【盗賊の息子】僅かに繋がる糸

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 95 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:08月08日〜08月15日

リプレイ公開日:2006年08月20日

●オープニング

 その日、綾藤へと呼び出された受付の青年は、酷く難しい顔をしている凶賊盗賊改方与力・津村武兵衛に言葉を失い、暫し立ちつくしていました。
「む‥‥? おお、済まぬな、その様なところに立っておらず、こちらに」
 暫くしてふと気が付いた武兵衛が言うのにおずおずと部屋に入って腰を下ろすと、遠慮がちに口を開く受付の青年。
「その、お仕事の話と窺ってきたのですが‥‥」
「そのことよ。どこからどう話せば良いのか‥‥」
「あ、あの、大丈夫、ですか‥‥?」
 少し困ったように告げる武兵衛の表情は酷く疲れて見えて、思わず尋ねる受付の青年に、苦笑を浮かべて頷く武兵衛。
「実はな、少々困ったことになっておる。これが、頭の痛い話でな‥‥」
 そう言って話し始める武兵衛。
 武兵衛の話では、一部密偵――それも平蔵にもそれぞれ同心達や密偵仲間にも深く信用を得ている者達が、ある特定の冒険者とは仕事が出来ないと言ったようで、それも余程の覚悟を固めてのことらしく。
「一度ならば多少の行き違いだが、二度も密偵達へと不信感を植え、無用の挑発をし、相手を下に見た対応をした者がおる。だがな、いつ正体がばれ殺されるか、その覚悟をしてまで外道を許せないと堪え忍び嫌なことをも率先してやる者達への心ない言葉は‥‥」
 その話を聞かされ、またその人物によって起きた事柄に対し、対応に追われた日々だったようで、武兵衛は深く溜息をつきます。
「済まんな、仕事の話であったな‥‥」
 やがて、疲れたように笑むと武兵衛は話し始めるのでした。

「まずは鶴吉の方のだが、あれから竹林の中にあった建物は、直次朗の住んでいた茶屋であったようだ」
 そう話し始める武兵衛、その小屋には宿の番人をしていた老夫婦が捕らえられ、一味と供に処刑されたこと。
 佐保田邸を見張っていた同心とは、特徴を舞から聞いていたこともあり、かつての部下であったことから連絡を取り合い、佐保田に責めを負わせる事になったとか。
「それは先日確かに承りましたね」
「さて、そこで問題になるのが、もう一組の方で、色々と問題が起きて竹林の中にあったとある凶賊の宿近くで騒ぎを起こして、連絡を受けた者が駆けつけたときにはもぬけの殻となってしまったのだが‥‥‥」
 そこまで言って緩く息を吐く武兵衛。
「それで、舞殿が付けていった先の茶屋迄もが、あれ以来ぱったりと店を閉じてしまってな‥‥恐らく関わり合いがあったのだろうと思われるのだが‥‥その時に、佐保田の屋敷へと来た男の似顔絵を念のため作らせていたところ、撒かれてしまったらしいのだが、それらしい者を見た、と‥‥」
「それはどこで?」
「何と、改方役宅付近と鶴吉と共に役宅に移って来ているあの一家の屋敷の付近で、だ」
 そこまで言うと、武兵衛は表情を引き締めて続けます。
「そこで、その男の潜伏先を何としてでも見つけ、捕らえて貰いたい。それと‥‥恐らく鶴吉に何やら関わり合いがあるようだ。なので、鶴吉の身辺の警護も続けて貰えるよう頼みたい」
 武兵衛の言葉に、受付の青年は頷いて依頼書に書き付けているのでした。

●今回の参加者

 ea2702 時永 貴由(33歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea2850 イェレミーアス・アーヴァイン(37歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea6780 逢莉笛 舞(37歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea6982 レーラ・ガブリエーレ(25歳・♂・神聖騎士・エルフ・ロシア王国)
 ea8922 ゼラ・アンキセス(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb0993 サラ・ヴォルケイトス(31歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb3582 鷹司 龍嗣(39歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3605 磐山 岩乃丈(41歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

リーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)/ ポーレット・モラン(ea9589)/ キース・レイヴン(ea9633

●リプレイ本文

●密偵
「‥‥件の騒ぎのあった日、三日月堂に町人風の男が訪れていたと聞いたものでな」
 イェレミーアス・アーヴァイン(ea2850)が聞く言葉に顔を見合わせる密偵達。
「その者の様子、詳しく聞かせては貰えないだろうか?」
 言うイェレミーアスに顔を見合わせる密偵達、配られていた人相書きを合わせ確認すれば、どうにも同じ人物のようであったとの話を聞きますが、三日月堂にはまだあれから繋ぎらしき男が現れていないとも。
「繋ぎの間隔が長いのかも知れないけど‥‥それにしても、とりあえず人の気も知らずに津村さんの言うような対応を取る輩はさっくりと潰しておきたいくらいかなー♪」
「んーむ、武兵衛のおっちゃん大変そうだったじゃん」
 サラ・ヴォルケイトス(eb0993)が引きつった笑顔を浮かべている横ではレーラ・ガブリエーレ(ea6982)が困ったように腕を組んで考え込んでおり、その二人を宥めながらも溜息を吐くリーゼ。
 密偵達とどこかぎくしゃくした雰囲気があるのも、前もって言われていた対応の悪い人間が元だったとかを考えると仕方がないこと、此方よりも自分たちは風当たり強いだろうね、と肩を竦めるリーゼはサラのお手伝いに一足早くやってきていました。
 そんな様子を眺めつつ苦い微笑を浮かべるゼラ・アンキセス(ea8922)。
 ゼラの表情には密偵達への何とも言えない不安感や申し訳ないといった感情が入り交じっており、そんなゼラに苦笑混じりに何気なく言葉を発する磐山岩乃丈(eb3605)。
「やれやれ、一難さって又一難どころか、難が去らずにして次々と難がやって来るでござるな」
「しかし、確実に前進しているではないか」
「おお、これはこれは津村様」
 幾つか過去の調べ書きを抱えて顔を出す武兵衛に慌てて立ち上がりかければ、笑って首を振り止める武兵衛。
 卓にそれを置くと、悲痛そうな表情でおずおずと時永貴由(ea2702)が口を開き。
「津村様、ご心痛お察しします‥‥」
「うむ、気遣い感謝する。しかし、お前さんの方がずっと辛そうだぞ」
 疲れは色濃く現れているものの、笑って言う武兵衛に俯きながら続ける貴油。
「密偵とは、一人では成り立たない。相手の心を痛みを知り、他の方と信頼しあう事が何よりも必要と思っています‥‥」
「お江戸の平和を預かるとはこれ即ち、人と人との触れ合い、繋がりを守るという事でござろう、と我が輩考えているでござるよ。無論、お江戸の平和を守る者同士、触れ合い、繋がりを大事にしたいものでござる」
 途切れかけた貴由の言葉を継ぐかのように言う磐山、逢莉笛舞(ea6780)や着物や髪型などで姿を変えて顔を出した鷹司龍嗣(eb3582)も同意するかのように顔を上げて。
「我等一同、長谷川様のお人柄と志に惹かれて集まり来た、同志、いや家族も同然と考えておるでござる!」
 言ってから『少々不遜な物言いとなり申した』と慌てて謝る磐山ですが、目を細める武兵衛はこの言葉を嬉しく受け取ったようで。
 貴由は自身の思っていたことが磐山の口から出たことに驚いたように口元に指を当てて見ていましたが、小さく息を付いて微笑を浮かべ。
「今の長谷川様には、きっと何よりの言葉であろうな」
 武兵衛は小さく笑って言うと、廊下をゆったりと歩き去る足音が、心なしか嬉しそうに聞こえてくる気がするのでした。

●足取り
「こちらは直次朗の盗賊宿であった、か‥‥」
 呟いて見回す貴由、改方が探索した後なので大した遺留品もないので緩やかに息を吐くと、先程聞き込んできた情報と照らし合わせて考え込む貴由。
「こちらの宿とあちらにあったと言われる建物‥‥何か繋がりがあるのだろうか‥‥?」
 ここに住んでいた中年夫婦はもう何年も前から住んでいたため分からないとのこと、また同時に調べている人相書き等や特徴を照らし合わせても、どうもそれらしい者が来ていたらしいことは聞けず、意を決してもう一つの建物へと意識を向け、ゆっくりと立ち上がるのでした。
「へぇ、なんでも叔父さんが具合を悪くしたとかで‥‥手伝いに行っているとか、そう聞いたんだが」
 舞が聞き込んでいると、竹藪の中の小屋の近くに住む人がそう答え。
「今の小屋がもぬけの殻になったのも、なんか大きな音がした後で、何だかぞろぞろ男が出てきて辺りを捜してたな」
「本当か? それはこんな様子の男では‥‥」
「そうそう、こんな感じの男はいなかった?」
「ああ、このひとですよ、真っ先に飛び出してきたのは」
 男の言葉に満足そうに頷くと、舞はもっと詳しくと先を促し聞き込みを続けるのでした。
「なかなか鶴吉の心休まる時がやってこないな‥‥。まだ幼い子だ、ずっと家の中では退屈しているだろう」
 草や竹に色々と確認を取りつつも、なかなかはかどらない探索に小さく息を付くと、鷹司は顔を上げて呟きます。
「あぁ、何か分かったのか?」
「叔父の店の手伝いと称して出かけているそうだが、あれは夜逃げと一緒だな」
 舞が声をかけつつ姿を現し、互いに情報を確認する2人。
「ああ、何もないからな。草などから確認を取ったところで、おおよその方向しか分からなかったのだが‥‥」
「手分けして捜そう」
「分かった」
 舞と鷹司は共に竹藪を出ると急ぎ足で女が居るであろう茶屋を探しに別れるのでした。
「佐保田殿と会っておったあの男を再び見つけ、捕らえれば宜しいでござるな」
 小さく呟いて足を使って辺りを確認して回る磐山、途中で貴由と合流して二言三言、場所を変えてこっそり言葉を交わしていると、通りを歩いていく男に目を向けて言葉をとめる磐山。
「あやつ‥‥」
 磐山は直接に男を見ています。
 貴由に目で合図をすれば立ち上がり、互いに時間と距離を置いて男の後を付け始めるのでした。

●襲撃と反撃
「んむー、鶴吉〜、もうすぐで全部解決するはずなのだ♪ だから、安心して待ってるじゃん」
「うん」
 こっくり頷いて簡単な字を教わったりしながらの鶴吉、それまでにも色々な各人の仕事の話などを聞いて我が儘も言わずににこにことして言うことを聞いて良い子にしている鶴吉に、レーラもサラもすっかり本当の弟のように可愛がっています。
「さてと、鶴吉君、美名ちゃん、お昼寝しよう♪」
 サラが声をかけて風邪のはいる涼しい部屋日陰の部屋でお布団敷いて転がれば無邪気に眠る子供達と、夕方から夜に備えるサラ。
「鶴吉君のお父さんが直次郎の事を証言したのが、直次郎が鶴吉君を恨むきっかけになったのよね‥‥松太郎もかしら‥‥?」
「それはどうだろうか‥‥確か聞いた話では自分たちの件を認めたものの、それ以外は何にも話さなかったらしい」
 武兵衛が持ってきていた調べ書きを手に取りぺらぺら捲って言うイェレミーアス。
「それよりも、別に狙われる理由があると‥‥それが何なのかはわからんのだが」
 本人達に聞くより他はないな、と小さく言って小さく息を吐くイェレミーアス。
「じゃあ、私は通りの見張りに戻るわね」
「俺も付近を調べてみよう」
 そう言って立ち上がる2人、途中すれ違う密偵などに挨拶や軽く礼を伝えて出て行くのを見送ると、レーラは部屋の入口に腰を下ろして、暑いこの陽気に暫く溶けているかのようにぐでんとしながら見張りを続けているのでした。
 役宅にすっかりと馴染んでいる子供達が居るせいか、料理好きな同心の好意で良く冷やされた蕎麦やら白玉やらを振る舞われて、風も涼しくなってきた頃。
 それに気が付いたのは役宅の周辺を巡回していたイェレミーアスでした。
 微かに聞こえる複数の足音に足を止めれば、季節柄完全な闇に落ち込んでいない道を、4人ほどの男が急ぎ足でやってくると、辺りを窺っているよう。
「あいつ等は‥‥賊、か?」
 目を僅かに細めて見れば、何やら男の一人が注意深く辺りを窺っている様子のその塀の向こう側は、役宅の裏手で、中庭の木の陰になりそうな位置。
 そのうちの1人が塀の出っ張りへと足をかけ、1人が辺りを見回し、2人が懐から忌避出したのは匕首。
「っ!」
 小さく息を飲むと剣を抜き様に駆けだすイェレミーアスに、内の1人が気付き、辛うじて抜き掛けた短めの刀で受け流すと、他の3人は弾かれたように駆けだし、受け流した男も刀を構えながらじりじりと後退し。
「お前達の目的は何だ」
「‥‥」
 下がる男と距離を保ち、互いに剣と刀を向け睨み合う男とイェレミーアスですが。一瞬間合いを抜けたと判断した瞬間には、男は脱兎の如くに逃げ出します。
「くっ! 待てっ!」
 追いかけようとするも頬を掠めるように投げられた匕首に僅かに身体を捻り、逃げ去る男に僅かに眉を寄せますが、すぐに駆けつけてきたレーラとサラに鶴吉の様子を聞き、緩く息を吐きます。
「すぐに逃げたと言うことは、目的は他にあったのか‥‥?」
「逃げ足も速いし、忍び込むのに何の道具も持ち込まないでって事は、この塀を越えて入ってくるつもりだったんだね」
「つまり、敵はとっても身軽ってこと? うう、逃げられて悔しいじゃん」
「しかし、4人となれば下手に役宅内に侵入されれば面倒なことになったろうな。ともかく、鶴吉達の所へ戻ろう」
 言って役宅内へと引き返す3人、すぐに心配そうな顔をした美名と鶴吉が顔を出し。
「2人とも大丈夫だよ、イェレミーアスさんが追っ払ってくれたからね」
 笑って声をかけるサラに、くしゃりと鶴吉の髪を撫でるイェレミーアス。
「でも、あの男たち何しに来たのかな? 何にもしないで帰っていったから、訳が分からないじゃん?」
「もしかしたら、鶴吉へ害を与えると言うこと以外に何か用があったのかも知れないな」
「何か聞きに来た、とか?」
 分からないが暴力的な手段を用いてだろうな、と匕首を咥えて塀を越えようとしていた男達を思い出し、イェレミーアスは鋭い目を向けて暫し考え込むのでした。

●捕縛
 少々時間が遡り、婀娜っぽい女が茶屋の客にしなだれかかりながら酌をする様を、向かいの店の2階から見下ろして、緩やかに鷹司は息を付きます。
「あの男と女は余程親しい仲か‥‥」
「同じ家業の仲間か‥‥」
 舞が呟くのに頷く鷹司、2人は草木に教わった事や聞き込みから探り当てた先の茶屋で、女はそこの茶屋の姪だとか言うふれこみで働いているらしいのですが、働いていると言うよりは特定の男が来るときに侍って酌をしているだけに見え。
「しかし、あの男‥‥」
「ああ、私が前に佐保田の屋敷から出て行ったのを見た、あの男だ」
「前に付けたときに、あの女の茶屋へと行っていた、と言うわけだな」
 女がしなだれかかっている相手の男が、佐保田の屋敷に彦坂昭衛暗殺失敗を告げに来た男であることを確認する鷹司に頷いて答える舞。
 見れば通りの向こう、男を窺う様子の磐山と貴由の姿が見えることに気が付く2人。
「はて、どこかで見たことがある気がする女でござるな?」
「‥‥人相書き‥‥」
「む‥‥」
 側の角で立ち話をしているようにも見える貴由と磐山はそっと人相書きを確認し、茶屋の2人は気が付いていない様子の2人は向かいの通りで男を張っていたゼラに目を向ければ、ゼラもその女が人相書きへと目を落としているところです。
「まさか‥‥」
 小さく呟いて顔を上げて辺りを見る貴由は、向かいの障子が開かれており、そこから何気ない客を装っていた鷹司と目が合い。
「む、男が動き出したでござるな」
 磐山の言葉に貴由が顔を戻せば、酒の徳利を片手に歩き始める男の姿と、お銚子を片付けている女の姿が。
 頷き合って、先に後を付け始めたのは磐山、貴由は男の捕縛時のことも考えて出来るだけ目に触れないようにした方がいいとの判断からです。
 その磐山を尾ける形でゼラが後を追っていき、その後に貴由が続き。
「‥‥女のねぐらはあの茶屋で当分変わらないようだな」
「ああ。あの茶屋にはあと少々腕っ節が強そうな中年男と、あと初老の男が‥‥恐らくはあの茶屋の主なのだろう」
 考えるように言う鷹司に頷き、確認をしてきたことを報告する舞。
「昨夜の騒ぎは流石に胆が冷えたな」
「仕方がない。あの女がいつまでも1人で酒を飲んで眠らないとは思わなかった」
 昨晩忍び込んだときに危うく女と鉢合わせになりそうだった舞は、念のためと愛犬・潮を連れて行き、潮が吠えて気を引いている内に脱出し発見を免れていて、小さく息を吐いて苦笑混じりに茶屋へと目を向ける舞。
「どうやら男は別のねぐらだったようだな。‥‥どうする?」
「女1人を捕らえれば良いだけならば容易いが、男達の方が、な‥‥」
 3人を取り押さえるには今の状態では危険と言うこと。
「先にあの男の方を押さえてからの方が良いだろうが‥‥」
 呟くように言うと、鷹司は男が歩き去った方向へと目を向けるのでした。
 男は薄暗くなってきた辺りを気にする様子もなく、ひょいとわき道へ逸れるとそのままぶらぶらと田んぼ沿いの道を歩いていけば、ふらりとその行く手に現れたのは茣蓙を抱え手拭いを被った女。
「旦那、どうです?」
 すと近付いて行って声をかける女ににやりと笑い、良いだろうとついて行く男、ふと曲がり角を曲がったとき、ぬと現れた巨体に小さく息を飲んで身を翻して逃げだそうとするのですが‥‥。
「っ、な、なんだこいつら‥‥」
 きっと睨みながら匕首を取り出す男に群がるのは、3人のゼラ。
 1人に斬り付けそれがはらはらと灰に還るのに短く舌打ちをした男が逃げ道を求めて視線を目の前のゼラ達から逸らしたところに、追いついた巨躯の磐山、その顔には大きく開かれた鬼の口が見て取れ。
 一瞬固まった男に十手を繰り出し昏倒させると、夜鷹は手拭いをはらりと落とし。
 そこには上手く行ったことに口元に笑みを浮かべる貴由の姿があるのでした。

●鬼形の松太郎
 男を役宅に引っ張り絞り上げても、なかなか松太郎のことを漏らさない男ですが、あの女が鬼形の情婦であることだけは隠しても仕方がないと思ったか漏らし。
 女を捕縛すれば鬼形が怪しむとして、見張りを付けることとなった一行、それを請け負う事になった密偵に二言三言声をかければ、それぞれの立場の違いを話された上で。
「‥‥正直、全部を全部信じられるとは思わねぇが、少なくとも、お前さん方に嫌な思いをさせられたこたぁねぇからな」
 1人への不信に固まりかけていた密偵達も、もう一組の件の者以外の心の痛めようや話を聞いてもう一度信用して動いてみよう、となったのだとか。
「きゃつめ、まだ粘っておるが、必ず鬼形の盗人宿を吐かせて見せよう」
 そこへ、密偵と入れ替わりに部屋に入り様、男の話した情報を伝える武兵衛。
「いよいよ、いよいよ鬼形の松太郎へと手が届こう。近いうちに、またギルドを通じ、協力を頼むこととなるが、宜しく頼む」
 そう言うと、武兵衛は久方ぶりの力強い表情で頷いてみせるのでした。