【石川島人足寄場】死の水音

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月08日〜12月13日

リプレイ公開日:2006年12月17日

●オープニング

「あ‥‥」
 すっかりと寒くなった冬の昼下がり、受付の青年が船宿・綾藤へと出向けば、先に来て待っていたのは煙管を燻らせ上座へと座る凶賊盗賊改方長官・長谷川平蔵その人。
 平蔵の傍らに与力の津村武兵衛と石川島人足寄場の責任者・彦坂昭衛が控えており、受付の青年がいそいそと前へ出て座り頭を下げれば、そのふっくらとした面立ちに穏やかな笑いを浮かべて頷く平蔵。
「良かった‥‥もうすっかり宜しいんですか?」
「おお、この通りだ。こうして面ぁ突き合わせるのも暫くぶりだなぁ」
 その言葉に知らず僅かに目が潤み、目元をぐしぐし擦ってから笑みを浮かべて頷く受付の青年。
「では、今度の依頼は‥‥」
「ひとつは俺と共に捕縛に向かって欲しい。そして今ひとつは、津村の指揮の下で白鐘の紋左衛門と連絡を取り合い、盗賊について探りを入れていって欲しい」
「そして今ひとつ、人足寄場に出入りしているらしい者の素性を調べ上げること」
 平蔵が言えば、昭衛が付け加え、頷く平蔵。
「今のところ、寄場の方とそれぞれの盗賊の繋がりが見えてこぬ為、少々厄介やも知れぬが頼むぞ」
 平蔵が言うのに、受付の青年は手元の依頼書へと目を落とすのでした。

「さて、俄にこちらの方も慌ただしくなってきてな‥‥」
 そう言うのは彦坂昭衛。
 この度正式に石川島人足寄場の責任者となっているとかで、慌ただしい中も改方との協力、連携を怠らないようで。
 時折江戸の町の中で色々と弄られているのはご愛敬、兎にも角にも今は安定してきていた人足寄場に不穏な動きがあったことに神経を尖らせているようにも見受けられ。
「慌ただしく、ですか?」
 受付の青年が聞けば頷く昭衛。
「どうにも、前回人足寄場に出入りしていた男達の宿が見つかったと、他の組の冒険者から話は来ていたと思うが‥‥どうも、寄場に入り込んでいるのは他に後1人‥‥だが、どうも、その男達はあちこちに出入りしているようで‥‥」
「この間捕まえた樋上の作助は大したことを知っては居なかったが、元々鵺の松七という男の配下の1人とかで‥‥この男がまた、血を見るのが好きな盗賊の1人でな」
 とはいえ、盗みに入ったときにあえて必要がなければ殺しはしない、ただ、血を見るのが好きなれば、影で被害を受けた者がどれほど居るかは分からないとか。
「出入りしていた宿に松七らしき者がいる様子はないが、どうも松七は舟を使い、なにやらやらかす心積もりらしい」
 そう言う昭衛、舟と言えば、川沿いの商家も危険ですが、今他に誰かが石川島に入り込んでいるとすれば、狙いはどう見ても‥‥と言葉を濁す昭衛。
「人足寄場によって、やり直すことを選んだ者、大火によって焼け出され仮の住まいとして愛着を持った者も居るであろうあの島を狙うにしろ、それなりの金はあるにしても押し入りをする理由になる者でもない」
「つまり、本来の血を好む、と言うのが‥‥」
「‥‥警備はそれなりにいるが、全てを押さえる事が出来るわけでもない。なので、鵺の松七の考えていることを未然に防いでもらいたいのだ」
「石川島のどこから上がる気か、はたまたどこから舟に乗り入れるか‥‥どちらを押さえるか、これに掛かっているやも知れぬ」
 平蔵が言えば、それを書き付けていく受付の青年。
「賊共の思い通りになぞさせてたまるか‥‥頼む、石川島のあの寄場にいる者達を守るためにも、手を貸して貰いたい」
 意志を込めた昭衛の言葉に、受付の青年は頷いて筆を走らせるのでした。

●今回の参加者

 ea0392 小鳥遊 美琴(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea2175 リーゼ・ヴォルケイトス(38歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea2724 嵯峨野 夕紀(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea2806 光月 羽澄(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3220 九十九 嵐童(33歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea3269 嵐山 虎彦(45歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea9885 レイナス・フォルスティン(34歳・♂・侍・人間・エジプト)
 eb0370 レンティス・シルハーノ(33歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

九十九 刹那(eb1044

●リプレイ本文

●石川島
「人足寄場はただ、作ってる島ではないわ。そこに住む人達の心で築いている‥‥」
 呟くように言って桟橋から島を振り返る光月羽澄(ea2806)に、棹を持つ手を止めてレンティス・シルハーノ(eb0370)は顔を上げます。
「舟を使って何を企んでるのか知らないが‥‥舟は俺の領分だって事を思い知らせてやるよ」
 にと笑って言うレンティスに、目に僅かに厳しい色を浮かべていた羽澄はその言葉にふと笑みを浮かべて頷き。
「そうよ、せっかく旦那方が苦心した石川島。凶賊どもの企み、許してなるものか! ってぇとこだ」
 嵐山虎彦(ea3269)が人足寄場の門の向こう側から顔を出して言えば、ぐと拳を握りしめてどこか獰猛な笑みを浮かべて川の向こう側を見やり。
「はン、腕が鳴るねぇ‥‥」
「ええ‥‥人々の思いを踏みにじるような真似は絶対させない」
 嵐山が言えば羽澄も口を開き、3人は笑みを浮かべたまま強く頷き合うのでした。
 同じ頃、水がたっぷりと入った桶を、九十九嵐童(ea3220)の手伝いに来ていた九十九刹那が抱えて、宿舎や診療所・寄場役人達の詰め所の周りに並べていく姿を見ることが出来ます。
「この間鷲尾を蹴り落とした‥‥そう、その辺り。確かあそこ結構乗り入れやすかったような気がしたんだけど‥‥」
 刹那に水の配置を確認してからリーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)がそう言えば、昭衛から受け取った地図の写しを覗き込む小鳥遊美琴(ea0392)と嵐童。
「あそこは元々資材を運び込むときに使っていた場所の一つだそうだ。同じようなのは後一箇所と聞いているが」
「そうですね、ただもう一箇所は人目に付きやすいんですよ、見回りも有れば見張り小屋からもそのまま見えますし」
 嵐童が言えば、見通しを悪くしないようにと塀を張り巡らせてはいるもののそれは外を見られるようにと工夫がされていて、島として上陸しやすい地点を死角にしないようにしているのだと彦坂昭衛から聞いたと付け足しながら言う美琴に頷くリーゼ。
「そろそろ俺は市中に確認を取りに行ってくるぞ」
「あぁ、任せたよ、嵐童。私たちもそろそろ動かないとね」
 言って素早く船着き場へと向かう嵐童の背に声をかけてから、リーゼと美琴は地図の写しを手に内部の見回りを続けるのでした。
「それにしても、平蔵様も復帰早々大変ですね‥‥」
「手間をかけさせてしまい、親父殿には申し訳なんだが‥‥」
 そして、石川島へと用を済ませて市中より来た昭衛に嵯峨野夕紀(ea2724)が言えば、ぎりと唇を強く引き結び、己が手を白くなるほど握りしめる昭衛。
「凶悪な敵か‥‥手加減の必要なしだな」
 レイナス・フォルスティン(ea9885)は昭衛と夕紀の会話を聞きながら窓の外、川の向こう側へと目を向けて呟くように言うのでした。

●江戸市内
「鵺の松七について調べてみたが、どうも江戸からの街道に幾つか盗賊宿があるのではないかと言われている他は、御頭が始めに伝えた事以外のめぼしい話は出てきていないな」
 嵐童が尋ねていけば、役宅内はぴりぴりとした空気が漂い、出入りの研ぎ師が研ぎ上がりの刀を収めに出入りしたり、小者達が梯子に高提灯の油を確認していたり、忙しげに立ち働いています。
 時間を作り過去の物や先だって捕縛された樋上の作助の供述などを纏めた誠志郎は、嵐童へと答えながら用意しておいた人相書きを嵐童へと渡し、小さく息をつき。
「鵺の松七と言い、火薙の樹一郎と言い‥‥身元を隠しての鬼畜な働きのせいか‥‥」
「‥‥手がかりがなかなか手に入らなかったり何処までがそいつらの仕事かがわかりにくい、と言うことだな」
 言って、嵐童が続けた言葉に頷く誠志郎。
「今、松七の下の者の人相書きも幾つか作らせている、必要ならばまた後で取りに来ると良い」
 そう言う誠志郎に礼を言って役宅を出ると、密偵達に声をかけて手分けをして捜していれば、やがて嵐童の耳に松七の配下の1人・根逗の八郎の出入りする家についての情報が入ってきます。
「‥‥あそこね‥‥」
「‥‥ああ‥‥少なくともあの根逗の八郎はあの家で色々と遣り取りをしているらしい」
 河原沿いの廃屋で、八郎の出入りしている家を張りつついた嵐童に、幾つかの調書きの写しを持って現れた羽澄。
 家を見張りつつ調書きを確認ていた羽澄、なにやら気になるところを見つけたようで顔を上げるのとほぼ同時に戸を外からとんとんと叩く音。
 そこに来たのはレンティス。
「さっき見た人相書きなんだが気になることがあってな。こいつなんだが‥‥」
 そう言って調書きの束から人相書きの一枚を抜き出してとんと指させば、頷きながら調べ書きのとある箇所を開いて指でなぞる羽澄。
「‥‥まて、それでは‥‥」
「ええ、間違いないわね」
「なるほどな、舟の扱いの上手い奴をそう何人も集められるとも思えないと思ったが‥‥それなら上手い船頭を雇う危険も金も必要ないってことかよ」
 3人が目を落とす先、切り絵図の中のとある一件の舟屋を見ればそれは、レンティスが見かけたという男の働いている舟屋で。
「全ての船頭がってぇわけじゃねえだろうが、ちと厄介だな」
 小さく唸りながらも探りを入れてみると言って出て行くレンティスを見送ると、暫し考え込むように目を落とす羽澄。
「俺はともかく人相書きの‥‥根逗の八郎を張ってみる。明日以降動きが掴めなければ寄場の警備を強化する方向で‥‥」
「じゃあ私は他の人にも声をかけて、この舟屋を張ることにするわね」
「分かった。‥‥盗賊宿の一つだった場合危険だ、十分気をつけてくれよ」
「ええ、無理はしないわ」
 するりと小屋から抜け出していく羽澄をも来ると、嵐童は緩く息をついて張り込んでいる家へと目を向け。
「にしても‥‥よく分からん事になってきたな‥‥」
 眉を寄せて小さく呟くのでした。

●落とした地図
「やれやれ‥‥こんな年の瀬も迫った頃に‥‥」
 吐く息も白い冬の夜、石川島の外周をゆっくりと見回るリーゼ。
 と、向こう側から同じくてくらてくらと歩いてくる嵐山と昭衛。
 2人は何事か真面目な顔をして手に絵図面を持ちつつ話しているようで、リーゼは歩み寄って声をかけます。
「虎はともかく、昭衛さんまでどうしたの?」
「今打ち合わせをして居るんですよ」
 僅かに笑いを滲ませて本当に微かに言う昭衛の声は美琴のそれ。
「幾つか警備は絞った方が良いやもしれんな‥‥」
 目を瞬かせるも直ぐに笑って微かに頷く口を開くリーゼは、地図に目を落とせば、確かに今自分が警備している地帯をの警備を幾つか当たりを付けた場所に移動するという事が書き込んであり、緩く息を吐き指でその位置を覚えるかのようになぞり。
「まずは門前の船着き場、後は裏の‥‥舟だとどうしてもこの辺りに手を増やしておいた方が良いと思うんだよね」
「そうだな‥‥警護を増やせない以上上手くやりくりするより他は無かろうて。実際に警備に当たっている方がその辺りも分かるだろう」
 言って昭衛に扮していた美琴は嵐山へと絵図面を渡し詰め所へと戻っていきます。
「虎、それ無くすんじゃないよ。さて、私ももう一回りしてくるか」
「おう、任せておけ」
 にと笑い合い右と左に別れる2人、そして、袂に突っ込んだと見えた絵図面がその場に舞い落ち取り残されて。
「‥‥‥」
 ぱしゃ、小さな水音と共にそこに現れたのは小柄な影。
 どうやらずっと影に隠れていたようで、リーゼの姿に水に足を浸からせるような形で隠れたのでしょう、その男は鋳物の技術を習っていた建三という人足。
 辺りを窺うように見回すと、そうっと嵐山の落としていった絵図面を拾い上げ、ごくりと喉を鳴らして開く建三、覚え込むように繰り返し繰り返し指でなぞると、聞こえてくる音に弾かれたように顔を上げ、絵図面を道へ戻し物陰へ隠れます。
「っと、いけねぇいけねぇ‥‥こいつを無くしゃあ流石に昭衛の旦那のもぶち切れるなぁ」
 戻ってきて絵図面を拾い上げた嵐山がきょろきょろ辺りを見回すと、それを今度こそ袂へ突っ込んで歩き去り、建三はそれを見送ると燧石でかちかち、懐から出した布に火を付けそれをゆらゆらと振り。
「‥‥ち‥‥ちちち‥‥」
 本当に微かにだけ聞こえた物音に建三が水の中に火のついた布を投げ捨てると、軽い身のこなしで素早く寄った舟へと飛び移り。
 少し岸から離れた舟は、やがて再び岸へと近付くと、岸へと飛んで戻る建三。
 喧噪は辺りを窺うようにして、すっかりと覚え込んでいる様子で寄場内を進み見張りをかわしそのまま宿舎へと戻っていきます。
「さて‥‥上手くいったようだね」
「ええ‥‥それに羽澄さんもレンティスさんもあの舟と舟屋から目を離していないはずですし、これに食いつかなかったとしても‥‥」
 一部始終を確認した美琴と、宿舎の側で身を潜めていたリーゼは合流すると二言三言、確認をしてから別れるのでした。

●石川島の攻防
「待ち受けられていただとっ!?」
 小太りの中年男ががらがらの声を張り上げて言えば、そこに斬り込む一陣の青い影。
「逃がさないよっ!!」
「ぬ、女っ!? 貴様が‥‥」
「問答無用っ!」
 ぎりぎりにかわした中年男に更に追撃しようとすれば、そこにむしゃぶりつくように飛び込んでくる若い男、リーゼの軍配は叩き付けるようにその若い男を地に伏せさせます。
 少し前、寄場の建設時に荷を引き上げていた裏手に5艘の舟が乗り付けられ、その手引きに人足の建三はそっと抜け出し男達を先に立って案内始めたのですが‥‥。
「‥‥下種め‥‥覚悟はいいか」
 かけられる声に男達が目を向ければレイナスが褐色に輝く両刃の直刀を突きつけ駆け寄り。
 反対を見れば駆け寄るリーゼの刀が濡れて煌めき、嵐童が愛犬・八房と伏姫を従え声を上げます。
「八房は事態を他の者に知らせろ。伏姫、奴らを冥府に送ってやるぞ‥‥散!」
 活路をとばかりに一斉に刀や匕首を抜く男達、瞬く間に暗闇に包まれたそこから悲鳴とも怒声とも取れない声が上がり。
 いつの間にか警護の役人達が八房に続き龕灯を手に駆け寄って来るのが見え、灯りに照らされあちこちへと散って逃げようとする男達ですが。
「な‥‥なん、だ‥‥」
 ぱたりぱたり、3人の男が瞬く間に眠りへと引き込まれ、そこに姿を見せるのは羽澄と美琴。
「上手い具合に風下へと来ましたね」
「ふぅ、本当に‥‥さぁ、目を覚ます前に早く動きを封じないと‥‥」
 言って小人に手を借りて男達を括り上げる羽澄と美琴。
 リーゼやレイナスと斬り結んでいた小太りの男や浪人崩れと言った様子の男達が、舟へと戻ろうと身を翻せば、そこに既に舟はなく、立ちはだかる巨体が。
「痛い目に合いたくなけりゃ観念しな! ま、俺としちゃ歯向かってもらえたほうが面白いがな」
「なにおぅ‥‥舟は‥‥」
 言いかけて、器用にレンティスが自分の舟へと舟を繋ぎ、少し離れてにやりと笑ってみせるのを目に留め歯ぎしりをする男。
「えぇい! 忌々しい冒険者共めっ!!」
 言って身体御突き入れる匕首の一撃ですが、それを嵐山が十手でがっしりと受け止めると、むんずと手を伸ばし、実に親切に力強く、その手を取ってやるのでした。

●石川島詰め所
「残党は居ないようです‥‥」
 島内を確認して言う夕紀に頷くのは昭衛。
 その昭衛の表情はどこか硬く、怪訝そうな表情を浮かべる一同ですがそれぞれの働きをまずは褒める昭衛。
「舟屋自体、取りも出しがないとは言えぬが、鵺の松七以下建三含み13名、良く首尾良く事を運んでくれたものだ」
「‥‥でも、なんだかあまり‥‥」
「いや、ちと、な‥‥」
 美琴がなんと問うて良いものか迷うように口を開けば、昭衛の言葉もどこかはっきりとはせず。
「おう、どうしたってんでぃ」
「そうそう、そんなんじゃ俺たちだってすっきりしねぇ」
 嵐山とレンティスに言われ小さく息をついて頷く昭衛。
「‥‥そうだな。実は‥‥親父殿の方の捕り物が、どうも、な‥‥」
 話を聞いてそれぞれが複雑そうな、そんな表情を浮かべますが、一つ息をついて首を振る昭衛。
「何はともあれ、我々は我々の仕事を。皆、良くやってくれた。まだ繋がりは見えんが、鵺の松七の裏をもう少し探るためにも、また近いうちに力を借りると思うが、よろしく頼む」
 昭衛はそう言うと漸くに小さく笑みを浮かべるのでした。