【船宿綾藤・細腕繁盛記?】口は災いの元

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:11月30日〜12月05日

リプレイ公開日:2006年12月08日

●オープニング

 その日、お茶菓子でも食べにおいでなさいという女将・お藤の伝言を添えた船宿綾藤からのお客のお仕事の呼び出しに、るんるん気分で船宿綾藤に出かけた受付の青年を待っていたのは、とんでもない一言でした。
「元気の良い男の子を1人見繕ってください!」
「利発な男の子を1人! 大至急だっ!」
「‥‥‥‥‥は?」
 なにやらくすくす笑いを残してお汁粉とお茶を置いて出て行くお藤、受付の青年の前には石川島人足寄場責任者・彦坂昭衛とその弟の彦坂兵庫の姿が。
 ちなみに元気なと言ったのは兵庫、利発なと言ったのは昭衛。
「‥‥‥えー‥‥じゅ‥‥10歳ぐらいの少年を斡旋することは出来るかも知れませんが一体何のしご‥‥」
「いくつの時の子だと思っている」
「あ、え、い、いや‥‥ぎ、ギルドは子供を手配する場所じゃないですし、その、あの‥‥」
 なにやら凄まじい形相でぎろりと見てくる昭衛に救いを求めるように兵庫へと目を転じれば、こちらはすっかりと血の気の引いた青い顔で。
「い、いえ、兄に養子をと言いますか、兄の隠し子を見繕っていただきたいと言いますか‥‥」
「はぁっ!?」
 言われた言葉に素っ頓狂な声を出して2人を見る受付の青年。
 何とか詳しい話を聞くことに。

「いいかえ、わたくしはお二人様の兄君が精神衰弱により御療養あそばされてより、幾度その身を危険に晒したか、それを問うているのですよ?」
「で、ですから母上様のご心労はわたくしも兄上も良く‥‥」
「おだまりや、兵庫様。昭衛様、兵庫様共に危なきことばかりで、万が一にも何かあってごらんなされ、彦坂家そのものの存続に関わることと、なぜ分からぬのですかっ!」
「まあ言っても始まらぬことを言うよりも少し建設的な時間を互いに使おうではないですが。さしあたって仕事が有る故これで‥‥」
「開き直るではありませぬぞっ! 昭衛様っ!!」
 半刻程前、この部屋では既に一刻半、このような状態が続いていました。
 既にこの長丁場の間、母親のお小言は上の空で仕事のことを色々と考えてそっぽを向いている昭衛に、まともに受け答えをしていい加減になにやら目が虚ろで視線があちらこちらを彷徨っている兵庫。
「なればこそ、母は貴方様方の母としてよりも、御先代より受け継ぎし御家と一族郎党のためにも、早う昭衛様にしっかりとした跡取りをと、こう申しておるのが分かりませぬかっ!?」
「だから同じ話をいつまでも‥‥」
「じっ! 実はっ‥‥」
 うんざりとしたように母親の言葉を切ろうとしていた昭衛の言葉を遮ったのは、なにやら上擦った兵庫の声。
「ご、御心配に及ばずとも、兄上におかれましては既に男の子の隠し子が!」
「ま?」
「何っ!?」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥ほほほ」
 何とも言えない沈黙の後、小さく笑い出す2人の母親。
「なれば早う何故わたくしに言わぬのですか。どこぞの姫君のお子か、商家の娘御のお子か、お百姓の娘であろうと、母は五月蝿ういわなんだに‥‥」
「は‥‥」
「ははは‥‥」
 上機嫌に笑う母上、一瞬悪戯を思いついた娘御の様な笑みを浮かべたことに気付く余裕が、2人の息子達にはなく。
 とんでもないことを思わず口走ってしまった兵庫は血の気を引かせて恐る恐る昭衛を見れば、その場で噛み殺しかねない勢いで目を剥いて兵庫を見ている昭衛。

「と、言うわけだ‥‥跡目を継ぐに申し分無さそうな利発な子供を‥‥俺はもう帰る、帰って仕事をするんだっ!!」
 よっぽど思いも寄らない話になってしまったためか、なんだか現実逃避気味に足音高く出て行ってしまう昭衛と、それを見送って精も根も尽きたか、ぱったり倒れる兵庫。
「はい、お疲れ様」
 へろへろになって出てきた受付の青年にお茶と甘いお餅を出すお藤。
「こんな依頼どうしろっていうんでしょうねぇ‥‥」
「彦坂の大奥様はあのお話が嘘だってご存じですよ。『あの子にそんな甲斐性が有れば心配などしませぬ』だそうで。それに、跡継ぎもそうですけど、大奥様はどうやらお孫さんが欲しいのですよ」
 何度か顔を出しているらしくそう聞いたというお藤、養子の口も一刻ほど前に顔を出していたお得意様が預かっている子供などはどうだろうと、お得意様から口添えが欲しいという話もあったそうで。
「薬種問屋の比良屋さん、ご存じでしょう? あそこの清之輔君ね。改方に関係のある彦坂様ならば安心だし、遠くに出て行くわけでもないから行き来も出来て、お雪ちゃんも寂しがらないのでは、とおっしゃって」
「確かに、清之輔君は利発なお子さんでしたしね。でも、それじゃあ直ぐに大奥様に分かってしまうのでは?」
「ええ、お二人とも思いがけないことでそこまで頭が回っていないようですねぇ。大奥様自身は養子でも構わないらしいし、言い出してしまった子供達が慌てる様子を楽しんでらっしゃるのかも知れませんね」
「‥‥昭衛さんは母親似だったんですね‥‥」
 主に性格が、小さく付け加えると、受付の青年は暫く考え込んで依頼書へと筆を走らせるのでした。

●今回の参加者

 ea0282 ルーラス・エルミナス(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3269 嵐山 虎彦(45歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4927 リフィーティア・レリス(29歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 ea5927 沖鷹 又三郎(36歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea7179 鑪 純直(25歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8922 ゼラ・アンキセス(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb4902 ネム・シルファ(27歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

物部 楓(eb0216)/ 八幡 玖珠華(eb1608

●リプレイ本文

●蒔いた種
「恋人でなく隠し子なんて、無茶にも程があるわよ」
「確かに、子の心配をするのが親の情とは言え、隠し子を思わず口走ってしまうとは‥‥とても胃が痛い状況ですね」
 ゼラ・アンキセス(ea8922)が呆れたように言えば、ルーラス・エルミナス(ea0282)も深々と溜息を付きます。
 ここは綾藤の奥の一室、そこにはしょんぼり腰を下ろした兵庫と心なしかげっそりとした様子の昭衛の姿があります。
「いくら何でもそのようなことを言うとは誰も‥‥」
「昭衛さんも、正常な受け答えができなくなるまで弟を放置しない」
 ゼラの血染めのハリセンが容赦なく突っ込みを入れ、畳に沈む昭衛。
「そういえば、先日久しぶりに改方のお手伝いをさせていただきました」
 その一方で、穏やかに微笑を浮かべて言うネム・シルファ(eb4902)。
「改めて、みなさんにはこういうゆっくりした場が必要なのだと感じましたですね」
「俺は歌と踊りで接待するぐらいしかできないけどな」
 ネムが竪琴の手入れをしながら言えば、曲などの打ち合わせをしていたリフィーティア・レリス(ea4927)は肩を竦めてやれやれとばかりに彦坂兄弟へと目を向け。
「いやぁめでたい!! ま、比良屋の旦那に荘吉、お雪はちぃと寂しいかもしれんがあえなくなるわけじゃないしな」
「比良屋殿も清之輔殿を武家の子として育てたいと聞いているでござる。彦坂殿の所なら行き来もしやすいし良いのでは‥‥」
 そして、比良屋を良く知る嵐山虎彦(ea3269)と沖鷹又三郎(ea5927)の2人は清之輔自身の意志が大事だけど、いい話ではないかと思ったようで。
「『身から出た‥‥』とは言えぬな‥‥」
 賑やかな室内と対照的に、部屋の隅、床の間の前では鑪純直(ea7179)が八幡玖珠華に師事して花を生けているようで。
「桑原‥‥」
 自身も嫡男のためか、姉にせっつかれる未来が目に見えているよう。
 ぴしゃりと注意力が散漫になった純直を玖珠華が注意して、なかなか厳しく教えているようで、純直は白いその花を手に取り、慎重に花を生けているのでした。
「とりあえず私は裏方の準備に回りますかね‥‥」
 各々が準備や祝い事――中には激しい突っ込みの押収になっている場所もあるようではありますが――賑やかな中で、たった1人のんびりとお茶を飲みながら、山本建一(ea3891)は呟くのでした。

●芽吹く話
「そりゃあ‥‥清之輔が御店から居なくなるのは寂しいですが、あの子は元は御武家の子‥‥お雪とも会えるようにさえ取りはからって貰えれば、願ってもない機会ではないかと‥‥」
 言いながらも想像してじんわりと涙ぐむ比良屋主人と先程清之輔を目にしてふむ、と納得している様子の昭衛・兵庫兄弟。
「しかし‥‥利発そうな良い子ではないか」
「‥‥‥‥一つ問題があるとしますと‥‥」
「問題?」
「‥‥兄上と違って礼儀正しそ‥‥」
 言いかけた兵庫はぎろりと睨まれて思わず口を噤みます。
「では、どちらも異存はないのかしら? それならば後は清之輔君の意志ね」
 そう言って、沖鷹と嵐山の2人と話して居るであろう隣の間の清之輔を思い目を向け小さく息をつくゼラ。
「二人とも、依頼を出して日取りを決めて、今日ここまで来たんだから腹を括りなさい。それに、切っ掛けはどうあれ父親と叔父になるんだから、無神経な真似は止してよ?」
「それは当然だ。そもそも妻をとならなかったのは元々次男で家を継ぐ必要がなかったこと、そして、理解のない女性との見合いに疲れたからだ」
「それは初耳。理解のない女性って?」
「家を継げぬ者は大抵、どこかの婿養子となるか、跡取りの世話になって暮らすこととなる。さ、そこであちらこちらの家で婿養子となるにはと見合いがそこそこの年齢で繰り広げられるのだが‥‥」
 深く息をついて口を開く昭衛、どうやら勉学で身を立てるつもりだったと聞けば物好きなと嘲笑われ、大抵の婿養子ともなれば家にいる以上に肩身も狭く。
「学問も剣も無駄と‥‥そして今度は当主になれば掌を返したように擦り寄ってくる者達。これがまた、『そのような無駄で危険なお役目などではなく、もっと出世されるお気はありますの?』ときた」
「それは少しむっと来るわね」
 当主になった後でと言えば、改方の長官代理を務めていた頃の話、当然改方に関係しているゼラにしてみれば失礼な物言いというのにも頷けます。
「つまり、幻滅してしまった訳ね。‥‥でも、これからは奥さんはともかく、清之輔君の父親として頑張らないといけないのよ?」
「無論。‥‥別に子供は普通に好きだぞ?」
「‥‥意外でしょうが、これでも兄上は子供に弱‥‥」
 がん、ちょっといい音を立てつつ拳固を貰って沈黙する兵庫。
「‥‥ただ、わたくしには寛容という言葉がないようです‥‥」
 頭を押さえながらなんだか切なげに呟く兵庫に、ゼラは『二人とも好いた人は居ないの?』と言う言葉を書けるのはやめることにしたようなのでした。
「そろそろ将来の事を考える時期でござろう。比良屋殿が懇意にしている綾藤の同じく懇意の彦坂殿の家で勉強する気はあるでござるかの?」
「彦坂様の家で、ですか‥‥?」
 時折手習いの先生のところで他の人たちの話を聞くのか、その名を聞いて目を丸くする清之輔。
「だ、だって、彦坂様と言えば、とても立派な旗本の‥‥」
「ま、大きいっちゃ大きいらしいな」
 清之輔の言葉に笑いながら言う嵐山。
「もし乗り気でないのならば、無理にとは言わないでござるが‥‥」
「い、いえ、乗り気でないわけではないのですが、その、とても大きな家ですので‥‥僕が本当に? と思うと、その‥‥」
 純粋に驚いた様子の清之輔、先程ちらりと様子を見に来た客人が彦坂家の当主だとは思いも寄らなかったようで。
「彦坂殿は拙者も存じているでござる。人柄は御墨つきでござるよ。勿論勉強でござるから厳しい事も多々あるでござるが‥‥会ってみる気はあるでござるかの?」
「あ、は、はいっ! その‥‥僕も、今の御店の暮らしは夢のような幸せな暮らしですし、お雪もここで幸せになっているのを見ると、このままの方がと思うときもあります。でも‥‥でも僕はやっぱり‥‥」
 小さく武士になりたい、と呟くように言う清之輔に優しい目で見る沖鷹と嵐山。
「いよいよ武家の一員として再出発なわけだな。ふむ、そうと決まりゃ、早速。とりあえずあらかじめ買い物に出よう」
「買い物、ですか?」
 首を傾げる清之輔に頷く嵐山と、笑いながら立ち上がる沖鷹。
「では拙者は清之輔殿の気持ちを伝えてくるでござる。話が纏まるように上手く働きかけるでござるから、清之輔殿も頑張るでござるよ」
「は、はい! 頑張ります!」
 部屋を出て行く沖鷹を、まるで夢でも見ているかのように見送る清之輔に笑いながら立ち上がり、屈んで手を差し出す嵐山。
「じゃ、行くか」
「は、はい」
 どこか夢心地の様子で、清之輔は立ち上がって頷くのでした

●花開く宴
「こちらに材料を‥‥あ、あと茶菓子もこちらに。一緒に受け取ってきましたので」
「あぁ、助かるでござる」
 山本が荷を厨房まで持ってくれば、鍋の支度をしていたのか沖鷹が笑みを浮かべて振り返ります。
「大奥様が見えられたそうです」
「こちらの支度は出来ているでござるよ」
 綾藤の看板娘・お燕が伝えに行けば答える沖鷹。
「では、呼ばれたらこのお膳を運べば良いのですね?」
 山本が確認すると、綾藤の料理人はお願いしますねと言いながら魚の焼き具合を見るために屈み込むのでした。
「おや‥‥これは清しいこと‥‥」
 山茶花の八つ手がなにやら愛らしさすら伺わせる小さな花器に生けられた花に目を細める彦坂家の大奥様。
「此度はわざわざ御足路頂き忝なく‥‥」
 そこへ頭を下げ挨拶をするのは純直。
「おや‥‥これは又随分と‥‥」
「あ、いや、某では無く」
 目を丸くして言いかける大奥様に即座に誤解を解き座敷へと案内すれば、既に部屋には彦坂の兄弟と一行、それに上等な下ろし立ての袷と袴で少し緊張した面持ちで座っている清之輔の姿が。
 大奥様が入ってくるのに気がついた清之輔は慌てて手を突いてぺこりと頭を下げ、それに微笑を浮かべて歩み寄り、昭衛へと上座に着くように促す大奥様。
「昭衛様に似ず、礼儀正しい可愛ゆいお子ではございませぬか」
「それでも母親ですか、貴女は」
 言う昭衛ですが感想は皆同じなのね、と小さく呟くゼラは、耳が上手く隠れるように髪を結い上げて貰い、淡い藤色の仲居の着物を着てお茶と茶菓子の添えられたお膳を大奥様の前にすと置いて頭を下げ。
「此度は冒険者の方とご一緒してのと伺いましたゆえ、あまり気を遣われず、よろしく‥‥」
 微笑を浮かべてゼラに頷きながらの大奥様の言葉と共に運び込まれるお膳と七輪。
「‥‥あ、あのぉ、もしかして本当に加わらないと‥‥?」
「当然でしょ? 鍋の会の発起人が居ないのは、ね?」
「そうそう‥‥‥‥って、そう言えば受付殿、名前は?」
「あー‥‥誠助って言います。そう言えばいつも受付で通っていましたからねぇ」
 そして、呼び出されて顔を出した受付を捕まえるゼラと嵐山、とそこへ‥‥。
「鍋の支度が出来ましたよ」
 山本が言いながら鍋を手にやってくれば、後ろから着いてきた沖鷹もこれまた鍋を手に部屋へと入ってきて七輪へと下ろし。
「ほう、こちらのお鍋は何になりますかえ?」
「こちらは猪を使っているでござる。そちらは鹿で、もう一つが雪鍋で‥‥」
「ほう、紅葉に牡丹と、薬食かえ‥‥それに雪鍋とはまた趣がございますね」
 御先代様は薬食も魚も好まれました故、と懐かしげに目を細めると清之輔へと手招きをする大奥様。
「名はなんと? 歳はいくつになりましたかえ?」
「せ‥‥清之輔です、歳はもうすぐ6つです」
「普段通りで良いのですよ。どれ、婆がよそいましょう」
 緊張気味の清之輔にゼラが手を貸しつつ、大奥様と少し話し、嵐山や受付の青年と食事を取ったりしていると、興津鏡と宝手拭を使い装いを改めたネムと、ネムと共に現れたリフィーティア前へと出て一礼するのに大奥様は興味を持ったようで。
「宜しければ歌と踊りで目と耳を楽しませることが出来ればと思いまして」
「異国の方の装束は詳しくはありませぬが、こうして見受ければ不思議な美しさ。異国の歌い手様の芸なれば一度は見てみたく思っておりましたえ」
 頷くのを確認してネムが竪琴に手をかければ、まず流れ出るのは異国の調べ、それに合わせ舞うリフィーティアにほう、と小さく溜息を吐く大奥様。
 曲に合わせぱっと張りのある声で歌い舞うリフィーティアに柔らかく穏やかなネムの声が重なれば、手を止めて楽しむ部屋の人々。
 そして、二曲ほど終えたところで竪琴の具合を確認してからネムが弾くのは、とても馴染みのあるこの国のの曲を弾き始め、神楽鈴を手にこの国独特の動きを取り入れた様子の踊りを披露し、感心したように目を細める大奥様。
「この御味噌汁も鮟鱇も美味しいですね」
 そして、こちらルーラスは希望した料理もしっかり用意されていて料理に舌鼓をうちながら。
 それでも清之輔を気遣って明るく何かと話しかけ続けているようで。
「こちらの魚も美味しいですよ、さ、火傷しないように気をつけてくださいね」
「は、はい、ありがとうございます」
 徐々に緊張も解けてきた様子の清之輔は、ルーラスやゼラが何かと気遣ってくれるのに笑みも浮かべるようになり、料理を楽しんでいる様子なのでした。

●縁
「彦坂の父君はいつ頃‥‥」
 身罷られた、と酌をしつつ純直が大奥様の様子を窺いながら聞けば、4年ほど前のこととか。
「ご兄弟も、ご両親の様な魂で通じ合う伴侶を懸命に探しておられる最中ゆえ」
「そうだと良いのですが‥‥あの様な子達ですゆえ」
 純直にそう言いながらちらちらと、清之輔君が生まれたときのことや色々な行事行事のことを尋ねる母親にあわあわと答えを必死になって捜す兵庫を制して、僅かに引きつりながら答えている昭衛の姿などがあったり。
 そんな中、ゼラがすと大奥様の側に歩み寄って。
「大奥様は初めて御覧じるかと思いますが、この清之輔殿は‥‥利発な子です。養子に迎えればきっと彦坂家を栄えさせると思います」
「あ、いや、ゼラ殿っ!?」
 養子と告げるのに慌てて止めようと売る兵庫と、額に手を当てる昭衛。
 ですが、大奥様は笑いながら頷いて口を開きます。
「昭衛様にそのような甲斐性があるとは思いも寄りませぬ。ですので存じておりますよ、血の繋がったお子ではないことは」
「‥‥‥‥分かっていたならなぜ‥‥」
 どこか疲れ切った声で言う昭衛ににこりと笑う大奥様。
「このような良い子を孫に持てる仕合わせがござりますかえ? 会うまではどのようなお子かも知りませなんだが‥‥」
 そう笑う大奥様になんだかがっくりと脱力する彦坂兄弟。
「まぁ、こうなるだろうたぁ思っていたんで、勝手に呼ばせて貰っていたんだがなぁ?」
 笑いながら嵐山が言う言葉に怪訝そうな表情を浮かべる一同。
 と、嵐山が隣との敷居になっている襖を引き開けると、そこには比良屋主人と清之輔の妹お雪、そして丁稚の壮吉少年の姿が。
「まぁ、嘘にも良いのと悪いのがあるけど迷惑になるのはやめておいた方がいいと思うぞ。言っちゃったもんはもう取り返しがつかないけど今後は気を付けろよ」
 さっくりとリフィーティアに言われて突っ伏す兵庫、その横で何度か首を捻る昭衛。
「先程から気になっていたのだが‥‥なぜここに受付がいる?」
「あ、あははは‥‥」
「それは、『大混乱の極みにいる彦坂昭衛・兵庫両人の慌てっぷりを楽しむ綾藤鍋の会』の提案者ですし‥‥」
 笑って誤魔化そうとする受付の青年には、山本は悪意無く告げてしまったり。
 大騒ぎの中で子供達が庭に出て遊びに行けば純直も自身の竹馬を取り出して加わったり。
「何事も縁あってこそ。清之輔殿との縁を大切にされるが良いかと」
「そうそう。あ、兵庫も、清之輔の道場の面倒も見てやるんだぞ〜」
 沖鷹に続き嵐山も宴へと加わった比良屋も接待しながら秋の味覚にした続きを打つ一行。
「ま、何にせよ、清之輔もこれからの頑張りが肝心てぇこったろうなぁ」
 そう感慨深げに自身の手で彫り出した、清之輔へのお祝いの文鎮に手の中で触れつつ、嵐山は呟くように言うのでした。