【凶賊盗賊改方・悪意】輝月
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■シリーズシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:7〜13lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 80 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:09月09日〜09月14日
リプレイ公開日:2006年09月20日
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●オープニング
その日、船宿の綾藤へと足を踏み入れた受付の青年は、その部屋の前でどことなくぴりぴりと肌にいたいほどの緊張感を感じ小さく息を飲みました。
「そんなところに突っ立っておらんで入ってこい」
襖が凶賊盗賊改方・長官代理の彦坂昭衛の手によって開かれ中へと迎え入れられると、上座にはゆったりと腰を下ろし煙管を燻らせている平蔵、そして津村武兵衛の姿が。
「長谷川様、もう、大丈夫なので‥‥?」
「暴れねぇかぎりはな」
低く笑う平蔵、武兵衛に勧められて受付の青年が腰を下ろすと、昭衛が側に腰を下ろし口を開きます。
「さて、色々と差し迫ってきたが、何はともあれ現状での内部に発生した不幸な誤解などについて、沈静化したことをまず伝えておこう」
「‥‥は、はぁ、その、恐縮です‥‥」
「そして、三日月堂と改方で保護している鶴吉に関して、そのどちらにも鬼形の松太郎の関与が認められた‥‥いや、そのどちらも鬼形の松太郎が引き起こしていると言っても過言ではない」
「どちらにも、ですか?」
「三日月堂は内部に問題を抱える金持ちに対し、少量ずつ害のある物を与え死に至らしめ‥‥そこに及ばずとも跡目を継げぬ身となるようにし向け、そこからとある目的のための伝手を広げていた‥‥あの店はそのために鬼形によって作り上げられた」
「‥‥」
ごくりと喉を鳴らし聞き入る受付の青年。
「そして、鶴吉の方は、親父である永見の鶴助が、預けていったであろうと思いこんでいた物を取りに来たってぇ訳よ」
ゆるりと煙管を燻らせて、まるで呟くかのように言う平蔵に目を向ければ、僅かに口の端を歪める平蔵。
「そこでだ、それぞれが鬼形の松太郎捕縛の為に動いて貰うこととなる」
平蔵の言葉に、頷いて受付の青年は依頼書へと目を落とすのでした。
「それで‥‥三日月堂の目的とは‥‥」
「‥‥」
確認するかのように目を向ける昭衛に頷く平蔵。
「とある医者が居る‥‥」
「‥‥医者?」
「その医者は上様とは言わぬが、大身旗本達の所に出入りし、ろくな治療をせずとも付け届けやら何やらと、金蔵には唸るほどの金がと言われていてな‥‥」
「だが、そういった事情故、出入りがとても厳しい上に、金蔵の番も付いておるため、普通ならば狙うのは無謀とされる」
昭衛の言葉に頷いて言葉を引き取る武兵衛。
「だが、そこと繋がりのある人間に手引きをさせたとずれば‥‥いかがであろうか?」
「‥‥まさか、とは思いますが‥‥三日月堂の顧客、ですか‥‥?」
まさか、と言うように受付の青年が目を向ければ、平蔵は軽く眉を上げ。
「その医者と昵懇にしている家に跡取り問題が起きているらしい家があってな‥‥そこの家の長兄と秘密裏に連絡を取り、体調が宜しくないと暫く姿を隠して貰っている。その継母がわざわざに小保丹を繰り返し人目を避けて求めに来ていたのでな‥‥」
ふうとばかりに小さく息を付く昭衛、どうやらそのことをちらつかせて面談の手筈を整えるようにと前回の指示の手紙に認められていたようで、他にも鬼形はその医者が小保丹に興味を持つように少々ばらまいて広めているとか。
「恐らくは桁が違う仕事だから念入りに、そして手を金を注ぎ込んでいるはず‥‥その医者の屋敷へと訪ねそこに留まり、押し込みの合図を送れば賊達が雪崩れ込んでくる、と言う事となっているようだ」
昭衛が言えば、ただただ溜息をつく受付の青年。
「そこで、だ‥‥賊を迎え撃つか、聞き出した宿のうちのどちらの宿を拠点とするかを調べて強襲するか‥‥」
武兵衛がそう言うと、平蔵の声が。
「そいつぁ遣りやすいように、自由にやってくれ。もう一組と上手く協力して、存分に、な‥‥」
煙管を燻らせて笑う平蔵、受付の青年は手元の依頼書に目を落とすと筆を走らせるのでした。
●リプレイ本文
●釣り糸の先
「‥‥かかりやがったな‥‥」
暗闇の中で一条の光が目元を照らし出す中、で口元に笑みを浮かべて呟くのは御神村茉織(ea4653)。
ここは糀屋の二階天井裏で、御神村は息を潜めながら先程から聞こえてくる会話を用心深く聞いていました。
「で‥‥お頭は‥‥」
「明後日、江戸入りさせるそうだ‥‥。それよりもお頭からの言いつけの、あの餓鬼の確保はどうなった」
「手筈は整っている。近々少しでも近くに待機した方が良いってんで、二代目が向こう寄りのあの辺りに移ったぜ」
聞こえてくる言葉に僅かに眉を寄せる御神村、この糀屋や黒簾と役宅の間に、打ち棄てられた屋敷が並ぶ地帯があり、そのうちのどこかに『二代目』と呼ばれる男が居るということを言っているのに再び耳を澄ませる御神村。
「じゃあ、二代目がわざわざ餓鬼を引きずり出しに行くのに加わるのか?」
「餓鬼だけじゃねぇ。まぁ、出来たらだが鬼の平蔵とやらは今怪我で療養中だ。ついでにその怪我人を消しにかかりゃいい、出来なくともその時は金をばらまいて息の根を止めりゃいいのさ」
忌々しげに口元を歪める御神村は、目の前で展開される、役宅で保護している子供と平蔵の処遇を笑い酒を飲みながら進めている男達への嫌悪感を僅かに表情に滲ませながら小さく息を吐くのでした。
高級料亭と言えば、奥の間や離れに客が入るのも可笑しいことではなく、そう言った場所は人目に付かずに出入りでき、密談などに最適。
「なに、捕り物の支度をしている様子があるだ? はん、役人如きが、何を出来よう」
低く笑う声が響いてくるのに、光月羽澄(ea2806)は息を殺して聞き耳を立てていました。
「得物の手入れを念入りに、な‥‥お頭が来られるのは明後日、手筈は全て終わらせておかねぇと、ただじゃ済まされねぇからよ」
先ほど笑った男がさも可笑しそうに笑うのと対照的に、妙に暗い声で答える様子に首を傾げる羽澄、声は会話を続けます。
「では、押し込みは予定通り‥‥?」
「ああ、明後日の夕刻、医者の屋敷へと俺が尋ねていき、そこで留まる。お前らは予定通りの刻限に、お頭と共にやってくりゃ良いのよ」
「‥‥医者の屋敷ぁ人が少ねえ‥‥その次の仕事こそぁ血ぃ、見られやすかね」
「おう、浴びるほどにな」
「‥‥」
聞こえてくる言葉に唇を噛んで床板越し、見えない男達をまるで見えるかのように睨みつける羽澄は、頃合を見計らい役宅へと戻ります。
「おう、お疲れさん」
役宅へと辿り着けば、突棒刺叉に梯子・縄に提灯と捕り物道具をごっそり抱えた嵐山虎彦(ea3269)が頷きながら迎えるのに緩く息を吐いて漸く表情を緩める羽澄。
「お帰り。遅かったから心配してたんだ。大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。それより、三日月堂から出した指示の‥‥明後日に医者宅に尋ねていく‥‥あれに鬼形一味は食いついたようよ」
リーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)の言葉に頷き羽澄が伝えれば、にやりと笑みを浮かべあうリーゼと嵐山。
「虎、平蔵さんと誠志郎にもこのこと伝えて来て」
「おう、任せろ」
歩き去る嵐山の姿を見送ると、リーゼは微笑を浮かべ。
「ようやく決着つけられそうか‥‥逃がしはしないよ」
その呟きに、羽澄も頷いて表情を引き締めるのでした。
●日ごろの感謝を大事にしよう週間
「今回もよろしくねっ」
武兵衛が大工から入手した医者宅の絵図面を受け取った所所楽石榴(eb1098)、にっこり笑顔で言う相手は今回の捕り物で共に戦う同心達とそれを補佐する小者、そして、情報面から補佐する密偵達。
「おう、俺らは中までは入らんが、出来うる限り力になるぜ」
「ただ、気をお付けよ? あんた達が強くて待ち受ける、圧倒的有利な状況だって、いざって時に突飛な事が起こらないとも限らないのだからね?」
男性が言えば中年女の密偵が心配するかのように石榴へと言い。
「うん、気を引き締めていくし、皆で協力して頑張るから大丈夫だよっ。‥‥心配してくれてありがとう」
少し照れくさそうに笑って答える石榴に、それぞれが医者宅について知っている事、聞き込んで把握した場所、そして、鬼形の見張りと思しき者達の位置などを報告しあい、徐々に埋まって行く絵図面の余白。
「後は実際に先方に行ったときに、かなっ?」
「所所楽殿」
絵図面を手に確認していると、そこに顔を出したのは天風誠志郎(ea8191)。
「絵図面の方はどうなっている?」
「後は現場でかなっ。そっちの方は?」
「前方を先ほど昭衛殿と訪ね、約定を取り付けた。さて、いよいよ大詰めだ」
頷いてきっと表情を引き締める誠志郎。
「これで凶賊がいなくなる訳ではないが、一つ気を入れてかかるか」
「うんっ、さぁ、今回も思いっきり舞おうか?」
畳まれた書き込みで一杯の絵図面を密偵の一人から受け取り、石榴はまるで楽しい事を待ちきれないといったような悪戯っぽい笑みを見せて言うのでした。
「大丈夫、見張りに脱出口から入ってくるところなどを見られた様子はなかったです」
小鳥遊美琴(ea0392)が報告すれば、昭衛と武兵衛は頷き医者の元へ足を進めて。
「おや、虎彦さんは漸くのお着きか?」
その声に目を向ければ、風斬乱(ea7394)が既に縁側で横になりつつちらりと片目を開けて低く笑います。
「うるせー、俺じゃ脱出口を通れねぇから、見張りの目が逸れんのを見計らわねぇといけなかったんだよ」
笑って返す嵐山、屋敷側からの警戒は厳しいものの、一味は狙いを医者宅に定めている事を見抜かれているとは思っていないようで、監視としては役宅へのものに比べればかなり緩いものといえます。
「同心達は予定通り、退路を立つために持ち場について待機してるとさ」
報告を各人へと伝えるため回っていた御神村が言えば頷く二人。
「いよいよ大詰めの大仕事、きっちりこなすとしやすかね」
「おう、ぜってぇ逃がさねぇ」
「当然だ、折角の客人だ、精々丁重に持て成すとしようじゃないか」
に、と笑うと各々打ち合わせの場所へと散っていくのでした。
「皆さん、準備完了したようです」
誠志郎へと美琴が伝えれば、振り返って頷く誠志郎。
「後は鬼形の手の者がここを尋ねてくる事、そして、一味が押し込んでくるのを待つのみだな」
「ええ」
誠志郎の言葉に頷いて、ふと目を細める美琴。
「いよいよ、悪漢たちをお縄にすることが出来そうですね!」
「する事ができる、じゃない。絶対に捕らえるんだ。ねぇ、誠志郎」
「ああ、必ず捕らえ、あの三尺高い台の上に送り込んでやる」
リーゼが口を開けば目を細め、どこか遠くを射るかのように見る誠志郎。
「じゃあ、私は警戒に戻りますね」
「ああ、頼んだ」
それぞれが目を合わせ、黙って頷く3人。
辺りが徐々に夕闇に飲まれていく中、一同はそれぞれがそれぞれの決意を込め、その時をじっと待ち構えるのでした。
●押し込み
辺りがすっかり闇に染まった頃、ひたひたと地を踏みしめる微かな足音。
屋敷の裏口へとまわるとひゅっと小さな音が立ち、ゆっくり開かれる裏口の戸。
月明かりのみの暗く影になった庭を、戸を開けた男の先導で進めば、中庭、月を背に立ち止まる男。
「おう、どうした‥‥」
小さく囁く男にさも可笑しいとばかりに小さく肩を男が振るわせた、その時。
「夜分遅くにようこそ、お客人」
そこか底冷えのするような声にはっと屋敷の方へと向けた一行、と、その瞬間。
「なっ!?」
短く声を上げる盗賊率いる黒覆面の男、塀の外側から『凶盗』と黒々と書かれた高提灯が屋敷内を一斉に照らし、見れば風斬と誠志郎、そして袂に手を突っ込み後ろに控えてみる昭衛の姿があります。
見れば賊を引き込んだはずのその男の立っていたところには、微笑を浮かべ扇を突きつける石榴が立ち。
「客人、存分に楽しんでいってくれたまえ」
「なんだとぅ‥‥?」
言われた言葉に下からじろりと睨め上げる賊、風斬はにやりと笑い口を開き。
「何、駄賃は要らぬよ‥‥その身で払って貰うからね」
「ぶち殺せっ! 血路を開けっ!」
一斉に頭に血を上らせた男達が一斉に獲物を引き抜くのと、誠志郎がその手の刀を向けて賊達に宣告するのはほぼ同時の事です。
「闇に潜み弱きを啜る亡者にかける情けは無い。我が名は赤鬼・誠志郎。浮世の亡者の黄泉路案内よ!」
誠志郎に群がる男達は、その紫に輝く刀によってなぎ倒され斬り払われ。
「舞に付いてこれるかな?」
艶然と笑い翻弄する石榴に苛立ちを隠せない一味。
「畜生、散れっ!」
上がる声と共に屋敷に庭にと一斉に散る賊達。
「さぁて、閻魔さまに会いたい奴からかかってきな!」
ぬっと立ちはだかる巨大な影に、庭を抜けようとしていた者達の足が止まり。
「改方の方が一枚上手だったな。堪忍しな、鬼形の松太郎。ここが年貢の納め時だ」
斬りつける者もいましたが、嵐山のその腕から振り抜かれた十手に地へと打ち倒され悶絶し叫びを上げ。
「畜生っ! 畜生ぉぉっ!」
あちらこちらに上がる声と、屋敷の廊下を逃げまどう賊達の姿、過ぎる影に振り返れば影を確認する間もなくどさりと崩れ落ち。
「散々好きにやってきた手前ぇらを許すわけにゃいかねえんだよ」
為す術もなく音もなく忍び寄られ恐慌状態となり暴れ、怯え逃げまどう賊達に吐き捨てるように告げる御神村。
「貴方達にこれ以上、誰も傷つけさせない」
月の光の差し込む廊下、逃れてきた男達に羽澄がどこか悲しげな響きを滲ませた声で言うと、その打ち出される手により意識を刈り取られ崩れ落ちる男達。
「ちいっ!」
身を翻す男ですが、直ぐに回り込む羽澄に、戸を蹴破り逃れようとする男の目の前に退路を塞ぐ美琴。
「誰も逃しません」
美琴が足を止めたところに既に間を詰めた御神村が背後より音もなく忍び寄ると、崩れ落ちる男。
「‥‥貴由‥‥」
月をちらりと見て、羽澄は祈るように小さく呟くのでした。
●鬼の最期
「くっ、何とかここを抜けねぇと‥‥」
「逃げようったって、そうは行かないよ‥‥罪を犯すなら、己の咎を見つめて、死んでいきなさい」
凛と薄闇の中に通る声、身を屈め廊下を摺り抜け人の居ないところへと逃れてきた見たところ中年の身体付きをした黒覆面の男がここには誰もいないと踏んだか呟いた言葉に慌てて振り返り。
廊下の突き当たり、差し込む月の光が僅かに輪郭を映し出し、男が目を細めれば微笑を浮かべて立つリーゼの姿が。
「‥‥女が‥‥そこをどけ」
「‥‥」
その言葉には応えずつらと抜き放たれた刀に浮かび上がる波紋は、さながら蛇の如く男を狙い定め。
「‥‥」
睨み付けながら男も刀を抜けば、左の手で黒覆面を外し、そこに現れる顔はふてぶてしく笑う冷酷な目をした男。
「鬼形の松太郎‥‥鬼に蹂躙されたくなくば道を空けよ、女」
「鬼道衆拾漆席『朧月』。推参。そして、賊よさらば。もう会うこともないでしょう」
月明かりの中、遠くに聞こえる賊達の悲鳴、睨め付ける男の陰惨な視線と、凛然と見据える涼やかな視線が合い。
「っ‥‥」
交差するよう一瞬にして詰められた間合い、リーゼの髪の一筋がはらりと落ち、とさりと崩れ落ちる鬼形の松太郎。
「鬼が‥‥鬼に喰われる、か‥‥」
「‥‥‥お前の鬼と私の鬼は違う」
血糊を懐紙で拭い振り返りもせず言うリーゼ、鬼形は凄惨な笑みを浮かべたまま、事切れるのでした。
●輝く、月
塀を越えて逃れようとした者達も美琴にいち早く伝えられた同心達に押さえられ、その夜のうちに生き残った一味から聞き出され教習した宿の数、4を数え。
「‥‥終わったのかしら」
小さく呟く羽澄は屋敷の一味は既に全て片が付いたのだろうか、そう言った意味合いを込めて呟けば、なにやら昭衛と話していた御神村がごく当たり前のように羽澄に並び。
「さて、行くぞ」
弾かれたように顔を向ければ既に走り出す姿に小さく頷いて自身も走り出す羽澄。
「‥‥貴由、どうか無事で‥‥」
空に輝く月は、役宅に向かう2人の姿を優しく照らし。
「あーあ、本当に斬っちまいやがったなぁ、折角こいつぁ高い台に乗っけてやろうと思ってたのによ」
「あのねぇ、虎。あと半歩、鬼形の踏み込みが深かったら、私の首が落ちてたんだよ?」
「」
物騒なことを言う嵐山とリーゼは倒された戸を直したりしながら凶賊を一つ滅ぼしたという充足感に笑みを零し。
「やれやれ、これは片付けが大変だ‥‥」
「何、命と金蔵と、どちらも無事だったのだ、直ぐに職人を呼び寄せて直すだろう」
賊に踏み荒らされた庭を見て嘆息する誠志郎に、事も無げに言うと賊達を引き立て終わったことを確認してちらりと昭衛に目を向ける風斬。
「そろそろ戻らないか?」
「ああ、おやじ殿が退屈していよう」
頷いて残党がないかを念のため武兵衛と数名の同心に任せて軽く伸びをする昭衛。
「今頃は平蔵さんの方も片付いてるだろうが‥‥あの人のことだ」
「無茶をして折らねば良いのだが」
笑いを含む風斬の声と溜息混じりの誠志郎の声と。
「おう、無事だったか、嬢ちゃん」
「宿の方は手分けをして押さえているけど、今回の押し込みに関わっていないところは警戒もしていなかったよ」
「ん、これで全部終わったかなっ」
石榴は身を案じた密偵や同心達とやり遂げた安心感からにっこりと笑顔を浮かべて。
「ここで、最後‥‥」
同心達の連絡を円滑にするために走り回っていた美琴は、最後の宿を押さえるために盗賊達を春花の術で眠らせて。
「全部終わったし、ここいらでみんな揃って綾藤なんかでぱぁっと騒ぐのっていいとおもわねぇか?」
「良いねぇ、良い酒が飲めそうだよ」
想定外の事態に翻弄された事件ではありますが、漸くに片を付けることが出来、それを噛み締め合う一同。
役宅へと戻れば、皆が揃って笑いながらで迎え。
そんな様子を、どんな名月にも劣らぬ輝きで、月は一同を照らしているのでした。