俺と燧切の伝五郎捕縛に向かって動いて欲しい。‥‥こちらはとにかく時間がないが、済まなんだが頼むぞ」
 そう言う平蔵の後ろでは、早田と荻田が手分けして『凶盗』と黒々としたためられた提灯をつづらから引き出しているのでした。

●今回の参加者

 ea0392 小鳥遊 美琴(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea3220 九十九 嵐童(33歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea3269 嵐山 虎彦(45歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea3988 木賊 真崎(37歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4026 白井 鈴(32歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea4653 御神村 茉織(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8191 天風 誠志郎(33歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb0939 レヴィン・グリーン(32歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)

●サポート参加者

御神楽 紅水(ea0009)/ 鷲尾 天斗(ea2445)/ 杉塚 善治(ea9284

●リプレイ本文

●寒い夜の光景
「手向かう者は構わん! 斬って捨てい!」
 打ち込み浮き足だち刀を抜きはなって駆けずり回る男達に、平蔵は一言。
 時は人通りも既に無くなる真夜中、吐く息も白い寒い夜のことでした。
「凶賊改だ、神妙にせよ。抵抗せねば命の保証はする」
「ぬかせっ!」
 平蔵の傍らで長槍『山城国金房』を手に凛然と言い放つ天風誠志郎(ea8191)に、広く取った茶屋の入口では明らかに不利と感じたかじりじりと中へ押し戻される盗賊達は、誠志郎の指示に従う鷲尾天斗、誠志郎、そして平蔵の順に凄まじい形相で睨め付けています。
「こうなったら全員斬り殺してでも逃げるんだよ!」
 小柄な影が耳障りな擦れ声で叫ぶのに、四方に散りつつ逃げ場を探す藍色の装束に身を包んだ男達ですが、それぞれに立ちふさがる冒険者達。
「‥‥こっちの道は通行止めだぞ‥‥っと」
「うぬっ!?」
 小柄に傷つけられ、刀を振り抜こうとして戸板が邪魔となり思うように斬り抜けられない男。
 九十九嵐童(ea3220)の素早く寄って斬り付けては飛び退く、と言う動きに翻弄され思うように動けない男の一人が逆上したように切りかかりますが、振る時には気をつけも、振り切った先の柱までは気が回らなかったようで切っ先が深々と食い込みそれを必死で抜こうと暴れる男。
「おのれ、うぬ等、そこを退かぬかぁっ!」
「凶盗改め方だ! 神妙に縄につけ! ‥‥ま、命が惜しくねぇならかかって来な!」
 改方の青藤色の羽織を翻して庭にある裏口を蹴破って飛び込んだ嵐山虎彦(ea3269)が十手と小柄を構えて男達の前を立ちはだかります。
「おう忠次、俺が叩き伏せるから、逃がすんじゃねぇぞ」
「むっ、無論任せておけ」
 笑いながら言う嵐山に、口では強がりつつも堅くなり青褪めながら言う忠次。
「くっ、燧切は‥‥伝五郎はどこだっ!」
 不意を撃ち得物もそれぞれ場所を考えて用意して来た一同と違い、これから押し入って仕事をするつもりで不意を打たれた盗賊達は大混乱へと陥りますが、いち早く数名がすばしっこい動きで、荒くれ者達に戦わせている間に身を潜めたよう。
 誠志郎が声を上げるのに、平蔵は鋭い眼差しで未だ戦いの続く屋内を見据えているのでした。

●伝五郎の居所
 その日の朝早くから、密偵達は方々に散って抜かりなく調べを進めていました。
「‥‥こいつら‥‥」
 小さく忌々しげに呟くのは小鳥遊美琴(ea0392)。
 美琴は盗賊宿の一つと目されている宿で息を潜めて様子を伺うと、そこにいた4人の浪人たちはそれそれ、今夜の押し込み先、比良屋で人を斬り殺しどれだけの大金が転がり込んでくるかと言うような話を肴に酒を飲んでいました。
「‥‥隅々まで見たけど、ここには伝五郎はいない‥‥」
 そう小さく呟くと、美琴は男達が『約束の刻限にお頭のところへ行く』という発言があったのを確認してからその場を離れるのでした。
「‥‥ここは‥‥そっか、ここが例の」
 暗殺未遂の、と言いかけて白井鈴(ea4026)はあたりを念のため調べると戻ってきます。
 転がされた徳利に柄桶、そして食い散らかされたどこぞの店からか持ち込まれた様子の皿が転がるそこは、平蔵を暗殺しようとしていた男たちの溜り場だったようで、
「そっか、ここは待ち伏せに利用していた空き家だったのか」
 鈴はそれを確認すると、その百姓家を後にしました。
 目の前を歩く男を朝も早くからずっと尾けていたのは御神村茉織(ea4653)。
「嫌にご機嫌じゃないか‥‥」
 今日の押し込みを思ってかそれから生じる分け前を考えていたのか、伊与太は尾けられているとも分からないまま上機嫌で道を歩いてゆくと、比良屋の付近で足を止め、直ぐ前の酒屋へと入るとそこで風体の宜しくない若い男の下へと歩み寄りひそひそと話を始めます。
「‥‥じゃあ間違いねぇんだな‥‥」
「おぅ、主の部屋にゃそれなりに金になりそうなもんが一杯ありやがったが、野郎今日帰って行きやがる冒険者達との炊き出しのときに、寒いと可愛そうだとか抜かしやがってたけぇ物みんな邪魔になるとかいう理由で蔵に突っ込みやがってよ」
「蔵破りの手間ぁ考えているんだろうが、耳たぶ一つ落とされたり下男下女目の前で嬲って脅しつけてやりゃあおとなしく蔵を空けやがるぜ」
「違ぇねぇ‥‥まぁ、商売に差し支えるだろうから、三倉のお頭が押し込むときにゃあすでに表に出しなおしてるかも知れねぇがな」
 下卑た笑いを浮かべる男たちに誰にも聞こえぬように小さく舌打ちを漏らしながらも、御神村は相手の男が『三倉のお頭』と言ったのに2人をすばやく見比べ、勘べぇの引き込みはまだ伊与太が伝五郎に寝返っていることは露にも思っていないのに気がつきます。
 2人の様子を伺っていると、やがて2人は食事を済ませ伊与太が席を立ちのろのろと郊外の茶店へと向かう道へ向かいます。
「面白れぇぐれぇにコトが運びやがる‥‥流石は燧切のお頭」
 楽しそうに峠の茶店へと伊予太がやってくるとあたりの様子を伺いつつ中へと姿を消すのを確認して、御神村はこの茶店を張っているはずの嵐童の姿を探し合流すると、詳細を説明して状況を確認。
 伊予太がそこに腰を落ち着けた様子を確認すると、直ちに取って返し連絡をしに行き、平蔵へと出役を申し出、その夜のうちに伝五郎の宿を急襲したのでした。

●捕縛
 夜、相変わらず捕り物の喧騒が続いていますが、近隣の家屋に話をつけた後のためか騒ぎ出す者達もいません。
 茶屋の2階から屋根に出て低い格子を超えて、逃げ出そうとする男がいます。
 散り散りに逃げているようで、一人の男がその男に添うて手引きをしているよう。
「透波の俺でも、お前達みたいな悪党は許せないな」
「だっ、誰だっ」
 掠れる様な囁きで老人を庇う様に立つ男の声にすと姿を見せたのは美琴。
「逃がす訳には、いかないよ」
 そう言い木刀を構える美琴に、忍びと気が付いた男が履き捨てるように言葉を発し。
「はっ‥‥何を言い出すかと思えば‥‥てめぇも俺らと同じようなもんじゃねぇか」
「‥‥お江戸の為、仲間の為、長谷川様の為だから、がんばれるんだ。悪事で繋がったお前等とは違う!」
 匕首を手に挑みかかってくる男へ、桃木の木刀でそれをいなしつつ踏みこたえる美琴。
 小柄な影を庇っている男のほかにも何とかとを破り表へ逃げ出した者達もいたのですが‥‥。
「うわぁぁっ、囲まれてる!」
「どきやがれっ!」
「逃げないでくださいっ! ‥‥っ仕方がありません!」
「ぎゃあぁぁっ!!」
 レヴィン・グリーン(eb0939)が放つ魔法に踏み込み絶叫を上げる男。
「此の捕り物が他盗賊に知られる訳にはいかない‥‥一人も逃さん」
 木賊真崎(ea3988)が振るう槍に叩かれ悔しげに呻く者など、そこは思った以上に地獄絵図が繰り広げられています。
「くっ‥‥なんとしてでもお頭は‥‥」
 そう美琴と競りつつそう言う男ですが、背後にいた小柄な老人は美琴の意識が自分からそれたのを感じるとさっさとその男を置いて逃げ出します。
「‥‥っ‥‥押され‥‥」
「よう頑張ったな」
 腕の力の差でじりじり通し戻されかけた美琴の耳にそう入ってきた暖かい声と共に、目の前の男が平蔵の十手に打ち伏せられるのを見て。
 美琴はどこか嬉しそうな笑みを浮かべて平蔵を見上げるのでした。
「逃がさん! 来い、慶幸!」
 一方、逃げた男を追うのは、愛馬・慶幸に乗り伝五郎を追う誠志郎と御神村。
中の腕っ節が強い男達をあらかた捕縛し終え嵐山に手傷を治してもらっていた一同ですが、小柄な影が闇にまぎれようと言うのに愛馬の名を呼び飛び乗ると、それに便乗する御神村。
「くっ!」
 声を上げて木立へと身を転じようとするのと、御神村がその影に飛びつくのはほぼ同時でした。
「‥‥っ」
 小さく声を漏らしつつも、針のような物を振り回しもがく恐ろしい力のその老人を、御神村は渾身の力で抑え込むのでした。

●残るはひとり
「良いか、誰に聞かれようとも昨晩の捕り物について漏らしてはならん」
 そう付近住民へと念を押しに行くのは真崎です。
 昨夜も打ち込み前にレヴィンと手分けし、御神楽紅水に手を借りて念を押していたのですが、念には念を入れるのは悪いことであるはずはなく。
「なんとしても、勘べぇの捕縛に影響を出してはいかん」
 真崎のこの一言に尽きるのです。
 三倉の勘べぇ捕縛成功の報告を綾藤にて受け取ったのはその2日後、伝五郎一味はろくに取り調べることもなく役宅内の牢では狭い為、伝馬町の牢へと入れ手置いているそう。
 ただ一人、伊予太を除いては。
「おかねにはたった一人の弟ゆえ相すまぬが‥‥」
 そう平蔵が弥太郎夫婦へと言うと、2人は連座は免れないと思って覚悟をしていたようですが、それに平蔵はほろ苦く笑って家へと帰したとか。
「それにしても、伊与太の知りうる限りの宿に手を入れ、それぞれに腕の立つのを待機させておる。‥‥この度はみんな、ご苦労だった、一つやってくれ」
 綾藤でそれぞれが休んでいると、役宅から顔を出した平蔵が労う為に食事を用意させて言います。
「それにしても‥‥稲吉の様子がどうにも妙、と‥‥」
 誠志郎が言いつつ平蔵の杯に酒を注ぎいれると、平蔵は笑って首を振ります。
「まぁ、なぁ‥‥そちらについては、もう少ししたらわからぁな。何せ、まだ俺ンとこには報告がきちゃいねぇのよ」
「どういうことだ?」
 御神村がそう聞くと、平蔵は笑って言います。
「武兵衛とともに勘べぇ捕縛へと動いてた者達のうちのひとりがな、どうやら入り込んでいるんだよ、稲吉の協力者、としてな」
 平蔵はそう言うと、『ほら、もっと食え』と笑いながら一同へ料理を勧めるのでした。