【憂愁】麻目の玄三

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 40 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月09日〜12月14日

リプレイ公開日:2006年12月20日

●オープニング

「あ‥‥」
 すっかりと寒くなった冬の昼下がり、受付の青年が船宿・綾藤へと出向けば、先に来て待っていたのは煙管を燻らせ上座へと座る凶賊盗賊改方長官・長谷川平蔵その人。
 平蔵の傍らに与力の津村武兵衛と石川島人足寄場の責任者・彦坂昭衛が控えており、受付の青年がいそいそと前へ出て座り頭を下げれば、そのふっくらとした面立ちに穏やかな笑いを浮かべて頷く平蔵。
「良かった‥‥もうすっかり宜しいんですか?」
「おお、この通りだ。こうして面ぁ突き合わせるのも暫くぶりだなぁ」
 その言葉に知らず僅かに目が潤み、目元をぐしぐし擦ってから笑みを浮かべて頷く受付の青年。
「では、今度の依頼は‥‥」
「ひとつは俺と共に捕縛に向かって欲しい。そして今ひとつは、津村の指揮の下で白鐘の紋左衛門と連絡を取り合い、盗賊について探りを入れていって欲しい」
「そして今ひとつ、人足寄場に出入りしているらしい者の素性を調べ上げること」
 平蔵が言えば、昭衛が付け加え、頷く平蔵。
「今のところ、寄場の方とそれぞれの盗賊の繋がりが見えてこぬ為、少々厄介やも知れぬが頼むぞ」
 平蔵が言うのに、受付の青年は手元の依頼書へと目を落とすのでした。

「さて、一つ‥‥白鐘の紋左衛門から出てきた名が『麻目の玄三』‥‥この男は流れ盗めを使って仕事をするため、その都度手下が変わり、故に嗅ぎ付けにくいという」
「麻目の、玄三‥‥」
 受付の青年が書き留めるのを確認して続ける平蔵。
「さて、そこでだ‥‥この男、とある香具師の元締めの元に出入りしていたことを、白鐘の紋左衛門の手の者が耳にし、手の者に密かに張らせていたらしい」
 それというのも、その香具師の元締めは自分の所に火の粉が飛ばないようにしながらも、どれだけ悪事を重ねているか、どれだけの者が泣きを見ているかを挙げればきりがないほどとか。
 自身の縄張りの中の者でも被害を受けた者がいるそうで、紋左衛門はそれに対し余程腹に据えかねているそうで、場合によっては自ら乗り込んでいきそうなほど、そのためにも確たる証を手に入れ、と考えていたそうで。
「その香具師‥‥抄峰の勝次郎という男の名は俺も常々聞いていたが、盗賊と連んでまで居るとなればそれこそ、泣きを見る者がこの後もいかほど増えるか‥‥」
 そこまで考えた末、立場が違いすぎると知った上で改方へと協力を申し出たという紋左衛門だそうで。
「少なくとも、白鐘の紋左衛門という男は、苦労に苦労を重ねて今のところまで上がってきた故、信義を重んじ筋を通すことに人一倍厳しいとのこと。それ故色々と嫌な思いをさせちまって、皆にゃすまねぇな」
 平蔵は煙管を燻らせながら微笑とも苦笑とも取れない、ほろ苦い笑みを浮かべ言います。
「で‥‥その、今回のお仕事は‥‥」
「沙峰の勝太郎の動きも気になるところではあるが、この麻目の玄三の仕事をまずは阻止せねばならない。近くに迫ってきている様子で、場合によっては此度捕縛までいくやもしれぬし、後一歩届かぬやも」
 武兵衛が言うと緩く息を吐く昭衛。
「それと、この玄三だが、沙峰の勝太郎と手を結んでいることはほぼ間違いないとも思えるのだが、どうも、行動が可笑しいのだ」
「可笑しい、と言いますと?」
「他にも出向いている先があるらしいのだが、そちらまでは流石に白鐘も手がまわらなんだようでな。勝太郎と玄三が接触を持っている事を掴めただけでもまず滅多にはないことなのではあるが‥‥」
 おしい、小さく口の中で言う昭衛はなにやらもどかしさを感じているようで。
「では、こちらの方は‥‥」
「うむ、武兵衛の元、麻目の玄三と今配下となっている者の監視と、場合によっては捕縛までもと言うことになろうか」
 平蔵が言えば、受付の青年は頷いて依頼書へと書き記すのでした。

●今回の参加者

 ea2988 氷川 玲(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3827 ウォル・レヴィン(19歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea6982 レーラ・ガブリエーレ(25歳・♂・神聖騎士・エルフ・ロシア王国)
 ea8922 ゼラ・アンキセス(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb2004 北天 満(35歳・♀・陰陽師・パラ・ジャパン)
 eb2719 南天 陣(63歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb2872 李 連琥(32歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 eb3605 磐山 岩乃丈(41歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)

●リプレイ本文

●白鐘の紋左衛門
「さて‥‥厄介だな。一定の場所が無い状態の上、手下も仕事の日程もわからん状態か‥‥」
「勝次郎の動きが読めない以上、迅速かつ確実に捕縛できるっていう算段がつかないと、足元を掬われかねないものね‥‥予想以上に厄介だわ」
 氷川玲(ea2988)の言葉にゼラ・アンキセス(ea8922)も頷いて小さく息を吐きます。
 そこは白鐘の紋左衛門の普段住み暮らす花街の店の一室。
 裏へと回れば色々と広い部屋などもあり、その内の一間を借りて、出かけている紋左衛門の帰りを待ちながら情報を纏めている様で。
「んー、凶賊許すまじ! それにしても、なんでこんなに悪人が多いんだろうなぁ‥‥」
 むー、と気合十分に拳を振り上げたレーラ・ガブリエーレ(ea6982)ですが、眉を寄せて首を傾げ、それを見てウォル・レヴィン(ea3827)が口元に拳を当てつつ考え込むように一点を見つめます。
「更に泣く人が増えると思うと一刻も早く捕縛したいが‥‥裏に誰かいそうな感じなんだよな」
 一行が懸念しているのはその一点、裏に大物がいた場合、また、裏にさらに凶悪な賊が潜んでいた場合、下手を打って被害が拡散する事が何より恐ろしい事を、良く理解しているが故の事。
「兎に角、被害の状況やその他、何でも良い、情報を集めて、一刻も早く凶行を止める足がかりとせねば」
 李連琥(eb2872)が言えば、同じ間にいる一同は頷くのでした。
「何か情報を得られればいいのですけれどね」
 同じ頃、南天陣(eb2719)と北天満(eb2004)は、改方筆頭与力の津村武兵衛に密偵の手助けなど手配を行い、紋左衛門の元へ向かう途中でした。
「この2人の香具師について詳しく聞かないといけないですね」
「人相書きも出来ている、また紋左衛門殿の元へ行き詳しく聞けば、何かしら手掛かりは掴めるはずだ」
 2人が紋左衛門の元へとついた頃には、既に他の仲間は方々に聞き込みに出かけている最中だったそうですが、紋左衛門の配下に各人へと人相書きを届けて欲しいと告げれば、直ぐに飛び出していく腹心の男。
 2人も紋左衛門へと話を通してから、出かけていきます。
 やがて、夜も深けた頃、磐山岩乃丈(eb3605)は他の件で動いている貴由を連れて裏から店へと入ると、紋左衛門は先ほどから待っていたとのことで、直ぐに通される二人。
「ご無沙汰しておったでござる、紋左衛門殿。先だってはお寛ぎの所、突然お邪魔して誠に申し訳のうござった。とりあえず我等の言葉お聞き入れ下さって、改方へのご協力も戴けております事、誠に感謝でござる」
「なぁに、あたしは筋さえ通して貰えるなら、それで構わないと思っているんだよ。それに対して、こちらもきちんと筋を通すのは、世の道理というものだろうさね」
 笑みを浮かべ煙管を手に言う紋左衛門に、一礼して再び口を開くと、貴由を通して貰い口を開く磐山。
「こちら、我が輩と同じく、お江戸の闇に潜む凶賊を滅せんと働く仲間にござる。どうぞお見知りおきを」
「承ったよ。さ、後はそのお嬢さんから話を聞く事にしよう。お前様は下にいる松から麻目の人相書き、それと幾つか渡しておいたものがあるから受け取っていくと良かろうて」
「忝いでござる」
 磐山は礼を言うと、幾つか集められていた情報を整理したものを受け取り再び夜の闇へと消えていくのでした。

●凶賊と香具師
「確実に抄峰の勝次郎のみならず、この2人の香具師も敵対していて、しかも散々人を泣かせているとは、紹介状処ではありませんでしたね」
「途中に人を介しての情報だったからな、途中で聞き違えてしまったのかもな」
 満と陣はそんなことを話ながら江戸市中を行けば、寺社の近くに有る色町の辺りへと足を踏み入れます。
 紋左衛門と言葉を交わしていて分かったのですが、直接勝次郎と会っていた場合、下手をすれば命の危機ともなっていただろうと分かり、直接会いには行かずに情報収集に転じた様子の2人。
 暫くの間、名の出ていた2人の香具師が仕切る縄張りで情報収集を続ける2人なのでした。
「なかなか尾行が難しい相手でござるな‥‥」
 磐山が小さく呟きます。
 その視線の先には麻目の玄三の姿、その更に先には密偵の五十吉が歩いていき、細心の注意を払ってその背を追っています。
「あちらこちらに転々としているのを考えれば‥‥」
「今、仕事の仲間を集めている最中なのかも知れぬでござるな」
「へい、ですが先程立ち寄った場所がちと気になりまして‥‥」
 郊外の水茶屋へと入っていった玄三に、手前の茶屋に入って言葉を交わす磐山と密偵の作助。
「気になること?」
「へぇ‥‥これはその‥‥実は既に足を洗ったお人んとこに立ち寄ったんでござやすよ。しかも、麻目なんぞに手をかしゃし無いような、そりゃしっかりしたお人で‥‥」
「知っておったのでござるか?」
 眉をしかめる作助に磐山が問いかければ、慌てたように首を振る作助。
「足ぃ洗ったってのぁ知ってやしたがね、あんなとこで蕎麦ぁ作っているたぁ思わんかったんでさ」
 作助が答えれば、水茶屋から出てくる玄三に先に出る作助。
 距離を置いて磐山も再び店から出て後を付け始めます。
 その後ろから五十吉が再びついてくるのを目の端で確認しながら磐山は玄三の姿を追っていくのでした。
「‥‥なるほど‥‥」
 小さく呟くゼラ。
 ゼラは参拝道にあるお汁小屋へと入り、お茶とお汁粉で漸く一息ついたところです。
 ゼラは勝次郎の取り仕切る辺りを歩き、良くその店に勝次郎の配下が来ると聞いて来たところ。
「‥‥手が足りねぇ、何とか年頭までに10‥‥少なくとも8人ほどは確保してもらわなねぇ」
「ですが、凶盗なんてぇ変な奴らが現れて、ちと動きが取りにくくて‥‥」
「いいかえ、とっとと話を付けて人を集めるんだよ。麻目のお頭のでかいお盗めさね、お頭自らこれはと思った人を集めていなさる、箱を担ぐ男や、始末を付ける男を、ね」
 微かに聞こえてくる声、どうやらこの界隈は勝次郎の息が掛かっていてか、もしくはこの店が息が掛かっているのか‥‥。
「では、また後で伺わせていただきますよ」
 人を集めろと厳しく言っていた男が立ち去ると、言われていた男がのろのろと項垂れ出出て行き、ゼラは少し考えてから後から出た男を尾けるのでした。

●過去の揉め事
「ねぇちゃん、戻らない‥‥」
 白鐘の持つとある茶葉屋、そこに勝次郎のことを知っている者がいると聞いて出てきたウォルとレーラ、それに護衛として付いてきた連琥。
 そこに居たのは友太郎と呼ばれる小さな少年。
「あそこでねぇちゃん、お茶屋の女中してた‥‥勝次郎の手下が姉ちゃん見かけて、暫くしつこく付き纏ってたけど、ある日姉ちゃん、もう帰ってきたくないって言ったっていって、そいつらが‥‥姉ちゃん、おいら捨てるなんてこと、無い‥‥」
「両親が亡くなった後で、本当に親のようにこの子を可愛がっていたんだよ、帰ってこないなんてあるはずないよ」
「むぅ‥‥可笑しいじゃん、おねーちゃん居なくなるはず無いじゃん?」
 レーラが眉を寄せて友太郎の頭を撫でると、こっくり頷く友太郎。
「何処で聞いても酷いなぁ‥‥」
 ウォルが溜息を吐いて言えば、連琥は厳しい眼差しで小さく呟き。
「‥‥同じ香具師でも雲泥の差があるのだな‥‥」
「まったく‥‥」
 それまで聞いてきた話でも、薬代に苦しんでいたためにほんの少しお金を借り、それが一月立たない頃にとんでもない金額に膨れあがり、首を括った者もいたとか。
「俺はもう少し聞いて回ってくる」
「俺様は‥‥んー、白鐘の親分さんとこで揉め事起きてないか調べてくじゃん」
 レーラと連琥がそう言って戻っていくと、レヴィンは屈み込んで友太郎へと目線を合わせて。
「絶対とは言えない‥‥でも、もし姉さんのことが分かったら、必ず教えるから」
「ありがとう、異国の兄ちゃん‥‥」
 小さく言って俯く友太郎に約束して、ウォルは立ち上がるとその場を歩き去るのでした。
「あ、松さん、大丈夫ー?」
「これは、えっとがぶりえーれの旦那と、お坊様。抜かりはありやせんぜ。それに、軽く探りは入れても、餅は餅屋、下手ぁ打って足ぃ引っ張るような真似ぁしやせんぜ」
 袂へ煙管を突っ込むと笑って言う白鐘の配下の沖松。
「そういや、先程面白ぇもん見させていただきやしたぜ」
 くくっと笑って言う沖松に首を傾げれば、氷川の旦那が、と笑うのに笑って頷くレーラ。
「あちらこちらで話を聞いて歩いていたらしいんでやすがねぇ」
 そこいらで茶でもどうです? そう誘って茶菓子を御馳走してくれながら話す沖松は、どうやら氷川の仕事の最中を見ていたらしいのですが。
「氷川の旦那でしたらこてんぱんにやってしまいやすでしょうが、騒ぎを大きくしちゃぁいけねぇと思ったんでしょう、勝次郎の下のに絡まれていたんでやすが、囲んだ銀造ってぇどうにもならねぇ奴のを、こう蹴り上げやしてねぇ」
 沖松の言葉に何となく痛そうに顔を顰めるレーラ、会話が今ひとつぴんと来なくて首を傾げる連琥。
 氷川はどうにも頻繁に玄三がこの界隈に来ているらしいことや、仕事を断っても脅しかけているらしいという話聞いていたのですが、ちょっと目出つその威圧感に連んで絡んできたようで。
「ちょいとてめぇ、ここいらを誰のシマだとおも‥‥」
 言いかけた銀造のとある場所を蹴り上げれば、他が匕首を引き抜くよりも早く、あれはまるで伝説のびーだっしゅ。
 物凄い勢いでまさしく突破した氷川は、力強い走りはさることながら、もとより鍛えた其の脚力に何処まで走ろうとも振り切るその草履。
「あーっという間に駆け抜けていかれやしてねぇ。ありゃあ、暫く噂になってそうで」
 さも面白かったと笑う沖松の様子で、どんなに壮絶な光景だったかを何とはなしに想像してしまうレーラ。
「おう、随分と楽しそうじゃねえか。なんか面白い話でもあったか?」
 そこへ、何処まで駆けていったか定かではない、当の本人である氷川が顔を出せば、沖松とレーラは面白そうに笑い、連琥も口元を緩めて小さく笑うのでした。

●年が明けたら
「えとえと、分かったのは‥‥」
「他に麻目が立ち寄っている様子の香具師達、それぞれがなにやら別に人を集めているようだ」
 レーラが首を傾げるのに、陣が口を開き。
 どうやら、それぞれが別に人を頼んでいるような不穏な動きのようで、2人の香具師のうちの1人は、勝次郎とも良く揉めていて居るようで、この2人の間でも何か起きそうな雰囲気であることを、満と陣が確認しています。
「こっちとしては、既に足を洗った人間にまでも、脅しをかけて手伝わせようとしているらしいな」
 氷川が言えばふむ、と腕を組む紋左衛門。
「どうも、年頭に何とか人をってことだから、年を開けてからだと思うわ、彼らが動くのは」
「数人、勝次郎の所へと行って姿を消した人もいるようだ。でも、居なくなったと言われている人を見かけた、っていう話もあるらしくて」
 どこかの御店で働いていたとか、と首を傾げるウォル。
「麻目の玄三はどうも勝次郎の持つ店の一つに落ち着いているようでござるな」
「改方の方でこちらはきちんと見張りを付けておく事になった」
 磐山と連琥が言えば、頷いて一同を見回す紋左衛門。
「では、皆さん大変でしょうが、重々気をつけ、何かあったらまた直ぐに話ぃ聞かせて貰えますかえ」
 紋左衛門の言葉に頷くと、一同は各人分かってきた事柄を前に暫し確認を取り合っているのでした。