【盗賊の息子】押し込みの夜

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:4〜8lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 45 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:07月03日〜07月10日

リプレイ公開日:2006年07月12日

●オープニング

 その日、受付の青年が呼び出された先である船宿・綾藤で暫し待っていると、そこに現れたのは津村武兵衛与力を従え浪人姿で市中を見て回っていた様子の凶賊盗賊改方長官代理・彦坂昭衛その人です。
「済まんな、遅くなった」
 そう言う昭衛の顔には僅かに疲労が見て取れますが、むしろ表情は生き生きとしており、だんだんと改方の仕事自体にやりがいを特に感じるようになったとか、積極的に市中に出、出役にと急がしく過ごしている様子。
「ところで、本日は‥‥」
 そう言いかけた受付の青年に頷くと上座へと腰を下ろす昭衛、その傍らに控えるように腰を下ろす武兵衛に、受付の青年は改めて座り直してそう聞くと、昭衛が頷き、武兵衛が口を開きました。
「やることがたくさんあるのでな、少々慌ただしくなってしまったが、此度も力を借りたく‥‥幾つか、同時に事が起きそうでな」
 武兵衛の言葉に表情を引き締める受付の青年。
 船虫の直次郎に彦根の湯吉、そして鬼形の松太郎の名を上げれば、そのそれぞれの名前に僅かに青ざめる受付の青年、これでもかとばかり聞いた盗賊達の名、そのどれもこれもが凶賊です。
「直次郎の押し込みは迫っている。密偵達の誰もが、もう間もなくと感じているらしい。そして、彦根の湯吉も‥‥」
 昭衛はそう言うと緩やかに息をつきます。
「松太郎についても、調べを進めていかねばならぬ」
 武兵衛が言うと小さく唾を飲む受付の青年。
「そこでだ、いろいろと手を貸して貰いたい」
 言う昭衛に、受付の青年は筆を執り頷くのでした。

「現状、まず差し迫っているのが‥‥船虫の直次郎の押し込みだろう。直次郎は鶴吉の所在が役宅へと移り全く手が出せなくなったことに気がついたらしい」
 鶴吉と壮年男性の一家は、同心達が屋敷を維持しながら役宅内で世話をしているらしく、役宅から鶴吉や美名、そして奥方はほとんど外には出られないものの元気に仲睦まじく暮らしているようです。
「直次郎は恐らく何らかの手を使って鶴吉を呼び出そうとすると思われる。せめて鶴吉に害をなさなければ気が済まぬのだろう」
 武兵衛が懸念するのは、鶴吉の関わった者へ与えられかねない影響だそう。
 見せ物小屋にいる兵太などはそれもあってか江戸郊外の村へと興行という名目で少し江戸を離れるそう。
「では、鶴吉君は寂しいでしょうね、お友達の見送りも出来ないわけですし」
「まぁ、そう長いことではないと鶴吉も兵太も理解していると思うが」
 昭衛の言葉にそうですね、と頷く受付の青年。
「なので、此度は二つ、頼まれたい」
 武兵衛が口を開けば依頼書に筆を走らせる受付の青年、武兵衛は小さく息をつくと続けます。
「まずは鶴吉の護衛、役宅外に出なければ、これはまず平気と思う」
「確かにそうですね」
「そして今ひとつ‥‥」
「‥‥‥‥船虫の直次郎の捕縛、ですね?」
 受付の青年が言うと、頷く武兵衛。
「恐らく、近日中に直次郎は押し込みを働くであろう」
 目標は三澤屋、直前には現在出入りしている鷹司と按摩・辰の市を使うと確信されていて、同心達は出役の準備に余念がないそう。
「くれぐれも、宜しく頼む」
 昭衛の言葉に頷くと、受付の青年は依頼書へと書き付けていくのでした。

●今回の参加者

 ea2702 時永 貴由(33歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea2850 イェレミーアス・アーヴァイン(37歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea6780 逢莉笛 舞(37歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea6982 レーラ・ガブリエーレ(25歳・♂・神聖騎士・エルフ・ロシア王国)
 ea8922 ゼラ・アンキセス(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb0993 サラ・ヴォルケイトス(31歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb3582 鷹司 龍嗣(39歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3605 磐山 岩乃丈(41歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

ヴァレリア・フェイスロッド(ea3573

●リプレイ本文

●不審な動き
「いやはや何とも‥‥相も変わらずと言うか、なんとも凄い御仁でござるな」
 磐山岩乃丈(eb3605)が嘆息しつつ見る視線の先には奉行所与力・佐保田伝衛門の姿が。
 そこは佐保田の屋敷、磐山は佐保田があのまま素直に引き下がらないのではないかとの意見も上がり趣味の人間観察も兼ねて監視していた磐山ですが、既に仕事を始めてから3日目へと移り一刻ほど、深夜とも言える時間にもかかわらず苛々と何かを待っているよう。
 その間にも使用人に当り散らすなどなかなかにその人柄を良く示していたのですが、この日、夜半ごろからどうにもそわそわと落ち着かない様子に磐山は小さく首を傾げました。
「はて‥‥先ほどから落ち着かぬでござるな‥‥」
 磐山が思い返して見ても、改方ではもう一組の冒険者たちが今頃は彦根の湯吉を捕縛している頃、ですが流石に彦根の湯吉との付き合いまでは無いでござろうし、と小さく呟く磐山。
 かた、小さな音にふと見れば庭に人目を忍んで現れた様子の町人風の男、磐山が目を僅かに細め良く見れば、その袖口は血で濡れています。
「遅いではないかっ! うぬら、何をもたもたしておったのじゃ!」
「‥‥へぇ、申し訳も‥‥」
「まずは首尾じゃ、巧く片付けたであろうの」
「それが‥‥異国女を連れてきておりまして‥‥」
 上目遣いに見る男、男の目は何かを非難するかのように厳しいもの。
「『内密に願うこと故、お一人にて』と確かに話を持って行かせたっ! それに異国女如きがなんじゃ! 遅れた言い訳になどならんわっ!」
「その異国女がいたせいで、事が巧く運ばなかった、そう言ったつもりだったのですがね」
 喚く佐保田にあからさまに怒気の含んだ声で凄む男、佐保田は見る見る顔を赤く染めて立ち上がります。
「おのれっ! たかが若造と女如きを片付けられんのかっ!?」
「‥‥若造と女? 昭衛殿と護衛の方でござろうか‥‥?」
 事が巧く運ばなかった、つまり護衛の存在で昭衛に対する悪巧みが失敗した、そう取れる発言に緩やかに息を吐く磐山、町人風の男はちらりと眉を上げると酷薄な笑みを口元へと浮かべて去り際に言葉を発します。
「こちらも一度情報を流していただいた恩はありますがね、手は尽くしましたが、こちらも被害が大きくってねぇ‥‥後はご自分でおやんなさい」
 出て行く男に猛り狂う佐保田、磐山は出て行った男を急ぎ追いますが通りに男の姿は見あたらず、その代わりに佐保田の屋敷を窺う様子の町方同心らしき男の姿を見つけるのでした。
 一方同じ頃、逢莉笛舞(ea6780)は佐保田与力の屋敷から出てきた町人の姿を追っていました。
 夜間の屋敷出入りを張っていたのですが、それまで気になったものは交代で佐保田の屋敷を張っている3人の男達で、交代で帰って行く黒羽織の男を付けていけば、奉行所の同心長屋へと戻っていくのを確認。
「‥‥なるほど、夜鷹の件辺りから捨て置けなくなり調べ始めたのだな‥‥」
 納得したように小さく頷くと佐保田邸に戻り残りの二人も調べれば、先程の同心が使っている手の者であることが直ぐに分かります。
 奉行所がただ見過ごすだけではないことにほっと息をついた舞、途中仲間内での連絡にその場を離れることは多少有ったものの、佐保田邸はあまり動きもなく不安を感じていたのですが、そんな中、舞は佐保田邸を後にする男を確認し後を尾け始めたのでした。
 舞が付けていった先には小さな茶屋があり、裏へと回って入っていくのを見届けるのでした。

●役宅の鶴吉
「いい? 鶴吉くん。一個だけ約束して。もし、どこか動かなきゃいけないときは、絶対にあたしに言ってね。約束」
 そう言って小指を差し出すサラ・ヴォルケイトス(eb0993)に、こっくりと頷いて小指を絡める鶴吉。
 場所は役宅、お菓子や玩具を求めてからやって来たサラに美名も鶴吉もとても嬉しそうに出迎えていました。
「最近色々あったようだな。辛いかもしれんが、もう少しの辛抱だ」
「んむ、俺様もすわにふも頑張るじゃん! だから鶴吉君も頑張るんじゃん〜」
 イェレミーアス・アーヴァイン(ea2850)がくしゃりと鶴吉の頭を撫でて言えば、ぐーと伸ばした手をぶんぶん振るレーラ・ガブリエーレ(ea6982)にばうっと吼えて御主人と共に張り切る様子を見せる愛犬すわにふ。
「お二人も、今が一番大変な時。何があっても鶴吉君を連れてでないよう、お二人も役宅にてゆっくりされるようお願いする」
「む、心得ておる」
 壮年男性がイェレミーアスの言葉に頷いている横では既に鶴吉や美名がサラとレーラ相手に庭をぱたぱた走り回っています。
「鶴吉君なんか欲しいものとかあったら言うじゃん。買ってくるー」
「ほっ‥‥欲しいもの? 欲しいもの‥‥」
 言われてあわあわと考え込んで石舞う鶴吉、レーラは何でも言ってーと言いながらもなんだかちょっと胸を張って続けます。
「和菓子とかオススメじゃん♪ お、俺様が食べたいから言ってるわけじゃないじゃん?」
「じゃ、じゃあ和菓子を‥‥」
 言われるままに和菓子を頼む姿に笑う一同、将棋や独楽をサラに教わりながらの姿は初めて見たときの痛々しい姿から見違えるようです。
 やがて帰ってきたレーラがサラやイェレミーアスに表の通りでうだうだと同じ場所を歩く男の姿を見かけたことをこそっと報告。
「最近暑いね〜‥‥すわにむもへばってるみたいじゃん」
 心配そうに見ていた鶴吉にそう手拭いで額を拭いながら笑うのでした。

●竹藪の隠された庵
「それでは、この辺りで頻繁にその子供の姿を見た、と?」
「うん、でも、気味悪ぃの、なんてか何考えてるかわかんねぇって言うか‥‥」
 そう言って頭を掻く少年に首を傾げて先を促すのは時永貴由(ea2702)。
 貴由は鶴吉を装った者を見失った参拝道で茶屋に入りそれとなく話を聞いていると、茶屋のお手伝いをしていたその茶屋の少年がそれらしい姿をよく見た、と言う話をし始めます。
「俺もいつもここで仕事してるから、追っかけてったりはしねぇけど、一つもあそこに見えるお寺の軒下に入っていくんだ。変な奴って思ってたけど、よく考えたらあそこ抜けて、向こうの通りに出てたんじゃねぇかなぁ」
「向こうの通り? あの寺の向こう側は塀で囲まれているのでは?」
「あぁ、何でかあそこの塀、寺の背後に抜け穴があんだよ。何でも昔、あの寺で人を匿ったことがあるとかないとか。そのための抜け穴なんじゃね? ちょっと、草木で見えにくくなってっけど」
 そこを抜けるとどの辺りに出るかを少年に確認し、礼を言って店を出る貴由。
「確かにこれは‥‥知らねば見過ごしてしまうな‥‥」
 ちらりと道を行きつつその抜け穴を確認した貴由、ふと目をやれば竹藪の中にある細い道と、竹と竹の間から見える屋根らしき物陰に眉を寄せます。
「盗賊宿の一つ、か?」
 隠れるかのようにあるその建物、竹藪の中に身を隠すようにして少しずつ近づいて伺う貴由は、その小さな家でちらちらと姿を見せる中年の夫婦者らしき姿に何とも言えない違和感を感じます。
 その家のことを心に留めて、貴由は他に辺りに何もないかの確認へと戻るのでした。

●押し込みの夜
 その日、既に日も落ち辺りも寝静まった頃、音もなく駆ける黒装束の男達の姿を見いだすことが出来ます。
 裏口で小さく戸を三度叩けば、そっと錠が外される音と開かれる戸。
 黒い影が乗り込んでくると、飛び込んできた男が刃を振るい迎え入れた若い男。
 音も無く雪崩れ込む男達。
「そこまででござるよ」
 ふと男達に投げられる穏やかな声と共に一斉に掲げられる灯り、塀越しの提灯、室内を瞬時に照らす蝋燭達。
 灯りの中には鬼面頬を身につけた磐山が正面に立ち、ざっと出口を押さえるようにイェレミーアスが潜り戸を抜け後ろ手に戸を閉め。
「なっ‥‥いつの間にっ!」
 言う鷹司にわらわらと集まってくる店内に潜んでいた同心立ちも姿を現し。
 そんな中で舞が鷹司龍嗣(eb3582)に斬りつければ噴き出す血、それを見て中心にいたずんぐりとした男がいう甲高い声に一斉に抜き放たれる刀や匕首。
「畜生! こうなったら皆斬り捨ててずらかれ!」
 腕っ節には自身のある男達ですが、先に入り込んでいた同心達の腕、そして待ち構えた一同に前に悉く地を這います。
 身軽に塀を乗り越え逃げ出した者もいましたが、そこに姿を現し回り込むのはゼラ・アンキセス(ea8922)。
「一人も逃さない‥‥自分たちのしてきたことの報いを受けなさいっ!」
 わらわら群がる灰人形に短い悲鳴を上げる若い男。
 半刻後にはすっかりと取り押さえられた男達は、斬られた鷹司に捕らえられた自分たちのことで徐々に焦りが浮かび上がってきます。
 それは、昼間で遡ります。
「辰の市から連絡は受けた。彼は今、三澤屋の主人の揉み療治をしている。押し込むのに絶好の時だ」
 その囁きを受けて繋ぎの若い男が出て行くのを確認してから鷹司が戻れば、隠れてその遣り取りを聞いていた三澤屋はぽかんとした表情を浮かべていましたが緩やかに息を吐きます。
「いやはや、己の店は大丈夫と、人は誰でも思うようでございますね」
 そのふくふくとした愛想の良い顔立に驚きを貼り付けたまましみじみという三澤屋に、苦笑を浮かべる鷹司。
「騙すこととなって申し訳なく思っている」
「いいえ、先生が教えてくださらなければ、あたし達はさっきの若い方の身内の方々に殺されるところだったのです、お礼こそあれ、申し訳ないなんてそんな‥‥」
 ぶんぶんと首を振って言う三澤屋。
 突然告げられた真相に非常に驚きながらも直ぐに使用人達を徐々に客として尋ねてきた同心達と入れ替わりに逃した三澤屋に、鷹司は微かに笑みを浮かべてみます。
「さ、早く逃れられよ」
「はい、本当に有り難うございます。先生も、どうかご無事で‥‥」
 頭を下げ、最後に客の姿を装って出て行く三澤屋を見送るとほっと息をつく鷹司。
「本当に穏やかで良い方でござるな」
「ああ。それにしても直ぐに言うことを信じて貰えて助かった」
「では、後は全て手はず通りに‥‥」
 そんな遣り取りがあったとも知らず、鷹司は斬られ倒れ、同心達が気付かないままに三澤屋に入り込んでいたことにも動揺が隠せない様子の一味。
「直次朗には報いを受けさせてやるわ。絶対に」
 昼間にゼラに捕らえられた辰の市は先程ゼラの捕まえた若い男と共に縛り上げられ、今まで体験したことがない恐怖に震えているようでした。
 昼間、灰を持ち込んで使い、それをけしかけると、辰の市は簡単に捕らえることが出来ます。
 突発的に起きた事柄に対処しきれなかったのでしょうか、とにもかくにも絶対に自分たちが知られることはないという過信が元になったよう。
「貴方達が虐げてきた者の苦しみ、身をもって思い知りなさい」
 高ぶりそうな感情を繰り返しの呼吸で抑えながら、同心達に引き立てられていく一味をゼラは見送るのでした。

●光明
 船虫の直次郎と一味は、その二日後には刑場へと引き立てられ、惨めに泣きながらの事だったそうで、凶賊に苦しめられてきた怒りと失笑に晒されたとか。
「鶴吉君、約束守ってくれてありがとうね」
 そう言って鶴吉の頭を撫でるサラ、捕り物の夜に聞こえてきた物音、それが気になったという鶴吉は迷った末にサラを起こし、サラはレーラを起こして二人で捕らえて見てみたそう。
 それは直次郎の執念、なんとしてでも鶴吉に害をと言うその一念で送り込まれた若い男、子供一人ぐらいならば簡単に片付けられると踏んでか、兵太の見せ物小屋で使っていた笛を使って鶴吉に働きかけていたそう。
「それにしても、迫真の演技だったな」
「なに、あの見せかけの血のお陰で疑われる間もなく、な」
 舞が言えば頷く鷹司。
「後は気になることは‥‥竹藪の中の小屋なのだが‥‥」
 そう呟くように言う貴由に、後は佐保田の話していた相手だな、と言う磐山。
 佐保田と話していた若い男は捕らえられた一味には居なかったためです。
「それが片付いたら、お家に戻って美名ちゃんやお父さんお母さんと一緒に暮らせるわね」
 ゼラが微笑むと、そのことを思ってかはにかむように笑って頷く鶴吉。
「あと少しの辛抱だな。それまでは役宅の皆や『家族』の言うことを良く聞いて良い子にして居るんだぞ」
「んむ、あと一踏ん張り、頑張るじゃん♪」
 イェレミーアスが言えばレーラがんーっと伸びをしながら笑い。
 一同は鶴吉が小さな胸にいっぱいの希望を持ってその日を待ちわびている様子を、微笑ましげに見守っているのでした。