【凶賊盗賊改方・悪意】殲月
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■シリーズシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:7〜13lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 1 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:07月04日〜07月10日
リプレイ公開日:2006年07月12日
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●オープニング
その日、受付の青年が呼び出された先である船宿・綾藤で暫し待っていると、そこに現れたのは津村武兵衛与力を従え浪人姿で市中を見て回っていた様子の凶賊盗賊改方長官代理・彦坂昭衛その人です。
「済まんな、遅くなった」
そう言う昭衛の顔には僅かに疲労が見て取れますが、むしろ表情は生き生きとしており、だんだんと改方の仕事自体にやりがいを特に感じるようになったとか、積極的に市中に出、出役にと急がしく過ごしている様子。
「ところで、本日は‥‥」
そう言いかけた受付の青年に頷くと上座へと腰を下ろす昭衛、その傍らに控えるように腰を下ろす武兵衛に、受付の青年は改めて座り直してそう聞くと、昭衛が頷き、武兵衛が口を開きました。
「やることがたくさんあるのでな、少々慌ただしくなってしまったが、此度も力を借りたく‥‥幾つか、同時に事が起きそうでな」
武兵衛の言葉に表情を引き締める受付の青年。
船虫の直次郎に彦根の湯吉、そして鬼形の松太郎の名を上げれば、そのそれぞれの名前に僅かに青ざめる受付の青年、これでもかとばかり聞いた盗賊達の名、そのどれもこれもが凶賊です。
「直次郎の押し込みは迫っている。密偵達の誰もが、もう間もなくと感じているらしい。そして、彦根の湯吉も‥‥」
昭衛はそう言うと緩やかに息をつきます。
「松太郎についても、調べを進めていかねばならぬ」
武兵衛が言うと小さく唾を飲む受付の青年。
「そこでだ、いろいろと手を貸して貰いたい」
言う昭衛に、受付の青年は筆を執り頷くのでした。
「さて、まずは真っ先に手を付けて貰いたいのは、彦根の湯吉一味の捕縛だ」
風斬や御神村の捕らえた男が口を割ったところ、数日中に押し込みを決行するらしく、一気に3カ所ほど襲ってから江戸を落ちる予定であることが判明したそう。
「こちらは同心達と協力して捕縛して貰いたい。連絡と出役時には武兵衛が付いていく」
「あれ? 昭衛様は出られないんですか?」
「おやじ殿の代わりに呼び出しを食らっている。大身旗本なんてのはろくな者ではないな。いくらお役目で忙しいと言っても一方的に呼びつけられてな」
フンと鼻を鳴らす昭衛、どうやら呼び出しの時間はまだ先方から伝えられておらず、動くに動けないとか。
「しかし、この時期に呼び出しとは‥‥」
「人の都合など考えもしない者なのだろうよ」
心配げに言う武兵衛に全く、と少々お怒りの様子の昭衛。
「では、こちらの捕縛、ですね」
「後、三日月堂の方には繋ぎらしき男が顔を出すようになった。今のところ留守を預かっている荻田が疑われている様子はない」
言われる言葉を書き付けていく受付の青年に、昭衛は続けます。
「そして、ずうっと張っていた盗賊宿、あれが鬼形の松太郎という盗賊のものであることが、三日月堂の番頭と主人を絞り上げたところ判明した」
金儲けと共に、有力な『病死して欲しい者』そして『病死した者』を抱える家と繋がりを保ち、又、ある者は強請り、あちこちへと手引きをさせることを強要させるつもりだったとか。
「場合によっては武家屋敷や大店の主人などが、無理矢理に共犯にさせられる可能性があったというわけですか」
「うむ、そこで、三日月堂に繋ぎに来る男の周辺を洗い、他にもあるであろう盗賊宿を引きずり出して欲しい」
昭衛の言葉に、受付の青年は頷きながら依頼書に書き付けていくのでした。
●リプレイ本文
●彦根の湯吉
月に翳るような雲がかかり薄暗い空の下、とある武家屋敷の庭に揃い十手・刀の手入れに余念の無い同心たちの前に現れるのは今宵の指揮を任された天風誠志郎(ea8191)と、包囲網の指揮を取るために武装した津村武兵衛。
「では津村殿、手筈どおりに‥‥」
「天風殿、正面からの打ち込みは非常に危険‥‥くれぐれも気を付けられよ」
言葉とは裏腹に微笑を浮かべ言う武兵衛に頷く誠志郎、ぴりぴりと身を切るような緊張感にどこか心地良さをも感じながら先に出立する武兵衛と同心数名、それに捕り物へと参加する小物達を見送ると緩やかに息をつきます。
「高提灯に風避けのついた照明器具か、色んな道具があるんだねっ」
過去に捕り物に何度も参加している所所楽石榴(eb1098)も、張り詰めた空気に深く息を吸うとにこり笑って言い、一同と共に踏み込む手筈となっている同心たちの間にもほっとした空気が流れます。
「‥‥雨になると厄介だね」
「嫌ぁな雲ではあるが、流れは速ぇ。ま、大丈夫だろうよ」
月を隠す雲に眉を僅かに寄せる風斬乱(ea7394)ですが嵐山虎彦(ea3269)はにと笑い、いくつもの書き込みが入れられた見取り図を開いて縁側へと広げ。
「さて、あの宿の作った大工の絵図面を写させて貰ったが、中に手は加えられ照るだろうが、しっかりした作りだ、間取りは弄っていねぇだろうとよ」
「恐らく、彦根の湯吉がいるとしたらこの辺りだろう」
誠志郎の言葉に頷く風斬。
「一味を決して取り漏らしてはいけない。だが‥‥まずは敵の頭を抑えることが重要だ」
「奴ら、準備を始めたぜ」
そこへ、御神村茉織(ea4653)が入ってくると頷きます。
「つまり、全員揃ったってぇ事だ」
「‥‥中には?」
「15人、それぞれがなかなかに癖がありそうだが‥‥」
「十分だぜ、一人も逃がしゃしねぇよ」
中の様子を告げる御神村に頷くと絵図面を閉じ立ち上がる一同。
「俺はちょっと気になることがある、こちらは大丈夫か?」
「あぁ、問題ない」
御神村が聞けば、刀を手ににやりと口の端を持ち上げ答える風斬。
「所所楽殿、裏からの者たちはお任せする」
「任せといて♪ 誰も逃げられないよ」
石榴は誠志郎に言われた言葉に扇を手に自信たっぷりに頷くのでした。
「さぁ、決着を付けようじゃないか‥‥お山の大将さん」
呟く風斬、付近一帯に響くような派手な音ともに嵐山が入り口の戸を身体で突き倒すのと、誠志郎・風斬が中に飛び込み、そのまま正面の部屋の襖を開け最短距離を突き進む二人。
「邪魔立ては無用! 少しでも手に余るようなら斬って棄てろ!」
「応っ!」
続く同心達に声を上げ様、問答無用に両刃の異国の剣を振るう誠志郎。
「やれやれ、血の気の多い‥‥ま、俺もだがね」
散り散りに逃げる者を捨て置いて斬りこめば、瞬く間にたどり着く奥の間。
「!?」
襖に突き立てられる槍に一瞬身を引き交わす誠志郎。
「っと、誠志郎避けろっ!」
実に楽しげな声とともに十手で突き刺さった槍ごと襖が打ち抜かれ、見れば庭に面した障子を開け放してちょうど降りる中年男と、それを守るかのように4人の男‥‥正確には吹き飛ばされた男を除けば3人ですが、立ちはだかっています。
「虎彦、やりすぎだ」
そう言いながらも何かを下敷きにしている襖を踏み越えて部屋に入る誠志郎。
風斬もそのまま踏み越えて入れば、じりっと下がる3人、嵐山がどっかりと入り込めば、蛙でも踏みつぶしたかのような声が上がり。
「おとなしくお縄を頂戴するか‥‥それともここで引導を渡して欲しいのかぃ?」
「お頭っ! ここは任せてっ!」
嵐山がにやりと笑うと、3人の男達は嵐山・誠志郎・風斬へと斬りかかり、その隙に庭を突っ切って逃げようとする彦根の湯吉ですが、そこへ待ち構えていたのは石榴でした。
「一指し、舞って見せようか?」
わらわらと逃げ出してきた者達を、いつの間にか雲が流れぼんやりと色づいた月と、高提灯の明かりに見守られながらの石榴は舞いつつ男達をかわし、逃れぬように仕掛けていました。
「残念、夜じゃ、観客なんて居ないけどね‥‥」
呟いた石榴ですが、黄色く色づいた月に照らされた石榴の口元に常とは違う艶然とした笑みが浮かびます。
「あぁ、盗賊さん達を魅了しちゃえば良いんだねっ?」
月を背負いながら宵闇の中を一身に灯りを集め踊る石榴の前に庭から板塀を身軽に越えた中年男、石榴は男と向きなおると突き入れられる短刀を、一回、二回と軽やかに交わし舞うのは幻想的の一言。
加勢に来る同心たちに手を借り引き立てられる彦根の湯吉の目に最後に映ったのは、月を背負い扇を突きつけ微笑を浮かべた石榴の姿なのでした。
●血路
「嫌な予感がしやがる‥‥頼むから外れてくれよ‥‥っ!」
いつの間にか雲が流れ月があたりをぼんやりと明るく照らす中を、御神村は彦坂昭衛が呼び出されているという郊外の料理屋へと向かい駆けていました。
そろそろ日も落ちる頃に戻ります。
彦根の湯吉方へと粗方の者が出張っている中、昭衛は呼び出しの高級料理屋、とでも言うのでしょうか、そこへと向かいながら、堂々と尾けるという言葉がまさしく正しい、青を基調とした和装に杖といった出で立ちのリーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)に気がつき溜息をついて手招きをします。
「あちらに一人でも手が多いほうが良いに決まっているであろうが」
「そうは言ってもね、昭衛さん、同心は出役に回せって話なら冒険者は問題ないでしょ?」
「だがしかしな、今の改方は、それなりにいろいろとあろうと拘らぬ。親父殿が今回の指揮に押した天風殿なども‥‥」
言いかける昭衛ににっこりと、それでいて有無を言わせない雰囲気を漂わせて微笑むリーゼ。
「いい? 平蔵さんが居ない今あなたが襲われたらどうするの? 組織の責任者が居なくなったら改方は凶賊に対して後手に回るかもしれないよ? そんなことは誰も望んでいないでしょ」
「い、いや、それはそうだが‥‥」
リーゼに押されるようにほうと溜息をつきながら両脇を竹で囲まれた小路へと入る昭衛。
風が竹を揺らし涼やかな音のなか、しばし歩く二人。
「それにね、昭衛さん」
「ん?」
「私が護衛につくのは、同心さんたちと昭衛さんの意見の間を取った結果、何とか認めてね。認めなくてもついてくから」
きっぱりと言い切るリーゼに仕方ないとばかりに小さく口元を歪めて笑う昭衛。
「口ではどうやっても女子には勝てぬな」
「そんな事を言って、用心に越したことはないでしょ?」
楽観視しすぎよ、と叱られて肩を竦める昭衛、やがて二人は竹薮の中にある、知る人ぞ知るといわれ旗本などが押し伸びで出かけてくるとも言われる料理屋へつき、すぐに立派なつくりの間へと案内されます。
「なんだか落ち着かないね‥‥どうも綾藤に慣れているからって訳じゃないようだけど」
どこかぴりぴりとした雰囲気に気に入らないね、と呟くリーゼ、同じことを昭衛も感じているよう。
先ほど腰の物を預かるといわれたときから昭衛も嫌な感が拭えなかったようで、武士の命を預けろとは何事だと突っぱねています。
「少し遅れてしまっておられるよう、よろしければお先に何かお持ちしましょうか?」
「いらぬ。呼び出しておいて待たせるとは‥‥」
今頃彦根の湯吉を包囲しているか、もしかしたら既に捕り物を始めている頃と考えるほど昭衛は落ち着かないらしく悪態をつきかけますが、ふ、と何かに気がついたように床の間に置いた刀へと手を伸ばし、リーゼもその様子に杖を握りしめ。
二人の意識が廊下と次の間へそれぞれと逸れた瞬間、両氏を進めに来た男が突如身体ごと昭衛へと突進し、不意を疲れかけた昭衛をリーゼが突き倒すかのように飛びつくと、勢いあまり次の間へと襖ごと倒れ込む使用人。
「!!」
そこへ雪崩れ込んでくる4人ほどの男たち、それにリーゼが障子を開け放てば庭へと出てくる男と女が2人ずつ、手にはそれぞれ小太刀や短めの刀が握られています。
「上等じゃない‥‥」
言って杖をはらりと抜き放てば、その中に仕込まれた刃が部屋の灯りと月の明りを受けて煌き。
「外へっ! 庭を抜けて脱出しなければっ!」
無言のままに繰り出される小太刀を刀で受け流す昭衛へ声をかけ、背後から切りつけようとする男を斬って捨てると、昭衛の背を守るようにじりじりと庭へと移動していく二人。
瞬く間に部屋を、廊下を染めるあげる赤・紅・赫の色彩。
「数が多いわね‥‥昭衛さん、大丈夫?」
「そろそろ油で斬りにくくなってくるところだが‥‥まぁ、そのときは刀で殴り倒すしかあるまい」
「私の方が慣れている、背中は任せてそのまま突っ切って」
「む‥‥」
廊下で斬りかかる男を言葉通り半ば殴り倒して廊下へと飛び降りる昭衛に、その後ろにぴったりとついて小太刀で向かってくる女を打ち倒すリーゼ。
草木で整えられた庭先、月と部屋から漏れ出る明りの中で文字通り、血の海と化していく砂の上を邪魔を排除しながら進んでいく二人ですが、後から後から建物から降りてくる襲撃者たちに不敵な笑みにもじわりと嫌な汗が浮かんできます。
「早く! こっちだっ!」
聞き覚えのある声に目を向ければ、裏口の見張りを打ち倒したのでしょう、御神村が裏口を開け、二人へと駆け寄ります。
「こんなのをいちいち相手にしてたら身体がいくつあってももたねぇぞ」
言って二人と男たちとの間に素早く入れば、春花の術が側の男たちを眠りへと誘い、御神村の先導、リーゼが殿を守り抜ければ、竹林の中、凶盗の提灯を手に数名の役宅に詰めていたはずの同心たちが駆け寄ります。
「ご無事ですかっ!?」
「中の者たちを逃すな!」
昭衛の言葉に頷き飛び込んでいく同心たち。
大分昭衛とリーゼで道を切り開いた上に、御神村の術により襲撃者のあらかたは動けなくなっているためか、捕縛を彼らが行っている間に事情を聞けば、途中改め方に好意を持っている酒場の親父にここへ数名の同心を寄越すように頼んでから来たと答えるのにほうっと息をつく昭衛。
「もう一組が役宅にいるし、そろそろ向こうも終わって戻る頃だろうな」
御神村の言葉に刀の血を拭い鞘に収める昭衛。
「ほら、誰かついていて良かったでしょう?」
くすりと笑いながら昭衛へと言うと、御神村に助かったよ、ありがとうと微笑を浮かべて言うリーゼ。
月はそんな様子を、竹の葉の陰から見守っているのでした。
●三日月堂
「いらっしゃいませ」
にこりと笑顔でお客を迎え入れながら、小鳥遊美琴(ea0392)は注意深くそれぞれの人間を観察していました。
彦根の湯吉一味もかなり激しい抵抗にあったと聞き及ぶも一網打尽、昭衛をおびき寄せての襲撃も、全てではありませんが粗方の者を捉えて無事との事を聞き、長谷川様の気も少しは休まるのでは、そんなことを考えながらいる美琴に、荻田が声をかけます。
「どうしました?」
「今、見知った顔を見つけたとの事です。どうやら裏から来るようですので、私が行ってきます、ですので‥‥」
「わかりました、任せてください」
美琴が来るようになってから、他の店員たちの前でいくつかお使いを頼む様子を見せていたので、店で働く他の者も特に可笑しいとも思わずに見ているようで、またお使いかい、などと言われながら前掛けを外して奥へと入ります。
やがてやってきたのは若い町人風の男、少々目つきが厳しいものがありますが、見た目は至って普通といったところ。
荻田に中へと通されて客まで話をしている様子に、外出を装って出ようとした美琴の耳に、こんな会話が聞こえてきます。
「‥‥いやはや、精が出るね〜。商人として第二の人生を歩んでみるか?」
嘲笑を込めたその言葉に、呻くような唸るような声を出すのは密偵の一人で荻田の補佐として、三日月堂に入っていた、顔のなかなか広い元盗賊、そしてその言葉を発したのは雷秦公迦陵(eb3273)。
なにやら流れる不穏な空気に美琴は眉を寄せます。
「あぁ、嫌って結構。密偵同士仲良しごっこをしているようじゃ役目を務めれんしな‥‥で? 今まで商魂たくましく過ごしたわけじゃあるまい」
「ふん‥‥そんなに自信たっぷりに、互いの命を預ける可能性もあることを、仲良しごっこというのならば、己一人でやりゃあ良いだろうさ」
怒った様子で出てくるその男は、美琴も改方に来るようになってから何度も顔を合わせ、いろいろと気を使ったり調べ物に手を貸してくれたこともある密偵です。
「‥‥冒険者ってのはあんなのばっかりなのかい?」
苛ついた口調で美琴に鋭く言う男ですが、すぐに深く息を吐いて謝ります。
「済まねぇな。俺らしくもねぇ、ついかっときちまった」
「いえ‥‥みんな、私もそうですし、長谷川様のお役に立ちたい、凶賊たちを許せい‥‥それぞれが精一杯力になりたい、そう思って来ていると私は信じています」
それに今のはちょっと、と苦笑して言う美琴にふと表情を和らげる男。
「あの男、見た目はぱっとしない様子だが、気をつけろ、かなり強暴だ」
「わかりました、十分気をつけます」
頷いて男と別れると、ちょうど裏口からその男が荻田に送り出されて出て行くところで、何気ない風を装い出る美琴。
思ったよりも長い道のりを歩くのに、時折物陰に隠れては姿を変えて追う美琴は、その後ろを、さらに付けてきている雷秦公に気付かない様子。
やがて、若い男が入っていくのは竹薮の中にある細い道。
昭衛が襲われた料理屋に程近い場所にある小さな家に辿り着いた美琴は緩やかに息を吐きます。
もう一組の冒険者が言っていた建物だとすれば事は簡単なのでしょうが、ここにはいくつかの建物‥‥家や庵が点在しているそうで、恐らくは別のものでは、そう美琴は考えてもう少し近づいて様子を窺おうとしていた時の事でした。
派手な爆発音が美琴の近くで起き、数名の男が飛び出してくるのに慌てて逃げる美琴、しつこく追いすがる男に加速し何とか切り抜けると悔しさに眉を寄せます。
怪しいことがあったのならば、それがいろいろと手を回す者たちであったなら、恐らく今日中にも別の場所へと移ってしまうことでしょう。
その爆音が、雷秦公が内部へと侵入するために起こした騒ぎと美琴が知るのはそれから数刻の後なのでした。
●後一歩で
「やっちまったことも今更仕方ねぇ」
そう苦笑するのは長谷川平蔵その人。
「申し訳も‥‥」
悔しそうに唇を噛む美琴に、お前のせいじゃないだろうと平蔵は笑います。
「三日月堂を怪しむか、別の部分を怪しむか、まだ分からねえ。済まんが、もう少し頑張ってくれ」
平蔵に言葉に頷く美琴。
その竹薮の小屋を前に佇む風斬。
「平蔵さん、あんたならこの先をどう読むのかね‥‥」
もぬけの殻になった家、風斬の呟きは竹の葉音に消えていくのでした。