【盗賊の息子】嵐の前の静けさ

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:5〜9lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 29 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:04月26日〜05月01日

リプレイ公開日:2006年05月06日

●オープニング

 その日、船宿綾藤へ平蔵に別件で呼ばれていた受付の青年は、そのまま留め置かれすっかりと冷めたお茶に手を伸ばしながら平蔵へと目を向けました。
「それで、えっと、もう一つの方は‥‥」
「おお、こちらの方にもまずは気をつけてもらいたい旨を伝えてからなのだが」
 そう受付の青年へと口を開く平蔵。
「まずは密偵二人が殺されたというそれがあるため気をつけて欲しいこと。これはもう一組の方の盗賊宿2件の問題なのか、それとも船虫の直次郎に関わることなのかが分からぬ為だ」
 そういい、手がかりらしき『小保丹』という書き付けられたものの方は、もう一組へと頼んであることを受付の青年と確認を取ると、続ける平蔵。
「特にこちらは、いつも直接盗賊たちと接触する者がいるため、特に注意して欲しい。役宅へと向いてきた者が、密偵達へと向いている可能性があるからだ」
 そう言うと、ふと緩やかに息を吐き、微かに笑みを浮かべる平蔵。
「それと、鶴吉もすっかりと、無理をさせなければ遠出でなければとの注意はあるが、出歩くことを医者から許可を貰える様になったらしい。色々と巻き込まれることのある鶴吉だ、この時期ならば暖かく、いつまでも屋敷で閉じこもっているのもとなってな」
「そうですね、外に出るには良い季節になりつつありますからね」
「そこでだ、鶴吉はまだ安全という状態ではない。実際に鶴吉を狙い利用しようという者自体が確実に掴めておらぬでな」
 平蔵の言葉に首を傾げる受付の青年。
「外に出るのは良い事、となったは良いけど、危なくて外出させてやれない、ですか?」
「うむ、そこでだ、慎重に探りを続けて貰う一方で、というのはまぁ、無理があるやも知れぬが‥‥無理を承知で頼みたい。当然、鶴吉の今後は俺も気をつけるし、あの家では既に家族と思って受け入れておる」
 そう言うと、お燕がやって来て茶のお代わりを置いて出て行くのを見送ってから平蔵は口を開きます。
「鶴吉もよく見知った者達のほうが安心できる。鶴吉の今後の為にも、少しずつで良い、外の世界に慣らして行ってやって貰えぬか?」
 平蔵の言葉に、受付の青年は頷きながら依頼書へと書き付けるのでした。

●今回の参加者

 ea2702 時永 貴由(33歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea2850 イェレミーアス・アーヴァイン(37歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea6780 逢莉笛 舞(37歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea6982 レーラ・ガブリエーレ(25歳・♂・神聖騎士・エルフ・ロシア王国)
 ea8922 ゼラ・アンキセス(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb0993 サラ・ヴォルケイトス(31歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb3582 鷹司 龍嗣(39歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3605 磐山 岩乃丈(41歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

天馬 巧哉(eb1821)/ アシュレイ・カーティス(eb3867

●リプレイ本文

●思わぬ獲物
「直次郎が鶴吉くんを執拗に狙っているのは親の鶴助への恨みが向いたのだろう‥‥。あのような手合いは諦めはすまい」
 捕らえるまでは、そう言いかけ、ふと隣の部屋から聞こえてくる美名の笑い声と慌てたような鶴吉の声に表情を和らげるのは逢莉笛舞(ea6780)。
「では、綾藤からの帰宅にはこちらの縁者が手を借りられると‥‥では綾藤へ訪れる今日の道行きと、出かける先を気をつけていればということだな」
 イェレミーアス・アーヴァイン(ea2850)が比較的警護に余裕を持てそうなのを聞いて頷くと、舞の手助けに来ていた天馬 巧哉が周囲警戒用の巻物を手に頷き返します。
「さーって、二人とも準備は良い?」
「荷物はぽちょむきんに乗っけるじゃん♪」
 元気一杯にサラ・ヴォルケイトス(eb0993)が確認すれば、荷物の包みを見てレーラ・ガブリエーレ(ea6982)が庭につけた愛馬ぽちょむきんを指差し。
「あの‥‥ゼラのお姉さんは?」
「んむ‥‥海へ行く約束だっけ? もう少し元気になってからじゃん? だから、鶴吉君は早く元気にならないとー」
 おずおずと聞く鶴吉に、ゼラ・アンキセス(ea8922)が『元気になったら海に行こうって言ったのに‥‥』と寂しげに呟くのを思い出し一瞬困った顔をしたレーラですが、直ぐに笑ってそう言うと、こっくり頷く鶴吉。
 準備が整い、屋敷を出ようというその時、視線を感じたかのように壮年男性やイェレミーアスが辺りを見回すのに、巻物を閉じると月色の光を生み出し『音無の兵吾』と呟いたその瞬間。
 一同の直ぐ近くの木の枝へと吸い込まれるように飛ぶ光とぽてちんと落ちる小さな影が。
 咄嗟にレーラとサラが一家を守る位置へと立ち、弾かれる様に影に飛び掛るイェレミーアスと舞。
「こやつは‥‥」
 押さえて被る手拭をひん剥いて見れば、そこにはひねこびた性格がにじみ出ている男の顔があり、その体格は異様な程に小柄で、男が握り締めた扇子を叩き落とす舞に、イェレミーアスは直ぐに家人へ縄を持って来て貰い、ぎっちりと縛り上げます。
「このなり‥‥とんだ拾い物をしたな」
 小柄な男――音無の兵吾に、一同は直ぐに改方の者を呼び密かに役宅へと運び込んで行くのを見送ると、気を取り直して、とサラは先頭に立って綾藤へと向かって出発するのでした。

●春の散策
「こーらーっ鶴吉くーん!」
「きゃーにげろー」
「え? うわっ」
 綾藤の離れの一つに元気な声が上がり、舞が見れば舞の愛猫・琴を重そうに抱えながらのたのた逃げる鶴吉と、きゃーきゃーはしゃいで廊下を駆けていく美名。
 そこへがおーとばかりに追っかけてくるサラ、舞と目があってにっこり笑います。
「わわ、僕じゃないよ? 美名ちゃんだよ?」
 琴を抱えて舞の後ろへ慌てて隠れると言う鶴吉、琴はみゃうん? と鶴吉の頬を舐め、鶴吉が一生懸命に抱きかかえ直すと、琴に頬を寄せて小さく笑むのに、舞も知らずのうちに笑みを浮かべて鶴吉の頭を撫でます。
「何があった?」
「もー酷いの、楽しみに最後にとって置いたお団子ーが‥‥」
「あ、じゃあ美名ちゃんじゃない、レーラお兄ちゃんだ」
「‥‥鶴吉君? じゃあ、美名ちゃんは何をしたのかな?」
「え? ぁ‥‥」
 まだ本調子ではないものの、童心に返って遊ぶ者達と一緒についつい釣られてぱたぱた走り回る鶴吉、すっかり赤くなってもごもごと誤魔化しています。
「それだけ元気なら大丈夫かな?」
 舞がかける言葉に顔を上げると、お出かけをするから着替えておいで、と舞は告げるのでした。
 江戸の郊外、少し歩くところではありますが、舟で行けばあっという間、遅咲きの桜が咲き誇る河原へと舟が着くと、若草色の袷に藍色の袴、しっかりと武家の子に見える姿の鶴吉は目をきらきら輝かせて桜を見上げます。
「どうだ、鶴吉、鳥に餌などをあげてみては?」
 舟から下り、鶴吉に声をかけるイェレミーアス。
 屈んで紙袋を渡せば、中には小さな種が沢山入っていて鶴吉はイェレミーアスを見れば、頷いてみせるのに嬉しそうに笑って、そっと一掴み取り出し。
 辺りに止まる小鳥たちへと、河原にぱらぱら餌を撒けば、ちょこちょこと集まってくる鳥たち、その様子に、鶴吉はぱっと顔を輝かせます。
「美名ちゃん、鳥さん達、御飯食べるよ!」
 美名を呼び、サラやレーラと一緒に餌を上げる様子に同行した大人達も表情を和らげて微笑ましく見ているよう。
「鶴吉くんも明るくなって、美名ちゃんも良かったね‥‥最近はどう? 変なことがなければいーんだけど‥‥」
「うん、最近は変なことも起こらないで、凄く楽しいんだよ、サラお姉ちゃん」
 美名は嬉しそうにサラを見上げてそう言うのでした。

●密偵の黄昏
 近頃江戸の町で異国の人を見るのは珍しくなくなりつつあります。
 それでも見事な燃えるような赤い髪が印象的な彼女、ゼラは綾藤の周りを窺う怪しい人間がいないことを確認してそっと役宅へと向かいました。
 同じ頃、時永貴由(ea2702)も髪を結い上げ袴姿で、綾藤で皆のために差し入れの昼食を手伝ってから、暫く綾藤を窺う者がいないかと様子を見ていましたが、今のところ問題がないことを確認すると貴由は見せ物小屋にいる軽業の兵太の様子を確認しに行きます。
 見せ物小屋はまだ暫くは江戸に留まるそうで、少し近付いて様子を見てみれば、この間鶴吉の所に言って、色々話したこと、自分のこの姿を鶴吉や美名、お屋敷の人が嫌がらずにいてくれたと嬉しそうにたどたどしく話しており、貴由の口元に思わず笑みが浮かび。
「しかし、この辺りで人が死んでたとかあったらしいねぇ、物騒な‥‥」
「鶴吉が遊びに来てくれるかも知れなかった日だったから、オイラ良く覚えてる、あの時、子供の泣き声がしてた」
 年齢より幼い喋り方をする兵太はうんうん唸るように眉を寄せます。
「たし、か‥‥オイラ、何だろうと思って、そこの曲がり角の壁、よじ登って見た、一瞬鶴吉かもって思ったけど、誰も付けないで来るの危ないいって、鶴吉、来られなかった、鶴吉違う」
 一生懸命に何かを訴えようとしている様子に首を傾げる見せ物小屋の男。
「何が、違うんだい?」
「鶴吉じゃない男の子、泣いてた、おっちゃん近付いた、おっちゃん屈み込む、突然ばったり、鶴吉違う」
 兵太の言葉にさっと顔色を変える見せ物小屋の男は、泡くってお役人を、と言いかけますが、役人に話を持って行かれれば、違うと幾ら言っても今度こそ鶴吉がやった、ということになる、そう判断した貴由が近付いていって声をかけると黙り込みます。
「おやじ、鶴吉違う、でもオイラ言うこと、大人信じない、ねーちゃん、オイラ、どうする?」
 発育が遅いなりに一生懸命に鶴吉の言葉を理解した兵太、鶴吉が怖い目に遭うのでは、と思い、貴由に縋るように言うのを見て、小さく息を付く貴由。
「その話、もう一度詳しく聞かせて貰えないか?」
 貴由の言葉に、兵太は何度も頷くのでした。
「苦戦している訳ね、音無の兵吾の取り調べは‥‥」
「肝が据わっていて、ふてぶてしい男だ、ありゃ煮ても焼いても食えないな」
 ゼラが顔を出して言うと、溜息混じりに返す男は同心で鳩倉要人と言い、普段は浪人姿で街に溶け込み、色々と話を聞き出すのが得意な男で、彼の密偵が殺されたと言うことで役宅内に大事を取って留まって居る人です。
 ちょうど磐山岩乃丈(eb3605)が話していたところで、鳩倉同心は飄々とした人物ですが、目の下にクマができ口調は穏やかながらどこかピリピリしたものを感じ取ると、ゼラは気遣うように鳩倉を見ます。
「しかし、あの莫迦‥‥」
 言いながら悔しそうに言葉を詰まらせる鳩倉、その声から後悔の様子を感じ取るゼラと、考える様子を見せて口を開く磐山。
「何か、気付いたことなどはござらぬか?」
「‥‥そうだな‥‥彼奴が見つけた盗賊を一人、すでに堅気になったから見逃して欲しい、そう言っていた男がいた‥‥彼奴が昔世話になったとかで、馴染みの女の所でばったり会ったとか‥‥」
「その女性は?」
「茶屋女のお袖と言って、なかなかしっかりした女でな‥‥」
「他に何か‥‥」
「‥‥」
 暫く考える様子を見せる鳩倉ですが、首を横に振ります。
「済まんが、これぐらいしか‥‥」
 そう言って仕事に戻る鳩倉、どうやら牢番に付きそう形になるようで、何かあれば牢まで来ると言い、といって立ち去るのを見送り、ゼラと岩倉は小さく息を付きました。
「そうそう、鶴吉の様子はどうでござったか?」
「遠目からしか見ていないのだけど、随分と元気になったようよ」
 フト表情を緩めるゼラに、笑みを浮かべて頷く磐山。
「そんなに気になるなら後で様子を見に行ってあげれば?」
「あー‥‥いや、我が輩強面であるからして、鶴吉が怖がりはしないかと‥‥」
「あら、大丈夫だと思うけど?」
 くすくすと笑うゼラに軽く頭を掻いてゆったりと立ち上がる磐山。
「では、我が輩はお袖という女の方を調べてこよう」
「貴由さんは兵太君の方に行っているみたいだし、鶴吉君の周りの様子、もう一度調べてくるわ」
 そう言うと2人はそれぞればらばらに役宅を出て町へと消えていくのでした。

●嵐の前の静けさ
「ええい、連絡一つ入っていないのかえっ!?」
 そんな声が鷹司龍嗣(eb3582)へと入り、奥の間でごろんと横になり呼ばれるのを待っていた鷹司は身体を起こして目の前の障子へと目を向けます。
「何があった?」
「兵吾が帰ってこないんですよ。まったく、連絡も入れずにどこ消えやがったんだか‥‥」
 部屋へ入ってくる直次郎にそう聞けば、かりかりとする様子で答えた直次郎、何やら眉を寄せて唸っています。
「あんた‥‥兵吾を役人に売ったなんて事ぁ無いだろうね?」
「おいおい、兵吾はいついなくなったんだ?」
「4日前からですよ、連絡が無くなったのは‥‥確かに、お前さんは4日前には既にここにいたが‥‥」
「なんなら‥‥占ってやるか?」
「良いでしょ、一つ、やって貰いますかね」
 どっかりと目の前に腰を下ろす直次郎に占いをすれば、何やら兵吾には大きな災いが降りかかっている様子、身動きが取れない様子を読んで取り、それを伝える鷹司。
「驚いたね、先生、占いは得意かえ? 今言ったのが本当とすりゃ、兵吾の奴ドジって捕まったのかね」
 むむと唸ると暫く部屋の中へ視線を彷徨わせた直次郎、不意ににたりと笑います。
「なら先生、その占い役に立てて、引き込み、やって貰いますよぅ」
「占いを?」
「ええ、ええ、それをやり遂げて初めて、あたし等の一員として認めさせて頂見ます‥‥呉服屋の三澤屋、ご存じですね?」
「この江戸の呉服屋の中ではなかなかの御店だな、そこに入り込むのか?」
「左様‥‥あそこの主人は占いが好きでしてな、上手く行けばすぐにも御店の中を自由に出入りできるようになるってぇ寸法ですな」
「‥‥」
 ちらり、伺うように見る鷹司に、にたにたと笑う直次郎、背を押すように付け足します。
「勿論、成功した暁にはたんまりお礼をさせていただきましょ」
「良いだろう、引き受けた」
 直次郎にそう告げる鷹司は、緩く息を付きます。
 数刻後、日もすっかりと落ちた綾藤、夕飯も終えて子供達がまどろむ中、鷹司の鷹が運んできた情報と、それぞれが聞いてきた話を集めて相談していました。
「鶴吉君に罪を着せるつもりだったのだろうが‥‥」
「もしかしたら兵太の他に見ていた者がいたかも知れない、これで密偵の一人が殺されたのは鶴吉に化けていた者がというのはほぼ確実だろうな」
 貴由が言えばイェレミーアスは小さく息を付きます。
「直次郎の狙いはほぼ確実に三澤屋であろうが、他にも当たりを付けているところがあるのやもしれぬな‥‥」
「‥‥我が輩が調べたところ、もう一人の密偵は、ほぼ、茶屋女お袖の所に寄った帰りに殺されたようで、その茶屋に非常に近いところだったそうでござる」
 言う磐山、どうやら女の馴染みの男で、今は堅気になった男って言うのが怪しいらしいと付け足します。
「屋敷の方の警備はもう暫く厳重に気を付けてもらえるように伝えないとね」
「‥‥俺様情報収集とかは出来ないけど、絶対に守るじゃん!」
 ゼラが隣の部屋で寝息を立てている鶴吉を、襖を開けてそっと覗き込んで言えば、ぐっと隣に座る愛犬・すわにふを撫でながら言うレーラ。
「あたしたち大人のやんなきゃいけないことは、あんな子供が笑って育てる世の中にすること。大変だけど、あたしたちがやんなきゃね」
 どこか決意を込めたようにサラが言うのに、一同は改めて頷き。
 そんな様子を知らず、鶴吉は楽しかったお出かけの夢を見ているのでしょう、どこか嬉しそうな笑みを浮かべて、静かな寝息を立てているのでした。