【船宿綾藤・細腕奮闘記?】秋の恵みに感謝

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月07日〜10月12日

リプレイ公開日:2006年10月19日

●オープニング

「ごめんくださいな」
 そう言って船宿綾藤の女将・お藤が御店で働くお澄という女性をお供に顔を出せば、その艶っぽい姿に擦れ違う冒険者が振り向いてみたり。
 秋の曇り空が今にも泣き出しそうな、そんな日のお昼時のことでした。
「実はうちのお澄のお郷が北の方にあるのですけど、そちらの兄様から鮭を送って頂ける事になりまして‥‥ほかにもいくつか秋の恵みを」
「へぇ、北の鮭ですが、それは旨そうですね。この時期の、ですからねぇ」
 奥に通され腰を落ち着けて話し始めるお藤に、依頼書を手に想像したのか思わず笑みを浮かべる受付の青年。
「何でも、上手い具合に凍らせて運んでくれる人が見つかったって言うんで、その人が江戸まで運んでくれる事になったそうなんですよ」
 30を過ぎ職人の亭主がいるという人の良さそうな女性・お澄は少し誇らしげに鼻の頭を指で擦って笑い。
 お澄のお郷の村では鮭を取りすぎないよう心を配り、この時期の恵みに感謝しながら頂くとのことで、鮭と山で手に入る秋の恵みは冬を迎えるための、大事な栄養源でもあり。
「その鮭を、あたしが世話になっている女将さんにもとうちの兄や義姉が考えていたらしくって」
「折角ですから、皆さんと一緒に頂こうと思いまして。ですので、こうしてご招待をと思い窺った次第ですのよ」
 微笑を浮かべて言うお藤に軽く首をかしげる受付の青年。
「他にもお呼びしている方はいるんでしょうか?」
「お誘いしたい方がいらっしゃり、その方の都合が合えばこちらからご招待を差し上げるつもりですわ。あとは‥‥そうですね、兵庫様は江戸を留守にしているようなのでお誘いできないのですが、昭衛様はいらっしゃると思います」
「‥‥昭衛様が、ですか?」
 一瞬、前の宴の事を思い浮かべて、まさか、という顔になる受付の青年。
「いえ、江戸の世事の事などや色々とお知り合いの旗本の方のお話を聞かせていただける事がありますし、私も何か大事がありそうなときは改方にお知らせしておりますので‥‥」
 優しい笑顔のままですが、さらりと不穏な様子を滲ませた言葉に、この二人を引き合わせなければどんなに平和だったであろうか‥‥そんな考えがぐるぐる頭の中を駆け巡った様子の受け付けの青年。
「では、お願い致しますねぇ」
 微笑んで言うお藤に、何故か受付の青年は、青い顔をして強張った笑みのまま、こくこくと頷くのでした。

●今回の参加者

 ea0282 ルーラス・エルミナス(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3269 嵐山 虎彦(45歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea4927 リフィーティア・レリス(29歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 ea5927 沖鷹 又三郎(36歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea7179 鑪 純直(25歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8922 ゼラ・アンキセス(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb0862 リノルディア・カインハーツ(20歳・♀・レンジャー・シフール・イギリス王国)
 eb4902 ネム・シルファ(27歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●食材到着
「‥‥お澄殿は素晴らしい兄上をお持ちだな。遠く離れて暮らしていても、季節の移り変わりに同胞を想う‥‥」
「そのお心遣いが嬉しいですよね」
 愛馬の愛染を撫でながら鑪純直(ea7179)が言えば、スヴァジルファリの手綱を引いて楽しげに歩くネム・シルファ(eb4902)も頷き。
「‥‥近々姉上の家に顔を出すとするか」
 時折冷たい風が吹くものの、気持ちの良い秋晴れの下で、なんだかとっても大人数で連れ立って歩くちょっとした目立つ集団、ですがなんだか楽しそうで擦れ違う人々が首を傾げながらも笑みを浮かべて見送ります。
「毎回これだけうまいもん食わせてもらってたら頭があがらんなぁ」
「あ、あの宿ですね」
 この後用意される料理を思ってかにんまり笑う嵐山虎彦(ea3269)、その横をのんびりと飛んでいたリノルディア・カインハーツ(eb0862)が声を上げ。
 見ればそこにはお藤から聞いていた宿名が見え、外套に身を包んだ銀髪の異国人と体格にかっちりした旅人らしき人間が、数人と数頭の馬、驢馬などの荷を確認している姿が見えます。
「ここでしばしの休息を取りますよー」
 そんな風に言っている旅人らしき男がどうにも荷を運んできた商人のようで。
「行商人という風でもないですけれど‥‥」
 ネムが首を傾げれば、ルーラス・エルミナス(ea0282)が歩み寄って声をかけます。
「失礼。少々お伺いしたいのですが、こちら、お澄殿の兄君から荷を預かられている方でしょうか?」
「あぁ、船宿の方たちですか? これはわざわざ有り難く‥‥」
 笠を外して頭を下げる男にお藤からの手紙を渡せば、男もお澄の兄からの手紙を出して差し出して。
「氷詰めのちょいと重い箱が4つですが、大丈夫ですか?」
「おお、馬も有るしいざとなりゃ俺が担ぐぜー」
 笑いながら言う嵐山に頷いて預かってきたという箱の中身を確認させて貰えば、大きい箱に氷が一杯入れてあり、その中の2つは小魚が沢山。
 残り2つには鮭や先程の小魚が入れてあり。
「確かにお渡ししますよ」
 手紙を確かに受け取ったという一筆を書く男に、ネムは微笑を浮かべて包みを手渡します。
「今回は、ほんとうにありがとうございました。これ綾藤の板前さんに作ってもらったお菓子です、食べてくださいですね」
「これはこれは‥‥有り難く頂きます」
 ネムに嬉しそうに笑って大切そうに受け取る男。
「水の精霊魔法の使い手なら、同胞か異国の方のどちらかと思ったが、やはり異国の方であったか‥‥御名をお尋ねしたら失礼に当るだろうか?」
「構わぬ、我はゴヴァン。コヴァン・フォスレターだ。あれについてこの国を旅するのに面白みを覚えてな。手を貸せば食うに困ることもない」
 見れば30手前の男性で、低く笑うと上方に着いたら、冬を商人が今日で過ごす間、暫く江戸見物に戻ってくるつもりだが、と言いながら柔和な笑みを浮かべ。
「楽しい宴を、な」
 荷を運んだことの感謝の言葉に嬉しげに笑う商人と異国の男性、一行は直ぐに馬や驢馬、そして数人の同道する人々と共に宿を出、一行に見送られながら旅立っていくのでした。
「近頃の調子はどうかしら?」
「へ‥‥? あぁ、こりゃ良くいらっしゃいやした」
 ゼラ・アンキセス(ea8922)が顔を出せば、船着き場で船の手入れを行っていた『鼬の孫次』と異名を持った、元盗賊の孫次はにと笑みを浮かべてゼラを迎え入れます。
「わざわざいらっしゃらずとも、呼ばれりゃどこへでも行きやしたのに」
「お元気そうで何よりね。今回もお疲れ様」
「アンキセス様も今回はえれぇ骨が折れたようで、無事にお仕事を終えられやして」
 互いに凶賊盗賊改方の協力者として、賊の凶行を憎む者同士の言葉。
「ところで、少し気になっているのだけど‥‥前にあった宴会の後、何か変わったことはなかったかしら?」
「宴会の後、でやすか? ‥‥うーん、兵庫様が余計な気を遣ってとごちんとやられた以外で言うならば、江戸内外で色々ときな臭い雰囲気になっているようで‥‥ですんで、それに乗じた奴らが出てこねぇよう、女将さんも気ぃつかっているぐらいでやすね」
「江戸内外できな臭い?」
「へぇ、ですが外のことに関しちゃあっしもわからねぇんで。ただ、江戸内でいやぁ、石川島の方は予定よりも早くに急いで作ったってんで、入所者がとか、色々と有るみたいでやすね」
 指折り言う孫次に微笑を浮かべるゼラ。
「有り難う。私が聞いていた事は内密にね。後でお銚子持っていくわ」
 にっこり笑って言うゼラに、そいつは良いと孫次も笑いながら答えるのでした。

●逸る気持ち
「鮭に鰰でござるか。北の恵み、珍しいでござるの」
 襷がけをしながら、どこかうずうずとしたように呟くのは沖鷹又三郎(ea5927)。
「ち‥‥調理してみたいでござる」
「そりゃ、してみるのが一番でしょう、材料も沢山ありやすしね」
 沖鷹の様子に笑いながら言う綾藤の料理人、包丁などの手入れをしながら言う彼にかにやら葛藤中の沖鷹。
「料理人殿は立派な腕を持ってるでござるからご馳走になるのも楽しみではござるのだが‥‥」
「そんな、沖鷹さんだってとんでもない腕の持ち主じゃあありませんか」
「うー‥‥その、鰰寿司を作ってもようござるか。滅多に手に入らない魚でござるからの」
「そいつぁ良い。そう言えば、何か希望は有りますか?」
 沖鷹の様子に笑みを浮かべて言う料理人に、沖鷹は指折り料理を挙げていくのでした。
「実は燻したての燻製というものを一度食してみたい」
 純直の言葉に少し考える料理人。
「では今日は下拵えをしておきましょうか。明日ちょいと一緒に作ってみましょう」
 料理人が言うのに頷いて届いた食材を前に、裁き方を説明していく料理人、時折手を添えて助言すれば、程なくして出来る鮭の切り身。
「とりあえずはお味見を」
 ざっと摺り下ろした山葵を添えた醤油の皿を差し出し、薄く一切れ切り取れば、溶けるような口当たりに笑みを浮かべる純直。
「良い味だ。明日が楽しみだ」
「その代わり、朝が早いですよ」
「うむ‥‥古い酒樽は無いかな?」
「有りますよ。今案内させましょう」
 笑いながら薫製用の下拵えをする料理人に目を細めて頷く純直。
「亡き父が時間があった時に、家の庭で燻製作りをしていたのを思い出したのでな」
 純直はどこか懐かしげに目を細めてそう言うのでした。

●美味しい秋の恵
「料理人殿、そちらの鍋の具合は‥‥」
「大丈夫です、ととそちらは蒸し始めが‥‥そろそろですね」
 気がつけば大賑わいの綾藤の厨房、庭では既に朝早くから夕刻である現在まで根気良く桜の枝で薫製を作っている純直が具合を確かめていたり。
 そうこうしているうちに宴が始まる時間。
「おお、旨そうだな」
 出てくる鍋に汁に、そしてどんと用意された七輪に金網。
 その上でぱちぱちと旨そうな音を立てて焼かれているはたはたの串に、嵐山は相好を崩して味醂味噌を塗ってひっくり返します。
 その横では鮭を皿に取ったリフィーティア・レリス(ea4927)が小皿に乗っけて籠の前とその横に大人しく寝ていた若い狐に与えていたり。
「おう、なんだかやけに疲れてるじゃねぇか」
「‥‥こないだの仕事は色々散々な状態だったんだよ。のんんびりまったりするのもたまにはいいもんだよな」
 しみじみ言う様子のリフィーティア、冒険者も楽ではないようです。
「遅れて済まぬな。親父殿の支度が手間取った」
 そう言って入ってくる凶賊盗賊改方・長官代理の彦坂昭衛が案内されてやって来れば、その後ろから現れるふっくらとした面持ちの、そしてがっしりとした体格を持つ壮年男性が微笑を浮かべて入ってきます。
「お? 鬼平の旦那じゃねえか」
「あら」
 驚いたのは改方に直接出入りしている嵐山とゼラの2人。
「ご一緒できないか聞いてみたのでござるよ、大きな事件もひと段落ついたと聞いているでござるが」
 沖鷹が言えば空いている席に腰を下ろして交わす言葉も一段落付いた後だからか大分気も楽になった様子で。
 山芋を摺り下ろした物に刻んだ物を混ぜ醤油を一垂らし。
 それを白米のうえにかけてしゃくしゃくという食感を楽しむ平蔵、庭からなにやら持ってきた様子の純直がお藤や昭衛、そして平蔵の前にやってくると出す、鮭の薫製がのった皿。
「某は旨くいったと思うのだが‥‥」
 ほくほくの薫製、香りも味も満足いく出来になったと思いつつも少し心配そうに見る純直に、いただくぜ、とひょいと手を伸ばして口へと放り込みゆっくりと噛み締める平蔵。
「ん、こいつぁ酒が恋しくなるな」
「ふむ‥‥これは好ましい味だ」
「本当に美味しいですわ」
 三者三様に気に入った様子に少し頬を染めて嬉しそうな笑みを浮かべる純直、ひょいと自分も摘んで味わえば、ひょいひょいと周りからも手が出てきてたくさんあってもあっという間に売り切れのよう。
「‥‥」
 純直は懐かしげな笑みを浮かべて、手元の薫製に目を落とすのでした。
「まだこの時期のは大丈夫ですね」
 時期によっては堅くなってしまうけれど、そう言うリノルディア、お鍋の加減を見て取り分けたりと大忙しのよう。
 鮭をどんぶりにしたり色々と手を加えたようで、今ははたはたの鍋物を前に上手くできた様子ににっこりと笑い。
「そろそろお鍋が美味しい季節ですしね。ちょっと早いかも知れないですが‥‥」
 リノルディアが言うとそれを受け取って味わうリフィーティア。
「うん、悪くないね‥‥先を争うぐらいの量じゃないから、のんびり食べられるのがまた、ね」
 リフィーティアはなかなか素敵な勢いで消費されていく、七輪前の料理の数々をちらりと見ながら言うのでした。
「私は‥‥蟹が入って、出汁が良く出た、蟹鍋が鉱物ですね」
「薬食いと嫌われているが、俺は牡丹や紅葉が好きだな」
「私は‥‥やはりこのようにお魚と茸がたくさん入ったお鍋が一番ですわね」
 色々とお藤と昭衛の共通の話題を模索しているルーラスですが、なにやら時折2人がただならない不思議な雰囲気を纏って低く笑い合う姿を見れば、明るい話題を探して辺りに目を彷徨わせたり。
「あ、ここで少し焼かせていただくでござるよー」
「おう、こう焼き立てを喰うのが一番だぁな」
 七輪を確保していた嵐山、茸を幾つか沖鷹が持ってくれば、手元で焼いていたはたはたを沖鷹の皿にのっけて。
「魚は焼き立てが美味いでござるなぁ」
「あ、嵐山さん、私にも二串ほど貰えない?」
「おう、かまわねぇよ」
 幾つかの料理を皿に乗せてお盆にはお茶とお酒、ゼラが向かうのは船着き場の手前の間、そこではのんびりと煙管を燻らせていた孫次がゼラに気付いて笑みを浮かべます。
「こいつぁわざわざ済まねぇ。有りがてぇ」
「折角の美味しい料理だもの、お裾分け」
 笑って言うゼラが孫次に一杯酌をしてやれば、ぐっと杯を干してにと笑う孫次。
「別嬪さんのお酌で一杯、肴も旨ぇもんばかりたぁ、格別でやすねぇ」
「お世辞でもありがと」
 くすりと笑うゼラ。
「旦那方に宜しく伝えてくだせぇ。来てるんでしょ?」
 笑う孫次に微笑を浮かべて頷くと、ゼラは宴へと戻っていくのでした。

●秋の夜
「こうしてみるとかなりの量ですね」
 言いながら、お皿にどんと盛られた鮭や野菜のてんこ盛りを見るネム。
 味噌や酒、お砂糖などで味を調えられたそれを恐る恐る口にしてみれば結構食べやすく目を細めます。
「いつも世話になっちまってるしなぁ。こいつぁ土産だ」
 そう言ってお藤とお澄へ簪を買っていたことを思いだした嵐山、それを渡すと、懐からもう一つの包みを取り出し。
「ま、旦那も一献。たまにゃこうやって気を抜かねぇともたねえよな?」
 平蔵が奥の方で色々と談笑している姿を眺めていた昭衛に差し出されるのは美しい杯。
 自分の分を取り出してにと笑ってみせるのに笑みを浮かべ受け取る昭衛。
「はい、どうぞ」
 食事に一区切りが着いたネムが2人に気付きお酌をすれば、珍しく微笑を浮かべ礼を言うと杯を干す昭衛。
 月明かりの下で、こうして秋の恵を味わいながらの宴は続いていくのでした。