【凶賊盗賊改方・悪意】闇月

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:7〜13lv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:8人

冒険期間:08月09日〜08月16日

リプレイ公開日:2006年08月21日

●オープニング

 その日、綾藤へと呼び出された受付の青年は、酷く難しい顔をしている凶賊盗賊改方与力・津村武兵衛に言葉を失い、暫し立ちつくしていました。
「む‥‥? おお、済まぬな、その様なところに立っておらず、こちらに」
 暫くしてふと気が付いた武兵衛が言うのにおずおずと部屋に入って腰を下ろすと、遠慮がちに口を開く受付の青年。
「その、お仕事の話と窺ってきたのですが‥‥」
「そのことよ。どこからどう話せば良いのか‥‥」
「あ、あの、大丈夫、ですか‥‥?」
 少し困ったように告げる武兵衛の表情は酷く疲れて見えて、思わず尋ねる受付の青年に、苦笑を浮かべて頷く武兵衛。
「実はな、少々困ったことになっておる。これが、頭の痛い話でな‥‥」
 そう言って話し始める武兵衛。
 武兵衛の話では、一部密偵――それも平蔵にもそれぞれ同心達や密偵仲間にも深く信用を得ている者達が、ある特定の冒険者とは仕事が出来ないと言ったようで、それも余程の覚悟を固めてのことらしく。
「一度ならば多少の行き違いだが、二度も密偵達へと不信感を植え、無用の挑発をし、相手を下に見た対応をした者がおる。だがな、いつ正体がばれ殺されるか、その覚悟をしてまで外道を許せないと堪え忍び嫌なことをも率先してやる者達への心ない言葉は‥‥」
 その話を聞かされ、またその人物によって起きた事柄に対し、対応に追われた日々だったようで、武兵衛は深く溜息をつきます。
「済まんな、仕事の話であったな‥‥」
 やがて、疲れたように笑むと武兵衛は話し始めるのでした。

「さて、今回は久々にお頭‥‥長官である長谷川平蔵様の指示を仰ぎつつとなる。現在は使用人達が維持している、もう一組に身柄や身辺警備を任せている方の屋敷を利用させて頂き、お頭は暫くそちらへと移ることとなった」
 そう言う武兵衛の表情は非常に厳しいものです。
「あれ? 先程、もう一組の方に例の凶賊に関わっていそうな男が消えた辺りって‥‥」
 受付の青年が言いかける言葉に頷く武兵衛。
「‥‥‥じゃ、じゃあ、長谷川様は、囮、ですか?」
「‥‥‥お頭の指示だ。今回は二手に分かれて動いて貰うこととなる。片方はこの屋敷の、お頭の護衛となって貰う。お頭は少しずつ無茶な運動はさせてはならぬが、身体慣らしから始めていくこととなったのでな」
「で、もう一組は‥‥」
「三日月堂の方には暫く連絡が来なかったようだが、こちらを張るしかあるまい」
 そう言った武兵衛の声がどこか沈みがちなことに気が付き首を傾げると戸惑いガチに声をかける受付の青年。
「その‥‥どうしました‥‥?」
「‥‥三日月堂の方は、かなり厳しい状況になるやもしれぬ‥‥密偵達が、三日月堂からは手を引きたがっているようだ」
「‥‥つまり?」
「全面的にお頭‥‥長谷川様より信頼を受けている者、もしくはそれまで密偵達と関係を深めていた者以外は、協力を得られないかも知れぬ、と言うことだ」
 一度ならずの事柄に下手をすれば、昔の仲間に見つかれば、そのまま死に直結する彼等が、信用できない人間に背中を預けられないのは当然のことです。
「大体の者は築き上げてきたものがある、だが‥‥」
 そこまで言って言葉を途切れさせる武兵衛が誰を指しているか、受付の青年は理解すると項垂れます。
「何にせよ、現状では他に打つ手はない。お頭は必ず、あの屋敷か三日月堂、或いはどちらかに動きがあるに違いないと‥‥昭衛様も同意見とのこと。昭衛様が役宅を詰めていればこそ、こちらにも網を張れるのだと、かような話となってな」
 そこまで言うと、武兵衛はいったん言葉を切り受付の青年を見ます。
「今回が正念場、ここで手がかりを失うわけには行かぬ。くれぐれも宜しく頼む」
 武兵衛の言葉に受付の青年は頷くと、眉を寄せて頷くのでした。

●今回の参加者

 ea0392 小鳥遊 美琴(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea2175 リーゼ・ヴォルケイトス(38歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea2806 光月 羽澄(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3269 嵐山 虎彦(45歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea4653 御神村 茉織(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7394 風斬 乱(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8191 天風 誠志郎(33歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb1098 所所楽 石榴(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

エレオノール・ブラキリア(ea0221)/ 鷲尾 天斗(ea2445)/ 氷川 玲(ea2988)/ アルンチムグ・トゥムルバータル(ea6999)/ アナスタシア・ホワイトスノウ(ea9033)/ アルディナル・カーレス(eb2658)/ 所所楽 柳(eb2918)/ 夜木 蜜華(eb5820

●リプレイ本文

●思い
「密偵の方々の気持ちは分らないでもないわ」
 心無い事言われたら、誰だって傷つくのは当たり前の事なのに、そう言って目を伏せるのは光月羽澄(ea2806)。
「そいつだけが悪い訳じゃない、意思疎通が出来ていなかった俺も落ち度がある」
「引っ掻き回してくれたねぇ‥‥信じて欲しいけど信じろとは密偵の人たちに言えないし。もし会えるなら、この髪ばっさり切ってでもこちらの覚悟を見せたいところだけど」
 風斬乱(ea7394)が言えば、リーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)は深く溜息を吐いて呟くように言葉を漏らし。
「やっと一山越えたと思えば‥‥」
 どこか疲れたように零す御神村茉織(ea4653)は、隣の間で天風誠志郎(ea8191)が声をかけて貰い顔を出した密偵達と言葉を交わしており、小鳥遊美琴(ea0392)が不安げな表情で隣の間と隔てている襖へと目を向けています。
「密偵だけに限らず同心与力も不信感を持ってるやつぁ居るだろうな」
「仕方がない、短い間に色々起きた。そのどれもが思いも寄らないことばかりだ」
 嵐山虎彦(ea3269)が言えば緩やかに息を吐いて苦笑する風斬。
「でも‥‥でも僕は‥‥」
 そこまで言いかけて上手い言葉が出てこないのがもどかしいのか小さく唇を噛む所所楽石榴(eb1098)。
 と、襖が開かれ津村武兵衛と長官代理の彦坂昭衛が出てきて頷き。
 隣の間に密偵達と共に難しい顔をしていた誠志郎の姿が見受けられ、おずおずと隣の間へ入る石榴。
「僕が今までやってきた事は外側からの接触で、内側から事前接触・侵入する密偵さん達とは方向性が違うけど‥‥」
 言葉が見つからず困ったような、そんな表情で言葉を発する石榴に目を向ける密偵達、小さく僅かに掠れた声で何度も言いかけては迷う、そんな様子のなかで何とか絞り出すかのように続けます。
「成功のために、僕らを信じて提供してくれたものを、キミ達を信じて受け取って、それを足場にさせてもらって、行動して、成功させて‥‥そうやって成り立ってたよね」
 密偵達の中でもそれを頷いて認めるものもいて。
「えっと、だから‥‥これまで一緒に築いてきたもの、途中で投げ出したくないんだ」
「大江戸の八百八町に悪事の種は尽きませんが、それでも一つずつ潰していかなくてはいけません。誰もがみんな、笑って暮らせるように。夜の闇に怯えなくていいように‥‥」
 石榴が続ければ、意を決してか話し出す美琴。
「その為には、闇を見通す鋭い目と、闇を恐れず踏み入る強い心をお持ちの、密偵の皆さんのお力が必要なんです! 仲間が皆さんを傷つけてしまった事は、深くお詫び致します」
 精一杯の言葉で美琴は頭を下げ。
「本当に嫌な思いをさせちまってすまねぇ。どれだけ命懸けでお役目に励んでるか、判ってるつもりだ‥‥」
「俺にこれを言う資格は無いかもしれん。だが今一度、我らに信を得る機会を与えて欲しい‥‥」
 御神村と誠志郎の言葉に密偵たちは目を見合わせるのでした。

●襲撃
「旦那、怪我の調子はいかがで? ‥‥酒は百薬の長というし一献どうでぃ?」
「こらこら、それは百薬というには随分と強い酒じゃないか」
「まぁまぁ、こう暑くっちゃぁ冷の一つもねぇとな」
 酒を勧める嵐山に苦笑しつつ見やる風斬、上座にどっかりと胡坐をかいて笑う当の本人・長谷川平蔵はゆったりと袂に手を入れて笑います。
 ここは平蔵の友人の屋敷で、屋敷の主人は保護した少年と一家ごと役宅に滞在しており、屋敷の仕事も念のためと使用人には休みを与え、平蔵滞在中は同心たちが入れ替わりで屋敷の維持に忙しく走り回っていたり。
「信は得難く崩れやすい、か。命を預かる者として、肝に銘じなければ‥‥」
「天風もあまり根を詰めすぎるな。そんな調子じゃもたねぇぞ?」
 笑って杯を受け取り言う平蔵は、窓辺で眉を寄せて考え込む様子の誠志郎に緩やかな笑みを浮かべ声をかけ。
「当たり前のことを当たり前のようにやっている人間に、だぁれも怒ってやしねぇよ。信頼を築くのぁ確かに大変だが、てめぇで引き起こしちゃいねぇことまで気に病んで萎縮しちまっちゃ出来ることまで出来なくならぁな」
 平蔵の言葉に息をつくと頷く誠志郎。
 と、そこへ入ってくるのはリーゼ。
「役宅の方はどうだった?」
「うん、昨夜4人ほどの男が来て忍び込もうとしたらしいけれど、見つかったと分かるとそのまま一目散に逃げて行ったらしいね」
「はぁ? 妙な話しだなぁ、おい」
 風斬に聞かれて答えるリーゼに嵐山が首を捻れば、誠志郎と平蔵はなるほどとばかりに頷きあい。
「恐らくその少年が何かを知っている、と思われていたのではないだろうか?」
「なるほど、だから見つかれば彼に直接その場で問い質すか連れ去るか、どちらにしろ発見されればそれだけでそれが難しくなるわけだから一時撤退した、と」
 子供を物のように惨い事を、と憤りを隠せない様子でリーゼは言うのでした。
「少々心配のし過ぎではないのか? 別に町医者一人、何をされるものでもあるまいて」
「いやいや、そう入っても先生よ、あんただったら悪者が明らかに罠だって分かるところに飛び込む場合、どうするね」
 じりじりと焼け付く暑い中を、嵐山と誠志郎に挟まれ日陰の小道を歩きながらのやり取り。
 嵐山の言葉にふむ、と頷いたと思えばすぐに口を開いて答えるのは狐医者、出原涼雲。
「‥‥‥ふむ、出入りできるものを脅して一緒に連れて行かせるか、それを見せしめに引きずり出すであろうな、その立場ならば」
「‥‥すぐにそういう発想が出るのは、医者としてどうなのだろうかと思うがな」
 らしいといえばらしいのだが、そう溜息交じりに言う誠志郎に他に何が考えられるのだ、と怪訝巣に首を傾げて返す涼雲と、その様子を可笑しそうに笑って歩く嵐山。
 いたって長閑な夏の日の光景ですが、ざわりと生暖かい嫌な風と共に微かに聞こえてくる足音。
 無言のままにわらわらと現れる3人の男たち。
 どこにでもいそうな町人姿でその男たちに気を取られかけたそのとき、咄嗟に出原の前に飛び出した嵐山が腕を振るえば、その足元に叩き折られて落ちる矢。
「気をつけろ、弓も使ってきやがる」
「む、出原殿は少し下がってくだされ」
 誠志郎に言われ二歩ほど下がるとのんきに道横の大石に腰をかけて見物にしゃれ込む涼雲、矢の放たれた方向から考えれば嵐山が遮蔽にあると思ってのことでしょうか。
「私の仕事を増やさぬようにな」
 心配したのか面倒なのかどっちとも取れる言い方をする涼雲に低く笑うと、付き込まれる匕首をいとも容易く受けて切り倒す誠志郎に、どうにもやっても無駄と思ってか嵐山を睨みつつも踏み込まずにじりじりと下がる男。
「おおっと、やっておいてそれはないんじゃねぇのか?」
 もう一歩下がろうとした男が一瞬気が逸れた瞬間、打ち下ろされる十手に地に伏せる男。
「‥‥いっそ死んだほうがましな気のする一撃よの」
 打ち据えた音から判断したか扇で口元を覆いながら溜息をつく涼雲。
「くっ‥‥」
 身を翻し恐らくは情報を吐かせるには再起不能の様相を呈した二つの人だった物を置いて脱兎の如く逃げ去るのを見送ると、綺麗に倒れ伏している男達を見下ろす3人。
「これは私ではどうにもならぬ。そちらの仕事じゃないかえ?」
「これ以上ないくれぇにやっちまったからなぁ‥‥」
「先に番所があったはず、頼み役宅まで運ばせよう」
 そう言い誠志郎は人を呼びに行くのでした。
 まだ、誠志郎と嵐山が涼雲を呼びに行っている時分、屋敷では巡回を終えたリーゼと平蔵の相手をしていた風斬が、平蔵の落ち着いている間でのんびりとしていると、はっと弾かれたように顔を上げる2人。
 耳に聞こえる足音。
 見れば平蔵も眼を細め緩く息を吐き。
「あんたは俺達が必ず守るゆえ、どしりと構え座っていてくれ」
「ふ‥‥それじゃあ年寄りはゆっくりさせて貰おうか」
 にやりと笑う風斬に、にと低く笑うとゆったりと煙管を取り出す平蔵。
「‥‥」
 リーゼと風斬がそれぞれの襖の影にそっと身を潜めれば、塀を乗り越えて来た男達が庭へと周り、そこで正面へと腰を下ろしている平蔵を見つけ、刀に手をかけた、その瞬間。
「させぬよっ!」
 飛び出した風斬に不意を打たれる形で刀をはじき飛ばされる男。
 庭にいる男は4人で、どれもそこそこ腕の立つ浪人者のよう、リーゼも体勢を低く飛び込み。
「鬼道衆拾漆席『朧月』推参!」
 名乗りを上げ仕込み杖で斬り払えば上がる悲鳴、すぐに体制を立て直し、風斬と平蔵のいる間への道を塞ぐように立ち微笑を浮かべるリーゼ。
「人を斬りに来るのならば、相応の覚悟を持ってくる事だね」
「ここがお前達の終着点だ、ここより先‥‥通さぬよ?」
 そう言い下げていた刀をすと上げ突きつけて冷然と笑う風斬。
「もっとも、戻る道もないけれどね」
「‥‥っのおっ!」
 風斬が逆上したかの様に突っ込む男を凄まじいほどの気迫を込めた太刀筋で斬り倒せば、リーゼは身を翻す男を峰で叩き伏せて取り押さえると、そこにのんびりとした顔で食物を盆に載せて顔を出す木下忠次。
「何事ですかぁ?」
「貴様はそれでも改方同心かっ! さっさと役宅に走り数名呼んで参れっ!」
 どこか気の抜けた声を上げる忠次に平蔵、大音声の一括。
「平蔵さん、傷の治りが遅くなっても知らぬよ?」
 わたわた走り去る忠次、苦笑しつつ言う風斬に、いい薬よと笑うと、平蔵は忙しくなるぞと言って立ち上がるのでした。

●繋ぎ
 一方、三日月堂では石榴を気遣いつつ一緒に店の仕事をしながら様子を窺っている美琴の姿が、付近の店に話を通して御店を張るのは御神村と羽澄。
「畜生‥‥ここまで何も起こらねぇってのもじれったいもんだな」
「前のこともあるし、警戒されてる可能性が高そうだけど‥‥諦めるわけにはいかないわ」
「当然だ」
 最初の日こそ、エレオノール・ブラキアと鷲尾天斗が揃って評判も含んでの簡単な聞き込みや様子伺いをしていましたがそれ以降は何も普段と変わったことは起こらず。
 既に5日、そろそろ内心に焦りを感じ始めていた2人ですが、感というか、ちりちりと何とも言えない緊張感が、きっと近いうちに何か起こるという確信を与え、逸る気持ちを抑えて向かいの店からじっと三日月堂を窺い。
「いらっしゃいませ」
 石榴が笑顔で迎えたのは一見すると何の変哲もない裕福そうな町人でした。
「いえね、申し訳ないけどあたしはお客じゃないんですよ。これを預かってきましてねぇ‥‥いえいえ、誰と聞かれましても、ここを通りかかるのか聞かれて、ついでに、とね」
 あくまで穏和な様子のその商人から手紙を受け取れば、返事は頼まれていないので、と出て行く町人。
 一瞬の事ですが、美琴と石榴はその男の目つきに冷たい物を感じて思わず一歩踏み出しかける石榴をそっと止めた美琴は、桶を手に表へと向かうと店の前に打ち水を始めます。
「‥‥今出てきたのは?」
「あの町人ね‥‥」
 言って頷くと、先に表へと出て男の後を付け始める羽澄。
 裏から出て大通りへと出ると、羽澄の姿を確認して追う御神村、人通りの多い道や急に切れ込んだ細い道へと入るのにも、互いに入れ替わり立ち替わりで何とか尾行を続け、やがて辿り着くのは郊外にある茶屋の建ち並ぶ一角。
「大丈夫で?」
 後ろから駆かけられる低い声に振り返れば、そこには三日月堂に詰めつつ、先の仕事で冒険者に挑発をされたはずの張本人。
 三日月堂に詰めている者達と少しずつ今まで積み重ねてきた物を取り戻そうと歩み寄りを見せた1人でもあります。
「美琴さんに聞いてな。もし鬼形一味だったなら昔からの奴なら顔見りゃ大体分かる‥‥」
「手紙の内容は‥‥?」
 聞きつつもどこか驚きを隠しきれない様子の羽澄と御神村に、困ったような笑みを浮かべる男。
「再三言われたからと一括りに見て頭まで下げさせて、それで渋るなんざ尻の穴のちいせぇことを言うなんざ男じゃねえからな。‥‥手紙は来月頭から中程にある押し込みの時の手筈についての指示だった」
 そう言って茶屋を注意深く見ると、店の物を見てあれは堅気だな、一味の者じゃねえ、そう2人に告げ。
「盗賊宿ではないが、上に一味の者が3人ほど泊まっていやがる‥‥」
「あの様子では宿を変えるつもりはないようね」
「おおよそ二刻‥‥」
「ここ二月ちょいは居るらしいし、決まりだな」
 手分けをして張り、辺りの聞き込みや、その茶屋にいるかの確認を慎重に行った結果、あの男は今暫くその宿に留まるようで。
 羽澄は頷くと、御神村と男を残し急ぎ連絡口である綾藤へ駆けるのでした。

●捕縛
 無言の内に進められる踏み込みの手筈。
 しかしその部屋は誠志郎を筆頭に、腕利きと言われる同心達で熱気で溢れています。
「あ、あの、きをつけて‥‥」
 おずおずと覗き込む少年、鶴吉に気が付いた誠志郎はくしゃりと髪を撫で頷き。
「では‥‥」
「吉報を待っている」
 声をかける誠志郎に昭衛は頷き答えます。
 誠志郎が同心数名を率い急ぎ向かう郊外の茶屋、出役した一行は御神村と密偵の男と合流すると、茶屋の主に騒ぎ立てないようにと指示を出し、周囲の要所要所を押さえて。
「凶賊盗賊改方であるっ! 神妙に縛につけっ!」
「やべぇ、逃げろっ!」
 窓から屋根を伝って逃げ出す者や激しく抵抗があり軽い怪我を負ったりはするものの、首尾良く3人を引っ捕らえて役宅へと戻れば取り調べの間へとそのまま連行される男達。
「彼奴等の盗賊宿と標的となる場所を、何としてでも吐かせろ」
 一行に護衛され屋敷から戻って来た平蔵が厳しい顔つきで言えば、頷き昭衛が武兵衛を従えて部屋を出て行き。
「ご苦労だったな、天風。今夜はゆるりと休め」
 そう笑みを浮かべ言う平蔵は、同心の傷を癒したり、情報を確認し合っている一行へと向き直り。
「皆もご苦労だった。あの者共の情報が入り次第、またすぐに手を借りることと思う。だが、今はゆるりと身体を休めてくれ」
 皆が働き詰めであった事を気にして居てかそう言う平蔵。
「さて‥‥平蔵さんも、一つどうだい? よく眠れるぞ」
「ふむ、一つやるか」
 そんな平蔵に風斬は声をかけると、2人は酒の徳利を手に、中庭に面した部屋へと向かって歩き出すのでした。