【凶賊盗賊改方・悔恨】朝影の小道
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■シリーズシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:12月08日〜12月13日
リプレイ公開日:2006年12月20日
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●オープニング
「あ‥‥」
すっかりと寒くなった冬の昼下がり、受付の青年が船宿・綾藤へと出向けば、先に来て待っていたのは煙管を燻らせ上座へと座る凶賊盗賊改方長官・長谷川平蔵その人。
平蔵の傍らに与力の津村武兵衛と石川島人足寄場の責任者・彦坂昭衛が控えており、受付の青年がいそいそと前へ出て座り頭を下げれば、そのふっくらとした面立ちに穏やかな笑いを浮かべて頷く平蔵。
「良かった‥‥もうすっかり宜しいんですか?」
「おお、この通りだ。こうして面ぁ突き合わせるのも暫くぶりだなぁ」
その言葉に知らず僅かに目が潤み、目元をぐしぐし擦ってから笑みを浮かべて頷く受付の青年。
「では、今度の依頼は‥‥」
「ひとつは俺と共に捕縛に向かって欲しい。そして今ひとつは、津村の指揮の下で白鐘の紋左衛門と連絡を取り合い、盗賊について探りを入れていって欲しい」
「そして今ひとつ、人足寄場に出入りしているらしい者の素性を調べ上げること」
平蔵が言えば、昭衛が付け加え、頷く平蔵。
「今のところ、寄場の方とそれぞれの盗賊の繋がりが見えてこぬ為、少々厄介やも知れぬが頼むぞ」
平蔵が言うのに、受付の青年は手元の依頼書へと目を落とすのでした。
「さて、一つ‥‥火薙の樹一郎という盗賊の捕縛に加わって貰いたい」
平蔵が言うと、依頼書へとその名を書き込む受付の青年。
「火薙の樹一郎‥‥というと、数年前に江戸を荒らし回り、4件の商家に押し込んで述べ18人を‥‥」
痛ましげな事件であったのか、目を伏せる受付の青年に頷く平蔵。
「鶴吉の母親と共に金を集めて回っていた沼田蛇の喜助は樹一郎の配下の1人だ」
「ど、どういう‥‥」
「盗賊達の間で永見の鶴助はなかなかに有名な人間だったらしくてな。知っている人間には隠し金について耳にしていたと言うことだ」
「鶴吉が追い出された後、暫くして喜助は鶴吉の母親の元にやって来て、そのまま居座っているうちに、と言う奴だそうでな。喜助にしてみれば鶴助の残した金の手がかりになるとのことらしいが、鶴吉の母親はすっかりと逆上せあがってしまったそうでな」
平蔵が言えば、武兵衛が説明をし。
「皆殺しをする訳じゃぁねえが、押し入って目に付く者は切り倒して、金目の物を洗いざらい持って行く‥‥荒っぽい奴らばかりとのことだ。かなり危険な事になるが‥‥」
「直ぐに打ち込むこととなる。場合によっては他の組から手を借りることも出来るが‥‥その辺りは皆で上手く連絡を取り合ってやって貰うことになる」
平蔵と昭衛が交互に言う言葉を依頼書に書き付けると受付の青年は目を上げます。
「では、今回こちらは凶賊捕縛と言うことで宜しいでしょうか?」
「ああ、よろしく頼む」
受付の青年の確認する言葉に、平蔵は強く頷くのでした。
●リプレイ本文
●運命の振り子
「あれ‥‥あれれれっ?」
困惑を浮かべて切り絵図を見るのは所所楽石榴(eb1098)。
石榴はフロウ・マーガッヅに助言を受けながらダウジングペンデュラムという銀製の振り子を切り絵図の上で垂らしていましたが、捕り物として乗り込むとされている宿を指し示すかのように揺れていた振り子。
ですがそれにフロウが手を添えることにより奇妙な動きを見せ、地図のあちこちに引き寄せられるかのようにぐるぐると回り始めます。
「ど、どういう事なんだろっ?」
「‥‥何を調べるって‥‥?」
「え、えっと‥‥樹一郎一味の利用している盗賊宿が分かると‥‥目星だけつけておいて、あたれば儲けものかなって」
「‥‥さっきまでその辺りを指していたのに‥‥もしかしたら‥‥」
難しい顔で振り子を見つめながらフロウが黙り込むのに、石榴も心配そうな表情でその振り子を見つめているのでした。
「何か、どうもすっきりしねぇ‥‥」
「確かに‥‥火薙の樹一郎‥‥この男は生かして捕らえる必要があるだろうな」
御神村茉織(ea4653)の言葉に逢莉笛舞(ea6780)は頷き、預かっていた火薙の樹一郎の人相書きとその建物を見比べています。
「あの建物‥‥樹一郎の本拠地で喜助に白状させた盗賊宿ってぇことらしいが‥‥」
「それよりも、先程から気になることがあるのだが‥‥」
「ん?」
「‥‥人の出入りが激しいのは店として当然のことだが、どうも妙な‥‥」
「妙?」
唸るように眉を寄せて言っていた御神村ですが、舞の言葉に顔を上げて改めて御店の方を見れば、その御店の中から出ていく人間が、先程から舞と御神村が確認しているのとはどうにも違うような、そんな引っかかりを覚えて目を凝らす御神村。
「畜生、他の盗賊宿が押さえられりゃと思ったが‥‥」
顔が分からない者も多く、一日調べていただけでは御店の僅かな者しか確認できないのは仕方のないことなのですが、既に怪しい者の後をつけて孫次や密偵の庄五郎・利吉も追って出かけていまだ戻りません。
「やべぇな‥‥ちっ、ここを頼む、あの男は俺が付ける」
舞に言うが早いか立ち上がりするりと部屋を抜けていく御神村。
やがて忠次が顔を出すと後を任せ、舞もその御店の様子を窺いに出かけていくのでした。
●摺り抜けた獲物
「このモンドの目の黒いうちは、お主らの好きにはさせん」
「我らのお頭に指一本触れさせぬ!」
平蔵へと挑み掛かる男達を薙ぎ払うかのように割って入ったジェームス・モンド(ea3731)と天風誠志郎(ea8191)。
「石榴さん‥‥」
「うんっ」
レヴィン・グリーン(eb0939)が付近の様子を確認して小さく声をかければ、小さく頷いて扇を手に作り出した甘い香を扇で送り出し、ぱたりと倒れる小さな音が幾つか。
「よしっとっ♪」
「‥‥石榴さん、なんだか様子がおかしいです。どうも、人数が‥‥」
少ないのです、小さく囁くレヴィンに目を瞬かせる石榴。
「‥‥‥‥やっぱり、あのダウジングは‥‥」
「感付かれて少しずつばらばらに抜け出していたのかも知れませんね‥‥」
夫婦共に眉を寄せ呟きますが、まだ中に残ってる者がいるのに気を取り直し、扇を構え直す石榴。
「気をつけてくださいね」
「うん、気をつけるねっ♪ レヴィンさんも、気をつけてねっ?」
2人は互いに気遣い合うと、石榴は室内へ、レヴィンはスクロールを手にしながらその背を見送るのでした。
「あれ? 伊勢さんも早田さんも、討ち入ったんじゃないの?」
「‥‥‥‥いや、隠れている者がいないか、潜んでいる者がいないかと気を張って来たのだが‥‥」
「妙に一味の者が少ないんだよ」
「‥‥少ない??」
黒く塗った矢を手持ちぶさたに弄りながら首を傾げるサラ・ヴォルケイトス(eb0993)に、伊勢同心も早田同心も頷き。
「ほぼ二日、置いていた為感付かれたか‥‥?」
「うっ‥‥それって、つまり‥‥首魁に逃げられた、ってこと?」
困ったように眉を寄せるサラ、目を伏せる早田に荒く息をつきながら首を振る伊勢。
「だが、今は市中に目を光らせている。いくら市中全てを網羅するほどに手はなくとも、人目を避けて江戸を出ようなんて言うのを、我々が見逃して堪るか」
ぎり、歯を食いしばって唸るように言う伊勢に、サラは建物内へと目を凝らして、内部を伺うのでした。
●白鐘の糸
その日、既に日も落ち暗くなった頃、白鐘の紋左衛門の元へと尋ねてきたのは時永貴由(ea2702)です。
磐山の紹介で白鐘の前へと通されれば、少し足を崩して煙管を燻らせていた紋左衛門はすと煙管盆に煙管を置いて座り直し、座るように促します。
「白鐘の親分、お初に御目文字致します。時永貴由という冒険者です」
「あたしが紋左衛門だよ。白鐘の、などと呼ばれちゃ居るが、この通りのただの老人ですよ。‥‥さて、ご用件、伺いましょうか」
がっしりとした体つきの一見福々しい顔をした穏やかそうな老人・白鐘の紋左衛門がそう答えれば、頭を下げてから口を開く貴由。
「本日、親分さんに火薙の樹一郎の本拠地、配下の者を存じておられるなら教えて頂こうと、参じました。」
「‥‥あたしが知っていると?」
「‥‥分かりません。ですが、何でも良いのです、手がかりが一つでも欲しい‥‥」
目を伏せて最後は小さく言葉を途切れさせる貴由に、小さく息をつく紋左衛門。
「あたしに知っていることは限られているけどねぇ‥‥確か、樹一郎って言うと酒屋の所の、ですね」
今頃行われて居るであろう捕り物を思い、仲間や先陣を切って居るであろう平蔵の身を案じて目を伏せたまま頷く貴由に、煙管を手に取り直してじと一点を見据える紋左衛門。
「そういえば‥‥あの酒屋の者が良く出入りするらしい御店と、後は妾でも囲って‥‥若い娘さんに言う話じゃないねぇ、済まないが‥‥」
「いえ‥‥」
「まぁ、若い女を住まわせているらしい家があると、うちの者が言っていた気がするけど‥‥松!」
「へい」
「お前さん、一つ大急ぎで切り絵図に、樹一郎の店と関わりがありそうだという話の所、書いて持っておいで」
「へ‥‥ただいま」
急ぎ足で歩き去る松と呼ばれた男を見送ると、少し驚いたように紋左衛門へと目を向ける貴由ですが、緩やかに煙管を燻らせると、貴由に茶を勧め。
「あたしも冒険者の方々から事件の経過など、きちんと話を通して貰っているからね。全てが怪しいとは限らないことだけは、先に言っておきますよ」
「はい‥‥ありがとうございます」
「何かあれば、こちらの方に報告してくれる冒険者か、うちの者に言いなさい。出来ることならば手を貸しましょ」
貴由が頭を下げれば、紋左衛門は緩やかに煙管を燻らせ頷くのでした。
●繋がった光
夜の捕り物で捕らえたのは僅かに8名、その盗賊宿に集まっているはずの男達は20はいただろうと思われていましたが、きな臭いと踏んでか、捕り物のその当日、昼のうちに様々な手を使い抜けだし、逃れた後でした。
当然、火薙の樹一郎の姿も見受けられず。
「‥‥樹一郎という盗賊の今の居場所はあの人達は知らないみたいですね」
レヴィンが言う言葉、それぞれが深夜の討ち入りに疲れや眠さを滲ませていました。
それも当然、成果が全くなかったわけではないものの、樹一郎本人を逃したことが否が応でも頭に浮かび。
「まぁ、仕方があるまい。あの者達からなんとしても手がかりを掴まねばな」
その重い雰囲気を切ったのはにと笑うモンド。
「それぞれ街道へ出る道に人を配している。江戸を売ろうとすれば必ず連絡が来る。来ないうちは市中のどこかに潜んでいるはずだ」
モンドの言葉に一つ緩く息を吐いた誠志郎も言い、御神村と舞は立ち上がります。
「では、俺たちも一つ探りを入れてくるか」
「何か情報が入ってきているかも知れないからな」
「あ、僕も密偵さん達と協力して、調べてみようかなっ」
石榴も言い、部屋を出ようとしたその時、外側から開けられる障子、廊下には貴由の姿がありました。
「おう、貴由、他の盗賊宿の手がかりはあったのか?」
御神村が聞けば、懐からすと抜き出す紙に目を向ける一同。
「手分けをしないと行けないと思うが‥‥白鐘の紋左衛門殿からこれを預かってきた」
そう言って開いたのは複数枚の紙が束ねられた江戸市中の切り絵図。
「こいつは‥‥」
「あ、この辺りは酒屋さんと取引がありそうなところだねー‥‥でも、なんだか幾つか関わりが無さそうな‥‥お得意様かな?」
切り絵図を覗き込んで言うサラ、言葉を途切れさせた御神村に微笑を浮かべる貴由。
「樹一郎のあの酒屋に関係が有りそうな所を書き記してくださった。恐らく、それなりに確認を取ってのものばかりだろうから、かなり有力な情報じゃないかと思う」
「なるほど‥‥だがそれでも手が足りなくなると困る、手分けして当たるしかないな」
言って印が付けられた御店や家などを覚え込もうとでも言うかのように舞は地図をじっと見つめるのでした。
●辿る糸
「まぁ、大丈夫さね、直ぐに慣れるよ」
笑みを浮かべて言う中年女性の密偵に、にっこり笑って頷く石榴。
石榴と女密偵のおさえは母娘のようにあまり派手でない着物を身に纏って、参拝道の一つ裏、幾つか妾宅などに使われている家の辺りをぶらりと歩きながら、目的の家をちらりと見やって通り過ぎました。
「それぞれの家がよそにあまり関わりを持たないから、怪しまれるこたぁないけれど、問題の家の方で警戒されていれば同じだし、良い見張り所を見つけるのが先かもねぇ」
「さっき通ったときにはあまり大勢の人の気配はなかったかなっ? 居るとしても3人‥‥4人ぐらいかも?」
首を傾げて言う石榴の言葉に頷いて建物の影まで戻ると振り返り家を伺う2人。
「ああいう女の家だと、大体が女本人、それに昼間に世話をおするために1人‥‥ただまぁ、身内が来ている可能性もあるねぇ」
「どうしよっか?」
「‥‥同心の旦那方にちょいと相談をして、見張り処を定めた方が良いかもしれないね」
石榴とおさえは妾宅を見ながらそう囁き合うのでした。
「そうか、助かるぞ」
「ありがとうね♪」
サラとモンドが礼を言うのは、切り絵図に書かれていた旅籠の側、そこには同じように酒屋があり、二言三言旅籠のことを聞けば、自分たちは酒を取り扱わせて貰えないこと、夜間の裏からの出入りが激しいことなどを話してくれていました。
「大分絞り込めはしたようだな‥‥一時はどうなるかと思ったが‥‥」
小さく呟く誠志郎に、戻ってきた御神村が切り絵図の中の幾つかが、慌てて逃げたかのようにもぬけの殻になっていたのを伝え。
「今度こそ、逃しゃしねぇぜ」
切り絵図へと情報を書く連ねて行かれるのを見ながら、御神村は強い意志を込めて呟くのでした。